(平成23年5月31日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が期間契約社員として勤務していた法人から期間契約満了時に支給された慰労金について、請求人が、当該法人は給与所得として所得税の源泉徴収をしているが退職所得に該当するとして、源泉徴収された所得税の還付を求める確定申告をしたところ、原処分庁が、給与所得に該当するとして、更正処分をしたのに対し、請求人が、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 確定申告
 請求人は、原処分庁に対し、平成21年分の所得税について、別表1の「確定申告」欄のとおり、平成22年1月8日に確定申告(以下「本件確定申告」という。)をした。
ロ 更正処分
 原処分庁は、本件確定申告には誤りがあるとして、平成22年5月14日付で、別表1の「更正処分」欄のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。
ハ 不服申立て
 請求人は、原処分庁に対し、本件更正処分を不服として、平成22年6月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年8月26日付で棄却する旨の異議決定をしたので、同年9月22日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 国税通則法
(イ) 第2条《定義》
 第6号は、納税申告書とは、申告納税方式による国税に関し国税に関する法律の規定により必要な事項を記載した申告書をいい、国税に関する法律の規定による国税の還付金の還付を受けるための申告書で当該必要な事項を記載したものを含む旨規定している。
(ロ) 第24条《更正》
 本条は、税務署長は、納税申告書の提出があった場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する旨規定している。
ロ 所得税法
(イ) 第28条《給与所得》
 第1項は、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう旨規定している。
(ロ) 第30条《退職所得》
 第1項は、退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与に係る所得をいう旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 雇用契約の締結及び契約期間等
 請求人は、F社との間で、契約期間を平成18年3月6日から同年5月14日までとする同年3月6日付の期間契約社員雇用契約を締結し、その後、おおむね2か月ごとに、期間契約社員雇用契約の更新をしたが、契約期間を平成21年2月9日から同年3月5日までとする同年2月3日付の契約を最後に終了した(以下、平成18年3月6日から平成21年3月5日までの期間を「本件通算契約期間」といい、本件通算契約期間の各期間契約社員雇用契約に係る各契約書を「本件各雇用契約書」という。)。
ロ 慰労金に係る定め
 本件各雇用契約書及びF社の期間契約社員就業規則によれば、F社は、契約期間を満了した者のうち、勤務成績が良好な者には慰労金を支給することがある旨定められ、また、F社が請求人を含む期間契約社員に交付した期間契約社員マニュアルによれば、契約期間を満了して退職する場合、その時点での欠勤・休日出勤を含まない勤務日数に応じ、別表2のとおり、慰労金が支給される旨定められている。
ハ 平成21年3月における支給内容等
 F社から請求人に交付された平成21年3月度給与明細書(平成21年3月勤務分)によれば、基本給38,400円、皆精勤手当3,637円、現物給与食事2,388円及び慰労金○○○○円(以下「本件慰労金」という。)の合計額から不払額1,200円を控除した支給総額○○○○円から、雇用保険料11,496円、所得税74,557円及び現物給与食事2,388円の控除額合計88,441円を控除した金額に、帰任旅費3,620円を加算した○○○○円が支給されている。
ニ 本件慰労金に係る源泉徴収の内容
 F社は、まる1F社には期間契約社員に係る退職金規定がないこと、まる2慰労金は、契約期間を満了した者に対して支給しているが、契約期間が満了し退職するすべての者に支給するものではないこと、まる3慰労金は、自己都合による一契約期間途中の退職者に対しては支給していないこと、まる4本件慰労金は、契約期間満了という功労に報いるための一時金として支給したものであることを理由として、本件慰労金に係る所得区分を給与所得とし、所得税法第186条《賞与に係る徴収税額》の規定に従い源泉徴収をした。
ホ 本件確定申告に係る申告書に添付された源泉徴収票の記載内容
 本件確定申告に係る申告書に添付された平成21年分給与所得の源泉徴収票(以下「本件源泉徴収票」という。)には、支払金額が○○○○円、源泉徴収税額が○○○○円、社会保険料等の金額が○○○○円、退職年月日が平成21年3月5日とそれぞれ記載されている。

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2 争点

(1) 争点1 本件更正処分は、本件確定申告の前にされた請求人の相談に対し原処分庁からの回答がされないまま一方的に行われたことにより、違法となるか否か。

(2) 争点2 本件慰労金に係る所得は、給与所得又は退職所得のいずれに該当するか。

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3 主張及び判断

(1) 争点1 本件更正処分は、本件確定申告の前にされた請求人の相談に対し原処分庁からの回答がされないまま一方的に行われたことにより、違法となるか否か。

イ 主張

原処分庁 請求人
 請求人の相談に応対した職員(以下「本件相談担当職員」という。)は、請求人の説明などから本件慰労金が退職所得に該当する可能性が全くないとはいえないと考えたため、請求人に対して、本件慰労金の性格をF社に確認し、本件慰労金が退職所得に該当するものであれば、F社から正しい源泉徴収票を再発行してもらうよう指導している。
 また、請求人からE税務署に対して本件慰労金の取扱いについての回答を求める電話があったか否かについては定かではないが、請求人の電話に対して、本件相談担当職員が応対しなかったとしても、申告納税制度の下では、納税者は、自己の判断と責任において、課税標準及び税額等を法令の規定に従い計算し、適正な申告をすることが求められており、納付すべき税額あるいは還付すべき税額は、納税者の行う納税申告により確定されるのが原則である。
 加えて、原処分に係る調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成22年2月4日に、請求人に対して、確定申告の期限である平成22年3月15日までに、本件源泉徴収票の記載内容に基づき本件確定申告の内容を訂正するように求め、期限までに訂正が行われない場合には更正処分を行う旨説明しており、原処分庁は、一方的に本件更正処分を行ったものではない。
 以上のことから、本件更正処分は、違法とはならない。
 請求人は、平成21年11月ころ、E税務署へ出向き、本件相談担当職員に対して本件源泉徴収票を提示し、本件慰労金は退職所得に当たるのではないかと相談したところ、本件相談担当職員は、本件源泉徴収票及び本件慰労金に関する書類をコピーするなどしたが、本件慰労金が退職所得に該当するかどうかの明確な回答をしなかった。
 また、請求人は、後日、E税務署に電話をして、前回と同様の回答を求めたが、本件相談担当職員は、電話にも出ず何ら回答をしなかった。
 そこで、請求人は、本件慰労金を退職所得として確定申告をしたものであり、原処分庁が請求人の相談に対し明確な回答をしないまま、一方的に本件更正処分を行ったことは違法である。

ロ 判断
(イ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
A 請求人の相談内容及び本件相談担当職員の説明内容
 請求人は、平成21年10月13日に、E税務署の庁舎に出向き、本件相談担当職員に対し、本件源泉徴収票、F社から交付された「退職に伴う書類送付」とする書面及び請求人が平成21年3月5日をもってF社を退職したことを証明するF社作成の「退職証明書」を提示し、本件慰労金が給与所得又は退職所得のいずれに該当するかについて相談をした。
 その際、本件相談担当職員は、請求人に対し、本件慰労金の性格をF社に確認し、本件慰労金が退職所得に該当するものであれば、F社から正しい源泉徴収票を再発行してもらうよう指導した。
B 本件調査担当職員の説明内容
 本件調査担当職員は、平成22年2月4日に、請求人に対し、確定申告の期限である同年3月15日までに本件源泉徴収票の記載内容に基づき本件確定申告の内容を訂正するよう求め、期限までに本件確定申告の内容が訂正されない場合には、更正処分が行われる旨説明した。
(ロ) 結論
 前記1の(3)のイのとおり、税務署長は、還付金の還付を受けるための申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったときは、その調査により更正することができるのであるから、本件調査担当職員が本件源泉徴収票の記載内容を調査した結果に基づき、本件更正処分が行われたとしても、何ら違法ではない。
 これに対し、請求人は、上記イの「請求人」欄のとおり、本件相談担当職員が、請求人との面接において明確な回答をせず、また、請求人の電話にも出ず何ら回答をしないまま、一方的に更正処分を行ったことは違法である旨主張するが、上記(イ)のAのとおり、本件相談担当職員は、請求人が提示した資料からは、本件慰労金の性格及び所得区分が判然としないため、F社にその性格等を確認するよう説明しており、これをもって明確な回答をしなかったとは認められず、また、請求人が主張するように、本件相談担当職員が電話にも出ず何ら回答をしなかったことを明らかにする客観的な証拠はなく、さらに、同Bのとおり、本件調査担当職員は、本件更正処分が行われる前に、請求人に対して説明をしているのであるから、請求人の上記主張はいずれもその前提を欠いており、仮に、請求人の上記主張どおりであったとしても、税務署長が更正処分を行うことができる場合の要件は上記のとおりであり、本件更正処分が当該要件を満たす以上、請求人の上記主張によって、本件更正処分が違法となることはない。
 以上によれば、本件更正処分は、そもそも違法ではなく、本件確定申告の前にされた請求人の相談に対し原処分庁からの回答がされないまま一方的に行われたものでもない。

(2) 争点2 本件慰労金に係る所得は、給与所得又は退職所得のいずれに該当するか。

イ 主張

原処分庁 請求人
 F社の期間契約社員就業規則によると、まる1F社は、期間契約社員に対する退職金を支給しないこと、まる2慰労金は、契約期間が終了し、有給休暇を除く欠勤、遅刻及び早退の日数が勤務日数のおおむね10パーセント未満の場合に限り支給され、その支給金額は、別表2のとおり契約の総期間に応じて算出されることとされている。
 また、労働基準法第24条《賃金の支払》第2項及び労働基準法施行規則第8条には、1か月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当は、臨時に支払われる賃金、賞与に準じ、その支払は賃金の支払である旨規定されているところ、本件慰労金は、契約期間の継続勤務に対して支給される勤続手当である。
 したがって、本件慰労金に係る所得は給与所得に該当する。
 請求人は、平成18年3月6日から期間契約社員としてF社に勤務していたが、契約期間満了に伴い、平成21年3月5日にF社を退職し、F社から本件慰労金の支給を受けた。本件慰労金は、退職したことに基づき支給されたものであり、その所得は、給与所得ではなく、退職後の生活の糧となる退職所得に該当する。

ロ 判断
(イ) 法令解釈
 所得税法が、退職所得について、所得税の課税上他の給与所得と異なる優遇措置を講じているのは、一般に、退職手当等の名義で退職を原因として一時に支給される金員は、その内容において、退職者が長期間特定の事業所等において勤務してきたことに対する報償及びその期間中の就労に対する対価の一部分の累積たる性質を持つとともに、その機能において、受給者の退職後の生活を保障し、その糧となるものであるため、他の一般の給与所得と同様に一律に累進税率による課税の対象とし、一時に高額の所得税を課することとしたのでは、公正を欠き、かつ社会政策的にも妥当でない結果を生ずることになることから、かかる結果を避ける趣旨に出たものと解される。従業員の退職に際し退職手当又は退職金その他種々の名称のもとに支給される金員が、所得税法にいう退職所得に当たるかどうかについては、その名称にかかわりなく、退職所得の意義について規定した同法第30条第1項の規定の文理及び退職所得に対する優遇課税についての立法趣旨に照らし、これを決するのが相当であり、ある金員が、「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に当たるというためには、それが、まる1退職、すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること、まる2従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること、まる3一時金として支払われることの各要件を備えることが必要であると解される。
(ロ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
A 本件慰労金の内訳
 本件慰労金○○○○円は、まる1本件通算契約期間における請求人の勤務日数734日に応じて支給される別表2に掲げる慰労金○○○○円(以下「本件労働慰労金」という。)、まる2請求人の有給休暇の残日数12日に日給額9,600円を乗じた手当金115,200円(以下「本件有給休暇手当金」という。)の合計額である。
B 本件労働慰労金の支給
 前記1の(4)のロのとおり、本件各雇用契約書及びF社の期間契約社員就業規則によれば、F社は、契約期間を満了した者のうち、勤務成績が良好な者には慰労金を支給することがある旨、また、F社が請求人を含む期間契約社員に交付した期間契約社員マニュアルによれば、契約期間を満了して退職する場合、その時点での欠勤・休日出勤を含まない勤務日数に応じ、別表2のとおり、慰労金が支給される旨、それぞれ定められ、具体的には、F社は、契約期間を満了して退職する期間契約社員について、当該契約期間における出勤すべき日数の90パーセント以上を出勤した場合に限り、慰労金を支給しているところ、請求人がこれを満たしたので契約期間を満了した者のうち勤務成績が良好な者に該当するとして、本件労働慰労金を支給した。
C 本件有給休暇手当金の支給
 F社では、期間契約社員の雇用形態が有期であり、期間契約社員が契約期間中に発生した有給休暇をすべて取得しないまま契約満了退職を迎えた場合には、有給休暇見合い分として手当金を支給しているところ、F社は、請求人が、有給休暇をすべて取得しないまま本件通算契約期間を満了し退職を迎えたことから、本件有給休暇手当金を支給した。
(ハ) 本件への当てはめ及び原処分庁の主張の当否
A 本件労働慰労金に係る所得の区分
 上記(イ)のとおり、ある金員が、「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に当たるというためには、それが、まる1退職、すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること、まる2従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること、まる3一時金として支払われることの各要件を備えることが必要であると解されるところ、本件労働慰労金は、上記(ロ)のBのとおり、請求人が本件通算契約期間を満了して退職するという事実によって支給され、請求人が本件通算契約期間における出勤すべき日数の90パーセント以上を出勤し、勤務成績が良好な者に該当するとして、本件通算契約期間における勤務日数に応じて支給され、前記1の(4)のハのとおり、平成21年3月度の給与として一時に支給されており、上記まる1ないしまる3の各要件をいずれも満たすものと認められることから、本件労働慰労金は退職所得に該当する。
B 本件有給休暇手当金に係る所得の区分
 本件有給休暇手当金は、上記(ロ)のCのとおり、請求人が本件通算契約期間を満了して退職するという事実によって支給されること、本件通算契約期間中における継続的な勤務から生じる有給休暇について請求人がこれを取得しなかったことを支給の根拠としていること、前記1の(4)のハのとおり、平成21年3月度の給与として一時に支給されたことからすると、上記Aのまる1ないしまる3の各要件をいずれも満たすものと認められることから、本件有給休暇手当金は退職所得に該当する。
C 原処分庁の主張の当否
 上記A及びBのとおりであるから、原処分庁の主張には理由がない。

(3) 本件更正処分の適法性

 上記(2)のロの(ハ)のとおり、本件慰労金は退職所得に該当することから、給与所得の収入金額は、前記1の(4)のホの本件源泉徴収票に記載された支給金額○○○○円から本件慰労金の額○○○○円を控除した金額○○○○円、給与所得の金額は、当該収入金額から給与所得控除額650,000円を控除した○○○○円となり、総所得金額も同額となる。
 また、退職所得の金額は、本件慰労金の額○○○○円から、退職所得控除額として400,000円に請求人のF社における勤続年数3年を乗じた1,200,000円を控除した残額の2分の1に相当する金額○○○○円となる。
 所得控除の額は別表1の「確定申告」欄の金額と同額であると認められることから、請求人の課税総所得金額及び課税退職所得金額はいずれも○○○○円となる。
 したがって、本件更正処分は、その全部が取り消されるべきである。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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