差押え

不動産

  1. 財産差押えの通則
    1. 破産宣告と財産の差押えとの関係
    2. 差押えの効力
    3. 差押財産の帰属
      1. 不動産(4件)
      2. 預金
      3. その他
    4. 超過差押え
    5. 無益な差押え
    6. その他
  2. 各種財産に対する差押え

滞納者への所有権移転登記の無効の主張について、民法第94条第2項の規定により原処分庁に対抗できないとした事例

裁決事例集 No.18 - 117頁

 差押えに係る建物の実質的な所有者は、登記簿上の所有者たる滞納者ではなく、請求人であるとする主張について、所有者名義が滞納者となっているのは、請求人が債権者からの追求を免れるために通謀して行った虚偽の意思表示に基づくものであるとしても、[1]原処分庁が本件物件の所有者が外形と異なるかどうかについて関係者等を調査したのは原処分を行った後であること、[2]請求人が本件不動産の譲受けの対価の支払調書の照会に対して何らの回答もしていないこと等から、原処分庁は原処分当時に請求人等の真意につき悪意であったとは認められず、したがって、民法第94条第2項の規定により、滞納者への所有権移転登記の無効の主張は、これをもって原処分庁に対抗できず、本件差押処分に影響を及ぼすものではない。

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不動産に係る建築資金の負担割合により滞納者の共有持分を認定した上、その認定に基づいてした差押えは相当であるとした事例

裁決事例集 No.43 - 427頁

 請求人は、原処分庁が差し押さえた不動産には滞納者の共有持分はない旨主張するが、[1]滞納者は請負契約の注文者及び建築申請の建築主であり、かつ、不動産の引渡しを受けていると認められることから、不動産に係る法律上の一切の権利義務は滞納者に帰属すること、[2]滞納者が請求人の建築資金を立て替えた事実が認められないこと、[3]請求書及び領収書が滞納者あてになっていること及び[4]滞納者に対し固定資産税及び不動産取得税が課税されていることを総合すると、不動産の建築資金100,000,000円の負担額を滞納者分は5,000万円と認定した上、不動産に係る滞納者の共有持分を10分の5と認定したことは相当である。

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差押不動産の売買契約における買主は滞納者であり、その購入資金である住宅ローンの返済は滞納者が行い、差押え前に請求人が差押不動産の共有持分を取得した事実は認められないことからすれば、差押不動産の取得に滞納者の妻であった請求人の協力、寄与が認められたとしても、差押不動産は夫婦共有財産ではなく、その所有権を有しているのは滞納者であるとした事例

裁決事例集 No.75 - 779頁

 民法は、夫婦間の財産関係について夫婦別産制(同法第762条第1項)を採用し、婚姻費用の分担(同法第760条)及び日常家事債務の連帯責任(同法第761条)の両規定をもって婚姻共同生活に対して配慮するとともに、離婚の場合につき財産分与請求権(同法第768条)を認めていることからすれば、婚姻生活中に形成された財産について、直ちに物権としての共有持分を認めているとは解されない。そうすると、婚姻生活中に夫婦の一方が対外的にその者の名義をもって取得した財産について、その取得に他方の配偶者の協力があったからといって、直ちにその者に物権としての共有持分を認めるのは相当でなく、その者のその財産に対する権利は飽くまで潜在的な権利にすぎないと解され、離婚に至って初めて、潜在的な権利の具現化としての財産分与により、物権としての権利を取得するものと解するのが相当である。
  請求人は、本件不動産の購入資金は、夫婦共有財産から支出されたものであるから、本件不動産の取得時より共有持分を有しており、物権を取得し得ない差押債権者は民法第177条の第三者に該当しないのであるから、本件差押処分は違法である旨主張する。
  しかしながら、上記のとおり、本件不動産の取得に当たり、請求人の協力、寄与が認められたとしても、請求人に直ちに物権としての共有持分が認められているとは解されず、本件不動産の売買契約における買主が本件滞納者であること、その購入資金である住宅ローンの返済は本件滞納者が行っていたこと、本件不動産の管理費は本件滞納者が負担していたことからすれば、実体的にも本件滞納者が本件不動産の所有権の全部を取得し、保有していたことが認められ、本件差押処分前に請求人が本件不動産の共有持分を取得した事実は見当たらず、財産分与を原因として請求人への所有権移転登記手続を命ずる本件差押処分後の家裁判決に当たり請求人が本件不動産の所有権を取得したものというのが相当である。したがって、本件差押処分時の本件不動産の所有権を有しているのは滞納者であり、原処分庁は、本件滞納者に帰属する本件不動産を差し押さえたのであるから、民法第177条に係る検討を行うまでもなく、本件不動産を本件滞納者に帰属するものとして行われた本件差押処分に違法な点は見当たらないというべきである。

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価額弁済者も特段の事情のない限り、差押処分をした国に対し登記なくして対抗することができないことを明らかにした事例(不動産の各差押処分・棄却・平成26年2月19日裁決)

平成26年2月19日裁決

《要旨》
 請求人らは、原処分庁が、被相続人から請求人らが承継した滞納国税を徴収するため、請求人らが相続によって取得した各不動産の各共有持分を差し押さえた(本件各差押処分)のに対し、当該各不動産の各共有持分は、民法第932条《弁済のための相続財産の換価》ただし書に基づく価額弁済(本件価額弁済)により請求人らのうちの1人が固有財産として取得していることから、本件各差押処分は財産の帰属を誤ってなされた違法又は不当な処分である旨主張する。
 しかしながら、民法第177条《不動産に関する物権の変動の対抗要件》は、不動産に関する物権の得喪及び変更について、登記をしなければ、第三者に対抗することができない旨規定しており、滞納処分による差押えの関係においても同条の適用があり、価額弁済者も特段の事情がない限り、差押処分をした国に対し、登記なくして不動産を取得したことを対抗することができないものと解するのが相当である。もっとも、本件価額弁済の公示に当たっての登記手続において、価額弁済者以外の共同相続人の持分については、価額弁済者へ持分移転登記手続が可能であるが、価額弁済者の持分については、相続人本人が価額弁済をしたことになり、価額弁済者の固有財産に切り替わったことを公示する手段がないが、価額弁済者以外の共同相続人の持分の移転登記を経由することで、価額弁済者の固有財産へと切り替わったことを第三者からみて推測可能なように公示できる以上、移転登記がされていない本件価額弁済に関し、固有財産として取得したことを対抗できないとしても民法第177条の趣旨に反するとまではいうことはできない。以上のとおりであるから、本件各差押処分が財産の帰属を誤った違法又は不当な処分であるということにはならない。

《参照条文等》
 民法第177条、第932条

《参考判決・裁決》
 最高裁昭和31年4月24日第三小法廷判決(民集10巻4号417頁)

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