(平成23年5月11日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、解体工事業を営む同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)が損金の額に算入した給料に水増しがあったとして提出した法人税の修正申告書について、原処分庁が、元経理担当事務員の横領による隠ぺい又は仮装の行為があったとして、重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該法人税の修正申告書の提出は「調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するとして、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 平成16年4月1日から平成17年3月31日まで、同年4月1日から平成18年3月31日まで、同年4月1日から平成19年3月31日まで及び同年4月1日から平成20年3月31日までの各事業年度(以下、順次「平成17年3月期」などといい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、審査請求(平成22年5月19日請求)に至る経緯は別表のとおりである。

(3) 関係法令

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出又は更正があったときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。
 また、同条第5項は、修正申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、過少申告加算税を課さない旨規定している。
ロ 通則法第68条《重加算税》第1項は、同法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(4) 基礎事実

イ Fは、請求人の専務取締役であった(以下「F専務」という。)。
ロ F専務は、平成21年10月19日頃、G税務署で、同署法人課税第○部門統括国税調査官P(以下「P統括官」という。)及び同部門上席国税調査官H(以下、「H上席」といい、両者を併せて「面談職員ら」という。)と面談し、請求人の元経理担当事務員(以下「元事務員」という。)による給料の支給額の水増し(以下「本件水増し」という。)について説明(以下「事前説明」という。)した。
ハ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、上記面談後の平成21年10月21日、F専務に、調査を実施することについての事前の連絡を電話で行った上で、同月22日にa市b町○−○に所在する請求人の事務所に臨場し、税務調査(以下「本件調査」という。)を行った。
ニ 請求人は、本件水増しの金額を、平成17年3月期8,528,800円、平成18年3月期8,210,000円、平成19年3月期9,050,000円及び平成20年3月期8,700,000円として、それぞれ、平成21年12月24日に、別表の「修正申告」欄のとおり、修正申告(以下、「本件修正申告」といい、その際提出された修正申告書を「本件修正申告書」という。)した。なお、本件修正申告における本件各事業年度の本件水増しの金額の合計額は34,488,800円であった。

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2 争点

 本件修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する「調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否か。

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3 主張

請求人 原処分庁
(1) 本件修正申告書は、F専務において、本件調査が行われる前に、自ら確認作業を行って本件水増しの事実及び金額のすべてを判明させるとともに、本件調査が行われる前の平成21年10月19日に、本件水増しについて原処分庁に方法、内容、金額等を説明して元事務員の横領の事実を説明し、その後に提出したものであるから、請求人が、自発的に修正申告を決意し、本件修正申告書を提出したこととなる。
 したがって、通則法第65条第5項に規定する「調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する。
(1) 本件修正申告書は、調査担当職員が本件調査において、元事務員に質問して本件水増しを確認した結果判明した横領の事実に基づき提出されたものである。また、事前来庁時において、F専務は、まる1修正申告をする確定的な決意を開示していないこと、まる2提示した資料からは一部の従業員に関する一部の期間の給料について書類上の差異が認められるだけであること及びまる3元事務員に横領の事実を指摘していないことからすれば、請求人は横領されていた事実を確定的に認識していたとは認められない。
 そうすると、本件修正申告書は、請求人から自発的に提出されたものではない。
 したがって、通則法第65条第5項に規定する「調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」には該当しない。
(2) 仮に、原処分が取り消されないとしても、隠ぺい又は仮装の行為者は請求人ではなく元事務員であり、元事務員が隠ぺい又は仮装の行為を行った場合に、それを認識しないで過少申告を行った場合には、通則法第68条第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」には該当せず、請求人に重加算税を賦課することはできない。 (2) 本件水増しは、請求人の確定申告に関わる帳簿等の作成を任されていた元事務員により長期間にわたり行われたものであり、ノートに記載された従業員ごとの給料の金額を実際に合計し照合すれば容易に本件水増しは把握できたと認められるが、請求人はその照合を行わないまま決算書類を作成し、確定申告を行っていたことからすると、本件水増しが元事務員の行為であっても、当該行為は請求人の行為と同一視すべきものと認められる。
 そうすると、請求人が本件水増しの金額を本件各事業年度の法人税の所得金額の計算上、損金の額に算入したことは、通則法第68条第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。

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4 判断

(1) 法令解釈

 通則法第65条第5項の趣旨は、過少申告がなされた場合には修正申告書の提出があったときでも原則として過少申告加算税は賦課されるものであるが、「申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知」することなく自発的に修正申告を決意し、修正申告書を提出した者に対しては、例外的に過少申告加算税を賦課しないこととし、もって納税者の自発的な修正申告を歓迎し、これを奨励することを目的とするものというべきである。
 そして、同項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」とは、納税者が申告書の提出後、何らかの事由によって、先に申告した金額が過少であり、これを是正するためには修正申告書を提出しなければならないことを認識し、これを決意したとしても、その決意は単に内心にとどまるものでは足りず、客観的に認められるものでなければならないと解するのが相当である。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 当審判所に対する関係者の答述
(イ) F専務の答述要旨
A 平成21年9月上旬頃、元事務員とは別の請求人の事務員から、給料支払合計額より銀行預金の引出額が多いとの話があったので、同月20日、J税理士に事実確認を依頼したところ、J税理士から、「給料」と表紙に記載したノート(以下「給料ノート」という。)の給料の小計欄の金額が実際の支払額より水増しされ、過大に計上されているとの説明と、法人税、源泉所得税及び住民税について問題があるので、修正申告書の提出や源泉所得税の還付処理などの必要がある旨の指導を受けた。
B 同日、給料関係の書類を自宅に持ち帰り、J税理士の説明を基に、水増しされた金額のすべてを確認し、その結果を附せん(以下「本件附せん」という。)に記入した。
C 法人税の申告が過少になっていることをG税務署に相談した場合には、当然修正申告をすることになり、水増しの総額は56,846,000円であることからすると、修正申告により納付することとなる税金は地方税も合わせて30,000,000円程度は必要と思い、会社名義の定期預金約20,000,000円と請求人の前代表取締役名義の定期預金約10,000,000円を納税に充てようと考えた。
D 元事務員が給料の水増し金額を横領していたことが分かったので、法人税の申告が過少となっている事実及び源泉所得税が多く徴収されていたことを報告し、どのようにすればよいか相談するために、平成21年10月19日、G税務署に行った。G税務署には、水増しが行われた期間のすべてについて、その事実を示すことができる給料ノート、給与所得に対する所得税源泉徴収簿(以下「源泉徴収簿」という。)、給料支払明細書、預金通帳のほか、本件附せんを持参した。
 そして、特定期間(平成20年4月分から平成21年3月分まで)の給料ノート、本件水増しに利用されていた従業員のうちのK及びLの源泉徴収簿及び給料支払明細書の各写し(以下、これらをすべて併せて「本件資料」という。)も持参し、面談職員らに、従業員の給料支給の際に、元事務員が特定の従業員の支給金額を水増しして源泉徴収簿に記載し、水増しにより浮かせた金員を従業員本人に支払わず横領していたとする本件水増しの内容を、本件資料や本件附せんの一部を給料ノートの写しに貼ったものにより説明し、提出した。その際、面談職員らに申告を直さなければいけないのではないかと言ったが、面談職員らは、後日連絡すると言うだけで、そこで説明は終わり、修正申告や源泉所得税の還付についての指導も一切なかったため、もっと確認したいのなら事務所に来てもらってもかまわないと伝えた結果、税務調査ということになった。
(ロ) H上席の答述要旨
 事前説明時に、源泉徴収簿と給料支払明細書を比較して、元事務員による給料水増しの事実が分かり、その金額は、単純に計算して年に6,000,000円、5年で30,000,000円、7年ではもっとと想定された。
 事前説明時に、F専務から本件水増しの説明及び調査依頼はあったが、修正申告の申出及び具体的な数字の提示もなかったことから、修正申告の指導はしていない。
 F専務から事前説明があるまでは、署においては、本件水増しにつながるような資料はなく、本件調査は、F専務からの説明を端緒として行った。
(ハ) P統括官の答述要旨
 事前説明時のF専務からの説明と提出された資料から、従業員の給料が水増しされているという事実が分かった。また、本件資料のほかにも持って来ていた書類はあったようだが確認はしていない。
 本件資料から、給料水増しの事実が確認できたが、署においては、本件水増しに直接つながるような資料は保有していなかった。
 F専務から、本件水増しの説明及び調査依頼はあったが、修正申告に関する申出はなく、説明もしていない。
 F専務から受けた説明内容から、相当長期間にわたって多額の不正計算を行っていることが想定されたので、調査担当職員に対して、直ちに調査に着手するよう指示したが、F専務から事前説明がなかった場合、本件調査を指示することはなかったと思う。
ロ 請求人が当審判所に提出した資料
(イ) 附せんの写し
A 平成14年4月分から平成20年3月分までの各月(平成17年4月分、同年12月分、平成18年3月分、同年4月分及び同年10月分は除く。)の正当な給料の金額及び500,000円から850,000円の水増し金額を記載したものと認められる附せん
B 平成16年5月1日から平成20年4月5日までの間の水増し金額を1年ごとに記載したものと認められる次の附せん
(A) 「16.5.1〜17.4.5 887.4万」
(B) 「17.5.2〜18.4.5 828万也」
(C) 「18.5.2〜19.4.5 905万也」
(D) 「19.5.2〜20.4.5 870円也」
 なお、上記(D)の金額は「870円」とあるが、同期間の上記Aの附せんの金額を合計すると8,700,000円となることから「870万円」の誤記であると認められる。また、(A)から(D)の各附せんの金額を合計すると34,904,000円となる。
C 平成13年10月分から平成21年8月分までの期間に係る水増し金額を記載したものと認められる「H13.11月〜H21.9月4日 5,684万6千也」と記載した附せん
(ロ) 総勘定元帳及び残高証明書の各写し
 平成21年9月30日現在、M銀行N支店の請求人名義の定期預金残高が35,364,386円と記載された総勘定元帳の写し及び請求人の前代表取締役名義の定期預金残高が14,936,096円との記載がある同行同支店の残高証明書の写し
ハ 認定し得る事実等
(イ) 上記ロの(イ)の附せんについてみると、上記ロの(イ)のAの附せんは、事前説明時にF専務が持参した給料ノートの写しに貼付された本件附せんの一部と、記載内容や形状が一致すること、上記ロの(イ)のBの本件各事業年度に該当すると認められる期間の附せんの金額の合計34,904,000円と、上記1の(4)のニの本件修正申告における本件水増しの金額の合計額34,488,800円は、近い金額ながら一部開差が認められること及び上記ロの(イ)のCの附せんが本件調査の対象期間を超える平成13年10月分から作成されていることからすると、当審判所に提出された上記各附せんは少なくとも事前説明より後に作成されたものではないことが推認でき、F専務が事前説明時に持参した本件附せんの一部と同一とみることに矛盾はないものと認められる。
(ロ) F専務は、上記(2)のイの(イ)のとおり答述しているところ、その答述の信用性について検討すると、F専務が事前説明時にすべての資料を持参するとともに本件資料等を提示して本件水増しについて説明した状況については、上記(2)のロの(イ)及び上記(イ)のとおり、当審判所に提出された上記各附せんが事前説明時にF専務が持参した本件附せんと同一とみることに矛盾はないものと認められること、上記(2)のイの(ロ)及び(ハ)のとおり、事前説明及び本件資料により本件水増しの事実を確認した点で面談職員らの答述と符合しており、特に相当長期間にわたって従業員の給料水増しが行われていたと想定された旨の答述とも符合していることなどから、信用することができるし、F専務の事前説明に至る経緯についての答述も、上記(2)のロの(ロ)のとおり請求人及び前代表取締役が予測される納税額に見合う預金等を保有していたことや、本件水増しの金額はJ税理士に説明を受けた確認方法で容易に把握できるもので、答述が不自然ではないことなどから、信用できるものである。
 したがって、F専務は、J税理士から本件水増しについて修正申告書を提出する必要があるとの指導を受け、本件水増しの金額すべてを確認してその結果を本件附せんに記入し、税金は30,000,000円程度は必要だと思って定期預金を納税に充てようと考えつつ、法人税の申告が過少になっている事実及び源泉所得税が多く徴収されていたことを報告して相談するために、水増しが行われたすべての期間についてその事実を示すことができる資料を持参しG税務署を訪れ、面談職員らに本件水増しの内容を説明して本件資料等を提出するなどしたものと認められる。
(ハ) そして、上記(2)のイの(イ)のDのとおり、持参した資料以外についても確認する必要があると思い、事前説明の際に、事実確認のため調査を求めた旨のF専務の答述と、上記(2)のイの(ロ)及び(ハ)のとおり、事前説明の際に、修正申告の指導をしなかった旨及び事前説明までは本件水増しにつながるような資料はなく、本件調査はF専務からの説明を端緒として行った旨の面談職員らの各答述とを考え併せると、F専務の意向もあり、本件調査の実施につながったものと認められる。
(ニ) さらに、上記(2)のロの(イ)及び上記(イ)のとおり、F専務が事前説明時に把握していた本件各事業年度の本件水増しの金額が本件修正申告における本件水増しの金額の合計額とほぼ一致していたことに加え、本件水増しの金額は、J税理士に説明を受けた確認方法によりF専務において容易に把握できたことなども併せ考慮すれば、F専務は、事前説明時には、本件水増しの事実及びその金額の全ぼうについて把握していたものと認められ、また、本件調査後の修正申告のしょうようにおいて、本件水増し以外に新たに明らかになった事実はなかったものと認められる。

(3) あてはめ等

イ 上記(2)のイないしハから、F専務は、少なくともG税務署で面談職員らに事前説明した平成21年10月19日頃までには本件水増しのすべてを把握し、修正申告をする決意をし、事前説明の際には、面談職員らに対して、本件水増しについて説明した上、調査を求め、それに基づいて同月22日に本件調査が行われたものと認められるから、請求人は、自発的に修正申告書を提出する決意を有しており、その請求人の修正申告の決意は、F専務の面談職員らに対する事前説明において、客観的に明らかになったものということができる。
 そうすると、本件修正申告書の提出は、申告漏れの事実について自発的にしたものであり、調査があったことにより更正があるべきことを予知してされた修正申告書の提出には当たらない。
ロ ところで、原処分庁は、本件修正申告書は、調査担当職員が本件調査において、元事務員に質問して本件水増しを確認した結果判明した横領の事実に基づき提出されたものである旨主張する。
 しかしながら、上記のとおり、請求人においては、本件水増しについて事前説明をする前には既に全ぼうを把握していたと認められるところ、F専務から事前説明があるまでは、本件水増しにつながるような資料は有しておらず、請求人に対する調査を行う予定はなかった上で、本件調査は実施されたものの、F専務が把握していた本件水増しの金額が、本件修正申告における本件水増しの金額の合計額とほぼ一致しており、本件調査後の修正申告のしょうようにおいて本件水増し以外に新たに明らかになった事実はなかったものと認められることからすれば、本件修正申告書については、本件調査において本件水増しを確認した結果判明した横領の事実に基づいて提出したものということはできず、むしろ、面談職員らが、相当長期間にわたって従業員の給料水増しが行われていたと想定された旨答述していることからすれば、面談職員らも、請求人において、本件調査の前に本件水増しの事実を把握していたことを認識し、修正申告をする意思を持って事前説明に来たことも認識し得たというべきである。
ハ 以上から、本件修正申告書の提出には通則法第65条第5項の規定が適用され、同条第1項の規定は適用されないから、過少申告加算税は課されない。
 そして、通則法第68条第1項は、同法第65条第1項の規定に該当しない場合には適用されないから、上記3の(2)の請求人の主張について判断するまでもなく、本件各事業年度の法人税に係る重加算税の各賦課決定処分は違法である。

(4) 結論

 以上のとおり、原処分は通則法第65条及び同法第68条の適用を誤ってなされたものであり、違法であるから、その全部を取り消すべきである。

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