(平成23年7月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、連結納税への加入に伴う連結加入直前事業年度終了の時に有する時価評価資産の評価損益(以下「時価評価損益」という。)の算定に当たり、債務超過となっている子会社の株式の時価評価額を零円を下回る価額(以下「マイナス価額」という。)として、時価評価損益を算定し確定申告をしたところ、原処分庁が、当該時価評価額を零円と認定し時価評価損益を算定するなどして更正処分等をしたため、請求人が、当該子会社の株式の時価評価額はマイナス価額となるなどとして、当該更正処分等の一部取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成20年4月1日から平成21年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して提出期限(法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの。以下同じ。)第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの)までに提出した。
ロ 請求人は、平成22年4月9日に、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、本件事業年度の法人税について、別表の「修正申告」欄のとおり記載して修正申告をした。
ハ D税務署長は、平成22年7月30日付で、別表の「更正処分等」欄記載のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、「本件過少申告加算税賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ニ 請求人は、本件更正処分等を不服として、平成22年9月29日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 関係法令等の要旨は、別紙のとおりである。

(4) 事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、E社の○○○販売事業部門を同社から新設分割し、商号をF社として平成16年9月○日にa県d市e町○−○に設立された法人である。
ロ 請求人は、平成17年11月4日に本店所在地をa県d市e町○−○から肩書地へ移転した。
ハ 請求人は、平成21年8月20日に商号をF社からA社に変更した。
ニ 平成19年10月1日にG社がE社(請求人の発行済株式のすべてを保有している。)の発行済株式のすべてを有することとなったため、請求人はG社との間で完全支配関係が生じることとなり、請求人は、G社の平成21年4月1日から平成22年3月31日までの連結事業年度(以下「本件連結加入事業年度」という。)からG社を連結親法人とする連結納税(以下「本件連結納税」という。)に加入することとなった。
ホ 請求人は、本件連結納税への加入に当たり、本件事業年度(本件連結加入事業年度の直前事業年度)終了の時において有するH社ほか1社の各子会社の株式(いずれも上場有価証券等以外の株式である。以下「本件各株式」という。)が法人税法第61条の12《連結納税への加入に伴う資産の時価評価損益》第1項に規定する時価評価資産に該当することから、本件各株式について時価評価を行い、時価評価損益を算定した。なお、算定にあたって請求人は、本件各株式の1株当たりの純資産価額がマイナスとなっていたため、その時価評価額をマイナス価額とした。
ヘ D税務署長は、これに対し、1株当たりの純資産価額がマイナスとなっている本件各株式の「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」は零円であり、請求人の時価評価損益の算定には誤りがあるとして本件更正処分等をした。
ト なお、本件各株式は、売買実例がなく、公開途上にある株式でもない。また、本件において、売買実例のない本件各株式の発行法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人(以下「類似法人」という。)の株式の価額があるとは認められない。

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2 争点

 連結納税への加入に伴い時価評価資産の時価評価損益を算定する場合における債務超過となっている子会社の株式の時価評価額は、マイナス価額とすることができるか否か。

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3 主張

(1) 原処分庁

 連結加入直前事業年度における時価評価資産である有価証券の時価評価額は、資産の譲渡が一般的に有償又は無償で行われていることにかんがみれば、譲渡する場合における通常取引されると認められる価額として零円を下回ることはなく、また、会社法第104条《株主の責任》において、株主の責任はその有する株式の引受け価額を限度とする旨規定されていることからしても、本件各株式の発行法人が債務超過となっている場合であっても、1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額は零円である。

(2) 請求人

 連結加入直前事業年度における時価評価資産である有価証券の時価評価額の算定において、当該有価証券の発行法人が債務超過となっている場合は、以下の理由から、当該債務超過に相当する金額をマイナス評価するのが、1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額として妥当である。
イ 債務超過となっている子会社の株式を譲渡する場合、特に上場企業グループにおいては、親会社の信用や社会的な信用の低下等の観点から親会社が子会社の債務について一定の責任を有するものであり債務超過部分の負担を伴った価額で取引するのが通常であること。
ロ 債務超過となっている子会社の株式の時価評価額を零円とすると、簿価がマイナスとなっている場合に存在しない評価益を課税することになり、著しく不当な結果を招くこと。

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4 判断

(1) 法令解釈

イ 連結子法人の連結加入直前事業年度における資産の時価評価課税の趣旨
 法人税法は、所得の金額をその実現の時で認識する実現主義(権利確定主義)により計算することとしており、その例外として時価主義を採用し、一定の資産について法人税法に定める要件を満たす場合には時価評価をし、その評価損益(未実現の損益)を益金の額又は損金の額に算入することとしている。
 そして、法人税法第61条の12第1項は、連結納税への加入に伴い、連結子法人となる法人は、原則として、その連結加入直前事業年度終了の時に有する時価評価資産の時価評価損益を当該連結加入直前事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する旨規定している。
 これは、単体納税制度が単体法人を納税単位として所得金額と税額を計算するものであるのに対し、連結納税制度が連結グループを一つの納税単位として所得金額と税額を計算するものであり、連結グループ内で所得と欠損の相殺が行われるなど、両者にはその計算構造に大きな相違点があるため、連結納税に加入する法人は、連結加入直前事業年度においてその有する時価評価資産の時価評価損益を計上し清算しておくのが適当であるからである。つまり、当該法人が、その有する時価評価資産の含み損益たる時価評価損益を連結グループの中に持ち込んで連結グループの他の連結法人の所得又は欠損と相殺することで税額を減らすことができるということになれば、連結納税への加入を利用して利益調整を行う余地を与えることになり課税上弊害があるから、これを防止するため、単体法人を納税単位とする含み損益たる時価評価損益の課税関係を清算した後に連結納税制度の適用を受けさせることとしたものと解される。
ロ 上場有価証券等以外の株式の時価に関する法人税法の規定
(イ) 有価証券の取得価額
 株式は、剰余金配当請求権、残余財産分配請求権、株主総会における議決権等の権利を有する株主の会社の社員としての地位を細分化したものであり、法人税法は、その財産(経済)的価値に着目し、これを有価証券として取り扱うこととしている。
 そして、有価証券の取得価額は、当該有価証券を譲渡した場合の譲渡原価となるものであるところ、法人税法は、売買により有価証券を取得した場合(購入した場合)の取得価額について、その購入代価に購入に要した費用の額を加算した金額とする旨規定している。
 また、第三者間において有価証券の売買が行われる場合の売買価額は、通常、当該有価証券のその時の価額(以下「時価」という。)となるから、有価証券の取得価額もこの時価を反映したものとなる。
(ロ) 上場有価証券等以外の株式の時価
 法人税法では、上記イのとおり、例外的に有価証券の評価損益を益金の額又は損金の額に算入する場合があるが、取引所の相場のない株式については、取引所の相場のある株式とは異なり時価の算定が困難であることから、法人税基本通達9−1−13《上場有価証券等以外の株式の価額》において、上場有価証券等以外の株式の時価については、まる1売買実例のあるものはそのうちの適正価額とし、まる2公開途上にある株式でその株式の上場等に際して公募等が行われるものは入札により決定される入札後の公募等の価額等を参酌して通常取引されると認められる価額とし、まる3売買実例のないものでその株式の発行法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する法人の株式の価額があるものはこれに比準して推定した価額とし、まる4これらに該当しないものについては、当該事業年度終了の日又は同日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終了の時における「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」とする旨定めており、同通達の定めは、上場有価証券等以外の株式の時価を評価するに当たっては、たえず変動している当該株式の時価を把握するのは難しいことから、一般的な取引形態に応じた合理的な解決を図るものであり、当審判所においても相当と認められる。
 また、法人税基本通達12の3−2−1《連結納税の開始等に伴う時価評価資産に係る時価の意義》(3)は、連結納税の開始等に伴う有価証券の時価評価に係る時価について、上場有価証券等以外の株式の時価については同通達9−1−13を準用する旨定めているが、連結納税に加入する法人が、連結加入直前事業年度において、当該事業年度終了の時に有する有価証券を含む時価評価資産の時価評価損益を当該事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する趣旨が、上記(1)のイのとおり、連結子法人となる法人の納税単位が、連結納税への加入に伴い単体納税から連結納税へ変更されるため、単体納税制度の下で単体法人を納税単位とする含み損益たる時価評価損益の課税関係を清算した後に連結納税制度の適用を受けさせることにあることからすれば、同通達の定めは、当審判所においても相当と認められる。
(ハ) そして、株式の発行法人の事業年度終了の時における1株当たりの純資産価額等が零円を下回る場合は、1株当たりの純資産価額等を参酌した場合における当該株式の通常取引されると認められる価額は、零円と認めるのが相当であるとされている(仙台地裁昭和51年9月13日判決参照)。
 すなわち、仮に会社の1株当たりの純資産価額等が零円を下回るとしても、強行規定である会社法第104条によって当該会社の株主が追加的に出資を要求されることはなく、一方、将来的には会社の業績によっては、配当を得る可能性も残っているのであるから、当該会社の株式が通常取引されると認められる価額は零円以上になると解される。
ハ 子会社等を整理する場合の損失負担等について
 法人税基本通達9−4−1《子会社等を整理する場合の損失負担等》は、法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受けその他の損失負担又は債権放棄等(以下「損失負担等」という。)をした場合において、その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであり、やむを得ずその損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときは、その損失負担等により供与する経済的利益の額は、寄附金に該当しないものとする旨定めているが、同通達の定めは、親会社が子会社の整理又は子会社の経営権を移譲するために行う債権の放棄、債務の引受けその他の損失負担等について、当該損失負担等を行わなければ親会社自体が経営危機に陥るなど今後より大きな損失が生ずることを回避するためにやむを得ず行われたものであり、かつ、そのことが社会通念上も妥当なものとして是認されるような事情があるときは、これを寄附金として取り扱わないことを明らかにしたものであり、当審判所においても相当と認められる。

(2) 本件への当てはめ

 本件各株式は、上記1の(4)のホのとおり、上場有価証券等以外の株式であるから、本件各株式を時価評価するに当たっては、法人税基本通達9−1−13に定める方法により評価すべきものと認められるところ、上記1の(4)のトのとおり、本件各株式は、売買実例のあるもの、公開途上にあるもの、売買実例のない類似法人の株式の価額があるもののいずれにも該当しないものと認められるから、本件事業年度終了の日における「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」をもって、その時価評価額とするのが相当である。
 そして、本件各株式の純資産価額はいずれも零円を下回っているところ、本件各株式の発行法人の1株当たりの純資産価額等が零円を下回る場合の「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」については、上記(1)のロの(ハ)のとおり零円以上と認めるのが相当であるから、本件各株式の本件事業年度における時価評価額は零円以上とすべきである。

(3) 請求人の主張について

 請求人は、債務超過となっている子会社の株式を譲渡する場合、特に上場企業グループにおいては、親会社の信用や社会的な信用の低下等の観点から親会社が子会社の債務について一定の責任を有するものであり債務超過部分の負担を伴った価額で取引するのが通常である旨主張する。
 しかしながら、本件各株式について「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」を算定する場合とは第三者間で取引される価額を想定すべきであり、その場合の取扱いは上記(2)のとおりである。一方、法人税法は、親会社が子会社の債務について一定の責任を有する場合のやむを得ない事情により行われる債権の切捨てや資金の援助等(損失負担等)により供与する経済的利益の額については、法人税法上、法人税基本通達9−4−1により、寄附金の額に該当しないものとして取り扱うこととされている。
 すなわち、上場企業グループにおいて、親会社の信用や社会的な信用の低下等の観点から親会社が子会社の債務について一定の責任を有する場合があるとしても、法人税法上は、それは子会社に対する親会社の責任等に基因して生ずる損失負担の問題として処理されるべきものであり、子会社の株式の時価に反映させるべきものではないから、請求人の主張には理由がない。
 また、子会社の株式の時価評価額を零円として評価すると、簿価がマイナスとなっている場合に存在しない評価益を課税することになる旨主張するが、実際に第三者との間で零円での取引が可能と解される以上、存在しない評価益とは言えないから、請求人の主張はその前提を欠くものである。

(4) 本件更正処分について

 上記(1)及び(2)のとおり、本件各株式の本件事業年度における時価評価額は零円以上と認めるのが相当であるから、原処分庁が本件各株式の時価評価額を零円として行った本件更正処分は適法である。

(5) 本件過少申告加算税賦課決定処分について

 上記(4)のとおり、本件更正処分は適法であり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件過少申告加算税賦課決定処分は適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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