別紙5

当事者の主張
原処分庁 請求人
 次のとおり、本件委託先代理店変更は、徴収法第39条に規定する第三者に利益を与える処分に該当することから、原処分は適法である。  次のとおり、本件委託先代理店変更は、徴収法第39条に規定する第三者に利益を与える処分に該当しないことから、原処分は取り消されるべきである。

(1) 原処分庁が、原処分において第三者に利益を与える処分と認定した行為は、本件委託先代理店変更であるところ、本件滞納会社と請求人がL社に対して提出した本件代理店変更申請書によれば、請求人は、本件委託先代理店変更により、代理店としての地位を本件滞納会社から譲り受け、これに伴い、本件委託契約に係る一切の権利及び義務を本件滞納会社から引き継いでおり、この「一切の権利」には、本件委託先代理店変更により本件滞納会社から請求人に引き継がれた本件委託先変更保険契約に係る本件滞納会社が受け取るべき将来にわたる一切の代理店手数料の受領権が含まれているものと認められる。
 そのため、請求人は、本件委託先代理店変更により、その後受領すべき本件委託先変更保険契約に係る代理店手数料の価額において、本件滞納会社から徴収法第39条所定の利益を受けているものと認められる。
 なお、本件においては、事業譲渡契約に基づく本件委託先代理店変更により、代理店手数料の受領権限の発生原因である代理店としての地位そのものが譲渡されているのであって、代理店手数料債権が譲渡されたものではないことから、代理店業務委託契約書第33条で債権譲渡が禁止されていることは、原処分が違法であることの何らの論拠ともならない。

(1) 代理店業務委託契約書第32条にも明言されているとおり、本件滞納会社には、担当する保険契約や代理店の地位について、第三者への譲渡等を行う権限はなく、それらの権限は保険契約の所有者でかつ代理店の管理者であるL社に存在するため、そもそも本件滞納会社自身が自らの意思で代理店の地位等を請求人に譲渡すること自体ができない。
 本件滞納会社が行った行為は、L社に対する代理店の廃業申請と担当していた保険契約の引受先の紹介にすぎず、また、請求人の行った行為は、L社に対する代理店の新規開業申請とL社からの保険契約の担当依頼に対する承諾にすぎないことから、請求人は代理店の地位等を本件滞納会社から譲り受けたものではない。
 また、原処分庁は、徴収法第39条の適用に当たり、代理店手数料の受領権という財産権が本件滞納会社から請求人に移転していると主張していると解されるが、本件滞納会社の当該受領権は廃業した時点で消滅し完結しているため、当該受領権が移転し存在しているという考え方自体が成立し得ない。請求人の代理店手数料の受領権は、請求人自身がL社と代理店契約を締結することで別個新たに獲得したものである。このことは、代理店業務委託契約書第33条の記述をみても明らかであり、請求人が本件滞納会社から将来にわたる一切の代理店手数料を受け取る権利を引き継いだとする原処分庁の主張が不当であることの確たる証拠となる。

(2) 代理店手数料規程第2条及び代理店業務委託契約書第1条第1項によれば、代理店手数料は、「保険募集業務」、「保険料の領収業務」及び「保全・サービス業務」の遂行の対価として、当該各業務を行った者に支払われるものであるといえるところ、本件委託先変更保険契約に係る「保険募集業務」を行っていたのは本件滞納会社であるのだから、同業務に係る対価は本件滞納会社が受領すべきものであったことが明らかであり、請求人は本件委託先代理店変更により、同業務に係る代理店手数料の価額において、本件滞納会社から利益を受けたことが明らかである。

(2) 代理店手数料規程第4条等を参照すれば、保険契約の解約等によりL社に保険料が入金されない場合は、「初年度手数料」も含め、代理店手数料は当然に支払われないことが分かるとおり、代理店が「保険募集業務」を行ったとしても、その対価たる手数料は、当該保険に対する「保全・サービス業務」により保険契約を継続して初めて受領できるものとなっており、「保険募集業務」、「保険料の領収業務」及び「保全・サービス業務」の各業務遂行者と手数料受領者との間に、個別的な関係性は存在しない。
 そうすると、原処分庁が本件滞納会社の「保険募集業務」の対価であると主張する金額は、「保険募集業務」による保険契約成立後においても、その保険契約継続のためには随所に「保全・サービス業務」が必要となるところ、実際に「保全・サービス業務」を実施し当該保険契約を管理継続させたのはまさしく請求人であることからすれば、請求人が自身の行った業務の対価として受領すべき代理店手数料であるということができる。
 そして、平成22年8月4日に廃業した本件滞納会社は、廃業後の「保全・サービス業務」を実施し得ない以上、同年8月以降支払分の代理店手数料をL社に対して請求することはできず、本件滞納会社が元々受領する権利のない利益を請求人に与えたとする原処分庁の主張は論理矛盾となる。

(3) 本件委託先代理店変更においては、本件委託先変更保険契約が本件滞納会社から請求人に移管しているにもかかわらず、それに対し何ら対価の支払もなく、さらに、客観的事実として、事業譲渡の後、請求人は本件滞納会社の旧商号と同一の商号に変更していること、平成22年7月に代理店登録を行った請求人は、本来であれば他の手数料率が適用されるところ、本件滞納会社と同様の手数料率の適用をL社に強く要望し承認されていることなどの事情からすれば、本件における事業譲渡は、実質的には本件滞納会社の事業を単に請求人が継続するために行われたものにすぎず、一般的な事業譲渡と同一視し難い性質のものであるから、本件における事業譲渡において、請求人の主張するようなリスクを考慮する余地はない。
 なお、仮に請求人のいうようなリスクを考慮するとしても、本件限度額は、実際に請求人がL社より支払を受けた金額を基礎としつつ、請求人が行ったとする「保全・サービス業務」に係る手数料部分を最大限考慮して算定されているのであるから、請求人は、少なくとも、本件限度額の範囲において利益を受けていることが明らかである。

(3) 本件滞納会社から請求人への事業譲渡において、請求人は、L社と全く新規で代理店業務委託契約を締結し、本件滞納会社から請求人に保険契約の委託先を変更するために開業代理店としてL社の審査の後、認可を受けなければならない上、本件滞納会社の従業員全員を従前の待遇で継続雇用し、職場環境を従前どおり維持するという本件滞納会社からの要求を負担しなければならなかったのであり、債務超過により事業継続不可能となった本件滞納会社に対して十分な対価の支払を行ったと自負している。原処分庁は、譲渡対価は金銭であることが前提のように主張するが、これらの条件負担は本件における事業譲渡の対価として十分であり、客観的にも正当な経済取引である。
 そして、請求人が行った商号変更やL社への手数料水準の要望は、請求人が本件滞納会社と同程度の収益力をもって継続していくために不可欠な企業努力であり、むしろ本件における事業譲渡の対価に包含されるべき行為であるから、原処分庁の主張は失当である。
 また、解約等により保険契約が消滅した場合、請求人は「初年度手数料」を受領できないばかりかL社に対して過去に本件滞納会社が受領していた代理店手数料の返還や戻入れを行わなければならず、請求人は本件滞納会社から移管された本件委託先変更保険契約について、このようなリスクも同時に承継していることからも、本件における事業譲渡において「リスクを考慮する余地はない」との原処分庁の主張には理由がない。

(4) 滞納者の行為が、徴収法第39条の第三者に利益を与える処分に該当するか否かの判定は、個別具体的な検討を要するものであり、前例がないことは何ら原処分の適法性に影響を与えるものではない。

(4) 代理店が廃業した場合、当該代理店が管理していた保険契約をL社が引き継ぐことが多々あるが、この場合、当該代理店の「初年度手数料」による利益は、L社が享受することになり、当該代理店が受領することはできない。
 この点、原処分庁の主張に従うのであれば、L社は「保険募集業務」の対価相当分は当該代理店に支払うべきこととなり、当該対価の支払等が認められない場合で、かつ、当該代理店に滞納国税が存在する場合には、本件と同様にL社に対し第二次納税義務が課されるということになるが、そのような前例はなく、結論として不当となる。

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