(平成23年3月30日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、型枠工事業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁による請求人に対する消費税を含む国税の調査の際の指摘内容等に基づき、平成17年1月1日から平成20年12月31日までの各課税期間の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の期限後申告を行った後に、請求人の事業に従事した作業員(以下「職人」という。)に支払った対価並びに水道光熱費、通信費、修繕費等及び固定資産の購入に係る各支払対価は、いずれも消費税法第2条《定義》第1項第12号に規定する課税仕入れに係る支払対価に該当し、同法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項に規定する課税仕入れに係る消費税額の控除が認められるべきである等として、それぞれ消費税等の更正の請求をしたところ、原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の各通知処分を行ったことに対し、請求人が違法を理由に原処分の全部の取消しを求めた事案であり、争点は次の3点である。

争点1 上記更正の請求のうち、法定申告期限から1年以内にされなかった更正の請求は適法か否か。

争点2 職人に支払った対価(以下「本件職人対価」という。)が課税仕入れに係る支払対価に該当し、課税仕入れに係る消費税額の控除が認められるか否か。

争点3 水道光熱費、通信費、修繕費等及び固定資産の購入に係る各支払対価(以下「本件職人対価以外の支払対価」という。)が課税仕入れに係る支払対価に該当し、課税仕入れに係る消費税額の控除が認められるか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成22年5月10日請求)に至る経緯は、別表1の「賦課決定処分」欄を除く各欄のとおりである。
 なお、本件審査請求は、平成17年1月1日から平成17年12月31日まで、平成18年1月1日から平成18年12月31日まで、平成19年1月1日から平成19年12月31日まで、平成20年1月1日から平成20年12月31日までの各課税期間(以下、順次「平成17年課税期間」、「平成18年課税期間」、「平成19年課税期間」、「平成20年課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)に係る消費税等の各更正の請求(以下「本件各更正の請求」という。)に対してされた更正をすべき理由がない旨の各通知処分の全部の取消しを求めてなされているところ、原処分庁は、平成21年10月26日付で、別表1の「賦課決定処分」欄のとおり、本件各課税期間の消費税等に係る無申告加算税の各賦課決定処分をしており、当審判所は、当該各賦課決定処分についてあわせ審理する。

(3) 関係法令

 別紙3のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査結果においてもその事実が認められる。
イ 請求人の業務形態等
 請求人の型枠工事業に係る一般的な業務形態は、請求人が、請求人の得意先である建築業者(以下「得意先」という。)より、一人ないし複数人による工事現場における型枠工事業への従事依頼を受けて職人を手配し、請求人ないし職人において工事現場での作業を行うというものである。そして、請求人は、当該業務につき、得意先から報酬を受領して、他方で、職人に対してその対価を支払っていた。
ロ 請求人の各法定申告期限までの申告状況等
 請求人は、いずれも各法定申告期限までに、本件各課税期間に係る消費税等の各確定申告を行わなかった。なお、上記イのとおりの請求人の業務態様によれば、請求人は個人事業者(消費税法第2条第1項第3号)であることから、各法定申告期限は租税特別措置法第86条の4第1項の規定に基づく期限となり、例えば、平成19年課税期間における法定申告期限は平成20年3月31日、平成20年課税期間における法定申告期限は平成21年3月31日となる。
 また、請求人は、消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項の規定の適用を受ける旨の届出書(消費税簡易課税制度選択届出書)の提出はしていない。
ハ 原処分庁による調査及び本件各期限後申告書の提出
(イ) 原処分庁は、平成21年9月ころから、請求人に対する消費税等を含む国税の調査(以下「本件調査」という。)を行った。
 原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、本件調査の一環として、平成21年9月1日に請求人宅で請求人と面談した。その際、請求人は、調査担当職員に対して出面帳と題するノート(以下「本件出面帳」という。)を提示した。
(ロ) 請求人は、平成21年10月2日に、本件各課税期間に係る消費税等について、別表1の「期限後申告」欄のとおり記載した各期限後申告書(以下、「本件各期限後申告書」といい、本件各期限後申告書の申告手続を「本件各期限後申告」という。)を原処分庁に提出した。
ニ 平成19年課税期間以前の課税期間に係る更正の請求が各法定申告期限から1年以内にされなかったものであること
 別表1のとおり、本件各更正の請求はいずれも平成21年12月1日付で原処分庁になされており、また、上記ロのとおり、本件各課税期間のうち平成19年課税期間における法定申告期限は平成20年3月31日、平成20年課税期間における法定申告期限が平成21年3月31日であることからすれば、本件各更正の請求のうち、平成19年課税期間以前の各課税期間に係る各更正の請求は、各法定申告期限から1年以内にされなかった更正の請求である。

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2 主張

(1) 争点1 本件各更正の請求のうち、法定申告期限から1年以内になされなかった平成19年課税期間以前の各課税期間に係る各更正の請求が適法か否か。

請求人 原処分庁
1 請求人は、平成21年10月2日、本件調査担当職員らより、過去の滞納税額の合計が○○○○円を超えている、これには重加算税等が日々加わり、瞬く間にさらに巨額になる、心掛けをかえて申告するということなら国税だけ○○○○円強にまけてやるなどという脅迫めいた不正確な言辞を用いられ、同日、本件各期限後申告したものである。なお、このような強要があったことは、請求人が同月11日に提出した請願書の記載内容からも明らかである。
 そのような経緯でなされた本件各期限後申告は無効というべきであり、本件では法定申告期限から1年以内でなくても更正の請求をすることができると解すべきである。
2 税務署長は納税申告書の誤りを是正する義務があるのであるから、当該納税申告書に係る更正の請求が、当該納税申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内になされなかったものであっても、それに対して応答しなければならず、法定申告期限から1年以内でなくても更正の請求をすることができると解すべきである。
1 本件各期限後申告のしょうよう等は、通常行われている調査から逸脱した異常なものとは認められないほか、請求人が主張するような言辞があった事実及び納税申告書に強制的に記名、押印させた事実も認められない。
 また、請求人は、本件各期限後申告の際に、一括納付が困難であるとして納付相談の担当者のもとに案内され、延滞税のほかに6か月以内で分納する必要性の説明を受け、妻と相談して改めて連絡する旨回答し、その後速やかに銀行に借入れの相談に行くなど納付相談の担当者の説明に従って一定の行動をとっていることが認められる。
 以上のことからすると、本件各期限後申告が無効であるというべき理由が認められない。
2 更正の請求は、納税申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限りすることができるところ、平成17年課税期間ないし平成19年課税期間に係る各更正の請求については、いずれも各法定申告期限から1年以内になされなかったものであって、不適法である。

(2) 争点2 本件職人対価が課税仕入れに係る支払対価に該当し、課税仕入れに係る消費税額の控除が認められるか否か。

請求人 原処分庁
 以下のとおり、本件職人対価は、そのすべてが課税仕入れに係る支払対価に該当し、課税仕入れに係る消費税額の控除が認められるべきである。  以下のとおり、本件職人対価は、そのすべてが課税仕入れに係る支払対価に該当するとはいえず、また、法定帳簿の保存がないので、課税仕入れに係る消費税額の控除を認めることはできない。
1 課税仕入れに係る消費税額の控除につき、消費税法第30条第7項に基づき保存が要求される、同条第8項第1号規定の記載事項(以下「法定記載事項」という。)が記載された帳簿(以下「法定帳簿」という。)の保存の有無
 請求人は、本件出面帳を平成18年6月以降作成、保存しており、本件出面帳には、法定記載事項が記載された法定帳簿に該当する。
1 法定帳簿の保存の有無
 本件出面帳は、請求人が職人の従事状況を管理するための手控えにすぎず、申告の基礎資料ではないから、その大半につき、法定記載事項のうち、課税仕入れに係る支払対価の額の記載がなく、本件出面帳から課税仕入れの額を算定することは到底不可能である。したがって、法定帳簿の保存を定めた消費税法第30条第7項の趣旨に照らしても、本件出面張を法定帳簿と認める余地はない。
2 課税仕入れに係る消費税額の控除につき、消費税法第30条第7項に基づき保存が要求される、同条第9項所定の請求書等(以下「法定請求書等」という。)の保存の有無
 請求人は、本件職人対価のすべてにつき請求書等の交付を受け、保存しているわけではないが、別表2に記載の各職人に係る課税仕入れごとに法定請求書等の保存がある。
2 法定請求書等の保存の有無
 別表2に記載された「支払対価」欄のうち、一部については請求書等の保存がなく、また、保存がある部分についても、請求人が法定帳簿を作成、保存していない以上、原処分に何ら影響を及ぼすものではない。
3 本件職人対価が課税仕入れに係る支払対価に該当するか否か
 請求人は、事業者であり、事業として、手配した職人から工事現場での作業という役務の提供を受けており、請求人と職人との間の法律関係は請負又は準委任であって、職人より給与等を対価とする役務の提供を受けるものではないので、本件職人対価は全額が消費税法第2条第1項第12号に規定されている課税仕入れに係るものである。
 なお、平成20年課税期間における本件職人対価は別表2のとおりである。
3 本件職人対価が課税仕入れに係る支払対価に該当するか否か
 請求人は、事業者であり、事業として、手配した職人から役務の提供を受けているが、本件職人対価は報酬日額に各人の従事日数を乗じて算定されるほか、その一部には残業手当を支給し、給与支払明細書を作成、交付するものがあることからすれば、全額が給与等を対価とする役務の提供に係るものでないとはいえず、本件職人対価の全額が消費税法第2条第1項第12号に規定する課税仕入れに係るものであるという請求人の主張はにわかに認められない。

(3) 争点3 本件職人対価以外の支払対価が課税仕入れに係る支払対価に該当し、課税仕入れに係る消費税額の控除が認められるか否か。

請求人 原処分庁
 請求人が支払った本件職人対価以外の支払対価についても、課税仕入れに係る支払対価に該当し、課税仕入れに係る消費税額の控除が認められるべきである。  本件職人対価以外の支払対価については、法定帳簿が保存されていないから、課税仕入れに係る消費税額の控除は認められない。

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3 判断

(1) 争点1 本件各更正の請求のうち、法定申告期限から1年以内になされなかった平成19年課税期間以前の各課税期間に係る各更正の請求が適法か否か。

イ 法令解釈
(イ) 消費税の更正の請求については、通則法第23条第1項及び第2項と、消費税に特有の更正の請求の規定として消費税法第56条が規定されており、それ以外には規定がない。
 そして、通則法第23条第1項は、同項第1号から第3号までの場合には、納税申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り、更正の請求をすることができる旨規定しているが、その趣旨は、納税者が申告した後に、その申告内容の過誤を是正する必要の生ずる場合があることは否定できないが、あらゆる場合に自由にこれを認めることは申告により自己の税額を確定させる申告納税制度の性格に照らして適当といえないのみならず、納税義務の具体的内容を不安定ならしめ、行政を混乱に陥れる弊害もあるので、その過誤の是正は法律が特に認める場合に限るとしたものと解される。
 このような趣旨にかんがみると、通則法第23条第1項に規定する更正の請求ができる事由及び期間は、同項各号に規定する事由及び期間に限定されるものと解すべきであり、同様の趣旨が及ぶ同条第2項各号及び消費税法第56条に規定する事由及び期間についても同様に解すべきである。
(ロ) 通則法第24条に規定する更正は、税務署長に職権により課税標準等又は税額等を変更する権能を与えるものであり、納税申告書を提出した者がこの規定に基づき更正処分を求める申請権を有するものではないと解される。
ロ 判断
(イ) 判断
 上記イの(イ)のとおり、消費税に係る更正の請求ができる事由及び期間は通則法第23条第1項、第2項及び消費税法第56条に定める各事由及び期間に限られると解されるところ、上記2の争点1に係る請求人の主張のとおり、請求人は、平成19年課税期間以前の各課税期間に係る各更正の請求を含む本件各更正の請求の根拠たる法令の規定を明らかにせず、その主張内容からも根拠たる法令の規定が明らかとはいえないことから、以下各法令の規定ごとに更正の請求が認められる事由及び期間の該当性につき検討する。
A 通則法第23条第1項に係る更正の請求について
 別紙3の1のとおり、通則法第23条第1項各号は、その規定する各事由に該当する場合において、「当該国税の法定申告期限から一年以内に限り」更正の請求が認められる旨規定しているところ、上記1の(4)のニのとおり、本件各更正の請求のうち、平成19年課税期間以前の課税期間に係る各更正の請求は、いずれも法定申告期限から1年を超えていることから、その余について判断するまでもなく、同条項の要件を満たさない不適法な更正の請求である。
B 通則法第23条第2項及び消費税法第56条に係る更正の請求について
 別紙3の2及び11のとおり、通則法第23条第2項各号に規定する更正の請求が認められる事由は、その申告の基礎となった事実に関する訴えについての判決等により当該基礎となった事実が申告と異なることとなったこと等であり、また、消費税の確定申告書を提出した者に係る更正の請求の特例である消費税法第56条に規定する更正の請求が認められる事由も、課税資産の譲渡等に課される消費税に係る確定申告書について修正申告書を提出し、又は更正若しくは決定がされたことに伴い、その課税期間の翌課税期間以後の課税期間の既に確定している課税資産の譲渡等に課される消費税の額が過大となり又は還付金の額が過少となる場合等とされている。そして、本件の全証拠によっても、請求人が本件各課税期間の消費税等に係る判決を受けたり、修正申告書の提出又は更正若しくは決定がなされた事実を認めるに足りないことからすれば、本件各更正の請求のうち、平成19年課税期間以前の課税期間に係る各更正の請求はこれらの条項に係る更正の請求の要件を満たしていないことは明らかである。
(ロ) 請求人の主張について
A 「期限後申告に係る原処分庁の調査手続の違法」に係る主張について
 請求人は、「期限後申告に係る原処分庁の調査手続の違法」の存在を理由に、法定申告期限から1年以内でなくても、更正の請求をすることができる旨を主張するが、上記イの(イ)のとおり、消費税に係る更正の請求は上記(イ)で検討した各条項における更正の請求の事由及び期間の要件を満たしたものに限られると解するのが相当であるから、そもそもこれらの条項に定めがない「期限後申告に係る原処分庁の調査手続の違法」を事由として、更正の請求をすることや更正の請求の期間の延長を認めることはできないから、請求人の主張は、主張自体失当であって、これを採用することができない。
B 税務署長の申告書是正義務と不服申立てについて
 請求人は、税務署長は納税申告書の誤りを是正する義務があるから、当該納税申告書に係る更正の請求が、当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内になされなかったものであっても、それに対して応答しなければならないことを理由に、本件各更正の請求のうち、平成19年課税期間以前の各課税期間に係る各更正の請求が適法である旨主張していると解される。
 しかしながら、上記イの(ロ)のとおり、通則法第24条は、納税申告書を提出した者の行う更正の請求とは別に、税務署長に課税標準等又は税額等を変更する権能を与えるものであるが、納税申告書を提出した者に同条に基づく更正処分を求める申請権を与えるものではないから、請求人の主張は採用することができない。
(ハ) 小括及び争点2以下における検討すべき課税処分について
 以上のことからすれば、本件各更正の請求のうち、平成19年課税期間以前の各課税期間に係る各更正の請求については、通則法及び消費税法等の適用要件を満たさない不適法なものであり、原処分庁が理由のない旨の通知処分をしたことに違法はない。
 したがって、争点2以下では、本件各更正の請求のうち、平成20年課税期間に係る更正の請求に対する処分の適否に限って検討する。

(2) 争点2 本件職人対価が課税仕入れに係る支払対価に該当し、課税仕入れに係る消費税額の控除が認められるか否か。

イ 法令解釈等
(イ) 法定帳簿及び法定請求書等の保存について
A 事業者が、国内において行う課税仕入れに係る消費税額の控除を行うためには、消費税法第30条第7項により、事業者が当該課税期間の課税仕入れの税額の控除に係る帳簿及び請求書等、すなわち、法定帳簿及び法定請求書等を保存することが要件とされているところ、当該保存が要件とされた趣旨は、資産の譲渡等が連鎖的に行われる中で、広く、かつ、薄く資産の譲渡等に課税するという消費税により適正な税収を確保するには、法定帳簿及び法定請求書という確実な資料を保存させ、権限ある課税庁職員の必要あるときは法定帳簿及び法定請求書を検査することが可能であるときに限り、課税仕入れに係る消費税額の控除の適用ができることを明らかにしたものであると解される。
 このうち、法定帳簿については、その対象物が帳簿であること、すなわち、継続的に記帳され、日々の取引を証ひょう書類等の原始記録を基に記録されるものであることはもとより、同条第8項により、課税仕入れに係るまる1相手方氏名等、まる2課税仕入れの年月日、まる3その役務等の内容及びまる4対価の額の法定記載事項の各記載が必要である。
 そして、法定請求書等については、別紙3の10のとおり、課税仕入れに係る資産又は役務の内容、支払対価の額等の同条第9項第2号所定の内容が記載された一定の請求書等に限られている。なお、法定請求書等について、当該課税仕入れに係る支払対価を金融機関等に振り込む方法で支払った際に、金融機関が発行する振込金受取書等の文書を保存している場合、当該振込金受取書等には、同条第9項第2号所定の内容のうち「課税仕入れに係る役務等の内容」について記載されないが、他の文書と共に保存することで同条第9項第2号所定の内容が客観的に網羅されると認められるときは、法定請求書等の保存があると解するのが相当である。
B また、課税仕入れに係る消費税額の控除の適用要件として「帳簿及び請求書等」の保存が求められていることからすれば、法定帳簿及び法定請求書はそれぞれ独立して上記Aのとおりの消費税法上の要件を満たし、その保存がなされている必要があると解するべきであり、したがって、例えば、ある課税仕入れについて、法定請求書等の保存があったとしても、法定記載事項を満たさない帳簿の保存しかない場合には、課税仕入れに係る消費税額の控除の適用は認められないと解するのが相当である。
(ロ) 課税仕入れの範囲から除かれる給与等を対価とする役務の提供について
 消費税法第30条第1項に規定する課税仕入れにつき、同法第2条第1項第12号は、事業者が事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(所得税法第28条第1項に規定する給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けることをいう旨規定している。
 この課税仕入れの範囲から除かれる給与等を対価とする役務の提供とは、俸給、給料、賃金、歳費、賞与及びこれらの性質を有する給与を対価として、雇用契約又はこれに準ずる契約に基づき労務を提供することをいうと解される。
 そして、雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく労務の提供に当たるといえるか否かは、まる1勤務場所及び勤務時間の拘束性があるといえるか否か、まる2役務提供の代替性がないといえるか否か、まる3役務提供における具体的な指揮監督があるか否か、まる4仕事の依頼に対する諾否に自由がないか否か、まる5対価の性格として役務を手段として達成された結果等に対するもので、実費弁償的要素を含むとともに、結果成否についての危険も負担することとなるもの(以下、このような対価の性格を「対価の対償的性格」という。)の程度が低いか否か及びまる6労務を提供する者が業務資材等を負担しないか否か等の諸要素が検討される必要があると解される。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人が平成20年課税期間中に支払った本件職人対価の額
 請求人は、別表2のとおり、平成20年課税期間において請求人の手配した各職人に対して、従事した工事の対価の支払を行った。
(ロ) 本件職人対価に関する本件出面帳以外の請求人の作成文書等
 請求人は、平成20年課税期間中において、得意先に対して作業に従事する職人を明らかにするため、各職人の氏名、生年月日、住所及び電話番号等が記載された名簿等(以下「本件名簿等」という。)を備え付けていた。
(ハ) 本件出面帳の記載内容等
 請求人が日々記帳する本件出面帳には、平成20年課税期間における請求人と各職人との日々の取引が継続的に記帳されており、さらにその記載内容として、作業日付、工事現場の名称、具体的作業内容、作業をした者の名称(請求人及び職人)等が記載されているが、月末に記載される本件職人対価の額等について、金額ではなく各職人のその月の作業量(人工量)が記載されている場合がある。
 なお、本件出面帳には、上記作業量から本件職人対価を算出する計算方法等の記載はなく、本件の全証拠によっても、各職人のその月の作業量から本件職人対価を算定すべき方法が記載された文書等の存在を認めるに足りない。
 平成20年課税期間における各職人に係る本件出面帳の記載内容等は、以下のとおりである。
A e
 eに係る作業状況等については、「e班」という名称で当該作業を行った日ごとに記載されており、支払対価の額については、平成20年5月分として「e班 応援 \120,000」及び同年8月分として「e班 \1,075,300」と記載されているが、他の月分についての支払対価の額の記載はされていない。
B f
 fに係る作業状況等については、「f班」という名称で当該作業を行った日ごとに記載されており、支払対価の額については、平成20年5月分として「f班=180,000」と記載されているが、他の月分についての支払対価の額の記載はされていない。
C g
 gに係る作業状況等については、「g班」という名称で当該作業を行った日ごとに記載されており、支払対価の額については、平成20年4月分として「g班120,000」、同年6月29日付で同年5月分の一部として「g班 内金1F分255,000」及び同年8月分として「g班¥1,136,810」と記載されているが、他の月分についての支払対価の額の記載はされていない。
D h
 hに係る作業状況等については、「h組」という名称で当該作業を行った日ごとに記載されており、支払対価の額については、平成20年2月分として「h組=¥301,500円」、同年4月分として「h組相殺分155,000」及び同年8月分として「h請求345,000」と記載されているが、他の月分についての支払対価の額の記載はされていない。
E i
 iに係る作業状況については、「i班」という名称で当該作業を行った日ごとに記載されており、支払対価の額については、平成20年7月分として「i班 計=26人=¥390,000+4000」及び同年9月分として「i20人 313,350」と記載されているが、他の月分についての支払対価の額の記載はされていない。
F j
 jに係る作業状況等については、作業を行った日ごとに記載があり、支払対価の額については、平成20年9月分として「j 165,000」と記載されているが、他の月分についての支払対価の額の記載はされていない。
G k
 kに係る作業状況等については、作業を行った日ごとに記載があり、支払対価の額については、平成20年9月分として「k 180,000」と記載されているが、他の月分についての支払対価の額の記載はされていない。
H m
 mに係る作業状況については、「m」という名称で当該作業を行った日ごとに記載されており、支払対価の額については、平成20年2月分として「m=23人=¥322,000」、同年3月分として「m 20.5 ¥287,000」及び同年4月分として「m=26人=364,000」と記載されているが、他の月分についての支払対価の額の記載はされていない。
I n
 nに係る作業状況については、「n」という名称で当該作業を行った日ごとに記載されており、支払対価の額については、平成20年9月分として「n 8人 120,000」と記載されているが、他の月分についての支払対価の額の記載はされていない。
J p
 pに係る作業状況については、「p」という名称で当該作業を行った日ごとに記載されており、支払対価の額については、平成20年8月分として「p 130,000」及び同年9月分として「p 220,000」と記載されているが、他の月分についての支払対価の額の記載はされていない。
K q
 qに係る作業状況については、「q」という名称で当該作業を行った日ごとに記載されており、支払対価の額については、平成20年9月分として「q」「315,000」と記載されているが、他の月分についての支払対価の額の記載はされていない。
L その他の職人について
 別表2の「職人名」欄に記載された職人で、上記AないしK以外の職人であるr、s、t及びuの平成20年課税期間に係る役務の提供については、本件出面帳において、いずれもその作業状況の記載はあるものの、本件職人対価の額の記載がない。
(ニ) 請求人が保存する請求書等
 上記(ハ)のAないしKのとおり、本件出面帳に支払対価の額が記載されている各職人につき請求人が保存していた請求書等のうち、当該各記載の支払対価の額に係る請求書等の内容は、以下のとおりである。
A e
 請求人は、e名義の平成20年5月31日付の平成20年5月分請求書及び平成20年8月31日付の平成20年8月分請求書を保存しており、当該各請求書は、いずれも別紙3の10のとおりの法定請求書等の要件を満たす内容であった。
B f
 請求人は、f名義の平成20年5月分請求書を保存しており、当該請求書は、別紙3の10のとおりの法定請求書等の要件を満たす内容であった。
 なお、当該請求書の発行者名義は、「型枠業f組 代表f」となっていた。
C g
 請求人は、g名義の平成20年5月31日付の平成20年5月分請求書及び関係資料、並びに、平成20年8月31日付の平成20年8月分請求書及び関係資料を保存しており、当該各請求書は、いずれも別紙3の10のとおりの法定請求書等の要件を満たす内容であった。そして、当該各請求書の発行者名義は、「g組 g」となっていた。
 なお、請求人は、上記(ハ)のCのとおり、本件出面帳に記載されていたgに係る平成20年4月分の支払対価について、請求書を当審判所に提示しなかった。
D h
 請求人は、h名義の平成20年5月13日付の平成20年4月分請求書を保存しており、当該請求書は、別紙3の10のとおりの法定請求書等の要件を満たす内容であった。
 なお、請求人は、上記(ハ)のDのとおり、本件出面帳に支払対価の額の記載があるhに係る平成20年2月分及び同年8月分の支払対価について、h名義の平成20年3月25日付の平成20年2月分請求書及び同年8月30日付の平成20年8月分請求書を保存しているが、いずれの請求書にも具体的な作業日、すなわち、法定請求書の要件である別紙3の10の(1)のロ「課税資産の譲渡等を行った年月日」の記載がなく、当審判所に対して、当該記載内容を明らかにする文書を提示しなかった。
E i
 請求人は、iがhに対して交付した、あて先を「h組」とする平成20年8月3日付の平成20年7月分請求書及び同年9月30日付の平成20年9月分請求書をhより受け取って保存していた。
 なお、請求人は、当該請求書に係る金員をhではなく、iに直接、支払ったものである。
F j
 請求人は、jの平成20年9月分の役務提供に対する支払に係る請求書等として、平成20年10月17日付のw金庫発行の振込明細票を保存するところ、当該明細書には、書類の作成者である請求人の氏名、相手方であるjの氏名及び支払対価の額の記載がある。そして、請求人は、本件出面帳とは別に、平成20年9月分のjに係る役務提供の日付及び作業内容を記載した「9月分」と題する文書を保存しており、これらの文書を総合的にみると別紙3の10のとおりの法定請求書等の要件を満たす内容となっている。
G k
 請求人は、kの平成20年9月分の役務提供に対する支払に係る請求書等として、平成20年10月17日付のw金庫発行の振込明細票を保存するところ、当該明細書には、書類の作成者である請求人の氏名、相手方であるkの氏名及び支払対価の額の記載がある。そして、請求人は、本件出面帳とは別に、平成20年9月分のkに係る役務提供の日付及び作業内容を記載した「9月分」と題する文書を保存しており、これらの文書を総合的にみると別紙3の10のとおりの法定請求書等の要件を満たす内容となっている。
H m
 請求人は、上記(ハ)のHのとおりの本件出面帳に支払対価の額の記載があるm名義の平成20年2月分ないし4月分の役務提供に対する支払に係る各請求書等について保存していなかった。なお、請求人は、当該課税期間終了後の平成21年9月以降になされた本件調査以後、mに依頼して当該請求書等の交付を受けた。
I n
 請求人は、上記(ハ)のIのとおり、本件出面帳に支払対価の額の記載があるnの平成20年9月分の役務提供に対する支払に係る請求書等として、平成20年10月2日付のw金庫発行の「振込金受取書(兼振込み手数料受取書)」と題する文書(以下「本件振込金受取書」という。)を保存するところ、本件振込金受取書には、nが請求人に対して提供した役務の内容、すなわち、別紙3の10の(2)のニ「課税仕入れに係る資産又は役務の内容」は記載されておらず、当審判所に対して、当該記載内容を明らかにする文書を提示しなかった。
J p
 請求人は、上記(ハ)のJのとおり、本件出面帳に支払対価の額の記載があるpの平成20年9月分の役務提供に対する支払につき、ただし書欄に「9/1〜9/30締切分」等の記載がある同人名義の平成20年10月20日付の領収証を保存するところ、当該領収証には、当該期間に係る役務の内容、すなわち、別紙3の10の(1)のハ「課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容」は記載されておらず、当審判所に対して、当該記載内容を明らかにする文書を提示しなかった。
 また、請求人は、本件出面帳に支払対価の額の記載があるpの平成20年8月分の役務提供に係る請求書等を保存していない。
K q
 請求人は、上記(ハ)のKのとおり、本件出面帳に支払対価の額の記載があるqの平成20年9月分の役務提供に対する支払に係る文書又は請求書等として、その振込先である銀行口座番号を記載した文書及びw金庫発行の利用明細票を保存しているが、これらの文書には課税仕入れを行った年月日及び役務の内容、すなわち、別紙3の10の(2)のハ「課税仕入れを行った年月日」及び同ニ「課税仕入れに係る資産又は役務の内容」が記載されておらず、当審判所に対してこれらの記載内容を明らかにする文書を提示しなかった。
ハ 請求人及び関係者の答述並びにその信用性
 以下の請求人及び関係者であるmの答述は、格別不自然な点は認められず、明瞭で具体的であり、上記ロの(ハ)の本件出面帳の記載内容及び上記ロの(ニ)の請求書等の記載内容等とも整合しており、信用できるものと認められる。
(イ) 請求人の答述
A 請求人の受注工事は、コンクリートの打設のための型枠の設置であり、受注の際に、当該コンクリート打設予定日を基準として、何日に何人の職人でどのような作業を行うかの計画を立て、当該計画に基づいて職人の手配を行った。
B 得意先から受注した工事について、工事現場に対する職人の配置は、請求人が各職人の住所等を考慮して当該各職人に受託の可否を電話等で打診していた。当該依頼に対して、その受託の判断は職人の任意であり、職人が別の得意先の仕事を行っている場合、断ることもできた。
 なお、請求人と各職人との間では、契約書は作成されていない。
C 請求人の仕事の依頼に対し、職人は、単独ないしグループで請求人の割り当てた工事現場の作業を行っていた。その際、請求人からの仕事を受託した職人は、別表2の職人同士だけでなく、当該職人の知人等を手配して仕事を遂行した。
D 職人への支払対価は、原則として1人1日当たり15,000円であるが、その単価は変動する場合があり、見習いの職人には1日当たり10,000円の支払に減額したこともあった。また、職人によっては、作業面積を基礎として支払をしたこともあった。
E 職人の工事現場への交通費の負担は、当該工事現場の遠近、仕事の緩急ないし担当する職人自体によって異なり、常に請求人ないし職人が一方的に負うというものではなかった。
F 工事現場で使用する工具等の用意は、基本的には職人の側で行っていた。そのため、請求人は、職人に仕事を依頼する際に、当該工事現場で必要な工具等の説明を行った。
 また、職人は、その工事現場で請求人が負担すべき経費を立替払することはなく、請求人に当該立替金の請求をすることはなかった。
G 請求人とhは兄弟であり、お互いに仕事の応援をすることがあった。その際、当該応援に係る役務は、金銭で清算するのではなく、相互に職人を派遣しあうことで清算を行った。
H 職人が役務を提供した後に、請求人が実際に得意先から受領する金員の減額等があった場合には、請求人とe及びg等の職人との間で減額(値引き)の合意がなされることもあった。
I 職人のうち、j及びkは、兄弟であり、それぞれ請求人に応援が必要なときに職人を派遣してもらっていた。
(ロ) mの答述
A 請求人からの仕事の依頼は、工事現場の帰り際に請求人から声をかけられたりもしたが、本来は、事前に請求人から電話により依頼がされた。
B 請求人からの仕事については、作業内容、作業期間及び対価を含め、すべて口約束であり、契約書を作成することはない。
C 請求人からの仕事の依頼は断ることができたが、自分は断ったことがない。
D 工事現場で使用する工具等は、原則自己負担であった。
ニ 判断
 上記イの(イ)のとおり、法定帳簿については、継続的に記帳され、日々の取引を原始記録等を基に記載される必要があり、さらに、消費税法第30条第8項により、課税仕入れに係るまる1相手方氏名等、まる2課税仕入の年月日、まる3その役務等の内容及びまる4対価の額の法定記載事項の各記載が必要であるところ、上記ロの(ロ)及び(ハ)のとおり、本件出面帳には、平成20年課税期間における請求人と各職人との取引が日々継続的に記載され、さらに、別表2のとおりの平成20年課税期間に係る本件職人対価に関し、その職人の名称、工事現場の名称、作業日を含む具体的作業内容等が記載されており、さらに、本件名簿等により本件出面帳記載の職人の氏名が確認できることも考慮すると、本件出面帳の記載内容からは、法定記載事項のうちまる4支払対価の額を除くまる1ないしまる3の各事項の記載がされていることは明らかに認めることができる。
 一方で、本件職人対価の額は、上記ハの(イ)のDのとおり定額ではなく、また、上記ロの(ハ)のとおり、本件出面帳にはこれを算出できる単価その他の計算方法が記載されておらず、本件の全証拠によっても、各職人のその月の作業量から本件職人対価を算定すべき方法が記載された文書等の存在を認めるに足りないから、本件出面帳に職人のその月の作業量のみが記載されている場合は、まる4課税仕入れに係る支払対価の額の記載があるものと認めることはできない。
 以上のことを踏まえ、別表2のとおりの平成20年課税期間に係る本件職人対価について、請求人が課税仕入れに係る法定帳簿及び法定請求書等の保存をしているか否かについて検討したところ、以下のとおりである。 
(イ) 平成20年課税期間に係る本件職人対価に関する法定帳簿及び法定請求書等の保存の有無
A e
 上記ロの(ハ)のA及び(ニ)のAのとおり、eに係る平成20年5月分及び8月分の本件職人対価については、本件出面帳にまる4課税仕入れに係る支払対価の額の記載があり、さらに、請求人の保存する請求書等は法定請求書等の要件を満たす内容であった。
 以上のことから、請求人は、eに係る平成20年課税期間の本件職人対価のうち、平成20年5月分及び8月分について法定帳簿及び法定請求書等を保存していると認めることができる。
B f
 上記ロの(ハ)のB及び(ニ)のBのとおり、fに係る平成20年5月分の本件職人対価については、本件出面帳にまる4課税仕入れに係る支払対価の額の記載があり、さらに、請求人の保存する請求書等は法定請求書等の要件を満たす内容であった。
 以上のことから、請求人は、fに係る平成20年課税期間の本件職人対価のうち、平成20年5月分について法定帳簿及び法定請求書等を保存していると認めることができる。
C g
 上記ロの(ハ)のC及び(ニ)のCのとおり、gに係る平成20年5月分及び8月分の本件職人対価については、本件出面帳にまる4課税仕入れに係る支払対価の額の記載があり、請求人の保存する請求書等は法定請求書等の要件を満たす内容であるが、同人に係る平成20年4月分の本件職人対価については、法定請求書等を保存している事実を認めるに足りない。
 以上のことから、請求人は、gに係る平成20年課税期間の本件職人対価のうち、平成20年5月分及び8月分についてのみ課税仕入れの税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存していると認めることができる。
D h
 上記ロの(ハ)のD及び(ニ)のDのとおり、hに係る平成20年2月分、4月分及び8月分の本件職人対価については、本件出面帳にまる4課税仕入れに係る支払対価の額の記載があるが、請求人の保存するhに係る請求書等のうち、法定請求書等の要件を満たすものは平成20年4月分に係る請求書のみであり、平成20年2月分及び8月分の各請求書等については、法定請求書等の要件を満たす請求書であることを認めることができない。
 以上のことから、請求人は、hに係る平成20年課税期間の本件職人対価のうち、平成20年4月分についてのみ法定帳簿及び法定請求書等を保存していると認められる。
E i
(A) 上記ロの(ハ)のE及び(ニ)のEのとおり、iに係る平成20年7月分及び9月分の本件職人対価については、本件出面帳にまる4課税仕入れに係る支払対価の額の記載があり、また、請求人がiに対して、当該対価を直接支払った事実も認めることができるものの、請求人の保存するi名義の平成20年7月分及び9月分各請求書は、そのあて先がhとなっており、請求書等の書類の交付を受ける事業者となるべき請求人の氏名又は名称の記載がないことからすれば、当該各請求書は、請求人が行った課税仕入れであるiに係る平成20年7月分及び9月分の本件職人対価との関係では、法定請求書等の要件のうち、別紙3の10の(1)のホ「書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称」の要件を満たさないものと評価するのが相当である。
(B) なお、上記ロの(ハ)のEのとおり、本件出面帳に「i班」という名称でiに係る作業内容が記載され、さらに、上記ロの(ニ)のEのとおり、請求人の保存するi名義の平成20年7月分及び9月分各請求書がiからhに対して交付されたものであり、当該請求に基づいて請求人がiに対して直接本件職人対価を支払ったことからすれば、平成20年7月分及び9月分のiによりされた請求人に対する役務の提供は、本来、hが請求人に対して行うべき役務の提供であったものをiがhに代わって行い、その後、請求人がiに対して直接に本件職人対価を支払ったものとも解される。
 このような事実関係であることを前提にすると、請求人において、iが行った役務の提供に係る課税仕入れの契約上の相手方は、iではなくhであることになるが、本件出面帳には、iに係る平成20年7月分及び9月分の作業内容につきhの氏名等の記載がされていない。
 以上のことから、請求人は、hに係る課税仕入れのうち、iが作業を行ったことに係る平成20年課税期間の本件職人対価について、課税仕入れの税額の控除に係る法定帳簿を保存していると認めることはできない。
(C) 小括
 上記(A)及び(B)のとおり、請求人は、iの行った役務の提供に係る平成20年課税期間の本件職人対価については、法定帳簿ないし法定請求書等を保存していると認められない。
F j
 上記ロの(ハ)のF及び(ニ)のFのとおり、jに係る平成20年9月分の本件職人対価については、本件出面帳にまる4課税仕入れに係る支払対価の額の記載があり、さらに、上記イの(イ)のAに照らして、請求人の保存する振込明細書等の請求書等は法定請求書等の要件を満たす請求書等であると認めることができる。
 以上のことから、請求人は、jに係る平成20年課税期間の本件職人対価のうち、平成20年9月分について法定帳簿及び法定請求書等を保存していると認めることができる。
G k
 上記ロの(ハ)のG及び(ニ)のGのとおり、kに係る平成20年9月分の本件職人対価については、本件出面帳にまる4課税仕入れに係る支払対価の額の記載があり、さらに、上記イの(イ)のAに照らして、請求人の保存する振込明細書等の請求書等は法定請求書等の要件を満たす請求書等であると認めることができる。
 以上のことから、請求人は、kに係る平成20年課税期間の本件職人対価のうち、平成20年9月分について法定帳簿及び法定請求書等を保存していると認めることができる。
H m
 上記ロの(ハ)のH及び(ニ)のHのとおり、mに係る平成20年2月分ないし4月分の本件職人対価については、本件出面帳にまる4課税仕入れに係る支払対価の額の記載があるが、請求人は、平成20年課税期間において、上記の本件職人対価に係る請求書等について保存しておらず、当該期間が経過した後である平成21年9月以降に行われた本件調査の後、mから当該請求書等の発行を受けたものと認めることができる。
 以上のことから、請求人は、mに係る平成20年課税期間の本件職人対価については、法定請求書等を保存していると認めることはできない。
I n
 上記ロの(ハ)のI及び(ニ)のIのとおり、nに係る平成20年9月分の本件職人対価については、本件出面帳にまる4課税仕入れに係る支払対価の額の記載があるが、請求人が当該対価の額につき保存する本件振込金受取書にはnが請求人に対して提供した役務の内容が記載されていないことからすれば、本件振込金受取書は、法定請求書等の要件のうち、別紙3の10の(2)のニ「課税仕入れに係る資産又は役務の内容」の記載を欠き、請求人が当審判所に対して他に当該役務内容を明らかにする文書等の提示をしなかったことによれば、請求人が、当該要件を満たす請求書等の保存をしている事実を認めるに足りない。
 以上のことから、請求人は、nに係る平成20年課税期間の本件職人対価については、法定請求書等を保存していると認められない。
J p
 上記ロの(ハ)のJ及び(ニ)のJのとおり、pに係る平成20年8月分及び9月分の本件職人対価については、本件出面帳にまる4課税仕入れに係る支払対価の額の記載があるが、請求人は、当該本件職人対価のうち、同年8月分に係る請求書等を保存しておらず、さらに、同年9月分の請求書等も法定請求書等の要件の一つである別紙3の10の(1)のハ「課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容」が記載されている請求書であると認めることができない。
 以上のことから、請求人は、pに係る平成20年課税期間の本件職人対価については、法定請求書等を保存していると認めることができない。
K q
 上記ロの(ハ)のK及び(ニ)のKのとおり、qに係る平成20年9月分の本件職人対価については、本件出面帳にまる4課税仕入れに係る支払対価の額の記載があるが、請求人の保存する利用明細書にはqが請求人に対して提供した役務の内容が記載されていないことなどからすれば、請求人が、法定請求書等の要件である別紙3の10の(2)のニ「課税仕入れに係る資産又は役務の内容」等が記載された請求書を保存していると認めることができない。
 以上のことから、請求人は、qに係る平成20年課税期間の本件職人対価については、請求書等を保存していると認めることができない。
L その他の職人について
 別表2の「職人名」欄に記載された職人のうち、上記AないしK以外の職人であるr、s、t及びuの平成20年課税期間に係る役務の提供については、本件出面帳にまる4本件職人対価の額の記載がないから、これらの職人に係る本件職人対価については、法定帳簿の保存の事実を認めることができない。
M 小括
 以上により、請求人の平成20年課税期間の各職人に対する支払対価について、請求人が法定帳簿及び法定請求書等の保存をしていると認められる取引は、別表3の「帳簿の保存」欄及び「請求書等の保存(消費税法第30条第9項第1号)」欄の全項目のすべてに、又は、「帳簿の保存」欄及び「請求書等の保存(消費税法第30条第9項第2号)」欄の全項目のすべてに○印が記載されている取引、すなわち、eに係る平成20年5月分及び8月分、fに係る同年5月分、gに係る同年5月分及び8月分、hに係る同年4月分、jに係る同年9月分並びにkに係る同年9月分の各取引である(以下、これらの取引を総称して「本件対象取引」という。)。
(ロ) 本件対象取引に係る役務は、課税仕入れの対象となるか否か。
 上記イの(ロ)のとおり、課税仕入れに係る消費税額の税額控除の対象となる課税仕入れからは、雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく労務の提供が除かれることから、上記イの(ロ)のとおりの雇用関係の有無の判断において検討を要する諸要素に照らして、本件対象取引の基礎となる各役務の提供が、請求人と本件対象職人らとの間の雇用関係等に基因してされたものであるか否かを判断したところは、以下のとおりである。
A 勤務場所及び勤務時間の拘束性
 上記ハの(イ)のA及び1の(4)のイのとおり、請求人は、得意先より型枠工事を受注し、コンクリート打設予定日を基準とした作業計画に基づいて各職人を当該工事現場に派遣するところ、当該業務の態様等にかんがみると、本件対象取引に係る役務につき、各職人が、当該工事の進ちょく状況等に併せて勤務場所ないし業務開始時間等の一定の拘束は受けるものの、いわゆる就業時間等の取り決めやこれに準ずる程度の勤務時間の拘束を受けていたものと認めることができない。
B 具体的な指揮監督及び役務提供の代替性の有無
 上記ハの(イ)のCのとおり、請求人からの依頼を了承した各職人は、単独ないしグループで請求人の割り当てた各工事現場の作業を行っていること及び各職人が手配する職人は、請求人と面識のない職人らの知人等も含まれていることからすれば、本件対象取引に係る役務につき、各工事現場の各職人がその業務内容等について請求人の指示・命令を受けてその役務提供をしているとは認められず、また、当該役務提供には代替性がないとはいえない。
C 仕事の依頼に対する諾否の自由
 上記ハの(イ)のB、G及びI並びに(ロ)のCのとおり、請求人からの仕事の依頼をうけた各職人は、別の得意先の仕事を行っている場合等は当該依頼を断ることもできたこと、特に、h、j及びkは、請求人に応援が必要なときに請求人の依頼に応えて職人の派遣を行うなどしていることからすれば、本件対象取引の相手方も含めた請求人から仕事の依頼を受ける各職人は、請求人からの仕事の依頼に対する諾否の自由がなかったとはいえない。
D 対価の対償的性格の程度
 上記ロの(ハ)並びにハの(イ)のD、G及びHのとおり、請求人の各職人への支払対価は、各職人の請求書等に基づいて支払われており、その対価の算定根基は一様ではなく、職人によっては作業面積を基準として対価の支払がされる場合があり、また、請求人と各職人間との取引又は当該取引の前提である請求人と各工事の依頼先との取引内容によっては当該対価の支払につき相殺ないし値引きが生じたことからすれば、本件対象取引を含む請求人から各職人への支払対価は、各職人の役務提供の結果に対するものであるということができ、対価の対償的性格の程度が低いとはいえない。
E 業務資材等の負担の有無等
 上記ハの(イ)のE及びF並びに(ロ)のDのとおり、各職人が工事現場で使用する工具等及び工事現場経費等については、原則として各職人の負担であることから、本件対象取引の相手方も含めた請求人が仕事を依頼した各職人は、自己の負担と計算によって請求人より依頼を受けた業務を遂行しているものと認められ、各職人が業務資材等を負担していなかったとは認められない。
F 結論
 上記AないしEのとおり、本件対象取引に係る役務提供につき、まる1各職人は、請求人の依頼によって請求人の得意先の指定する工事現場において型枠工事に従事しているが、各職人が請求人から就業時間等の強い時間的拘束を受けて業務を遂行しているとは認められないこと、まる2各職人は、その業務内容等について請求人の指示・命令を受けて業務を遂行しているとは認められず、さらに、役務提供の代替性がないとはいえないこと、まる3各職人は、請求人からの仕事の依頼に対する諾否の自由がなかったとはいえないこと、まる4請求人の各職人への支払対価は、各職人の役務提供の結果に対するものであるということができ、対価の対償的性格の程度が低いとはいえないこと、及び、まる5各職人は、自己の負担と計算によってその業務を遂行していて、業務資材等の負担をしていなかったものではないこと等が認められる。
 そうすると、本件対象取引に係る本件職人対価は、各職人と請求人との雇用関係又はこれに準ずる契約に基づき労務を提供した対価であると認めることはできず、むしろ、各職人の自己の危険と計算において独立的に労務、役務を提供した結果支払われるものということができる。
 以上のことから、本件対象取引の基礎となる各役務の提供は、請求人と本件対象職人らとの間の雇用関係等に基因してされたものではなく、課税仕入れに係る消費税額の税額控除の対象となる課税仕入れに該当する。 
(ハ) 請求人及び原処分庁の主張について
A 請求人の主張について
 請求人は、本件職人対価について、そのすべてが課税仕入れに係る支払対価に該当し、課税仕入れに係る消費税額の控除が認められるべきである旨を主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、請求人について法定帳簿及び法定請求書等の保存を認めることができるのは、本件対象取引に係るもののみであるから、これに反する請求人の主張は採用することができない。
B 原処分庁の主張について
(A) 原処分庁は、本件出面帳について、その大半につき、法定記載事項のうちまる4課税仕入れに係る支払対価の額がないことから、法定帳簿の保存を定めた消費税法第30条第7項の趣旨に照らして、法定帳簿と認める余地はない等と主張する。
 確かに、上記イの(イ)のとおり、法定帳簿については、継続的に記帳され、日々の取引を原始記録等を基に記載される必要があり、さらに、課税仕入れに係るまる1相手方氏名等、まる2課税仕入の年月日、まる3その役務等の内容及びまる4対価の額の法定記載事項の各記載が必要であり、これらの要件を欠く帳簿を法定帳簿として認めることはできないものの、上記ロの(ロ)のとおりの本件出面帳の記載内容等を上記イの(イ)のとおりの法定帳簿の保存を法が定めた趣旨に照らせば、本件出面帳のうち、法定記載事項のすべてを満たしていると認められる部分のみを法定帳簿と認めることが法定帳簿の保存を定めた法の趣旨に反するとはいえず、当該原処分庁の主張を採用することができない。
(B) また、原処分庁は、本件職人対価の全額が課税仕入れに係る支払対価であるという請求人の主張はにわかに認められない旨主張する。
 しかしながら、原処分庁は、本件職人対価のどの部分について課税仕入れから除かれるか明確に主張しないところ、上記(ロ)のFのとおり、本件対象取引に係る役務提供に係る本件職人対価は、各職人の自己の危険と計算において独立的に労務、役務を提供した結果支払われるものということができ、各職人と請求人との雇用関係又はこれに準ずる契約に基づき労務を提供した対価であるとは認められない。
 以上によれば、当該原処分庁の主張も採用することができない。
(ニ) 小括
 以上、請求人の平成20年課税期間に係る本件職人対価については、別表3「平成20年課税期間の課税仕入れに係る消費税額の控除の可否」の「認容額」欄の合計3,105,000円に対する部分について、課税仕入れに係る消費税額の控除が認められる。

(3) 争点3 本件職人対価以外の支払対価が課税仕入れに係る支払対価に該当し、課税仕入れに係る消費税額の控除が認められるか否か。

イ 請求人は、平成20年課税期間における本件職人対価以外の支払対価についても、課税仕入れに係る支払対価に該当し、課税仕入れに係る消費税額の控除が認められるべきである旨を主張する。
ロ しかしながら、本件出面帳等の当審判所に提出された全証拠を検討しても、本件職人対価以外の支払対価に係る資産の譲り受け、役務の提供を受けたことについて、請求人が法定帳簿を保存した事実を認めることができない。
 したがって、その余について判断するまでもなく、本件職人対価以外の支払対価については、課税仕入れに係る消費税額の控除は認められない。

(4) まとめ

イ 平成20年課税期間の消費税等の合計税額
 以上のことからすれば、請求人の平成20年課税期間に係る消費税等の課税標準額及び税額は、別紙2「取消額等計算書」の「3 課税標準額及び税額等の計算」欄の「裁決後の額」欄のとおりとなり、消費税等の合計税額は○○○○円となる。
 そうすると、当審判所が認定した請求人の消費税等の合計税額は、原処分に係る金額を下回るので、平成20年課税期間の消費税等の更正の請求に対してされた更正をすべき理由がない旨の通知処分は、その一部を取り消すべきである。
ロ 平成20年課税期間の消費税等に係る無申告加算税額
 平成20年課税期間の消費税等に係る無申告加算税の賦課決定処分は、上記イのとおり、通知処分がその一部を取り消されることに伴い、その基礎となる税額は、別紙2「取消額等計算書」の「加算税の額の計算」の「加算税の基礎となる税額」の「裁決後の額」欄のとおり○○○○円となり、無申告加算税の額は同「加算税の額」欄のとおり、○○○○円となる。そうすると、加算税の額は原処分の金額を下回るので、平成20年課税期間の消費税等に係る無申告加算税の賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。

(5) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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