(平成26年6月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、共同相続人の一人に係る滞納相続税に関し、審査請求人(以下「請求人」という。)に相続税法第34条《連帯納付の義務等》第1項に規定する連帯納付義務があるとして、同条第6項の規定に基づき、連帯納付義務の納付通知処分をしたのに対し、請求人が、本来の納税義務者には滞納相続税を納付できる十分な資力、財産があり、同人から徴収することが極めて容易であるなどの状況があるにもかかわらず、恣意的に請求人から徴収するため当該納付通知処分をしたことが徴収権の濫用に当たるなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令の要旨

 別紙のとおり。

(3) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

 審査請求に至るまでの経緯を含む以下の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、平成20年12月○日に死亡した被相続人Hの相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、共同相続人であるJ、K及びGとともに、相続税の申告書を法定申告期限(平成21年10月○日)までに共同して原処分庁へ提出した。
ロ L地方裁判所は、平成22年7月○日付で破産者をGとする破産手続の開始を決定し、破産管財人(以下「本件破産管財人」という。)を選任した。
ハ 請求人、J及びK(以下「請求人ら」という。)は、本件相続に係る請求人らの各相続税について、M国税局長所属の調査担当職員の調査(以下「本件相続税調査」という。)を受け、平成24年1月31日に修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を共同して原処分庁へ提出した。
ニ 原処分庁は、本件修正申告書の提出に伴い、請求人らに対して、平成24年5月7日付で過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ホ 原処分庁は、本件相続税調査に基づき、本件相続に係るGの相続税について、平成24年10月11日付で更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件更正処分等」という。)を行い、同日、本件破産管財人に更正通知書及び加算税の賦課決定通知書を送達した。
ヘ 原処分庁は、通則法第38条第1項第1号の規定に基づき、本件更正処分等により納付すべき相続税の納期限を平成24年11月12日から同年10月12日に繰り上げて、その納付を請求する旨記載した同年10月11日付の繰上請求書により繰上請求処分を行い、同日、本件破産管財人に送達した。
ト 原処分庁は、請求人に対して、相続税法第34条第5項の規定に基づき、同条第1項に規定する連帯納付義務の制度の概要のほか、督促後1月を経過しても完納されていない本件相続に係る相続税があり、当該相続税について各相続人に連帯納付義務が生じている旨などを平成24年11月20日付の「相続税の連帯納付義務について」と題する文書により通知した。
チ 原処分庁は、相続により受けた利益の価額に相当する金額(以下「連帯納付責任限度額」という。)を限度に、相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務を負うとして、請求人に対して、同条第6項の規定に基づき、次の事項を記載した平成25年3月27日付の納付通知書により、納付通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
(イ) 繰上請求処分の後も完納となっていない本件更正処分等により納付すべきGの固有の相続税(以下「本件滞納相続税」という。)について、G及び他の相続人と連帯して納付する責任を負う旨
(ロ) 本件滞納相続税の連帯納付責任に係る相続税は、別表のとおりであり、当該相続税を請求人から徴収することとした旨
(ハ) 本来の納税義務者であるGの住所及び氏名
(ニ) 請求人の連帯納付責任限度額を○○○○円とする旨
(ホ) 納付基準日を平成25年5月27日とし、納付基準日までに納付されない場合は督促状が送付される旨
リ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成25年4月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年6月6日付で棄却の異議決定をした。
ヌ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成25年7月3日に審査請求をした。

2 争点

(1) 争点1 本件通知処分が徴収権の濫用に当たるか否か。
(2) 争点2 請求人の連帯納付責任限度額が過大であるか否か。

3 主張

(1) 争点1 本件通知処分が徴収権の濫用に当たるか否か。

請求人 原処分庁
 相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務は、同法が相続税徴収の確保を図るため、相互に各相続人に課した特別の責任であることに照らすと、単に、国税当局において本来の納税義務者から相続税の徴収を怠ったというにとどまらず、本来の納税義務者が現に十分な資力、財産を有し、同人から滞納に係る相続税を徴収することが極めて容易であるにもかかわらず、国税当局が同人又は第三者の利益を図る目的をもって恣意的に同人から相続税の徴収を行わず、同項の規定に基づき、他の相続人等に対して滞納処分を執行することは、当該滞納処分が形式的には租税法規に適合するものであっても、正義公平の観点からみて徴収権の行使として許容できず、権利の濫用に当たり違法である旨判示している裁判例は、東京地方裁判所平成10年5月28日判決(平成9年(行ウ)第2号督促処分取消請求事件。以下「平成10年東京地裁判決」という。)など多数存在する。
 本件の場合、連帯納付義務が本来の納税義務者の納税義務の確定とともに法律上当然に生じていること及び連帯納付義務に徴収上の補充性がないことを前提としても、本件通知処分が平成10年東京地裁判決の規範(以下「本件規範」という。)を無視していることは以下のとおりであり、正義公平の観点から徴収権の行使として許されている範囲を超えるものであるから、徴収権の濫用に当たるというべきである。
 なお、本件規範の当てはめにおいて、以下のイないしニの4点のうち、ロのGに十分な資力、財産があったか否かが最も重要な判断基準となるから、この点につき本件規範を無視していることになれば、原処分庁から特段の反論のない限り、他の3点についても本件規範を無視していることになる。
 相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務は、同法が相続税徴収の確保を図るため、相互に各相続人に課した特別の責任であって、その義務履行の前提をなす連帯納付義務の確定は、各相続人の固有の相続税の納税義務の確定という事実に照応して、法律上当然に生ずるものであり、連帯納付義務につき格別の確定手続を要するものではないと解するのが相当であるから、請求人の連帯納付義務は、Gの納税義務の確定とともに、法律上当然に生じている。また、相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務には徴収上の補充性がないため、本来の納税義務者の固有の相続税の納税義務が確定すれば、国税の徴収に当たる所轄庁は、連帯納付義務者に対して徴収手続を行うことが許されていると解されている。
 そして、原処分庁は、相続税法第34条第5項及び同条第6項の規定に基づき、請求人に対し、平成24年11月20日付で同条第5項に規定する通知をした上で、平成25年3月27日付で本件通知処分をしている。
 したがって、本件通知処分は、法令の規定に従って適法になされており、本件規範に照らしても、以下のとおり、その各手続に違法又は不当な点は存在しないから、徴収権の濫用に当たらない。
 なお、平成10年東京地裁判決は、請求人の主張する4点の全てを満たせば、当然に徴収権の濫用に当たると判示したものではなく、また、各点の重要度に差異を設けて、十分な資力、財産があったとすれば、他の3点についても本件規範を無視することになる旨を判示したものでもないから、本件規範の当てはめに関する請求人の主張は独自の見解である。
イ 徴収を怠ったか否かについて
 原処分庁は、本件滞納相続税の本来の納税義務者であるGが既に破産手続の開始決定を受けていることを理由として、同人からの徴収を諦め、請求人に対して安易に本件通知処分を敢行したものである。 
 したがって、原処分庁は、本件滞納相続税を本来の納税義務者であるGから徴収すべきであって、同人に破産手続が開始されている以上、同時廃止事案である場合はともかく、まずGに係る破産財団(以下「本件破産財団」という。)からの徴収を図るべきことは当然であるから、本来の納税義務者から相続税の徴収を怠ったというべきである。
イ 徴収を怠ったか否かについて
 原処分庁は、通則法第38条第1項第1号の規定に基づき、本件滞納相続税の納期限を平成24年11月12日から平成24年10月12日に繰り上げ、同日を期限として納付を請求する旨記載した繰上請求書を平成24年10月11日に本件破産管財人に対し交付送達しており、また、原処分庁から通則法第43条第3項の規定により徴収の引継ぎを受けたM国税局長は、本件滞納相続税について、平成24年10月31日に本件破産管財人及びL地方裁判所に対して交付要求をしている。
 したがって、原処分庁は、本件滞納相続税の徴収を怠っておらず、むしろ迅速な徴収に努めているというべきである。
ロ 十分な資力、財産の有無について
 Gが本件滞納相続税の額をはるかに超える○○○○円の相続財産を取得して間もなく破産し、直ちに本件破産管財人によって当該相続財産を含めた資産を厳重に管理されるに至っているから、本件破産財団は、現に十分な資力、財産を有しているというべきであって、また、本件相続税調査を担当した職員や当時の関与税理士からも、Gは本件相続税調査に係る相続税を納付できる十分な資力、財産を有している旨の発言があったので、Gが単に破産したとの理由で資力、財産を有しないと結論付けることはできない。
 したがって、原処分庁は、Gには本件滞納相続税を納付するだけの資力、財産を有しない旨を主張するのであれば、本件破産財団の資力、財産状況の調査結果及び本件滞納相続税の回収状況等の事実を明らかにする義務があり、本件通知処分をした時点で、Gが資力、財産を有しない状態であったことを積極的に立証しない限り、本件通知処分が権利の濫用に当たる旨の請求人の主張には理由がある。
ロ 十分な資力、財産の有無について
 Gは、平成22年7月○日に破産手続の開始決定を受けているから、本件更正処分等の時点において、既に破産者である。
 そして、破産法第2条《定義》第11項及び同法第15条《破産手続開始の原因》第1項の規定からすると、破産手続は、債務者が支払能力を欠くためにその弁済期にある債務を一般的かつ継続的に弁済することができない支払不能にあるときに開始されるのであって、現在も係属中であるから、本件通知処分の時点及び現在に至るまでGが現に十分な資力を有しているとはいえない。
 ところで、請求人は、原処分庁に対し、具体的な滞納処分の状況等の事実を明らかにし、又は、積極的に立証すべき旨を主張するが、これらの点については、通則法第126条に規定する国税の徴収に関する事務に該当するから、守秘義務があり回答できず、また、本件通知処分は適法にされているから、回答する必要性も認められない。
ハ 徴収が容易か否かについて
 破産手続において、本件滞納相続税は、他の一般債権者に優先して弁済を受ける財団債権ないし優先的破産債権であって、さらに、本件破産財団の換価手続は本件破産管財人が行い、原処分庁の手間も省けるなど本件滞納相続税を徴収することは極めて容易である。
 この点について、原処分庁は、破産法第43条第1項の規定により、本件破産財団に属する財産に対して滞納処分できない旨主張する。
 しかしながら、本件破産管財人は国税当局と同じ権限で徴収に当たることができるのであって、滞納処分には、交付要求も含まれるから、Gに破産手続が開始したことをもって本件滞納相続税を徴収できないということにはならない。
 したがって、原処分庁は、本件破産管財人に対して速やかに交付要求をし、これに基づき本件破産財団から本件滞納相続税を徴収すべきであり、また、本件通知処分に前置して、交付要求によって本件滞納相続税の全額の弁済を受けられるか否かを調査し、Gが現に十分な財産を有し、同人から本件滞納相続税を徴収することが極めて容易であるという事情の有無を確認すべき義務を負っているというべきである。
ハ 徴収が容易か否かについて
 本件更正処分等の時点では、既にGの破産手続が開始されており、現在も係属中である。
 したがって、原処分庁は破産法第43条第1項の規定により、本件破産財団に属する財産に対する滞納処分をすることができないため、Gから本件滞納相続税を徴収することが極めて容易であったということはできない。
 また、Gの破産手続の開始決定後に本件滞納相続税が確定したこと及びGは支払不能であるとして破産手続の開始決定がされたことから、原処分庁以外にも破産債権者が存在するのであって、さらに、交付要求はしているものの、本件滞納相続税のうち過少申告加算税は、劣後的破産債権に属し、原処分庁の配当順位は劣後するため、本件破産財団から本件滞納相続税の全額の弁済(配当)を受けることができるとは限らない。
 この点について、請求人は、本件通知処分に前置して、交付要求によって本件滞納相続税の全額の弁済を受けられるか否かなどを調査し、確認すべき義務を負っている旨主張するが、相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務は、本来の納税者の納税義務の確定とともに法律上当然に生じており、補充性がないから、原処分庁は、本件破産管財人及びL地方裁判所とは別個に、請求人に対して本件滞納相続税の徴収手続を採ることができるというべきである。
ニ 恣意性の有無について
 原処分庁は、手っ取り早く本件滞納相続税を徴収することを目的として、多数の納税義務者の中で、固有の相続税を唯一納付した請求人のみを恣意的に選択して本件通知処分を敢行したものといわざるを得ない。
ニ 恣意性の有無について
 相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務は、同項に規定する要件を具備することによって、申告書の記載等から、連帯納付義務者及び連帯納付責任限度額が明らかになるため、本件通知処分をするに当たって、原処分庁の恣意性が入る余地はない。
 また、原処分庁がG又は第三者の利益を図る目的をもって恣意的に相続税の徴収を行わなかったことを示す事実もない。

(2) 争点2 請求人の連帯納付責任限度額が過大であるか否か。

請求人 原処分庁
 請求人らは、被相続人がP社に対して負担していた借入金442,528,000円について、被相続人の債務として認められない旨の本件相続税調査の指導を受け、本件修正申告書を提出したものであるが、当該指導内容は、相続開始後に発生した事情に基づくものであるから、明らかに誤っている。
 しかしながら、本件相続税調査の指導のとおり、債務について相続開始後に発生した事情を考慮するのであれば、財産についても同様に扱うべきであるから、以下の財産については、評価額を零円とするか、又は大幅に減額すべきである。
 したがって、仮に請求人が本件通知処分により連帯納付義務を負うとしても、請求人の固有の相続税額及び債務控除の額が、請求人が本件相続により取得した財産の価額を超えることになり、請求人に本件相続により受けた利益はないから、請求人の連帯納付責任限度額は零円である。
イ Q社に対する貸付金については、Q社が平成22年7月○日に破産手続の開始決定を受けており、これにより当該貸付金は一般破産債権となるから、Q社の破産財団からの配当は期待できない状態となる。
 したがって、請求人が本件相続により取得したQ社に対する貸付金(評価額72,000,000円)には価値がない。
ロ R社の株式については、R社がQ社に対して175,000,000円の貸付金を有しているが、上記イと同様に、Q社の破産財団からの配当は期待できず、当該貸付金の評価額が零円となることを勘案すれば、R社の1株当たりの純資産価額は29,633円となる。
 したがって、請求人が本件相続により取得したR社の株式334株(評価額23,355,260円)について、改めて評価すると、11,853,200円となるから、先に評価した額との差額11,502,060円は減額すべきである。
ハ J及びK並びにKが支配する法人を債務者とする貸付金の未分割財産については、請求人が本件相続により法定相続分(評価額15,684,267円)を取得したとしても、これらの債務者に弁済能力がないから、当該貸付金には価値がない。
 相続税法第34条第1項に規定する「相続により受けた利益の価額」は、相続税法基本通達34−1《「相続又は遺贈により受けた利益の価額」の意義》の定めのとおり、相続により取得した財産の価額から、同法第13条《債務控除》の規定による債務控除の額並びに相続により取得した財産に係る相続税額及び登録免許税額を控除した後の金額をいうものとされ、また、同条第1項及び同法第14条第1項の規定のとおり、課税価格に算入すべき価額の計算上、取得財産の価額から控除すべき債務は、相続人の負担に属すると確実に認められるものに限られている。
 原処分庁は、本件相続税調査において、請求人らが債務の額とした被相続人の借入金の一部については、相続開始時における請求人の負担に属すると確実に認められる債務には該当しないと判断したものであるから、本件通知処分により通知した請求人の連帯納付責任限度額○○○○円は、請求人が本件相続により受けた利益を超えるものではない。
 したがって、請求人の連帯納付責任限度額は過大ではなく、適正である。

4 判断

(1) 争点1(本件通知処分が徴収権の濫用に当たるか否か。)について

イ 法令解釈
(イ) 連帯納付義務の趣旨等
 相続税の課税は、相続税法第15条《遺産に係る基礎控除》、同法第16条《相続税の総額》及び同法第17条《各相続人等の相続税額》の規定によって、遺産全体を各相続人が民法に定める相続分に応じて取得したものとした場合における各取得金額に所定の税率を適用して相続税の総額を算出した上、その相続税の総額を、各相続人等の取得した財産の価額に応じてあん分する仕組みを採っている。
 かかる仕組みによれば、課税の面における相続人の負担の公平は図られるが、共同相続人中に無資力者があったときなどには、租税債権の満足が得られなくなり、共同相続人中に無資力者がいない他の一般納税者との間での公平が保てないなど、租税の徴収確保の上から適当でない結果を招来することとなる。
 そこで、相続税法第34条第1項は、相続により財産を取得した全ての者に対し、互いに連帯納付の責めに任ずる旨規定した。ただ、相続をしたことにより相続をしない場合よりも不利益になるのは相当ではないから、個々の相続人の負う連帯納付義務は、相続により受けた利益の価額に相当する金額を限度とされたものである。
 その結果、各相続人が、その相続により取得した利益を確定することで、各相続人が固有に納付義務を負う額が確定されるとともに、連帯納付責任額も確定するのである。
(ロ) 連帯納付義務と補充性
 固有の納税額につき本来の納税義務者でない者に納付責任を負わせるという点で連帯納付義務者と類似するものに通則法第50条《担保の種類》第6号に規定する納税保証人及び徴収法第32条《第二次納税義務の通則》に規定する第二次納税義務者があるが、これらの者から徴収しようとするときは、いずれも本来の納税義務者に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足する場合に限るとして補充性を明示的に規定している(通則法第52条《担保の処分》第4項、同条第5項及び徴収法第32条第4項)。それにもかかわらず、連帯納付義務者には、補充性を定めた規定がおかれていないことに照らすと、連帯納付義務には補充性はないと解されるから、連帯納付義務者は、本来の納税義務者に対する滞納処分の状況等の如何にかかわらず、連帯納付義務を負うと解するのが相当である。
(ハ) 連帯納付義務者に対する納付通知
 上記(イ)のとおり、連帯納付責任額は、各相続人等が固有に納付義務を負う額が確定するのとともに確定するのであり、国税の徴収に当たる所轄庁は、連帯納付義務につき格別の確定手続を要さずに徴収手続を行うことが許されるものと解される。しかし、他方で、相続人等の事情は一様ではなく、連帯納付義務を負う相続人等が、連帯納付義務を十分認識していないか、他の相続人等の履行状況が分からない場合もある。また、納付すべき金額、納付期限その他納付義務の具体的内容などについて知ることができないこともあるから、通常の申告納税方式にのっとった徴税手続をそのまま行うことで、当該連帯納付義務者に不意打ちの感を与え、又は納付義務の内容の不明確等により連帯納付義務者を困惑させるような事態になることがないわけではない。
 そこで、このような事態が生じないよう、平成23年度及び平成24年度税制改正(平成23年法律第82号及び平成24年法律第16号)において、本来の納税義務者に相続税の督促(通則法第38条に規定する繰上請求を含む。)をした後1月を経過する日までに完納されないときは、本来の納税義務者が円滑に相続税を納付している場合に比して連帯納付義務の履行を求められる可能性が高まったものとして、連帯納付義務者に対し、当該相続税が完納されていないことなどを通知する旨を相続税法第34条第5項に規定し、さらに当該通知後、実際に連帯納付義務者から徴収しようとするときは、納付すべき金額、納付場所その他必要な事項を記載した納付通知書による通知をしなければならない旨を同条第6項に規定することによって、連帯納付義務者に対して連帯納付義務の履行を求めるための通知の手続が法定されたものと解される。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 原処分庁は、本件滞納相続税について、通則法第43条第3項の規定に基づき、平成24年10月26日付で、M国税局長に徴収の引継ぎをした。
(ロ) M国税局長は、徴収法第82条第1項の規定に基づき、本件滞納相続税のうち本税及び延滞税を財団債権として本件破産管財人に対して、本件滞納相続税のうち過少申告加算税を劣後的破産債権としてL地方裁判所に対して、それぞれ平成24年10月31日付で、交付要求をした。
(ハ) 原処分庁は、請求人らに対して、平成24年11月20日付で、相続税法第34条第5項の規定に基づく通知をし、その後平成25年3月27日付で、同条第6項の規定に基づく通知をした。
 なお、これらの通知がされたときにおいても、Gに係る破産手続は係属中であり、本件破産管財人からの弁済はない。
ハ 判断
(イ) 上記イの(イ)及び(ロ)の法令解釈のとおり、相続税法第34条第1項の連帯納付義務は、補充性を有しないのであって(これらの点については、請求人及び原処分庁の当事者双方の主張の前提となっている。)、連帯納付義務者は、第二次納税義務等のように本来の納税義務者に対する滞納処分を執行しても徴収すべき額に不足すると認められる場合に限って納付義務を負担するというものではない。
 したがって、仮に国税当局において本来の納税義務者に対する滞納処分等の徴収手続を適正に行っていれば、本来の納税義務者から滞納相続税を徴収することが可能であったにもかかわらず、国税当局がその徴収手続を怠った結果、本来の納税義務者から当該滞納相続税を徴収することができなくなったという事実があったとしても、その事実は、相続税法第34条第1項により各相続人に課されている連帯納付義務の存否又はその範囲に影響を及ぼすものではなく、国税当局が各相続人に対し連帯納付義務の履行を求めて徴収手続を進めたとしても、これをもって徴収権の濫用と評価することはできないものというべきである。
(ロ) もっとも、国税当局において本来の納税義務者から相続税の徴収を怠ったというにとどまらず、本来の納税義務者が現に十分な財産を有し、本来の納税義務者から滞納相続税を徴収することが極めて容易であるにもかかわらず、国税当局が本来の納税義務者又は第三者の利益を図る目的をもって恣意的に当該滞納相続税の徴収を行わず、相続税法第34条第1項に基づき、他の相続人に対して徴収処分をしたというような場合においては、当該徴収処分が形式的には租税法規に適合するものであっても、正義公平の観点からみて徴収権の行使として許容できず、徴収権の濫用に当たると評価すべき余地がないわけではない。
 しかしながら、本件でこのような事情は認められない。
(ハ) 請求人の主張する事情は、結局のところ、原処分庁において本来の納税義務者に対する滞納処分等の徴収手続を適正に行っていれば、本来の納税義務者から滞納相続税を徴収することが可能であるのに、これを怠り、請求人から徴収することが徴収権の濫用だというものであるが、補充性がない以上、原処分庁は本来の納税義務者の資力等からして同人から徴収できる可能性があったとしても、連帯納付義務者に対して滞納処分を行うことができるのであって、これが徴収権の濫用となるのは、上記(ロ)で述べたとおり、国税当局が本来の納税義務者又は第三者の利益を図る目的をもって恣意的に当該滞納相続税の徴収を行わなかったような例外的な場合に限られるから、請求人の主張は失当である。
(ニ) なお、上記1の(3)のイ及びロの各基礎事実及び上記ロの(ハ)の認定事実のとおり、本来の納税義務者であるGは、本件相続によって財産を取得した後に破産手続の開始決定を受けており、同手続は、本件通知処分のときも係属中である。上記ロの(イ)ないし(ハ)の各認定事実によれば、原処分庁及び原処分庁から徴収の引継ぎを受けたM国税局長は破産法との調整の中で交付要求を行うなどの措置を講じており、本来の納税義務者からの徴収を怠ったとは認められない。そして、本件滞納相続税は破産手続における財団債権ではあるが、優先弁済が受けられる地位にあるにすぎないし、過少申告加算税は劣後的破産債権であり、交付要求をしたからといって必ずしも本件滞納相続税の全額が弁済されるものとはいえないのであって、このような中で行われた本件通知処分について徴収権の濫用に当たると評価すべき余地があるとは認められない。
(ホ) この点について、請求人の主張を検討したところ次のとおりである。
A 請求人は、本件通知処分が本件規範を無視し、正義公平の観点から徴収権の行使として許されている範囲を超えるものであるから、徴収権の濫用に当たる旨主張するが、上記(イ)ないし(ハ)で判断したとおり、本件通知処分に当たり正義公平の観点からみて徴収権の行使として許容できない事情が存在するとはいえないから、この請求人の主張を採用することはできない。
B 請求人は、本件破産財団が本件滞納相続税を完納するに十分な資力、財産を有していることについて、本件相続税調査を担当した職員や当時の関与税理士が発言しており、これを前提として、原処分庁が交付要求しているというのなら、本件破産財団から速やかに優先弁済(配当)を受ければ、そもそも本件滞納相続税は完納となって本件通知処分は不要となるはずである趣旨の主張をする。
 しかしながら、交付要求をしたからといって、必ずしも弁済(配当)を受けることができるものではないのは、上記(ニ)で述べたとおりである。また、交付要求に対して配当がされるにしても、その時期等については、執行機関の裁量に属するものである一方で、相続税法第34条第1項第1号は、相続税の申告期限から5年を経過するまでに納付通知が発せられていない場合には連帯納付義務を負わないこととされているのであるから、連帯納付義務に補充性がない以上、原処分庁として、同配当を待たずに、連帯納付義務者に対して納付通知を行ったとしても徴収権の濫用とはいえず、この請求人の主張を採用することはできない。
 なお、請求人は、本件相続税調査を担当した職員や当時の関与税理士の発言から、本件破産財団が本件滞納相続税を完納できる十分な資力、財産を有していた旨主張するが、そのような発言があったと認めるに足りる証拠もない。
C 請求人は、原処分庁が交付要求によって、いまだ弁済を受けていない、又は徴収不足であるというのなら、本件破産財団の資力や財産の状況、当該交付要求による弁済見込額及び本件滞納相続税の回収状況等に係る調査結果などの事実について、本件通知処分に当たって明らかにすべきである旨主張する。
 しかしながら、相続税法第34条第6項に規定する納付通知書による通知処分は、上記イの(ハ)の法令解釈のとおり、連帯納付義務者に不意打ちの感を与えるなどの事態にならないように設けられた規定であり、請求人が主張するような事実を明らかにした上で当該納付通知書による通知処分をする旨又はそのような事実を当該納付通知書に記載する旨の法律上の規定はないし、もとより連帯納付義務は補充性を要さず、同項に規定する納付通知書による通知処分をするに当たって、本来の納税義務者の資力、財産状況からして徴収不足となることなどは要件ではないから、これらの事実を明らかにする理由がない。したがって、この請求人の主張を採用することはできない。
(ヘ) 以上のとおり、この点に関する請求人の主張はいずれも採用することができず、当審判所の全資料を総合し、調査した結果においても、ほかに、正義公平の観点からみて本件通知処分について徴収権の行使として許容できない事情が存在すると認めるに足りる証拠はないから、本件通知処分は徴収権の濫用には当たらない。

(2) 争点2(請求人の連帯納付責任限度額が過大であるか否か。)について

イ 法令解釈
(イ) 相続により受けた利益の価額について
 相続税法第22条《評価の原則》は、「この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による」旨規定しているところ、同法第34条第1項に規定する「相続により受けた利益の価額」についてもまた相続開始時を基準として算定されるべきものと解する。そして、相続税法基本通達34−1は、同項に規定する「相続又は遺贈により受けた利益の価額」とは、相続等により取得した財産の価額から同法第13条の規定による債務控除の額並びに相続等により取得した財産に係る相続税額及び登録免許税額を控除した後の金額である旨定めており、この取扱いは相当であると認められる。
(ロ) 連帯納付責任限度額について
 上記(1)のイの(イ)の法令解釈のとおり、相続税の課税が、遺産全体を各相続人が民法に定める相続分に応じて取得したものとした場合における各取得金額に所定の税率を適用して相続税の総額を算出した上、その相続税の総額を、各相続人の取得した財産の価額に応じてあん分する仕組みを採った結果、各相続人が、その相続により取得した財産とその価額を確定することで、各相続人が固有に納税義務を負う額が確定するとともに、各相続人の連帯納付義務も確定し、連帯納付責任に係る連帯納付責任限度額も当然に確定することになる。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、本件修正申告書に係る相続税について、更正の申出書を平成25年6月6日に原処分庁へ提出した。
(ロ) 原処分庁は、上記(イ)の更正の申出に対して、更正の申出の期間を経過しており、更正すべき理由がない旨を記載した「更正の申出に対してその更正をする理由がない旨のお知らせ」と題する文書を平成25年6月26日に請求人へ送付した。
(ハ) 本件修正申告書に記載された請求人が本件相続により取得した財産の価額等は、次のとおりである。
A 請求人が本件相続により取得した財産の価額は、○○○○円である。
B 請求人が本件相続により取得した財産のうち不動産は、全て他の共同相続人等との共有持分であり、d市e町に所在する土地及び建物の計14物件並びにg市に所在する土地の計6物件である。
 なお、これら不動産に係る固定資産課税台帳に登録された価格は、d市e町の14物件の合計額は○○○○円であり、g市の6物件の合計額は○○○○円である。
C 請求人が本件相続により負担した債務及び葬式費用の金額は24,615,791円である。
D 本件相続に係る請求人の納付すべき固有の相続税額は○○○○円である。
ハ 判断
(イ) 請求人は、本件相続税調査時、原処分庁が本件相続の開始後に発生した事情に基づいて被相続人の債務を認めない前提で指導をし、請求人は当該指導に基づき本件修正申告書を提出したのであるから、被相続人の積極財産についても、その債務と同様に、本件相続の開始後に発生した事情に基づいて当該財産の評価額を零円とするか、又は大幅に減額すべきであるなどと主張し、そうすれば、仮に請求人が連帯納付義務を負うとしても、本件相続において、請求人の固有の相続税額及び債務控除の額が請求人が取得した財産の価額を超えることになり、本件相続により受けた利益はないというべきであるから、請求人の連帯納付責任限度額は零円である旨主張する。
(ロ) ところで、連帯納付責任限度額は、上記イの(ロ)の法令解釈のとおり、各相続人の固有の相続税の納付義務の確定という事実に照応して確定するものである。請求人の上記主張は、要するに、本件相続における相続財産の額、ひいては、請求人が本件相続により得た利益の額を争うものであるところ、このような主張は、基本的に、連帯納付義務の存否及び限度額が確定する段階、すなわち請求人固有の相続税の確定手続の段階においてすることが可能であり、またすべきものであったといえる。
 そして、納税申告書を提出した者が、その申告内容を自己に有利に是正することを求める手続としては、通則法第23条第1項に規定する更正の請求又は税制改正に伴う措置として運用上認めている更正の申出(平成23年法律第114号によって、平成23年12月2日以降に法定申告期限が到来する国税に係る更正の請求の請求期限の延長等の改正が行われたことに伴い、国税当局が、同日より前に法定申告期限が到来する国税について、更正の請求に準じ、運用上、増額更正できる期間内であれば、減額更正を申し出ることができると認めた手続)によるしかないから、請求人が納税申告書(修正申告書を含む)を提出した以上、連帯納付責任限度額、すなわち同申告によって確定した、自己が相続により受けた利益の価額について争うのであれば、自己の固有の相続税額の確定手続について、更正の請求又は更正の申出をするほかないことになる。
 しかしながら、上記1の(3)のイ及びハの各基礎事実のとおり、本件相続に係る相続税の法定申告期限は平成21年10月○日であるところ、請求人らが本件修正申告書を提出した平成24年1月31日の段階で、法定申告期限から1年以内とする更正の請求の期限は既に経過しているのであり、請求人が同期限内に更正の請求をした事実は認められない。また、上記ロの(イ)及び(ロ)の各認定事実のとおり、請求人は平成25年6月6日に更正の申出書を提出したが、上記運用上更正の申出が認められている法定申告期限から3年の期間が既に経過していたことにより更正する理由がない旨の通知がされている。さらに、法定申告期限から1年を経過した後であっても、通則法第23条第2項又は相続税法第32条第1項に該当する場合には、後発的事由による更正の請求が認められるが、請求人らにこれらに該当する事由や事実は見当たらない。そうすると、本件相続において、ほかに、請求人の固有の相続税額等を是正する方法はないことになる。
 上記のとおり、請求人の主張する被相続人の相続財産の額については、基本的に固有の相続税の確定手続の段階において争うべきであるところ、請求人は、固有の相続税の確定手続の段階においてこれを争うことのできる期間を逸したのであるから、請求人の連帯納付責任限度額を是正する方法もないというべきである。
 したがって、請求人が相続により受けた利益の価額は、請求人が固有の相続税について申告した額を前提とすべきである。
(ハ) 請求人は、これと異なり、自己の連帯納付責任限度額は零円であり、その額が過大である旨主張するが、請求人の連帯納付責任限度額を是正することができないというべきであるから、この点に関する請求人の主張は、採用することができない。
(ニ) なお、上記イの(イ)の法令解釈のとおり、相続により取得した財産の価額は取得時すなわち相続開始時の時価により評価され、これを前提として各相続人の相続税の納税義務も確定されるから、連帯納付責任限度額も、取得した財産の相続開始時の時価を算出の基礎とすべきである。
 この点について、請求人の主張するように、修正申告に際し、原処分庁が、相続開始後を基準として当該債務について控除すべきかを判断し、修正申告を指導したものとも認められないし、そのような事情があったとして相続財産中の積極財産について相続開始後の事情を考慮に入れて評価すべき理由とはならない。
 そうすると、請求人の主張はこれらの点からも認められない。
(ホ) 上記イのとおり、請求人の連帯納付責任限度額は、請求人が本件相続により受けた利益の価額になるから、その価額の算定に当たっては、請求人が本件相続により取得した財産の価額から、請求人が本件相続により負うこととなった被相続人の債務の額及び葬式費用並びに請求人の本件相続に係る納付すべき固有の相続税額のほか、本件相続を原因とする所有権移転のための登記に要する登録免許税額を控除した後の金額とするのが相当である。 
 上記ロの(ハ)の各認定事実を総合すれば、請求人が本件相続により取得した合計20物件の不動産に係る固定資産課税台帳に登録された価格を課税標準額として計算した登録免許税額は○○○○円となる。そうすると、請求人は、請求人が取得した財産の価額○○○○円から、請求人が負担した債務及び葬式費用の金額24,615,791円、請求人の納付すべき固有の相続税額○○○○円並びに当該登録免許税額○○○○円を控除した後の○○○○円を限度に連帯納付義務を負うことになり、その金額は、上記1の(3)のチの(ニ)の基礎事実のとおり、本件通知処分によって通知された請求人の連帯納付責任限度額に一致し、ほかにこれを不相当とする事由はない。

(3) まとめ

 以上のとおり、請求人の主張はいずれも採用することができず、相続税法第34条第6項の規定に基づき行われた本件通知処分は適法であるから、これを取り消すべき理由はない。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る

トップに戻る