(平成26年4月17日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が相続税の期限後申告書を提出したところ、原処分庁が、請求人が法定申告期限までに申告書を提出しなかったことについては国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、その全部の取消しを求めた事案であり、争点は次の2点である。
争点1 期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合に該当するか否か。
争点2 請求人が法定申告期限までに申告書を提出しなかったことについて、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否か。

(2) 関係法令等

 別紙2のとおりである。

(3) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

 審査請求(平成25年4月25日請求)に至る経緯は、別表1のとおりであり、次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人の叔父P2(以下「被相続人」という。)は、平成23年4月○日、自宅において死亡した(以下、被相続人の死亡により開始した相続を「本件相続」という。)。翌日の○日、請求人は、g県警察h警察署員からの連絡により、同日、被相続人の死亡の事実を知った。
ロ 本件相続に係る法定相続人は、請求人及び請求人の兄P3の2名であり、本件相続に係る遺産(以下「本件遺産」という。)は、別表2のとおりである。
ハ 請求人とP3との間で、本件遺産について分割協議が行われる前の平成23年10月○日にP3が死亡したため、本件相続に係るP3の相続人の地位は、請求人並びにP3の甥であるP4及びP5(以下「P5」といい、請求人及びP4と併せて「P3相続人ら」という。)の3名に承継された。
 本件相続に係る相続関係図は別紙3のとおりである。
ニ K税務署長は、平成23年11月28日、相続税の申告書用紙に「相続税の申告のしかた」と題する冊子、「相続税の申告等についての御案内」と題する書面(以下「本件案内文書」という。)及び「相続についてのお尋ね」と題する書面(以下「お尋ね書」という。)を同封して、P3宛に郵送した。
ホ 請求人は、平成24年2月○日、K税務署長に対して、上記ニにより郵送されたお尋ね書の用紙を使用し、要旨下記(イ)のとおり記載した回答文書(以下「本件お尋ね回答書」という。)に、下記(ロ)の書類を添付して提出した。
 なお、下記(イ)のCについては、「6千万」及び「7千」の記載のみが手書きであり、その他の記載は、あらかじめ印字されているものである。
(イ) 本件お尋ね回答書の記載内容
A 相続人について
 相続人は、P3と請求人の2人います。
B 被相続人の財産・債務等の明細
(A) 不動産
a 田(i市j町k) 3,635.45平方メートル (金額欄は空白)
b 田(i市j町m) 3,865平方メートル (金額欄は空白)
c 宅地(i市j町m○番地、○−○) 697.51平方メートル ○○○○円
d 宅地(i市j町m○番地) 191平方メートル ○○○○円
(B) 預貯金
a 定期預金(x1銀行) 11,091,369円
b 定期預金(x2銀行○○支店) 10,320,576円
(C) 葬式費用 1,623,560円
C 被相続人から相続により取得した遺産の課税価格(6千万円)が遺産に係る基礎控除額(7千万円)以下のため、申告は不要と思っています。
(ロ) 本件お尋ね回答書の添付書類
A 平成23年10月○日にP3が交通事故により死亡し、相続人が請求人1人になった旨記載したメモ
B 納税義務者が被相続人である、i市役所作成の平成23年度土地・家屋名寄帳
C 本件各不動産の種類、細目、利用区分、所在地、面積及び価額の記載(価額については、本件土地55及び本件土地59に限り、それぞれ○○○○円及び○○○○円である。)がある相続税申告書第11表の申告用紙
D 本件各土地のうち農地について、所在地及び面積の記載がある相続税申告書第12表の申告用紙
E 葬式費用の明細の記載がある相続税申告書第13表の申告用紙
ヘ 請求人は、本件相続に係る相続税の法定申告期限である平成24年2月○日(請求人が被相続人の死亡の事実を知った日である平成23年4月○日の翌日から起算して十月の応答する日の前日、以下「第1法定申告期限」という。)までに、本件相続に係る相続税の申告書を提出しなかった。
 また、P3は、第1法定申告期限前に本件相続に係る相続税の申告書を提出しないで死亡したため、P3相続人らは、P3に係る本件相続に係る相続税の申告書を、平成24年8月○日(以下「第2法定申告期限」といい、第1法定申告期限と併せて「本件各法定申告期限」という。)までに提出しなければならなかったが、P3相続人らは、当該期限までに、当該申告書を提出しなかった。
ト 請求人は、K税務署長所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査に基づき、平成24年11月5日、本件相続に係る相続税について別表1の「申告」欄のとおりとする期限後申告書(以下「本件申告書」という。)に、本件遺産の全てを請求人が取得する旨記載され、相続人として請求人の署名押印が、P3の相続人としてP3相続人らの各署名押印がある同日付の遺産分割協議書(以下「本件遺産分割協議書」という。)を添付して、K税務署長に提出した。
チ K税務署長は、本件申告書の提出により納付すべき税額に対して、平成24年11月9日付で、別表1の「賦課決定処分」欄のとおり、重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
リ 請求人は、本件賦課決定処分を不服として、平成24年12月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、本件遺産のうち、請求人が、被相続人の財産である旨本件お尋ね回答書に記載している財産等については、隠ぺい、仮装行為は認められず、本件申告書の提出により納付すべき税額のうち、本件預貯金11ないし本件預貯金15、本件預貯金22ないし本件預貯金24、本件預貯金33ないし本件預貯金40及び本件各不動産に対応する部分については、無申告加算税を賦課するのが相当であるとして、平成25年3月26日付で、別表1の「異議決定」欄のとおり、本件賦課決定処分の一部を取り消す異議決定をした。
ヌ 請求人は、異議決定を経た後の本件賦課決定処分に不服があるとして、平成25年4月25日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 争点1 期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合に該当するか否か。

請求人 原処分庁
 請求人が期限内申告書を提出しなかったことについて、次のとおり、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合に該当するから、本件賦課決定処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。
1 第1法定申告期限までに、約○○○○円に上る多額の相続税を支払うことはできなかった。
2 被相続人が、平成23年4月○日に亡くなって以来、P3が本件遺産を自分一人で相続すると言い、請求人には何も知らせず、自分一人で全て管理していたから、請求人は、被相続人名義の預貯金及び有価証券の存在を全く知らなかった。また、本件お尋ね回答書を提出した当時、被相続人名義の株券等は発見されていなかった。
 原処分庁は、請求人が、被相続人の預貯金の明細を見て、平成24年1月末には被相続人名義の預貯金の存在を把握していた旨主張しているが、請求人は、当時忙しく、被相続人の預貯金の明細は見ておらず、平成24年1月末に被相続人の預貯金を把握していた旨の申述をした事実もないし、仮にそうだとすれば、もっと早期に当該預貯金の相続手続をしていたはずであり、上記主張は、原処分庁の想像に基づくものにすぎない。
 相続手続を行った預貯金のうち、まる1L農業協同組合○○支店の貯金は、電柱の設置費用の入金通知があったこと、まる2x3信用金庫○○支店の預金は、P3の自宅で同金庫の封筒を見つけ、同金庫に電話連絡をしたこと、まる3x4銀行の預金は、同行○○支店に保険証を提示し、被相続人名義の預金を調べてもらったこと、まる4x5銀行○○支店の預金は、被相続人の自宅で証書が見つかったこと、まる5x6銀行○○支店の預金は、平成24年3月を過ぎた頃に証書が見つかったことなどがきっかけで、各預貯金の存在を把握したもので、また、x4銀行の預金については、平成24年3月15日に、x1銀行の口座に入金されるまで、その残高を知らなかったのであるから、請求人が、被相続人の預貯金の明細を見て、本件遺産のうち、本件預貯金33ないし本件預貯金40及び本件有価証券41以外のもの(以下「本件被相続人名義財産」という。)の存在を認識していた旨の原処分庁の主張は、事実と異なるものである。
 なお、本件お尋ね回答書を提出した当時、被相続人名義の不動産の権利証は発見されていなかったが、農地については、以前、母から大体の場所を聞いていて、平成24年1月11日にj町○○で固定資産税の明細書を請求し、入手した。
 本件お尋ね回答書は、上記のとおり、被相続人から以前に聞いていた財産について記載したもので、農地については、i市の農業委員会に納税猶予の申請書を提出しており、納税猶予が認められ、課税価格には含まれないものと思っていたから、同書面提出時の認識としては、同書面に記載の預貯金及び宅地の合計53,084,365円が本件遺産の課税価格であり、申告は不要であると思っていた。
 無申告加算税は、期限内申告書の提出がされなかったことによる納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、期限内申告書を提出しないことによる納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。通則法第66条第1項ただし書は、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、無申告加算税を課さないこととしているが、上記の無申告加算税の趣旨に照らせば、この「正当な理由があると認められる場合」とは、災害、交通や通信の途絶など、期限内申告書の提出がなかったことについて、真に納税者の責めに帰することができない客観的事情があり、上記のような無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷となる場合をいうものと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、次のとおりである。
1 納税が困難であるという事情は、申告書の提出を妨げるものではないから、請求人が主張する上記事情は、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由に該当しない。
2 請求人が、まる1平成23年12月26日に本件預貯金10の払戻しの手続を行ったこと、まる2平成24年2月16日に本件有価証券44について相続手続依頼書を提出したこと、まる3同年9月4日に本件調査担当職員に対し、同年1月末にはP3が残した預貯金の残高証明書等により被相続人名義の預貯金を把握していた旨申述し、当該残高証明書等を本件調査担当職員に対して提示したこと、まる4同年9月26日に本件調査担当職員に対し、被相続人名義の預貯金の通帳を提示したことなどからすれば、請求人は、第1法定申告期限までに、P3が残した被相続人名義の預貯金の残高証明書等の書類、預貯金の通帳、有価証券の通知書等を掌握し、それらの内容から、本件被相続人名義財産の存在を認識していたものと認められる。
 この点、請求人は、請求人が上記認識を有していた旨の原処分庁の主張内容は、事実と異なる旨主張するが、請求人が、本件調査担当職員に対し、被相続人名義の預貯金の残高証明書等及び通帳を提示していることなどからすれば、請求人の上記まる3の申述内容は、自然で合理的なものであって、また、請求人は、その内容について誤りがない旨を質問てん末書に署名押印していることからすると、上記申述は虚偽とはいえず、請求人の主張には理由がない。
 そうすると、請求人は、本件お尋ね回答書を提出する以前に本件被相続人名義財産の存在を認識し、本件相続について相続税の申告が必要であることを認識しながら、当該遺産を申告するつもりがなく、あえて当該遺産を全て記載しなかったという事情が存在するから、無申告加算税の趣旨からすれば、通則法第66条第1項ただし書の「正当な理由があると認められる場合」に該当しない。

(2) 争点2 請求人が法定申告期限までに申告書を提出しなかったことについて、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否か。

原処分庁 請求人
1 争点1で主張したとおり、請求人は、本件お尋ね回答書を提出する以前に、本件被相続人名義財産の存在を認識していたものと認められる。 1 争点1で主張したとおり、本件お尋ね回答書提出時の認識としては、同書面に記載の預貯金及び宅地の合計53,084,365円が本件遺産の課税価格であると思っていた。
2 また、請求人が、第1法定申告期限前にP6税理士及びK税務署長所属の相談担当職員(以下「本件相談担当職員」という。)に対し、複数回にわたって本件相続に係る相続税について相談したこと、請求人が提出した本件お尋ね回答書は、被相続人の遺産の総額が基礎控除額を超える場合には、死亡日の翌日から十月以内に相続税の申告と納税が必要になる旨記載された案内文書に同封の用紙が使用され、合計金額が基礎控除額以下となる財産が遺産として記載されていることなどからすれば、本件お尋ね回答書を作成し、提出するまでには、第1法定申告期限までに本件相続について相続税の申告が必要であると認識していたものと認められる。 2 また、本件遺産に係る基礎控除額が70,000,000円である旨の本件お尋ね回答書末尾の記載は、当初は空欄にしていて、平成24年2月○日に同書面を提出する際に、本件相談担当職員から言われたとおりに記載したものであり、そのときまで基礎控除額について知らなかった。K税務署での相談は、不動産の評価方法を教えてもらっただけであり、基礎控除額などを含めて、他には何も聞いていない。
3 重加算税を課するためには、納税者による期限内申告書の提出がされなかったこと(無申告行為)そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた無申告行為を要するものである。しかし、重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠ぺい等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき期限内申告書を提出しなかった場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当である。
 本件において、請求人は、第1法定申告期限までに本件相続について相続税の申告が必要であること及び本件被相続人名義財産の存在を認識しながら、本件預貯金10を請求人名義の預金に預け替え、本件有価証券44を請求人名義に変更した上、これら預貯金及び有価証券については、お尋ね書の用紙に記載したり、関係書類を提出したりすることもせず、あえてお尋ね書の用紙の預貯金欄に、一部の預貯金のみを記載し、被相続人から相続により取得した遺産の課税価格が遺産に係る基礎控除額以下である旨の同用紙の記載の下に署名押印してこれをK税務署長に提出したことは、「隠ぺい、仮装と評価すべき行為」(架空名義の利用や資料の隠ぺい等の積極的な行為)に当たる。
 また、仮に、「隠ぺい、仮装と評価すべき行為」が存在すると認められなかったとしても、請求人が、平成24年9月3日に本件調査担当職員に対し、被相続人から相続により取得した財産は、基礎控除額を下回っている旨の虚偽の申述を行ったこと、同月4日に本件調査担当職員に対し、本件お尋ね回答書に一部の財産のみを記載した動機について、税務署に知られたくなかったことである旨申述したこと、及びK税務署長に対して、遺産を過少に記載した本件お尋ね回答書を提出したことの各事実から、請求人には、本件お尋ね回答書提出時において、遺産を申告しない、又は少なくとも本件預貯金1ないし本件預貯金10、本件預貯金16ないし本件預貯金21、本件預貯金25ないし本件預貯金32及び本件各有価証券(以下「本件重加算税対象財産」という。)を申告しない意図が存在したと認められ、請求人が、本件預貯金10を請求人名義の預金に預け替え、本件有価証券44を請求人名義に変更した上、遺産を過少に記載した本件お尋ね回答書を提出したことは、「遺産を申告しない、又は少なくとも本件重加算税対象財産を申告しないとの意図を外部からもうかがい得る特段の行動」と認められる。
3 本件お尋ね回答書には、被相続人から、以前に聞いていた分について、はっきりと分かっているものを書いただけであり、また、遺産の課税価格が60,000,000円である旨の記載も、当初は空欄にしていて、平成24年2月○日に同書面を提出する際に、本件相談担当職員から言われたとおりに記載したものであり、故意に財産を隠したりしておらず、さらに、本件遺産を税務署に知られたくなかった旨申述した覚えはないから、重加算税の賦課要件には該当しない。
 なお、原処分庁は、本件お尋ね回答書に本件預貯金10の記載がないこと、及び本件有価証券44の関係書類の提出がないことを主張するが、前者については、記載漏れが1件あったとしても、納税が遅れたとはいえ、適正に、高額な相続税と延滞税を支払っており、また、後者については、本件お尋ね回答書を提出した当時、本件有価証券44の名義変更は完了しておらず、関係書類も発見されていなかった。
4 争点1で主張したとおり、無申告加算税の賦課要件を満たし、また、以上のとおり、重加算税の賦課要件も満たすから、本件賦課決定処分は適法であり、請求人の主張を採用することはできない。 4 以上のとおり、重加算税の賦課要件は満たさないから、仮に無申告加算税の賦課要件は満たしていると判断される場合であっても、本件賦課決定処分は、無申告加算税相当額を超える部分の金額につき取り消すべきである。

3 判断

(1) 争点1 期限内申告書の提出がなかったことについて通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合に該当するか否か。

イ 法令解釈
(イ) 無申告加算税の趣旨
 通則法第66条に規定する無申告加算税は、申告納税方式(通則法第16条第1項)を採用する国税において、確定申告が納税義務を確定させる重要な意義を有し、法定申告期限内に適正な申告が自主的にされることが税務行政の公正な運営を図る上での大前提となっていることから、期限内申告書が提出されなかった場合に加算税を課すことで、納税申告書を提出しないことによる申告義務違反の発生を防止するとともに、当初から適正に法定申告期限までに申告した者とこれを怠った者との間に生じる不公平を是正することにより、申告納税制度の秩序を維持し、もって適正な期限内申告の実現を図ろうとするものと解される。このような無申告加算税は期限後申告書の提出又は決定があった場合には、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合を除き、納税者に課せられた税法上の義務の不履行に対する一種の行政上の制裁として課せられるものである。
(ロ) 正当な理由があると認められる場合
 期限内申告書の提出をしなかった場合であっても例外的に無申告加算税が課せられない場合として通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、期限内申告書を提出しなかったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記(イ)のような無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解される。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件遺産の相続手続等
 本件遺産のうち次に掲げる預貯金及び有価証券に係る請求人による相続手続の状況は、それぞれ次のとおりである。
 なお、請求人は、本件遺産分割協議書の作成日後に相続手続がされた下記Fを除き、各相続手続に際して、各金融機関に対して、請求人のみが被相続人の相続人である旨を届け出ている。
A 本件預貯金1ないし本件預貯金9及び本件有価証券42
 請求人は、L農業協同組合○○支店に出向き、平成24年5月15日付で、本件預貯金1ないし本件預貯金5(本件預貯金1については、本件預貯金6ないし本件預貯金9を解約し、その払戻金を本件預貯金1に入金した後のもの。)の払戻金を請求人に支払うことを依頼する「相続貯金支払請求書」を同支店に提出した。
 また、本件有価証券42に相当する金額が、平成24年5月11日、「脱退出資金」として、同支店の請求人名義の普通貯金口座に入金された。
B 本件預貯金10
 請求人は、x3信用金庫○○支店に対し、平成23年12月26日付で、本件預貯金10の払戻しを依頼する「相続届」を提出し、これを原資に、同支店において、同人名義の定期預金5,000,000円及び5,388,072円の申込みをした。
 なお、上記「相続届」には、本件預貯金10の残高(1X,XXX,XXX円)の記載がある。
C 本件預貯金16及び本件預貯金30ないし本件預貯金32
 請求人は、平成24年3月9日、x6銀行○○支店に出向き、P3が死亡した旨申し立て、また、同年4月20日、同行○○支店に出向き、本件預貯金16及び本件預貯金30ないし本件預貯金32を請求人名義に変更することを依頼する「相続に関する依頼書」を提出した。
D 本件預貯金18、本件預貯金19、本件預貯金25及び本件預貯金26
 請求人は、平成24年2月14日、x4銀行に対し、電話で、相続に必要な書類を確認する旨申し立て、同月20日、同行○○支店に出向き、本件預貯金18、本件預貯金19、本件預貯金25及び本件預貯金26の全部を払い戻し、請求人名義の普通預金口座に入金することを依頼する「相続届」を提出した。
 なお、平成24年2月18日及び19日は、それぞれ土曜日及び日曜日であり、同行○○支店は、両日とも窓口営業をしていなかった。
E 本件預貯金20、本件預貯金21及び本件預貯金27
 請求人は、平成24年2月21日、x5銀行○○支店に出向き、P3が死亡したため、相続に必要な書類がほしい旨申し立てた。
F 本件預貯金28及び本件預貯金29
 請求人は、平成23年10月31日、x7銀行に対し、電話で、P3が死亡した旨申し立て、平成25年2月1日付で、同行○○支店に対し、本件預貯金28及び本件預貯金29の全部を払い戻し、請求人名義の普通預金口座に入金することを依頼する「相続手続依頼書」を提出した。
G 本件有価証券44
 請求人は、平成24年2月16日付の消印で、x7銀行○○証券代行部宛に、本件有価証券44及び当該株式に係る未受領配当金等を相続・受領することに同意する旨記載した「相続手続依頼書(兼同意書)」を郵送した。
 なお、上記「相続手続依頼書(兼同意書)」には、本件有価証券44の株式数(3,973株)の記載がある。
H 本件有価証券45
 請求人は、本件有価証券45につき、被相続人名義の特別口座から請求人名義の振替口座への振替を申請する旨記載した平成24年3月28日付の「一般承継(相続等)による口座振替申請書」をx8銀行に対して提出した。
I 本件有価証券46
 請求人は、本件有価証券46につき、被相続人名義の特別口座から請求人名義の振替口座への振替を申請する旨記載した平成24年2月16日付の「一般承継(相続等)による口座振替申請書」をx8銀行に対して提出した。
 なお、上記「一般承継(相続等)による口座振替申請書」には、本件有価証券46の株式数(6,050株)の記載がある。
(ロ) 請求人は、平成25年3月15日、本件各土地及び本件家屋61ないし63の、相続を原因とする所有権移転登記の申請に際して、e法務局i支局長に対して、次の各書面を提出した。
A P3及び請求人が、遺産について、協議を行った結果、上記各不動産の全部を請求人の所有とすることで確定した旨記載し、請求人のみが署名押印した「遺産分割協議書」と題する書面
B P4及びP5の記載がない「被相続人の相続関係説明図」と題する書面及び相続人は請求人だけで、他に相続人はいない旨記載し、請求人のみが署名押印した「上申書」と題する書面
(ハ) 通帳の提示された経緯
 本件調査担当職員は、平成24年9月20日、本件相続に係る遺産について下記ハの(ハ)の質問てん末書を作成するとともに、請求人に対し、被相続人、被相続人の兄であるP7、被相続人の姉であるP8、被相続人の姉であり請求人の母であるP9及びP3の通帳等を次回持参するよう指示した。
 平成24年9月26日、請求人は通帳等を持参した。
(ニ) その他
 本件預貯金23は、定期預金であり、平成23年12月5日付で自動継続処理されているが、同処理前の残高は、10,320,576円である。
ハ 請求人の申述等
(イ) 平成24年9月3日の申述内容
 請求人は、平成24年9月3日、K税務署において、本件調査担当職員に対し、要旨下記のとおり申述し、これらの申述等が録取された質問てん末書の末尾に自ら署名押印した。
A 被相続人は、以前は、P7とP8と3人でj町のmに住んでいたが、P7とP8が亡くなってからは一人で暮らしていた。被相続人の死後、P3が相続の関係を全てやっていたので、私はあまり分からなかったが、被相続人が健在の際、直接「x1」と「x2」にあるということは聞いていた。被相続人の財産は、本件お尋ね回答書に記載したものが全てであり、その価額の合計は、70,000,000円を下回っているから、申告は不要と思っている。
B (本件預貯金1ないし本件預貯金26、本件有価証券42ないし本件有価証券46及び本件各不動産に関する記載のある明細(以下「本件明細1」という。)を示されて、)これらの財産は知っている。P3の自宅に被相続人の財産の一覧があり、それを見て本件明細1に記載の財産の存在を知り、それを手掛かりに相続の手続をした。
C 上記Bの財産の一覧を見て、平成23年12月26日に本件預貯金10の払戻しの手続をしたから、それを見たのはその前である。
 「相続についてのお尋ね」に、一部の財産しか書いていないが、それは、被相続人が、P8の相続のときにも、母のP9にほとんど財産を渡さず一人で取っており、P8が亡くなる前から被相続人の名義にしていた預金もあって、私はそれを被相続人の財産として税務署に言うのは納得がいかなかった。
 本件明細1に書いてある財産以外に被相続人の遺産はない。
D P3との間で遺産分割協議らしいことはしなかった。
E 請求人の弟P11の子供であるP4及びP5もP3の遺産の相続人である。2人ともP3の相続の件で電話で話し、相続手続のために印鑑票や住民票を送ってくれたが、遺産について何も言ってきていない。被相続人のことについても同じである。
(ロ) 平成24年9月4日の申述内容等
 請求人は、同日、P3の自宅において、本件調査担当職員に対し、P3が残した、平成23年8月付で、本件預貯金11ないし本件預貯金16及び本件預貯金27について各金融機関が発行した残高証明書、要旨別表3のとおり記載された「定期預金・貸付信託等の評価明細書」と題する書面(同記載の預貯金は、本件預貯金2ないし5、12ないし15、19ないし21、23、24、26及び29ないし32と金額等がおおむね一致し、これら預貯金のことをいうものと認められる。以下「本件評価明細書」という。)、手書きのメモ1枚(本件預貯金2、3、5ないし9、23及び24と推認される預貯金が記載されたもの)と、普通預金通帳の写し1枚(以下、これらの書類を併せて「本件評価明細書等」という。)を提示し、以下のとおり申述した旨が記載された質問てん末書の末尾に自ら署名押印した。
 本件評価証明書等は、P3の自宅にあったものである。遺産中の預貯金のうち、x3信用金庫○○支店の預金については、生前に聞いていたので相続手続をした。他の預金については、本件評価明細書等を見て把握し、解約等の手続をした。解約の手続は2月頃にしたが、手続に2か月はかかり、請求人の名義に変わったのは4月頃である。P3が残した書類については、1月末に知っていた。本件評価明細書等があることを知っていたが、「相続についてのお尋ね」に、x1銀行とx2銀行○○支店しか書いていないのは、そもそもP8の相続の際、100,000,000円近い預金の全てを被相続人が相続し、母はほとんどもらえなかったことから、他の財産についてはP8の分だという強い思いがあって税務署に知られたくなかったためである。
(ハ) 平成24年9月20日の申述内容
 請求人は、平成24年9月20日、K税務署において、本件調査担当職員から、本件預貯金27ないし本件預貯金32に関する記載のある明細(以下「本件明細2」という。)の提示を受けて、以下のとおり申述した旨が記載された質問てん末書の末尾に自ら署名押印した。
 本件明細1及び本件明細2記載の財産(本件被相続人名義財産)のうち、不動産については、従来母親からも聞かされていたこと、株式については、被相続人の家のポストに通知書のようなものが届いていたこと、預金については、平成23年11月初め頃、P3の自宅でメモ等を見つけたことなどから、以前から、本件明細1及び本件明細2に記載の財産については、知っていた。本件明細2記載の財産のうち、x5銀行の預金については、自分が○○支店に行って相続の手続をした。これらの財産が被相続人の財産であると知っていて、本件お尋ね回答書に書かなかった理由については、書き漏れがあったかもしれない。控除が70,000,000円あると聞いていたので、計算に影響はないと思っていた。(70,000,000円を超える預金があるという指摘を受けて)申告の期限を過ぎているし、言っても仕方がないと思った。平成24年9月3日に、遺産は本件お尋ね回答書に記載のあるもので全てだと述べたのは、税務署に言うと税金がかかってくるので、言えなかったのである。
(ニ) 当審判所に対する平成25年8月29日の答述内容
 P3の死後、本件評価明細書や残高証明書等を発見し、引き継いだのは平成24年3月を過ぎた頃である。x4銀行への電話連絡は、平成24年2月中頃、預金明細のはがきが届いたのをきっかけに行った。
ニ 請求人が当審判所に対して提出した証拠
 請求人は、平成25年9月11日、当審判所に対して、M社が、平成21年8月17日頃に、電柱敷地料を本件預貯金1の口座に支払う旨記載した「電柱敷地料のお支払内容の確認について」と題する書面並びに表面にx3信用金庫○○支店の住所及び担当者の記載が、裏面にP3の住所及び氏名の記載がある封筒を提出した。
ホ 当てはめ
(イ) 多額の税金を期限内に納税できないから「正当な理由があると認められる場合」に該当するといえるか
 請求人は、多額の税金を期限内に納税できないことは、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ロ)のとおり、上記正当な理由があると認められる場合とは、真に納税者の責めに帰することができない客観的な事情があり、上記イの(イ)のような無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、請求人に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうところ、仮に、請求人の主張するような事情があったとしても、本件各法定申告期限までに申告書を提出した上で、相続税法第38条の規定に基づき、相続税の延納の申請をすることなどによって対処すべきであったのであり、このような事情は期限内に申告書を提出しないことについて請求人の責めに帰することができない事情とはいえない。
 したがって、請求人の上記主張は採用することができない。
(ロ) 請求人が、申告期限前には、基礎控除額以下の遺産の存在しか知らなかったなどとして「正当な理由があると認められる場合」に該当するといえるかについて
A 請求人は、本件遺産のうち、第1法定申告期限時点で確実に把握していたものは、本件お尋ね回答書に記載したものが全てであること、このうち農地については、納税猶予の適用を受けて、課税価格には含まれないものと思っていたことから、同書面提出時の認識としては、本件遺産の課税価格は基礎控除額以下であり、申告は不要と思っていたのであって、このことは、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当する旨主張する。
B そこで検討するに、当審判所の調査によれば、請求人が、第1法定申告期限時点で確実に把握していた財産を記載したとする本件お尋ね回答書及びその添付書類には、預貯金合計21,411,945円の他、本件各不動産が記載されているところ、これらの財産について、請求人が本件申告書に記載した評価額の合計は141,891,025円であり、相続税の基礎控除額である70,000,000円を優に超えているのであるから、請求人は、法定申告期限内に認識していた旨自認する遺産の価額等からしても、相続税の申告をしなければならないと認識すべきであったといえる。
 この点について、請求人は、本件各不動産のうち農地については、納税猶予の適用を受けて、相続税の課税価格には含まれないこととなるものと思っていた旨主張するが、納税猶予の適用を受ける予定であれば申告をしなくてよいというのは請求人の独自の見解と言うほかなく、請求人が税法の不知等からこのように誤解したことについて、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があるとも認められない。
 また、本件お尋ね回答書及びその添付書類に記載されたもの以外の預貯金や有価証券について、請求人は、第1法定申告期限までに把握していなかったとし、その理由として、本件相続開始後、遺産は共同相続人であった兄P3が全て管理していて請求人に対してその全容を知らせなかったし、P3が死亡した後は、来客が多かった上に農地の納税猶予に係る手続もあって忙しく、P3が作成した遺産の明細書等も見ていなかったなどと主張する。
 しかし、相続税法第27条第1項は、相続により財産を取得した者は、その者に係る相続税の課税価格に係る相続税額があるときは、法定の期限までに所定の事項を記載した申告書を提出しなければならないこととしているところ、法定申告期限までに適正な相続税を自主申告するためには、遺産の全容を正確に認識していることが必要であるから、請求人としては、相次いで親族を亡くし多忙であったなどの請求人主張の事情があったにせよ、法定申告期限までに遺産を調査し、その全容を把握するよう努力すべきだったのである。
 その上で検討するに、まずもって、本件預貯金1ないし32及び本件有価証券42ないし46は、被相続人名義であるところ、上記ハのとおり、請求人は、原処分庁調査時において、いささか概括的ではあるものの、第1法定申告期限前にこれらの預貯金等の存在を知っていたという趣旨の申述をし、それが記載された質問てん末書に署名・押印しているのである。
 このうち、本件預貯金2ないし9、11ないし16、19ないし21、23、24、26、27及び29ないし32は、請求人がP3宅から発見したとして原処分庁に提出した本件評価明細書等に記載のあった財産であるから、請求人としては本件各法定申告期限までにP3宅を捜すなどして本件評価明細書等を発見し、これら財産を把握することができたものと認めるのが相当である。
 本件預貯金10、18、25及び28、並びに本件有価証券44、46については、上記ロの(イ)のとおり、請求人が第1法定申告期限前に自ら銀行等に問い合わせ、相続手続をするなどしている。当審判所の調査によれば、本件預貯金17及び22並びに本件有価証券43については、P3が平成23年8月にこれらの預けられた銀行等に問い合わせをしていることが認められ、これらの銀行等に被相続人の死亡を連絡して調査をすることができたものといえるから、請求人において第1法定申告期限前に相応の努力をしても把握することができなかったものとは認められない。また、本件預貯金1及び本件有価証券42は、本件預貯金2ないし9と同一の金融機関に係るものであるし、本件有価証券45は、請求人が第1法定申告期限の約40日後に自ら銀行に対して相続手続をしているから、いずれも請求人において第1法定申告期限前に相応の努力をしても把握することができなかったものとは認められない。
 次に、本件預貯金33及び34の預貯金についてみるに、これらの預貯金は、第1法定申告期限の時点でP3名義であった。しかし、当審判所の調査によれば、これらの預貯金は、本件相続開始時には被相続人の名義であったのであり、相続開始後、これらの預貯金を把握したP3が、自己名義に変更する手続をしたものと認められる。
 当審判所の調査によれば、請求人はP3の相続人としてP3固有の遺産についてP3の相続に係る相続税の法定申告期限(第2法定申告期限と同日となる。)までにその申告をしておらず、請求人がN税務署長に提出した当該相続税に係る期限後申告書によればその価額は約140,000,000円で、基礎控除額である80,000,000円を大きく超えているから、請求人が本件預貯金33及び34の預貯金をP3の遺産であると認識していたとしてもその法定申告期限内に申告をしなかったといえるので、このような場合には、請求人に責めに帰すべき事由があるというべきであって、請求人が当該預貯金をP3名義であると誤信したことで本件各法定申告期限前に必要な調査をしなかった可能性があることをもって、無申告加算税を賦課することが不当又は酷になるとは到底いえない。
 他方、本件預貯金35ないし40は、請求人の伯父で被相続人の兄であるP7名義であって、そもそも本件申告書において被相続人の遺産とされた経緯も必ずしも明確ではない。そうすると、請求人がこれらの預貯金の存在を調査により把握することができたとしても、これを被相続人の遺産と認識することができたものとは認められない。
 なお、請求人が当審判所に対して提出した上記ニの各証拠書類は、請求人がこれら書面の到達まで、当該預貯金や有価証券の存在を調査しても把握できなかったことまでを示すものではない。
C 以上によれば、本件預貯金35ないし40については、請求人が本件各法定申告期限の時点で遺産として把握できなかったものといえて、請求人に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になるから、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に当たるが、本件遺産のうちそのほかの財産については、上記の場合に当たるとする請求人の主張は採用できない。
(ハ) 法定申告期限後の遺産分割協議により取得した財産のうち法定相続分を超える部分について、期限内申告書の提出がなかったことについて「正当な理由があると認められる場合」に該当するか。
A 相続税法第30条第1項の規定によれば、法定申告期限内においては、納付すべき相続税額がなく、その後同法第32条第1項第1号から第6号までに規定する事由(例えば、未分割の財産について法定相続分に従って課税価格が計算されていた場合において、その後遺産分割が行われた場合(同項第1号)や、遺留分減殺請求に基づき返還、弁償すべき額が確定したとき(同項第3号)、相続若しくは遺贈又は贈与により取得した財産についての権利の帰属に関する訴えについての判決があったとき(同項第6号、相続税法施行令第8条第2項第1号)などがこれに当たる。)が生じたために新たに納付すべき相続税額があることとなった者については、期限後申告書を提出することができる旨定めている。
 このような場合については、期限内に申告書が提出されなかったことについて行政上の制裁を課す必要がなく、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当する。
 ところで、相続税法第30条第1項の規定は、同法第27条第1項の規定による申告書提出期限内において納付すべき相続税額がない場合について規定したものである。しかし、法定申告期限において遺産が未分割であったが、法定相続分に従って課税価格を計算すれば納付すべき税額があったにもかかわらず、期限内申告書を提出しなかった納税者についても、遺産分割によって増えた相続分に係る税額については、法定申告期限後に生じた納税者の責めに帰することのできない事由により納付すべきこととなったものといえるから、上記行政上の制裁を加える必要がないことからすれば、同税額に相当する部分については、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するものとして、無申告加算税を課すべきでない。
B 上記1の(3)のトのとおり、請求人は、本件遺産分割協議書に基づき、本件遺産の全部を請求人が相続により取得したものとして本件申告書を提出しているところ、本件遺産分割協議書の作成日は、平成24年11月5日である。そうすると、第1法定申告期限(平成24年2月○日)のみならず、第2法定申告期限(平成24年8月○日)においても、本件遺産は未分割であったこととなる。しかし、遺産が未分割であったとしても、相続税の申告をしなくてよいわけではなく、請求人は、相続税法第55条の規定により、本件遺産のうち請求人の民法の規定による法定相続分である2分の1に相当する部分(以下「第1法定相続分」という。)を相続により取得したものとして、第1法定申告期限までに本件相続に係る相続税の申告を行わなければならなかった。また、請求人は、相続税法第27条第2項及び同法第55条の規定により、本件遺産のうちP3の民法の規定による法定相続分である2分の1のうち請求人のP3の相続に係る法定相続分である2分の1(本件遺産の4分の1に相当する部分に当たり、以下、第1法定相続分と併せた本件遺産に対する4分の3の割合を「本件法定相続分」という。)について、第2法定申告期限までに相続税の申告を行わなければならなかった。
 したがって、本件申告書において請求人が相続によりその全部を取得したものとした本件遺産のうち、本件法定相続分に相当する部分以外の部分(本件遺産の4分の1に相当する部分に当たり、以下「P4及びP5相続分」という。)については、平成24年11月5日に、本件遺産の分割につき、請求人、P4及びP5の合意が整い、その合意に沿って本件遺産分割協議書が作成されたことによって、請求人が初めて取得したものであり、本件各法定申告期限においては、請求人が相続により取得したものとしてあるいはP3から納付義務を承継したものとして申告する義務がなかったものと認められる。
 請求人は、本件法定相続分について本件各法定申告期限までに上記申告をする義務があり、本件遺産分割協議書記載の分割協議の成立により新たに上記各申告をすべき要件に該当することとなった者ではないから、本件申告書は、同法30条第1項に規定する期限後申告書には該当しないが、本件法定相続分に従って課税価格を計算すれば納付すべき税額があったにもかかわらず、期限内申告書を提出せず、その後、遺産分割が行われて本件法定相続分よりも多くの遺産を相続することとなり、分割後の相続分を前提に期限後申告書が提出された場合にも、本件各法定申告期限後の遺産分割によって新たに取得した相続分(P4及びP5相続分)に係る納付すべき税額部分に対しては、期限内申告書の提出がなかったことについて通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するものとして、無申告加算税を課すべきでないことは、上記Aのとおりである。
C この点、原処分庁は、請求人が、本件被相続人名義財産の存在を認識し、本件相続に係る相続税について申告が必要であることを認識しながら、期限内に申告書を提出せず、財産を過少に記載した本件お尋ね回答書を提出したのであるから、無申告加算税の制度趣旨からすれば、P4及びP5相続分についても通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当しない旨主張する。
 しかしながら、上記Bで認定説示したとおり、本件各法定申告期限以前に、請求人が、P4及びP5相続分を取得することが確定していたとは認められないから、原処分庁が主張するような事情があるとしても、当該部分について「正当な理由があると認められる場合」に該当するとの上記Bの判断を左右するものではなく、原処分庁の上記主張を採用することはできない。
D 以上によれば、本件申告書の提出により納付すべき税額のうち、P4及びP5相続分に対応する部分に係る無申告加算税は賦課できず、その部分を含む重加算税は、その全部を取り消すべきである。

(2) 争点2 請求人が法定申告期限までに申告書を提出しなかったことについて、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否か。

イ 法令解釈
 通則法第68条第2項に規定する重加算税の制度は、納税者が期限内申告書を提出しないことについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課するためには、納税者による期限内申告書の提出がされなかったこと(無申告行為)そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、無申告行為とは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた無申告行為がされたことを要するものである。
 しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠ぺい等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき期限内申告書を提出しなかった場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件案内文書の記載内容
 本件案内文書には、要旨次の記載があり、本件お尋ね回答書は、下記Bのお尋ね書の用紙により記載されている。
A お亡くなりになった方の遺産の総額が基礎控除額(50,000,000円+10,000,000円×法定相続人の数)を超える場合には、亡くなられた日の翌日から10か月以内に、相続税の申告と納付が必要となること。
B お亡くなりになった方の遺産の総額が基礎控除額に満たない場合等、相続税申告書を提出する必要がないときは、申告の要否の確認のため、同封のお尋ね書に該当事項を記入の上、申告期限までに回答すること。
(ロ) K税務署での申告相談
 請求人は、平成24年2月6日から14日までの間に、複数回にわたってK税務署に出向き、本件相談担当職員に本件相続に係る相続税について相談をした。
ハ 請求人の当審判所に対する答述
 請求人は、平成25年8月29日、当審判所に対して、要旨次のとおり答述した。
(イ) 平成24年2月6日から14日までの間に、本件相談担当職員から、本件相続に係る相続税の法定申告期限が同月○日であることを聞いた。
(ロ) 平成24年2月○日に、本件お尋ね回答書を提出する際に、本件担当職員から、基礎控除額が70,000,000円であることを教えてもらった。
(ハ) 本件お尋ね回答書を提出しようと思ったのは、申告をしなければならないと思ったからで、本件担当職員から提出をしょうようされたものではない。
ニ 当てはめ
(イ) 通則法第68条第2項は「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたとき」と規定し、重加算税を課するために、無申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた無申告行為がされたことを要することとしていることは上記イのとおりである。
(ロ) 原処分庁は、請求人が、第1法定申告期限までに本件相続に係る相続税の申告が必要であること及び本件被相続人名義財産の存在を認識しながら、本件預貯金10を請求人名義の預金に預け替え、本件有価証券44を請求人名義に変更した上、遺産を過少に記載した本件お尋ね回答書を提出したことは、「隠ぺい、仮装と評価すべき行為」に当たる旨主張する。
A 確かに、請求人が、第1法定申告期限前に、本件預貯金10を請求人の自宅の近隣の金融機関において請求人名義の預金に預け替え、本件有価証券44を請求人が相続する旨記載した「相続手続依頼書(兼同意書)」を郵送したことは認められる。しかし、例えば、請求人が、遠隔地にある金融機関に請求人名義の預金口座を開設し、被相続人名義の預貯金をこれに預け替えたり、被相続人名義の預貯金を解約し、他の種類の財産にしたりしたというのであれば格別、自己が相続したことを前提に金融機関において相続手続をしたり、自己名義の預金に預け替えたというだけでは、請求人が、財産を隠ぺいし、又は仮装したなどと評価することはできない。
B 次に、本件お尋ね回答書の提出について検討する。
 本件お尋ね回答書は、K税務署長から送付されたお尋ね書への回答として提出されたものである。
 お尋ね書は、実務上、課税庁において、一定の基準に基づき、相続税の申告が必要と見込まれる者に対して、相続税の申告についての案内文書と共に送付されるものである。しかしながら、上記申告の案内がなされたとしても、遺産の価額が法定相続人の数によって計算される基礎控除額の範囲内の場合等もある。課税庁としては、直ちに遺産や相続人の全容を知ることはできないから、上記申告の案内がなされたにもかかわらず、相続税の申告がされない場合には、それが、申告義務のない場合かどうかを確認する手掛かりもない。そこで、お尋ね書を送付し、相続人に対し、他の相続人の存在や、被相続人の財産・債務等の情報を照会するのである。相続人としては、相続税の納税義務を負わないと判断した場合には、上記お尋ね書に対する回答書のみを提出して課税庁における確認の用に供し、相続税の納税義務を負うものと判断した場合には、相続税の申告書を提出することとなるのである。
 このような本件お尋ね回答書の性質からすれば、請求人において、期限内申告書を提出しない場合に、申告を要しないものと考える旨記載された本件お尋ね回答書を提出したことは、いわば、相続税の申告をすべきことを知りながら、これをしなかったこと(認識ある無申告)と同等の行為と評価することができるのであって、無申告行為そのものとは別に、「隠ぺい、仮装と評価すべき行為」をしたものと認めることはできず、原処分庁の上記主張は採用することができない。
(ハ) もっとも、仮に架空名義の利用や資料の隠ぺい等のように、「隠ぺい、仮装」と評価すべき積極的な行為が認められなかったとしても、納税者が、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき期限内申告書を提出しなかった場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解されるところ、原処分庁は、請求人が、平成24年9月3日に本件調査担当職員に対し、被相続人から相続により取得した財産は、基礎控除額を下回っている旨の虚偽の申述を行ったこと、同月4日に本件調査担当職員に対し、本件お尋ね回答書に一部の財産のみを記載した動機について、税務署に知られたくなかったことである旨申述したこと、及びK税務署長に対して、遺産を過少に記載した本件お尋ね回答書を提出したことの各事実から、請求人には、本件お尋ね回答書提出時において、遺産を申告しない、又は少なくとも本件重加算税対象財産を申告しない意図が存在したと認められ、請求人が、本件預貯金10を請求人名義の預金に預け替え、本件有価証券44を請求人名義に変更した上、遺産を過少に記載した本件お尋ね回答書を提出したことは、「遺産を申告しない、又は少なくとも本件重加算税対象財産を申告しないとの意図を外部からもうかがい得る特段の行動」と認められる旨主張するので、以下検討する。
A 確かに、請求人は、原処分庁調査時において、基礎控除額を上回る遺産の存在を知りながら、これについて申告しないことを意図し、本件お尋ね回答書の「申告は不要と思っています。」との印字の下に署名して、第1法定申告期限当日に、これをK税務署長に対して提出した旨記載された質問てん末書に署名、押印している。
B しかし、重加算税の賦課要件を満たすためには、当初から無申告の意図があったというだけでは足りず、請求人が、本件被相続人名義財産について申告をしない意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたことが必要となる。
 本件預貯金10を請求人名義の預金に預け替え、本件有価証券44について金融機関に相続手続をして請求人名義に変更したことは、それ自体として、請求人の、本件被相続人名義財産を申告しない意図を外部からもうかがい得る行動であるとは評価し得ない。
 請求人が、これらの預金について遺産であると知りながら、これらの記載のない本件お尋ね回答書を提出したことは認められるが、そうであったとしても、上記(ロ)のBで認定説示したとおり、本件お尋ね回答書の提出は、認識ある無申告と同等の行為と評価することができるから、請求人の当該行為をもって、請求人が、無申告行為とは別に、「本件被相続人名義財産について申告をしない意図を外部からもうかがい得る特段の行動」をしたなどと評価することはできない。
 また、上記(ロ)のBのお尋ね書に係る運用からすれば、お尋ね書の回答書面は、課税庁が、当該相続が申告を要するものであるか否かの判断材料を得ることを主な目的として、納税者に対して任意に提出を求める書面であると解される。その上で、本件お尋ね回答書の記載内容をみるに、確かに、申告を要しない旨の記載があるが、他方で、本件相続に係る基礎控除額が70,000,000円である旨記載した上で、金額の分かっている預貯金及び宅地として合計53,084,365円等を記載し、さらに、本件各不動産について、所在地、地目、地積及び固定資産税評価額の記載された書類を添付している。そして、ここに記載された不動産及び預貯金の総額は、後に提出された本件申告書によれば141,891,025円にも及ぶのである。そうすると、原処分庁として、本件お尋ね回答書及びその添付書類を見れば、請求人が、申告義務を有することを十分に予想することができたものということができるのである。このような本件お尋ね回答書及びその添付書類の記載内容からしても、これを提出したことをもって、「本件被相続人名義財産について申告をしない意図を外部からもうかがい得る特段の行動」と評価した上で、重加算税の賦課要件を満たすものとすることは相当でない。
(ニ) 以上によれば、原処分庁の上記主張はいずれも採用することができず、請求人が第1法定申告期限までに本件相続に係る相続税の申告書を提出しなかったことについて、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件が満たされているとはいえない。

(3) 本件賦課決定処分について

 そうすると、本件申告書の提出により納付すべき税額○○○○円から上記(1)のホの(ロ)及び(ハ)の「正当な理由」がある部分(まる1本件預貯金35ないし40の金額の合計額6,734,784円とまる2本件遺産の合計額○○○○円から上記6,734,784円を控除した金額にP4及びP5相続分である4分の1を乗じた金額○○○○円の合計額○○○○円)について通則法施行令第27条によって計算した納付すべき税額○○○○円を差し引いた残額○○○○円(10,000円未満切捨て)が、無申告加算税の対象となるべき税額であり、当該税額に対する無申告加算税相当額は、別紙1の「取消額等計算書」に記載のとおり○○○○円となる。したがって、本件賦課決定処分のうちこれを超える部分は、別紙1のとおり取り消すべきである。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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