(平成27年4月13日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、医師として複数の病院に勤務するとともに自ら診療所を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税について、請求人が事業所得の金額の計算上、必要経費に算入した旅費交通費等の一部及び請求人の妻に対して支払ったとする青色事業専従者給与の金額は、いずれも事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできないとして更正処分等を行ったところ、これを不服とする請求人が、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 審査請求に至る経緯は、別表1のとおりである。
 なお、以下、平成22年分、平成23年分及び平成24年分を併せて「本件各年分」と、本件各年分の所得税の各更正処分を「本件各更正処分」と、本件各年分の過少申告加算税の各賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」と、本件各更正処分と本件各賦課決定処分を併せて「本件各更正処分等」という。
 また、本件各更正処分等は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査(以下「本件調査」という。)に基づき行われた。

ロ 請求人は、国税通則法(以下「通則法」という。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号の規定により、平成26年4月16日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

関係法令の要旨は、別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人の事業

請求人は、平成○年○月○日、内科及び○○科を診療科目とする「Kクリニック」(以下「本件事業所」という。)を開業した(以下、請求人が営む本件事業所に係る事業を「本件事業」という。)。

ロ 請求人に係る青色申告の承認及び青色事業専従者給与に関する届出

(イ) 請求人は、平成○年分以後の各年分の所得税の申告について、所得税法第143条に規定する青色申告書を提出することにつき原処分庁の承認を受けている。

(ロ) 請求人は、平成○年○月○日、同年○月以後、専従者の氏名を請求人の妻であるP2(以下「本件配偶者」という。)と、従事する仕事の内容・従事の程度を医療事務全般と、給料の月額を○○○○円と、7月賞与及び12月賞与を各○○○○円と記載した青色事業専従者給与に関する届出書(以下「本件届出書」という。)を原処分庁に提出した。

ハ 請求人の申告内容

請求人の本件各年分における給与所得及び事業所得に関する申告の状況は、それぞれ次のとおりである。

(イ) 給与所得
 給与の支払者及び給与収入金額については、次表のとおりである。
 なお、以下、次表における各給与の支払者を併せて「本件各病院」といい、そのうち、学校法人L大学を「L大」と、医療法人社団M会を「M会」と、医療法人N会を「N会」という。

(単位:円)

年分

給与の支払者

平成22年分 平成23年分 平成24年分
学校法人L大学 ○○○○ ○○○○ ○○○○
医療法人社団M会 ○○○○ ○○○○ ○○○○
Q病院 ○○○○ ○○○○ ○○○○
医療法人N会 ○○○○ ○○○○ ○○○○
その他の病院等 ○○○○ ○○○○ ○○○○
合計金額 ○○○○ ○○○○ ○○○○

(ロ) 事業所得

A 事業収入金額、原材料費及び事業収入金額から原材料費を差し引いた金額(以下「本件事業粗利益」という。)は、次表のとおりである。

(単位:円)

年分

項目

平成22年分 平成23年分 平成24年分
事業収入金額 ○○○○ ○○○○ ○○○○
原材料費 ○○○○ ○○○○ ○○○○
本件事業粗利益 ○○○○ ○○○○ ○○○○

B 本件事業に係る必要経費
 請求人が、本件事業に係る事業所得の金額の計算上、必要経費に算入した旅費交通費、図書研修費、接待交際費及び青色事業専従者給与の各金額は、次表のとおりである。
 なお、請求人は、接待交際費の金額について、総勘定元帳(以下「本件元帳」という。)に計上された金額の合計額(平成22年分は○○○○円、平成23年分は○○○○円、平成24年分は○○○○円であり、以下「本件元帳計上接待交際費」という。)から、各年末において平成22年分は60%、平成23年分は50%、平成24年分は40%相当額(平成22年分は○○○○円、平成23年分は○○○○円、平成24年分は○○○○円である。)を、それぞれ事業主貸勘定に振り替える方法によって、自主的に必要経費から除外(以下、この処理を「本件各年末処理」という。)しており、次表記載の金額は本件各年末処理後の金額である。
 また、次表記載の青色事業専従者給与の金額は、本件元帳の専従者給与勘定に計上された金額である給料の月額○○○○円(本件各年分における合計額は、いずれも○○○○円であり、以下「本件給料」という。)並びに7月賞与○○○○円及び12月賞与○○○○円(本件各年分における合計額は、いずれも○○○○円であり、以下「本件賞与」という。)の合計額である。

(単位:円)

年分

科目

平成22年分 平成23年分 平成24年分
旅費交通費 ○○○○ ○○○○ ○○○○
図書研修費 ○○○○ ○○○○ ○○○○
接待交際費 ○○○○ ○○○○ ○○○○
青色事業専従者給与 ○○○○ ○○○○ ○○○○

ニ 本件各更正処分の内容

原処分庁は、請求人が事業所得の金額の計算上、必要経費に算入した上記ハの(ロ)のBの各金額のうち、次表記載の各金額については、本件各年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入できないとした本件各更正処分を行った(以下、次表記載の各金額をそれぞれ「本件旅費交通費」、「本件図書研修費」、「本件接待交際費」及び「本件青色事業専従者給与」といい、本件旅費交通費、本件図書研修費及び本件接待交際費を併せて「本件各費用」という。)。
 なお、平成22年分については7,850円が、平成24年分については2,100円が、当該各年分の各更正処分において、それぞれ旅費交通費として必要経費に算入されている。

(単位:円)

年分

科目

平成22年分 平成23年分 平成24年分
旅費交通費 ○○○○ ○○○○ ○○○○
図書研修費 ○○○○ ○○○○ ○○○○
接待交際費 ○○○○ ○○○○ ○○○○
青色事業専従者給与 ○○○○ ○○○○ ○○○○

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2 争点

(1) 本件調査に本件各更正処分等を取り消すべき不当があったか否か(争点1)。

(2) 本件各費用は、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入できるか否か(争点2)。

(3) 本件青色事業専従者給与は、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入できるか否か(争点3)。

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3 主張及び判断

(1) 争点1(本件調査に本件各更正処分等を取り消すべき不当があったか否か。)について

イ 主張

請求人 原処分庁
次のとおり、本件調査に不当があったから、本件各更正処分等は取り消されるべきである。 次のとおり、本件調査に不当はなかったから、本件各更正処分等を取り消すべき理由はない。
(イ) 本件調査は、○○していた請求人の身体に負担をかけないように進め、なるべく早く調査を終わらせるということで、請求人の家族と関与税理士(以下「本件関与税理士」という。)が了承したものであるが、本件調査担当職員は、1調査着手から相当期間経過後に聴取調査を行うとともに、資料の提出を要求するなどして、不必要に7か月もの長期に調査期間を引き延ばすことにより請求人等に精神的苦痛を与え、2関係先への調査の権限を振りかざして本件各病院に資料を提出させることにより請求人等に故意に心理的圧迫感を与えており、これらの行為は、いずれも調査において許されない行為である。 (イ) 本件調査担当職員は、本件経理担当者から本件調査が長期間に及んでいることの理由を問われたことに対し、その理由を回答している。
(ロ) 本件調査においては、1請求人に対する質問調査が一切行われず、2本件関与税理士及び本件事業の経理担当者(以下「本件経理担当者」という。)に対する本件各費用についての確認も一切行われず、3青色事業専従者である本件配偶者に対する労務の状況等の確認もされずに、本件調査担当職員の憶測により本件各更正処分等が行われており、青色申告制度に対する冒涜である。 (ロ) 本件調査においては、1請求人の○○に配慮して、請求人に対する質問調査を行わなかったものであり、2本件各費用については、本件元帳などの請求人が保存していた帳票等を検討することにより必要経費に該当するか否かを確認することができたため、本件関与税理士及び本件経理担当者に対する質問調査を行わなかったものである。
(ハ) 原処分庁は、平成○年の本件事業所の開業以来、請求人に対する何らの質問や指導をすることなく、長期間にわたり請求人の青色事業専従者給与を黙認してきたのであり、これにより、請求人は自らの会計処理が正しいものと認識してきたのであるから、今回の唐突な本件各更正処分等は納得できるものではなく、横暴な国家権力の行使である。

ロ 判断

(イ) 法令解釈
 通則法第74条の2に規定する当該職員の質問検査権の行使は、その質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択、裁量に委ねられていると解される。

(ロ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

A 本件調査担当職員は、平成25年8月2日、本件関与税理士に対して本件調査の事前通知を行い、その際、請求人が○○である旨の報告を受けた。
 そこで、本件調査担当職員は、平成25年8月5日、本件関与税理士と調査の進め方等について協議し、請求人が○○であるため本件調査は全て本件関与税理士を通じて行うこととしたほか、本件各年分の帳簿書類を借用することとし、同月8日、請求人の本件元帳、証ひょう書類、会計日記帳及び請求書等の資料を借用した。

B 本件調査担当職員は、平成25年8月13日、本件事業所において本件関与税理士立会いの下で本件経理担当者等と面接し、本件事業の概況、記帳手順及び帳簿書類等を確認するとともに、接待交際費に係る領収書等の資料を借用した。

C 本件調査担当職員は、平成25年9月12日、本件事業所において本件配偶者に対する質問調査を実施し、本件配偶者の本件事業への従事内容及び従事状況について聴取した。

D 本件調査担当職員は、平成25年9月18日、R銀行○○支店の請求人名義預金及び同支店の「KクリニックP1(請求人)」名義預金の通帳を借用した。

E 本件調査担当職員は、平成25年10月29日、本件関与税理士の事務所において本件経理担当者に対する質問調査を実施し、本件各病院から支払われた給与収入が入金されている上記Dの請求人名義預金の通帳に記載されたメモの内容について聴取した。

F 本件調査担当職員は、平成25年11月8日以降、請求人の各取引金融機関に対する調査を実施し、また、L大及びM会に対して、請求人に支給された交通費について照会した。

G 本件調査担当職員は、平成25年11月28日、上記A、B及びDの借用資料を全て返却した。

H その後、本件調査担当職員は、本件各年分において請求人が支払った高速道路等の有料道路の利用料(以下「高速道路等利用料」という。)の内訳等についての調査を実施した。

I 本件調査担当職員は、平成26年2月28日、本件関与税理士に対して本件調査の結果を説明した。

(ハ) 当てはめ
 本件調査の経過については、上記(ロ)のとおり、本件調査担当職員は、平成25年8月に本件調査に着手してから同年10月頃までの間、請求人から借用した本件元帳等の帳簿書類の検査や本件配偶者及び本件経理担当者への質問調査などを行い、また、同年11月には請求人の各取引金融機関に対する調査や本件各病院に対する照会などを行い、その後請求人が支出した高速道路等利用料を確認するための調査などを行った各事実が認められるところ、このような本件調査の一連の手続は、請求人の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるものと認められ、権限ある税務職員の合理的な選択、裁量の範囲を超えるような行為があったとの事実は認められない。
 したがって、本件調査には何ら不当な点はなく、本件各更正処分等を取り消すべき事由は認められない。

(ニ) 請求人の主張について

A 請求人は、○○していた請求人の負担に配慮することなく不必要に調査期間の引き延ばしをしたことや本件各病院等への調査を実施したことが不当である旨主張し、確かに、上記(ロ)のとおり、本件経理担当者に対する質問調査が本件調査着手の約2か月半後に行われたこと、本件調査の着手から本件各更正処分等が行われるまでに約7か月を要したこと、本件各病院に対する照会等を行ったことなどの各事実が認められる。
 しかしながら、これらの各事実は、請求人が○○していたことを勘案しても、社会通念上相当な限度にとどまるものと認められるから、本件各更正処分等を取り消すべき理由はない。

B 請求人は、請求人に対する質問調査が行われなかったこと、本件関与税理士及び本件経理担当者に対する本件各費用に関する確認が行われなかったこと、本件配偶者に対する労務の状況等の確認がされなかったことが不当である旨主張する。
 しかしながら、これらはいずれも調査不足を主張するものと認められるところ、調査不足の場合に課税処分が違法として取り消されるのは、その調査の結果として租税法が定める実体的要件の充足性の判断を誤った場合に限られると解するのが相当であるから、調査不足のみで本件各更正処分等を取り消すべき理由とはならない。

C 請求人は、原処分庁が本件事業所の開業から本件調査までの間に、請求人に対して青色事業専従者給与について何らの質問や指導をすることなく、唐突に本件各更正処分等を行ったことが不当である旨主張する。
 しかしながら、税務署長が、納税者から申告書や届出書等が提出された場合に、納税者に対して速やかに指導等を行わなければならない旨や指導等を行わなければ課税処分を行うことができない旨を定めた法令の規定はないから、事前に指導等を行わなかったことをもって本件各更正処分等を取り消すべき理由とはならない。

D 以上のとおり、請求人の主張は、いずれも理由がない。

(2) 争点2(本件各費用は、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入できるか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
次のとおり、本件各費用は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができない。 次のとおり、本件各費用は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができる。
(イ) 本件各費用共通 (イ) 本件各費用共通
本件各費用は、いずれも事業所得を生ずべき業務の遂行上必要な費用でない。 本件各病院に関連する支出は、次の理由から、事業所得を生ずべき業務の遂行上必要な費用である。
A 事業収入と給与収入はいずれも医師としての立場から生ずるものであり、本件各病院での職務は本件事業に生かされている。
B 本件事業を継続していくためには、医師会員であることが事実上不可欠であり、本件各病院での勤務は医師会員としての立場の向上に寄与している。
C 本件各病院で勤務することにより本件事業における患者の紹介を受けるなど、本件各病院との関係維持が直接本件事業の収入につながっている。
(ロ) 本件旅費交通費 (ロ) 本件旅費交通費
本件旅費交通費は、本件各病院へ通勤するための高速道路等利用料及び給与所得に係る支出並びに請求人の子との面会及び同人が通う○○の行事への出席のための高速道路等利用料である。 本件旅費交通費は、他の医師との打合せ及び意見交換を主な目的とするものであり、請求人の家族との面会及び請求人の子が通う○○の行事への出席は副次的な目的にすぎない。
(ハ) 本件図書研修費 (ハ) 本件図書研修費
本件図書研修費は、本件各病院主催の送別会の参加費である。 本件図書研修費が本件各病院の送別会の参加費であることのみをもって事業の遂行上必要な費用であることを否定することはできない。
(ニ) 本件接待交際費 (ニ) 本件接待交際費
本件接待交際費は、本件各病院への贈答品の購入費及び本件各病院主催のゴルフコンペの参加費である。 本件接待交際費に係る接待の目的は、同業者との意見交換や関係先との取引の円滑化等であり、その接待の相手方が本件各病院等又はその関係者であることをもって事業の遂行上必要な費用であることを否定することはできない。
 そして、本件元帳計上接待交際費の中には、事業関連性が不明確なものも含まれるため、本件各年末処理をしており、仮に、本件元帳計上接待交際費のうちに必要経費に算入されない額があるとしても、その算入されない額は本件各年末処理で控除した額に含まれる。

ロ 判断

(イ) 法令解釈

A 事業所得の金額の計算上、必要経費が総収入金額から控除されることの趣旨は、投下資本の回収部分に課税が及ぶことを回避することにあると解されるところ、個人の事業主は、日常生活において事業による所得の獲得活動のみならず、所得の処分としての私的な消費活動も行っているのであるから、事業所得の金額の計算に当たっては、事業上の必要経費と所得の処分である家事費とを明確に区分する必要がある。このような事業所得の金額の計算上、必要経費が総収入金額から控除されることの趣旨及び個人における必要経費と家事費とを区分する必要性、並びに所得税法第37条第1項、同法第45条第1項及び所得税法施行令第96条の各文言に照らすと、所得税法第37条第1項に規定する「販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」とは、当該支出が所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、業務の遂行上必要なものに限られると解するのが相当である。そして、かかる費用に該当するか否かの判断は、単に業務を行う者の主観的な動機・判断によるのではなく、当該業務の内容や、当該支出の趣旨・目的等の諸般の事情を総合的に考慮し、社会通念に照らして客観的に行われなければならないと解される。

B 所得税法第45条第1項第1号及び所得税法施行令第96条第1号の各規定によれば、家事関連費については、当該費用の主たる部分が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要なものであり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合に、その部分に相当する経費に限って必要経費に算入されると解される。
 また、所得税法施行令第96条第2号によれば、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事関連費のうち、取引の記録等に基づいて、事業所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分の金額に相当する経費も上記と同様に必要経費に算入するとされている。

(ロ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

A 本件旅費交通費
 本件旅費交通費は、次のとおり高速道路等利用料又はその他の交通費、宿泊料若しくは日当である。

(A) 高速道路等利用料

a 本件各年分において請求人が支出したx1自動車道のx2インターチェンジ又はx3インターチェンジとx4ジャンクション間及びx5自動車道の同ジャンクションとx6インターチェンジ間の高速道路等利用料(平成22年分は62,750円、平成23年分は74,150円、平成24年分は61,150円である。)は、いずれも請求人がL大S病院に往復するためのものである。

b 本件各年分において請求人が支出したx1自動車道のx2インターチェンジ又はx3インターチェンジとx7インターチェンジ間の高速道路等利用料(平成22年分は52,650円、平成23年分は70,800円、平成24年分は61,600円である。)は、いずれも請求人がM会T病院に往復するためのものである。

c 平成23年分及び平成24年分において請求人が支出したx1自動車道のx8インターチェンジとx9高速道路のx10インターチェンジ間の高速道路等利用料(平成23年分は13,200円、平成24年分は64,600円である。)は、いずれも請求人の子であるP3(以下「請求人の子」という。)にh市i町所在の○○での講習を受けさせるための送迎又は同○○での保護者面談に参加するためのものである。

(B) その他の旅費交通費等

a 平成24年1月4日に支出した36,000円は、平成23年12月29日に請求人がL大S病院の忘年会に出席した際の参加費である。

b 平成24年8月22日に支出した18,100円は、前日に本件配偶者が上記(A)のc記載の○○での保護者面談に参加するとともに、請求人の子の大学進学に関する相談や意見交換を他の医師と行った際の交通費及び日当である。

c 平成24年10月31日にホテルUに支払われた6,500円は、請求人がL大S病院での勤務時間を延長されたため、帰宅せずにホテルに宿泊した際の宿泊料である。

B 本件図書研修費
 本件図書研修費20,000円は、平成23年3月25日に開催されたQ病院主催の送別会の参加費である。

C 接待交際費

(A) 本件接待交際費
 本件接待交際費は、次のとおり贈答品の購入費又はゴルフコンペの参加費である。
 なお、上記1の(4)のハの(ロ)のBのとおり、請求人は本件各年末処理をしていたことから、本件接待交際費の金額は、実際に支出した金額から平成22年分は60%、平成23年分は50%、平成24年分は40%相当額をそれぞれ控除した後のものとなっている。

a 贈答品の購入費
 本件各年分においてV社(X百貨店を含む。)、Y社、Z社及びj社にそれぞれ支払われた金額のうち、平成22年分30,534円、平成23年分76,965円及び平成24年分34,230円は、N会への贈答品の購入費である。

b ゴルフコンペの参加費
 平成22年8月16日にk社に支払われた15,900円は、N会主催のゴルフコンペの参加費であり、同月29日にm社に支払われた36,300円は、M会主催のゴルフコンペの参加費である。

(B) 本件元帳計上接待交際費のうち本件接待交際費に係るもの以外のもの
 本件元帳計上接待交際費のうち、本件接待交際費に係るもの以外のものは、次のとおり贈答品の購入費、ゴルフプレー代、飲食代又は慶弔費である。

a 平成22年10月26日にV社に支払われた11,130円は、予防接種の実施先であるn社への贈答品の購入費である。

b ゴルフプレー代には、本件配偶者や他の医師を同伴者とするものと同伴者との関係が不明なものとが混在している。
 なお、請求人とゴルフの相手方との間で、本件事業に係る取引があったことを認めるに足る請求人の主張及び証拠はない。

c 飲食代は、誰と飲食を行ったものか明らかでない。

d 慶弔費は、請求人とその相手方との関係が不明である。

e 以上のとおり、ゴルフプレー代、飲食代及び慶弔費については、その主たる部分が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができるとは認められず、また、取引の記録等に基づいて、事業所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにできる部分は認められない。

(ハ) 当てはめ

A 旅費交通費について
 本件旅費交通費のうち、L大S病院及びM会T病院に往復するための高速道路等利用料、L大S病院の忘年会の参加費並びに同病院での勤務終了時間が遅くなったことに伴うホテルの宿泊料等は、上記(ロ)のAの認定事実を社会通念に照らして客観的にみれば、いずれも請求人が給与所得を得ている勤務先に関連する支出であり、また、請求人と上記各病院との間に本件事業としての取引関係は認められない。
 したがって、上記各支出は、本件事業と直接関係し、かつ、本件事業の遂行上必要なものであったと認めることはできない。
 また、請求人の子にh市i町所在の○○の講習を受けさせるための送迎及び同○○での保護者面談に参加するための高速道路等利用料その他の交通費等は、上記(ロ)のAによれば、家事費に該当すると認められる。
 以上のことから、本件旅費交通費は、いずれも請求人の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することはできない。

B 図書研修費について
 本件図書研修費は、上記(ロ)のBの認定事実を社会通念に照らして客観的にみれば、請求人の勤務先であるQ病院及びその職員等との関係の円滑化を図るための支出と認めるのが相当であり、また、請求人と同病院との間に本件事業としての取引関係は認められない。
 したがって、本件図書研修費は、本件事業と直接関係し、かつ、本件事業の遂行上必要なものであったと認めることはできないから、請求人の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することはできない。

C 接待交際費について
 請求人は、上記1の(4)のハの(ロ)のBのとおり、接待交際費の金額について、本件元帳計上接待交際費の金額を本件元帳に記載した後、各年末においてその一部を事業主貸勘定に振り替える本件各年末処理を行い、当該処理後の金額を必要経費に算入すべき金額として申告しているところ、原処分庁は、当該申告額の一部の金額(本件接待交際費)について、必要経費に算入できないとする本件各更正処分を行っている。
 この点、接待交際費が事業と直接関係し、かつ、事業の遂行上必要なものであったと認められるか否かの判断は、接待交際費個々の支出ごとにすべきものであることからすれば、本件各年末処理によって、本件元帳計上接待交際費から事業関連性が不明確なものが控除されたことにはならない。
 そこで、請求人の接待交際費の金額について、以下、本件元帳計上接待交際費を1本件接待交際費と2本件接待交際費に係るもの以外の本件元帳計上接待交際費とに区分して、接待交際費が本件事業と直接関係し、かつ、本件事業の遂行上必要なものであったと認められるか否かを検討する。

(A) 本件接待交際費
 本件接待交際費は、上記(ロ)のCの(A)の認定事実を社会通念に照らして客観的にみれば、請求人が、給与所得を得ている勤務先であるM会及びN会並びにそれらの職員等との関係の円滑化を図るための支出と認めるのが相当であり、また、請求人と同各会との間に本件事業としての取引関係は認められない。
 したがって、本件接待交際費は、本件事業と直接関係し、かつ、本件事業の遂行上必要なものであったと認めることはできない。

(B) 本件接待交際費に係るもの以外の本件元帳計上接待交際費

a n社への贈答品の購入費
 n社への贈答品の購入費は、上記(ロ)のCの(B)のaのとおり、請求人はn社における予防接種を行って本件事業に係る収入を得ているところ、このことを社会通念に照らして客観的にみれば、予防接種取引に係る謝礼又は当該取引関係の維持のためのものとみることが相当であるから、本件事業と直接関係し、かつ、本件事業の遂行上必要なものであったと認められる。
 したがって、n社への贈答品の購入費は、本件事業の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができる。

b ゴルフプレー代、飲食代及び慶弔費
 ゴルフプレー代、飲食代及び慶弔費は、上記(ロ)のCの(B)のbないしeのとおり、請求人とその相手方との間で、当該相手方と本件事業に係る取引があり、また、上記当該支出が本件事業の遂行上必要なものであったとは認められないから、本件事業と直接関係し、かつ、本件事業の遂行上必要なものであったと認めることはできない。

(C) なお、ゴルフプレー代、飲食代及び慶弔費は、仮に、本件事業の遂行上必要なものが一部含まれ、家事関連費に該当するものであるとしても、上記(ロ)のCの(B)のeのとおり、その主たる部分が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができるとは認められず、また、取引の記録等に基づいて、事業所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分は認められないから、本件事業の必要経費に算入することはできない。

(D) 以上によれば、接待交際費のうち、n社への贈答品の購入費は、請求人の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することはできるものの、それ以外のものは、必要経費に算入することはできない。

(ニ) 請求人の主張について

A 請求人は、本件各病院での勤務が1医師としての本件事業に生かされていること、2医師会員としての立場の向上に寄与していること、3本件各病院から患者の紹介を受けるなど直接本件事業収入につながっていることから、本件各費用のうち本件各病院に関する費用は、本件事業の遂行上必要な費用である旨主張する。
 しかしながら、本件各病院は請求人の勤務先であること、また、請求人が本件各病院から患者の紹介を受けた事実は確認できないことからすれば、仮に請求人の本件各病院での勤務が本件事業に生かされている又は医師会員としての立場の向上に寄与しているという請求人の主張を前提にしたとしても、それは、請求人の主観によるものというべきであり、また、社会通念に照らして客観的にみれば、本件各費用のうち本件各病院に関する費用は、本件事業と直接関係し、かつ、本件事業の遂行上必要なものであったと認めることはできないことは、上記(ハ)のとおりである。

B 請求人は、本件旅費交通費のうちh市i町へ行くための高速道路等利用料その他の交通費等について、他の医師との打合せ及び意見交換が主な目的であり、請求人の子が通う○○の行事への出席は副次的な目的にすぎない旨主張する。
 しかしながら、他の医師との打合せ及び意見交換の内容は、請求人の子の大学進学に関してのものであり、また、当該他の医師と本件事業との取引関係等も確認できない。
 したがって、本件旅費交通費のうちh市i町へ行くための高速道路等利用料その他の交通費等は、本件事業と直接関係し、かつ、本件事業の遂行上必要なものであったと認めることはできない。
 なお、本件旅費交通費については、仮に、本件事業の遂行上必要なものが一部含まれ、家事関連費に該当するものであるとしても、上記(ハ)のAのとおり、その主たる部分が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができるとは認められず、また、取引の記録等に基づいて、事業所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分は認められないから、本件事業の必要経費に算入することはできない。

C 請求人は、本件元帳計上接待交際費の中には事業関連性が不明確なものも含まれるため、本件各年末処理により本件元帳計上接待交際費から事業関連性が不明確なものを控除している旨主張する。
 しかしながら、本件各年末処理によって、本件元帳計上接待交際費から事業関連性が不明確なものが控除されたことにならないことは、上記(ハ)のCのとおりである。

D 以上のとおり、請求人の主張は、いずれも理由がない。

(3) 争点3(本件青色事業専従者給与は、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入できるか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人
次のとおり、本件青色事業専従者給与は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入できない。 次のとおり、本件青色事業専従者給与は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入できる。
(イ) 本件青色事業専従者給与は、次の理由から、「当該事業から」給与の支払を受けた場合に該当しない。
 請求人には事業収入の約4倍の給与収入があり、これが本件事業に資金流入されていることからすれば、本件青色事業専従者給与は本件事業以外の収入によって支払われている。
 また、本件青色事業専従者給与は、本件元帳に記載がなく本件事業用の預金口座でないM会等からの給与収入の振込口座から直接支払われている。
 よって、本件青色事業専従者給与は、本件事業からではなく、請求人の給与収入から支払われている。
(イ) 本件青色事業専従者給与は、次の理由から、「当該事業から」給与の支払を受けた場合に該当する。
 所得税法第57条第1項は、前段で当該事業から支払を受けた場合などの形式的要件を規定し、後段で労務の対価として相当という個別的要件を規定するところ、原処分庁が主張する「収益の状況」は、個別的要件で考慮されるものであり、形式的要件とは無関係である。
 また、請求人は、本件事業における本件青色事業専従者給与の支払資金の不足分を請求人の個人資産から補填していたものであり、それこそ正に本件事業から支払われていることを意味する。
(ロ) 本件青色事業専従者給与は、次の理由から、その全額が「労務の対価として相当である」と認められるものに該当しない。
 本件各年分を含む平成18年分ないし平成24年分における本件事業に係る減価償却費及び本件青色事業専従者給与を必要経費に算入する前の事業所得は、いずれも○○○○円を超える損失であった。
 また、本件青色事業専従者給与は、本件事業粗利益の額を上回り、かつ事業収入の半分以上を占めていた。さらに、請求人には事業収入の約4倍の給与収入があった。
 よって、本件青色事業専従者給与は、本件事業の収益の状況に照らせば、労務の対価として相当であると認められない。
(ロ) 本件青色事業専従者給与は、次の理由から、その全額が「労務の対価として相当である」と認められるものに該当する。
 事業が赤字の場合に青色事業専従者給与は必要経費とならない旨の法令の規定はなく、青色事業専従者給与の適正額は、青色事業専従者が必要か、青色事業専従者により青色事業専従者給与の金額に相応しい労務がなされているかという点から判断されるべきであり、所得税法施行令第164条第1項第1号の規定も、適正給与額の判定に当たり、青色事業専従者の実際の従事状況を第一に勘案すべきことを意味している。
  この点、本件配偶者は、本件事業の遂行上必要不可欠な存在であるから、適正給与額が認められるべきであり、本件青色事業専従者給与は、本件配偶者が労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、他の使用人が支払を受ける給与の状況、事業の種類性質、本件届出書の記載内容、金額の相当性に照らせば、所得税法施行令第164条第1項各号の要件を満たす。

ロ 判断

(イ) 法令解釈
 所得税法第56条は、居住者と生計を一にする親族が、その居住者の営む事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合のその対価に相当する金額は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入しないものとする旨規定している。
 所得税法第57条第1項は、青色申告の承認を受けている事業者の場合は、同法第56条の規定にかかわらず、上記親族で専らその居住者の営む前条の事業に従事するもの(青色事業専従者)が当該事業から支払を受けた給与額のうち、その労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、類似同業者が支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは、必要経費に算入することができる旨規定している。
 そして、所得税法施行令第164条第1項は、その状況として、1労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、2その事業に従事する他の使用人が支払を受ける給与の状況及び類似同業者に従事する者が支払を受ける給与の状況、3その事業の種類及び規模並びにその収益の状況を掲げている。
 このような上記各規定の趣旨は、居住者と生計を一にする親族で事業に従事する場合には、その事業に従事する居住者と生計を一にする親族にその事業に従事する対価としての給与を無制限に必要経費に算入することを認めると、その額が恣意的に定められ、所得の分散によって課税の適正性・公平性が阻害されることになるため、上記所得税法第57条第1項及び所得税法施行令第164条第1項が掲げる状況を総合的に考慮して、労務の対価として相当と認められる部分に限って事業所得の金額の計算上必要経費として算入することを認めたものと解される。

(ロ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

A 本件事業の内容等

(A) 事業の内容
 本件事業の内容は、本件事業所における一般内科及び○○の外来診療のほか、インフルエンザ等の予防接種などである。

(B) 収益の状況
 本件各年分において、本件青色事業専従者給与を控除する前の本件事業の損失額はいずれも○○○○円を超えており、本件青色事業専従者給与はいずれも本件事業粗利益の額を上回っている。

B 本件配偶者の労務の内容等
 本件配偶者は、請求人と生計を一にし、本件各年分を通じて本件事業に専ら従事しており、その労務の内容は、窓口業務、電話対応、カルテ整理、レセプト業務及び清掃等の受付・診療報酬請求業務等である。
 また、本件配偶者は、医師、看護師、保健師又は薬剤師等の資格は有していない。

C 他の使用人の労務の内容等
 本件事業においては、本件配偶者以外に本件経理担当者、P4及びP5の合計3名の使用人が従事しており、それぞれの労務の内容は、本件経理担当者が経理業務、P4が本件配偶者と類似の受付業務等、P5が経理業務の補佐及び清掃業務等である。
 なお、P4が本件各年分において支払を受けた給与は、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円及び平成24年分が○○○○円である。

D 本件青色事業専従者給与の支払等

(A) 本件給料は、本件各病院からの給与が振り込まれている請求人又は「KクリニックP1(請求人)」名義の銀行口座から現金出金され、そのうちの毎月○○○○円から社会保険料、所得税等相当額を控除した残額を本件配偶者名義の信用金庫口座に入金する方法により支払われているところ、これらの現金出金分については、その出金時又は年末において、それぞれ事業主借勘定に振り替えられている。
 なお、本件給料の金額は、上記1の(4)のロの(ロ)のとおり、本件届出書に記載されている金額の範囲内である。

(B) 本件賞与は、請求人又は「KクリニックP1(請求人)」名義の銀行口座から、平成22年8月11日に○○○○円、同年12月15日に○○○○円、平成23年7月20日に○○○○円、同年12月15日に○○○○円、平成24年7月10日に○○○○円及び同年12月10日に○○○○円がそれぞれ現金出金され、それぞれ同日に同額(平成24年7月10日は○○○○円である。)が上記とは別の請求人名義の銀行口座に入金されている。

(C) 上記(A)及び(B)の出金及び入金の手続は、いずれも本件経理担当者により行われていた。

(D) 本件経理担当者の答述によれば、本件賞与は、原則として、本件配偶者名義の銀行口座に振込入金することとしていたが、本件事業の資金繰りの都合上、本件賞与を支払うことが困難な場合には、本件賞与と同額の金員を請求人名義の銀行口座に入金し、当該資金を本件事業の遂行上必要な他の支出に充てていた。

(E) 本件配偶者の答述によれば、本件配偶者は本件賞与を受給したことはなかった。

(F) 上記(A)ないし(E)によれば、本件配偶者が青色事業専従者給与として支払を受けた金額は、本件給料○○○○円と認められる。

(ハ) 当てはめ

A 原処分庁の主張の(イ)について
 原処分庁は、請求人には事業収入の約4倍の給与収入があり、これが本件事業に資金流入され、本件配偶者に支払われていることからすれば、本件青色事業専従者給与は、本件事業以外の収入によって支払われているといえ、本件青色事業専従者給与は、事業から給与の支払を受けていた場合には当たらないから、その全額が本件事業の事業所得の金額の計算上必要経費に算入できない旨主張する。
 しかしながら、請求人の場合、上記(ロ)のDの(A)のとおり、本件給料が事業主借勘定に振り替えられ事業用とされた現金から支払われているところ、所得税法第57条は、事業収入以外から事業に流入した資金により青色事業専従者給与が支払われた場合に、当該支払を必要経費に算入することを認めない旨を規定したものと解するのは相当ではない。
 以上によれば、本件給料は、事業から支払われていたものと認められるから、原処分庁の上記主張には理由がない。

B 次に、青色事業専従者給与の金額は、上記(イ)に照らし相当な金額か否かという点について、以下検討する。

C 労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度について
 上記(ロ)のBのとおり、本件配偶者は、本件各年分を通じ本件事業に専ら従事し、その従事内容は本件事業の受付業務等であり、医師、看護師、保健師又は薬剤師等の資格は有していなかったことが認められる。
 なお、本件配偶者が本件事業に従事した時間については、直接記録されたものはない。

D その事業に従事する他の使用人が支払を受ける給与の状況について
 上記(ロ)のCのとおり、本件事業における本件配偶者と労務の性質が類似する他の使用人はP4であり、同人が本件事業から支払を受ける給与の額は、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円及び平成24年分が○○○○円であったことが認められる。
 そうすると、本件給料は、P4が支払を受ける給与の額と比べて約6倍となっているから、この点において、本件給料の金額は、所得税法施行令第164条第1項2号が規定する「その事業に従事する他の使用人が支払を受ける給与の状況」に照らすと、不相当に高額であることがうかがえる。もっとも、本件配偶者及びP4がそれぞれ労務に従事した時間、労務の提供の程度等が記録されたものはなく、その差異は明確でないから、P4が支払を受ける給与の状況と比較する方法で本件配偶者の労務の対価として相当であると認められる金額を算定することは相当ではない。

E 類似同業者に従事する者が支払を受ける給与の状況について
 類似同業者に従事する者が支払を受ける給与の状況に基づき労務の対価として相当であると認められる金額を算定する方法は、業種の同一性、事業規模の類似性等の基礎的要件に欠けるところがない限り、当該従事する者の個別具体的事情が捨象される合理的な方法と認められる。
 そこで、当審判所において、1本件各年分において、内科又は○○科の病院又は診療所を営む個人であること(ただし、各年分の中途において、開廃業、休業又は業態変更をした個人、各年分の期間が12か月に満たない個人を除く。)、2本件各年分において、所得税法第143条に規定する承認を受けており、所得税青色申告決算書を提出している者であること、3本件各年分において、内科又は○○科に係る事業所得の総収入金額が本件事業に係る事業所得の総収入金額の2分の1以上2倍以下の範囲内(いわゆる倍半基準の範囲内)である者であること、4医師、看護師、保健師又は薬剤師の資格を有していない青色事業専従者又は使用人を有している者であること、5本件各年分の年間を通じて給与を支払っていることという条件で抽出したところ、本件事業所を管轄する○○税務署を含む○○国税局管内において、別表2のとおり、本件各年分それぞれ4人の本件事業の類似同業者(以下「本件類似同業者」という。なお、本件類似同業者の中には、申告に対する更正処分等が行われ不服申立て、訴訟が係属している者はいない。)が選定され、本件類似同業者の青色事業専従者又は使用人が支払を受ける給与の平均額は、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円、平成24年分が○○○○円であった。

F その事業の種類及び規模並びにその収益の状況について
 上記(ロ)のAのとおり、本件事業は、内科診療等を行う診療所であり、上記1の(4)のハのとおり、本件各年分における事業所得の総収入金額は○○○○円ないし○○○○円の間である。
 また、上記(ロ)のAの(B)のとおり、本件事業は、本件各年分において、いずれも本件青色事業専従者給与を控除する前の損失額が○○○○円を超えている状況であったことが認められる。

G 労務の対価として相当な金額について
 上記CないしFによれば、1本件配偶者の本件事業に従事した時間を直接記録したものはないものの、その内容は受付業務等と認められるところ、本件給料の金額○○○○円は、その従事内容が類似するP4に対する給料の約6倍の金額であること、2本件類似同業者の青色事業専従者又は使用人が支払を受ける給与の平均額は、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円、平成24年分が○○○○円であること、3本件事業の本件各年分における総収入金額は○○○○円ないし○○○○円の間であり、また、本件事業は、本件各年分において、いずれも本件青色事業専従者給与を控除する前の損失額が○○○○円を超えている状況にあったことに照らすと、本件給料の金額は、労務の対価として相当な金額ではないと認められる。
 そうすると、本件配偶者に対する労務の対価として相当であると認められる金額については、上記Eの理由から、本件類似同業者に従事する者が支払を受ける給与の状況に照らし、本件類似同業者の青色事業専従者及び使用人が支払を受ける給与の平均額をもって認定するのが相当である。

H 小括
 以上によれば、本件配偶者の労務の対価として相当であると認められる金額は、本件類似同業者の青色事業専従者及び使用人が支払を受けた給与の平均額である平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円、平成24年分が○○○○円相当となるから、当該各平均額に相当する金額を、それぞれ本件各年分の本件配偶者に対する青色事業専従者給与の金額として、請求人の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することが相当である。

(ニ) 請求人の主張の(ロ)について
 請求人は、本件配偶者が本件事業の遂行上不可欠な存在であるから適正給与額が認められるべきであり、本件青色事業専従者給与は、所得税法施行令第164条第1項各号の各要件を満たし、その全額が労務の対価として相当である旨主張する。
 しかしながら、本件給料の金額が労務の対価として相当でないこと及び労務の対価として相当であると認められる金額については、上記(ハ)のとおりである。
 したがって、請求人の主張は、理由がない。

(4) 本件各更正処分について

上記(2)及び(3)のとおり、本件元帳計上接待交際費のうちn社への贈答品の購入費及び本件青色事業専従者給与の一部が必要経費に算入され、n社への贈答品の購入費を除く本件元帳計上接待交際費、本件旅費交通費及び本件図書研修費は必要経費に算入されないこととなるから、本件事業の事業所得の金額の計算上必要経費に算入される各費用及び青色事業専従者給与は、別表3の審判所認定額の「必要経費の内訳」欄のとおりとなり、また、事業所得の金額、総所得金額は、それぞれ同表の審判所認定額の「事業所得の金額」欄、「総所得金額」欄のとおりとなる。
 なお、本件配偶者は、上記(3)のロの(ロ)のとおり、青色事業専従者に該当するもので給与の支払を受けるものであるから、請求人の場合、配偶者控除の適用は認められないことになる。
 そして、請求人の本件各年分の還付金の額に相当する税額は、別表3の審判所認定額の「還付金の額に相当する税額」欄のとおりとなり、本件各更正処分の額を上回ることとなるから、本件各更正処分は、いずれもその一部を別紙2ないし別紙4の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(5) 本件各賦課決定処分について

上記(4)のとおり、本件各更正処分は、いずれもその一部を取り消すべきであるから、通則法第65条第1項に規定する過少申告加算税の計算の基礎となる税額は、平成22年分は○○○○円、平成23年分は○○○○円及び平成24年分は○○○○円となり、当該各税額の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、同条第4項に規定する正当な理由があったとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて過少申告加算税の額を計算すると、平成22年分は○○○○円、平成23年分は○○○○円及び平成24年分は○○○○円となり、本件各賦課決定処分の額を下回るから、本件各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙2ないし別紙4の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(6) その他

原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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