(平成25年5月29日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、税理士業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税について、請求人の事業所得の金額の計算上、まる1請求人の妻に対する青色事業専従者給与の金額のうちその労務の対価として相当であると認められる金額を超える部分の金額は必要経費に算入することができない、まる2課税処分の取消訴訟に係る費用等は所得税法第45条《家事関連費等の必要経費不算入等》に該当し必要経費に算入することができないとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、原処分庁の認定には誤りがあるとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 平成20年分、平成21年分及び平成22年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について、審査請求(平成24年7月17日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。
 以下、平成24年3月13日付でされた本件各年分の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を、それぞれ「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」という。

(3) 関係法令

イ 青色事業専従者給与関係
(イ) 所得税法第57条《事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等》第1項は、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者(以下「青色申告者」という。)と生計を一にする配偶者その他の親族で専らその居住者の営む事業に従事するもの(以下「青色事業専従者」という。)が当該事業から同条第2項の書類に記載されている方法に従いその記載されている金額の範囲内において給与の支払を受けた場合には、その給与の金額でその労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは、その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る事業所得の金額の計算上必要経費に算入する旨規定している。
 以下、所得税法第57条第1項に規定する青色事業専従者の労務の対価として相当であると認められる給与の金額を「適正給与相当額」という。
(ロ) 所得税法施行令第164条《青色事業専従者給与の判定基準等》第1項は、所得税法第57条第1項に規定する政令で定める状況は、まる1青色事業専従者の労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、まる2その事業に従事する他の使用人が支払を受ける給与の状況及びその事業と同種の事業でその規模が類似するものに従事する者が支払を受ける給与の状況、まる3その事業の種類及び規模並びにその収益の状況とする旨規定している。
ロ 必要経費関係
(イ) 所得税法第37条《必要経費》第1項は、その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、事業所得の総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他事業所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする旨規定している。
(ロ) 所得税法第45条第1項本文及び第2号は、居住者が納付する所得税の額は、その者の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入しない旨規定している。

(4) 基礎事実

 次の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人の概要
(イ) 請求人は、昭和58年○月○日に税理士の登録を受けてd市内に開設した事務所(以下「本件事務所」という。)において税理士業を営み、平成20年、平成21年及び平成22年(以下、これらを併せて「本件各年」という。)において、請求人の妻であるM(以下「妻M」という。)と生計を一にしていた。
 請求人は、昭和59年分以後の所得税につき青色申告の承認を受けている。
(ロ) 請求人は、本件各年において、本件事務所に勤務するN、P、Q、R、S及びT(以下「本件各使用人」といい、妻Mと併せて「妻Mら」という。)から税理士の補助業務の労務の提供を受け、別表2のとおり、それぞれ給与等を支給していた。
 なお、本件各年において、本件各使用人が本件事務所に勤務した期間は別表3のとおりであり、本件各使用人はいずれも税理士資格を有していない。
(ハ) 請求人は、昭和59年2月9日、所得税法第57条の特例の適用を受けるため、別表4のとおり、妻Mに係る「青色専従者給与に関する届出書」を原処分庁に提出した。
 その後、請求人は、平成5年2月1日及び平成9年9月1日、それぞれ別表5及び別表6のとおり、妻Mの仕事の内容・従事の程度、月額給料の金額、賞与支給基準等を変更する「青色事業専従者給与に関する変更届出書」を原処分庁に提出した。
ロ 妻Mの概要
(イ) 妻Mは、本件事務所の開設当初から請求人の事業に従事していた者であり、本件各年において、年間を通じて従事していた。
 なお、本件各年において、妻Mは、税理士資格を有していない。
(ロ) 妻Mが、本件各年において、請求人から支払を受けた青色事業専従者給与の金額は、平成20年が11,600,000円、平成21年及び平成22年が各10,000,000円であった。
 以下、本件各年の妻Mの各青色事業専従者給与の金額を「本件各青色専従者給与額」という。
ハ 平成16年分、平成17年分及び平成18年分の所得税の各更正処分等及びその取消訴訟
(イ) 原処分庁は、平成16年分、平成17年分及び平成18年分(以下、これらを併せて「前回係争年分」という。)の所得税について、平成20年3月14日付で、請求人が妻Mに支給した青色事業専従者給与の金額のうちその適正給与相当額を超える金額は請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができないとして、各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行った。
 以下、原処分庁が行った上記各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を「前回更正処分等」という。
(ロ) 請求人は、平成20年5月12日の異議申立て、同年8月8日付の異議決定(棄却)、同年9月3日の審査請求、平成21年○月○日付の裁決(棄却)を経て、同年○月○日、前回更正処分等の取消しを求めてU地方裁判所に訴えを提起した。
 以下、請求人が提起した上記訴え(平成○年(○)第○号決定処分取消請求事件)を「本件訴訟」という。
(ハ) 請求人は、本件訴訟で請求人の訴訟代理人となったV弁護士に対し、本件訴訟に係る費用等(着手金、諸経費及び裁判所に出頭する際の日当等)として、平成21年に403,750円、平成22年に159,390円をそれぞれ支払った。
 以下、上記各金額を併せて「本件各訴訟費用等」といい、その内訳は別表7のとおりである。
ニ 確定申告の状況
 請求人は、本件各年分の所得税の確定申告において、本件各青色専従者給与額及び本件各訴訟費用等を、対応する各年分の事業所得の金額の計算上必要経費にそれぞれ算入した。
ホ 更正処分等
(イ) 原処分庁は、本件各青色専従者給与額が妻Mの適正給与相当額として認められるか否かについて、次の方法で検討した。
A 原処分庁は、本件各青色専従者給与額と本件各使用人が支払を受ける給与の状況(別表8のとおり算定した本件各使用人のうち年間を通じて請求人の事業に従事している使用人の給与総額の平均額)とを比較した。
 以下、原処分庁が採用した本件各青色専従者給与額と本件各使用人のうち年間を通じて請求人の事業に従事している使用人の給与総額の平均額とを比較する方式を「原処分採用給与比準方式」という。
B 原処分庁は、本件各青色専従者給与額と請求人の事業と業種、業態及び事業規模が類似する同業者(以下「類似同業者」という。)の青色事業専従者(以下「類似同業青色専従者」という。)が支払を受ける給与の状況(別表9のとおり算定した類似同業青色専従者の給与の平均額)とを比較した。
 以下、原処分庁が抽出した類似同業青色専従者を「本件比較青色専従者」といい、原処分庁が採用した本件各青色専従者給与額と本件比較青色専従者の給与の平均額とを比較する方式を「類似同業専従者給与比準方式」という。
C 原処分庁は、原処分採用給与比準方式及び類似同業専従者給与比準方式の各方式を用いて算出した給与の各金額と比較して、本件各青色専従者給与額がいずれも著しく高額なものとなるから、本件各青色専従者給与額を妻Mの適正給与相当額であると認めることはできない旨判断した。
(ロ) そして、原処分庁は、まる1本件各年分における妻Mの適正給与相当額は、上記(イ)のA及びBの各方式により算出される給与の各金額のうちいずれか高い金額とすることが相当であるとして、類似同業専従者給与比準方式により算出した給与の金額を妻Mの適正給与相当額と認定し、本件各青色専従者給与額のうち妻Mの適正給与相当額を超える部分の金額は本件各年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできず、また、まる2本件各訴訟費用等も平成21年分及び平成22年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできないとして、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を行った。

(5) 争点

  1. 争点1 本件各青色専従者給与額は、妻Mの適正給与相当額として認められるか否か、また、認められない場合、妻Mの適正給与相当額は幾らか。
  2. 争点2 本件各訴訟費用等は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができるか否か。

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2 主張

(1) 争点1(本件各青色専従者給与額は、妻Mの適正給与相当額として認められるか否か、また、認められない場合、妻Mの適正給与相当額は幾らか。)

原処分庁 請求人
イ 本件各青色専従者給与額が妻Mの適正給与相当額として認められるか否かは、所得税法第57条第1項及び所得税法施行令第164条第1項の各規定からすると、原処分採用給与比準方式及び類似同業専従者給与比準方式によって判断すべきである。
 そこで、次のとおり、上記の各方式により比較したところ、本件各青色専従者給与額は、いずれも著しく高額なものであることが認められるから、妻Mの適正給与相当額として認めることはできない。
(イ) 原処分採用給与比準方式
 妻Mらがいずれも税理士資格を有していないことからすると、妻Mの労務の性質は、本件各使用人の労務の性質と同様に税理士の補助事務の域を出るものではなく、また、妻Mが請求人の事業に従事した正確な時間数を証するものがないことから、妻Mの労務の提供の程度も本件各使用人と比較して大きな差異があったとは認められない。
 妻Mのこのような労務の性質及びその提供の程度からすれば、原処分採用給与比準方式の適用に当たっては、本件各青色専従者給与額と本件各使用人のうち年間を通じて請求人の事業に従事している使用人の本件各年の給与の平均額とを比較するのが相当であるところ、原処分採用給与比準方式で算出した本件各年の給与の平均額は、別表8の「平均額」欄の各金額となるのに対し、本件各青色専従者給与額は、上記1の(4)のロの(ロ)のとおりであるから、当該各平均額と比較して、いずれも2.6倍から3倍を超える高額なものであることが認められる。
 なお、上記のとおり、妻Mと本件各使用人の労務の性質及びその提供の程度に本件各青色専従者給与額の相当性の判断に影響する程度の差異はないとしても、具体的な労務の内容まで一致しているわけではないことからすれば、労務の内容に関して通常存する程度の差異があることはむしろ当然のことであり、当該差異は、本件各使用人のうち年間を通じて請求人の事業に従事している使用人の給与の平均値に吸収され捨象されるものであるから、本件各使用人の給与の平均額により判断することには合理性があり、また、原処分庁は、本件各青色専従者給与額の相当性の検討に際し、請求人が雇用する本件各使用人の給与の金額と比較する方法をとっているから、請求人の収益の状況を考慮している。
(ロ) 類似同業専従者給与比準方式
 原処分庁は、類似同業者の抽出に当たり、本件各年において、まる1L税務署及びその近隣署管内で税理士資格のみで税理士業を営む個人事業者であること(ただし、年の途中で開廃業、休業又は業態を変更した者、更正又は決定の各処分が行われた個人のうち国税通則法又は行政事件訴訟法所定の不服申立期間又は出訴期間が経過していない者及びこれらの争訟が係属している者を除く。)、まる2青色申告者で所得税青色申告決算書を提出している者であること、まる3税理士業に係る年間の売上金額(税込み)が請求人の本件各年分の売上金額(税込み)の2分の1以上、2倍以下であること、まる4会計法人あるいは税理士法人を有していないこと、まる5税理士資格を有していない配偶者のみを青色事業専従者としていること、まる6青色事業専従者が、年間を通じて、類似同業者の事業におおむね8時30分から18時頃までの間、常時勤務していること、まる7本件各年を通じて青色事業専従者給与を支給していることなどの条件を付し、これによって抽出した類似同業青色専従者を本件比較青色専従者として選定した。
 そして、類似同業専従者給与比準方式の適用に当たっては、本件各青色専従者給与額と本件比較青色専従者の本件各年の給与の平均額とを比較するのが相当であるところ、類似同業専従者給与比準方式で算出した本件各年の給与の平均額は、別表9の「平均額」欄の各金額となるのに対し、本件各青色専従者給与額は、上記1の(4)のロの(ロ)のとおりであるから、当該各平均額と比較して、いずれも2倍を超える高額なものであることが認められる。
 なお、本件比較青色専従者を上記のとおり選定したとしても、妻Mと本件比較青色専従者との間に、労務の内容に関して通常存在する程度の差異があることはむしろ当然のことであり、当該差異は、本件比較青色専従者の給与の平均値に吸収され捨象されるものであるから、本件比較青色専従者の給与の平均額により判断することには合理性があり、また、原処分庁は、類似同業者の抽出に際し、請求人の売上金額の2分の1以上、2倍以下の事業規模の者という基準を設定しているから、請求人の収益の状況を考慮している。
ロ 上記イのとおり、本件各青色専従者給与額は、妻Mの適正給与相当額として認められないところ、妻Mの適正給与相当額は、原処分採用給与比準方式及び類似同業専従者給与比準方式により算出した給与の各金額を比較し、いずれか高い金額とすることが相当である。
 そうすると、上記イのとおり、本件各年において、いずれの年も類似同業専従者給与比準方式により算出した給与の金額が原処分採用給与比準方式により算出した給与の金額よりも高い金額となるから、妻Mの適正給与相当額は、類似同業専従者給与比準方式により算出した給与の金額となり、平成20年が4,837,370円、平成21年が4,697,263円、平成22年が4,864,174円となる。
イ 妻Mは税務及び会計業務に30年以上従事しているベテラン職員であると同時に、本件事務所の副所長として、本件各使用人を管理する立場にあるとともに、本件事務所の財務管理の責任者でもあるなど、請求人の事業経営に深く関与しているから、妻Mの労務の性質は本件各使用人のそれと比較して大きな差異がある。
 また、労務の提供の程度が、事業に従事した時間数であるとすると、妻Mらが使用する各専用パソコンのログ記録(オペレーティング・システムの起動時刻及び停止時刻の記録。以下同じ。)から妻Mの従事した時間数を本件各使用人と比較しても、妻Mの労務の提供の程度は本件各使用人のそれと比較して大きな差異がある。
 このような妻Mの労務の性質及びその提供の程度からすれば、本件各青色専従者給与額は、その全額(平成20年分が11,600,000円、平成21年分及び平成22年分が各10,000,000円)が妻Mの適正給与相当額として認められるべきである。
ロ 原処分庁は、本件各青色専従者給与額が妻Mの適正給与相当額として認められるか否かについて、原処分採用給与比準方式及び類似同業専従者給与比準方式を採用して判断しているが、当該各方式によることは、次のとおり、いずれも合理性はない。
(イ) 原処分採用給与比準方式
 妻Mの労務の性質及びその提供の程度は、いずれも本件各使用人と比較して大きな差異があるから、原処分採用給与比準方式により本件各青色専従者給与額の相当性を判断することに合理性はない。
 また、本件各使用人の給与はその提供された労務に応じたものであり、妻Mの労務の提供の程度が本件各使用人のそれと比較して大きく上回っているにもかかわらず、原処分採用給与比準方式により算出された給与の金額は、本件各使用人の給与の最高額と同額であるか又は下回っているから、本件各使用人の給与の平均額により本件各青色専従者給与額の相当性を判断することに合理性はない。
(ロ) 類似同業専従者給与比準方式
 類似同業専従者給与比準方式を採用する場合、類似同業者が正しく抽出されたものであること、抽出された本件比較青色専従者の給与の金額が適正給与相当額であることがそれぞれ証明されたものでなければ、その算出された給与の金額と比較して本件各青色専従者給与額の相当性を判断することに合理性はないところ、原処分庁は上記の各事項について証明しているとはいえない。
 また、類似同業専従者給与比準方式により算出された給与の金額は、本件比較青色専従者の給与の平均額であるところ、本件比較青色専従者の給与の金額には平均額を上回る給与の金額もあり、これら平均額を上回る本件比較青色専従者の給与の金額を適正給与相当額というのであれば、本件比較青色専従者の給与の平均額により本件各青色専従者給与額の相当性を判断することに合理性はない。
(ハ) 収益の状況
 所得税法第57条第1項及び所得税法施行令第164条第1項は、青色事業専従者給与の相当性の判断基準の一つとして収益の状況を勘案して判断するとしているところ、原処分庁は、本件各青色専従者給与額の相当性の判断において、この収益の状況を全く検討していない。

(2) 争点2(本件各訴訟費用等は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができるか否か。)

原処分庁 請求人
 本件各訴訟費用等は、次の理由により、事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
イ ある支出が必要経費に該当するためには、業務について生じた費用であること、すなわち業務との関連性がなければならないとともに、業務の遂行上必要であることを要し、さらに、その必要性の判断においても、単に事業主の主観的判断のみによるものではなく、客観的に必要経費として認識できるものでなければならないと解されている。
ロ また、所得税基本通達(昭和45年7月1日付直審(所)30の国税庁長官通達)37−25《民事事件に関する費用》本文及び(3)の定めによれば、所得税法第45条第1項の規定により必要経費に算入されない所得税(同項第2号)に関する紛争に係るものは必要経費に算入されないとされている。
ハ これを本件についてみると、本件訴訟の訴えの趣旨は、前回更正処分等の取消しを求めるものであるから、本件各訴訟費用等は、所得税法第45条第1項第2号に掲げる所得税に関する紛争に係るものであると認められる。
 そうすると、本件各訴訟費用等は、請求人が税理士業に係る事業所得を得るため、業務と直接の関連性をもち、業務の遂行上必要な費用であると客観的に認められない。
 本件各訴訟費用等は、次の理由により、事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができる。
イ 本件訴訟は、請求人が前回係争年分の所得税の確定申告において事業所得の金額の計算上必要経費に算入した青色事業専従者給与の適正額を争うものであり、請求人が事業を営んでいなければ、当然に当該給与の支給もなく、本件訴訟も発生することがなかったのであるから、本件各訴訟費用等は、請求人の業務に関連して発生し、請求人の事業所得を生ずべき業務の遂行上必要な支出である。
ロ また、次のとおり、本件各訴訟費用等は、所得税法第45条第1項各号に規定する、事業所得の金額の計算上必要経費に算入しない家事関連費等に当たらない。
(イ) 上記イのとおり、本件各訴訟費用等は、請求人の業務に関連して発生し、請求人の事業所得を生ずべき業務の遂行上必要な支出であるから、その全額が所得税法第45条第1項第1号に規定する家事上の経費に当たらないことは明らかである。
(ロ) 所得税法には、所得税に関する紛争に係る弁護士の報酬その他の費用は必要経費に算入しないという規定はなく、本件各訴訟費用等が同法第45条第1項第2号から第11号までに掲げられたものに該当しないことは明らかである。

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3 判断

(1) 争点1(本件各青色専従者給与額は、妻Mの適正給与相当額として認められるか否か、また、認められない場合、妻Mの適正給与相当額は幾らか。)

イ 法令解釈
 所得税法第56条《事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例》は、事業者と生計を一にする親族が、その事業者が営む事業に従事したこと等を理由として当該事業から支給される対価は、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入されない旨定めているところ、同法第57条第1項は、青色申告の承認を受けている事業者の場合は、特例として、上記親族が受ける給与額のうち、政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められる部分は、必要経費に算入することができる旨定め、これを受けて所得税法施行令第164条第1項は、その状況として、まる1労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、まる2その事業に従事する他の使用人が支払を受ける給与の状況及びその事業と同種の事業でその規模が類似するものに従事する者が支払を受ける給与の状況、まる3その事業の種類及び規模並びにその収益の状況を挙げている。
 これらの法令は、親族に対する給与はとかくお手盛りになりがちで、無制限にこれを必要経費として認めると、課税の適正公平さを損なう危険性が高いことから、青色申告承認者に限り、かつ提供された労務との対価関係が明確であるものに限り、必要経費としての資格を与えたものと解するのが相当である。
 そして、所得税法第57条が、同法第56条の特例として青色事業専従者給与の必要経費算入を認めていることからすれば、適正給与相当額とは、上記まる1からまる3までの3つの要素を総合勘案して、青色事業専従者の労務の対価として相当であると客観的に認識できるものでなければならないものと解するのが相当である。
ロ 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 妻Mらの従事内容
 請求人が原処分庁へ提出した平成23年6月13日付の「書面による質問事項の回答」と題する書面、妻Mが本件各年において請求人の事業に従事した内容を日々継続的に記載した「税務日誌」と題する手帳(以下「本件税務日誌」という。)及び妻Mの原処分に係る調査の担当者(以下「本件調査担当者」という。)に対する申述から、本件各年において、まる1妻Mは、請求人が関与先から依頼を受ける税務又は会計に関する事務(以下「税務会計事務」という。)を関与先ごとに本件各使用人と分担していたほか、本件事務所の副所長として、本件各使用人が作成した会計帳簿等の内容の最終確認、本件各使用人の給与及び社会保険関係手続などの労務管理並びに本件事務所に係る現金・預金の管理及び月次試算表の作成などの事務所管理を行っていたこと、まる2本件各使用人は、請求人及び妻Mの指示に従い、請求人の関与先を分担して税務会計事務に従事していたことがそれぞれ認められる。
(ロ) 妻Mらの税務会計事務に係る経験年数
 妻Mらが作成した履歴書から、平成20年1月1日現在の税務会計事務に係る経験年数は、妻Mが通算30年5か月、本件各使用人のうちNが6年4か月、Pが通算17年3か月であったこと、そして、本件各使用人の中で税務会計事務の経験年数が最も長い者はPであったことが認められる。
(ハ) 妻Mらが従事した時間及びその記録
A 本件税務日誌
 本件税務日誌は、1ページ(見開き)を1週間単位として、日ごとに午前9時から午後8時まで1時間単位に目盛りが付され、午前8時30分頃から午後8時30分頃までの間のスケジュール等の記載ができる1年間を一冊とした手帳であるところ、本件税務日誌及び妻Mの当審判所に対する答述から、妻Mは、本件各年において、本件税務日誌に1日の業務の従事内容(関与先名や事務内容)を当日の業務終了時までおおむね30分単位で日々継続的に記録していたこと、妻Mは、午前8時30分より前に出勤した場合には本件税務日誌に出勤時刻を記載することもあったこと、本件税務日誌に当該出勤時刻が記載された日数は、平成20年が26日、平成21年が237日、平成22年が261日であったことが認められる。
 そして、妻Mが、本件調査担当者に対し、本件各年において、本件事務所には毎日午前7時から7時30分頃に出勤する旨申述し、請求人も、当審判所に対し、本件各年を通じて妻Mの従事状況は同様であった旨答述していることからすると、妻Mは、平成21年及び平成22年については、午前8時30分より前に出勤した場合に出勤時刻を本件税務日誌に記録していたが、平成20年については、午前8時30分より前に出勤した場合であっても、出勤時刻を本件税務日誌に記録しないこともあったことが認められる。
B 出勤簿
 本件各年における妻Mらの日々の出勤及び欠勤の状況を記録した妻M作成の「出勤簿」と題する書面(以下「本件出勤簿」という。)及び妻Mの当審判所に対する答述から、妻Mは、本件出勤簿に、「○」、「休」、「出」、「半」、「午前のみ」、「2.5h」などと表記して、妻Mらの日々の出勤の有無や時間単位での勤務状況を記録していたが、日々の出勤時刻及び退勤時刻については記録していなかったことが認められる。
(ニ) 本件事務所で妻Mらが使用するパソコンの状況
A パソコンの使用状況
 妻Mの当審判所に対する答述から、妻Mらが行う税務会計事務は、専ら本件事務所においてパソコンを使用して行うものであり、本件各年において、妻Mらは、各人が専用のパソコンを使用して請求人の業務に従事していたこと、通常、本件事務所に出勤した時に各人の専用パソコンの電源を入れ、本件事務所を退勤する時に当該パソコンの電源を切っていたことがそれぞれ認められる。
B パソコンの使用状況の記録
 請求人の当審判所に対する答述から、本件事務所で妻Mらが使用していた各パソコン内にはログ記録が一定期間保存されることが認められるところ、請求人が当審判所へ提出した平成20年1月1日から同年10月2日まで及び平成22年1月1日から同年12月31日までの各期間に対応するパソコンのログ記録を出力した書面(以下「本件ログ記録」という。)及び本件事務所で使用していたパソコンの使用者名を記載した書面から、本件各年における妻Mらの専用パソコンの稼働時間(日々の最初の起動時刻から最終の停止時刻までの時間をいう。以下同じ。)について、使用者ごとに月単位で集計して整理した状況は、別表10のとおりである。
 そして、本件ログ記録によれば、妻Mらの各専用パソコンの稼働時間は、本件出勤簿において出勤、欠勤、半日及び時間単位で表記された妻Mらの勤務状況とおおむね一致し、また、平成22年1月から同年12月までの妻Mの専用パソコンの各月の合計稼働時間は、本件税務日誌の妻Mの出勤時刻から退勤時刻(業務終了時刻)までの時間を当該各月について合計した時間とおおむね一致する。
(ホ) 本件各使用人が支払を受けた給与等の状況
 原処分関係資料から、本件各年において、本件各使用人が請求人から支払を受けた給与等の支給月別の内訳は、別表11のとおりであり、本件各使用人のうちPが本件事務所に勤務していた期間において請求人から支払を受けた給与の金額が最も高い者であったことが認められる。
ハ 判断
(イ) 争点について
A 妻Mの労務の性質
 上記1の(4)のイの(イ)のとおり、請求人は税理士業を営んでいるところ、資格を有する税理士が営む税理士業において資格のない者が提供する労務は、税理士が資格に基づき行う業務の補助業務又は税理士業務に付随する業務であり、いずれにせよ資格のない者が提供する各労務の性質は税理士業務の補助であると認められる。
 そして、上記1の(4)のロの(イ)のとおり、妻Mは本件各年において税理士資格を有しておらず、上記ロの(イ)のとおり、本件各年において妻Mが担当していた労務は、請求人の税務会計事務を関与先ごとに本件各使用人と分担して行うことのほか、本件事務所の副所長として、本件各使用人の労務管理、本件事務所に係る事務所管理等を行うことであったと認められ、このうち、妻Mが請求人の税務会計事務を行うことは、上記1の(4)のイの(ロ)のとおり、いずれも税理士資格を有していない本件各使用人の労務と同様のもので、税理士業務の補助業務に該当し、また、上記の労務管理、事務所管理等は、いずれも税理士業務に付随する業務に該当すると認められる。
 そうすると、妻Mが担当していた労務は、税理士業務の補助業務又は税理士業務に付随する業務であるから、妻Mの労務の性質は、本件各使用人のそれと比べて大きく異なるものではなかったと認められる。
B 妻Mの労務の提供の程度
(A) 上記ロの(ハ)のとおり、本件税務日誌及び本件出勤簿では、本件各年において妻Mらが請求人の事業に従事した時間を把握できないところ、上記ロの(ニ)のAのとおり、妻Mらは、各専用パソコンを使用して税務会計事務を行い、本件事務所に出勤したときに各人が専用パソコンの電源を入れ、本件事務所を退勤する時にその電源を切っていたこと、また、上記ロの(ニ)のBのとおり、本件ログ記録の期間に対応する妻Mらの各専用パソコンの稼働状況は、本件出勤簿に表記された妻Mらの勤務状況とおおむね一致し、平成22年1月から同年12月までの妻Mの専用パソコンの稼働時間は、本件税務日誌に記載された妻Mが業務に従事した時間ともおおむね一致することからすれば、当該各専用パソコンの稼働時間は、これらを専ら使用する妻Mらの請求人の事業に従事した時間を反映しているものと認められ、妻Mと本件各使用人がそれぞれ請求人の事業に従事した時間を相互に比較するための基準として、当該各専用パソコンの稼働時間を採用することには十分な合理性があると認められる。
 そして、別表10のとおり、妻Mの専用パソコンの稼働時間は、本件各使用人の専用パソコンの稼働時間と比べて最も長く、本件ログ記録の期間において、妻Mの専用パソコンの合計稼働時間(4,858.79時間)は、当該期間を通じて勤務しているNの専用パソコンの合計稼働時間(3,445.13時間)の1.41倍(小数点以下3位を四捨五入した後の数値)であったこと、Pが勤務していた期間において、妻Mの専用パソコンの合計稼働時間(4,338.08時間)は、本件各使用人の中で稼働時間が最も長いPの専用パソコンの合計稼働時間(3,190.59時間)の1.36倍(小数点以下3位を四捨五入した後の数値)であったことが認められる。
 パソコンのログ記録の上記の状況に加え、請求人は、当審判所に対して、本件各年において、本件ログ記録の期間とそれ以外の期間における妻Mらの請求人の事業への従事状況は同様である旨答述し、また、本件出勤簿及び本件税務日誌からも本件ログ記録の期間とそれ以外の期間との間で差異を認めるべき事情があったとは認められないことからすると、妻Mが請求人の事業に従事した時間は、本件各年を通じて本件各使用人より長く、本件各年を通じて勤務しているNの従事時間の1.41倍程度、Pが勤務していた期間(本件各年の約93%)において、本件各使用人の中で請求人の事業に従事した時間が最も長いPの従事時間の1.36倍程度であったと認められる。
 以上から、本件各年を通じて、妻Mと本件各使用人との間には、労務の提供の程度について、従事時間に現れる程度の差異があったものと認められる。
(B) この点、原処分庁は、上記2の(1)の「原処分庁」欄のイの(イ)のとおり、妻Mが請求人の事業に従事した正確な時間数を証するものがないことから、妻Mの労務の提供の程度も本件各使用人と比較して大きな差異があったとは認められない旨主張する。
 しかしながら、上記(A)のとおり、妻Mらの各専用パソコンの稼働時間は、当該各専用パソコンを専ら使用する妻Mらの請求人の事業に従事した時間を反映しており、妻Mと本件各使用人がそれぞれ請求人の事業に従事した時間を相互に比較するための基準として十分な合理性があると認められ、また、本件各年を通じて、妻Mと本件各使用人との間には、労務の提供の程度について、従事時間に現れる程度の差異があったものと認められる。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
C 適正給与相当額の検討
 適正給与相当額として認められるためには、上記イのまる1からまる3までの3つの要素を総合勘案して、労務の対価として相当であると客観的に認識できるものでなければならないところ、この場合において、上記イのまる1の要素を前提として、上記イのまる2のその事業に従事する他の使用人が支払を受ける給与の状況とその事業と同種の事業でその規模が類似するものに従事する者が支払を受ける給与の状況を勘案して適正給与相当額を判断すれば、前者の給与の状況については、事業者が収益の状況に照らして決定した使用人の給与の金額を勘案し、また、後者の給与の状況については、業種、事業規模等が類似する同業者を適正に選定してその青色事業専従者給与の金額を勘案することから、いずれも上記イのまる3の要素が考慮されているといえる。
 そこで、上記A及びBで認定した妻Mの労務の性質及びその提供の程度を前提として、本件各青色専従者給与額と本件各使用人が支払を受ける給与の状況と比較する方式(以下「使用人給与比準方式」という。)及び類似同業専従者給与比準方式により、本件各青色専従者給与額が適正給与相当額といえるか否かについて、以下検討する。
(A) 使用人給与比準方式
a 上記Aのとおり、妻Mの労務の性質は本件各使用人のそれと大きく異なるものではなく、上記Bの(A)のとおり、妻Mの労務の提供の程度は本件各使用人のそれと従事時間に現れる程度の差異があり、また、本件各使用人の間で労務の提供の程度及び質にある程度の差異があるのは当然であることからすると、比較対象とする使用人は、妻M及び本件各使用人間の上記状況を考慮した上で、本件各使用人の税務会計事務の経験年数、請求人の事業への従事期間及び請求人から支払を受けた給与等の金額を総合勘案して、妻Mの労務の提供の程度及び質に最も近い使用人を選定するのが合理的であると認められる。
 そして、本件各使用人のうちPは、上記ロの(ロ)のとおり、税務会計事務の経験年数が本件各使用人の中で最も長い者であり、上記Bの(A)のとおり、専用パソコンの稼働時間から認められる請求人の事業への従事時間が本件各使用人の中で最も長い者であり、上記ロの(ホ)のとおり、本件事務所に勤務していた期間において請求人から支払を受けた給与の金額が本件各使用人の中で最も高い者であったと認められるから、同人を比較対象の使用人として選定するのが相当である。
 しかしながら、Pは、別表3のとおり、平成22年10月20日に本件事務所を退職し、本件各年において継続して本件事務所に勤務していなかったものであるから、同人を比較対象とする使用人として採用するに当たり、平成22年については、同人の同年の給与等の金額のまま比較の基とすべきではなく、Pが1年間勤務したと仮定して推計した同年に支給されたであろう給与等の相当額を基とすべきである。
 すなわち、上記ロの(ホ)のとおり、Pが支払を受けた毎月の給与の金額は定額(別表11の「P」欄のとおり平成22年の給与月額は279,000円)であり、また、同人が平成22年を通して勤務していれば、同年12月の賞与の金額も平成21年の賞与の金額を参考に平成22年7月の賞与の金額と同額が支給されたと推測されるから、同年に支給されたであろう給与等の相当額を推計することは十分可能であり、これにより算定した同人の同年における給与等の相当額は4,464,000円(給与月額279,000円が11月及び12月に支給され、12月の賞与として418,500円が支給されたものとして計算した金額)となる。
 以上から、適正給与相当額の検討の基となる使用人給与比準方式による給与等の金額は、Pの平成20年の給与等の金額4,561,000円、平成21年の給与等の金額4,603,500円及び平成22年の給与等の相当額4,464,000円に、上記Bの(A)で認定した妻Mの従事時間のPの従事時間に対する割合1.36倍を乗じて算定した金額で、平成20年が6,202,960円、平成21年が6,260,760円、平成22年が6,071,040円となる。
 そうすると、本件各青色専従者給与額は、使用人給与比準方式により算定した上記各金額と比較して、平成20年が1.87倍(11,600,000円を6,202,960円で除し、小数点以下3位を四捨五入した後の数値)、平成21年が1.60倍(10,000,000円を6,260,760円で除し、小数点以下3位を四捨五入した後の数値)、平成22年が1.65倍(10,000,000円を6,071,040円で除し、小数点以下3位を四捨五入した後の数値)となり、いずれの年においても著しく高額であると認められる。
b この点、原処分庁は、上記2の(1)の「原処分庁」欄のイの(イ)のとおり、使用人給与比準方式の採用に当たっては、本件各青色専従者給与額と本件各使用人のうち年間を通じて請求人の事業に従事している使用人の本件各年の給与の平均額とを比較する方式(原処分採用給与比準方式)が相当である旨主張する。
 しかしながら、上記Bの(A)のとおり、本件各年を通じて、妻Mと本件各使用人との間には、労務の提供の程度について、従事時間に現れる程度の差異があったものと認められるところ、これら労務の提供の程度の差異を考慮することなく、原処分採用給与比準方式によって妻Mの適正給与相当額を判断することは相当ではない。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
(B) 類似同業専従者給与比準方式
 類似同業専従者給与比準方式は、業種、事業規模の類似性等の基礎的要件に欠けるところがない限り、本件比較青色専従者の給与の金額を平均することで、類似同業青色専従者の個別具体的事情等が捨象され普遍性が高められる合理的な方法であると認められる。
 そこで、当審判所が、原処分関係資料を基に、原処分庁が採用した類似同業者の抽出基準及び抽出状況を調査した結果、原処分庁は、本件各年において、類似同業者の抽出に際し、上記2の(1)の「原処分庁」欄のイの(ロ)のまる1からまる7までの基準を設け、当該基準に該当する類似同業者を機械的に抽出したこと、そして、このように抽出された本件比較青色専従者は、その配偶者の業種、事業規模等が請求人と類似していること、かつ、税理士資格を有しない者で、青色事業専従者として年間を通じて事務所等に常時勤務するなど、その労務の性質及びその提供の程度が妻Mと類似するという一定の基準により合理的に選定されていることが認められるから、本件各青色専従者給与額と本件比較青色専従者の給与の平均額とを比較することは、合理性を有するものと認められる。
 そして、原処分庁が算定した本件各年における本件比較青色専従者が支払を受けた給与の平均額は、別表9のとおり、平成20年が4,837,370円、平成21年が4,697,263円、平成22年が4,864,174円であるところ、これら平均額算定上の数値及び算定過程も正確である。
 そうすると、本件各青色専従者給与額は、類似同業専従者給与比準方式により算定した上記各金額と比較して、平成20年が2.40倍(11,600,000円を4,837,370円で除し、小数点以下3位を四捨五入した後の数値)、平成21年が2.13倍(10,000,000円を4,697,263円で除し、小数点以下3位を四捨五入した後の数値)、平成22年が2.06倍(10,000,000円を4,864,174円で除し、小数点以下3位を四捨五入した後の数値)となり、いずれの年においても著しく高額であると認められる。
(C) まとめ
 以上のとおり、本件各青色専従者給与額は、使用人給与比準方式及び類似同業専従者給与比準方式を用いて算定した各給与の金額と比較して、いずれも著しく高額と認められるから、妻Mの適正給与相当額とは認められない。
D 適正給与相当額の算定
 上記Cの(C)のとおり、本件各青色専従者給与額は、妻Mの適正給与相当額とは認められないところ、妻Mの適正給与相当額については、使用人給与比準方式及び類似同業専従者給与比準方式により算定した各給与の金額のいずれか高い金額とするのが相当である。
 そして、本件各年において、いずれも使用人給与比準方式で算定した給与の金額が、類似同業専従者給与比準方式で算定した給与の金額よりも高い金額となるから、妻Mの適正給与相当額は、平成20年が6,202,960円、平成21年が6,260,760円、平成22年が6,071,040円となる。
(ロ) 請求人の主張について
A 請求人は、上記2の(1)の「請求人」欄のイのとおり、妻Mは税務及び会計業務に30年以上従事しているベテラン職員であると同時に、本件事務所の副所長として、本件各使用人を管理する立場にあるとともに、本件事務所の財務管理の責任者でもあるなど、請求人の事業経営に深く関与しているから、妻Mの労務の性質は本件各使用人のそれと比較して大きな差異がある旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のAのとおり、資格を有する税理士が営む税理士業において、資格のない者が提供する労務は、税理士が資格に基づき行う業務の補助業務又は税理士業務に付随する業務であり、いずれにせよ資格のない者が提供する各労務の性質は税理士業務の補助であるとみるべきところ、上記(イ)のAのとおり、妻Mの労務の性質はいずれも税理士業務の補助であると認められ、また、請求人がその主張の根拠とする妻Mの従事年数及び副所長の肩書は、資格を有する税理士が営む税理士業において資格のない者が提供する労務の性質を左右するものではないから、これらを根拠として妻Mの労務の性質を本件各使用人のそれと比較して大きな差異がある旨の主張は相当ではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
B 請求人は、上記2の(1)の「請求人」欄のロの(イ)のとおり、妻Mの労務の性質及びその提供の程度は、いずれも本件各使用人と比較して大きな差異があるから、原処分採用給与比準方式により本件各青色専従者給与額の相当性を判断することに合理性はない旨主張する。
 確かに、上記(イ)のCの(A)のbのとおり、原処分採用給与比準方式によって妻Mの適正給与相当額を判断することは相当ではない。
 しかしながら、上記(イ)のA及びBで認定した妻Mの労務の性質及びその提供の程度を前提として、使用人給与比準方式及び類似同業専従者給与比準方式により、本件各青色専従者給与額の相当性を判断することに合理性が認められることは、上記(イ)のCのとおりである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
C 請求人は、上記2の(1)の「請求人」欄のロの(ロ)とおり、まる1類似同業専従者給与比準方式を採用する場合、類似同業者が正しく抽出されたものであること、抽出された本件比較青色専従者の給与の金額が適正給与相当額であることがそれぞれ証明されたものでなければ、その算出された給与の金額と比較して本件各青色専従者給与額の相当性を判断することに合理性はない旨、まる2本件比較青色専従者の給与の金額には平均額を上回る給与の金額もあり、これら平均額を上回る本件比較青色専従者の給与の金額を適正給与相当額というのであれば、本件比較青色専従者の給与の平均額により本件各青色専従者給与額の相当性を判断することに合理性はない旨それぞれ主張する。
 しかしながら、上記(イ)のCの(B)のとおり、原処分庁が採用した類似同業者の抽出基準には合理性があり、また、その抽出も機械的にされている上、類似同業専従者給与比準方式は、業種、事業規模の類似性等の基礎的要件に欠けるところがない限り、本件比較青色専従者の給与の金額を平均することで、類似同業青色専従者の個別具体的事情等が捨象され普遍性が高められる合理的な方法であると認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張にはいずれも理由がない。
D 請求人は、上記2の(1)の「請求人」欄のロの(ハ)のとおり、原処分庁は、本件各青色専従者給与額の相当性の判断において、収益の状況を全く検討していない旨主張する。
 しかしながら、適正給与相当額の算定に当たり、上記イのまる1の要素を前提として、上記イのまる2の要素である二つの給与の状況を検討することにより、上記イのまる3の要素の一つである収益の状況が考慮されることは、上記(イ)のCのとおりである。
 そして、当審判所は、上記イのまる1からまる3までの各要素を総合勘案して、本件各青色専従者給与額の相当性を判断している。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件各訴訟費用等は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができるか否か。)

イ 法令解釈
 所得税法第37条第1項は、その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、事業所得の総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における一般管理費その他事業所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定しているところ、上記規定に照らせば、事業所得における必要経費は、それが業務との直接の関連を持ち、業務の遂行上必要な費用であることが必要であり、ある支出が業務の遂行上必要か否かは、納税者の主観的な判断のみではなく、客観的に通常必要とされるものと認められるものでなければならないものと解するのが相当である。
ロ 判断
(イ) 争点について
 上記1の(4)のハのとおり、本件各訴訟費用等は本件訴訟を遂行するために支払われたものであり、本件訴訟は前回更正処分等により増加した所得税額を争うものであるところ、所得税法第45条第1項本文及び第2号が事業所得の金額の計算上所得税を必要経費に算入しない旨規定していることに照らせば、本件各訴訟費用等は、税理士業を営む請求人の業務と直接の関連を持ち、客観的に業務の遂行上必要な費用であるとはいえない。
 したがって、本件各訴訟費用等は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
(ロ) 請求人の主張について
 請求人は、上記2の(2)の「請求人」欄のとおり、本件訴訟は、請求人が前回係争年分の所得税の確定申告において事業所得の金額の計算上必要経費に算入した青色事業専従者給与の適正額を争うもので、請求人が事業を営んでいたことに起因して発生したものであるから、本件各訴訟費用等は、請求人の業務に関連して発生し、業務の遂行上必要な支出であり、また、所得税法第45条第1項各号に規定する家事関連費等に当たらないから、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができる旨主張する。
 しかしながら、本件訴訟が、妻Mに対する青色事業専従者給与の金額の適否を争点とし、請求人が事業を営んでいたことに起因して発生したものであったとしても、本件各訴訟費用等が、税理士業を営む請求人の業務と直接の関連を持ち、客観的に業務の遂行上必要な費用であるとはいえないことは、上記(イ)のとおりである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 本件各更正処分

イ 事業所得の金額
 上記(1)のハの(イ)のDのとおり、妻Mの適正給与相当額は、平成20年が6,202,960円、平成21年が6,260,760円、平成22年が6,071,040円となり、本件各青色専従者給与額(平成20年が11,600,000円、平成21年及び平成22年が各10,000,000円)は、本件各年のいずれの年においても、妻Mの適正給与相当額を上回るから、その上回る部分の金額(平成20年が5,397,040円、平成21年が3,739,240円、平成22年が3,928,960円)は、妻Mの労務の対価として請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
 また、上記(2)のロの(イ)のとおり、本件各訴訟費用等(平成21年が403,750円、平成22年が159,390円)は、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
 以上を前提として、本件各年分の事業所得の金額を計算すると、平成20年分が○○○○円、平成21年分が○○○○円、平成22年分が○○○○円となる。
ロ 総所得金額
 上記イのとおり、本件各年分の事業所得の金額は、平成20年分が○○○○円、平成21年分が○○○○円、平成22年分が○○○○円となり、請求人にはその他の所得金額はないから、当該各金額が本件各年分の総所得金額となる。
 そうすると、本件各年分の総所得金額は、いずれも本件各更正処分のそれを下回るので、本件各更正処分は、いずれもその一部を別紙1から別紙3までの「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(4) 本件各賦課決定処分

 上記(3)のロのとおり、本件各更正処分の一部がそれぞれ取り消されることに伴い、本件各年分の所得税に係る過少申告加算税の基礎となる税額は、平成20年分が○○○○円、平成21年分が○○○○円、平成22年分が○○○○円となるところ、これらの税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があると認められるものがある場合に該当しないから、平成20年分については同条第1項及び第2項の規定に基づいて、平成21年分及び平成22年分については同条第1項の規定に基づいて本件各年分の所得税に係る過少申告加算税の額を計算すると、平成20年分が○○○○円、平成21年分が○○○○円、平成22年分が○○○○円となる。
 そうすると、本件各年分の所得税に係る過少申告加算税の額は、いずれも本件各賦課決定処分のそれを下回るので、本件各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙1から別紙3までの「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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