別紙5

当事者の主張

  • 争点1 本件各更正処分等に係る調査手続等に処分を取り消すべき程度の違法事由があったか否か。
    請求人 原処分庁
     1 事前通知
     平成24年分の所得税の調査は、改正通則法施行後に開始されたものであり、通則法第74条の9第1項の事前通知が必要であったにもかかわらず、調査担当職員は、電話で「平成24年分の所得税の調査を行います。」とのみ通知しただけで、平成24年分の所得税の調査を追加したことについての説明もなく、その後においても、改正後の通則法に則って通知が行われていないことから、平成24年分の所得税の調査は通則法で必要な手続要件を満たしておらず、違法である。
     1 事前通知
     通則法第74条の9第1項に規定する納税義務者に対する調査の事前通知は、平成23年法律第114号附則第39条第3項の規定により、平成25年1月1日前から引き続き行われている調査については、その適用から除かれることとされている。
     調査担当職員は、平成24年11月7日から調査(旧所得税法第234条に基づく質問検査)を行っているところ、平成24年分の所得税の調査は、上記調査の対象年分に追加したのであるから、平成25年1月1日前から引き続き行われている調査に該当するので、通則法第74条の9第1項に規定する事項を通知する必要はない。
     2 調査理由の開示
     調査担当職員は、本件各年分の調査を行うに際し、具体的な調査の理由や請求人が調査の対象として選定された理由等を何ら説明することなく調査をしているから、本件各年分の調査は、違法である。
     2 調査理由の開示
     所得税並びに消費税及び地方消費税の調査に当たり、納税者に対して具体的な調査理由の開示をしなければならない旨を定めた法令上の規定はなく、申告の真実性、正確性を調査するために必要がある場合にも調査の必要があるとされており、具体的な調査理由の開示を行うことなく調査をしても何ら違法ではない。
     なお、調査担当職員は、請求人に対し、本件各年分の申告内容を確認するためのものである旨通知している。
     3 第三者の立会い
     第三者の立会いを認めるか否かについては、税務署側が決めるものではなく、飽くまでも納税者本人が決めるものである。
     実際に、調査担当職員は、第三者の立会いの下で○○ノートを書き写し、その内容について質問している。
     したがって、調査において、請求人が立会いを依頼した第三者の立会いを認めなかったことは違法である。
     3 第三者の立会い
     税務職員が質問検査権を行使する場合の第三者の立会いについては、税理士法第34条《調査の通知》以外に格別の定めはなく、調査の内容が納税者のみならずその取引の相手方の営業上の秘密に及ぶこともあり、第三者の立会いを認めると通則法第126条及び国家公務員法第100条《秘密を守る義務》第1項に規定されている税務職員に課されている守秘義務を全うすることができないから、第三者の立会いのないところでの調査協力を要請したとしても、何ら違法ではない。
     4 取引先に対する調査
     請求人は、当初の調査において、申告の基となった○○ノートを提示し、その転記やコピーも行わせたほか、請求書及び領収証等も準備するなど協力しているにもかかわらず、調査担当職員は、提示した資料を信頼できないとして、請求人の許可なく銀行や取引先のほか、請求人と取引のない業者に対して調査を行った。
     このような調査は、税務職員の守秘義務に反するものであるから、違法である。
     4 取引先に対する調査
     取引先に対する調査の実施、その時期及び方法等については、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられていると解されている。
     調査担当職員は、請求人の帳簿書類等の実質的な調査を行うことができなかったことから、請求人の取引先及び取引が想定される者に対して調査を行ったものであり、請求人の同意を得ないまま取引先に対する調査を行ったことは守秘義務違反に当たらない。
     5 平成24年分の所得税の調査
     通則法第24条は「調査により」更正すると規定しているが、平成24年分の所得税については、上記1のとおり、電話による通知のみで、○○ノートや伝票の提示要求はなく更正の前提となる調査が行われておらず、また、通則法の規定に基づいた調査の説明もないまま更正処分を行っていることから違法である。
     5 平成24年分の所得税の調査
     調査担当職員は、平成24年分の所得税も調査対象とする旨通知し、平成23年分以前の調査対象年分とともに平成24年分の申告の基礎となった帳簿書類の確認をすべく、請求人に対し調査協力を求めたが、請求人は、第三者のいないところでは調査及び帳簿書類の提示に応じられない旨主張し、帳簿書類を提出しなかった。
     このため、調査担当職員は、事業所得の金額を実額で計算することができなかったため、やむを得ず、取引先に対する調査を行い、所得税法第156条の規定により事業所得の金額を推計し、また、不動産所得の金額を実額により算定した上で更正処分をしたものであり、平成24年分の所得税の調査に違法はない。
     6 本件各更正処分等に係る通知書の送達
     原処分庁が、本件各更正処分等に係る通知書を郵送による送達ではなく交付送達により行ったことは違法で、当該通知書は無効である。
     6 本件各更正処分等に係る通知書の送達
     通則法第12条第1項は、国税に関する法律の規定に基づいて税務署長が発する書類について、郵便若しくは信書便による送達又は交付送達により、その送達を受けるべき者の住所又は居所に送達する旨規定し、同条第4項は、交付送達について、当該行政機関の職員が、第1項の規定により送達すべき場所において、その送達を受けるべき者に交付して行う旨規定している。
     したがって、本件各更正処分等に係る通知書は、郵便若しくは信書便による送達又は交付送達のいずれの方法によっても問題ない。
  • 争点2 事業所得の金額の計算上、推計の必要性が認められるか否か。
  • 原処分庁 請求人
      請求人から提示された○○ノートには、取引先が特定できない金額の記載があること及び記載された内容の集計と申告額とには開差が認められることから、調査担当職員は、提示された○○ノートの作成の基礎となった帳簿書類の確認を行わなければ、○○ノートが正しいか否かを判断することができなかった。
     このため、調査担当職員は、再三にわたり第三者の立会いのないところで、○○ノートの作成の基礎となった帳簿書類の提示を求めたが、請求人は第三者の退席を拒み、第三者のいないところでは調査及び帳簿書類の提示には応じられない旨主張し、また、確定申告書に記載されている所得金額を正当とする具体的な説明も行わなかった。
     このような状況下においては、請求人が提示した○○ノートのみでは、事業所得の金額を実額により計算することができないことから、原処分庁は、やむを得ず所得税法第156条の規定に基づき、事業所得の金額を推計したものである。
      請求人は、調査担当職員に対し、平成22年分及び平成23年分の確定申告書の基となった○○ノートを提示し、記載漏れ、集計ミスなども説明したにもかかわらず、調査担当職員は、調査の途中から守秘義務を理由に第三者の立会いを拒否し、また、平成24年分については、帳簿や伝票等の提示要求すらしなかった。
     調査担当職員は、帳簿等を確認すれば帳簿に基づく実額計算が可能であったのであるから、事業所得の金額については、推計の方法による算定の必要性はなかった。
  • 争点3 事業所得の金額の計算上、請求人の実額主張が認められるか否か。
    請求人 原処分庁
      調査を継続することで、請求人の所得金額を実額により把握することは可能であったにもかかわらず、最初から推計課税ありきのものであったと考えざるを得ない。
     したがって、審査請求においては、実額により事業所得の金額を算定するべきである。
      請求人の確定申告書の基礎となった○○ノートの記載内容は、申告額と開差が認められるものであり、提示された○○ノートの作成の基礎となった帳簿書類等の確認を行わなければ、その内容が正確なものとは認められないから、事業所得の金額を実額により計算することはできない。
  • 争点4 事業所得の金額の計算上、推計の方法に合理性が認められるか否か。
    原処分庁 請求人
     1 推計の基礎数値の合理性
     本件各年分の推計の基礎数値とした請求人の売上原価の額は、請求人が申告した本件各年分の売上原価の額を下回っているが、これは、請求人から調査への協力が得られないため、仕入先を特定しその仕入金額を実額で把握することができなかったことによるものである。
     推計課税の方法においては売上原価を基礎数値として同業者の平均所得率を乗じる場合、一般的に売上原価が増加すると、その額に比例して所得金額も増加することとなるから、売上原価の額は、課税上の安全性を考慮して入手し得た資料等から算定したものであり、推計の基礎数値には合理性が認められる。
     1 推計の基礎数値の合理性
     請求人は、調査担当職員に対し、○○ノートを提示し、調査担当職員はそれを書き写し、仕入先、仕入金額を確認しているのに、原処分庁の推計の根拠となった仕入金額はその金額を下回っており、いい加減である。
     同業者の比率についても、具体的な根拠が示されず、基礎的な条件が異なる業者と比較するものであり、合理性に欠ける。
     2 所得税と消費税との関係
     所得税の推計課税は、一定の合理的な方法によって納税者の各種所得の金額を算定するものであるところ、本件の場合、推計の方法により算定された収入金額は、入手し得た資料等に基づいて推計したものであるから、それが納税者が自ら行った消費税及び地方消費税の申告における課税標準額を下回ったとしても、そのことをもって所得税の推計課税の合理性は影響を受けるものではない。
     2 所得税と消費税の関係
     消費税及び地方消費税の確定申告は、所得税の確定申告を基に作成しており、売上額及び仕入額は、所得税と消費税においては同額でなくてはならないにもかかわらず、原処分庁は、所得税は更正処分、消費税及び地方消費税では申告を認めるという矛盾した対応をしていることから、推計に合理性は認められない。

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