(平成26年9月1日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、大学の准教授である審査請求人(以下「請求人」という。)が執筆及び講演等の業務から生じる所得を事業所得として申告したところ、原処分庁が、当該所得は雑所得に該当し、また、請求人が事業所得の金額の計算上必要経費に算入した費用のほとんどが家事関連費等に該当して必要経費に算入できないとして所得税の各更正処分等を行ったのに対し、請求人が、著述業を行う目的を持ち、その目的を達成する意思で執筆及び講演等を行っていたのであるから当該業務は事業に該当し、また、請求人の主張する費用はいずれも当該業務の遂行上必要な費用であるから必要経費に算入することができ、さらに、原処分に係る調査の手続には違法があり、原処分庁が提示した更正の理由には不備があるとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成21年分、平成22年分及び平成23年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について、確定申告書(以下、本件各年分の各確定申告書を併せて「本件各確定申告書」という。)に、別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成25年3月13日付で別表1の「更正処分」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び同表の「賦課決定処分」欄のとおりの過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、本件各更正処分については平成25年5月7日に、本件各賦課決定処分については同月10日にそれぞれ異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これらの異議申立てを併合して審査した上で、同年8月6日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成25年9月3日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

関係法令の要旨は、別紙4のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成19年3月29日付でe市に所在する学校法人Lと労働契約を締結し、同年4月1日からLが設置するM大学のfキャンパスにおいて任期付の准教授として勤務している。
ロ 請求人は、平成19年3月頃までは、肩書地であるa市b町○−○に所在する実父の住居(世帯主は請求人の実父であり、以下、当該住居を「a実家」という。)に居住し、当該肩書地を住民票上の住所(以下「住民登録地」という。)としていたが、同月末頃にi市j町○−○に所在するN○○号室(以下「Nマンション」という。)を賃借し、住民登録地をNマンションの所在地に異動した。
 なお、請求人は、上記住民登録地の異動後も引き続きa実家を生活の本拠(住所)としており、現在もa実家の所在地が請求人の所得税の納税地である。
ハ 請求人は、平成21年ないし平成23年において、上記イのとおり、M大学のfキャンパスにおいて准教授として勤務し、また、k地方に所在する他の大学(以下、M大学と併せて「M大学等」という。)において非常勤講師を務める傍ら、執筆及び講演等の業務に従事した(以下、准教授又は非常勤講師の職務として請求人が行ったものを除いて、請求人の従事した執筆及び講演等の業務を「本件業務」という。)。
 なお、請求人がM大学等で講義を行っていた科目は、○○法、○○法及び○○法等である。
ニ 上記イの労働契約において、請求人の職務内容は「M大学○○○○教員の職務について」と題する書面に定めるとおりとされているところ、同書面には要旨次のとおり定められている。
(イ) 教員の基準となる授業担当時間数(責任担当時間数)は、1週当たり通年○時間(○コマ)とする。
(ロ) 授業担当日数は、週当たり原則○日とする。
(ハ) 前・後各期の一授業科目に対する授業時間数は、定例の試験を含め、○週(通年○週)に相当する時間数を原則とし、諸般の事情により、○週(通年○週)に満たない場合は、補講等をもって補完するものとする。
(ニ) 教員は、教育内容の充実・向上及び学術の進展に寄与するため、研究活動に努めるものとする。
(ホ) 教員は、各種委員会委員、学生募集、入学試験等の大学○○運営に関係する各種の業務について、それぞれ協力・分担するものとする。
ホ 請求人は、本件各年分の所得税について、本件業務から生じる所得は事業所得に該当するとした上で、総収入金額については別表2の「総収入金額」欄のとおり、必要経費については同表の「必要経費」欄のとおりそれぞれ算定して、事業所得の金額を同表の「事業所得の金額」欄のとおりとする確定申告をした。
ヘ 原処分庁は、本件業務から生じる所得は雑所得に該当するとした上で、総収入金額については別表3の「総収入金額」欄のとおり、必要経費については同表の「必要経費」欄のとおりそれぞれ算定して、雑所得の金額を同表の「雑所得の金額」欄のとおりとする本件各更正処分等を行った。
ト 異議審理庁は、本件業務から生じる所得の所得区分を雑所得に該当するとした上で、総収入金額については別表4−1の「総収入金額」欄のとおり、必要経費については同表の「必要経費」欄のとおりそれぞれ算定して、雑所得の金額を同表の「雑所得の金額」欄のとおりとする異議決定を行った。
 なお、異議審理庁が認定した上記総収入金額の内訳及びその各源泉徴収税額は別表4−2のとおりである。
チ 請求人は、審査請求において、本件業務から生じる所得の所得区分は事業所得に該当するとした上で、総収入金額については別表5−1の「総収入金額」欄のとおり、必要経費については同表の「必要経費」欄のとおりそれぞれ算定して、事業所得の金額を同表の「事業所得の金額」欄のとおりであると主張した。
 なお、請求人は、当審判所に対し、上記請求人の主張する必要経費の額の明細として、各支出の支出日、支出金額、支払先及び支出の内容等を記載した別表5−2のとおりの必要経費の明細書を提出した(以下、請求人が審査請求において必要経費に該当する旨主張する別表5−2記載の各支出を総称して「本件各支出」という。)。
リ 請求人及び原処分庁が審査請求においてそれぞれ主張する本件業務から生じる本件各年分の所得の総収入金額及びその源泉徴収税額は、上記トの異議審理庁が認定した総収入金額及びその源泉徴収税額といずれも同額であり、これらの点について請求人と原処分庁との間に争いはない。
ヌ 原処分に係る調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成24年9月6日及び7日、請求人に対し税務調査を実施し、請求人から本件業務の内容並びに帳簿書類の作成及び保存状況等を聴取するとともに、請求人が必要経費に該当する旨主張する各支出に係る各領収書のうち請求人がその時点で保存していたとする各領収書並びに当該各領収書に基づき表計算ソフトで作成したとする支出データ及び収支合計データの提出を受けた(以下、本件調査担当職員が請求人から提出を受けた当該各領収書を「原処分調査時各領収書」という。)。
ル 本件各更正処分に係る各更正通知書(以下「本件各通知書」という。)の「処分の理由」欄の記載の要旨は別紙5のとおりである。

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2 争点

(1) 調査手続に違法があるか否か(争点1)。
(2) 更正の理由の提示に不備があるか否か(争点2)。
(3) 本件業務は、所得税法第27条《事業所得》第1項に規定する事業に該当するか否か(争点3)。
(4) 本件各支出の額は、本件業務に係る所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否か(争点4)。

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3 主張

 当事者双方の主張は、別紙6のとおりである。

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4 判断

(1) 争点1(調査手続に違法があるか否か。)について

イ 法令解釈
 所得税法第234条(平成23年法律第114号による改正前のものをいう。以下同じ。)《当該職員の質問検査権》第1項の規定は、税務署等の調査権限を有する職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情に鑑み、客観的な必要性があると判断される場合には、職権調査の一方法として、同条第1項各号規定の者に対し質問し、又はその事業に関する帳簿、書類その他当該調査事項に関連性を有する物件の検査を行う権限を認めた趣旨であって、この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限のある税務職員の合理的な選択に委ねられていると解される。
 そして、上記調査権限を有する税務署等の職員に対して認められた帳簿書類等の検査権限には、これを単に閲読するだけでなく、内容を筆写したり、複写機その他の機材を使用して複写したりすることも当然に含まれるというべきである。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件調査担当職員は、原処分に係る調査において複写機を使用して原処分調査時各領収書を複写した事実が認められるところ、当該複写に関して以下の事実が認められる。
(イ) 本件調査担当職員は、平成24年9月6日、K税務署内において請求人に対する税務調査を実施したところ、その際に請求人は、同職員からの求めに応じ、持参していた原処分調査時各領収書を同職員に対して提出した。
 また、本件調査担当職員は、上記提出の際に、原処分調査時各領収書を預かる旨記載した「預り証(第○○号)」と題する書面(以下「預り証」という。)を作成した。そして、請求人は、本件調査担当職員からの求めに応じ、預り証の日付欄には「平成24年9月6日」と記入し、また、あらかじめ印字されていた「上記の件、承諾いたします。」との文言の後の氏名欄には署名をしたものの、預り証上には当該承諾について複写をしないことを条件とする旨の記載はなされていない。
 なお、本件調査担当職員は、平成24年12月3日、K税務署内において、原処分調査時各領収書を請求人に対して返却したが、その際請求人は、当該返却と引換えに、預り証の日付欄に「平成24年12月3日」と記入し、あらかじめ印字されていた「上記の帳簿書類等を、本日すべて受け取りました。」との文言の後の氏名欄に署名をした上で、これを本件調査担当職員に対し提出した。
(ロ) 本件調査担当職員は、平成24年8月30日から平成25年2月26日までの期間の原処分に係る調査の経過やその過程で請求人との間で行ったやりとり等を「調査経過等の報告書」(以下「調査経過等報告書」という。)に記録していたところ、当該報告書には要旨以下の内容の記載がある。
A 本件調査担当職員は、平成24年8月31日、請求人に対して、本件各年分の所得税に係る調査を行う旨を電話で説明したところ、請求人から関係書類を持参するのでK税務署内において調査を行ってほしい旨の申出があり、同年9月6日に同税務署内で調査を実施することとした。
B 本件調査担当職員は、平成24年9月6日、K税務署内において請求人と面接し、1請求人の経歴及び概況等、2帳簿及び原始記録等の作成・保存状況、3執筆活動及びその内容について本人が説明した事実等を聴取するとともに、請求人から原処分調査時各領収書を借用し預り証を交付した。
 また、本件調査担当職員は、請求人に対し、上記聴取した事実関係等から大学の講義が主であり本件業務から生じる所得は雑所得に該当すること、また、請求人の主張する支出が必要経費に該当することを確認できる事実がないこと等を伝えた上で、本件業務から生じる所得を事業所得と認定できる資料及び請求人の支出した各費用が必要経費と確認できる資料の追加提示を依頼した。
 これに対し、請求人は、収入は少ないが文筆業が主であり、大学の仕事は副業にすぎない旨及び請求人が必要経費である旨主張する各支出は、いずれも支払った事実があるので全て必要経費に該当する旨申し立てた。
C 本件調査担当職員は、平成24年9月7日、K税務署内において請求人と面接し、請求人が持参したUSBメモリに保存されていた収支合計データ等の提出を受けるとともに、請求人に対し、請求人の支出した各費用が必要経費と確認できる資料及び請求人の執筆した原稿等の提示又は提出を依頼した。
D 本件調査担当職員は、平成24年11月5日、K税務署内において請求人と面接したところ、請求人は「事業所得と認識している。必要経費についても支出している事実があるのだから経費と認識している。」と前回同様の申立てをするのみで、請求人から資料の追加提示及び説明はなかった。
 また、本件調査担当職員は、請求人が必要経費である旨主張する各支出について、給与所得控除との重複や家事関連費との関係について説明をした上で、当該各支出が全て必要経費にならない旨の見解を示したところ、請求人は当該説明について理解はしたものの、当該各支出の金額の半分は必要経費として認めてほしい旨の申立てをした。
E 本件調査担当職員は、平成24年11月16日、請求人からの電話連絡を受け、請求人に対し、本件業務から生じる所得は雑所得に該当すること、請求人が必要経費として申告した各支出は全て必要経費として認められない旨の調査結果を伝えた上で修正申告書の提出をしょうようしたところ、請求人から1週間検討したい旨の申立てを受けた。
F 本件調査担当職員は、平成24年11月27日、請求人からの電話連絡を受け、上記Dの各支出の金額の半分を必要経費として認めてほしい旨の請求人の主張は認められるか否かの質問を受けた。これに対し本件調査担当職員が請求人の主張は事実確認ができないので認められない旨を回答したところ、請求人は修正申告書の提出はしない旨を伝えた。そして、本件調査担当職員は、請求人に対し、平成24年12月3日にK税務署内において、原処分調査時各領収書を返却することを伝えた。
G 本件調査担当職員は、平成24年11月27日頃、原処分庁所属の審理担当の上席国税調査官より、請求人の主張する各支出が必要経費になるか否かが争点となっていることから、原処分調査時各領収書を全て複写しておくようにとの指示を受けた。
H 本件調査担当職員は、平成24年12月3日、K税務署内において、原処分調査時各領収書を請求人に対して返却した。
(ハ) 調査経過等報告書には、本件調査担当職員が複写をしないことを条件に原処分調査時各領収書を預かったことを示す記載は一切ない。
ハ 当てはめ
(イ) 上記ロの(イ)のとおり、請求人は、平成24年9月6日に原処分調査時各領収書をK税務署に持参し、本件調査担当職員からの求めに応じて同職員に対してこれらを任意に提出したと認められるところ、請求人は、当該提出の際に本件調査担当職員が作成した原処分調査時各領収書を預かる旨記載した預り証の「上記の件、承諾いたします。」との文言の後の氏名欄に署名をしたと認められる一方で、預り証上には当該承諾について複写をしないことを条件とする旨の記載はない。
 また、本件調査担当職員は、上記ロの(ロ)のとおり、請求人とのやりとり等を調査経過等報告書に記録していたところ、同報告書には調査の経過に応じて請求人との間で行われたやりとり等について比較的詳細な記載がなされているにもかかわらず、本件調査担当職員と請求人との間で原処分調査時各領収書の複写の可否についてやりとりをしたり、本件調査担当職員が複写しないことを条件に原処分調査時各領収書を預かったりした旨を示す記載は一切ない上に、本件調査担当職員が同報告書にその旨をあえて記載しなかったことをうかがわせる事情も認められない。
 さらに、上記ロの(ロ)のB、F及びGのとおり、調査経過等報告書の記載によれば、本件調査担当職員は請求人から原処分調査時各領収書を預かった平成24年9月6日から3か月弱の期間、複写をせずに当該各領収書の保管をしていた事実が認められるところ、その経緯については、本件調査担当職員は、請求人から修正申告書を提出しないとの意向を示され、請求人に対し更正処分を行うことが確定的になった直後において、処分を行うに当たりその内容について審査をする立場にある原処分庁所属の審理担当の上席国税調査官からの指示を受けたことにより複写したものと認められる。請求人が自主的に修正申告書を提出した場合と異なり原処分庁が必要経費を否認する旨の更正処分を行う場合には、その立証責任は原則的に原処分庁にあること、また、当該各領収書の枚数が相当数に及んでおり複写の事務量が大きいことを考慮すれば、更正処分を行うことが確定した段階で複写を行ったという経緯に不自然な点はない。
 以上からすれば、請求人が、複写をしないことを条件に、本件調査担当職員に対して原処分調査時各領収書を提出したとは認められない。
 そして、上記イのとおり、本件調査担当職員が帳簿書類等を検査する権限には、これを複写機その他の機材を使用して複写することも当然に含まれると解されるから、本件調査担当職員が請求人から任意に提出された原処分調査時各領収書について上記のような複写をしたとしても、違法な調査とはならない。
 したがって、請求人が主張する原処分調査時各領収書の複写に係る調査手続には違法がない。
(ロ) 請求人は、別紙6の1の請求人の主張ロのとおり、原処分庁所属の各担当職員は、異議決定書等を郵送すると約束したにもかかわらずいきなり自宅へ押し掛けてきて書類を交付送達しようとしたこと、異議申立てに係る調査において必要のない税務調査をして嫌がらせをしたこと、請求人が質問検査章を提示することを求めたにもかかわらず押し問答の末きちんと提示しなかったりしたということなどを挙げて、本件の税務調査は、それら個別的な事案が積み重なった違法な税務調査である旨主張する。
 しかしながら、異議決定書の交付送達や異議申立てに係る調査は、本件各更正処分等がされた後の事情であって、それ以前にされた本件各更正処分等の効力に何ら影響を与えるものではない。
 また、上記イのとおり、調査の範囲、程度、時期、場所などの実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限のある税務職員の合理的な選択に委ねられていると解されるところ、当審判所の調査の結果によっても、社会通念上相当な限度を超えて違法と評価できるような税務調査が行われたことを示す証拠はなく、その事実は認められない。
 したがって、請求人の上記主張には理由がない。

(2) 争点2(更正の理由の提示に不備があるか否か。)について

イ 法令解釈
(イ) 国税通則法(以下「通則法」という。)第74条の14《行政手続法の適用除外》第1項は、行政手続法第3条《適用除外》第1項に定めるもののほか、国税に関する法律に基づき行われる処分その他公権力の行使に当たる行為については、同法第2章《申請に対する処分》(同法第8条《理由の提示》を除く。)及び第3章《不利益処分》(同法第14条《不利益処分の理由の提示》を除く。)の規定は、適用しない旨規定していることから、同法第14条第1項本文により、原処分庁は、不利益処分をする場合には、その名宛人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。この行政手続法第14条第1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。そうすると、原処分庁が更正処分を行うに当たっては、その前記の原処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という趣旨目的を充足する程度に具体的に更正の根拠を明示するものであって、判断過程を逐一検証し得る程度に記載されている限り、法の要求する更正の理由の提示として欠けるところはないと解するのが相当である。
(ロ) また、更正の理由の提示は、誤りがあるとされる項目が数個ある場合には、項目ごとに理由を示して行う必要があることはいうまでもないが、更正の理由の提示の違法は、処分の手続に関するものではあるけれども、更正の理由は項目ごとに別個であり、その一部の項目の理由の不備が当然に処分全体を違法ならしめると解すべき理由はない。そうすると、数個の項目のうちの一部の項目についての理由の提示に不備があったとしても、それがいまだに更正全体の理由の提示を不備ならしめる程度に至らないときは、処分全体を違法ならしめるものではなく、処分のうち当該項目に関する部分を違法とするにすぎないものと解するのが相当である。
ロ 検討及び判断
(イ) まず、原処分庁が本件各更正処分において提示した所得区分の判断に係る理由を検討すると、以下のとおりである。
A 本件各通知書の「処分の理由」欄には、別紙5の前文及び1のとおり、1請求人が、本件業務に係る報酬金額を事業所得として申告したこと、2ある経済活動が所得税法上の事業所得を生ずべき事業に該当するか否かは、その経済活動が、自己の危険と計算において独立して営まれ、営利性・有償性を有し、かつ、反復継続して営まれる業務であって社会通念上事業と認められるかどうかにより判断すべきものとされていること、3本件業務について、営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無、自己の危険と計算における事業遂行性の有無、精神的・肉体的労力の程度、使用人の雇用・物的設備の有無及び職歴・社会的地位・生活状況の項目ごとに、それぞれ関係する事実を摘示した上でその判断を示し、当該各判断を総合勘案した結果、本件業務に係る所得は、事業所得に該当せず、また、利子所得、配当所得、不動産所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しないと認められるから、雑所得に該当することが記載されており、本件業務から生じる所得の所得区分については、その結論に到達した過程をその根拠を示して一応明らかにしたものと認められ、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与えるという行政手続法第14条第1項本文の法の趣旨が求める程度に、すなわち、判断過程を逐一検証し得る程度に理由が提示されていると一応評価できるものである。
B 請求人は、上記の点につき、別紙6の2の請求人の主張ロのとおり、最高裁判所平成23年6月7日第三小法廷判決の判示を引用した上で、本件各通知書記載の理由は原処分庁独自の根拠不明の要件を記載したものにすぎず、「処分の根拠法条」及び「処分基準の適用関係」が欠如しているから、本件各更正処分には理由の提示に不備があり、違法である旨主張する。
(A) そこで、まず処分基準の適用関係の記載の欠如に係る請求人の主張について検討する。
 上記請求人の引用部分は、建築士に対する懲戒処分に際して同時に示されるべき理由について判示した部分であるところ、上記最高裁判決が、処分を行うに際して行政手続法第14条第1項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかについて、「同項本文の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである」と判示するとおり、理由の提示に必要とされる程度は処分によって異なるものである。
 そして、行政庁に裁量が認められない更正処分においては、行政庁に一定の裁量が認められる建築士に対する懲戒処分と異なり、不利益処分についての裁量基準である処分基準は存在しない。したがって、本件各更正処分について処分基準の適用関係の欠如といった問題は生じない。
 そもそも、裁量処分において処分基準の存否等が考慮要素となっている理由は、裁量判断の過程が明らかにならなければ、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与えるという行政手続法第14条第1項本文の法の趣旨が満たされないことが一つの理由であるところ、本件各更正処分においては、上記Aの2のとおりに所得税法上の事業所得を生ずべき事業についての規範(法令解釈)が示され、これに対する当てはめが同3のとおりにされているのであるから、その判断過程が明らかにされており、上記趣旨が満たされていると一応評価できるものである。
(B) 次に、処分の根拠法条の記載の欠如に係る請求人の主張について検討する。
 本件各通知書においては、所得税法上の事業所得を生ずべき事業に該当するか否かの規範を示すに当たって、単に所得税法上と記載するにとどまり、事業所得について定めた具体的な根拠条文である同法第27条第1項を記載していない。
 しかしながら、本件各通知書においては、本件各確定申告書において事業所得として申告された所得についての事業所得該当性が問題になっていることは明らかであり、かつ、所得税法上の要件であることが明らかな「事業」の意義そのものが問題になっている場合であって(所得税法施行令においても「事業」の文言があるものの、本件各通知書においては、その記載上、所得税法施行令を念頭に置かず、所得税法における「事業」の意義のみを解釈したものと理解できる。)、かつ、問題となっている「事業」という要件が抽象的であって当然に解釈を必要とするものである場合であるから、このような場合に所得税法上の「事業」の意義について明確な法令解釈が示されている以上、そのような抽象的な要件に関する法令解釈が示された理由についてまで具体的に示さなくても、その判断過程を逐一検証することは一応可能であるともいうことができるから、これらの事情も加味すれば、具体的な根拠法条が示されていないことのみをもって、理由の提示に不備があるとまではいえない。
 以上のとおりであるから、請求人の上記主張には理由がない。
C なお、請求人は、別紙6の2の請求人の主張イのとおり、本件各通知書に記載された処分の理由は、担当者の主観を記載したものであって、かつ、具体的ではない旨主張するが、上記Aのとおり、当該処分の理由はその判断過程を逐一検証することが一応可能と評価できるものであって、単なる担当者の主観を超えた具体的なものであるから、請求人の当該主張には理由がない。
(ロ) 次に、原処分庁の提示した雑所得の必要経費該当性の判断に係る理由を検討すると、以下のとおりである。
A 原処分庁が、本件各通知書において平成21年分及び平成22年分の旅費交通費並びに平成23年分の新聞図書費について提示した処分の理由を検討すると、本件各通知書の「処分の理由」欄には、別紙5の2の(2)のイの(イ)及び(ロ)並びに同ホの(ハ)のとおり、これらの各費用についてその一部は必要経費として認められるものの、その他の費用は所得税法第45条《家事関連費等の必要経費不算入等》第1項第1号に規定する家事関連費等に該当するから必要経費に算入されない旨それぞれ記載されている。
 しかしながら、上記記載は、上記一部必要経費として認められる費用についてその金額を示しているのみで、具体的にいつ、誰に対し支払った、どのような内容の費用(あるいは費用の一部)を必要経費として認めたのかを特定しておらず、その結果として原処分庁が必要経費として認めなかった費用がどの費用(あるいは費用の一部)であるかも特定されていないから、当該費用の内容すら理解できないものであって、必要経費該当性をおよそ判断できないものであり、摘示された事実からは更正の理由を検証し、その適否について検討することはできない。また、本件各更正処分を行った後に原処分庁が必要経費として認めなかった費用を差し替えることも可能であって、原処分時点における判断の恣意抑制という趣旨目的を潜脱されるおそれがある。
 そうすると、上記各記載が、原処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という趣旨目的を充足する程度に具体的に更正の根拠を明示したとは評価できないから、これらの理由の記載にはいずれも不備がある。
 したがって、本件各通知書において提示された処分の理由のうち、平成21年分及び平成22年分の旅費交通費並びに平成23年分の新聞図書費の一部を必要経費に該当しないとして否認した理由についてはその提示に不備があり、違法である。
B 上記Aの理由の記載の不備は、原処分庁の提示した上記(イ)の所得区分に係る判断の理由及びその他の費用に係る必要経費該当性に係る判断の理由に影響を与えるものではないから、それが更正全体の理由の提示を不備ならしめる程度に至っているとはいえず、その違法は平成21年分及び平成22年分の旅費交通費並びに平成23年分の新聞図書費の必要経費該当性の判断にとどまるものである。
(ハ) 以上のとおり、本件各通知書において提示された処分の理由のうち、所得区分の判断に係る理由の提示は適法であるのに対し、平成21年分及び平成22年分の旅費交通費並びに平成23年分の新聞図書費について必要経費に該当することを否認した理由の提示には不備があって違法であるが、後記(4)のロのとおり、本件各支出のうち上記(ロ)のAの理由の記載の不備があった費用以外の各支出が必要経費に該当するか否かについては、請求人の総所得金額及びこれに基づき算出される納付すべき税額の計算に影響を与えないことからすれば、当該各支出の必要経費該当性の判断に係る理由の提示に不備があるか否かは、その判断の要を認めない。

(3) 争点3(本件業務は、所得税法第27条第1項に規定する事業に該当するか否か。)について

イ 法令解釈
 所得税法第27条第1項は、事業所得について、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得である旨規定し、その委任を受けた所得税法施行令第63条において、事業所得の事業に当たるものとして、11項目にわたり業種を例示するとともに、その他対価を得て継続的に行う事業がこれに当たる旨規定している。
 このように、所得税法第27条第1項及び所得税法施行令第63条に規定する「事業」については、その意義自体について一般的な定義規定を置いていないところ、その意味するところは、自己の危険と計算において独立して行う業務であり、営利性・有償性を有し、かつ、反復継続して業務を遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められるものであると解される。
 そして、ある所得が事業所得に当たるか否かを判断するに当たっては、当該所得が社会通念上「事業」といえる程度の規模・態様においてなされる営利性、有償性、反復継続性をもった活動によって生じる所得か否かによって判断すべきであり、この場合において「事業」といえる程度の規模・態様においてなされる活動といえるかどうかは、自己の計算と危険においてする企画遂行性の有無、その者の精神的肉体的労務の投入の有無、人的・物的設備の有無、その者の職業・経験及び社会的地位等を総合的に勘案して判断すべきである。
ロ 認定事実
 原処分関係資料、請求人の答述及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ) 請求人は、平成21年ないし平成23年において、別表6に記載したとおりの各講義及び各講演を行った。また、請求人は、平成20年ないし平成24年において、別表7に記載した各著作物を執筆した。なお、これらの業務に関し、取引相手が経費を負担するような契約は締結されていない。
(ロ) 請求人の平成21年ないし平成23年における1週間の大まかなスケジュールは、月曜日がa実家からNマンションへの移動日、火曜日の午後から木曜日の午後までがM大学での講義、金曜日がP大学やQ大学等k地方に所在する他の大学での講義というものであった。
(ハ) 請求人は、執筆した原稿について、出版されたもの及び出版されなかったもののいずれも書面又はデータとして残しておらず、また、作品タイトルの一覧表のようなものも保存していない。
(ニ) 請求人は、別表7に記載した各著作物の大半でM大学准教授の肩書を用いている。
(ホ) 請求人は、当審判所に対し、平成24年3月20日付のRに掲載された「○○○○」の執筆に関し医療関係者を取材した旨答述したが、請求人が、具体的にいつ、どこで、どのような取材活動をしたのかを示す客観的な証拠はない。
(ヘ) 請求人は、当審判所に対し、専門分野等に関係する執筆のほかに著述業の対象としたジャンルは歴史法制史あるいは歴史ミステリーに関係する分野である旨答述したが、この分野の著述に係る収入はなく、また、請求人がこれらについて実際にどのようなテーマの原稿を執筆したのかを示す客観的な証拠もない。
 また、請求人は、当審判所に対し、上記歴史法制史あるいは歴史ミステリーの分野の執筆に関し、主に京都や奈良で、7年くらいの期間にわたり、文献に当たったり、神社仏閣等を訪れたり、地元の人に会ったりするなどの取材活動をした旨あるいはa実家近辺の神社やS等を取材した旨それぞれ答述するが、請求人が、具体的にいつ、どこで、どのような取材活動をしたのかを示す客観的な証拠はない。
(ト) 請求人は、当審判所に対し、何もせずに出版社等から執筆の依頼が来るということはなく、出版社に原稿を持ち込むなどして売り込みをするうちに担当者に顔を覚えてもらうことができて、そのうちに少しずつ執筆の依頼が来るようになった旨及び著述業に関する営業活動は主に○○で行った旨それぞれ答述するが、請求人が、具体的にいつ、どこで、どのような営業活動を行ったのかを示す客観的な証拠はない。
 また、請求人は、当審判所に対し、営業活動に関して、原稿の売り込みは目次と1章くらいまでの原稿を出版社等に持ち込んで、始まりから終わりまでのストーリーを担当者に伝えていた旨を答述するが、こうした営業活動を行った事実を裏付ける出版社等の担当者の名刺や持ち込んだ原稿等の提示はなく、請求人が具体的にいかなる営業活動を行ったのかを示す客観的な証拠はない。
(チ) 請求人は、当審判所に対し、請求人は手帳を使用しておらず、大学に設置され、毎月書き換えられるホワイトボードに日程を記載してスケジュールの管理を行っていた旨答述しており、請求人が本件業務に関し具体的にどのような日程やスケジュールで活動を行っていたのかを示す客観的な証拠はない。
(リ) 請求人は、パソコンやプリンター等の備品を使用して本件業務を行っていたが、それ以外の物的設備は有しておらず、また、本件業務のために使用人を雇っていない。
(ヌ) 請求人が本件各年分にM大学から得た給与収入は、平成21年分が○○○○円、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円である。
ハ 当てはめ
(イ) まず、本件業務が、営利性、有償性、反復継続性をもつか否かについて判断すると、別表6及び別表7のとおり、請求人は、本件各年分において継続して執筆、講義及び講演の活動を行い、これらの活動から別表4−1又は別表5−1の「総収入金額」欄のとおりの各収入を得ていた上に、請求人が利益を得ることを目的とせずに本件業務を行っていたことをうかがわせる事情も認められないことからすれば、本件業務は、営利性、有償性、反復継続性をもった活動ということができる。
 したがって、本件業務から生じる所得は、営利性、有償性、反復継続性をもった活動によって生じた所得と認められる。
(ロ) 次に、本件業務が、「事業」といえる程度の規模・態様においてなされた活動といえるか否かについて判断すると、自己の計算と危険においてする企画遂行性の有無、請求人の精神的肉体的労務の投入の有無、人的・物的設備の有無、請求人の職業・経験及び社会的地位は、以下のとおりである。
A 自己の計算と危険においてする企画遂行性の有無
 本件業務による収入は、別表6及び別表7のとおり、不定期に生じてはいるものの、上記ロの(イ)のとおり、執筆活動に類型的に必要と考えられる取材活動や営業活動の経費が請求人の負担とされていることからすると、本件業務は自己の計算と危険において行われているというべきである。
 もっとも、請求人は、上記ロの(ホ)ないし(チ)のとおり、本件業務に必要な取材活動や営業活動を行っていた旨答述するが、そのことを裏付ける証拠等は一切なく、これらの取材活動や営業活動の事実は認め難く、少なくとも企画遂行性に乏しいというべきである。
 また、請求人は、上記ロの(ハ)及び(ヘ)のとおり、専門分野等に関する執筆のほかに歴史法制史関係あるいは歴史ミステリーに関係する分野の原稿を執筆した旨答述するが、それを裏付ける書面及びデータは残っておらず、作品タイトルの一覧表のようなものも保存されておらず、また、実際にこれらの内容の執筆を行ったことによる収入金額もないため、これらの内容の原稿を執筆していたとは認められない。
 以上からすると、本件業務は自己の計算と危険においてされているということはできる。しかしながら、請求人が実際に本件業務に関し取材活動や営業活動を行っていたとは認め難いか、又は執筆に至った事実が認められないものであることからすれば、その企画遂行性は、仮にあったとしても乏しいものにとどまっていたと認められる。
B 精神的肉体的労務の投入の有無について
 上記ロの(ロ)のとおり、請求人は、a実家とNマンションの間を毎週移動しながら、M大学等において平日に週4日程度の講義を行い、それ以外の時間に本件業務としての講演や執筆活動等を行っていることが認められることからすれば、請求人が本件業務に一定の精神的肉体的労務を投入しているとしても、限定的なものにとどまっていたと認められる。
C 人的・物的設備の有無について
 上記ロの(リ)のとおり、請求人は、パソコンやプリンター等の備品を使用して本件業務を行っていたが、それ以外の物的設備は有しておらず、また、本件業務のために使用人を雇っていない。
 なお、請求人は赤字のために使用人を雇えないのは普通のことである旨主張するが、ある程度の事業規模があれば赤字であっても人員を配置しなければ事業自体が遂行できないのであるから、使用人の有無を「事業」といえる程度の規模・態様においてなされた活動といえるか否かの判定要素の一つとすることは不合理ではない。
D 職業・経験及び社会的地位について
 上記1の(4)のイ及びハ並びに上記ロの(ヌ)のとおり、請求人は、平成21年ないし平成23年においてM大学で任期付の准教授として勤務し、同大学から生活を営むのに十分な給与収入を得ていた。
(ハ) 以上の点からすると、請求人は、本件業務に関して、自己の計算と危険において簡易ながら一定の物的設備を整え執筆や講演等の活動を行ったと認められるものの、他方で、その企画遂行性の程度は仮にあったとしても乏しいものにとどまっており、本件業務に投入している精神的肉体的労務も限定的なものであり、さらにM大学から生活を営むのに十分な給与収入を得ていたことからすれば、本件業務は、社会通念上「事業」といえる規模・態様においてなされた活動とまではいえない。 
ニ 請求人の主張について
 請求人は、別紙6の3の請求人の主張イのとおり、請求人が著述業を行う目的を持って、その目的を達成する意思で著述業を行っていたのであるから、本件業務は、所得税法施行令第63条第11号に規定する「著述業その他のサービス業」に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件業務が社会通念上「事業」といえる程度の規模・態様においてなされた活動といえないことについては上記ハの(ハ)のとおりであり、また、ある活動が「事業」に該当するか否かについては、上記イのとおりの要素等を総合考慮して判断すべきものであって、当該活動を行う目的やその目的を達成する意思という主観的な要素のみで判断するものではなく、少なくとも重要な判断要素ではないから、請求人の上記主張を採用することはできない。
ホ まとめ
 以上のとおり、本件業務は、「事業」といえる程度の規模・態様で行われたとは認められず、本件業務から生じる所得を事業所得と認めることはできない。
 そうすると、本件業務から生じる所得は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しないことから、雑所得に該当する。

(4) 争点4(本件各支出の額は、本件業務に係る所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否か。)について

イ 上記(2)のロの(ハ)のとおり、本件各通知書において提示された処分の理由のうち、平成21年分及び平成22年分の旅費交通費並びに平成23年分の新聞図書費の一部が必要経費に該当しないとして否認した理由の提示に不備があるので、これらの各費用項目について必要経費に算入される金額は、請求人が原処分庁に対し本件各確定申告書に添付して提出した各収支内訳書記載の必要経費の金額と同額の平成21年分の旅費交通費が1,858,942円、平成22年分の旅費交通費が1,920,844円及び平成23年分の新聞図書費が1,790,818円(別表2の「旅費交通費」欄及び「新聞図書費」欄参照)となる。そして、これらの各必要経費の金額は本件各年分の各総収入金額(平成21年分はXXX,XXX円、平成22年分はXXX,XXX円及び平成23年分はXXX,XXX円)をいずれも上回り、また、上記(3)のホのとおり、本件業務から生じる所得は雑所得に該当するから、請求人の本件各年分の雑所得の金額の計算上いずれも損失の金額が生じることになるところ、所得税法第69条《損益通算》第1項に基づき、これを他の各種所得の金額から控除することはできない。
ロ 上記イのとおり、本件各年分の雑所得の金額の計算上いずれも損失の金額が生じることは明らかであり、また、雑所得の金額の計算上生じた損失の金額を他の各種所得の金額から控除することはできないので、本件各支出のうち当該理由の提示に不備があった費用以外の各支出が必要経費に該当するか否かについては、本件各年分の請求人の総所得金額及びこれに基づき算出される納付すべき税額の計算に影響を与えることはなく、その判断の要を認めない。

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5 本件各更正処分について

 上記4のとおり、本件業務から生じる所得の所得区分は雑所得に該当し、その所得の金額の計算上損失の金額が生じることになるものの、これを他の各種所得の金額から控除することはできない。これを前提として、請求人の本件各年分の総所得金額及び納付すべき税額を算定すると、別表8の各「総所得金額」欄及び各「納付すべき税額」欄のとおりとなり、これらの金額はいずれも本件各更正処分の額を下回るので、本件各更正処分は、いずれもその一部を別紙1ないし別紙3の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

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6 本件各賦課決定処分について

 上記5のとおり、本件各更正処分の一部がそれぞれ取り消されることに伴い、過少申告加算税の基礎となる税額は、平成21年分が○○○○円、平成22年分が○○○○円及び平成23年分が○○○○円となるところ(いずれも別表8の「納付すべき税額」欄の額から別表1の「確定申告」欄の「納付すべき税額」欄の額を差し引いて求めた金額について通則法第118条《国税の課税標準の端数計算等》第3項に基づき10,000円未満の端数金額を切り捨てた後の金額である。)、これらの税額の計算の基礎となった事実が、本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて本件各年分の過少申告加算税の額を計算すると、平成21年分が○○○○円、平成22年分が○○○○円及び平成23年分が○○○○円となる。
 そうすると、本件各年分の過少申告加算税の額は、本件各賦課決定処分の額をいずれも下回るので、本件各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙1ないし別紙3の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

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7 その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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