(平成28年3月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成24年分の所得税に係る更正の請求及び平成25年分の所得税等の確定申告において、株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上、上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の特例を適用したところ、原処分庁が、平成22年分及び平成23年分の所得税の各確定申告書の提出が平成24年分の所得税の確定申告書の提出後であるため、当該特例の適用要件である「その後において連続して確定申告書を提出している場合」に該当しないことなどから当該特例を適用することはできないとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分及び更正処分をしたのに対し、請求人が、通知処分の全部及び更正処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

平成24年分の所得税並びに平成25年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、審査請求(平成27年5月19日請求)に至る経緯は、別表1及び2のとおりである。
 なお、別表1の「第二次更正処分等」欄記載の平成24年分の所得税の更正処分(以下、別表2の「更正処分等」欄記載の平成25年分の所得税等の更正処分と併せて「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)についてもあわせ審理する。

(3)関係法令の要旨

イ 租税特別措置法(平成25年法律第5号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第37条の10《株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》第1項は、居住者等が、株式等の譲渡をした場合には、当該株式等の譲渡による譲渡所得等については、他の所得と区分し、所得税を課する旨、また、この場合において、株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、所得税法その他所得税に関する法令の規定の適用については、当該損失の金額は生じなかったものとみなす旨規定している。

ロ 措置法第37条の12の2《上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除》第6項は、確定申告書を提出する居住者等が、その年の前年以前3年内の各年において生じた上場株式等に係る譲渡損失の金額(この項の規定の適用を受けて前年以前において控除されたものを除く。)を有する場合には、同法第37条の10第1項後段の規定にかかわらず、当該上場株式等に係る譲渡損失の金額に相当する金額は、当該確定申告書に係る年分の株式等に係る譲渡所得等の金額及び上場株式等に係る配当所得の金額を限度として、当該年分の当該株式等に係る譲渡所得等の金額及び上場株式等に係る配当所得の金額の計算上控除する旨規定している。

ハ 措置法第37条の12の2第8項は、同条第6項の規定は、居住者等が同条第7項に規定する上場株式等に係る譲渡損失の金額が生じた年分の所得税につき当該上場株式等に係る譲渡損失の金額の計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある確定申告書を提出し、かつ、その後において連続して確定申告書を提出している場合であって、同条第6項の確定申告書に同項の規定による控除を受ける金額の計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する旨規定している。

ニ 措置法第37条の12の2第9項は、同条第6項の規定を適用する場合における同条第8項の確定申告書の提出がなかったとき又は同項の書類の添付がない確定申告書の提出があったときについて、同条第4項の規定を準用する旨規定している。

ホ 措置法第37条の12の2第4項は、税務署長は、同条第3項の確定申告書の提出がなかった場合又は同項の記載若しくは添付がない確定申告書の提出があった場合においても、その提出又は記載若しくは添付がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、当該記載をした書類及び同項の財務省令で定める書類の提出があった場合に限り、同条第1項(上場株式等の譲渡損失と配当所得との損益通算)の規定を適用することができる旨規定している。

(4)基礎事実

以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 株式等に係る譲渡所得等の金額に関する確定申告から平成26年11月5日の更正の請求に至るまでの事実経過(別表1ないし3参照。なお、下記の括弧内の日付は、申告又は請求をした日である。)

(イ)平成24年分の所得税の確定申告(平成25年3月15日)

 請求人は、株式等に係る譲渡所得等の金額を○○○○円(1)と記載した平成24年分の所得税の確定申告書を原処分庁に提出して、平成24年分の所得税の確定申告をした。なお、上記申告書には、措置法第37条の12の2第6項に規定する特例(以下「本件特例」という。)を適用する旨の記載はなかった。

(ロ)平成22年分の所得税の確定申告(平成25年9月30日)

 請求人は、株式等に係る譲渡所得等の金額を△○○○○円及び翌年以後に繰り越される上場株式等に係る譲渡損失の金額を○○○○円(1)と記載した平成22年分の所得税の確定申告書を原処分庁に提出して、平成22年分の所得税の確定申告をした。

(ハ)平成23年分の所得税の確定申告(平成25年9月30日)

 請求人は、株式等に係る譲渡所得等の金額を△○○○○円(1)及び翌年以後に繰り越される上場株式等に係る譲渡損失の金額を○○○○円(2)(上記(ロ)の1の金額○○○○円と上記1の損失の金額○○○○円との合計金額)と記載した平成23年分の所得税の確定申告書を原処分庁に提出して、平成23年分の所得税の確定申告をした。

(ニ)平成25年分の所得税等の確定申告(平成26年3月15日)

 請求人は、株式等に係る譲渡所得等の金額を○○○○円(1)及び当該金額から差し引く上場株式等に係る譲渡損失の金額を○○○○円(上記(ハ)の2の金額○○○○円から上記(イ)の1の金額○○○○円を控除した金額)と記載した平成25年分の所得税等の確定申告書を原処分庁に提出して、平成25年分の所得税等の確定申告をした。

(ホ)平成23年分の所得税の修正申告(平成26年11月4日)

 請求人は、原処分庁所属の職員の調査に基づき、株式等に係る譲渡所得等の金額及び上場株式等に係る配当所得の金額に誤りがあったとして、株式等に係る譲渡所得等の金額を△○○○○円、上場株式等に係る配当所得の金額を○○○○円とした上で、当該配当所得の金額と損益通算した後の株式等に係る譲渡所得等の金額を△○○○○円(1)及び翌年以後に繰り越される上場株式等に係る譲渡損失の金額を○○○○円(上記(ロ)の1の金額○○○○円と上記1の損失の金額○○○○円との合計金額。以下「本件譲渡損失額」という。)と記載した平成23年分の所得税の修正申告書を原処分庁に提出して、平成23年分の所得税の修正申告をした。

(ヘ)平成24年分の所得税の更正の請求(平成26年11月5日)

 請求人は、措置法第37条の12の2第9項の規定により、株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上、本件特例を適用し得るとして、株式等に係る譲渡所得等の金額を零円とし、加えて給与所得の金額を○○○○円と記載した更正の請求書を原処分庁に提出して、平成24年分の所得税の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。

ロ 本件更正の請求以後の処分に係る事実経過(別表1及び2参照。いずれの処分も平成26年12月22日付)

(イ)本件更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分

 原処分庁は、1平成22年分及び平成23年分の所得税の各確定申告書の提出が平成24年分の所得税の確定申告書を提出した後であるため、措置法第37条の12の2第8項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」には当たらないこと及び2同条第9項の規定は適用されないことなどから、株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上、本件譲渡損失額について本件特例を適用できないとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。

(ロ)平成24年分の所得税の更正処分等

 原処分庁は、株式等の譲渡所得等の金額を○○○○円(上記イの(イ)の1と同額)とした上で、本件更正の請求のとおり、給与所得の金額を○○○○円とするなどして、更正処分及び本件賦課決定処分をした。

(ハ)平成25年分の所得税等の更正処分等

 原処分庁は、1平成24年分の所得税の確定申告書には上場株式等に係る譲渡損失の金額に関する明細書等が添付されていなかったこと及び2措置法第37条の12の2第8項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」には当たらないことから、株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上、本件特例は適用できず、上記イの(ニ)の上場株式等に係る譲渡損失の金額○○○○円は控除できないとして、株式等に係る譲渡所得等の金額を○○○○円(上記イの(ニ)の1と同額)などとする更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

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2 争点

争点は、平成24年分及び平成25年分の株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上、本件譲渡損失額について、本件特例を適用し得るか否かであり、具体的には、以下の2点である。

(1) 請求人は、措置法第37条の12の2第8項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」に該当するか否か(争点1)。

(2) 仮に、措置法第37条の12の2第8項に規定する要件を満たさないとしても、請求人には、確定申告書の提出又は書類の添付がなかったことにつき、同条第9項が準用する同条第4項に規定する「やむを得ない事情」があるか否か(争点2)。

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3 争点1(請求人は、措置法第37条の12の2第8項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」に該当するか否か。)について

(1) 主張

請求人 原処分庁
  措置法第37条の12の2第8項に規定する「連続して確定申告書を提出している場合」については、上場株式等に係る譲渡損失の金額が生じた年分の確定申告書が、本件特例の適用を受ける年分の確定申告書の後に提出されても、修正申告又は更正の請求等により、結果として、上場株式等に係る譲渡損失の金額に関する株式等に係る譲渡所得等の金額の計算の連続性が確認できれば、上記要件を充足すると解される。
 したがって、平成24年分(本件特例を適用する年分)の確定申告書を提出した後に、平成22年分及び平成23年分(上場株式等に係る譲渡損失の金額が生じた年分)の各確定申告書を提出した場合であっても、平成24年分について、本件特例の適用を求める本件更正の請求により、上場株式等に係る譲渡損失の金額に関する株式等に係る譲渡所得等の金額の計算の連続性を確認し得ること、また、平成25年分についても当該計算の連続性が確認し得るのであるから、請求人は、措置法第37条の12の2第8項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」に該当する。
 なお、措置法第37条の12の2第8項に規定する「連続して確定申告書を提出している場合」が、確定申告書の提出の順序に係る時系列を意味するものでないことは、租税特別措置法(株式等に係る譲渡所得等関係)の取扱いについて(平成27年7月7日課資3−4ほか国税庁長官通達による改正前のもの。以下「措置法通達」という。)37の12の2−5《更正の請求による更正により上場株式等に係る譲渡損失の金額があることとなった場合》において、上場株式等に係る譲渡損失の金額の計算に関する明細書等の添付がなく提出された確定申告書について、更正の請求により新たに同項に規定する要件を充足した場合に、本件特例の適用を認めていることから推測できる。
  措置法第37条の12の2第8項は、単に「連続して確定申告書を提出している場合」と規定しているのではなく、「その後において連続して確定申告書を提出している場合」と限定的に規定しているから、本件特例を適用する上で、上場株式等に係る譲渡損失の金額が生じた年分の確定申告書が、本件特例の適用を受ける年分の確定申告書よりも先に提出されていることを前提としていることは、条文上明らかである。
 したがって、請求人は、平成24年分の確定申告書を平成22年分及び平成23年分の各確定申告書よりも先に提出しているため、平成24年分については、措置法第37条の12の2第8項に規定する要件を欠くことになる。
 そして、平成25年分の株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上、本件特例を適用するためには、平成24年分において、本件譲渡損失額に係る純損失等の金額(措置法第37条の12の2第12項の規定により読み替えられた国税通則法第2条《定義》第6号ハに規定する純損失等の金額をいう。)が生じている必要があるところ、上記のとおり、平成24年分は措置法第37条の12の2第8項に規定する要件を欠いているのであるから、本件譲渡損失額に係る純損失等の金額が生じていないことになり、平成25年分において本件譲渡損失額を繰り越すことはできない。

(2)判断

イ 法令解釈

 措置法第37条の12の2第8項は、同法第37条の10第1項後段の特例として、一定の上場株式等に係る譲渡損失の金額につき、株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上控除できることとする同法第37条の12の2第6項(本件特例)の手続要件を定めるものである。
 そして、上記手続要件については、上記1の(3)のハのとおり、措置法第37条の12の2第8項に「上場株式等に係る譲渡損失の金額が生じた年分の所得税につき…確定申告書を提出し、かつ、その後において連続して確定申告書を提出している場合であって」と規定されているところ、上場株式等に係る譲渡損失の金額が生じた年分の確定申告書の提出と本件特例の適用を受ける年分の確定申告書の提出との先後関係については、同項が「その後において」と規定していることからすれば、上場株式等に係る譲渡損失の金額が生じた年分の確定申告書の提出が先であることは、文理上明らかである。
 加えて、上記1の(3)のロのとおり、措置法第37条の12の2第6項が「上場株式等に係る譲渡損失の金額(この項の規定の適用を受けて前年以前において控除されたものを除く。)」と規定し、本件特例の適用を受ける年分において控除する上場株式等に係る譲渡損失の金額から、当該年分の前の年分において既に控除された当該譲渡損失の金額を除いていることからすれば、上場株式等に係る譲渡損失の金額が生じた年分の確定申告書の提出後に、順次その後の年分の確定申告書が提出され、当該譲渡損失の金額も順次控除することを予定しているといえるのであって、同条第8項の規定は、本件特例の適用を受ける年分より前の各年分に生じていた当該譲渡損失の金額と本件特例の適用を受ける年分において控除する当該譲渡損失の金額とを逐次明らかにさせることにより、税額の計算の安定を確保し、もって租税法律関係の明確化を図るものと解される。
 そうすると、措置法第37条の12の2第8項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」とは、上場株式等に係る譲渡損失が生じた年分の確定申告書を提出した後に、その後の年分の確定申告書が順次連続して提出されている場合をいうものと解される。

ロ 当てはめ

 請求人は、上記1の(4)のイの(イ)ないし(ハ)のとおり、平成22年分及び平成23年分の各確定申告書を提出した平成25年9月30日より前の同年3月15日に、平成24年分の確定申告書を提出しており、平成22年分、平成23年分、平成24年分及び平成25年分の各確定申告書を順次提出していないのであるから、措置法第37条の12の2第8項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」には該当しない。

ハ 請求人の主張について

 請求人は、措置法第37条の12の2第8項に規定する「連続して確定申告書を提出している場合」とは、1修正申告又は更正の請求等により、結果として上場株式等に係る譲渡損失の金額に関する株式等に係る譲渡所得等の金額の計算の連続性が確認できればよく、2措置法通達37の12の2−5の定めからすれば、確定申告書の提出の順序に係る時系列を意味するものでないことは推測し得る旨主張する。
 しかしながら、措置法第37条の12の2第8項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」については、上記イのとおりであり、また、措置法通達37の12の2−5の定めは、同項に規定する「上場株式等に係る譲渡損失の金額が生じた年分の所得税につき…書類の添付がある確定申告書を提出」した場合に関する法令解釈通達であって、「その後において連続して確定申告書を提出している場合」に関する法令解釈通達ではないから、請求人の主張はいずれも採用することができない。

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4 争点2(仮に、措置法第37条の12の2第8項に規定する要件を満たさないとしても、請求人には、確定申告書の提出又は書類の添付がなかったことにつき、同条第9項が準用する同条第4項に規定する「やむを得ない事情」があるか否か。)について

(1)主張

請求人 原処分庁
  措置法第37条の12の2第9項が準用する同条第4項に規定する「やむを得ない事情」とは、納税者の申告に係る選択の誤りの修正を認める場合に使用される要件であるから、納税者の意思の不備(錯誤)を本来の意思に補完する目的である当該規定の適用要件を限定的に解することは、その目的に反し、また、当該規定の適用要件は幅広く認められるべきであるから、請求人の次のイ及びロの事情は、同項に規定する「やむを得ない事情」に該当する。

イ 平成24年分について
 平成24年分の確定申告書の提出時においては、本件特例を適用できること及び確定申告書の提出の連続性が要件であることを知らなかったことから、1平成23年分及び平成24年分の各確定申告書を連続して提出しなかったこと及び2本件特例の適用に当たり必要な書類を提出しなかったことについて、税法の不知というやむを得ない事情がある。

ロ 平成25年分について
 平成25年9月30日の平成24年分の所得税の更正の請求(別表1の「第一次更正の請求」欄参照)に際して、税務署の職員から本件特例を適用できない旨の指導を受けたために、当該更正の請求時に平成24年分の本件特例の適用に当たり必要な書類を提出することができなかったのであるから、平成25年分の確定申告書の提出前に、平成24年分の本件特例の適用に当たり必要な書類が提出できなかったことについて、職員の指導というやむを得ない事情がある。

イ 措置法第37条の12の2第9項が準用する同条第4項の「やむを得ない事情」をしんしゃくするには、その前提として、同条第6項の規定を適用する場合における同条第8項の確定申告書の提出がなかったとき又は同項の書類の添付がない確定申告書の提出があったときに限られる。
 請求人の場合、「やむを得ない事情」をしんしゃくする必要があるのは、措置法第37条の12の2第6項の規定を適用している平成25年分のみであり、平成22年分ないし平成24年分については同項の規定の適用はないことから、「やむを得ない事情」をしんしゃくする必要はないし、平成25年分については、同項の適用要件である同条第8項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」に該当しないことから、こちらも前提要件を欠く。
 よって、請求人の主張する「やむを得ない事情」について判断するまでもなく、措置法第37条の12の2第9項の規定の適用はない。

ロ なお、念のため、措置法第37条の12の2第4項に規定する「やむを得ない事情」について判断すると、この「やむを得ない事情」とは、納税者の責めに帰すことのできない客観的事情をいい、納税者の税法の不知若しくは誤解又は事実誤認などの主観的事情はこれに当たらないと解されているところ、請求人が主張する事情は、いずれも主観的事情であると認められることから、当該事情は、同項に規定する「やむを得ない事情」には該当せず、他に請求人の責めに帰すことのできない客観的事情があったとも認められない。

(2)判断

イ 法令解釈等

 措置法第37条の12の2第8項は、上記3の(2)のイのとおり、税額の計算の安定を確保し、もって租税法律関係の明確化を図る趣旨のものと解されるところ、同条第9項は、同条第8項に規定する手続要件を満たしていないにもかかわらず、なお同条第6項(本件特例)の適用を認めるものであるから、同条第9項が準用する同条第4項に規定する「やむを得ない事情」とは、天災、交通途絶その他の納税者の責めに帰することのできない客観的な事情をいい、納税者の法の不知や事実の誤認等の主観的な事情はこれに当たらないものと解するのが相当である。なお、納税者の意思すなわち主観的事情を踏まえつつ、措置法第37条の12の2第4項を幅広く適用すべき旨の請求人の主張は、独自の見解をいうものであって、採用の限りでない。

ロ 当てはめ

 請求人は、平成24年分については、税法の不知というやむを得ない事情がある旨主張するが、上記イのとおり、納税者の法の不知という主観的な事情は、措置法第37条の12の2第4項に規定する「やむを得ない事情」に当たらない。
 また、請求人は、平成25年分については、平成24年分の所得税の更正の請求の際に、本件特例の適用に当たり必要な書類が提出できなかったことにつき、職員の指導というやむを得ない事情がある旨主張するが、そもそも措置法第37条の12の2第9項は、一定の書類の添付がない確定申告書の提出があった場合を前提としている上、上記3の(2)のロのとおり、請求人は、同条第8項に規定する「その後において連続して確定申告書を提出している場合」には該当しないから、本件特例が適用できない旨の職員の指導は、適正な指導であったと認められ、職員の当該指導は、同条第4項に規定する「やむを得ない事情」に当たらない。
 その他に、天災、交通途絶その他の納税者の責めに帰することのできない客観的な事情は見当たらず、請求人には、確定申告書の提出又は書類の添付がなかったことにつき、措置法第37条の12の2第9項が準用する同条第4項に規定する「やむを得ない事情」があるとは認められない。

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5 争点に係る結論

請求人は、上記3のとおり、措置法第37条の12の2第8項に規定する要件を満たしておらず、また、上記4のとおり、同条第9項が準用する同条第4項に規定する「やむを得ない事情」もないから、本件譲渡損失額について、平成24年分及び平成25年分の株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上、本件特例を適用することはできない。

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6 本件通知処分及び本件各更正処分の適法性について

上記5のとおり、本件譲渡損失額について本件特例を適用することはできないことを前提にすれば、本件通知処分は適法であり、また、請求人の平成24年分の所得税及び平成25年分の所得税等の納付すべき税額を計算すると、いずれも本件各更正処分における納付すべき税額(別表1及び2参照)と同額となるから、本件各更正処分は、いずれも適法である。

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7 本件賦課決定処分の適法性について

上記6のとおり、平成26年12月22日付の平成24年分の所得税の更正処分は適法であり、また、納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに上記更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

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8 その他

原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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