(平成24年8月15日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が請求人の子会社から利益剰余金及び資本剰余金をそれぞれ原資とする剰余金の配当を受けたことについて、原処分庁が、これらの剰余金の配当は、その効力発生日が同じ日であることなどから、利益剰余金及び資本剰余金の双方が同時に減少されて配当されたものであり、当該配当に係る配当金の全額が資本の払戻しによるものであるとして、いわゆるみなし配当の額の計算、当該みなし配当の額に係る所得税額控除、所有株式の譲渡損益の計算を行うなどして法人税の更正処分等をしたのに対し、請求人が、これらの剰余金の配当は会社法上別々の決議に基づくものであり、その全額が資本の払戻しによるものには該当しないなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成20年3月1日から平成20年12月31日まで、平成21年1月1日から平成21年12月31日まで及び平成22年1月1日から平成22年12月31日までの各事業年度(以下、順次「平成20年12月期」、「平成21年12月期」及び「平成22年12月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して提出期限(法人税法(平成21年法律第13号による改正前のもの。以下同じ。)第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの)までにそれぞれ申告した。
ロ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)の調査を受け、本件各事業年度の法人税について、別表の「修正申告」欄記載のとおりの修正申告書を平成23年4月28日に提出した。
ハ H税務署長は、これに対し、調査担当職員の調査に基づき、平成23年6月29日付で、別表の「更正処分等」欄のとおり、本件各事業年度の法人税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び平成20年12月期の法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、原処分を不服として、平成23年8月26日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 法人税法第23条《受取配当等の益金不算入》第1項は、内国法人が受ける次に掲げる金額のうち、連結法人株式等及び関係法人株式等のいずれにも該当しない株式等に係る配当等の額の100分の50に相当する金額並びに関係法人株式等に係る配当等の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しない旨規定し、次に掲げる金額として、同項第1号において、剰余金の配当(株式又は出資に係るものに限るものとし、資本剰余金の額の減少に伴うもの及び分割型分割によるものを除く。)若しくは利益の配当(分割型分割によるものを除く。)又は剰余金の分配(出資に係るものに限る。)の額を掲げている。
ロ 法人税法第24条《配当等の額とみなす金額》第1項は、法人の株主等である内国法人が当該法人の次に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、同法の規定の適用については、その超える部分の金額は、同法第23条第1項第1号に掲げる金額とみなす旨規定し、次に掲げる事由として、同法第24条第1項第3号において、資本の払戻し(剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)のうち、分割型分割によるもの以外のものをいう。)又は解散による残余財産の分配を掲げている(以下、同項の規定により同法第23条第1項第1号に掲げる金額とみなされる金額を「みなし配当額」という。)。
ハ 法人税法施行令(平成22年政令第51号による改正前のもの。以下同じ。)第23条《所有株式に対応する資本金等の額又は連結個別資本金等の額の計算方法等》第1項は、法人税法第24条第1項に規定する株式又は出資に対応する部分の金額は、同項に規定する事由の次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める金額とする旨規定し、法人税法施行令第23条第1項第3号において、法人税法第24条第1項第3号に掲げる資本の払戻しの場合には、当該資本の払戻しを行った法人(以下「払戻法人」という。)の当該払戻しの直前の払戻等対応資本金額等を当該払戻法人の当該払戻しに係る株式の総数で除し、これに同項に規定する内国法人が当該直前に有していた当該払戻法人の当該払戻しに係る株式の数を乗じて計算した金額とする旨規定している(以下、当該内国法人が当該直前に有していた当該払戻法人の当該払戻しに係る株式の数を、当該払戻法人の当該払戻しに係る株式の総数で除した割合を「払戻株式数割合」という。)。
 また、上記の払戻等対応資本金額等とは、当該直前の資本金等の額に次の(イ)に掲げる金額のうちに(ロ)に掲げる金額の占める割合(以下「減少剰余金等割合」という。)を乗じて計算した金額をいい、減少剰余金等割合は、当該直前の資本金等の額が零以下である場合には零と、当該直前の資本金等の額が零を超え、かつ、次の(イ)に掲げる金額が零以下である場合には1とし、減少剰余金等割合に小数点以下3位未満の端数があるときはこれを切り上げる旨規定し、さらに、次の(イ)の前期期末時とは、当該払戻法人の当該資本の払戻しの日の属する事業年度の前事業年度(当該資本の払戻しの日以前6月以内に法人税法第72条《仮決算をした場合の中間申告書の記載事項等》第1項に規定する期間について所定の事項を記載した中間申告書を提出し、かつ、当該提出の日から当該資本の払戻しの日までの間に確定申告書を提出していなかった場合には、当該中間申告書に係る期間とする。)の終了の時をいう旨規定している。
(イ) 当該払戻法人の前期期末時の資産の帳簿価額から負債の帳簿価額を減算した金額(当該前期期末時から当該資本の払戻しの直前の時までの間に資本金等の額等が増加し又は減少した場合には、その増加した金額を加算し又はその減少した金額を減算した金額。以下「簿価純資産価額」という。)(法人税法施行令第23条第1項第3号イ)
(ロ) 当該資本の払戻しにより減少した資本剰余金の額(当該減少した資本剰余金の額が上記(イ)に掲げる金額を超える場合には、(イ)に掲げる金額)(法人税法施行令第23条第1項第3号ロ)
ニ 法人税法施行令第23条第4項は、法人税法第24条第1項に規定する法人は、同項各号に掲げる事由により同項に規定する株主等である法人に金銭その他の資産の交付が行われる場合には、当該法人に対し、当該金銭その他の資産の交付の基因となった同項各号に掲げる事由及びその事由の生じた日(第1号)及び当該各号の事由に係るみなし配当額に相当する金額の1株当たりの金額(第2号)を通知しなければならない旨規定している。
ホ 法人税法第68条《所得税額の控除》第1項は、内国法人が各事業年度において所得税法(平成21年法律第13号による改正前のもの。以下同じ。)第174条《内国法人に係る所得税の課税標準》各号に規定する利子等、配当等、給付補てん金、利息、利益、差益、利益の分配又は賞金の支払を受ける場合には、これらにつき同法の規定により課される所得税の額は、政令で定めるところにより、当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除する旨規定している。
ヘ 法人税法施行令第140条の2《法人税額から控除する所得税額の計算》第1項は、法人税法第68条第1項の規定により法人税の額から控除する所得税の額は、次の(イ)及び(ロ)に掲げる区分に応じ(イ)及び(ロ)に定める金額とする旨規定している。
(イ) 公債若しくは社債の利子、法人から受ける剰余金の配当(資本剰余金の減少に伴うもの及び分割型分割によるものを除く。)若しくは利益の配当(分割型分割によるものを除く。)若しくは剰余金の分配(みなし配当を除く。)若しくは資産の流動化に関する法律第115条《中間配当》第1項に規定する金銭の分配又は集団投資信託の収益の分配に対する所得税については、その元本を所有していた期間に対応するものとして計算される所得税の額(第1号)
(ロ) 上記(イ)に掲げるもの以外の所得税については、その全額(第2号)
ト 所得税法第25条《配当等とみなす金額》第1項は、法人の株主等が当該法人の次に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の法人税法第2条《定義》第16号に規定する資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、所得税法の規定の適用については、その超える部分の金額に係る金銭その他の資産は、同法第24条《配当所得》第1項に規定する剰余金の配当、利益の配当又は剰余金の分配とみなす旨規定し、次に掲げる事由として、同法第25条第1項第3号において、当該法人の資本の払戻し(株式に係る剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)のうち、分割型分割によるもの以外のものをいう。)又は当該法人の解散による残余財産の分配を掲げている。
 そして、所得税法施行令(平成22年政令第50号による改正前のもの)第61条《所有株式に対応する資本金等の額又は連結個別資本金等の額の計算方法等》第2項は、所得税法第25条第1項に規定する株式又は出資に対応する部分の金額は、同項に規定する事由の次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める金額とする旨規定し、所得税法施行令第61条第2項第3号において、法人税法施行令第23条第1項第3号(上記ハの同号に関する部分)と同様の内容を規定している。
チ 所得税法第174条は、内国法人に対して課する所得税の課税標準は、その内国法人が国内において支払を受けるべき次に掲げるものの額とする旨規定し、次に掲げるものの額として、同条第2号において、同法第24条第1項に規定する配当等を掲げている。
リ 所得税法第175条《内国法人に係る所得税の税率》は、内国法人に対して課する所得税の額は、次の各号の区分に応じ当該各号に掲げる金額とする旨規定し、当該各号に掲げる金額として、同条第2号において、同法第174条第2号に掲げる配当等又は同条第9号に掲げる利益の分配については、その金額に100分の20の税率を乗じて計算した金額とする旨規定している。
ヌ 所得税法第225条《支払調書及び支払通知書》第1項は、次の各号に掲げる者は、所定の事項等を記載した当該各号に規定する支払に関する調書を、その支払の確定した日の属する年の翌年1月31日まで(同項第2号に規定する支払に関する調書については、その支払の確定した日から1月以内)に、税務署長に提出しなければならない旨規定し、次の各号に掲げる者として、同項第2号において、居住者又は内国法人に対し国内において同法第24条第1項に規定する配当等の支払をする者を掲げている。
ル 国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項は、同条第1項又は第2項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、これらの項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、これらの項の規定を適用する旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成18年4月27日に、○○経営等の事業を営む会社の株式又は持分の保有による当該会社の事業活動の支配及び管理、不動産の売買業務等を事業目的として設立された法人である。
ロ J社は、事業年度を毎年1月1日から12月31日までとして○○の経営、○○経営の受託等を事業目的する法人であり、普通株式のほか種類株式として議決権のあるA種株式及び議決権のないB種株式を発行していた。
ハ J社は、平成20年8月28日に、平成20年1月1日から平成20年6月30日までの期間を一事業年度とみなした中間申告書をH税務署長に提出しており、当該中間申告書によれば、J社の当該期間の末日における法人税法に規定する資本金等の額は○○○○円、利益積立金額はマイナス○○○○円であった。また、平成20年6月末日において、J社の株主は請求人を含む2社であり、J社の発行済株式数は22,750株(内訳は普通株式596株、A種株式20,000株及びB種株式2,154株である。)であるところ、請求人が当該発行済株式のうち22,730株(所有割合は約99.9%。内訳は普通株式576株、A種株式20,000株及びB種株式2,154株である。)を所有していた。
ニ 請求人は、平成20年9月5日付で、J社から「J社配当金のお支払いおよび出資金の一部払戻しに関するお知らせ」と題する書面(以下「本件9月5日付説明資料」という。)を交付された。
 本件9月5日付説明資料の内容は、要旨次のとおりであった。
(イ) 経緯
 J社は、平成3年3月○日に○○の経営、○○経営の受託等を行う会社として設立され、昨年(平成19年)、事業再編を実施し、○○経営の受託に特化した会社として再スタートした。
 事業再編の一環として昨年実施した保有不動産の分離・売却により固定資産売却益を計上した結果、平成19年12月31日期決算において、株主に配当する利益剰余金が発生した。
 ついては、平成20年9月17日に取締役会を開催し、配当に関する決議をした上で、同年11月1日に配当金の支払をすることを予定している。
 また、上記の取締役会において、平成20年10月1日に臨時株主総会を開催し、資本金及び資本準備金を同年11月1日に出資金の返還として支払うことを決議する予定である。
(ロ) 配当金の支払(予定額)
 J社は、利益剰余金○○○○円を次のとおり配当する予定である。
A 普通株式配当:一株当たり配当○○○○円○○銭
B A種株式配当:一株当たり配当○○○○円○○銭
C B種株式配当:なし(J社の定款の規定により、平成36年12月期まで剰余金の配当を受ける権利はない。)
(ハ) 出資金の一部払戻し(予定額)
 J社は、平成20年10月1日に臨時株主総会を開催し、資本準備金○○○○円を次のとおり返還(資本金の一部である○○○○円及び資本準備金の一部である○○○○円をその他資本剰余金に振り替えて、振替後のその他資本剰余金○○○○円を出資金の返還として支払う。)する予定である。
A 普通株式:一株当たり出資金返還額○○○○円○○銭
B A種株式:一株当たり出資金返還額○○○○円○○銭
C B種株式:一株当たり出資金返還額○○○○円○○銭
D 出資金の返還には源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)はかからない。
ホ J社は、平成20年9月17日に開催した取締役会において、次の(イ)ないし(ホ)の各議案につき可決する旨の決議をした。
(イ) 第1号議案(臨時株主総会招集の件)
 まる1資本金の額を○○○○円減少して100,000,000円とし、まる2資本準備金の額を○○○○円減少して100,000,000円とし、まる3資本金の額及び資本準備金の額の減少の効力発生日を平成20年10月31日とする旨の審議を目的とした臨時株主総会を同月1日に開催する。
(ロ) 第2号議案(剰余金の配当の件)
 利益剰余金を配当原資として金銭により総額○○○○円(A種株式への割当総額○○○○円(1株当たり約○○○○円○○銭)及び普通株式への割当総額○○○○円(1株当たり約○○○○円○○銭)の合計金額である。)を配当し、その効力発生日を平成20年11月1日とする(以下、当該第2号議案に基づく利益剰余金を配当原資とする剰余金の配当を「本件2号議案配当」という。)。
(ハ) 第3号議案(基準日設定の件)
 第2号議案において承認された剰余金の配当の基準日を平成20年10月14日とし、同日最終の株主名簿上の株主又は登録株式質権者をもって、剰余金の配当を受ける権利者と定める。
(ニ) 第4号議案(剰余金の配当の件)
 第1号議案における決議に基づき平成20年10月1日に開催される臨時株主総会において資本金の額の減少及び資本準備金の額の減少が承認され、同月31日において資本金の額及び資本準備金の額の減少の効力が発生することを条件として、資本剰余金を配当原資として金銭により総額○○○○円(A種株式への割当総額○○○○円(1株当たり約○○○○円○○銭)、B種株式への割当総額○○○○円(1株当たり約○○○○円○○銭)及び普通株式への割当総額○○○○円(1株当たり約○○○○円○○銭)の合計額)を配当し、その効力発生日を同年11月1日とする。
(ホ) 第5号議案(基準日設定の件)
 第4号議案において承認された剰余金の配当の基準日を平成20年10月15日とし、同日最終の株主名簿上の株主又は登録株式質権者をもって、剰余金の配当を受ける権利者と定める。
ヘ J社は、平成20年9月17日に開催した取締役会において決議した第4号議案について、平成20年10月1日に開催した臨時株主総会において、次の(イ)及び(ロ)の各議案として可決する旨の決議をした(以下、当該臨時株主総会において決議された当該取締役会の決議における第4号議案の資本剰余金を配当原資とする剰余金の配当を「本件4号議案配当」といい、本件2号議案配当と併せて「本件配当」という。)。
(イ) 第1号議案(資本金の額の減少の件)
 資本金の額を○○○○円減少して100,000,000円とし、その減少の効力発生日を平成20年10月31日とする。
(ロ) 第2号議案(資本準備金の額の減少の件)
 資本準備金の額を○○○○円減少して100,000,000円とし、その減少の効力発生日を平成20年10月31日とする。
ト J社は、平成20年10月31日付で、本件2号議案配当の原資となる前期繰越利益金○○○○円及び本件4号議案配当の原資となるその他資本剰余金○○○○円を、それぞれ減少させて未払金とする会計処理をした。
チ J社は、本件配当に係る配当の効力発生日である平成20年11月1日に、本件2号議案配当のうち請求人に係る部分の金額○○○○円及び本件4号議案配当のうち請求人に係る部分の金額○○○○円の合計金額○○○○円について、現金による支払をせず、上記トにおいて未払金として経理処理した金額のうち請求人に係る部分の未払金とJ社の請求人に対する貸付金債権の額○○○○円及び後記ヌの源泉所得税の額○○○○円の合計金額○○○○円と相殺する会計処理をした。
リ 請求人は、J社から、「平成20年分配当、剰余金の分配及び基金利息の支払調書」(以下「本件支払調書」という。)を交付された。
 本件支払調書には、「株式の数又は出資若しくは基金の口数」の「種類」欄に利益剰余金と、「区分」欄にA種株20,000株及び普通株576株と、「配当等の金額」欄に○○○○円と、「源泉徴収税額」欄に○○○○円と、「基準日」欄に平成20年10月14日と、「支払確定又は支払年月日」欄に平成20年11月1日と記載されていた。
ヌ 請求人は、平成20年11月1日付で、本件支払調書に基づき、本件2号議案配当のうち請求人が受ける配当金○○○○円を受取配当金として収益に計上する一方で、当該配当金に係る源泉所得税の額○○○○円を仮払税金とし、当該配当金の額から当該源泉所得税の額を控除した残額○○○○円を請求人がJ社に対して負う借入金債務の一部とを相殺する会計処理をした。
ル J社は、平成20年11月4日付で、株主に対して「J社資本の払戻しに関するご説明」と題する書面(以下「本件11月4日付説明資料」という。)を交付した。
 本件11月4日付説明資料の内容は、要旨次のとおりであった。
(イ) 今回の資本の払戻しに関する税務上の取扱い
 平成20年10月1日開催の臨時株主総会において、資本金及び資本剰余金を資本の払戻しとして支払うことを決議し、同年11月4日に支払をしている。
 今回の資本の払戻しに関する税務上の取扱いについては、みなし譲渡損益が発生するが、みなし配当額は発生しない。
(ロ) 通知事項
 法人税法施行令第119条の9《資本の払戻し等の場合の株式の譲渡原価の額等》第2項に規定する純資産減少割合(この用語は、減少剰余金等割合と同じ意味で用いられている。)は0.986、減少した資本金及び資本剰余金の額の総額は○○○○円である。
(ハ) 参考情報
A みなし譲渡損益の額は、次の算式による。
 みなし譲渡損益=まる1収入金額とみなされる金額−まる2調整した取得価額
 まる1収入金額とみなされる金額=払戻し等により取得した金銭等の額−みなし配当額(今回は該当なし)
 まる2調整した取得価額=従前の取得価額×純資産減少割合
B みなし譲渡損益を認識したことによる取得価額の調整が必要になり、今後は、次の算式で計算する。
 新しい取得価額=現在の帳簿価額−みなし譲渡損益で使用した取得価額
ヲ 請求人は、平成20年11月4日付で、本件4号議案配当のうち請求人が受ける配当金○○○○円を、請求人がJ社に対して負う借入金債務の一部と相殺するともに、請求人が所有するJ社株式の帳簿価額を減額する会計処理をした。
 なお、請求人がJ社株式の帳簿価額を減額する前の当該帳簿価額は、普通株式が○○○○円、A種株式が○○○○円及びB種株式が○○○○円の合計金額○○○○円であった。
ワ 請求人は、平成20年12月期の法人税について、本件2号議案配当のうち請求人が受ける配当金○○○○円に関し関係法人株式等に係る受取配当等の益金不算入額として算出された金額○○○○円及び本件4号議案配当のうち請求人が受ける配当金○○○○円に関し資本の払戻しに係る有価証券のみなし譲渡損として算出された金額○○○○円を所得金額から減算し、上記ヌの本件2号議案配当のうち請求人が受ける配当金に係る源泉所得税の額○○○○円を配当等に課された所得税の額として所得金額等から算出される法人税の額から控除する旨の確定申告をした。
カ その後、請求人は、調査担当職員の調査を受け、本件各事業年度の法人税について、本件配当に関する計算を次の内容とする旨の修正申告をした。
(イ) 平成20年12月期について
 J社の法人税法施行令第23条第1項第3号イに規定する金額を○○○○円に、減少剰余金等割合を0.701に修正して払戻等対応資本金額等を算出すると○○○○円(○○○○円(上記ハの資本金等の額)×0.701)となり、本件4号議案配当(○○○○円)が当該払戻等対応資本金額等を超えないことからみなし配当額は生じず、他方、減少剰余金等割合の修正によって、譲渡原価の額が○○○○円(○○○○円(上記ヲのJ社株式の帳簿価額)×0.701)となり、確定申告における譲渡原価の額○○○○円との差額○○○○円の譲渡原価の過大が生じたことから、同額を、所得金額に加算するとともに、翌期へ繰り越すべき欠損金の額から減額する。
(ロ) 平成21年12月期及び平成22年12月期について
 上記(イ)の翌期へ繰り越すべき欠損金の減額に伴い、平成21年12月期及び平成22年12月期の翌期へ繰り越すべき欠損金の額をそれぞれ○○○○円減額する。
ヨ これに対して、原処分庁は、要旨次のとおりとする本件各更正処分をした。
(イ) 平成20年12月期について
 本件2号議案配当及び本件4号議案配当は、いずれもJ社の同一の取締役会において、剰余金の配当を行うこと及びその効力発生日をいずれも平成20年11月1日とすることが決議されており、かつ、資本剰余金の減少に伴うものであるから、本件配当の全額が法人税法第24条第1項第3号に規定する資本の払戻しによるものであるとし、本件配当のうち請求人が受ける配当金の合計金額○○○○円は請求人が所有するJ社株式に対応する資本金等の額○○○○円を超えることとなり、当該超えることとなる金額○○○○円はみなし配当額となり、当該みなし配当額に係る受取配当等の益金不算入額は○○○○円となって、請求人が確定申告において益金不算入額とした○○○○円との差額○○○○円が受取配当等の益金不算入額の過大額となるから、当該差額を、所得金額に加算するとともに、翌期へ繰り越すべき欠損金の額から減額する。
 また、法人税法第68条第1項の規定が適用される法人税の額から控除する配当等の額に係る所得税額は、上記のとおり、みなし配当額が○○○○円であることから、当該みなし配当額に100分の20を乗じた○○○○円となるので、上記ワの請求人が確定申告に当たって、法人税の額から控除した源泉所得税の額○○○○円との差額○○○○円は、同項の適用を受ける所得税の額とは認められないとして減額する。
(ロ) 平成21年12月期及び平成22年12月期について
 上記(イ)の翌期へ繰り越すべき欠損金の減額に伴い、平成21年12月期及び平成22年12月期の翌期へ繰り越すべき欠損金の額をそれぞれ○○○○円減額する。
タ 「改正税法のすべて(平成18年度版)」(執筆者財務省主税局総務課課長補佐青木孝徳ほか)の256ページから257ページまでにかけて、資本の払戻しをする法人における資本の払戻しにより減少する資本金等の額及び利益積立金額について、「資本剰余金と利益剰余金の双方を同時に減少して剰余金の配当を行った場合には、全体が資本の払戻しとなるものの、上記算式の分数の分子が『交付した金銭の額及び金銭以外の資産の価額』ではなく、『減少した資本剰余金の額』とされているため、資本剰余金の減少額の範囲内でまず資本金等の額が減少し、交付した金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額のうちその減少資本金等の額を超える部分の金額が利益積立金額の減少額(株主にとってはみなし配当額)となります。つまり、資本剰余金原資部分は資本金等の額と利益積立金との比例的減少と、利益剰余金部分は利益積立金額の減少となるということです。」と解説されている(以下、この解説を「平成18年改正税法解説」という。)。

(5) 争点

イ 争点1 本件配当は、その全額が資本の払戻しによるものに該当するか否か。
ロ 争点2 本件配当の全額が資本の払戻しによるものに該当する場合に、平成20年12月期のみなし配当額の計算は適正であるか否か。
ハ 争点3 本件配当の全額が資本の払戻しによるものに該当する場合に、法人税法第68条第1項の規定により、平成20年12月期において法人税の額から控除する「課される所得税の額」は、再計算後のみなし配当額に対して課される所得税の額とすべきか否か。
ニ 争点4 平成20年12月期の申告が過少申告となったことについて国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由が認められるか否か。

トップに戻る

2 主張

(1) 争点1(本件配当は、その全額が資本の払戻しによるものに該当するか否か。)について

イ 原処分庁
(イ) 法人税法第24条第1項第3号は、「資本の払戻し(剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)のうち」と規定しているから、剰余金の配当の原資に資本剰余金が含まれる場合には、当該剰余金の配当に係る全額が同号に規定する「資本の払戻し」によるものに該当することになる。そして、J社は、平成20年9月17日に開催した取締役会において、同年11月1日を効力発生日とする、本件2号議案配当と本件4号議案配当を行うことを決議しており、同日(同年11月1日)に利益剰余金及び資本剰余金の双方を同時に減少させたものと認められるので、法人税法上の所得金額の計算における本件配当は、資本剰余金の額の減少に伴う剰余金の配当の額に該当し、その全額が法人税法第24条第1項第3号の資本の払戻しによるものに該当する。
(ロ) 法人税法施行令第23条第1項第3号に規定する払戻株式数割合を算出する際の分数の分母の「払戻し等に係る株式の総数」の「払戻し等」は、法人税法第24条第1項第3号に規定する資本の払戻しを意味するものであり、同号に該当する資本の払戻しに係る全ての株式の総数が分母の数字となるものと解される。そして、本件配当は、上記(イ)のとおり、資本の払戻しによるものに該当するから、J社から本件配当の支払を受けた請求人等の株主の所有株式数の全てが法人税法施行令第23条第1項第3号に規定する当該分母の「払戻し等に係る株式の総数」になる。
ロ 請求人
(イ) J社は、普通株式、A種株式及びB種株式を発行しているが、このうち、B種株式については、J社の定款規定により平成36年12月期までの間は利益剰余金からの配当は行わないこととされている。そのため、J社は、平成20年9月17日に開催した取締役会において、本件2号議案配当については、同年10月14日を基準日とする普通株式及びA種株式に割り当てること、本件4号議案配当については、同月15日を基準日とする普通株式、A種株式及びB種株式に割り当てることを別々の議案として決議しており、本件2号議案配当と本件4号議案配当は、会社法上、それぞれ別々の法律行為として成立している。
 したがって、本件2号議案配当と本件4号議案配当は、配当の効力発生日が同じ日であったとしても、それぞれの法律行為に法令を適用することとなるので、本件2号議案配当は、法人税法第23条第1項第1号に規定する剰余金の配当に、本件4号議案配当は、同法第24条第1項第3号に規定する資本の払戻しに該当するから、本件配当は、その全額が資本の払戻しによるものには該当しない。
(ロ) また、本件配当の全額を資本の払戻しによるものとして取り扱うと、法人税法施行令第23条第1項第3号に規定する払戻株式数割合を算出する際の分数の分母の「払戻し等に係る株式の総数」に、利益剰余金を原資とする剰余金の配当の対象となった種類株式数が含まれるため、種類株式ごとの対応が図れないこととなるから、この点からも本件配当は、その全額が資本の払戻しによるものには該当しない。

(2) 争点2(本件配当の全額が資本の払戻しによるものに該当する場合に、平成20年12月期のみなし配当額の計算は適正であるか否か。)について

イ 原処分庁
 平成18年改正税法解説における「資本剰余金の減少額の範囲内でまず資本金等の額が減少」するとの記載は、資本の払戻しにより減少する資本金等の額及び利益積立金額について、簿価純資産価額が税務上の資本金等の額を上回っている一般的な場合に当てはめて解説したものと解される。そして、払戻等対応資本金額等は、税務上の資本金等の額及び簿価純資産価額を前提に計算することとされているところ、本件のように利益積立金額がマイナスで、払戻し直前の資本金等の額が税務上の簿価純資産価額を超えるような場合に法令の規定に従って計算すると資本剰余金の減少額を超えることとなる。
 このように、原処分庁は、法令の規定に従って、J社の中間申告書に記載された金額を基に払戻等対応資本金額等及び払戻株式数割合を算出し、当該算出された数値によりみなし配当額を算出しているのであるから、みなし配当額の計算は適正である。
ロ 請求人
 仮に、本件配当の全額が資本の払戻しによるものに該当するとしても、平成18年改正税法解説によれば、払戻法人における減少する資本金等の額の算式の分数の分子が「減少した資本剰余金の額」とされているから、本件配当については、資本剰余金の減少額の範囲内でまず資本金等の額を減少し、その余の配当金額、すなわち資本剰余金の減少額のうち、資本金等の額の減少額を超える部分及び利益剰余金を原資として支払われた金額をみなし配当額として取り扱うこととなるが、原処分は、J社が行った資本の払戻しにより減少した資本剰余金の額を超えて資本金等の額を減額するものであり、これは平成18年改正税法解説の内容に明らかに反するものであるから、原処分庁が行ったみなし配当額の計算は適正ではない。

(3) 争点3(本件配当の全額が資本の払戻しによるものに該当する場合に、法人税法第68条第1項の規定により、平成20年12月期において法人税の額から控除する「課される所得税の額」は、再計算後のみなし配当額に対して課される所得税の額とすべきか否か。)について

イ 原処分庁
 法人税法第68条第1項の規定は、法人が所得税の額を各事業年度の所得に対する法人税の額から控除するに当たり、支払者において源泉徴収の内容を詳細に確認できたかどうかを要件としているものではない。
 また、法人税法第68条第1項の規定は、所得税法第174条各号に規定する利子及び配当等につき同法の規定により課される所得税の額を各事業年度の所得に対する法人税の額から控除する旨規定しているところ、最高裁平成4年2月18日第三小法廷判決は、所得税法第120条《確定所得申告》第1項第5号にいう「源泉徴収された又はされるべき所得税の額」とは、正当に徴収された又はされるべき所得税の額を意味するものとしている。そして、法人税法第68条第1項及び所得税法第120条第1項第5号のいずれの規定も同法第174条各号に掲げる利子及び配当等に係る所得税の額を対象としていることからすれば、法人税法第68条第1項の規定により控除される所得税の額も、正当に徴収された又はされるべき所得税の額を意味するものと解するのが相当である。
 本件配当は、上記(1)のイの(イ)のとおり、その全額が法人税法第24条第1項第3号に規定する資本の払戻しによるものに該当することから、本件配当のうち請求人が受ける部分の金額の全額を基に算出されたみなし配当額に課される源泉所得税の額が正当に徴収された又はされるべき所得税の額となる。
ロ 請求人
(イ) 法人税法第68条第1項及び法人税法施行令第140条の2第1項の規定には、そもそも「同法の規定により課される所得税の額」の計算の妥当性についてまでの確認を義務付ける規定は存在しないから、所得税法第174条各号に規定する利子及び配当等の支払を受ける場合には、その支払を受けた金額及び源泉所得税の額の通知を受けることにより、「同法の規定により課される所得税の額」を確認することが予定されているものと想定される。
(ロ) また、請求人は、平成20年12月期の確定申告書の提出時点において、原処分庁が主張する正当に徴収されるべき所得税の額の基礎となるみなし配当額を算出するために必要な減少剰余金等割合を当然に把握すべき立場になく、さらに、本件は、原処分庁が引用する最高裁平成4年2月18日判決の状況とは異なるものであり、請求人が知り得るべき情報のみをもってしては、正当に徴収されるべき所得税の額を算定することは困難であることは明らかである。
(ハ) 以上のとおり、本件においては固有の事情があり、これらの事情を考慮すれば、法人税法第68条第1項に規定する「課される所得税の額」は、本件支払調書に記載された源泉所得税の額と異なるものとすべきではなく、本件支払調書に記載された源泉所得税の額とすべきである。

(4) 争点4(平成20年12月期の申告が過少申告となったことについて国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由が認められるか否か。)について

イ 請求人
 上記(3)のロの(イ)及び(ロ)の本件固有の事情並びに平成20年12月期の確定申告書の提出時点において、J社がした利益剰余金及び資本剰余金をそれぞれ原資とする剰余金の配当に関して請求人がした会計処理と整合的な著書が存在しており、当該会計処理が一般的なものであったと解されるといった事情があることを考慮すると、請求人が平成20年12月期の確定申告書の提出時点において算定可能であった正当に徴収されるべき所得税の額として、本件支払調書に記載された所得税の額に基づき法人税法第68条第1項の規定を適用したことは、納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があるから、平成20年12月期の申告が過少申告となったことについては、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある。
ロ 原処分庁
 国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当であるところ、法人税法第68条第1項には、利子又は配当等について課される所得税の額を各事業年度の所得に対する法人税の額から控除する旨規定されているが、支払者から受領する支払調書に記載された所得税の額を控除する旨は規定されていない。
 そして、法人税の額から控除する所得税の額は、上記(3)のイのとおり、正当に徴収された又はされるべき所得税の額を意味するものであり、しかも、請求人は、J社から支払を受ける剰余金の配当が利益剰余金及び資本剰余金をそれぞれ原資としたものである事実を本件9月5日付説明資料によって把握していたこと及び請求人はJ社の発行済株式数の約99.9%を所有し、正当に徴収された又はされるべき所得税の額を計算することができる立場にあるから、本件が請求人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に当たるとはいえない。
 したがって、平成20年12月期の申告が過少申告となったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。

トップに戻る

3 判断

(1) 争点1(本件配当は、その全額が資本の払戻しによるものに該当するか否か。)について

イ 法令解釈
 法人税法は、株主等の持株関係に変動がない場合における株主に対する会社財産の払戻しについて、平成17年に制定された会社法において、株主に対する金銭等の分配(従来の利益の配当、中間配当、資本及び準備金の減少に伴う払戻し)が全て剰余金の配当に統一され、また、株式会社は、株主総会の決議によりいつでも剰余金の配当の決定をすることができる等とされたことを受けて、従来は会社財産の払戻しの手続の違いに応じて、利益部分のみの払戻しか資本部分と利益部分とが比例的に払い戻される払戻しかを区分していたものを、平成18年に、払戻しの手続ではなく払戻し原資に着目し、払戻し原資が利益剰余金のみである場合には利益部分の払戻し(株主側において法人税法第23条に規定する剰余金の配当とされるもの)とし、払戻し原資に資本剰余金が含まれている場合には資本部分及び利益部分の払戻し(株主側において資本部分及び利益部分の払戻しの両方が同法第24条の剰余金の配当とされるもの)とする区分に改正した。
 そして、改正後の剰余金の配当について、法人税法第23条第1項第1号は「剰余金の配当(〔中略〕資本剰余金の額の減少に伴うもの〔中略〕を除く。)」と規定し、同法第24条第1項第3号は「資本の払戻し(剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)のうち、〔中略〕)」と規定しているところ、剰余金の配当の原資に資本剰余金の額が含まれている場合には、当該剰余金の配当は、「資本剰余金の額の減少に伴うもの」として同号に規定する資本の払戻しに該当するものと解され、資本剰余金と利益剰余金の双方を同時に減少させて剰余金の配当を行った場合もまた、当該剰余金の配当に係る全額が同号に規定する資本の払戻しによるものに該当すると解するのが相当である。
ロ 当てはめ
 これを本件についてみると、上記1の(4)のホの(ロ)及び(ニ)のとおり、本件2号議案配当と本件4号議案配当の効力発生日はいずれも平成20年11月1日とされており、同トのとおり、実際にJ社は、同年10月31日付で、本件4号議案配当の原資となるその他資本剰余金○○○○円と本件2号議案配当の原資となる前期繰越利益金○○○○円を減少させて未払金とする会計処理を行い、同チのとおり、翌日の同年11月1日に当該未払金を減額していることからすれば、J社は、同日に資本剰余金と利益剰余金の双方を同時に減少して剰余金の配当を行ったということができ、当該剰余金の配当の原資には資本剰余金の額が含まれていることとなるから、この場合、本件配当は、その全額が法人税法第24条第1項第3号に規定する資本の払戻しによるものに該当すると認めるのが相当である。
ハ 請求人の主張について
(イ) 請求人は、本件配当は、会社法上、それぞれ別々の法律行為として成立していることから、本件2号議案配当は、法人税法第23条第1項第1号に規定する剰余金の配当に該当し、本件4号議案配当は、同法第24条第1項第3号に規定する資本の払戻しによるものに該当する旨主張する。
 しかしながら、上記ロのとおり、本件配当は、法人税法上、資本剰余金と利益剰余金の双方を同時に減少させて剰余金の配当を行った場合に当たり、その全額が資本の払戻しによるものに該当すると認めるのが相当であるから、請求人の主張は採用できない。
(ロ) また、請求人は、本件配当の全額を資本の払戻しによるものとして取り扱うと、法人税法施行令第23条第1項第3号の払戻株式数割合を算出する際の分数の分母の株式の総数に、利益剰余金を原資とする種類株式の数が含まれ種類株式ごとの対応が図れないことになり、この点からも本件配当は、その全額が資本の払戻しによるものには該当しない旨主張する。
 しかしながら、払戻株式数割合を算出する場合における分数の分母は、法人税法施行令第23条第1項第3号が「当該払戻法人の当該払戻し等に係る株式の総数」と規定しているところ、上記ロのとおり、本件配当はその全額が資本の払戻しによるものであり、資本の払戻しを受ける株主は、A種株式、B種株式及び普通株式の各株主である以上、当該分母となる「払戻し等に係る株式の総数」が当該各株主の所有するJ社株式の総数となることは法令上明らかである。
 したがって、B種株式について利益剰余金を原資とする剰余金の配当を受ける権利がないことをもって、種類株式ごとの対応が図れないから全額を資本の払戻しによるものとみることができないとする請求人の主張は採用できない。

(2) 争点2(本件配当の全額が資本の払戻しによるものに該当する場合に、平成20年12月期のみなし配当額の計算は適正であるか否か。)について

イ 平成20年12月期のみなし配当額について
 法人税法第24条第1項は、資本の払戻しがあった場合に、法人の株主等である内国法人が資本の払戻しをする法人から交付を受けた金銭等の額が所有株式に対応する資本金等の額を超える部分の金額をみなし配当額とする旨規定しているところ、平成20年12月期のみなし配当額について、次のとおり、同項及び法人税法施行令第23条第1項第3号の各規定に基づいて計算すると、みなし配当額は○○○○円となり、この金額は、上記1の(4)のヨの(イ)のとおり、原処分庁が算定したみなし配当額と同額となる。そうすると、原処分庁が算定した平成20年12月期のみなし配当額は、法令の規定に従って算出された適正なものと認められる。
(イ) 上記(1)のロのとおり、本件配当は、その全額が資本の払戻しによるものに該当するから、請求人がJ社の資本の払戻しにより交付を受けた金銭等の額は、本件配当のうち請求人が受ける上記1の(4)のヌの○○○○円及び同ヲの○○○○円の配当金合計○○○○円となる。
(ロ) J社の資本の払戻しの直前の資本金等の額は、請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、上記1の(4)のハのJ社が中間申告書に係る事業年度とみなした期間の末日である平成20年6月30日から本件における資本の払戻しの直前までに異動が認められないことから、同ハの当該中間申告書における事業年度末の資本金等の額○○○○円である。
(ハ) 減少剰余金等割合は、次のAに掲げる金額のうちに次のBに掲げる金額の占める割合0.701(小数点以下3位未満の端数を切上げしたもの)となる。
A J社の前期期末時の簿価純資産価額は、上記1の(4)のハのとおり、平成20年1月1日から平成20年6月30日までの期間を一事業年度とみなした中間申告書を提出しているから、当該中間申告書における期間の末日である平成20年6月30日の簿価純資産価額、すなわち、資本金等の額○○○○円と利益積立金額マイナス○○○○円の合計額○○○○円である。
B 上記1の(4)のトのとおり、資本の払戻しにより減少したJ社の資本剰余金の額は、○○○○円である。
(ニ) 払戻株式数割合は、次のAの株数を分母とし、次のBの株数を分子として計算される。
A J社の平成20年6月30日現在の発行済株式の総数は、請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、同日から本件における資本の払戻しの直前までに異動が認められないことから、上記1の(4)のハのとおり、普通株式596株、A種株式20,000株及びB種株式2,154株の合計22,750株である。
B 請求人がJ社の資本の払戻しの直前に有していたJ社株式数は、請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、平成20年6月30日から本件における資本の払戻しの直前までに異動が認められないことから、上記1の(4)のハのとおり、普通株式576株、A種株式20,000株及びB種株式2,154株の合計22,730株である。
(ホ) 上記(イ)ないし(ニ)の各金額等を基礎に法人税法第24条第1項及び法人税法施行令第23条第1項第3号の各規定に基づいて請求人に係るみなし配当額を計算すると、本件配当に係る払戻等対応資本金額等は○○○○円(○○○○円×0.701)となり、これに払戻株式数割合(22,730株÷22,750株)を乗じた請求人に係る払戻等対応資本金額等は○○○○円となるから、請求人が交付を受けた金銭等の額○○○○円は請求人に係る当該払戻等対応資本金額等○○○○円を超えることとなり、当該超える金額○○○○円がみなし配当額となる。
ロ 請求人の主張について
 請求人は、仮に、本件配当の全額が資本の払戻しによるものに該当するとしても、原処分は、J社が行った資本の払戻しにより減少させた資本剰余金の額の全額である○○○○円を超えて資本金等の額を減額させるものであり、これは平成18年改正税法解説の内容に明らかに反するものであるから、原処分庁が行ったみなし配当額の計算は適正ではない旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、平成20年12月期のみなし配当額は、法人税法第24条第1項及び法人税法施行令第23条第1項第3号の各規定に基づいて適正に算定されているのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(本件配当の全額が資本の払戻しによるものに該当する場合に、法人税法第68条第1項の規定により、平成20年12月期において法人税の額から控除する「課される所得税の額」は、再計算後のみなし配当額に対して課される所得税の額とすべきか否か。)について

イ 法令解釈
 法人税法第68条第1項は、所得税法第174条の規定により課される所得税の額は、当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除する旨規定し、また、同条第2号の内国法人に対して課する所得税の課税標準は、国内において支払を受けるべき配当等の額とする旨規定し、さらに、同法第175条は、内国法人に対して課する所得税の額は、同法第174条第2号に規定する配当等の場合には当該配当等の額に100分の20の税率を乗じて計算した金額とする旨規定しているところ、国内において配当等の支払を受けるべき内国法人に対して課する所得税の課税標準となる配当等の額は、法人税法第24条第1項第3号及び法人税法施行令第23条第1項第3号の規定と同様の規定である所得税法第25条第1項第3号及び所得税法施行令第61条第2項第3号に従って国内において支払を受けるべき配当等の額として正当に算出された額をいうものと解すのが相当であり、そうすると、法人税法第68条第1項に規定する所得税法第174条の規定により課される所得税の額は、当該正当に算出された配当等の額に100分の20の税率を乗じて算出した金額と解すべきである。
ロ 当てはめ
 これを本件についてみると、上記(1)のロ及び同(2)のイのとおり、本件配当のうち請求人が受ける剰余金の配当の全額は資本の払戻しによるものであり、これを法人税法第24条第1項第3号及び法人税法施行令第23条第1項第3号の規定に従って、請求人が国内において支払を受けるべきみなし配当額として正当に算出される額を算出すると○○○○円となるから、当該支払を受けるべきみなし配当額に正当に課される所得税の額を算出すると、当該みなし配当額に100分の20の税率を乗じた金額である○○○○円となる。
 そうすると、法人税法第68条第1項の規定により当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除する所得税法第174条の規定により課される所得税の額は○○○○円であるから、当該金額と請求人が平成20年12月期の確定申告又は修正申告において法人税の額から控除した所得税の額○○○○円との差額○○○○円は、法人税法第68条第1項の規定の適用を受ける所得税の額とは認められない。
ハ 請求人の主張について
 請求人は、本件における固有の事情を考慮すれば、法人税法第68条第1項に規定する「課される所得税の額」は、本件支払調書に記載された源泉所得税の額とすべきである旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のイのとおり、請求人が支払を受けるべきみなし配当額○○○○円は、法令の規定に従って計算されており、上記ロのとおり、当該支払を受けるべきみなし配当額に正当に課される所得税の額は、当該みなし配当額に100分の20の税率を乗じた金額である○○○○円となるのであるから、これらの計算には何ら違法な点はなく、また、たとえみなし配当額に係る所得税の額の算定等において請求人が主張するような事情があったとしても、その事情をもって本件支払調書に記載された源泉所得税の額を法人税法第68条第1項に規定する所得税の額と認めるような法令の規定は存在しないのであるから、請求人の主張は採用できない。

(4) 争点4(平成20年12月期の申告が過少申告となったことについて国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由が認められるか否か。)について

イ 法令解釈
 過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。この趣旨に照らせば、国税通則法第65条第4項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当であり(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁参照)、過少申告が単に納税者の税法の不知や誤解に基づく場合には、これに該当しないものと解するのが相当である。
ロ 当てはめ及び請求人の主張の当否
 請求人は、上記2の(4)のイのとおり主張するところ、確かに、請求人が主張するように、払戻法人から資本の払戻しを受ける株主側にとって、みなし配当額の計算の基礎となる一部の金額等の把握が難しい場面があり、また、配当等を受ける者が配当等を支払う者から支払を受けた金額及び源泉所得税の額について通知を受ける旨の規定も存するところである。
 しかしながら、J社の発行済株式のほとんどを所有する請求人は、本件9月5日付説明資料によって、J社が利益剰余金及び資本剰余金の双方を原資とし、効力発生日を平成20年11月1日として剰余金の配当を行うことや資本剰余金の減少による出資金の返還には源泉所得税はかからない等の通知を受けており、請求人が法人税法第24条第1項第3号に規定する「資本の払戻し」に関する解釈を誤らなければ、詳細な金額まではともかく、J社の資本の払戻しに関する計算が法令の規定に従っていないとの認識を有することが可能であったといえるから、この点において、請求人に全く帰責事由がないとまではいえない。
 そうすると、納税義務者が自ら課税標準の額及び税額を正確に確定し申告しなければならないとする申告納税制度の下において、平成20年12月期の申告が過少申告となった原因は、請求人が自ら受取配当等の額や有価証券の譲渡損益という課税標準の額及び法人税の額から控除する配当等に課される所得税の額を正確に確定することを怠ったことに基因するものであるというほかはなく、これは真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情には当たらず、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷となるものとまでいうことはできないから、国税通則法第65条第4項にいう「正当な理由があると認められるものがある」場合には該当しないというべきである。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(5) 本件各更正処分について

 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件各事業年度の法人税に係る欠損金額及び所得税額等の還付金額は、いずれも本件各更正処分における欠損金額及び所得税額等の還付金額と同額となるから、本件各更正処分はいずれも適法である。

(6) 本件賦課決定処分について

 上記(5)のとおり、平成20年12月期の更正処分は適法であり、また、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、当該更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、上記(4)のとおり、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項又は第2項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(7) 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る

トップに戻る