(平成24年1月31日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、産科及び婦人科等のクリニックを経営する医療法人の理事長である審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成21年中に請求人所有の建物を当該医療法人に譲渡したことについて、当該建物は以前より当該医療法人に賃貸されており、当該医療法人は当該建物を助産施設として使用していたものであるから、当該建物の譲渡は助産に係る資産の譲渡等に該当し非課税売上げであるとして、当該譲渡の対価の額を請求人の平成21年1月1日から平成21年12月31日までの課税期間の消費税の課税標準額に計上せずに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告書を提出したところ、原処分庁が、当該建物の譲渡は助産に係る資産の譲渡等には該当しないとして消費税等の更正処分等を行ったことに対し、請求人が、違法を理由にその全部の取消しを求めた事案であり、争点は、当該建物の譲渡が消費税法別表第一第8号に規定する助産に係る資産の譲渡等に該当するか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成23年3月16日)に至る経緯は、別表1のとおりである。

(3) 関係法令等

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成13年8月31日付で、E社との間で、請求人を注文者、E社を請負人として、請求人が所有するa市c町○−○の土地(以下「本件土地」という。)上に鉄筋コンクリート造陸屋根4階建、延床面積1,187.80平方メートルの建物(以下「本件建物」という。)を建築する旨の建築工事請負契約を締結し、平成14年4月30日、本件建物は完成した。
 請求人は、本件建物完成後、平成14年5月30日付で、本件建物について請求人を所有者とする所有権保存登記手続を行うとともに、同所において、個人経営の産科及び婦人科を診療科目とするクリニック(以下「本件クリニック」という。)を開業した。
 なお、請求人は、医師である。
ロ 請求人は、平成17年6月25日付で、本件土地に隣接するa市c町○−○の土地(以下「本件隣接地」という。)の売買契約を締結し、本件隣接地について、同年9月27日付で、売買を原因とする請求人への所有権移転登記が経由された。請求人は、本件隣接地を本件クリニックに係る従業員等の駐車場として使用していた。
ハ 医療法人D(以下「本件医療法人」という。)は、平成17年8月○日付で、診療所を経営し、科学的でかつ適正な医療を普及することを目的として、本件建物の所在地であるa市c町○−○を主たる事務所として設立されたものであり、同年11月1日より請求人から本件クリニックの事業を承継した。
 なお、請求人は、本件医療法人の設立当初より理事長に就任している。
 また、本件医療法人は、本件クリニックを経営するに当たり、賃貸人を請求人とし賃借人を本件医療法人とする本件土地、本件建物及び本件隣接地に係る不動産賃貸借契約を締結しているが、当該賃貸借契約の内容は、賃料を月額3,000,000円とし、平成17年11月から賃貸借を開始するというものであった。
ニ 請求人は、平成18年1月20日付で、本件土地に隣接するa市c町○−○の土地(以下、この土地と本件土地及び本件隣接地とを併せて「本件各土地」という。)の売買契約を締結し、同土地について、同日付で、売買を原因とする請求人への所有権移転登記が経由された。
ホ 請求人は、平成21年5月27日付で、売主を請求人、買主を本件医療法人とし、本件各土地を総額264,000,000円及び本件建物を213,150,000円(消費税等の金額10,150,000円を含む。)の合計477,150,000円で売却する旨の売買契約を締結し、本件各土地及び本件建物について、同年6月5日付で、売買を原因とする本件医療法人への所有権移転登記が経由された。
ヘ 原処分庁所属の調査担当職員は、平成22年9月9日から請求人に対する税務調査を開始し、調査の結果、平成21年1月1日から平成21年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税等に係る課税標準に、本件建物の譲渡の対価の額のほか、請求人が所有していた賃貸用家屋の第三者への譲渡の対価の額等がそれぞれ算入されていない事実が確認されたため、請求人に対し当該各項目を加算した修正申告のしょうようを行ったが、請求人は、平成22年10月8日付で、当初申告額に賃貸用家屋の譲渡の対価の額等のみを加算して、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した本件課税期間に係る消費税等の修正申告書を原処分庁に提出した。

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2 主張

原処分庁 請求人
 消費税法別表第一第8号の創設趣旨からすると、助産に係る資産の譲渡等とは、分娩と直接関連する資産の譲渡等、すなわち、妊娠から出産までの期間に医師等が行う一連の資産の譲渡等をいうものと解される。
 そうすると、本件建物は産婦人科医院として使用されていたものであるが、その譲渡は分娩と直接関連がないから、消費税法別表第一第8号に規定する助産に係る資産の譲渡等には該当しない。
 消費税法別表第一第8号の創設趣旨は理解しているが、助産に係る資産の譲渡等とは、当該規定上、分娩と直接関連するものに限られるとはいえず、助産に関連する全ての資産の譲渡等をいうものと解される。
 そうすると、本件建物は助産施設であるから、その譲渡は、消費税法別表第一第8号に規定する助産に係る資産の譲渡等に該当する。

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3 判断

(1) 法令等の解釈

イ 消費税法第4条第1項は、国内において事業者が行った資産の譲渡等には、この法律により消費税を課する旨規定し、さらに、同法第2条第1項第8号は、「資産の譲渡等」とは「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」をいう旨規定しているところ、消費税は、財貨及び役務が生産から流通の過程を経て消費者に提供される流れに着目して、その過程における事業者の売上げを課税の対象とすることにより、間接的に消費に負担を求める税であり、消費税の課税の対象については、上記のように包摂的な規定をおいているものと解される。
 一方で、消費税法第6条第1項は、国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第一に掲げるものには消費税を課さない旨規定し、別表第一には、土地の譲渡及び貸付け、金融商品取引法に規定する有価証券等及び利子を対価とする貸付金等の資産の貸付け等並びに社会保険医療、社会福祉事業及び教育に関する役務の提供等のうち一定のもの等がそれぞれ列挙して規定されており、このことからすれば、消費税法は、原則として国内における全ての資産の譲渡等が課税の対象となるべきところ、消費に対して負担を求める消費税としての性格から、本来的に消費として捉え課税の対象とすることにはなじまない土地の譲渡及び貸付け、支払手段等の譲渡等の取引や、社会政策的な配慮から課税することが適当でない取引を非課税取引としているものと解される。
ロ 消費税法別表第一第8号の規定は、平成3年法律第73号による消費税法の改正により、出産という生命の尊厳に対する社会政策的配慮から、異常分娩に係る資産の譲渡等だけでなく(異常分娩については、消費税法の創設当時から、健康保険法等の規定に基づく医療等として消費税法別表第一第6号イの規定に基づき非課税とされていた。)、正常分娩に係る資産の譲渡等についても非課税として取り扱うこととするため創設されたものである。
 上記のような消費税法別表第一第8号の規定の創設された趣旨に加えて、一般に助産とは正常に経過する胎児の娩出に係る状況判断等及び当該娩出に係る補助的に行う操作並びにそれらに付随する妊婦、産婦、じょく婦、胎児又は新生児(以下「妊産婦等」という。)の世話等をいうものとされていること、医師法の規定により、医師の医学的判断及び技術をもって行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為である医行為については原則として医師の独占業務とされていること、及び、保健師助産師看護師法の規定により、医師以外の者が行うことは本来許されない医行為に当然含まれる助産行為について、例外として助産師が行うことが許容されていることを併せ考慮すると、消費税法別表第一第8号にいう「助産に係る資産の譲渡等」とは、医師等の資格を有する者の医学的判断及び技術をもって行われる分娩の介助等ないしそれに付随する妊産婦等に対する必要な処置及び世話等をいうものと解される。
 そして、消費税法基本通達6−8−1は、消費税法別表第一第8号に規定する助産に係る資産の譲渡等として、まる1妊娠しているか否かの検査、まる2妊娠の判明以降の検診、入院、まる3分娩の介助、まる4出産後(2月以内)に行われる母体の回復検診及びまる5新生児の入院及び当該入院中の検診が該当する旨定めているところ、これらの役務の提供等は、いずれも、分娩時における医師等の資格を有する者の医学的判断及び技術をもって行われる分娩の介助等ないしそれに付随する妊産婦等に対する必要な処置及び世話等に該当するものであるから、当該通達の定めは、消費税法別表第一第8号にいう「助産に係る資産の譲渡等」の内容を具体的に明らかにしたものとして、当審判所においても相当と認める。

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人の本件課税期間の消費税等の確定申告書に記載された課税資産の譲渡等の対価の額は、本件医療法人に対する本件各土地及び本件建物の賃貸に基因する課税売上げのほか、全て請求人が所有する不動産の賃貸に基因する課税売上げであった。
 また、請求人の平成21年分の所得税の確定申告書には、請求人の所得は、本件各土地及び本件建物をはじめとする請求人が所有する不動産の賃貸に基因する不動産所得及び本件医療法人等への勤務に基因する給与所得である旨が、また、当該確定申告書の職業欄には、請求人の職業は、法人役員である旨がそれぞれ記載されていた。
ロ 請求人は、本件医療法人から、平成21年6月5日に本件各土地及び本件建物の売却代金477,150,000円を受領し、同月10日に本件各土地及び本件建物に係る未経過固定資産税相当額○○○○円を受領した。
 なお、本件各土地及び本件建物に係る平成21年度の固定資産税額の合計額は、○○○○円であり、そのうち、本件各土地に係る固定資産税額は○○○○円、本件建物に係る固定資産税額は○○○○円であった。

(3) 判断

イ 上記(1)のとおり、消費税の課税対象となるべき取引は、原則として国内における全ての資産の譲渡等であるが、例外として、消費に対して負担を求める消費税としての性格から本来的に消費として捉え課税の対象とすることにはなじまない取引及び社会政策的な配慮から課税することが適当でない取引をそれぞれ非課税取引としている。
 そして、医師等の資格を有する者の医学的判断及び技術をもって行われる分娩の介助等ないしそれに付随する妊産婦等に対する必要な処置及び世話等については、消費税法別表第一第8号にいう「助産に係る資産の譲渡等」として非課税取引に該当することになる。
 これを本件についてみると、上記1の(4)のイ、ハ及びホ並びに上記(2)のイのとおり、医師であるとともに、不動産の賃貸を事業として行っている請求人が、本件医療法人に賃貸し本件医療法人が産科、婦人科等の診療の用に供していた本件各土地及び本件建物を、その状態で本件医療法人に対して譲渡したものであり、本件建物の譲渡は、医師であり、かつ、事業者でもある請求人による資産の譲渡等ということができるものの、医師等の資格を有する者の医学的判断及び技術をもって行われる分娩の介助等ないしそれに付随する妊産婦等に対する必要な処置及び世話等に該当しないことは明らかであるから、「助産に係る資産の譲渡等」に該当せず、したがって、消費税法上の非課税取引に該当しない。
ロ 請求人の主張について
 請求人は、消費税法別表第一第8号の規定上、助産に係る資産の譲渡等は分娩と直接関連するものに限られるとはいえず、助産に関連する全ての資産の譲渡等をいうのであり、本件建物は助産施設であるから、その譲渡は、同号に規定する助産に係る資産の譲渡等に該当する旨主張する。
 確かに、上記1の(4)のイ及びハのとおり、本件各土地及び本件建物は、本件医療法人が産科、婦人科等の診療の用に供しているから、本件建物は助産の用に供する資産ということができる。
 しかしながら、上記(1)のロのとおり、消費税法別表第一第8号の規定が創設された趣旨等からすれば、同号に規定する「助産に係る資産の譲渡等」とは、医師等の資格を有する者の医学的判断及び技術をもって行われる分娩の介助等ないしそれに付随する妊産婦等に対する必要な処置及び世話等をいうものと解されるのであり、助産の用に供されている施設建物の譲渡が「助産に係る資産の譲渡等」に該当すると解することはできない。
 したがって、請求人の主張は採用することができない。

(4) まとめ

 上記(3)のイのとおり、本件課税期間の消費税等の納付すべき税額の計算上、本件建物に係る譲渡対価の額は、消費税の課税売上高に算入されることとなる。
 なお、上記(2)のロのとおり、請求人は、本件各土地及び本件建物の譲渡に際し、本件医療法人より本件各土地及び本件建物に係る未経過固定資産税相当額○○○○円を受領しているところ、当該未経過固定資産税相当額は、地方公共団体に対して納付すべき固定資産税そのものではなく、私人間で行う利益調整のための金銭の授受であり、不動産の譲渡対価の一部を構成するものであると認められる。そこで、当該未経過固定資産税相当額のうち、課税売上高に算入されるべき本件建物に係る部分の金額について算定すると、同金額は、当該未経過固定資産税相当額に平成21年度の本件各土地及び本件建物に係る固定資産税額の合計額○○○○円のうちに占める本件建物に係る固定資産税額○○○○円の割合を乗じて計算した金額となり、別表2の「審判所認定額」の「未経過固定資産税相当額」欄のとおり、○○○○円であると認められる。
 そうすると、請求人の本件課税期間の消費税等の納付すべき金額の計算上、課税標準額は、別表2の「審判所認定額」の「課税標準額」欄のとおりであり、また、消費税額は、同表の「審判所認定額」の「消費税額」欄のとおりである。
 そして、請求人の本件課税期間の消費税等の納付すべき税額は、別表2の「審判所認定額」の「消費税等合計額」欄のとおりとなり、同表の「更正処分の額」の「消費税等合計額」欄の額を上回ることとなるので、本件課税期間の消費税等の更正処分は適法である。

(5) その他

 過少申告加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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