(平成26年11月13日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、室内装飾業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税について、原処分庁が、事業所得の金額を推計して行った更正処分等に対し、請求人が、調査手続に違法があり、また、事業所得の金額は、請求人の帳簿書類に基づき実額で算定すべきであるとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成22年分、平成23年分及び平成24年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までにそれぞれ申告した。
ロ 原処分庁は、平成25年7月5日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、上記ロの処分を不服として、平成25年8月1日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成25年11月1日付で平成22年分については別表1「異議決定」欄のとおり、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の一部をそれぞれ取り消し、平成23年分及び平成24年分については、いずれも棄却の異議決定をした。
 なお、以下、本件各年分の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(平成22年分の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分については、異議決定によりいずれもその一部を取り消された後のもの)を、それぞれ「本件各更正処分」、「本件各賦課決定処分」といい、これらを併せて以下「本件各更正処分等」と、また、本件各年分の異議決定を「本件各異議決定」という。
ニ 請求人は、本件各異議決定を経た後の本件各更正処分等及び本件各異議決定について不服があるとして、平成25年11月19日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 関係法令の要旨は、別紙4のとおりである。

(4) 争点

 争点1 本件各更正処分等に係る調査手続等に処分を取り消すべき程度の違法事由があったか否か。
 争点2 事業所得の金額の計算上、推計の必要性が認められるか否か。
 争点3 事業所得の金額の計算上、請求人の実額主張が認められるか否か。
 争点4 事業所得の金額の計算上、推計の方法に合理性が認められるか否か。

トップに戻る

2 主張

 当事者の主張は、別紙5のとおりである。

トップに戻る

3 判断

(1) 争点1(本件各更正処分等に係る調査手続等に処分を取り消すべき程度の違法事由があったか否か。)について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成24年11月7日に平成21年分、平成22年分及び平成23年分の所得税並びに平成21年1月1日から平成21年12月31日まで、平成22年1月1日から平成22年12月31日まで及び平成23年1月1日から平成23年12月31日までの各課税期間の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の調査(以下「当初調査」という。)のため請求人の事務所へ臨場した。その際、請求人以外の第三者の立会いがあった。
 そのため、本件調査担当職員は、請求人に対し、税務職員に課せられた守秘義務を全うすることができないおそれがあるので第三者の立会いは認められない旨説明の上、第三者を退席させて調査に協力するよう求めたところ、当該第三者は事務室から退室した。
 そこで、本件調査担当職員は、請求人に対して、申告内容を確認するための調査である旨通知して調査を開始し、請求人から平成21年分及び平成23年分の○○ノートと題する集計ノート(以下「本件ノート」という。)の提示を受け、それらの記載内容の一部を書き写した。
(ロ) 本件調査担当職員は、平成24年11月16日に当初調査のため請求人の事務所に再度臨場した。その際、請求人以外の第三者の立会いがあった。
 そのため、本件調査担当職員は、請求人に対し、第三者を退席させた上で帳簿書類を提示するよう求めたところ、請求人は、第三者の退席には応じなかったものの、平成22年分の本件ノートを提示した。
 本件調査担当職員は、当該提示を受けて、第三者がいたとしても本件ノートを伏せた状態で写すだけであれば、守秘義務に抵触しないと判断し、平成22年分の本件ノートの記載内容の一部を書き写した。
(ハ) 本件調査担当職員は、平成24年12月5日に当初調査のため請求人の事務所に臨場した。
 その際、請求人以外の第三者の立会いがあったため、本件調査担当職員は、同日以降は帳簿書類の内容の確認を行う必要があり、書類を広げないと当該確認ができないから、請求人に対し、第三者を退席させた上で帳簿書類の提示をするよう調査への協力を求めたが、請求人がこれに応じなかったため、調査を進めることができなかった。
(ニ) 本件調査担当職員は、平成24年12月11日に電話で請求人に対し、第三者の立会いのないところで帳簿書類を提示するよう当初調査への協力を求めた。
(ホ) 本件調査担当職員は、平成24年12月13日に当初調査のため請求人の事務所に臨場したところ、請求人以外の第三者が立会ったことから、請求人に対し、第三者を退席させた上で帳簿書類の提示をするよう調査への協力を求めたが、請求人はこれに応じなかった。
(ヘ) 本件調査担当職員は、平成24年12月14日以降、当初調査に係る各年分の仕入先との取引金額を把握するため、請求人の取引先及び取引が想定される者に対して調査を行った。
(ト) 本件調査担当職員は、平成25年3月25日に電話で請求人に対し、平成24年分の所得税について、確定申告書の記載内容確認のため、当初調査に追加して調査する旨通知した(以下、当初調査と併せて「本件調査」という。)。
(チ) 本件調査担当職員は、平成25年3月26日に請求人から一度会って話したいことがあるので請求人宅に来てほしい旨の依頼を電話で受け、その際、第三者の立会いがあるところでは、今まで同様に調査を行うことはできない旨を請求人に通知した上で、平成25年4月3日に調査のため請求人の事務所に臨場する旨を約した。
 また、本件調査担当職員は、上記電話の際、請求人に対し本件各年分の帳簿書類を提示するよう併せて求めた。
(リ) 本件調査担当職員は、平成25年3月26日に、請求人の平成24年分に係る仕入先との取引金額を把握するため、請求人の取引先に対して調査を行った(以下、上記(ヘ)の調査と併せて「本件取引先調査」という。)。
(ヌ) 本件調査担当職員は、平成25年4月3日に本件調査のため、請求人の事務所に臨場したところ、請求人以外の第三者が立会っていたため、第三者の退席を求めたが、請求人は、これに応じなかった。
(ル) 本件調査担当職員は、平成25年4月17日に本件調査のため、請求人に対して電話し、第三者を退席させた上で、本件各年分の帳簿書類を提示するよう求めたが、請求人は、これに応じなかった。
(ヲ) 上記(ロ)、(ハ)、(チ)及び(ル)については、本件調査担当職員も答述しているところ、同答述は、原処分関係資料とも符号しており、請求人の答述と相いれないものもなく、信用性が高い。
 なお、請求人は、平成25年4月3日以前に、平成24年分の所得税の調査を追加する旨本件調査担当職員から言われたこと、同日より前に、本件調査担当職員と、調査のため事務所を訪問する日程を調整した事実を認めている。
(ワ) 本件各更正処分等に係る各通知書(以下「本件通知書」という。)は、平成25年7月5日に、請求人に対し交付送達された。
ロ 判断
(イ) 事前通知
A 原処分庁の主張について
 原処分庁は、平成24年分の所得税の調査は、平成25年1月1日前から引き続き行われている調査に該当し、平成23年法律第114号附則第39条第3項により通則法第74条の9第1項の適用はない旨主張する。
 しかしながら、調査は、納税義務者について税目と課税期間によって特定される納税義務に関してなされるものであるから、当該納税義務に係る調査を一の調査とみるべきであり、そうすると、請求人に対する平成24年分の所得税の調査は、独立した一の調査となり、平成25年1月1日前から引き続き行われている調査には該当せず、通則法第74条の9第1項の適用があると認められる。
 したがって、この点についての原処分庁の主張は採用できない。
B 請求人の主張について
 請求人は、平成24年分の所得税の調査は、改正通則法施行後に開始されたものであり、通則法第74条の9第1項の事前通知が必要であったにもかかわらず、本件調査担当職員は、電話で「平成24年分の所得税の調査を行います。」とのみ通知しただけで、平成24年分の所得税の調査を追加したことについての説明もなく、その後においても、改正後の通則法に則って通知が行われていないことから、平成24年分の所得税の調査は通則法で必要な手続要件を満たしておらず、違法である旨主張する。
 確かに、当審判所の調査の結果によれば、上記イの(イ)のとおり、当初調査は、平成24年11月7日より継続して行われていたところ、平成24年分の所得税の調査について、本件調査担当職員は、上記イの(ト)のとおり、請求人に平成24年分の所得税について調査を行う旨通知した以上に、通則法第74条の9第1項に基づく事前通知である旨を明示的に通知することなく、上記イの(ト)及び(チ)のとおり、請求人と電話による応答を行い、上記イの(ヌ)のとおり、請求人の事務所に臨場していることが認められる。
 しかしながら、上記イの(ト)及び(チ)のとおり、本件調査担当職員は、平成25年3月25日に平成24年分の所得税の調査を追加する旨請求人に通知し、さらに同月26日、調査のために4月3日に請求人の事務所に赴くことを約し、その際に帳簿書類を提示するように求めているのであるから、これら一連の事実を総合すると、4月3日の実地調査の対象に平成24年分の所得税が含まれる趣旨であることは請求人に通知されていると評価することができる。
 そうすると、本件調査担当職員は通則法第74条の9第1項に規定する事前通知事項のうち、調査の対象税目及び調査の対象期間に加えて、調査の開始時期、調査の場所、調査の目的及び調査の対象となる帳簿書類を請求人に対し通知していると認められ、請求人が主張する平成24年分の所得税の調査を行う旨の通知しか行われていないとはいえない。
 したがって、この点についての請求人の主張には理由がない。
C 以上のことから、請求人に対する平成24年分の所得税の調査の事前通知については、上記Aのとおり、通則法第74条の9第1項の適用があるところ、上記Bのとおり、本件調査担当職員は、同条同項の規定に沿った事前通知を行っており、調査手続に違法とすべき点はない。
(ロ) 調査理由の開示
 請求人は、本件調査に当たり、請求人が調査理由の説明を求めたにもかかわらず、本件調査担当職員が具体的な調査理由を説明しなかったことは違法である旨主張する。
 しかしながら、税務職員が調査に際し、納税者に対して具体的な調査理由を開示することは法律上の要件とされておらず、また、質問検査権に基づいて行う税務調査は適正な租税負担の実現のために行うものであるから、申告がない場合又は過少申告の疑いが存する場合だけではなく、そのような疑いが明らかでない場合でも、申告の真実性や正確性を確認するために行い得ると解するのが相当である。
 本件調査担当職員は、上記イの(イ)及び(ト)のとおり、本件調査に当たり、申告内容の確認のための調査である旨を請求人に通知していると認められるから、それ以上の具体的な調査理由の開示がなかったとしても、本件調査が違法となるものではない。
(ハ) 第三者の立会い
 請求人は、第三者を立会わせるか否かを決めるのは納税者本人であり、また、本件調査担当職員が、第三者の立会いの下で本件ノートを書き写すなどしていながら、調査において第三者の立会いを認めなかったことは違法である旨主張する。
 しかしながら、実定法上、税務調査において、納税者に税理士資格を有しない第三者を立ち会わせる旨の規定がないだけでなく、税務職員は、通則法第126条により税務調査に関して守秘義務を負い、税務調査の過程において当該秘密を税務調査に関係のない第三者が知りうる状態において調査を行うことは、守秘義務に違反するおそれがあるのであるから、税理士以外の法律上守秘義務を負わない第三者の立会いを認めるかどうかは、原則として、税務職員の裁量に委ねられているものと解される。
 そうすると、本件調査担当職員は、本件調査に際し、上記イの(イ)から(ホ)、(チ)、(ヌ)及び(ル)のとおり、請求人及び取引先等の営業に関する事項の秘密を守るためなどの配慮から法律上守秘義務を負わない第三者の立会いを認めなかったものであり、この判断に合理性を欠いた点はなく、本件調査担当職員が請求人が求める第三者の立会いを認めないで本件調査を行ったことに違法はない。
(ニ) 取引先に対する調査
A 請求人は、請求人の許可なく本件取引先調査を行ったことは違法である旨主張する。
 しかしながら、取引先等に対する調査は、納税者本人に対する調査と同様に適正な租税負担を実現するために必要な資料を的確に収集することを目的に行われるものであって、これを行うかどうかは、納税者の事業内容、申告内容、調査に対する協力度等その納税者の個別事情からみて調査権限を有する税務職員の合理的判断に委ねられていると解するのが相当であり、その調査の実施に当たり納税者の承諾を得る必要はないと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、本件取引先調査は、上記イの(ヘ)及び(リ)のとおり、本件調査担当職員の合理的な判断に基づいて行われていることが認められるから、違法はない。
B 請求人は、平成22年分及び平成23年分は、調査で資料を提示し協力しており、本件取引先調査を行う必要性が認められない旨主張する。
 しかしながら、本件調査担当職員は、上記イの(ロ)のとおり、第三者が立会った状況で平成22年分の本件ノートの提示を受け、その記載内容を書き写したことは認められるものの、これは、本件ノートを伏せた状態で書き写すだけであれば、守秘義務に抵触しないとの判断によるものである。
 その後、本件調査担当職員は、申告内容を確認するために本件ノートの他に帳簿書類の内容の確認をすることが必要となったところ、上記と同様の状況下での確認作業では守秘義務に抵触するおそれがあると判断し、上記イの(ハ)から(ホ)のとおり、再三にわたり第三者の立会いがないところでの調査に応じるよう請求人に求めたが、請求人はこれに応じなかったものと認められる。
 そうすると、本件取引先調査は、帳簿書類の内容を確認できない状況の下、やむを得ず行われたものと認められ、本件調査担当職員の上記判断に合理性を欠いた点はないから、違法ということはできない。
C 請求人は、本件取引先調査は、調査の名を借りた税務職員の守秘義務違反そのものである旨主張する。
 しかしながら、上記A及びBのとおり、本件取引先調査は、本件調査担当職員の質問検査権の適法な行使によるものであるから、本件取引先調査によって、請求人が税務調査を受けていることを取引先に知られることになったとしても、そのことをもって守秘義務に違反するとは認められない。
(ホ) 平成24年分の所得税の調査
 請求人は、通則法第24条に「調査により」と規定されているところ、平成24年分の所得税の更正処分は、当該更正の前提となる調査が行われていないことを理由に違法である旨主張する。
 しかしながら、平成24年分の所得税について、上記イの(ト)のとおり、調査を行う旨の通知がなされていること、上記イの(リ)のとおり、本件調査担当職員は本件取引先調査を行っていること、及び上記イの(ヌ)のとおり、本件調査担当職員は請求人の事務所に調査のため臨場している事実が認められることからすると、平成24年分の所得税の更正処分は調査を行わずになされたものとは認められない。
(ヘ) 本件通知書の送達
 請求人は、本件通知書が郵送による送達ではなく、交付送達により行われたことは違法である旨主張する。
 しかしながら、別紙4の3のとおり、通則法第12条は、送達方法について、郵便等による送達又は交付送達のいずれによるかについては何らの規定も設けていないから、いずれの方法によるかは、税務署長の選択に任されているというべきである。
 したがって、上記イの(ワ)のとおり、原処分庁が本件通知書の送達に際し、交付送達によって送達したことに違法はない。
(ト) まとめ
 上記(イ)から(ヘ)のとおり、本件各更正処分等の調査手続等には、本件各更正処分等を取り消すべき違法事由はなく、これらの点に関する請求人の主張にはいずれも理由がない。

(2) 争点2(事業所得の金額の計算上、推計の必要性が認められるか否か。)について

イ 法令解釈
 課税処分における課税標準の認定は、直接資料に基づく実額計算の方法によるのが原則であるが、所得税法第156条は、所得金額を推計して課税することができる旨規定しているところ、これが認められるのは、推計の必要がある場合、すなわち、1 納税義務者が収入及び支出を明らかにし得る帳簿書類を備え付けていないこと、2帳簿書類の備付けがあってもその記載内容が不正確であること、又は3納税義務者が資料の提供を拒否する等税務調査に非協力であることなどにより、実額計算の方法による課税を行うことが不可能又は著しく困難な場合に限られると解される。
ロ 当てはめ
 請求人は、平成22年分及び平成23年分については、その確定申告書の基となった本件ノートを提示したにもかかわらず、本件調査担当職員は、途中から守秘義務を理由に第三者の立会いを拒否し、また、平成24年分については、帳簿や伝票等の提示要求すらせずに、帳簿等を見ようともしなかった一方、帳簿等を確認すれば実額計算は可能であったのであるから、推計の方法による所得金額の算定は必要なかった旨主張する。
 しかしながら、事業所得の金額を実額計算の方法によって算定するためには、請求人が当初調査に応じ、帳簿書類によって収入及び支出の内容を明らかにすることが必要であるところ、本件調査担当職員は、当初調査において、上記(1)のイの(ハ)から(ホ)のとおり、請求人に対し再三にわたり第三者の立会いのないところで調査に協力するよう要請したにもかかわらず、請求人がこれに応じなかったため、帳簿書類の一部しか内容を確認することができず、帳簿書類全体の内容を確認できなかったと認められ、このような状況下においては、原処分庁は、請求人に係る平成22年分及び平成23年分の事業所得の金額を実額計算の方法により計算することはできず、やむを得ず推計の方法により算定したものと認められる。
 また、平成24年分についても、上記(1)のイの(チ)及び(ル)のとおり、本件調査担当職員は、請求人に対して、帳簿書類の提示を求めたにもかかわらず、請求人は、それに応じなかったことが認められる。
 したがって、原処分庁は、平成22年分及び平成23年分と同様、平成24年分についても、事業所得の金額を実額計算の方法により計算をすることができず、やむを得ず推計の方法により算定したものと認められるから、本件の場合、推計の必要性はあったものと認められ、請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(事業所得の金額の計算上、請求人の実額主張が認められるか否か。)について

イ 法令解釈
 原処分の段階で推計の必要性があると認められ、その後の審査請求の段階で、請求人が所得金額について実額計算の方法によることを主張して、原処分庁の行った推計の方法による課税の合理性を否定するためには、その主張する収入金額が全ての取引先からの全ての取引についての捕捉漏れのない収入金額であり、かつ、その収入と対応する必要経費が実際に支出され、当該事業との関連性を有することを合理的な疑いをいれない程度にまで立証しなければならないものと解される。
ロ 認定事実
 請求人が提出した証拠資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人が当審判所に提出した証拠資料
 請求人は、本件各年分の事業所得の金額の算定の基礎となる証拠資料として、次のAからFの資料を当審判所に提出した(以下、これらの資料を「請求人提出資料」という。)。
 なお、日々の現金の入金額及び支出額などを記載した金銭出納帳は提出されなかった。
A 本件各年分の本件ノート
 本件ノートには、下表の「項目」欄の内容を記載するページが設けられていた。

年分

項目

平成22年分 平成23年分 平成24年分
○○所得決算書(損益計算書)

必要経費の計算

科目月別集計表 売上(収入)の計算

仕入(売上原価)の計算

必要経費の計算

必要経費の計算(外注加工賃)

(注) 1  ○○所得決算書(損益計算書)を以下「損益計算書」という。
2  「○」は記載あり、「△」は一部記載ありを表す。

B 「2010年売上」、「平成23年度売上帖」及び「24年度売上」と題する書類(以下「本件各売上帳」という。)
 本件各売上帳は、得意先ごとに別葉となっており、工事先ごとの請求金額、入金年月日及び入金額が記載されていた。
C 「2010年経費」、「平成23年2011経費」及び「24年度経費」と題する書類(以下「本件各経費帳」という。)
 本件各経費帳には、科目ごとの取引年月日、取引内容及び金額が記載されていた。
D 本件各年分の収入に関する請求書控及び領収証控
 収入に関する請求書控は、パソコンで作成したものと取引先が指定した様式のものがあり、収入に関する領収証控は、市販のもの(1冊当たり50枚つづり)であった。
E 本件各年分の経費に関する請求書及び領収証
 経費に関する請求書及び領収証は、月別にまとめられていた。
F 普通預金通帳
 M銀行d支店に請求人名義の普通預金(口座番号○○○○、以下、当該預金の通帳を「本件預金通帳」という。)が開設されていた。
(ロ) 請求人提出資料の内容
 上記(イ)の請求人提出資料の内容について、次の事実が認められた。
A 確定申告書、本件ノート、本件各売上帳及び本件各経費帳との関連
 本件各年分の確定申告書に添付された収支内訳書に記載された収入金額、必要経費及び所得金額は、本件各年分の本件ノートの損益計算書に記載された収入金額、必要経費及び所得金額といずれも一致した。
 一方、本件ノートに記載された金額と本件各売上帳及び本件各経費帳に記載された金額が一致しない科目が散見されたほか、本件各経費帳に記載がなく領収証からも支出が確認できない金額が、本件ノートの科目に計上されていた。
B 本件各売上帳と収入に関する請求書控及び領収証控との関連
 本件各売上帳と収入に関する請求書控、領収証控及び本件預金通帳への振込額を照合した結果、本件各年分とも本件各売上帳に計上されていない金額が散見された。
C 本件各年分の収入に関する請求書控の記載内容
 請求人がパソコンで作成している請求書には、工事ごとにオーダー番号が付されているが、請求人が提出した請求書控に記載されたオーダー番号に欠番が散見された。
D 本件各経費帳と経費に関する領収証及び請求書との関連
 本件各経費帳と経費に関する領収証及び請求書を照合した結果、本件各経費帳に記載された取引に領収証のないものが散見され、請求人が金額のみを記載した出金伝票及び取引内容を記載したメモ書きをもって計上しているものがあった。
ハ 当てはめ
 事業所得に係る収入金額について、上記ロの(ロ)のAのとおり、本件ノートと本件各売上帳の記載が一致しないこと、上記ロの(ロ)のBのとおり、本件各年分とも請求書控、領収証控及び本件預金通帳に記載があるものの、本件各売上帳に計上されていない金額が散見されたこと、また、上記ロの(ロ)のCのとおり、請求書控に記載されたオーダー番号には欠番があり、未提出の請求書控があるものと想定されるところ、請求人からは欠番が生じた明確な理由の説明もなく、欠番に係る請求書の収入を明確にする証拠も一部しか提出されていないことからすると、請求人において、事業所得に係る収入金額が、捕捉漏れのない金額であることを合理的な疑いをいれない程度にまで立証しているとは認められない。
 また、事業所得に係る必要経費について、上記ロの(ロ)のAのとおり、本件ノートと本件各経費帳の記載が一致しないこと、上記ロの(ロ)のDのとおり、領収証の保存がないもの、請求人が出金伝票に金額のみを記載したもの及び取引内容をメモ書きしたものを本件各経費帳に記帳しており、いずれもその支出の内容及び支払の事実を確認できないことからすると、請求人において、事業所得に係る必要経費が実際に支出され、請求人の事業との関連性を有することを合理的な疑いをいれない程度にまで立証しているとは認められない。
 そうすると、請求人が当審判所に提出した資料に基づいて、本件各年分の事業所得の金額を実額計算の方法によって算定することはできないから、請求人の主張には理由がない。

(4) 争点4(事業所得の金額の計算上、推計の方法に合理性が認められるか否か。)について

イ 法令解釈
 推計の方法による課税が合理的であるというためには、1 推計の基礎事実(数値)が正確に把握されていること、2推計の方法としてその事案にとって最適の方法が選択されていること、3推計の方法による課税自体が具体的に真実の所得にできるだけ近似した数値が算出され得るような客観的なものであることが求められると解される。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 原処分庁は、請求人の事業所得の金額を、本件取引先調査で把握した請求人の仕入金額を基礎として、別表2の「原処分庁主張額」欄のとおり売上原価を算定し、これを同業者(以下「本件同業者」という。)の売上原価率の平均値(その算定過程は別表3-1の「売上原価率」欄の各「平均値」欄のとおりであり、以下「平均売上原価率」という。)で除して総収入金額を算定し、当該金額に総収入金額に対する青色申告特典控除前の所得金額の割合の平均値(以下「平均特前所得率」という。)を乗じて算定した。
(ロ) 原処分庁は、本件各年分における本件同業者を、1 請求人の事業と同一の業種で個人事業者であること、2e県内に納税地かつ事業所を有していること、3青色申告書により所得税の確定申告書を提出していること、4売上原価が、本件取引先調査により把握した請求人の仕入金額により算定した売上原価の0.5倍以上2.0倍以内の範囲であること及び5事業専従者が1名であることの全てに該当する者とし、これに基づき抽出を行い、本件同業者として平成22年分は8件、平成23年分は10件及び平成24年分は9件をそれぞれ選定した。
ハ 当てはめ
(イ) 推計の方法の合理性について
 原処分庁は、上記ロの(イ)のとおり、請求人の本件取引先調査に基づき仕入金額を把握した上で売上原価を算定し、これに本件同業者の平均売上原価率及び平均特前所得率を用いて、請求人の本件各年分の事業所得の金額を算定したと認められる。
 一般に、業種、業態に類似性のある同業者にあっては、特段の事情がない限り、経験則上、同程度の売上原価に対し同程度の収入と同程度の所得が得られると考えられ、このことは請求人の営む事業の場合であっても例外ではないと認められる。
 また、同業者間に通常存する程度の営業条件の差異は、同業者の比率からその平均値を算出する過程において捨象されることからすれば、上記ロの(ロ)の基準により抽出された本件同業者の売上原価率等の平均値をもって所得金額を推計する方法は、合理性があるということができる。
(ロ) 本件各年分の仕入金額及び売上原価の額について
 原処分庁は、請求人の本件取引先調査から把握した本件各年分の仕入金額(備品及び消耗品等の金額は除く。)を基礎とし、本件各年分の売上原価の額を算定した旨主張しているところ、当審判所においても、その方法は相当であると認められる。
 ただし、仕入金額については、請求人の仕入先であるN社の平成22年11月分及び同じく請求人の仕入先であるP社の平成24年6月分の支払に当たり、請求人は両社からの請求金額を金融機関から振り込む際、請求金額から振込手数料を控除して振り込んでいるが、振込手数料の金額がそれぞれ210円及び315円であるところ、それぞれ315円及び420円を控除して振り込んでおり、差額の105円については両社からの請求はないことから、いずれも105円の値引きがあったものと認められ、仕入金額から減額するのが相当である。
 また、請求人の仕入先であるQ社の平成22年1月から同年4月までの仕入金額について、原処分庁は本件取引先調査によっても把握できなかったことから仕入金額としていないが、当審判所においては、上記(3)のロの(イ)のEの請求人提出資料によって当該期間の仕入金額が確認できたことから、平成22年分の仕入金額に272,172円を加算するのが相当と認められる。
 なお、請求人の事業内容、規模及び仕入れの状況等からみて、本件各年分の年初及び年末の棚卸高に著しい変動があるとは認められないことから、年初及び年末の棚卸高は同額であるとし、本件各年分の売上原価の額は仕入金額と同額とするのが相当と認められる。
 以上のことから、本件各年分の売上原価の額は、別表2の「審判所認定額」欄の「合計金額」欄(平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円及び平成24年分が○○○○円)となる。
(ハ) 本件同業者の抽出並びに平均売上原価率及び平均特前所得率の合理性について
A 本件同業者の抽出
 原処分庁が主張する推計の方法によれば、本件同業者の抽出は、上記ロの(ロ)のとおり、業種の類似性、個人、法人の別、納税地かつ事業所の近接性、資料の正確性、事業規模の近似性及び業態の類似性に係る基準を設けて、これら全てに該当する者を機械的に抽出し、請求人の事業との業種、業態等の類似性を判断する基準としていることから、原処分庁が主張する本件同業者の抽出基準及び抽出方法は合理的なものであると認められる。
 ところで、上記(ロ)のとおり、請求人の平成22年分の売上原価の額が○○○○円となることにより、本件同業者の抽出に当たっては、請求人の売上原価の額(○○○○円)の0.5倍(○○○○円)以上2.0倍(○○○○円)以内の範囲であることを要するところ、別表3-1の平成22年分の同業者Hの売上原価の額(○○○○円)は、当該範囲を下回ることから、本件同業者から除外するのが相当である。
B 本件各年分の平均売上原価率及び平均特前所得率
 上記Aのとおり、平成22年分の本件同業者に異動が生じるところ、これに基づき当審判所が本件各年分の平均売上原価率及び平均特前所得率を算定すると、平均売上原価率は、別表3-2の「売上原価率」欄の各「平均値」欄のとおり、平成22年分が40.93%、平成23年分が34.15%及び平成24年分が38.28%となり、平均特前所得率は、別表3-2の「特前所得率」欄の各「平均値」欄のとおり、平成22年分が17.22%、平成23年分が20.44%及び平成24年分が23.35%となる。
(ニ) 本件各年分の事業所得の金額
 本件各年分の事業所得の金額は、別表4の「事業所得の金額」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円及び平成24年分が○○○○円となる。
(ホ) 請求人の主張について
A 請求人は、本件調査担当職員に対し本件ノートを提示し、本件調査担当職員はそれを書き写し仕入金額を確認しているのにもかかわらず、本件各更正処分の推計の根拠となった仕入金額はその金額を下回っており、推計の基礎数値がいい加減であると主張する。
 しかしながら、本件調査担当職員は、請求人から本件調査への協力が得られず、仕入金額を実額で把握することができなかったことから、本件取引先調査により把握した取引金額から備品及び消耗品等の仕入金額に含まれない金額並びに取引内容が不明な金額を除外した後の金額を仕入金額と認定していることが認められるところ、以上の事情を踏まえれば、原処分庁の認定した上記仕入金額が、請求人の本件ノートに記載されている仕入金額を下回っているとしても、推計の基礎数値としての上記仕入金額に合理性がないものとはいえない。
B また、請求人は、消費税等の確定申告は、所得税の確定申告を基に計算しており、売上額は、所得税と消費税においては同額でなくてはならないにもかかわらず、原処分庁は、所得税は更正処分、消費税では申告を認めるという矛盾した対応をしていることから、所得税の推計には合理性が認められない旨主張する。
 しかしながら、原処分庁は、所得税について、その調査の結果、請求人の確定申告における納付すべき税額に誤りがあると認めたので、所得税法第156条の規定に基づき、上記ロの(イ)のとおり、請求人の事業所得の金額を推計の上、納付すべき税額を認定した一方、消費税等については、その調査の結果、請求人の確定申告における納付すべき税額には誤りがないと認めたので、更正決定等をすべきと認められない旨を書面によりその旨通知したのであって、調査による納付すべき所得税額を推計する過程における売上の金額と、確定申告における請求人の消費税のそれとが異なることをもって、本件各更正処分における推計課税に合理性がないとはいえない。
C 以上のことから、請求人の主張にはいずれも理由がない。

(5) 本件各更正処分

イ 事業所得の金額
 本件各年分の事業所得の金額は、上記(4)のハの(ニ)のとおり、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円及び平成24年分が○○○○円となる。
ロ 不動産所得の金額
 当審判所の調査の結果によれば、不動産所得の金額は、別表5の4の「所得金額」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円及び平成24年分が○○○○円となる。
(イ) 総収入金額
 請求人が不動産管理を委託しているR社発行の送金のご案内(平成24年8月分、物件名S)によれば、収入として違約金50,000円が記載されているが、当該違約金は平成24年分の総収入金額に計上されていないことから、これを総収入金額に計上することが相当と認められる。
(ロ) 必要経費
 別表5の1から3の各項目欄の金額は、本件各年分の不動産所得の必要経費に計上されておらず、その全部を必要経費に追加して計上するのが相当と認められる。
 なお、別表5の3の修繕費1,300,000円は、請求人が平成24年5月に実施した賃貸用建物(S)に係る改修工事費用であり、本件工事は、屋根の雨水を排水する排水管の不具合により居室の水漏れが生じたことに伴い実施したものであるが、毀損した箇所の現状を回復するための費用と認められることから、その全額を工事を行った年の必要経費に計上することが相当と認められる。
ハ 総所得金額
 以上の結果、本件各年分の総所得金額は、上記イ及びロから、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円及び平成24年分が○○○○円となる。
ニ 所得控除の額の合計
 当審判所の調査の結果によれば、平成24年分の小規模企業共済等掛金控除の額に、請求人以外の者に係る掛金50,000円が含まれているが、所得税法第75条《小規模企業共済等掛金控除》第1項には、居住者が、各年において、小規模企業共済等掛金を支払った場合には、その支払った金額を、その者のその年分の総所得金額等から控除する旨規定されており、当該規定は、居住者が、各年において、自己が契約した共済法の共済契約に基づく掛金を支払った場合に、その支払った金額について所得控除を認めると解するのが相当であり、請求人以外の者に係る掛金は控除することができない。
 また、平成24年分の生命保険料控除の額に20円の控除漏れがあることから、これらと併せて計算すると、同年分の所得控除の額の合計は1,205,901円となる。
ホ 納付すべき税額
 上記ハ及びニにより納付すべき税額を算定すると、本件各年分の納付すべき税額は、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円及び平成24年分が○○○○円となる。
ヘ まとめ
 本件各年分の総所得金額及び納付すべき金額は、上記ハ及びホのとおりとなり、これらの金額はいずれも本件各更正処分のそれを下回るので、本件各更正処分は、いずれもその一部を別紙1から別紙3の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(6) 本件各賦課決定処分

 上記(5)のとおり、本件各更正処分の一部がそれぞれ取り消されることに伴い、過少申告加算税の基礎となる税額は、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円及び平成24年分が○○○○円となるところ、これらの税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて本件各年分の過少申告加算税の額を計算すると、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円及び平成24年分が○○○○円となる。
 そうすると、本件各年分の過少申告加算税の額は、本件各賦課決定処分の額を下回るので、いずれもその一部を別紙1から別紙3の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(7) その他の審査請求の対象

 請求人は、本件各異議決定の取消しも求めている。
 しかしながら、通則法第75条は、「国税に関する法律に基づく処分」のみを対象として審査請求をすることができる旨規定しているところ、本件各異議決定は、同法第76条の規定により、同法第75条に規定する審査請求の対象となる「国税に関する法律に基づく処分」に含まれないから、請求人は、本件各異議決定を対象として審査請求をすることはできない。
 したがって、本件各異議決定に対する審査請求はいずれも不適法である。

(8) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る