(平成24年12月14日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人H(以下「請求人H」という。)及び同K(以下「請求人K」といい、これら2名を併せて「請求人ら」という。)が行った相続税の申告について、原処分庁が、請求人らが相続により取得した土地の評価に誤りがあるなどとして相続税の各更正処分等を行ったのに対し、請求人らが、その一部の土地については、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。ただし、平成21年5月13日付課評2−6による改正前のものをいい、以下「評価通達」という。)24−4《広大地の評価》に定める広大地として評価すべきであり、また、他の一部の土地については、不動産鑑定士による鑑定評価額により評価すべきであるなどとして、当該各更正処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人らは、平成20年8月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したL(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、別表1の「申告」欄のとおりとする相続税の申告書を法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成23年7月7日付で別表1の「更正処分等」欄のとおり、相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ハ 請求人らは、上記ロの各処分を不服として平成23年9月5日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月5日付で、別表1の「異議決定」欄のとおり、請求人Hについては更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分のそれぞれ一部を取り消す異議決定を、請求人Kについては更正処分の一部を取り消し、過少申告加算税の賦課決定処分の全部を取り消す異議決定をした(以下、異議決定により一部が取り消された後の、請求人Hに対する更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をそれぞれ「本件H更正処分」及び「本件H賦課決定処分」といい、請求人Kに対する更正処分を「本件K更正処分」という。また、本件H更正処分と本件K更正処分を併せて「本件各更正処分」という。)。
ニ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成23年12月20日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、請求人Hを総代として選任し、その旨を同日に届け出た。

(3) 関係法令等の要旨

イ 相続税法第22条《評価の原則》は、特別の定めのあるものを除き、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による旨規定している。
ロ 評価通達14《路線価》は、「路線価」は、宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している路線ごとに設定する旨定めている。
ハ 評価通達24−4(以下「広大地通達」という。)は、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で都市計画法第4条《定義》第12項に規定する開発行為(以下「開発行為」という。)を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの(以下「広大地」という。)の価額は、その広大地が路線価(評価通達14に定める路線価をいう。以下同じ。)地域に所在する場合、その広大地の面する路線の路線価に評価通達15《奥行価格補正》から評価通達20−5《容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価》までの定めに代わるものとして次の算式により求めた広大地補正率を乗じて計算した価額にその広大地の地積を乗じて計算した金額によって評価する旨定めている。
 なお、広大地通達は、まる1評価通達22−2《大規模工場用地》に定める大規模工場用地に該当するもの及びまる2中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの(その宅地について、経済的に最も合理的であると認められる開発行為が中高層の集合住宅等を建築することを目的とするものであると認められるものをいい、以下「マンション適地」という。)は、広大地に該当しない旨定めている。
(算式)
広大地補正率の算式
ニ 評価通達24−7《都市計画道路予定地の区域内にある宅地の評価》は、都市計画道路予定地の区域内となる部分を有する宅地の価額は、その宅地のうちの都市計画道路予定地の区域内となる部分が都市計画道路予定地の区域内となる部分でないものとした場合の価額に、その所在する地区(評価通達14−2《地区》に定める地区をいう。以下「地区区分」という。)、容積率、地積割合の別に応じて定める補正率を乗じて計算した価額によって評価する旨定めている。
ホ 道路構造令第6条《車線の分離等》は、車線の数が4以上である道路については、安全かつ円滑な交通を確保するため必要がある場合において、往復の方向別に車線を分離するとともに、車線を往復の方向別に分離するため必要があるときは、中央帯を設けるものとする旨規定している。
ヘ 都市計画法第53条《建築の許可》第1項は、都市計画施設の区域において建築物の建築をしようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければならない旨規定し、同法第54条《許可の基準》は、都道府県知事は、前条第1項の規定による許可の申請があった場合において、当該建築物がまる1階数が2以下で、かつ、地階を有しないこと、まる2主要構造部(建築基準法第2条《用語の定義》第5号に定める主要構造部をいう。)が、木造、鉄骨造、コンクリートブロック造その他これらに類する構造であること及びまる3容易に移転し、又は除却することができるものであると認められる場合には、その許可をしなければならない旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人らと原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件被相続人は、本件相続開始日において、別紙2不動産目録記載の各土地を所有していた(以下、順号1ないし順号10の各土地を併せて「本件A土地」、順号11ないし順号19の各土地を併せて「本件B土地」、順号20ないし順号23の各土地を併せて「本件C土地」、順号24の土地を「本件D土地」、順号25の土地を「本件E土地」、順号26の土地を「本件F土地」という。)。
ロ 本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の妻である請求人K及び長男である請求人Hの2名である。
ハ 平成21年6月1日、請求人らの間で本件相続に係る遺産分割協議が成立し、本件C土地、本件E土地及び本件F土地を請求人Kが、本件A土地、本件B土地及び本件D土地を請求人Hがそれぞれ取得した。
ニ 本件A土地、本件B土地及び本件C土地(以下、これらの土地を併せて「本件ABC各土地」という。)は、g鉄道h線等が所属路線であるM駅の東側に隣接する○○地区土地区画整理事業(以下「本件土地区画整理事業」という。)の施行地区内に所在している。
ホ 請求人らは、異議審理庁に対し、本件D土地、本件E土地及び本件F土地(以下、これらの土地を併せて「本件DEF各土地」という。)について、不動産鑑定士のN(以下「N鑑定士」という。)が作成した平成23年8月5日付の本件D土地、本件E土地及び本件F土地に係る各不動産鑑定評価書(以下、本件D土地に係る不動産鑑定評価書を「本件D土地鑑定評価書」などといい、これらを併せて「本件各鑑定書」、本件各鑑定書による各鑑定評価額を「本件各鑑定評価額」という。)を提出した。

(5) 争点

  1. 争点1 本件ABC各土地は、広大地通達に定める広大地として評価すべきか否か。
  2. 争点2 本件DEF各土地の評価に当たり、評価通達の定めにより難い特別な事情があるか否か。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙3のとおりである。

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3 判断

(1) 争点1 本件ABC各土地は、広大地通達に定める広大地として評価すべきか否か。

イ 法令解釈等
(イ) 相続税法第22条について
 相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、同法に特別の定めがある場合を除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているところ、ここでいう時価とは、当該財産を取得した時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値をいうものと解される。
 しかしながら、客観的な交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないから、課税実務上は、相続財産の評価の一般的基準が評価通達によって定められ、そこに定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされている。これは、相続財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法を採ると、その評価方法、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることが避け難く、また、回帰的かつ大量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあること等から、あらかじめ定められた評価方法によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものと解される。
(ロ) 広大地通達について
A 広大地通達は、評価の対象となる宅地の地積が当該宅地の属する地域の標準的な宅地の地積に比して著しく広大な宅地で、開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものの価額の評価について、減額の補正を行う旨定めている。
 このような減額の補正を行うこととした趣旨は、まる1評価の対象となる宅地の地積が、当該宅地の価額の形成に関して直接影響を与える特性を持つ当該宅地の属する地域の標準的な宅地の地積に比して著しく広大で、まる2当該宅地が評価の時点において経済的に最も合理的に使用されておらず、開発行為を要するときに、経済的に最も合理的な開発行為が細分化して戸建住宅等の敷地とすることである場合、当該開発行為により道路、公園等の公共公益的施設用地の負担が必要となって、いわゆる潰れ地が生じ、評価通達15ないし評価通達20−5による減額の補正では十分といえない場合があることから、このような宅地の価額の評価に当たっては、潰れ地が生じることを当該宅地の価額に影響を及ぼす事情として、価値が減少していると認められる範囲で減額の補正を行おうとしたものと認められる。
 しかしながら、評価の時点における当該宅地の属する地域の標準的使用の状況等に照らして、経済的に最も合理的な開発行為が、当該宅地を細分化せずに一体として利用してマンション等の敷地とすることである場合(すなわち、当該宅地がマンション適地に該当する場合)には、公共公益的施設用地の負担は必要とならず、潰れ地は生じないから、減額の補正を行う必要はないので、広大地通達は、マンション適地は広大地に該当しない旨も定めている。
 当審判所においても、上記のとおりの広大地通達の取扱いは相当であると認められる。
B 上記Aの広大地通達の趣旨に照らすと、広大地通達でいう評価対象地の属する「その地域」(以下「その地域」という。)とは、まる1河川や山などの自然的状況、まる2行政区域、まる3都市計画法による土地利用の規制など公法上の規制等、まる4道路、鉄道及び公園など、土地の利用状況の連続性や地域の一体性を分断して土地利用上の利便性や利用形態に影響を及ぼすことがあり得る客観的な事情を総合勘案し、利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域を指すものと解するのが相当である。
C そして、評価対象地がマンション適地と認められる場合とは、その地域におけるまる1マンション等の建築状況、まる2用途地域・建ぺい率・容積率や地方公共団体の開発規制、まる3交通、教育、医療等の公的施設や商業地への接近性等から判断して、評価対象地をマンション等の敷地とすることが経済的に最も合理的であると認められる場合を指すと解するのが相当である。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件A土地の状況
A 本件A土地が所在する用途地域は第二種住居地域であり、建築基準法上の建ぺい率は60%、容積率は200%である。
B 本件A土地は、別紙6のとおり、北側は幅員12メートルの市道i号線(以下「市道i号線」という。)に26.5メートル、西側は幅員9メートルないし10.4メートルの市道j号線(以下「市道j号線」という。)に54.5メートル、南側は幅員8メートルの市道k号線(以下「市道k号線」という。)に54メートル、それぞれ接面(隅切り部分を除く。)している不整形な形状の土地である。
C 本件A土地は、評価通達11《評価の方式》に定める路線価方式により評価する土地で、地区区分は普通住宅地区であり、本件A土地の西側の路線(市道j号線)及び南側の路線(市道k号線)に付された平成20年分の路線価はいずれも82,000円、北側の路線(市道i号線)に付された路線価は79,000円である。
(ロ) 本件B土地の状況
A 本件B土地が所在する用途地域は近隣商業地域及び商業地域であり、前者の建ぺい率は80%、容積率は200%、後者の建ぺい率は80%、容積率は400%である。本件B土地が商業地域に属するのは南側の一部であり、その大半の面積が近隣商業地域に属しており、建築基準法上の用途制限等については、その土地の過半の属する地域の制限を受けることから、近隣商業地域に関する規定が適用される。
B 本件B土地は、別紙6のとおり、西側は幅員6メートルの市道m号線(以下「市道m号線」という。)に70.5メートル、東側は市道m号線に36メートル、それぞれ接面している不整形な形状の土地である。
C 本件B土地は、評価通達11に定める路線価方式により評価する土地で、地区区分は普通住宅地区であり、本件B土地の東側の路線(市道m号線)及び西側の路線(市道m号線)に付された平成20年分の路線価はいずれも82,000円である。
(ハ) 本件C土地の状況
A 本件C土地が所在する用途地域は近隣商業地域及び商業地域であり、前者の建ぺい率は80%、容積率は200%、後者の建ぺい率は80%、容積率は400%である。本件C土地が商業地域に属するのは南側の一部であり、その大半の面積が近隣商業地域に属しており、建築基準法上の用途制限等については、その土地の過半の属する地域の制限を受けることから、近隣商業地域に関する規定が適用される。
B 本件C土地は、別紙6のとおり、東側は幅員17.8メートルないし22.1メートルの市道n号線(以下「市道n号線」という。)に72.5メートル、西側は幅員6メートルの市道m号線に24メートル、それぞれ接面している不整形な形状の土地である。
C 本件C土地は、評価通達11に定める路線価方式により評価する土地で、地区区分は普通商業・併用住宅地区であり、本件C土地の東側の路線(市道n号線)に付された平成20年分の路線価は86,000円及び92,000円、西側の路線(市道m号線)に付された路線価は82,000円である。
(ニ) 本件ABC各土地の利用状況
 本件ABC各土地は、本件相続開始日において、平成19年4月1日付「土地賃貸借契約書(貸主を本件被相続人、借主をS社とする。)」に基づき、賃貸期間19年の賃貸借に供され、月決め駐車場又は時間貸し駐車場として利用されていた。
(ホ) 本件ABC各土地の交通機関への接近性
 本件ABC各土地はM駅の東側に隣接し、バス乗車場及びタクシー乗り場等を備えたM駅東口駅前広場の北側に存する。
(ヘ) 本件土地区画整理事業について
A 本件土地区画整理事業は、M駅東口駅前広場を含む道路、公園等の公共施設を整備し、e市の玄関口にふさわしい健全かつ良好な市街地の形成を図ることを事業目的として、平成○年○月から施行され、平成○年○月○日に換地処分の公告が行われた。
B 本件土地区画整理事業の施行地区は、別紙7のとおり、M駅東口駅前広場を中心として南北にほぼ対称形となっている。
C 本件土地区画整理事業の施行地区の用途地域は、M駅東口駅前広場を中心として、当該広場から北側は、順に、商業地域(建ぺい率80%、容積率400%)、近隣商業地域(建ぺい率80%、容積率200%)及び第二種住居地域(建ぺい率60%、容積率200%)であり、また、当該広場の南側は、順に、商業地域(建ぺい率80%、容積率400%)、近隣商業地域(建ぺい率80%、容積率200%)、準工業地域(建ぺい率60%、容積率200%)及び第二種住居地域(建ぺい率60%、容積率200%)である。
(ト) 本件ABC各土地の周辺の状況等
A 本件甲地域は、東側は市道n号線、西側は市道j号線及び市道m号線、南側はM駅東口駅前広場及び北側は市道i号線に囲まれた地域である。
B 本件相続開始日において、本件甲地域内に所在する土地の利用状況は、本件ABC各土地を含め、全て月決め駐車場又は時間貸し駐車場である。
C 本件甲地域の用途地域は、南側から北側にかけて、順に、商業地域(建ぺい率80%、容積率400%)、近隣商業地域(建ぺい率80%、容積率200%)及び第二種住居地域(建ぺい率60%、容積率200%)である。
D 本件甲地域の東側は、市道n号線を挟んで、用途地域は大部分が第二種住居地域であり、建ぺい率は60%、容積率は200%で、戸建住宅が建ち並ぶ地域である。
E 本件甲地域の南側には、M駅東口駅前広場が、更にその南側には、Pと称するビル(以下「Pビル」という。)が存している。Pビルは、14階建ての○○棟、3階建ての○○棟、5階建ての○○棟、3階建ての○○棟からなる複合ビルであり、商業施設、社会教育施設、子育て支援施設、社会福祉施設などの複合的な機能を有している。
 また、Pビルの東側には、Q会館のビル(3階建て)が存している。
F 本件甲地域の西側は、市道j号線及び市道m号線を挟んで、M駅に係る線路等の鉄道敷地となっている。
G 本件甲地域の北側には、本件乙地域、つまり、その東側は市道n号線、西側は市道j号線、南側及び北側は市道i号線に囲まれた街区が存するところ、本件乙地域の用途地域は第二種住居地域、建ぺい率は60%、容積率は200%であり、本件相続開始日において、3階建てのT管理局のアパートが3棟あったほか、平成20年10月に13階建てのマンションが2棟(以下、このマンションを「Rマンション」という。)完成し、平成23年3月には2階建ての保育園が、同年5月には5階建ての老人短期入所生活介護施設がそれぞれ建築されている。
(チ) 法令の規制
 本件ABC各土地を含む本件土地区画整理事業の施行地区及び本件乙地域は、e市の市街化区域内にあり、同区域内の土地について、都市計画法第29条《開発行為の許可》第1項に規定する開発許可を受けなければならない開発行為の面積は、1,000平方メートル以上である。
(リ) 本件土地区画整理事業の施行地区内における開発状況
 本件土地区画整理事業の施行地区内において、平成10年以降、1,000平方メートル以上の土地について戸建住宅用地を含めて開発行為は一切行われていない。
(ヌ) 本件乙地域における開発状況及び建物の建築の状況
 本件相続開始日において、本件乙地域では、Rマンションが建築中であった。
 また、本件乙地域内で、平成10年以降、1,000平方メートル以上の土地について戸建住宅用地を含めて開発行為は一切行われていない。
ハ 当てはめ
(イ) 広大地通達に定める「その地域」について
A 本件甲地域内の利用状況は、上記ロの(ト)のBのとおり、全て月決め駐車場又は時間貸し駐車場であるところ、本件甲地域の周辺の利用状況は、上記ロの(ト)のDないしGのとおり、その東側は戸建住宅地として、南側はM駅東口駅前広場として、西側は鉄道敷地として及び北側は共同住宅と公共施設としてそれぞれ利用されており、本件甲地域とその周囲の地域とでは、土地の使用状況の連続性及び一体性は認められない。
B 本件甲地域の用途地域は、本件A土地については、上記ロの(イ)のAのとおり、第二種住居地域に所在し、本件B土地及び本件C土地については、上記ロの(ロ)のA及び(ハ)のAのとおり、近隣商業地域に関する規定が適用されるところ、第二種住居地域は、都市計画法第9条第6項において、主として住居の環境を保護するため定める地域とすると規定されており、また、近隣商業地域は、同条第8項において、近隣の住宅地の住民に対する日用品の供給を行うことを主たる内容とする商業その他の業務の利便を増進するため定める地域とすると規定されていることから、その指定された用途はそれぞれ相違する。
C 上記イの(ロ)のBのとおり、広大地通達にいう「その地域」とは、土地の利用状況の連続性や地域の一体性を分断して土地利用上の利便性や利用形態に影響を及ぼすことがあり得る客観的な事情を総合勘案し、利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域を指すものと解するのが相当であるところ、上記A及びBのことからすると、本件A土地の「その地域」は、本件甲地域内の用途地域が第二種住居地域であり、容積率が200%である本件A土地が存する街区(別紙8のとおり、以下「本件X地域」という。)をいい、本件B土地及び本件C土地の「その地域」は、本件甲地域内の用途地域が近隣商業地域で、容積率が200%である地域(別紙8のとおり、以下「本件Y地域」という。)をいうものと認められる。
 したがって、これと反する原処分庁及び請求人らの「その地域」についての主張は、いずれも採用することはできない。
(ロ) 本件A土地はマンション適地に該当するか否かについて
 本件X地域は、まる1上記(イ)のCのとおり、用途地域が第二種住居地域であり、容積率が200%であるから、マンション等の建築に係る規制が厳しくない地域であり、まる2上記ロの(ホ)及び(ト)のEのとおり、M駅及びM駅東口駅前広場並びにPビルに近接しているなど、公共施設や商業施設との接近性に優れている。また、まる3本件乙地域は、市道i号線を挟んで本件X地域の北側に存し、本件X地域と用途地域、建ぺい率及び容積率は同一であるが、本件X地域と比し交通・接近条件(最寄駅への接近性をいう。以下同じ。)でやや劣るところ、このように交通・接近条件で本件X地域に比しやや劣る本件乙地域の標準的使用及び開発状況は、上記ロの(ト)のG及び(ヌ)のとおり、本件相続開始日現在において、3階建ての集合住宅が3棟あったほか、Rマンションが建築中であり、本件相続開始日以後に本件乙地域内で建築された建物は、2階建ての保育園及び5階建ての老人短期入所生活介護施設であり、平成10年以降、1,000平方メートル以上の土地について戸建住宅用地を含めて開発行為は一切行われていない。加えてまる4念のために本件X地域が所在する本件土地区画整理事業の施行地区内の開発状況をみても、上記ロの(リ)のとおり、平成10年以降、同地区内において、1,000平方メートル以上の土地について戸建住宅用地を含めて開発行為は一切行われていない。
 これらのことからすると、本件A土地の最有効使用は、戸建住宅の敷地として細分化して利用することではなく、中高層の集合住宅等の敷地として一体的に利用することであると認めるのが相当である。
 したがって、本件A土地はマンション適地に該当すると認められる。
(ハ) 本件B土地及び本件C土地はマンション適地に該当するか否かについて
 本件Y地域は、まる1上記(イ)のCのとおり、用途地域が近隣商業地域であり、容積率が200%であるから、マンション等の建築に係る規制が厳しくない地域であり、まる2上記ロの(ホ)及び(ト)のEのとおり、M駅及びM駅東口駅前広場並びにPビルに隣接しているなど、公共施設や商業施設との接近性に優れている。また、まる3本件Y地域の北側に存する本件乙地域は、本件Y地域と比し用途制限が厳しく、かつ、交通・接近条件で劣るところ、このように本件Y地域に比し用途制限及び交通・接近条件で劣る本件乙地域の標準的使用及び開発状況は、本件相続開始日現在において上記(ロ)のまる3のとおりである。加えてまる4念のために本件Y地域が所在する本件土地区画整理事業の施行地区内の開発状況をみても、上記(ロ)のまる4のとおりである。
 これらのことからすると、本件B土地及び本件C土地の最有効使用は、戸建住宅の敷地として細分化して利用することではなく、中高層の集合住宅等の敷地として一体的に利用することであると認めるのが相当である。
 したがって、本件B土地及び本件C土地はマンション適地に該当すると認められる。
(ニ) 結論
 上記イの(ロ)のAのとおり、マンション適地は広大地に該当しないところ、上記(ロ)及び(ハ)のとおり、本件ABC各土地はマンション適地に該当すると認められるから、本件ABC各土地を広大地として評価することはできない。

(2) 争点2 本件DEF各土地の評価に当たり、評価通達の定めにより難い特別な事情があるか否か。

イ 法令解釈等
(イ) 評価通達の定めによる評価方式は、上記(1)のイの(イ)のとおり、課税実務上は一般的に合理性を有するものと解されるところ、このような課税実務に照らせば、評価通達に定める基準が、時価評価の方式として、その合理性が肯定できるものである限り、相続税法の予定する時価に合致するものというべきであるから、相続により取得した財産の評価は、評価通達に定められた評価方式によることが著しく不適当と認められる特別な事情が存する場合、すなわち、相続税評価額が客観的な交換価値を上回る場合には、他の合理的な評価方法により時価を求めるべきものと解される。
 そして、相続税評価額が客観的な交換価値を上回っているというためには、例えば、当該評価額を下回る鑑定評価が存在し、その鑑定評価が一応公正妥当な不動産鑑定理論に従っているのみでは足りず、同一の土地について他の不動産鑑定評価があればそれとの比較において、また、周辺の地価公示価格や都道府県地価調査に係る基準地の標準価格の状況、近隣における取引事例等の諸事情に照らして、相続税評価額が客観的な交換価値を上回ることが明らかであると認められることを要するものというべきである。
(ロ) 評価通達では、市街地的形態を形成する地域にある土地の価額については、路線価方式により各国税局長が具体的に路線ごとに設定した路線価を基に評価している。この路線価は、宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している路線ごとに1平方メートル当たりの宅地(標準宅地)の価格を表示したものであり、毎年1月1日を価格時点として、売買実例価額、公示価格(地価公示法第8条《不動産鑑定士の土地についての鑑定評価の準則》に規定する官報で公示された標準地の価格をいう。以下同じ。)、不動産鑑定士等による鑑定評価額及び地価事情精通者の意見価格を参酌し、かつ、隣接地間における均衡をも考慮して評定し、更に、通達により1年間の地価変動に対応するなどの評価上の安全性を考慮して、公示価格の80%程度の水準を目途として設定されている。
 当審判所においても、土地の価額につき路線価方式により評価することとしている評価通達の上記定めは、時価評価の方式としてその合理性を肯定することができる。
(ハ) 評価通達は、評価通達11から評価通達26−2《区分地上権等の目的となっている貸家建付地の評価》までにおいて宅地の評価方式を定め、評価通達11において、市街地的形態を形成する地域にある宅地の価額は、原則として、路線価方式により評価した価額をもってその評価額とすべき旨の一般的な評価方法を定めるとともに、他方、不整形地であること、都市計画道路予定地の区域内であることなど評価の対象となる宅地の価額に影響を及ぼす客観的な個別事情に応じ、路線価方式により評価した価額を減額補正する旨の評価方法を定めている。
 当審判所においても、このような定めは、飽くまでも評価の対象となる宅地の現況を踏まえ、当該宅地の価額に影響を及ぼす客観的な個別事情がある場合には、価値が減少していると認められる範囲で減額の補正を行う旨の定めとして、その合理性を肯定することができる。
ロ 認定事実
 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件D土地の状況
A 本件D土地が所在する用途地域は近隣商業地域であり、建ぺい率は80%、容積率は200%である。
B 本件D土地は、別紙9のとおり、M駅東口駅前広場の東に市道を挟んで位置し、北側は幅員31.5メートルの市道に52メートル接面している、く形の土地である。
C 本件D土地は、評価通達11に定める路線価方式により評価する土地で、地区区分は普通商業・併用住宅地区であり、本件D土地の北側の路線に付された平成20年分の路線価は115,000円である。
D 本件D土地の北側で接面する市道には中央分離帯が存在しているため、対向車線からの進入(右折)ができず、また、当該市道は東方向からの一方通行となっている。
E 本件D土地について、上水道の配水管は西側で接面するe市所有の土地との境界線付近に埋設されており、当該配水管から本件D土地への給水管の引き込みは容易であり、その引込工事に多額の費用を要するとは認められない。
F 本件D土地について、下水道の汚水管は、本件D土地の西側市道並びに同土地に接していない南側及び東側の公道に埋設されており、同土地に建物等を建築して、下水道を利用する場合には、e市上下水道局に10月までに申し込めば、翌年度中に同土地内の汚水枡の設置工事が同局の負担で行われることとなる。
(ロ) 本件E土地の状況
A 本件E土地が所在する用途地域は近隣商業地域であり、建ぺい率は80%、容積率は200%である。
B 本件E土地は、別紙9のとおり、M駅東口駅前広場の東約80メートルに位置し、北側は幅員31.5メートルの市道に46メートル、東側は幅員16.1メートルの市道に9メートル、西側は本件D土地に15メートル、それぞれ接面(隅切り部分を除く。)している、ほぼ、く形の土地である。
C 本件E土地は、評価通達11に定める路線価方式により評価する土地で、地区区分は普通商業・併用住宅地区であり、本件E土地の北側の路線に付された平成20年分の路線価は115,000円、東側の路線に付された路線価は92,000円である。
D 本件E土地の北側で接面する市道には中央分離帯が存在しているため、対向車線からの進入(右折)ができず、また、当該市道は東方向からの一方通行となっている。
E 本件E土地の奥行距離は、約15メートルである。
(ハ) 本件F土地の状況
A 本件F土地が所在する用途地域は近隣商業地域であり、建ぺい率は80%、容積率は200%である。
B 本件F土地は、別紙9のとおり、M駅東口駅前広場の東約200メートルに位置し、北側は幅員31.5メートルの市道に30メートル、東側は幅員6メートルの市道に19メートル、西側は幅員4メートルの市道に23メートル、それぞれ接面(隅切り部分を除く。)している、ほぼ、く形の土地である。
C 本件F土地は、評価通達11に定める路線価方式により評価する土地で、地区区分は普通商業・併用住宅地区であり、本件F土地の北側の路線に付された平成20年分の路線価は110,000円、東側の路線に付された路線価は67,000円、西側の路線に付された路線価は65,000円である。
D 本件F土地の北側で接面する市道にはトンネル開口部が存在しているため、対向車線からの進入(右折)ができず、また、当該市道は東方向からの一方通行となっている。
(ニ) 本件DEF各土地の状況
 本件DEF各土地の北側で接面する市道は、e都市計画道路○号線であり、平成9年○月○日付のp県告示第○号により、その幅員が43メートルに拡幅されると計画され、当該接面する市道の境界線から11.5メートル後退した区域が都市計画道路予定地として建物の建築等の制限を受けている(以下、当該接面する市道の境界線から11.5メートル後退した区域を「本件都市計画道路予定地」という。)。
(ホ) 本件DEF各土地の周辺の状況
 本件DEF各土地の周辺地域は、戸建住宅、共同住宅及び店舗等が建ち並ぶ中、駐車場が点在する近隣商業地域である。また、当該周辺地域に所在する建物の大部分は2階建て以下である。
(ヘ) 中央分離帯及びトンネル開口部の設置
A 本件D土地及び本件E土地の北側で接面する市道に中央分離帯が設置されることにより、対向車線からの進入(右折)ができなくなること及び当該市道が東方向からの一方通行になることは、本件都市計画道路予定地が計画決定された時から予定されていた。
B 本件F土地の北側で接面する市道へトンネル開口部が設置されることにより車線が分断され、対向車線からの進入(右折)ができなくなること及び当該市道が東方向からの一方通行になることは、本件都市計画道路予定地が計画決定された時から予定されていた。
(ト) 本件各鑑定評価額の算定方法等
 本件各鑑定書の要旨は、別紙10ないし別紙17のとおりであるところ、本件各鑑定評価額は、対象不動産を本件DEF各土地、価格時点を本件相続開始日とし、別紙13の取引事例まる1ないしまる3を基に取引事例比較法により評定した比準価格及び別紙14の基準地価格規準表のまる6の規準価格を基に、本件各鑑定書において近隣地域と判定した地域(以下「本件近隣地域」という。)における標準画地(別紙10の3の(1)、別紙11の3の(1)及び別紙12の3の(1)の標準的画地をいう。以下、この標準的画地を「本件標準画地」という。)1平方メートル当たりの価格を決定し、当該価格に本件標準画地と本件DEF各土地の現況に基づく個別的要因の格差率を乗じて本件各鑑定評価額を決定している。
ハ 本件各鑑定書の記載内容及び当審判所に対するN鑑定士の答述
(イ) 本件標準画地は近隣商業地域に存しているところ、取引事例比較法による本件標準画地の比準価格の評定において、別紙13の取引事例まる2は競売事例であるとして30%、取引事例まる3は買い進みであるとして15%の事情補正をそれぞれ行った理由については、p県内の不動産鑑定士は、p県不動産鑑定士協会において売買実例の売買価格や特殊事情を基に作成した取引事例カードを参考に鑑定評価を行っているところ、当該取引事例まる2に係る取引事例カードに記載された割合(競売30%)及び当該取引事例まる3に係る取引事例カードに記載された割合(買い進み15%)がおおむね妥当であると判断したものである。
 なお、競売の場合の事情補正は、一般的には40%とされているが、e市では30%とされている。
(ロ) 本件D土地鑑定評価書及び本件E土地鑑定評価書において、本件D土地及び本件E土地が本件標準画地に比べ接面街路条件が劣るとして格差率5%の減価(別紙10の9及び別紙11の9)をした理由については、土地価格比準表(昭和50年1月20日付国土庁土地局地価調査課長通達「国土利用計画法の施行に伴う土地価格の評価について」。ただし、平成6年3月15日付6国土地第56号による改正後のものをいい、以下「比準表」という。)では、系統・連続性と表現されるが、中央分離帯の設置により車線が分断されているとか一方通行であることによる格差は表現されていないことから、中央分離帯と一方通行の存在を考慮し判断したものである。
(ハ) 本件D土地鑑定評価書において、本件D土地が本件標準画地に比べ環境条件が劣るとして格差率3%の減価(別紙10の9)をした理由については、上水道及び下水道は、普通商業地域における比準項目とはされていないが、本件近隣地域においては、価格形成上、重要であると判断した上で、上水道管及び下水道管はいずれも本件D土地の敷地内への配管がされていないことから、住宅地域における格差率(上水道1.5%及び下水道1.5%)を援用し、「上水道」と「下水道」双方を加味し判断したものである。
(ニ) 本件E土地鑑定評価書において、本件E土地が本件標準画地に比べ画地条件が劣るとして格差率6%の減価(別紙11の9)をした理由については、比準表では「やや劣る」の2%となるが、本件E土地は地積が狭く、使い勝手も悪いことから、「劣る」(格差率5%の減価)と「相当に劣る」(格差率8%の減価)の間の格差率6%の減価と判断したものである。
(ホ) 本件F土地鑑定評価書において、本件F土地が本件標準画地に比べ接面街路条件が劣るとして格差率10%の減価(別紙12の9)をした理由については、比準表に当てはまる要因が見られないことから、最有効使用阻害の程度の高さを勘案し判断したものである。
(ヘ) 本件F土地鑑定評価書において、本件F土地が本件標準画地に比べ交通・接近条件が劣るとして格差率8%の減価(別紙12の9)をした理由については、比準表では、最大でも格差率8%の減価とされているが、本件近隣地域の信号が2か所あり、客足の流れが分断されるなど、駅からの距離により減価する実情を勘案し判断したものである。
(ト) 本件F土地鑑定評価書において、本件F土地が本件標準画地に比べ環境条件が劣るとして格差率10%の減価(別紙12の9)をした理由については、比準表では、環境条件(客足の流動性)と同条件(隣接不動産等の周囲の状態)を併せても最大で格差率8%の減価とされているが、環境条件(客足の流動性)のウエイトに重きを置き、本件E土地鑑定評価書との格差4%も考慮し、信号による客足の流動性の阻害等の要因を総合して判断した。
ニ 当てはめ
(イ) 請求人らが主張する本件各鑑定評価額について
 請求人らは、本件DEF各土地の時価は本件各鑑定評価額である旨主張することから、以下、本件各鑑定評価額の合理性について審理する。
A 本件D土地鑑定評価書による鑑定評価額
(A) 取引事例比較法における取引事例について
a 本件D土地鑑定評価書では、別紙10の6のとおり、取引事例比較法による比準価格を評定するに当たって、採用した別紙13の取引事例のうち、まず、取引事例まる1は、その地積が、別紙13の比準価格評定表の「地積」欄記載のとおり153.55平方メートルであり、本件近隣地域における本件標準画地の地積670平方メートルの4分の1に満たない狭いものである上、その用途地域も、同表の「用途地域」欄記載のとおり第二種中高層住居専用地域であり、本件標準画地が存する近隣商業地域と異なるものであることからすると、物件的、用途的同一性が異なる。
b 次に、取引事例まる2は、競売事例であるとして、同表の「事情補正」欄記載のとおり、30%の補正を行っている。その算定根拠について、上記ハの(イ)によれば、p県不動産鑑定士協会において作成した当該取引事例まる2に係る取引事例カードに記載された割合(競売30%)がおおむね妥当であると判断したとのことであるが、その具体的な算定根拠が不明である。
c また、取引事例まる3は、その用途地域が、同表の「用途地域」欄記載のとおり第二種住居地域であり、本件標準画地が存する近隣商業地域と異なるものであるし、買い進み取引であるとして、同表の「事情補正」欄記載のとおり、15%の補正を行っているが、その算定根拠について、上記ハの(イ)によれば、p県不動産鑑定士協会において作成した当該取引事例まる3に係る取引事例カードに記載された割合(買い進み15%)がおおむね妥当であると判断したとのことであるが、その具体的な算定根拠が不明である。
d そうすると、本件D土地について取引事例比較法による比準価格の評定に当たり、取引事例まる1ないしまる3を採用することに大きな疑問が残る。
(B) 個別的要因の格差率について
a 本件D土地鑑定評価書では、別紙10の4の(1)及び9のとおり、北側で接面する市道に中央分離帯が存在することにより対向車線からの右折ができず、また、当該市道が一方通行となっているとして、本件D土地が本件標準画地に比べ「接面街路条件」が劣るとして格差率5%の減価をしており、上記ハの(ロ)においても、これに沿う判断をしている。
 しかしながら、中央分離帯は、道路構造令第6条の規定に基づき、安全かつ円滑な交通の確保を目的に設置されているところ、中央分離帯の設置により対向車線から進入(右折)ができないとする事情は、これによって客観的な価値が減少するものとは考え難く、むしろ中央分離帯が設置されることにより、正面衝突事故の防止及び右折車の排除による渋滞の緩和が図られるなど、価格の増加要因とも考えられる。
 また、個別的要因の格差率は、当審判所においても相当と認める比準表に準拠すべきと認められるところ、別表2のとおり、比準表では、街路条件による格差率は最大でも2%の減価とされているから、格差率5%の減価は認められない。
b 次に、本件D土地鑑定評価書では、別紙10の9のとおり、北側で接面する市道に上水道管及び下水道管が未整備であるとして、本件D土地が本件標準画地に比べ「環境条件」が劣るとして格差率3%の減価をしており、この点、上記ハの(ハ)によれば、上水道1.5%と下水道1.5%の双方を加味したとのことである。
 しかしながら、上記ロの(イ)のEのとおり、上水道の配水管は西側で接面するe市所有の土地との境界線付近に埋設されており、容易に給水管の引き込みができ、その引込工事も多額の費用を要するとは認められず、上水道管に係る格差率1.5%までの減価の必要性は認められない。また、下水道の汚水管は、上記ロの(イ)のFのとおり確かに未整備の状況にあるが、下水道の利用を申し込めば、e市上下水道局の負担により整備されることからすると、下水道を直ちに利用できないことによる減価の必要があるとしても、格差率1.5%までの減価の必要性は認められない。
 したがって、上水道管及び下水道管に係る格差率3%は、不合理なものと認められる。
c さらに、本件D土地鑑定評価書では、本件D土地は本件都市計画道路予定地が含まれており、本来地下1階から地上3階までの建物の建築が可能であるところ、別紙10の10のとおり、建築可能な建物は2階建てまでとされ、それ以外の階層(地下1階及び地上3階)としての空間利用が阻害されるとして、本件D土地が本件標準画地に比べ「行政的条件」が劣るとして14%の減価をしている。
 しかしながら、本件D土地には、都市計画法第53条及び同法第54条によれば、都市計画施設等の区域内において建築物の建築をする場合、その建築物の構造等に制限を受けるところ、都道府県知事から建築物の建築の許可を受ければ2階建て住居等の建築は可能であり、上記ロの(ホ)の本件D土地を含む本件DEF各土地の周辺の状況からすると、当該周辺地域の標準的使用は、2階建てまでの戸建住宅、共同住宅及び店舗等であると認められることから、別紙10の10のとおり、地下1階及び地上3階の空間利用が阻害されるとして、格差率14%もの減価をすることは合理性に欠ける。
 また、別表2のとおり、比準表では、行政的条件における減価は最大でも格差率10%とされているから、格差率14%もの減価をすることは合理性に欠ける。
B 本件E土地鑑定評価書による鑑定評価額
(A) 取引事例比較法における取引事例について
 本件E土地鑑定評価書において、別紙11の6のとおり、取引事例比較法による比準価格を評定するに当たって、採用した別紙13の取引事例は、本件D土地鑑定評価書で用いたものと同一であることから、上記Aの(A)のdと同様に、本件E土地について取引事例比較法による比準価格の評定に当たり、同取引事例を採用することに大きな疑問が残る。
(B) 個別的要因の格差率について
a 本件E土地鑑定評価書では、別紙11の4の(1)及び9のとおり、北側で接面する市道に中央分離帯が存在することにより対向車線からの右折ができず、また、当該市道が一方通行となっているとして、本件E土地が本件標準画地に比べ「接面街路条件」が劣るとして格差率5%の減価をしており、上記ハの(ロ)においても、これに沿う判断をしている。
 しかしながら、上記Aの(B)のaと同様に、むしろ中央分離帯が設置されることが価格の増加要因とも考えられ、また、別表2のとおり、比準表では、街路条件による格差率は最大でも2%の減価とされているから、格差率5%の減価は認められない。
b 次に、本件E土地鑑定評価書では、別紙11の9のとおり、奥行が短小であるとして、「画地条件」が劣るとして6%の減価をしており、この点、上記ハの(ニ)のとおり、本件E土地は地積が狭く、使い勝手が悪いことを理由としている。
 しかしながら、本件E土地の地積は、本件標準画地の地積670平方メートルを上回る756平方メートルであるから、地積が狭いとの理由で減価をすることは不合理である。また、上記ロの(ロ)のEのとおり、本件E土地の奥行距離は約15メートルであるところ、本件E土地の奥行距離は本件標準画地の奥行距離(20メートル)の約0.75であり、別表2のとおり、比準表では、対象地の奥行距離が本件標準画地の奥行距離の0.6以上0.8未満の画地は格差率2%の減価とされていることから、格差率6%もの減価をすることは合理性に欠ける。
c さらに、本件E土地鑑定評価書では、本件E土地は本件都市計画道路予定地が含まれており、本来地下1階から地上3階までの建物の建築が可能であるところ、別紙11の10のとおり、建築可能な建物は2階建てまでとされ、それ以外の階層(地下1階及び地上3階)としての空間利用が阻害されるとして、本件E土地が本件標準画地に比べ「行政的条件」が劣るとして28%の減価をしている。
 しかしながら、本件DEF各土地には本件E土地が含まれているから、上記Aの(B)のcと同様に、格差率28%もの減価をすることは合理性に欠ける。
C 本件F土地鑑定評価書による鑑定評価額
(A) 取引事例比較法における取引事例について
 本件F土地鑑定評価書において、別紙12の6のとおり、取引事例比較法による比準価格を評定するに当たって、採用した別紙13の取引事例は、本件D土地鑑定評価書で用いたものと同一であることから、上記Aの(A)のdと同様に、本件F土地について取引事例比較法による比準価格の評定に当たり、同取引事例を採用することに大きな疑問が残る。
(B) 個別的要因の格差率について
a 本件F土地鑑定評価書では、別紙12の4の(1)及び9のとおり、北側で接面する市道にトンネル開口部が存在することにより車線が分断され、対向車線からの進入ができず、また、当該市道が一方通行1車線となっているとして、本件F土地が本件標準画地に比べ「接面街路条件」が劣るとして格差率10%の減価をしており、この点、上記ハの(ホ)によれば、最有効使用阻害の程度の高さを勘案し判断したとのことである。
 しかしながら、トンネル開口部の存在により対向車線から進入(右折)ができないとする事情によって客観的な価値が減少するものとは考え難く、むしろトンネル開口部が存在することにより車線が分断され、正面衝突事故の防止及び右折車の排除による渋滞の緩和が図られるなど、価格の増加要因とも考えられ、また、別表2のとおり、比準表では、街路条件による格差率は最大でも2%の減価とされているから、格差率10%の減価は認められない。
b 次に、本件F土地鑑定評価書では、別紙12の9のとおり、「交通・接近条件」が劣るとして格差率8%の減価をしており、この点、上記ハの(ヘ)によれば、信号機の数や客足の流れの分断など駅からの距離により減価する実情を勘案したとのことである。
 しかしながら、別表2のとおり、比準表では、交通・接近条件の格差率は最大でも8%の減価とされているところ、M駅東口駅前広場と駐車場を挟んで直近に位置している本件E土地については「交通・接近条件」が劣るとしての減価をしておらず、同土地から同一路線上で東に約120メートルしか離れているにすぎない本件F土地について、最大である格差率8%もの減価をすることは合理性に欠ける。
c また、本件F土地鑑定評価書では、別紙12の9のとおり、「環境条件」が劣るとして格差率10%の減価をしており、この点、上記ハの(ト)によれば、客足の流動性のウエイトに重きを置いたとのことである。
 しかしながら、別表2のとおり、比準表では、環境条件(客足の流動性)及び同条件(隣接不動産等の周囲の状況)による減価は併せても最大で8%とされているから、格差率10%もの減価をすることは合理性に欠ける。
d さらに、本件F土地鑑定評価書では、本件F土地は本件都市計画道路予定地が含まれており、本来地下1階から地上3階までの建物の建築が可能であるところ、別紙12の10のとおり、建築可能な建物は2階建てまでとされ、それ以外の階層(地下1階及び地上3階)としての空間利用が阻害されるとして、本件F土地が本件標準画地に比べ「行政的条件」が劣るとして19%の減価をしている。
 しかしながら、本件DEF各土地には本件F土地が含まれているから、上記Aの(B)のcと同様に、格差率19%もの減価をすることは合理性に欠ける。
D 小括
 以上のとおり、本件各鑑定評価額は、取引事例比較法で選択した別紙13の取引事例について大きな疑問がある上、個別的要因の格差率の算定に当たり比準表の定めに準拠していないなど合理性を欠き、公正妥当な不動産鑑定理論に従っているとは認められないことから、本件DEF各土地の時価を適切に示しているとは認められない。
 したがって、本件DEF各土地について、評価通達の定めにより難い特別な事情は認められない。
(ロ) 請求人らが主張する個別格差要因について
A 請求人らは、本件各鑑定評価額を採用しないとしても、本件各鑑定書において個別格差要因として取り上げた接面街路条件、環境条件及び行政的条件などは、評価通達において手当てがされていないから、これらの事情を考慮したところで本件DEF各土地の評価をすべきである旨主張することから、以下、当該事情が評価通達において手当てされていないのか審理する。
(A) 本件各鑑定評価額に係る接面街路条件
 請求人らは、本件DEF各土地の接面街路条件については、当該接面街路に中央分離帯又はトンネル開口部が存在し、これらの事情について評価通達は手当てしていない旨主張する。
 しかしながら、評価通達における路線価は、上記イの(ロ)のとおり売買実例価額、公示価格、不動産鑑定士等による鑑定評価額及び地価事情精通者の意見価格等を基として評定されているところ、上記ロの(ヘ)のA及びBのとおり、当該市道へ中央分離帯又はトンネル開口部を設置することにより対向車線から右折ができなくなること及び当該市道が一方通行となることは、本件都市計画道路予定地が計画決定された時から既に予定されており、このような状況は、本件相続開始日の10年以上も前から生じていたのであるから、本件相続が開始した平成20年中における価額の下落要因になるとは認められないのであって、本件D土地の価額に影響を及ぼすと認められる事情については、基本的には路線価の評定において既に反映されていると認められる。
(B) 本件各鑑定評価額に係る環境条件
 請求人らは、本件D土地の環境条件については、北側で接面する市道に上水道管及び下水道管が未整備であり、この事情について評価通達は手当てしていない旨主張する。
 しかしながら、評価通達における路線価の評定に際しては、課税実務上、上下水道の施設の整備状況を調査していることから、当該整備の有無は、基本的には、路線価の評定において既に反映されていると認められる。
(C) 本件各鑑定評価額に係る行政的条件
 請求人らは、本件DEF各土地の行政的条件については、本件都市計画道路予定地が含まれ、地下1階及び地上3階の効用が阻害されており、この事情について評価通達は手当てしていない旨主張する。
 しかしながら、当該事情については、評価通達24−7において手当てされている。
B 以上のとおり、本件各鑑定評価額に係る上記Aの接面街路条件及び環境条件は、基本的には路線価の評定において既に反映されていると認められ、また、行政的条件は、評価通達において手当てされていることから、請求人らの上記主張にはいずれも理由がない。
(ハ) 結論
 上記(イ)のD及び(ロ)のBのとおり、本件DEF各土地について、評価通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情はなく、評価通達に個別格差要因が手当てされていないとする請求人の主張にも理由がない。
 したがって、本件DEF各土地の価額は、上記(1)のイの(イ)のとおり、合理性を有する評価通達の定めにより評価した価額によることが相当である。

(3) 本件各更正処分について

イ 本件ABC各土地及び本件DEF各土地の相続税評価額について
 本件ABC各土地及び本件DEF各土地について評価通達の定めに基づき相続税評価額を算定すると、別表3ないし別表8の「審判所認定額」欄記載の額のとおりとなる。
ロ あん分割合について
 本件各更正処分においては、あん分割合について請求人らの選択した端数調整方法により相続税額を計算している。
 あん分割合について相続税法第17条《各相続人等の相続税額》は、相続又は遺贈により財産を取得した者に係る相続税額は、その被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の総額に、当該事由により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額のうちに占めるその者の課税価格の割合を乗じて算出した金額とする旨規定するだけで、当該課税価格の割合(あん分割合)の端数調整に関する規定を設けていないことからすると、当該あん分割合の算定に当たっては、原則として端数調整を行わないものと解するのが相当である。しかしながら、相続税法基本通達17−1《あん分割合》では、あん分割合に小数点以下2位未満の端数がある場合において、相続又は遺贈により財産を取得した者全員が選択した方法により、各財産取得者のあん分割合の合計が1になるようその端数を調整して、各財産取得者の相続税額を計算しているときは、これを認めて差し支えないものとし、この方法を選択した者について更正をする場合には、その選択した方法によって相続税額を計算することができるものとする旨定めている。更正をする場合のこの通達の定めは、上記のとおり強制するものではなく、任意とするものであり、これは、通常更正をする場面は、各財産取得者が当初申告した取得財産及びその評価額につき、更正においては異なる判断がされることが多く、すなわち、各財産取得者の相続税の課税価格が更正の前後で異なる額となることが多く、各財産取得者全員が当初申告において選択した端数調整方法を更正において用いると、各財産取得者全員又はその一部の者の意に反する結果となるおそれがあることからであると解される。
 したがって、更正をする場合において、各財産取得者が当初申告において選択した端数調整方法を用いることができるのは、例えば、更正の前後において各財産取得者全員の相続税の課税価格に増減がない場合等、極めて限定的に解するのが相当である。
 これを本件相続税についてみると、請求人らの課税価格は、上記1の(2)のイの相続税の申告書においては、請求人Hについては○○○○円、請求人Kについては○○○○円であるところ、本件各更正処分時においては、請求人Hについては○○○○円、請求人Kについては○○○○円であり、両者は異なる額となっていることから、本件各更正処分においては、あん分割合については、請求人らの選択した方法に依拠せずに、端数調整をすることなく、相続税額を計算するのが相当である。
ハ 本件各更正処分の適法性
 以上のことに基づき、本件相続税について、請求人Hの納付すべき税額を算出すると、別表9の審判所認定額のとおり、本件H更正処分の額を上回ることから、同処分は適法である。
 また、本件相続税について、請求人Kの納付すべき税額を算出すると、別表9の審判所認定額のとおり○○○○円となるから、本件K更正処分は、その全部を取り消すべきである。

(4) 本件H賦課決定処分について

 本件H更正処分は、上記(3)のハのとおり適法であるところ、本件H更正処分により増加した税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により行われた本件H賦課決定処分は適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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