(平22.12.1裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、鋼材の販売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、架空仕入れの計上を理由として原処分庁がした1法定申告期限から5年を経過した後の事業年度に対する法人税の各更正処分、2法定申告期限から3年を経過した後の課税期間に対する消費税及び地方消費税の各更正処分、3当該各更正処分及び請求人が提出した修正申告に対する重加算税の各賦課決定処分について、当該架空仕入れの計上は、請求人の取締役営業部長が行ったものであり、請求人は、当該取締役営業部長の詐取・横領の事実を把握し得なかったのであるから、当該行為は、請求人の行為と同一視されるべきではない、また、請求人には偽りその他不正の行為及び隠ぺい又は仮装の行為はない等として、更正の期間制限を徒過した事業年度及び課税期間に係る各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分の全部の取消し並びに修正申告に係る重加算税の各賦課決定処分のうち、過少申告加算税の額を超える部分の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 平成15年1月1日から平成15年12月31日まで、平成16年1月1日から平成16年12月31日まで、平成17年1月1日から平成17年12月31日まで、平成18年1月1日から平成18年12月31日まで、平成19年1月1日から平成19年12月31日まで及び平成20年1月1日から平成20年12月31日までの各事業年度(以下、順次「平成15年12月期」、「平成16年12月期」、「平成17年12月期」、「平成18年12月期」、「平成19年12月期」及び「平成20年12月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税並びに平成15年1月1日から平成15年12月31日まで、平成16年1月1日から平成16年12月31日まで、平成17年1月1日から平成17年12月31日まで、平成18年1月1日から平成18年12月31日まで、平成19年1月1日から平成19年12月31日まで及び平成20年1月1日から平成20年12月31日までの各課税期間(以下、順次「平成15年12月課税期間」、「平成16年12月課税期間」、「平成17年12月課税期間」、「平成18年12月課税期間」、「平成19年12月課税期間」及び「平成20年12月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、審査請求(平成21年12月14日提出)に至る経緯は、別表1及び2のとおりである。
 なお、以下、平成21年7月7日付でされた、平成15年12月期及び平成16年12月期の法人税の各更正処分を「本件法人税各更正処分」、本件各事業年度の法人税の重加算税の賦課決定処分を「本件法人税各賦課決定処分」といい、本件法人税各更正処分と併せて「本件法人税各更正処分等」という。
 また、以下、平成21年7月7日付でされた、平成15年12月課税期間、平成16年12月課税期間及び平成17年12月課税期間の消費税等の各更正処分を「本件消費税等各更正処分」、本件各課税期間の消費税等の重加算税の各賦課決定処分を「本件消費税等各賦課決定処分」といい、本件消費税等各更正処分と併せて「本件消費税等各更正処分等」という。

(3) 関係法令

イ 法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第1項は、内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする旨規定し、同条第3項は、当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、当該事業年度の収益に係る売上原価等、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額及び当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものとする旨規定している。
ロ 国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
ハ 通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第5項は、偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れた国税についての更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から7年を経過する日まで、また、課税標準申告書の提出を要しない賦課課税方式による国税に係る賦課決定は、その納税義務の成立の日から7年を経過する日までそれぞれすることができる旨規定している。
ニ 消費税法第2条《定義》第1項第12号は、課税仕入れとは、事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けることをいう旨、同法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項本文及び同項第1号は、事業者が、国内において行う課税仕入れについては、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨それぞれ規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、昭和39年2月○日、p市q町○−○を本店所在地として設立された、一般鋼材の販売を業とする資本金5,000万円の同族会社であり、営業活動は、K、N及びPの各営業部で行われている。
ロ 原処分庁は、平成21年4月頃から請求人の本件各事業年度を対象とする調査を行った。当該調査により、本件各事業年度において請求人の売上原価のうちの仕入高に架空の仕入れが計上されていたことが判明した(本件各事業年度における計上額及び仮払消費税等の金額は別表3のとおりである。以下、当該計上額に係る架空仕入れを「本件架空仕入れ」という。)。
ハ 請求人は、本件架空仕入れについて、請求人の取締役N営業部長であるSが、T社代表取締役U及びV社代表取締役Wと共謀して、請求人から現金を詐取した個人的犯罪行為であり、請求人の行為ではないとして、法人税については、本件各事業年度のうち、「平成15年12月期」を除く各事業年度について別表1の「修正申告」欄記載のとおりとする修正申告を、また、消費税等については、本件各課税期間のうち「平成15年12月課税期間」、「平成16年12月課税期間」及び「平成17年12月課税期間」を除く各課税期間について別表2の「修正申告」欄記載のとおりとする修正申告をした。
ニ 原処分庁は、Sが行った本件架空仕入れが、通則法第68条第1項の隠ぺい又は仮装行為に該当し、請求人の行為と同一視できるとして、また、通則法第70条第5項の偽りその他不正の行為に該当するとして、平成21年7月7日付で本件法人税各更正処分等及び本件消費税等各更正処分等をした。
ホ 請求人は、平成21年8月12日付で○○警察署長に対し、S、U及びWが共謀して、請求人に本件架空仕入れに係る支払対価の額に相当する損害を与えたとして特別背任罪(会社法第960条)で刑事告訴した。

(5) 争点

 本件の争点は次のとおりである。
イ 争点1 Sが行った本件架空仕入れを請求人の行為と同一視して、請求人に重加算税を賦課したことが適法か否か。
ロ 争点2 本件架空仕入れの計上が、請求人について通則法第70条第5項の要件を満たすか否か。

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2 主張

 各争点に係る当事者の主張は、次のとおりである。

(1) 争点1について

イ 原処分庁
 本件架空仕入れは、次に掲げる理由から通則法第68条第1項の適用上、請求人の行為と同一視できる。
(イ) Sは、本件各事業年度において取締役として請求人の重要な地位にあり、N営業部の責任者として同営業部の全般を管理するとともに、請求人において毎月開催される役員会(以下「月例役員会」という。)に出席するなど経営に参画していた。
(ロ) 本件架空仕入れは約6年間と長期にわたり行われ、その金額も3億円を超えるものであり、請求人はN営業部の売上げ及び仕入れの管理をSに一任し、同営業部の十分な監査を行っていなかった。
(ハ) Sは、本件架空仕入れのために仕入伝票を起票し、同伝票の「規格」欄にはいずれも「諸口」と記載しているところ、「規格」欄を「諸口」とすることは各営業部ではほとんどないのであるから、N営業部の仕入先元帳のほか帳簿書類を監査すれば、これらの仕入れが架空であることは判明すると認められる。
ロ 請求人
 以下のとおり、Sの請求人における役割は限られたものであり、また、請求人は、詐取・横領された事実を把握し得なかったのであるから、本件架空仕入れは、請求人の行為と同一視されるべきではない。請求人は正しい申告をしようとしてもできなかったのであるから、本件架空仕入れを計上したまま確定申告をした行為は、通則法第68条第1項の事実の隠ぺい又は仮装に該当しない。
(イ) Sは取締役ではあったが、使用人兼務役員であり、請求人においては代表取締役が在職期間26年であり筆頭株主でもあることから権限が集中しており、一般の役員であるSには実質的な権限はなく、Sが営業部長となっているN営業部は、代表取締役副社長であったX(平成20年10月死亡)が責任者として管掌していたのであり、Sが責任者ではなかった。
 また、Sは、取締役営業部長として月例役員会に出席していたが、役員会における重要な事案は事前に社長が決めており、会議の内容は社長の指示とその結果報告である。SはN営業部の売上・仕入の額等の状況報告はしていたが、取引先の選定、価格決定等は社長が行っており、Sはその指揮命令を受けていたにすぎず、経営に参画していたとはいえない。
(ロ) N営業部においては、請求人の監査役、営業担当者及び本社経理部がそれぞれの立場で、取引内容をチェックしていた。
(ハ) 「諸口」扱いの取引は、メーカーからの平鋼以外の仕入れ、加工業者へ直送する仕入れ、単価訂正を予定している仕入れ等で相当数の取引があり、元帳等を一見して判別できるものではなかった。

(2) 争点2について

イ 原処分庁
 上記争点1のとおり、本件架空仕入れは請求人の行為と評価できるところ、このような行為は、通則法第70条第5項の偽りその他不正の行為に該当する。
ロ 請求人
 仮に、Sが行った本件架空仕入れが請求人の行為とみなされたとしても、請求人は、Z社及びg社(以下、両社を併せて「Z社ほか1社」という。)が請求人に対して正規の請求書で請求を行ってきたことから、その請求に基づいて仕入代金の決済を行ったのであり、請求人は、本件各事業年度に係る法人税確定申告書及び本件各課税期間に係る消費税等確定申告書を、税額を免れる意図をもって提出したものではないから、通則法第70条第5項の規定の適用はない。

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3 判断

(1) 争点1について

イ 法令解釈
(イ) 通則法第68条の重加算税は、同法第65条ないし第67条の各種の加算税を課すべき納税義務違反が、課税要件事実を隠ぺいし、又は仮装する方法によって行われた場合に、かかる納税義務違反の発生を防止し、徴税の実を挙げるために課される行政上の措置であり、違反者の不正行為の反社会性ないし反道徳性に着目してこれに対する制裁として科される刑罰とは趣旨、性質を異にするものである(最高裁判所昭和45年9月11日第二小法廷判決)。したがって、重加算税を課すためには、納税者が故意に課税標準等又は納税等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい・仮装行為を原因として過少申告の結果が発生すれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでが必要とされるものではない(最高裁判所昭和62年5月8日第二小法廷判決)。
(ロ) 上記(イ)のように重加算税は、隠ぺい又は仮装による納税義務違反を防止し、納税申告制度の信用を維持するための行政上の措置であって、故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではない。こうした重加算税制度の趣旨からすれば、不正手段による租税徴収権の侵害行為の事実、すなわち隠ぺい・仮装行為とその結果としての過少申告の事実の有無が重要であり、隠ぺい・仮装行為の実行行為者自体が納税者本人か否かは、必ずしも重要な要素とはいえない。
 そうすると、納税者たる法人の代表者以外の第三者が隠ぺい・仮装行為を行った場合であっても、その隠ぺい・仮装行為を納税者の行為と同一視することができる場合であり、客観的にみて、当該隠ぺい・仮装行為により過少申告の状態が生じているときは、原則として、納税者に重加算税を賦課することができるというべきである。
 そして、第三者の行為を納税者の行為と同一視することができるかどうかは、納税者たる法人と第三者との関係、当該行為を納税者が認識していたか否か、納税者の黙認の有無、納税者が払った注意の程度等に照らして、具体的事案ごとに判断すべきであると解される。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) Sの経歴と業務内容等について
A Sは、昭和46年3月27日に請求人に入社し、平成9年2月24日に取締役N営業部長、平成21年3月1日に常務取締役N営業部長に就任し、平成21年4月27日に懲戒解雇された。
B Sは、本件各事業年度において、N営業部の営業部長としてN営業部の在庫数量の管理、売上単価の検討のほか、N営業部の仕入れに関して請求人の代表取締役Hが指示した数量の範囲内で、平鋼の日々の仕入数量を決定していた。また、N営業部の日々の取引について、担当者別受注日報や部門別担当者別仕入日報の入力内容を最終的にチェックする立場にあった。
C Sは、請求人において開催される月例役員会の出席役員7人のうちの一人であり、当該役員会において取締役N営業部長としてN営業部の販売成績、今後の販売活動方針、マーケット情報の動向及び他社の競合状況などを報告していた。請求人の月例役員会議事録によれば、請求人の月例役員会では、月次決算関係、各営業部の販売活動方針・販売報告、与信管理、総務・人事関係及び稟議案件の報告等が行われている。
D Sに対する平成19年分の給与支給額は7,068,000円であり、代表取締役Hの親族である従業員を除き従業員中最高額となっており、P事業部の営業部長であるhに対する支給額6,568,000円と比較しても高いものである。
E 平成21年8月12日付で請求人が○○警察署長へ提出した告訴状によれば、請求人は「第7 告訴事実の背景事情及び概要」の中で、「告訴人は被告訴人Sに対して全幅の信頼を寄せていた」と申し立てており、また、請求人は、平成20年10月○日に代表取締役副社長であるXが死亡した後に、Sを常務取締役に昇任(平成21年3月1日付)させている。
F 以上のAないしEによれば、Sについては、1N営業部の業務を執行する責任者として、在庫の管理、売上単価の検討、仕入数量の決定及び日々の取引に係る入力内容をチェックする立場にあったこと、2N営業部の活動状況や今後の販売方針等を請求人の月例役員会において報告する立場にあったこと、及び3代表取締役副社長であったXの死亡後には常務取締役に昇任していること等の各事実が認められ、これらの各事実を総合考慮すると、同人は、請求人のN営業部の責任者として重要な地位・権限を有していたものと認められる。
(ロ) Sが行った本件架空仕入れ計上の方法
A Sは、平成15年3月から平成20年12月までの間、U及びWと共謀し、Z社ほか1社を経由して、請求人とそれまで取引のなかったT社及びV社から鋼材を仕入れたことにし、請求人から本件架空仕入れに係る金員を詐取した。
B 具体的には、上記Aの本件架空仕入れに係る取引を、請求人と実際の取引関係にあるZ社ほか1社からの仕入取引に計上し、その上で、これら2社に実際の仕入代金と本件架空仕入れに係る代金の合計額を請求させ、請求人に本件架空仕入れの代金に相当する金額292,644,650円(消費税等込み)の支払手形を振り出させた(当該支払手形の決済による本件架空仕入代金の一部がZ社ほか1社からT社及びV社を経てSに還流された。)。
C 上記Aの本件架空仕入れに係る取引は、平成15年3月から平成20年12月までの間に計75回行われたが、Sは本件架空仕入れに関し、社内において1Z社ほか1社から鋼材を仕入れたとする架空の仕入伝票を自ら起票し、請求人のN営業部受渡係の担当者に指示して仕入れの入力をさせ請求人に本件架空仕入れを計上させる一方、2本件架空仕入れを隠ぺいするため、本件架空仕入れが社内の在庫管理システムに反映されないよう、入力した仕入れが在庫に計上されないための仕入商品の規格コード(「諸口」)を使用していたほか、3N営業部受渡係の担当者が入力した後、仕入伝票綴りから本件架空仕入れに係る伝票を抜き取り破棄していた。
(ハ) 請求人の経理処理及びチェック状況等
A 請求人の経理処理においては、商品の直送販売(通常の規格品以外の仕入販売)を行う場合や単価訂正が予定される場合は、仕入伝票の「規格」欄を「諸口」として記載することとされている。
B 上記Aの「諸口」として記載された仕入取引(以下「諸口取引」という。)については、仕入先元帳に仕入として計上されるが在庫管理システムに反映されないため在庫として計上されることはない。
C 仕入伝票が集計される仕入先元帳によれば、平成20年5月から同年7月までの3か月間に請求人が行った仕入取引回数(約15,700回)のうち約4割が諸口取引であった。なお、同期間の仕入先数118社のうち104社の取引に諸口取引が存在した。
D 請求人の社内において、諸口取引に係る商品について得意先が実際に受領したか否かの確認はされておらず、請求人は仕入先から送付される納品書を得意先の受領書として代用していた。
E 各営業部を監督する者として代表取締役副社長Xが在職していたが、同人は、各営業部長から業務に関する相談を受けていたものの、各営業部で作成される帳簿書類のチェックは行っていなかった。
F 上記のAないしEによれば、請求人においては大半の取引先に諸口取引が存在し、その取引数も仕入取引回数の約4割に及ぶにもかかわらず、諸口取引について得意先に対する納品の事実を実際に確認しないまま仕入れに計上されていたこと、及び在庫管理システムに反映しないまま会計処理が行われていたこと、また、各営業部長を監督する立場にある請求人の代表取締役副社長も仕入先元帳等の会計帳簿をチェックしていなかったこと等が認められるところ、諸口取引が常時行われていることからすれば、これらの会計処理は、代表取締役Hの容認のもと行われていたものと認められる。
ハ 本件へのあてはめ
(イ) 上記ロの(ロ)のCのとおり、Sは、請求人の仕入伝票の商品の「規格」欄に「諸口」を使用して仕入れた商品が在庫管理システムに反映されないこと及び請求人の社内において実際に得意先が商品を受領したか確認されないこと等を奇貨として、T社のU及びV社のWと共謀の上、本件架空仕入れにより請求人から金員を詐取することとし、社内において1Z社ほか1社から鋼材を仕入れたとする架空の仕入伝票を自ら起票し、請求人のN営業部受渡係の担当者に指示して仕入れの入力をさせ請求人に本件架空仕入れを計上させる一方、2本件架空仕入れを隠ぺいするため、本件架空仕入れが社内の在庫管理システムに反映されないよう、入力した仕入れが在庫に計上されないための仕入商品の規格コード(「諸口」)を使用していたほか、3N営業部受渡係の担当者が入力した後、仕入伝票つづりから本件架空仕入れに係る伝票を抜き取り破棄していたものであるところ、これらの行為は、存在しない事実を存在したかのように装ったものであり、通則法第68条第1項に規定する事実の仮装に該当する。
(ロ) 法人の代表者以外の第三者の通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装行為が納税者の行為と同一視できるか否かについては、納税者たる法人と第三者との関係、当該行為を納税者が認識していたか否か、納税者の黙認の有無、納税者が払った注意の程度等に照らして判断するのが相当であるところ、上記ロの(イ)のFのとおり、Sが、代表取締役であるHの全幅の信頼を受け、N営業部の責任者として重要な地位及び業務上の大きな権限を有していたことは明らかであり、Sは、請求人から与えられた地位・権限を利用し、請求人の管理・監督体制の不備を奇貨として本件架空仕入れを行ったこと、また、請求人においては、上記ロの(ハ)のFのとおり、各営業部を監督する立場にある代表取締役副社長が、各営業部で作成される帳簿書類のチェックを行っていなかったこと、及び諸口取引に係る会計処理が代表取締役Hの容認のもとに行われていたと認められるところ、得意先から納品に係る受領書等を収受するなど、商取引上通常行われているチェック(納品の事実を相手先に確認する行為)する方法がとられていれば、本件架空仕入れに係る取引の発生を容易に把握できたと認められるから、Sの本件架空仕入れに係る行為は、請求人の行為と同一視できるものと判断される。
(ハ) 請求人は、詐取・横領された事実を把握し得なかったのであるから、本件架空仕入れを請求人の行為と同一視するべきではなく、重加算税を賦課できない旨主張する。
 しかしながら、Sの本件架空仕入れに係る行為が請求人の行為と同一視できるものと判断されること、及び諸口取引について、請求人において得意先から納品に係る受領書等を収受するなどの方法がとられていれば、本件架空仕入れに係る取引の発生を容易に把握できたと認められることは、上記(ロ)のとおりであるから、請求人の詐取・横領された事実を把握し得なかったとの主張は採用することはできない。
ニ 重加算税の賦課について
 上記ハのとおり、Sの行った本件架空仕入れに係る行為は、通則法第68条第1項に規定する「事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装した行為」に該当し、また、当該行為は、請求人の行為と同一視できるところ、請求人は、本件架空仕入れの金額が記載された会計帳簿等に基づき本件各事業年度の法人税及び本件各課税期間の消費税等の確定申告書を提出していたことになるから、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たしているものと判断される。

(2) 争点2について

イ 法令解釈
 通則法第70条の規定の趣旨は、法律関係の早期安定という観点から、本来納付すべき税額の更正、決定等の可能となる期間を制限するものであると解されるところ、同条第5項は、賦課権の除斥期間を規定した国税についても、偽りその他不正の行為による申告行為等、課税当局の発見、調査が妨げられるような事情があった場合に、その例外を規定するものであって、これは偽りその他不正の行為をした者への制裁を目的としたものではない。したがって、納税者、その補助者又は代理人によるものであっても、納税者の納税義務の確定手続において客観的に「偽りその他不正の行為により全部又は一部の税額を免れ」たとの事実がある場合には、納税者自身が具体的な偽りその他不正の行為を意図し、又は指示したか否かを問うことなく、同項の適用があると解すべきである(平成18年1月18日東京高等裁判所判決)。
 また、通則法第70条第5項に規定する「偽りその他不正の行為」とは、税の賦課徴収を不能又は困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っていることをいうと解される。
ロ 本件へのあてはめ
 上記(1)のロの(ロ)のCのSの各行為は、税の賦課徴収を困難とする偽計その他の工作を伴う不正な行為といえるところ、請求人はこれにより、虚偽の事実が記載された会計帳簿等に基づき、本件各事業年度の法人税及び本件各課税期間の消費税等の確定申告をしていたことになるから、本件においては、請求人が不正の行為を認識していたか否かにかかわらず、請求人の納税義務の確定手続において、客観的に偽りその他不正の行為によって税額を免れた事実が存在するといえる。
 したがって、通則法第70条第5項を適用して行われた原処分は適法である。

(3) 本件法人税各更正処分について

 上記(2)のロのとおり、請求人の法人税には、通則法第70条第5項の適用があり、これを前提として、平成15年12月期及び平成16年12月期の法人税の所得金額を計算すると、いずれも本件法人税各更正処分の額と同額となるから、本件法人税各更正処分はいずれも適法である。

(4) 本件消費税等各更正処分について

 本件架空仕入れについては、他の者から資産を譲り受けた事実はないことから、消費税法第2条第1項第12号に規定する課税仕入れに該当せず、本件各課税期間の課税標準額に対する消費税額から、本件架空仕入れに係る仮払消費税の金額を課税仕入れに係る消費税額として控除することはできない。
 そして、上記(2)のロのとおり、請求人の消費税等には、通則法第70条第5項の適用があり、これを前提として、平成15年12月課税期間から平成17年12月課税期間までの各課税期間の消費税等の額を計算すると、いずれも本件消費税等各更正処分の額と同額となるから、本件消費税等各更正処分はいずれも適法である。

(5) 本件法人税各賦課決定処分及び本件消費税等各賦課決定処分について

 上記(3)及び(4)のとおり、本件法人税各更正処分及び本件消費税等各更正処分はいずれも適法であり、また、上記(1)のニのとおり、本件については、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たしているから、同項の規定に基づいてされた本件法人税各賦課決定処分及び本件消費税等各賦課決定処分は、いずれも適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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