(平成24年12月5日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成22年分の所得税について、平成20年に取得した家屋を租税特別措置法(平成21年法律第13号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第41条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》第1項に規定する住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除(以下「本件控除」という。)の対象として確定申告をしたのに対し、原処分庁が、請求人は当該家屋をその取得の日から6月以内に居住の用に供しておらず、本件控除の適用要件を満たさないとして更正処分をしたことから、請求人が、当該家屋をその取得の日から6月以内に居住の用に供したとして、当該処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

イ 請求人は、平成22年分の所得税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、これを原処分庁に対して法定申告期限までに提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成23年10月31日付で、別表1の「更正処分」欄のとおりとする平成22年分の所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件更正処分に対する不服申立てをするに当たって、審査請求をすることができるか否かを国税不服審判所へ電話により問い合わせたところ、応対した職員から、異議申立てを経ずに審査請求をすることができる旨の誤った指導を受けた。
ニ そこで、請求人は、本件更正処分を不服として、平成23年12月28日に異議申立てをしないで審査請求をした。当該審査請求は、上記ハの誤った指導に従って行われたものであり、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第3号に規定する「その他異議申立てをしないで審査請求をすることにつき正当な理由があるとき」に該当するから、適法な審査請求であると認める。

(3) 関係法令の要旨

イ 措置法第41条第1項は、居住者が、国内において、住宅の用に供する家屋で政令で定めるもの(以下「居住用家屋」という。)で建築後使用されたことのないものの取得をして、当該居住用家屋を平成9年1月1日から平成20年12月31日までの間にその者の居住の用に供した場合(当該居住用家屋をその取得の日から6月以内にその者の居住の用に供した場合に限る。)において、その者が当該家屋の取得に係る一定の借入金又は債務(以下「住宅借入金等」という。)の金額を有するときは、当該居住の用に供した日(以下「居住日」という。)の属する年以後6年間(居住日の属する年が平成11年若しくは平成12年である場合又は居住日が平成13年1月1日から同年6月30日までの期間内の日である場合には15年間とし、居住日が平成13年7月1日から同年12月31日までの期間内の日である場合又は居住日の属する年が平成14年から平成20年までの各年である場合には10年間とする。)の各年(当該居住日以後その年の12月31日まで引き続きその居住の用に供している年に限る。)のうち、その者のその年分の所得税に係るその年の所得税法第2条《定義》第1項第30号の合計所得金額が3,000万円以下である年については、その年分の所得税の額から、住宅借入金等特別税額控除額を控除する旨規定している。
 また、租税特別措置法(平成22年法律第6号による改正前のものをいう。)第41条第1項は、住宅借入金等特別税額控除の適用期間について、居住者が、所定の家屋を平成11年1月1日から平成25年12月31日までの間にその者の居住の用に供した場合、当該居住の用に供した日(居住日)の属する年以後10年間(居住日の属する年が平成11年若しくは平成12年である場合又は居住日が平成13年1月1日から同年6月30日までの期間内の日である場合には15年間)とする旨規定している。
ロ 租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。)第26条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》第1項は、措置法第41条第1項に規定する住宅の用に供する家屋で政令で定めるものは、個人がその居住の用に供する家屋(1棟の家屋で、その構造上区分された数個の部分を独立して住居その他の用途に供することができるものにつきその各部分を区分所有する場合には、その者の区分所有する部分の床面積が50平方メートル以上であるもの)とし、その者がその居住の用に供する家屋を2以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供すると認められる一の家屋に限る旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、○○医師の資格を有する者であり、平成9年12月1日にj市d町○−○所在のK○階において、○○医院(以下「本件医院」という。)を開業した。
ロ 請求人は、平成12年2月8日にj市e町○−○所在のD○○号(以下「本件D家屋」という。)の敷地権(所有権)付区分所有権を取得し、同日、本件D家屋の所在地に住民票上の住所を定めた。
 なお、住民票上、本件D家屋の所在地を住所と定める住民は、請求人のみである。
ハ 請求人は、平成12年分ないし平成21年分の所得税について、本件D家屋を本件控除の対象として各確定申告をした。
 なお、請求人は、平成23年2月16日に本件D家屋を売却した。
ニ 請求人は、平成20年7月31日に、建築後使用されたことのない家屋であるa市b町○−○所在のE○○号(以下「本件E家屋」という。)の敷地権(所有権)付区分所有権を取得した。
 なお、本件E家屋の構造は、鉄筋コンクリート造1階建であり、その区分所有する専有部分の床面積は63.76平方メートルである。
ホ 請求人は、上記ニと同日に、本件E家屋の取得資金として、F社から53,800,000円を借り入れ、その翌月から返済を開始した。
 なお、平成22年12月31日時点における当該借入金の未払残高(本件E家屋に係る住宅借入金等の金額)は、51,674,723円である。
ヘ 請求人は、平成21年12月21日に、医療法人Gとの間で、同法人に対して本件医院(建物附属設備、工具器具備品及び営業権)を総額3,000万円で譲渡する旨などの○○診療所譲渡契約を締結し、平成22年2月1日に、同法人に対して本件医院を引き渡した。
ト 請求人は、平成22年2月5日に、同月8日を転出予定日とする本件D家屋からの転出届を提出し、同月12日に、本件E家屋の所在地に住民票上の住所を定めた。
 なお、住民票上、本件E家屋の所在地を住所と定める住民は、請求人のみである。
チ 請求人は、平成22年分の所得税について、本件E家屋を本件控除の対象として確定申告をした。

(5) 争点

 請求人は、本件E家屋を、措置法第41条第1項に規定する「居住用家屋」として取得し、当該居住用家屋をその取得の日から6月以内に請求人の「居住の用に供し」たか否か。

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2 主張

(1) 請求人

イ 措置法第41条第1項に規定する「居住の用に供した」とは、その者が真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としてその家屋を利用したことをいい、この判断は、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況、その他の事情を総合的に考慮し、社会通念に照らして行うべきものである。
ロ 請求人は、将来的に家族のいるf県に移住すること、また、j市内で本件医院を経営する傍ら、月に10日前後(長いときには1か月)、実弟であるH(以下「弟H」という。)が営むg市h町に所在するH医院の診察を手伝う際に長期滞在することを目的として本件E家屋を取得し、平成22年2月にj市からa市へ引っ越すまでの間は、H医院を手伝う際や、週末及び長期休暇の際に本件E家屋を利用し、引っ越した後は現在に至るまで本件E家屋に居住し、同医院に勤務している。
ハ 上記ロのとおりの請求人の本件E家屋の利用状況は、別表2のとおり、請求人の平成20年11月分から平成21年1月分までの電気・ガス料金の支払額が、独身の一人暮らしであることを前提とすれば、社会通念上生活していたと認められる相当の金額であることからも、明らかである。
ニ 上記ロ及びハのとおりの請求人の本件E家屋への入居目的等の事情を総合的に考慮すれば、本件D家屋と本件E家屋は、いずれも請求人の生活の拠点といえるから、請求人は、その居住の用に供する家屋を2以上有しており、かつ、本件E家屋をその取得の日から6月以内に居住の用に供したことになる。
ホ したがって、請求人が、住民票の住所を本件E家屋へ異動した後の平成22年分の所得税について、本件E家屋を対象とする本件控除が認められるべきである。

(2) 原処分庁

イ 措置法第41条第1項に規定する「居住の用に供した」の意義については、上記(1)のイのとおりである。
ロ 請求人は、上記(1)のロのとおり、将来的に居住する目的で本件E家屋を取得したものである上、同ハのとおり、平成20年11月分から平成21年1月分までの本件E家屋に係る電気・ガス料金の支払をしているものの、平成9年12月1日から平成22年1月まではi県j市内で本件医院を経営し、平成22年2月11日までは住民票上の住所を本件D家屋としていたことからすると、請求人の生活の拠点は、平成22年2月11日までは本件D家屋のみであり、本件E家屋を生活の拠点としていたとはいえない。
ハ なお、請求人は、まる1本件E家屋に係る電気・ガス料金を支払っていたこと、まる2H医院の診察を手伝っていたことをもって、本件E家屋を主に週末や長期休暇の際の日常生活の用に供していたとし、よって本件D家屋と本件E家屋は、いずれも請求人の生活の拠点である旨主張する。
 確かに、生活の拠点となる家屋が複数存在することはあり得るものの、まる1請求人が提出した水道光熱費の支払に係る領収証等のみをもって、請求人が本件E家屋を生活の拠点としていたとはいえない。また、まる2H医院から給与等が支払われておらず、他に請求人の主張を裏付ける証拠書類は提示されていないことからすれば、請求人がH医院の診察の手伝いを行っていたとしても、そのことのみをもって、請求人が本件E家屋を生活の拠点として利用していたとは直ちに認められない。
ニ 以上によれば、請求人の生活の拠点は、平成22年2月11日まで本件D家屋のみであり、本件E家屋をその取得した日から6月以内に居住の用に供したとはいえないから、平成22年分の所得税について、同家屋を対象とする本件控除は認められない。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 措置法第41条第1項に規定する「居住用家屋」の意義
 上記1の(3)のイのとおり、措置法第41条第1項は、本件控除の対象となる「居住用家屋」の意義についての定めを措置法施行令に委任している。そして、同ロのとおり、措置法施行令第26条第1項は、上記の「居住用家屋」とは、「個人がその居住の用に供する家屋」であるとし、個人がその居住の用に供する家屋を2以上有する場合には、これらの家屋のうち、「その者が主としてその居住の用に供すると認められる一の家屋」(以下「主たる居住用家屋」という。)のみが、上記の「居住用家屋」に該当する旨規定している。
ロ 措置法第41条第1項に規定する「居住用家屋」たる「個人がその居住の用に供する家屋」及び同項に規定する「居住の用に供し」の各意義等
 措置法第41条第1項に規定する本件控除は、「居住用家屋」の取得等に要する資金に充てるために借入金等の負担をした者について、所定の税額を控除し、よって住宅の取得等に伴う負担を軽減してその取得等を促進し、もって良質な住宅ストックの形成を図るべく設けられた政策的減税制度である。
 このような制度の趣旨に照らすと、措置法第41条第1項に規定する「居住用家屋」たる「個人がその居住の用に供する家屋」とは、個人が生活の拠点として利用する家屋をいうものと解すべきである。そして、当該家屋が生活の拠点として利用されているか否かは、当該個人及び社会通念上その者と同居することが通常であると認められる配偶者や子等の当該家屋での日常生活の状況、当該家屋への入居目的、当該家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判断すべきものと解される。
 また、上記の法令解釈を踏まえれば、措置法第41条第1項に規定する「居住の用に供し」の意義は、これと同じ文言を用いた上記の「個人がその居住の用に供する家屋」における「居住の用に供する」と同義、すなわち、個人が生活の拠点として利用することを指すものと解するのが相当である。したがって、「居住用家屋」を「居住の用に供し」たか否かは、上記の「個人がその居住の用に供する家屋」に当たるか否かを判断する場合と同様の諸事情を総合勘案して判断すべきである。
ハ 措置法第41条第1項に規定する「居住用家屋」たる「主たる居住用家屋」の意義等
 上記ロの「個人がその居住の用に供する家屋」の意義に照らせば、上記イのとおり、個人が当該家屋を複数有することもあり得るが、そのような場合にその家屋が本件控除の対象となる「主たる居住用家屋」に当たるか否かは、その文理上、各家屋相互間の比較によって相対的に定まるものと解されるから、上記ロの「個人がその居住の用に供する家屋」に当たるか否かを判断する場合と同様の諸事情を比較検討し、いずれの家屋がその者の主たる生活の拠点として利用されているかによって判断すべきである。
 そして、「個人がその居住の用に供する家屋」を複数有する場合には、そのうちの一の家屋をその取得の日から直ちに主たる生活の拠点として利用するのが困難な事情もあり得ること、また、上記1の(3)のイのとおり、措置法第41条第1項が「居住用家屋」の取得のみならず、その取得の日から6月以内に居住の用に供し、さらに、その居住日以後各年の12月31日まで引き続き居住の用に供していることを本件控除の適用要件としていることに鑑みれば、上記の「主たる居住用家屋」に当たるか否かの判断は、(本件控除の適用要件の一つである)「居住用家屋」の取得の日から6月以内の、現に居住の用に供した時における上記の諸事情をもってなすのが相当であると解される。
ニ まとめ
 上記1の(3)のイ及びロの各規定、並びに上記イないしハの法令解釈を総合すれば、個人が、まる1「居住用家屋」(個人がその居住の用に供する家屋又は主たる居住用家屋)をその取得の日から6月以内にその者の「居住の用に供し」、かつ、まる2まる1の居住日以後その年の12月31日まで引き続きまる1の「居住用家屋」(個人がその居住の用に供する家屋又は主たる居住用家屋)を「居住の用に供し」ている場合にのみ、本件控除の対象となるものと解される。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料、及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 請求人は、かねてf県からi県に単身で移住し、同県内の複数の医院等で○○医師として稼働した後、上記1の(4)のイ及びヘのとおり、平成9年に同県内で本件医院を開業し、以後平成22年1月までの間、同医院を営んでいた。その間に、請求人は、同ロ及びハのとおり、平成12年2月に本件D家屋を取得し、その頃以降引き続いて同家屋で起居し、同年分を含めて10年間にわたり、当該家屋を本件控除の対象とする各確定申告をした。
ロ 平成19年頃から、請求人は、本件医院の経営をやめて、g市内で弟Hが営むH医院において○○医師として稼働したいと考えるようになり、少なくとも平成20年から平成21年までの間、本件医院を営む傍ら、月に1・2回の割合で主に週末にf県へ赴き、H医院において無償で医師である弟Hの手伝いをするなどして過ごす一方、本件医院の譲渡及び本件D家屋の売却の各準備等を進めた。
ハ 上記ロの間に、請求人は、上記1の(4)のニのとおり、平成20年7月31日に本件E家屋を取得した上、同年9月14日にエアコン、テレビ、冷蔵庫及び全自動洗濯機等の電化製品類、並びにベッド、カーテン等の家具類を、同家屋に設置するとともに、同年9月13日にJ社及びa市水道局との間で本件E家屋に係る電気及び水道の各供給契約を締結し、同月14日にL社との間で同家屋に係るガスの供給契約を締結し、同年9月以降、平成22年2月までの間は、月に1・2回程度、主として週末に、同家屋に滞在して、別表3のとおり、毎月一定量の電気・ガス・水道を使用した。
ニ その一方で、請求人は、上記1の(4)のヘのとおり、平成21年12月に本件医院の譲渡等の契約を締結し、翌22年2月に同医院の引渡しをした上、同トのとおり、同月中に本件D家屋から転居し、その旨の届出をするとともに、その頃、別表3のとおり、同家屋に係る電気・ガス・水道の各供給契約を終了した。そして、請求人は、同月中に本件E家屋へ住民票上の住所を異動し、それ以後は、同家屋で起居しつつ、H医院の副院長として稼働している。

(3) 上記(2)のロないしニの根拠について

 請求人及び弟Hは、当審判所に対し、要旨、上記(2)のロないしニのとおりにそれぞれ答述しているところ、これらの答述内容は、上記1の(4)の基礎事実及び上記(2)の認定事実における、まる1本件医院の譲渡状況、まる2本件D家屋からの転居の状況、まる3本件D家屋及び本件E家屋における電気・ガス・水道の各使用状況、まる4本件E家屋への電化製品類の設置状況等という客観的事実はもとより、H医院における請求人の稼働状況及び上記まる2ないしまる4の一部について請求人が記載したという別表4のとおりの手帳の記載内容や、弟HがH医院にいる間に請求人から連絡を受けてその帰省の日を「A(請求人)」と記載していたという別表5のとおりの卓上カレンダーの記載状況ともおおむね矛盾がないこと、また、当審判所の調査の結果によっても、これらの答述内容に反する証拠が見当たらないことなどを考慮すると、これらの答述はいずれも信用することができる。したがって、請求人及び弟Hの各答述のとおりの事実(上記(2)の認定事実ロないしニ)があったと認められる。

(4) 当てはめ

イ 上記1の(4)の基礎事実及び上記(2)の認定事実によれば、請求人は、本件D家屋を取得した平成12年2月頃以降、平成22年1月までの間は、同家屋で起居しつつ、本件医院を営んでいたのであるから、月に1・2回程度、主として週末に、本件E家屋に滞在するようになった平成20年9月以降も、本件医院を譲渡し、かつ、本件D家屋からの転出届を提出する平成22年2月中旬頃までの間は、同家屋を日常生活の拠点として利用していたことが明らかである。したがって、平成12年から平成22年2月中旬頃までの間、本件D家屋は、請求人にとって「個人がその居住の用に供する家屋」に当たるものであり、かつ、同家屋の取得の日から6月以内に同家屋を請求人の「居住の用に供し」たものである。
ロ 他方で、同じく上記1の(4)の基礎事実及び上記(2)の認定事実によれば、請求人は、近い将来、本件医院の経営をやめてg市内にあるH医院で稼働すべく、月に1・2回程度、主として週末に、f県へ赴き、同医院で弟Hの手伝いをするなどしている最中の平成20年7月に、本件E家屋を取得し、その約2か月後の同年9月中には、生活必需品である電化製品類や家具類を同家屋に設置し、電気・ガス・水道の開栓をして日常生活を営める環境を整えた上、以後は同家屋に滞在しながら、従前と同様に同医院において弟Hの手伝い等を続け、その一方で、本件医院の譲渡及び本件D家屋の売却の各準備等を進め、本件医院の譲渡を終えた直後に本件D家屋からの転出届及び本件E家屋への転入届を提出し、以後は同家屋で日常生活を営みながら、H医院の副院長として稼働していることが明らかである。これらの諸事情を併せ考えると、請求人は、遅くとも平成20年9月頃には、本件D家屋に加え、本件E家屋をも、請求人の日常生活の拠点として利用し始めたものと認めるのが相当である。したがって、平成20年9月頃以降、本件E家屋は、請求人にとって「個人がその居住の用に供する家屋」に当たるものであり、かつ、同家屋の取得の日から6月以内である同年9月頃には、同家屋を請求人の「居住の用に供し」たものである。
ハ そうすると、請求人は、「個人がその居住の用に供する家屋」を2以上有する者であるから、そのうちの「主たる居住用家屋」のみが本件控除の対象となる。そこで、上記イ及びロの諸事情に照らし、本件D家屋と本件E家屋のいずれが「主たる居住用家屋」であるか否かについて検討すると、請求人は、本件E家屋の取得の日である平成20年7月31日から6月以内の同年9月頃に同家屋を居住の用に供した時までの間に、同家屋における生活環境を整えた上、同年9月頃以降は、新たな稼働予定先であるH医院において弟Hの手伝いをするなどのために定期的にf県へ赴いた際に、日常生活の拠点として同家屋を利用していたものの、それは飽くまで従前からの生業である本件医院の営業を従来どおりに続け、毎月の大半の日を本件D家屋で起居しつつ、行われていた。そうすると、同年9月以降、本件D家屋からの転出届を提出した平成22年2月中旬頃までの間、請求人は、各家屋相互間の比較において、本件D家屋を中心として日常生活を送っていたものであり、本件D家屋が請求人の主たる生活の拠点として利用されていた家屋、すなわち「主たる居住用家屋」であったと認められる。他方で、上記期間中、本件E家屋は、請求人の「主たる居住用家屋」ではなく、本件控除の対象となる「居住用家屋」には当たらない。
ニ 以上のとおりであるから、請求人は、その主張するように「個人がその居住の用に供する家屋」を2以上有し、かつ、その一つである本件E家屋をその取得の日から6月以内に「居住の用に供し」たと認められるものの、その居住の用に供したときの諸事情に照らせば、同家屋は「主たる居住用家屋」、すなわち本件控除の対象となる「居住用家屋」に当たらない。
 これに反する請求人の主張は、採用することができない。

(5) 本件更正処分

 上記(4)のとおり、本件E家屋は、本件控除の対象となる「居住用家屋」に当たらないから、他の本件控除の適用要件を検討するまでもなく、上記1の(4)のホの借入金について、本件控除を適用することができない。
 そうすると、平成22年分の所得税について、本件控除の額は零円であるから、これに基づいて請求人の納付すべき税額を計算すると、別表1の「更正処分」欄の納付すべき税額と同額となる。
 したがって、本件更正処分は適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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