(平成29年8月21日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)に、土地の売買に関して取引先を仮装し売上金額の圧縮及び原価の過大計上等があったとして、原処分庁が、法人税等の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が、土地の売買は適正な取引であるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令の要旨

関係法令の要旨は、別紙3のとおりである。
 なお、別紙3で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 請求人等
    • (イ) 請求人は、建築、土木工事の設計、施工及び不動産売買等を目的として、昭和○年○月○日に設立された法人であり、代表取締役には平成27年4月1日まではP2が、同日からP1が就任している。
    • (ロ) F社は、不動産の売買、賃貸及び仲介並びに宅地の造成及び分譲等を目的として、平成○年○月○日に設立されたd市e町○-○を本店所在地とする法人であり、代表取締役にはP3が、取締役にはその夫のP4が就任している。
  • ロ 土地の取引状況等
     請求人は、平成25年6月30日に、a市f町○-○の土地(以下「本件土地」という。)をF社へ2,500,000円で売却したとして、同年7月5日付で所有権移転登記を具備した(以下、この取引を「本件土地取引」という。)。
     請求人は、平成25年10月31日付で、上記の売上高を総勘定元帳の土地売上勘定へ計上し、これを法人税の申告において益金の額に算入するとともに、本件土地に係る売上原価8,042,548円を総勘定元帳の仕入高土地勘定へ計上し、これを法人税の申告において損金の額に算入した。
     本件土地は、平成25年9月14日に、F社からP5に11,524,600円で売却されたとして、同年11月13日付で所有権移転登記が具備された。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人の確定申告等
    • (イ) 請求人は、平成24年11月1日から平成25年10月31日まで及び同年11月1日から平成26年10月31日までの各事業年度(以下、順次「平成25年10月期」及び「平成26年10月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の各「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限内にそれぞれ申告した。
    • (ロ) 請求人は、平成24年11月1日から平成25年10月31日まで及び同年11月1日から平成26年10月31日までの各課税事業年度(以下、順次「平成25年10月課税事業年度」及び「平成26年10月課税事業年度」といい、これらを併せて「本件各課税事業年度」という。)の復興特別法人税について、青色の申告書に別表2の各「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限内にそれぞれ申告した。
    • (ハ) 請求人は、平成25年11月1日から平成26年10月31日までの課税期間(以下「平成26年10月課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下、併せて「消費税等」という。)について、確定申告書に別表3の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限内に申告した。
  • ロ 原処分等
    • (イ) 原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)の担当職員(以下「本件職員」という。)は、平成28年1月19日、本件調査を開始した。
       また、本件職員は、平成28年1月19日、G社、H社及びJ社の調査も開始した。
       以下、請求人、G社、H社及びJ社を併せて「請求人ほか3社」という。
    • (ロ) 原処分庁は、本件調査の結果に基づき、請求人に対し、平成28年7月4日付で、法人税について、別表1の各「更正処分等」欄のとおり、本件各事業年度の各更正処分(以下「本件法人税各更正処分」という。)及び重加算税の各賦課決定処分(以下「本件法人税各賦課決定処分」という。)を、復興特別法人税について、別表2の各「更正処分等」欄のとおり、本件各課税事業年度の各更正処分(以下「本件復興特別法人税各更正処分」という。)及び重加算税の各賦課決定処分(以下「本件復興特別法人税各賦課決定処分」という。)を、また、消費税等について、別表3の「更正処分等」欄のとおり、平成26年10月課税期間の更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした。
    • (ハ) 原処分に係る各通知書(以下「本件各通知書」という。)に記載された処分理由の要旨は、別紙4から別紙13までのとおりである。
  • ハ 審査請求
     請求人は、原処分を不服として、平成28年8月31日に審査請求をした。

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2 争点

  • (1) 争点1 本件調査の手続に、原処分を取り消すべき違法又は不当があるか否か。
  • (2) 争点2 本件各通知書について、法人税法第130条第2項又は行政手続法第14条第1項に規定する理由付記又は理由提示に不備があるか否か。
  • (3) 争点3 本件土地取引は有効か否か。
  • (4) 争点4 本件土地取引について、請求人に、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があるか否か。

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3 争点についての主張

(1) 争点1(本件調査の手続に、原処分を取り消すべき違法又は不当があるか否か。)について

請求人 原処分庁
本件調査に係る手続は、事前通知こそ適正に行われているが、以下のとおり、通則法第74条の11の規定に違反している。したがって、本件調査に基づいて行われた原処分は違法又は不当である。 本件調査に係る手続は、以下のとおり、通則法第74条の11の規定に違反していない。

イ 本件職員は、平成28年6月30日に請求人の代表取締役であるP1に面会しておらず、請求人は、調査結果の内容に関する書面等の交付も受けていない。また、請求人の更正決定に伴う所得金額や税額についてはおろか、その理由についても一切教示を受けていないため、通則法第74条の11に規定する調査の終了の際の手続が行われていない。

ロ 原処分庁は、P6に事前の連絡もなく、請求人の代表取締役P1や関与税理士が同席していないと話を聞くわけにはいかないというP6の意思を無視して、調査内容や否認事項について不知であり、請求人の役員でも使用人でもないP6に対して、一方的に実質経営者と決めつけた上で、請求人ほか3社をまとめて法人税増減金説明書により調査結果内容を説明したとしているが、請求人の代表取締役はP1であり、名実ともに請求人の経営を行っている。本件職員は、P1とは調査着手日に面接したのみで、それ以降面接や面談要請もしておらず、P6を実質経営者と決めつけた行為は、請求人の経営実体を無視した重大な事実誤認である。
 面接したP6の記憶では、G社の事務所エントランスにおいて2、3分間程度面接したのみである。面接時は、調査結果の説明を誰にすべきかの選択を求められておらず、調査結果の説明を受ける旨の発言もしていない。
 また、調査結果の説明も受けておらず、調査結果説明用の資料を収受するかしないかに終始したのみで、受取を拒否したところ、無断で当該資料をG社の郵便受けに入れて立ち去っており、原処分庁の調査結果説明を実施したという主張は、更正処分を行うために、P6に面接したという既成事実を発生せしめただけの行為である。
 なお、原処分庁は、P6を実質経営者と認定した理由も明らかにしていない。

ハ 税理士はそもそも修正申告をするとか否かとか、課税される所得・税額を決定するという納税者の意思決定に委ねられることを代行する権限はないのに、請求人の意思決定も確認せず、関与税理士の修正申告をしないという発言等をもって、その後の修正申告の勧奨を不要と解していることは問題である。
 また、P7税理士は、本件職員から具体的な問題点の提示もない状況では、修正申告うんぬんという段階ではないと主張したものである。

イ 本件職員は、平成28年6月30日、請求人の事務所で、G社の代表取締役であるP6に面会を求め、同人に対して、請求人に対する通則法第74条の11第2項に規定する調査結果の内容の説明を請求人の代表取締役へ行う方がよいか、請求人を実質的に経営しているP6へ行う方がよいか選択を求めたところ、P6が説明を受ける旨の発言を受けた。
 そのため、本件職員は、実質経営者であるP6に対して、通則法第74条の11に規定する調査結果の説明を行った。

ロ 本件職員は、平成28年6月28日、P7税理士から、修正申告書の提出を行うつもりはない旨の申立てを受けていたことから、重ねての修正申告書の提出は勧奨しなかった。

(2) 争点2(本件各通知書について、法人税法第130条第2項又は行政手続法第14条第1項に規定する理由付記又は理由提示に不備があるか否か。)について

原処分庁 請求人
以下のとおり、理由付記に不備はない。
イ 本件法人税各更正処分及び本件復興特別法人税各更正処分について
  • (イ) 本件法人税各更正処分に係る通知書に添付した「更正の理由」には、更正の理由として、更正に係る勘定科目とその金額が記載されており、その根拠として、原処分庁がP4等の申述内容等によって認定した事実、これに対する法人税法の適用ないしそれに当たっての評価及び結論が記載されている。
  • (ロ) 本件復興特別法人税各更正処分に係る通知書に添付した「更正の理由」には、更正の理由として、基準法人税額が増加したことが記載されており、その根拠として、本件法人税各更正処分に伴うことが記載されている。
  • (ハ) 上記(イ)及び(ロ)の記載内容は、更正をする原処分庁の恣意を抑制するとともに更正の相手方に不服申立ての便宜を与えるという理由付記の制度の趣旨を充足する程度に具体的なものである。
  • (ニ) したがって、本件法人税各更正処分及び本件復興特別法人税各更正処分に係る通知書に付記された更正の理由について、法人税法第130条第2項が求める理由付記として欠けるところはない。

ロ 本件法人税各賦課決定処分、本件復興特別法人税各賦課決定処分並びに平成26年10月課税期間の消費税等の更正処分及び重加算税の賦課決定処分について
 これらの処分に係る通知書に添付した「処分の理由」又は「更正の理由」には、当該各処分に係る根拠法令の内容、当該各処分の性質及び内容、当該各処分の原因となる事実関係の内容等が必要に応じて記載されているから、不利益処分の性質に鑑み、原処分庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を請求人に知らせて不服の申立てに便宜を与えるという行政手続法第14条第1項本文の趣旨に照らしても、不利益処分の理由付記として欠けるところはない。

以下のとおり、理由付記について、法人税法第130条第2項又は行政手続法第14条第1項が求める理由としては不備があり、違法又は不当である。
 請求人は、本件土地取引に係る事実を帳簿書類に記載しており、この事実を証する帳簿書類を保存している。
 しかしながら、本件各通知書に記載された理由は、取引事実と請求人の帳簿書類記載内容を、裏付ける具体的な事実が示されない関係者の答弁のみで否定するとともに、請求人が最終取得者であるP5に棚卸資産を販売したことを裏付ける具体的事実を摘示しておらず、帳簿書類の記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示して処分の具体的根拠を明らかにしたといえず、また、記載された理由では請求人が反論することができない。

(3) 争点3(本件土地取引は有効か否か。)について

原処分庁 請求人
本件土地取引について、1P4が、F社の土地取引は全部P6が決定しており、P4は事後的に説明を受けるだけである旨申述したこと、2P6が、本件職員に対して、F社の土地売買、取引金額については、全てP6が決定している旨を申述したこと、3本件土地の最終取得者であるP5の妻P8が、F社の人とは会っていない旨申述したこと、4司法書士法人KのP9が、請求人から依頼を受けて本件土地の請求人から最終取得者であるP5までの一連の登記移転手続を行った旨申述したこと、5G社の従業員であるP10が、F社の売買契約書は、P6の指示を受けたJ社の従業員であったP11又はP6の子であるP12がF社の代表者印を押印している旨申述したことから、本件土地が請求人からF社に売却した事実は認められず、実際に行われた真正な取引は、平成25年11月13日、請求人からP5に対し、売却されたものである。 本件土地は、請求人からF社へ平成25年6月30日に売買されるとともに、代金決済も終了している。さらには、適法に登記されており、何ら取引上問題とされるところはなく、原処分については、以下のとおり、違法又は不当な処分である。
 なお、○○の土地取引について、P6の指示により本来すべきでない行為をしているのではないかと問題にされているようであるが、これらの法人は民間のディベロッパーであり、採算性を上げるために、ガソリンスタンドの跡地、競売物件、工場用地の跡地等リスクのある土地を安く手に入れ、造成、建築、販売している。調整区域として取得したものが、それが解除されなければ安く売るしかない場合もある。
  • イ P4より申述内容を確認したところ、本件調査時の申述は事実とは異なる申述となっており、改めて申立書を提出したとのことであり、当該申立書によると、F社が購入し販売する土地について、相手方との金額交渉や最終決定をP6がやってくれるから、事後的に説明を受けるだけであるとの申述は間違いであり、P6に土地取引の全てを任せたわけではなく、P6の指導を受けながら相談もし、最終的にはP4本人が決断して土地取引を行っており、当該土地も自ら購入し販売する意思を持っていたことがうかがえる。
  • ロ P4が申述したとする質問応答記録書では、具体的に本件土地の取引に触れておらず、売買契約書やF社の帳簿書類も示されず質問応答がなされており、請求人がF社と架空の土地取引を行ったように仮装したという証拠は何一つうかがえない。
  • ハ F社は、本件土地の所有権移転登記を行うとともに、F社の提出した帳簿書類を確認したところ請求人と矛盾のない帳簿処理を行っている。
  • ニ F社に本件土地の取引状況を確認したところ、平成25年2月に請求人から本件土地を仕入れ、L社の仲介により、平成25年9月にP5に売却している旨回答を得た。
  • ホ P6は本件土地取引について更正理由に記載された申述を行っていない。
  • ヘ P9より申述内容を確認したところ、真実とは異なる質問応答記録書に署名した旨の回答を得たため、別途に、「依頼はそれぞれの会社から受けていると認識しており、登記費用もそれぞれの会社に請求し領収している」旨の申立書を作成し、平成28年10月13日付でM国税不服審判所長に対して提出した旨を確認した。
  • ト 本件職員が徴したP5の妻P8の確認書の別紙を確認すると、本件職員の筆跡によるものであり、P8は、確認書の署名押印を行っただけであると推察され、証拠能力のある書証として成立していないと思われる。
     また、「契約書の売主はF社となっていました。」と回答しており、請求人の名称はどこにも見当たらない。
  • チ P10は、G社の経理担当者であり、請求人の取引を自らが実際に体験したものではない部外者である。
     また、P10は申述が事実誤認に基づくものであったため、答えたことと真意が異なること及び答弁していないことが書面に残されている旨の申立書をM国税不服審判所長に対して提出した。
  • リ 請求人はF社から、本件土地取引に係り、キックバック等を含め何らの経済的利益の供与も受けていない。
  • ヌ F社に確認したところ、F社は平成○年○月○日から平成27年3月31日までの各事業年度について、Q税務署長所属の職員による法人税調査を受け平成28年6月27日付で、同期間に係る「更正等をすべきと認められない旨の通知書」を受領しており、F社の決算内容、申告書類には誤りがなかったとされている。

(4) 争点4(本件土地取引について、請求人に、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があるか否か。)について

原処分庁 請求人
請求人は、1P5へ売却した本件土地について、その取引の中間にF社が介在していたかのように売買契約書を作成するとともに、当該契約書に基づく取引内容に従って請求人の総勘定元帳に記載していること、2P12は、F社の預金通帳、代表者印、帳簿書類を管理しており、P6の指示に基づいて真実と異なる経済取引の外形を作出することが可能であったこと、3P6の指示を受けたと認められるP11又はP12が、前記1の売買契約書に請求人の代表者印を押印していることから、請求人のこれらの行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実をわい曲し、又はそれらの事実を隠匿又は脱漏する行為である。 上記(3)の「請求人」欄のとおり、本件土地取引は請求人から、F社に適正に売却されており、通則法第68条第1項が規定する重加算税の賦課要件を満たさないから、重加算税の賦課決定処分は、違法又は不当である。
 なお、本件土地取引について、更正理由におけるP4、P8、P9の申述は事実と相違するとともに、P6は本件土地取引について更正理由に記載された申述を行っていない。

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4 判断

(1) 争点1(本件調査の手続に、原処分を取り消すべき違法又は不当があるか否か。)について

  • イ 認定事実
     原処分関係資料、本件職員並びにG社及びJ社の代表取締役のP6の当審判所に対する答述並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
     本件調査を開始した平成28年1月19日、P6は、本件職員に対し、P1、H社代表取締役のP13及びP7税理士ほか数名の関与税理士の面前で、請求人ほか3社に関する土地取引等については、P6が対応する旨申し入れ、P1及びP13もその旨同意した。
     その後、請求人の役員らに対する質問調査及び本件土地取引に関する調査等が行われ、原処分庁はその結果、請求人に対して更正決定等をすべきと認めた。
     平成28年6月30日、本件職員は、本件調査の終了に伴い、請求人ほか3社の調査結果の内容の説明を行うため、G社の本社事務所に赴き、請求人の本件調査の結果の内容の説明について、P6が説明を受ける旨同意したことから、同人に対し、本件調査の結果判明した問題点について説明し、説明内容を記載した書面(以下「本件説明書」という。)を交付した。
     ところが、P6は関与税理士の立会いがないことを理由に、本件説明書の受領を拒否し、本件職員に返還した。
     そのため、本件職員は、本件説明書をG社の本社事務所の郵便受けに投かんし、本件職員の退去後、P6は、本件説明書がG社の本社事務所の郵便受け内にあるのを了知した。
     なお、P7税理士をはじめ関与税理士は、本件職員に対し、修正申告に応じない旨を事前に明言していた。
  • ロ 法令解釈
     通則法は、第7章の2《国税の調査》において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられるから、調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならないものと解される。
     もっとも、通則法は、第24条《更正》の規定による更正処分、第25条《決定》の規定による決定処分、第26条《再更正》の規定による再更正処分等について、いずれも「調査により」行う旨規定しているから、課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には、課税処分の取消事由となるものと解される。そして、これには、調査を全く欠く場合のみならず、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続(以下「証拠収集手続」という。)に重大な違法があり、調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合も含まれるものと解され、ここにいう重大な違法とは、証拠収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの場合をいうものと解するのが相当である。
     他方で、証拠収集手続自体に重大な違法がないのであれば、課税処分を調査により行うという要件は満たされているといえるから、仮に、証拠収集手続に影響を及ぼさない他の手続に重大な違法があったとしても、課税処分の取消事由となるものではないと解するのが相当である。
  • ハ 当てはめ
     原処分庁は、本件調査により、請求人に対する所要の調査を行っており、かつ、本件調査の手続において、証拠収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの重大な違法も認められない。
     よって、本件調査の手続に、原処分を取り消すべき違法はない。
     なお、本件職員が、P6に対して、本件調査の結果の内容の説明を行った点について、同人は通則法第74条の11第2項に規定する納税義務者に該当しないため、原処分庁は、同項の説明を欠いているが、当該瑕疵は単なる手続上の瑕疵にすぎず、原処分の取消事由とはなり得ないというべきである。
  • ニ 請求人の主張について
     これに対して、請求人は、調査の終了の際の手続については、本件職員から調査結果の内容に関する書面等の交付を受けておらず、また、請求人の更正決定に伴う所得金額や税額についてはおろか、その理由についても一切教示を受けていないため、通則法第74条の11に規定する調査の終了の際の手続が行われていないから、本件調査に基づいて行われた原処分は違法又は不当である旨主張する。
     しかしながら、原処分が取り消されるのは、上記ロのとおり証拠収集手続に重大な違法がある場合であり、上記ハのとおり、本件においては、証拠収集手続に重大な違法は認められないから、原処分を取り消すべき違法はなく、また、原処分を不当と評価する事由も認められない。
     よって、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件各通知書について、法人税法第130条第2項又は行政手続法第14条第1項に規定する理由付記又は理由提示に不備があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     法人税法第130条第2項が、青色申告に係る法人税について更正をする場合に、更正通知書に更正の理由を付記すべきものとしているのは、法が、青色申告制度を採用し、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨に鑑み、処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものというべきであり、したがって、帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合において更正通知書に付記すべき理由としては、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを要すると解される。
     また、行政手続法第14条第1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、処分庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものと解される。そして、行政手続法第14条第1項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは、上記のような同項本文の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきであると解される。
  • ロ 当てはめ
     これを本件についてみると、本件法人税各更正処分及び本件復興特別法人税各更正処分の各通知書に付記された理由は、それぞれ更正の理由として、別紙4、別紙6、別紙8及び別紙10のとおり、更正に係る勘定科目とその金額、根拠及び帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料が記載され、その記載の程度は、原処分庁の恣意を抑制するとともに処分の相手方に不服申立ての便宜を与えるという法人税法第130条第2項に規定する理由付記の制度の趣旨を充足する程度に具体的といえ、理由付記に不備はない。
     また、上記以外の原処分に係る各通知書に付記された理由は、別紙5、別紙7、別紙9及び別紙11から別紙13までのとおりであり、具体的な事実関係や根拠法令などが端的に示されているのであるから、処分理由の記載として、いずれも原処分庁の恣意を抑制するとともに処分の相手方に不服申立ての便宜を与えるという行政手続法第14条第1項本文の趣旨を充足する程度に具体的といえ、理由提示に不備はない。
     したがって、本件各通知書に付記された理由は、いずれも法人税法第130条第2項又は行政手続法第14条第1項に規定する理由付記又は理由提示として不備はない。
  • ハ 請求人の主張について
     これに対して、請求人は、本件土地取引に係る事実を帳簿書類に記載しているが、原処分庁は、本件各通知書において、帳簿書類に記載されている以上に信ぴょう力のある資料を摘示しておらず、理由付記に不備があり、原処分は違法又は不当である旨主張する。
     しかしながら、本件各通知書に付記された理由が、理由付記の制度の趣旨を充足する程度に具体的に記載されていることは、上記ロのとおりであり、請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(本件土地取引は有効か否か。)について

  • イ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件土地については、平成25年6月30日付で、請求人とF社との間で、請求人からF社へ売却する内容の売買契約書が作成され、平成25年7月2日にF社から請求人に対して売買代金2,500,000円が支払われた。
    • (ロ) また、本件土地については、平成25年9月14日付で、F社とP5との間で、F社からP5へ売却する内容の売買契約書が作成され、同人からF社に対して売買代金11,524,600円が支払われた。
    • (ハ) この点について、P4は、本件職員に対し、F社における土地取引はP6を信頼して任せている旨申述しており、P6も、土地取引について、F社の経営が苦しいと聞き、相談に乗った旨申述している。また、P5の申述は聴取されていないが、その妻であるP8は、上記(ロ)の売買契約書の売主はF社であるが、F社の人とは会っていない旨申述している。
  • ロ 判断
     上記イの(イ)及び(ハ)によれば、P4は、F社が行う土地取引を包括的にP6に委任していたことが認められ、その結果、請求人とF社は、P6主導の下、本件土地について売買する旨合意し、売買契約を締結したと認められる。
     よって、本件土地取引は、請求人とF社の間で有効に成立している。
  • ハ 原処分庁の主張について
     これに対し、原処分庁は、P8がF社の人とは会っていない旨申述していること等を根拠に、本件土地の売買契約は請求人とP5との間のものである旨主張する。
     しかしながら、P8は、上記イの(ロ)の売買契約書の記載内容により、P5における本件土地の売買契約の相手方をF社と認識しており、このことはP5の認識においても同様と推認でき、かつ、同人がF社に代金を支払っていることからしても、P5とF社の売買契約は有効に成立している。
     他方で、例えば、請求人とP5及びF社が売買を仮装する旨を合意したとか、P5が支払った代金を請求人が取得した等、上記認定に反する証拠もなく、しかも、P5は、請求人が本件土地の売主であるとは認識していないのであるから、P5と請求人との間で本件土地の売買契約が成立する余地もない。
     よって、原処分庁の主張には理由がない。
  • ニ 本件土地の売却額として益金の額に算入すべき金額について
     以上のとおり、本件土地取引は、請求人とF社との間で有効に成立している。
     ただし、請求人が本件土地取引により本件土地の売却額として益金の額に算入すべき金額について当審判所の検討したところは、以下のとおりである。
    • (イ) 法令解釈
       法人税法第22条第2項は、各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の益金の額に算入すべき金額の一つとして、無償による資産の譲渡に係る当該事業年度の収益の額を規定しているが、これは、法人が資産を他に譲渡する場合は、その譲渡が代金の受入れその他資産の増加を来すべき反対給付を伴わないものであっても、譲渡時における資産の適正な価額に相当する収益があると認識されるからである。そうすると、譲渡時における適正な価額より低い対価をもってする資産の低額譲渡の場合でも、当該資産には譲渡時における適正な価額に相当する経済的価値が認められるものであるから、益金の額に算入すべき収益の額には、当該資産の譲渡の対価の額のほか、これと当該資産の譲渡時における適正な価額との差額も含まれるものと解するのが相当である。
       そして、上記の適正な価額とは時価をいい、時価とは正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値と解されるが、特に宅地の客観的な交換価値は、その土地の面積、形状、地理的要因等の各個別の事情、需要と供給のバランスなど様々な要素により変動するものであり、理論的には一義的に観念できるにしても、実際問題として、これを一義的に把握することは困難であるから、客観的な交換価値とみなし得る合理的な範囲内の価額であれば、時価と認めるのが相当である。
       また、不動産の時価の算定方法には、原価法、取引事例比較法及び収益還元法があり、これらの方法を用いて時価を算定することができるところ、地価公示地の公示価格は、自由な取引が行われるとした場合に通常成立すると認められる価格であり、時価の概念と同意義と解されているから、近傍類地の公示価格から合理的に算定した価額も時価とすることができる。加えて、土地の固定資産税評価額は、公示価格から算定される価格のおおむね70パーセントの水準により評価されていることから、近傍類地に適当な地価公示地がない土地の時価算定に当たって、当該土地の固定資産税評価額を0.7で除して当該土地の価額を算定する方法には、客観的な交換価値を示すものとして一応の妥当性が認められる。
    • (ロ) 認定事実
       当審判所の調査及び審理の結果によれば、本件土地の購入価額(仕入価額)、売買価額、本件土地取引時における固定資産税評価額は別表4-1のとおりである。
    • (ハ) 当てはめ
       別表4-1のとおり、本件土地は、請求人からF社に2,500,000円で売却された後、区画形質の変更をすることなくP5に11,524,600円で転売されているが、P5は一般の消費者であり、この取引状況について異常性をうかがわせる事情もないから、F社からP5への上記売買価額は正常な条件下において成立した価額と考えられる。
       そして、近傍類地に参考となる地価公示地は存しないものの、本件土地の存するa市の地価公示価格の平均から算出した時点修正率により、本件土地の本件土地取引時の時点修正後の価額を算定すると、別表4-2の「時点修正後の価額」欄のとおり11,570,883円となるが、当該価額は、本件土地の固定資産税評価額を0.7で除した価額である10,687,918円を上回り、時価を上回っている可能性があるから、より低い価額である別表4-1の「審判所時価認定額」欄の金額10,687,918円(本件土地の固定資産税評価額を0.7で除した価額)を、本件土地取引時の本件土地の時価と認める。
       よって、請求人が本件土地取引による本件土地の売却額として益金の額に算入すべき金額については、本件土地取引に係る上記売買価額である2,500,000円のほか、同額と別表4-1の「審判所時価認定額」欄の10,687,918円との差額8,187,918円も含まれることとなる。

(4) 争点4(本件土地取引について、請求人に、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第68条第1項は、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、重加算税を課する旨規定しているところ、ここでいう事実の「隠ぺい」とは、納税者がその意思に基づいて特定の事実を隠匿しあるいは脱漏することを、事実の「仮装」とは、納税者がその意思に基づいて特定の所得、財産あるいは取引上の名義を装う等事実をわい曲することをいうものと解される。
  • ロ 当てはめ
     上記(3)のロのとおり、本件土地取引は有効であるから、本件土地取引に関して総勘定元帳に計上する行為については、事実のわい曲行為はなく、また、事実の隠匿あるいは脱漏も認められない。
     よって、請求人に、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為はない。

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5 本件法人税各更正処分及び本件復興特別法人税各更正処分の適法性について

  • (1) 上記4の(3)のロのとおり、本件土地取引は有効であるから、本件土地取引に係る売上高又は売上原価については、平成25年10月期において、益金又は損金の額に算入することとなる。
     ただし、上記売上高として益金の額に算入すべき金額は、上記4の(3)のニのとおり、売買価額である2,500,000円のほか、同額と本件土地取引時の本件土地の時価である10,687,918円(別表4-1の「審判所時価認定額」)との差額8,187,918円も含まれることとなる。
     ところで、法人税法第37条第1項は、一定金額を超える寄附金の額の損金不算入について規定しているところ、この「寄附金の額」とは同条第7項に規定する寄附金の額をいい、さらに、同条第8項は、内国法人が資産の譲渡をした場合において、その譲渡の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与したと認められる金額は、同条第7項の寄附金の額に含まれる旨規定している。
     よって、上記差額8,187,918円が、平成25年10月期において益金の額に算入されるとともに、別表5のとおり、請求人におけるF社に対する寄附金の額に該当して損金の額に算入され、さらに、寄附金の損金不算入額を計算すると、別表6のとおりとなる。
     他方、本件法人税各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     以上を基に、本件各事業年度の所得金額及び納付すべき税額を計算すると、別表7及び別表8の各「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成25年10月期は、原処分の額を上回るから、法人税の更正処分は適法である。
     しかしながら、平成26年10月期は、請求人が確定申告した額を下回るから、法人税の更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。
  • (2) 同様に、本件各課税事業年度の課税標準法人税額及び納付すべき復興特別法人税額は、別表9の「審判所認定額」欄のとおりであり、平成25年10月課税事業年度は、原処分の額を上回るから、復興特別法人税の更正処分は適法である。
     しかしながら、平成26年10月課税事業年度は、請求人が申告した額を下回るから、復興特別法人税の更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。

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6 本件法人税各賦課決定処分及び本件復興特別法人税各賦課決定処分の適法性について

  • (1) 上記4の(4)のとおり、本件土地取引の売上高及び売上原価を総勘定元帳に計上したことは重加算税の賦課要件を満たさない。
     他方、請求人につき、通則法第65条第1項所定の要件を充足するところ、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、同条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
  • (2) 上記(1)を基に本件各事業年度の法人税の加算税の額を計算すると、別表7及び別表8の「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成25年10月期の法人税の重加算税の額は原処分の額を下回るから、その下回る部分について、賦課決定処分は違法である。したがって、平成25年10月期の法人税の重加算税の賦課決定処分については、別紙1の「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。
     また、上記5の(1)のとおり、平成26年10月期の法人税の更正処分はその全部を取り消すこととなるから、これに伴う平成26年10月期の法人税の重加算税の賦課決定処分も違法であり、その全部を取り消すべきである。
  • (3) 次に、上記(1)を基に本件各課税事業年度の復興特別法人税の加算税の額を計算すると、別表9の「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成25年10月課税事業年度の復興特別法人税の重加算税の額は原処分の額を下回るから、その下回る部分について、賦課決定処分は違法である。したがって、平成25年10月課税事業年度の復興特別法人税の重加算税の賦課決定処分については、別紙2の「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。
     また、上記5の(2)のとおり、平成26年10月課税事業年度の復興特別法人税の更正処分はその全部を取り消すこととなるから、これに伴う平成26年10月課税事業年度の復興特別法人税の重加算税の賦課決定処分も違法であり、その全部を取り消すべきである。

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7 平成26年10月課税期間の消費税等の更正処分の適法性について

上記4の(3)のロのとおり、本件土地取引は有効であるから、請求人はP5から上下水道負担金を受領しておらず、平成26年10月課税期間の消費税等の更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。

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8 平成26年10月課税期間の消費税等の重加算税の賦課決定処分の適法性について

上記7のとおり、平成26年10月課税期間の消費税等の更正処分はその全部を取り消すこととなるから、これに伴う平成26年10月課税期間の消費税等の重加算税の賦課決定処分も違法であり、その全部を取り消すべきである。

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9 結論

以上によれば、本件の審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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