(令和2年12月21日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、F税務署長による所得税等の調査を受け、その調査終了前に原処分庁が所轄する住所地に納税地を異動した後、原処分庁に対して修正申告等をしたところ、原処分庁から当該修正申告に対する過少申告加算税の賦課決定処分及び更正処分等を受けたことから、原処分庁による調査手続等に違法があることなどを理由として、原処分の全ての取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

関係法令等は、別紙2のとおりである。
 なお、別紙2で定義した略語については、以下、本文においても使用する。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 請求人は、「G」(以下「本件歯科医院」という。)の屋号で、歯科医業を営む歯科医師である。
  • ロ 請求人は、平成24年分、平成25年分、平成26年分、平成27年分及び平成28年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税(平成25年分以降については所得税及び復興特別所得税である。以下、所得税と所得税及び復興特別所得税とを区別せずに「所得税等」という。)について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、F税務署長(以下「本件旧所轄庁」という。)にいずれも法定申告期限までに申告した(以下、当該申告を「本件当初申告」という。)。
     なお、請求人は、本件歯科医院における勤務実態がない者のタイムカードを従業員に打刻させ、これをH及びJ(以下「本件架空従業員ら」という。)に係る勤務記録とした。また、請求人は、本件架空従業員らに給与を支払った旨記載した給与所得に係る源泉徴収簿(以下「本件源泉徴収簿」という。)を作成した上で、本件当初申告において、本件架空従業員らに支払ったとする給与に相当する額(以下「本件給与相当額」という。)を給与賃金として必要経費に算入した。
  • ハ 請求人は、平成28年1月1日から平成28年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、本件旧所轄庁に法定申告期限までに申告した。
  • ニ 本件旧所轄庁に所属する調査担当職員(以下「本件旧調査担当職員」という。)は、平成29年7月10日、請求人の関与税理士に対し、税務調査の日程調整を依頼した上で、事前通知を行い、同年10月5日、実地の調査を開始した。
  • ホ 請求人は、平成30年6月20日、住所をd市e町○−○から、a市b町○−○(以下「本件現住所地」という。)へ移転した上、同月29日、移転前の住所地を所轄する本件旧所轄庁に対し、納税地を異動した旨記載した「所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書」を提出した。
  • ヘ 請求人は、平成30年7月3日、平成25年分ないし平成28年分の所得税等について、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した各修正申告書(以下「本件所得税等各修正申告書」といい、本件所得税等各修正申告書による修正申告を「本件所得税等各修正申告」という。)を原処分庁へ提出した。
     なお、請求人は、本件所得税等各修正申告書を提出した際、所得税法施行規則第65条《青色申告書に添付すべき書類》に規定する書類(以下「青色申告添付書類」という。)を添付しておらず、かつ、本件所得税等各修正申告書の「修正申告によって異動した事項」の各欄は空欄としていた。
  • ト 請求人は、平成30年7月4日、本件課税期間の消費税等について、別表2の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書(以下「本件消費税等修正申告書」といい、本件消費税等修正申告書による修正申告を「本件消費税等修正申告」といい、本件所得税等各修正申告と併せて「本件修正申告」という。)を原処分庁に提出した。
  • チ 請求人は、平成31年2月28日、平成27年分の所得税等について、本件所得税等各修正申告に際し減価償却資産とした請求人の鞄に係る減価償却費を必要経費に算入することを失念したとして、原処分庁に対し、別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正請求」という。)をした。
  • リ 原処分庁は、令和元年7月5日付で、次の各処分をした。
    • (イ) 本件更正請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)
    • (ロ) 本件所得税等各修正申告に対し、別表1の「賦課決定処分」欄のとおりとする平成25年分ないし平成28年分の所得税等の過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件所得税等各賦課決定処分1」という。)
    • (ハ) 本件消費税等修正申告に対し、別表2の「賦課決定処分」欄のとおりとする本件課税期間の消費税等の過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件消費税等賦課決定処分1」という。)
    • (ニ) 本件各年分の所得税等につき、別表1の「更正処分等」欄のとおりとする各更正処分(以下「本件所得税等各更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下「本件所得税等各賦課決定処分2」といい、このうち重加算税の各賦課決定処分を「本件重加算税各賦課決定処分」という。)
    • (ホ) 本件消費税等修正申告書につき、中間納付税額の記入漏れがあったとして、別表2の「更正処分」欄のとおりとする本件課税期間の消費税等の更正処分
    • (ヘ) 本件課税期間の消費税等につき、別表2の「再更正処分等」欄のとおりとする更正処分(以下「本件消費税等更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件消費税等賦課決定処分2」という。)
  • ヌ 原処分庁所属の職員(以下「本件職員」という。)は、上記リの各処分に係る各通知書(以下「本件各通知書」という。)を、令和元年7月5日、本件歯科医院の裏手に設置されている、請求人名が表記された郵便受け(以下「本件郵便箱」という。)に差し置く方法により送達した(以下、本件郵便箱に本件各通知書を差し置く方法で送達したことを「本件差置送達」という。)。
  • ル 請求人は、令和元年9月6日、上記リの(イ)ないし(ニ)及び(ヘ)の各処分を不服として、再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、同年12月4日付で、再調査の請求をいずれも棄却する旨の再調査決定をした。
  • ヲ 請求人は、令和2年1月6日、再調査決定を経た後の原処分に不服があるとして、審査請求をした。
     なお、請求人は、本件給与相当額を除き、請求人の本件各年分の事業所得に係る必要経費の適否については争っていない。

2 争点

(1) 原処分に係る調査手続に原処分の取消事由となるべき違法があるか否か(争点1)。

(2) 本件差置送達に係る手続に原処分の取消事由となるべき違法があるか否か(争点2)。

(3) 本件修正申告は、通則法第65条第5項及び通則法旧第65条第5項に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない」場合に該当するか否か(争点3)。

(4) 本件重加算税各賦課決定処分は、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否か(争点4)。

(5) 請求人には、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」があるか否か(争点5)。

3 主張

(1) 争点1(原処分に係る調査手続に原処分の取消事由となるべき違法があるか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 原処分に係る調査は、請求人が納税地を異動したことに伴い本件旧所轄庁から原処分庁に引き継がれ継続していたものであるから、原処分庁に所属する調査担当職員(以下「本件新調査担当職員」という。)は、本件旧所轄庁が調査により収集した資料等を前提に原処分を行っている。
 したがって、原処分庁は、必要な調査を行った上で原処分をしたといえるのであるから、当該調査手続には、調査を欠くなどの原処分を取り消すべき違法はない。
イ 請求人は、本件旧所轄庁による調査が開始された後、納税地を異動しているところ、更正等の処分は納税地を所轄する税務署長が行うことからすれば、請求人に対する処分は、原処分庁の調査により、原処分庁が行うべきものである。
 しかしながら、本件新調査担当職員は、請求人及び関与税理士に対し、本件所得税等各修正申告書の提出の際に添付しなかった青色申告添付書類の提出を求めたのみで、質問検査権を行使した事実はない。
 したがって、このような状況でなされた原処分は、調査を欠く処分であるから、当該調査手続には原処分を取り消すべき違法がある。
ロ また、その他の調査手続についても、次のとおり原処分を取り消すべき違法はない。 ロ 仮に原処分が、調査を欠く処分であるとはいえないとしても、原処分に係る調査手続には、次のとおり原処分を取り消すべき違法がある。
(イ) 事前通知について
 上記イのとおり、本件旧所轄庁が開始した調査は、請求人が納税地を異動した後は、原処分庁に引き継がれて継続していたものであり、本件旧所轄庁は、平成29年7月10日に事前通知をしたのであるから、原処分に係る調査手続において、事前通知は適法にされている。
 なお、請求人が主張する通則法第30条《更正又は決定の所轄庁》の規定は、更正等を行う際の所轄庁を規定するものであって、納税地の異動があった場合に、継続中の税務調査が納税地の異動をもって終了する旨を規定したものではなく、異動後の納税地を所轄する税務署長が事前通知を改めて行わなければならない旨規定するものでもない。
(イ) 事前通知について
 通則法第30条第1項は、更正等は、その国税の納税地を所轄する税務署長が行う旨規定していることからすれば、請求人が納税地を異動したことにより、本件旧所轄庁に更正の権限がなくなるため、本件旧所轄庁による事前通知は意味をなさず、新たに原処分庁が、事前通知をすべきである。
 この点、原処分庁は、納税地の異動後も本件旧所轄庁が行った調査が継続している旨主張するが、納税地の異動によって、異動前の所轄庁による事前通知が異動後の所轄庁に引き継がれると規定する法律はない。
 したがって、原処分庁は、改めて事前通知を行う必要があるものの、これを行っておらず、違法である。
(ロ) 調査結果の内容の説明について
 本件新調査担当職員は、通則法第74条の11に規定する調査結果の内容の説明のための日程調整を行おうと関与税理士に電話連絡したほか、調査結果の内容の説明をするため原処分庁へ来署するよう記載した書面を交付するなどして、請求人らに対し、再三にわたり、調査結果の内容の説明に応じるよう求めた。
 しかしながら、関与税理士は、調査結果の内容の説明は請求人及び関与税理士が全員揃って行うべきこと等を繰り返し申し立て、これに応じようとしなかった。
 そうすると、調査結果の内容の説明を欠いたのは、請求人がこれに応じなかったことによるものであって、このことにより原処分に係る調査手続が違法となるものではない。
(ロ) 調査結果の内容の説明について
 上記イのとおり、本件新調査担当職員は、質問検査権を行使しておらず、請求人に対して、十分な意見聴取もしなかったにもかかわらず、一方的な事実認定による調査結果の内容の説明をするとして来署を要請した。
 請求人は、いかなる調査が行われたかも知ることができなかったものであり、このような状況下において、調査結果の内容の説明を欠く調査手続は違法である。

(2) 争点2(本件差置送達に係る手続に原処分の取消事由となるべき違法があるか否か。)について

原処分庁 請求人
本件職員は、本件歯科医院へ臨場し、対応した従業員(以下「本件送達対応従業員」という。)に対して請求人への取次ぎを依頼したものの、請求人が、診療中であり対応できない旨申し立て、正当な理由がなく書類の受領を拒んだことから、本件差置送達を行った。
 したがって、本件差置送達は、通則法第12条の規定に基づき適法に行われたものである。
請求人は、本件職員が、本件各通知書を持参して、突然本件歯科医院を訪問した際、送達すべき場所である本件歯科医院にいたものの、診療中であったため対応することができなかったものであるから、本件差置送達は、通則法第12条が規定する差置送達の要件のいずれにも該当しない。
 したがって、原処分庁が原則的な交付送達ではなく、本件差置送達を行ったことは原処分を取り消すべき違法がある。

(3) 争点3(本件修正申告は、通則法第65条第5項及び通則法旧第65条第5項に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない」場合に該当するか否か。)について

請求人 原処分庁
請求人は、本件旧所轄庁による調査結果の内容の説明を受けておらず、かつ、原処分庁による事前通知及び実地の調査が行われていない段階で、本件修正申告を自主的に行ったのであるから、本件修正申告は、通則法第65条第5項及び通則法旧第65条第5項に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない」場合に該当する。 請求人は、本件旧調査担当職員から事前通知を受けた後、調査の過程で非違が疑われる事項の説明を繰り返し求められていた。そうすると、請求人は、更正される可能性を認識した上で本件修正申告を行っているといえるから、本件修正申告は、通則法第65条第5項及び通則法旧第65条第5項に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない」場合には該当しない。

(4) 争点4(本件重加算税各賦課決定処分は、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否か。)について

原処分庁 請求人
以下のとおり、本件重加算税各賦課決定処分は、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たす。 以下のとおり、本件重加算税各賦課決定処分は、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たさない。
イ 請求人は、従業員に指示をして氏名空欄のタイムカードに出勤時刻及び退勤時刻を打刻させた上、当該タイムカードに勤務実態のない本件架空従業員らの氏名を記入するとともに、架空の本件源泉徴収簿を作成し、本件給与相当額の給与の支払があったかのように仮装した。当該行為は、給与の支払がないにもかかわらずあるかのように装って、故意に事実をわい曲したものであり、通則法第68条第1項に規定する事実の仮装に該当するところ、請求人は、当該仮装に基づき、本件給与相当額を事業所得の金額の計算上必要経費に算入して本件当初申告を行った。
 なお、請求人は、本件給与相当額を請求人の父母に支払っている旨主張するが、当該支払があった事実は認められない。
イ 請求人は、本件架空従業員らに給与を支払っていないが、本件歯科医院で勤務する請求人の父母に対し、本件給与相当額を支払っていたのであるから、本件給与相当額の必要経費が発生したことには変わりはなく、単に支払先の記載が異なっていたにすぎない。
 したがって、請求人において、本件給与相当額の給与の支払があったかのように仮装した事実はなく、通則法第68条第1項に規定する事実の仮装に該当する行為はない。
ロ 請求人は、本件所得税等各修正申告において、本件給与相当額を修正した旨主張する。しかしながら、請求人は、本件所得税等各修正申告において、修正案として複数の案を提出したものの、それらは今後の調査の展開次第でいずれかを選択できるよう作成された案にすぎず、本件所得税等各修正申告において修正内容の内訳が確定していたとはいえない。
 したがって、本件所得税等各修正申告に対して過少申告加算税を賦課し、更に本件重加算税各賦課決定処分をしたことは、上記イのとおり賦課要件を充足する以上、違法となるものではない。
ロ なお、請求人は本件所得税等各修正申告において、本件給与相当額を修正しているところ、原処分庁は、本件所得税等各修正申告により納付すべき税額の全額に対して過少申告加算税を賦課しているのであるから、本件給与相当額に係る税額に対しては過少申告加算税が賦課されていることになる。そして、重加算税は、過少申告加算税に代えて賦課されるものであることからすれば、平成25年分ないし平成28年分の所得税等の各更正処分により納付すべき税額のうち本件給与相当額に係る税額に対しては重加算税を賦課することはできないから、当該各年分の重加算税の各賦課決定処分は、いずれにしても違法である。

(5) 争点5(請求人には、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」があるか否か。)について

原処分庁 請求人
上記(4)の「原処分庁」欄のイのとおり、請求人は、本件架空従業員らに対し、実際には給与の支払がないにもかかわらず、本件給与相当額の給与を支払っていたかのように仮装したのであり、このような行為は、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する。 上記(4)の「請求人」欄のイのとおり、請求人は、本件給与相当額を請求人の父母に対する給与として支払っており、単に支払先の記載が異なっていたにすぎないのであるから、本件給与相当額の給与を支払っていたかのように仮装したとの事実はない。
 したがって、請求人には通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」はない。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(原処分に係る調査手続に原処分の取消事由となるべき違法があるか否か。)について

  • イ 法令等解釈
    • (イ) 通則法は、第7章の2において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられることから、調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならないものと解される。
       もっとも、通則法は、第24条の規定による更正処分、第26条の規定による再更正処分等について、いずれも「調査により」行う旨規定しているから、課税処分が何らの調査なしに行われたような場合には、課税処分の取消事由となるものと解される。そして、これには、調査を全く欠く場合のみならず、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続(以下「証拠収集手続」という。)に重大な違法があり、調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合も含まれるものと解され、ここにいう重大な違法とは、証拠収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの場合をいうものと解するのが相当である。
    • (ロ) そして、ここにいう「調査」とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切、すなわち、課税庁の証拠資料の収集、証拠資料の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を含む税務調査全般を指すものと解され、いわゆる机上調査のような税務官庁内部における調査も、上記「調査」に含まれるものと解される。
    • (ハ) また、調査関係通達は、通則法第7章の2において、調査手続に関する運用上の取扱いが明確に規定されたことに伴い定められたものであるところ、調査関係通達3−1の(1)は、「調査」は、税目と課税期間によって特定される納税義務に係る調査を一の調査として、通則法第74条の9から通則法第74条の11までの各条の規定が適用される旨定めている。この定めは、調査における事前通知や終了の際の手続について、一の調査の単位を明確にするものであり、その取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
  • ロ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件旧調査担当職員は、平成29年7月10日に、請求人の関与税理士に対し、平成26年分ないし平成28年分の所得税等、平成26年1月1日から平成26年12月31日まで、平成27年1月1日から平成27年12月31日までの各課税期間及び本件課税期間の消費税等並びにその他の税目に係る実地の調査を行う旨の事前通知を行った上で、前記1の(3)のニのとおり、平成29年10月5日に請求人に対する実地の調査を開始した。その際、本件旧調査担当職員は、帳簿書類等を確認した上で、請求人及び関与税理士に対し、請求人の子3名は請求人の行う事業における事業専従者に該当しない旨を説明した上で、調査のため、請求人の帳簿書類等を借用した。
    • (ロ) 本件旧調査担当職員は、平成29年11月14日に、呼出しに応じてF税務署に来署した関与税理士に対し、請求人の経理処理について、特定の従業員に係る源泉徴収がされていなかったり、当該従業員に係る給与支払報告書が提出されていなかったことなどから給与賃金に疑義があること、その他の必要経費に家事関連費が多分に計上されていると思料されることなどを指摘した上で、家事関連費の計上に関して、請求人に再検討の意思があるかを確認するよう依頼した。
    • (ハ) 本件旧調査担当職員は、平成29年12月7日に、本件歯科医院へ臨場し、請求人及び関与税理士に対し、平成28年12月分の必要経費について作成した一覧表を示すとともに、家事関連費が多分に計上されていると思料されると指摘した上、その必要経費の該当性について回答するよう依頼した。また、本件旧調査担当職員が、給与賃金について質問をしたところ、氏名の記載がないタイムカードは請求人も含めた親族のものであり、一部水増しがされていたことなどが判明した。
    • (ニ) 本件旧調査担当職員は、平成30年1月18日に、請求人及び関与税理士に対し、上記(イ)のとおり事前通知をした上で開始した調査について、平成22年分ないし平成25年分の所得税等に係る調査等も対象として追加する旨説明した。
    • (ホ) 請求人は、平成30年3月1日から平成30年6月28日までの期間において、本件旧所轄庁に対して、本件旧調査担当職員からの給与賃金やその他の必要経費に係る質問に回答するための書面を複数提出していた。
    • (ヘ) 原処分庁は、前記1の(3)のホのとおり、請求人が平成30年6月20日に原処分庁が所轄する住所地に移転し、納税地を異動した旨の届出をしたことから、本件旧所轄庁から、請求人に係る調査資料等の引継ぎを受けた。また、本件新調査担当職員は、本件旧調査担当職員から当該調査の状況等について説明を受けた。
    • (ト) 本件新調査担当職員は、平成30年7月23日に、関与税理士に電話連絡をし、請求人の所轄庁が原処分庁となったため、請求人に対する調査の担当職員が本件新調査担当職員に変更となった旨を説明した。
    • (チ) 本件新調査担当職員は、本件旧所轄庁から上記(ヘ)の調査の引継ぎを受けた後、E税務署内において、本件旧所轄庁から引継ぎを受けた証拠資料等の内容を検討するとともに、平成30年7月23日から平成31年1月21日までの間に、関与税理士に対して複数回電話連絡をするなどして、調査に必要な本件修正申告の申告内容が分かる書類の提出又は当該内容の説明をするよう求めた。
       また、本件新調査担当職員は、平成31年1月21日に、E税務署に来署した関与税理士から接待交際費に関する説明を受けるとともに、関与税理士が持参した「矯正ノート」と題する書面の写し等の提示又は提出を求めるなどした。
    • (リ) 本件新調査担当職員は、平成31年3月28日に、関与税理士に電話連絡し、請求人に対する調査結果の内容の説明を行うための日程調整を依頼した。関与税理士は、平成31年4月1日に、本件新調査担当職員に電話連絡し、同月12日までは日程調整ができず、それ以降の本件歯科医院の休診日は同月18日と同月25日であるが、同月25日は対応できない旨回答するとともに、接待交際費等に関する請求人の回答について、原処分庁が説明及び質問等を一切行っていないから、調査結果の内容の説明ができる状況ではないと判断している旨述べた。
    • (ヌ) 本件新調査担当職員は、平成31年4月11日に、関与税理士に電話連絡し、調査結果の内容の説明を行うための日程調整を再度依頼したところ、関与税理士は、客観的な事実に基づく具体的な指摘を受けた上で、請求人が説明等をする機会が設けられなければ、調査結果の内容の説明に応ずるつもりはない旨述べた。
       なお、その際、本件新調査担当職員が、関与税理士に対し、本件更正請求における請求の根拠となる書類として、請求人の鞄に関する資料の提出を求めるなどしたため、請求人は、後日これに応じて当該鞄の写真を提出した。
    • (ル) 原処分庁は、令和元年5月20日に、請求人に対し、調査結果の内容の説明のため、同月末日までにE税務署に来署するよう依頼した「所得税(及び復興特別所得税)・消費税及び地方消費税等の調査について」と題する書面を送付した。
       請求人は、当該書面を受けて、令和元年5月23日に、原処分庁に対し、同月中の日程調整ができないことや、請求人がこれまで提出した書面等について検証を行った上で、請求人らに対する十分な意見聴取を希望する旨記載した「回答書」と題する書面を提出した。
    • (ヲ) 本件新調査担当職員は、令和元年5月27日に、関与税理士から電話連絡を受けた際、関与税理士に対し、調査結果の内容の説明を行うための日程調整を再度依頼したところ、関与税理士は、調査結果の内容の説明は、請求人及び関与税理士2名がそろわなければ対応しない旨述べて日程調整に応じなかった。
    • (ワ) 原処分庁は、請求人に対して調査結果の内容の説明をすることはなく、原処分をした。
  • ハ 当てはめ及び請求人の主張について
    • (イ) 上記イの(ロ)のとおり、通則法第24条が前提とする「調査」は、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切、すなわち、課税庁の証拠資料の収集、証拠資料の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を含む税務調査全般を指すものと解されるところ、前記1の(3)のニ及び上記ロの(イ)ないし(ホ)のとおり、請求人に対する調査は、本件旧所轄庁により、平成29年10月5日に開始されて以降、本件旧調査担当職員により請求人の申告内容に関する質問検査が行われている。そして、上記ロの(ヘ)ないし(チ)のとおり、請求人が原処分庁の所轄する住所地へ納税地を異動した後、原処分庁は、本件旧所轄庁から請求人に対する調査資料等の引継ぎを受けた上で、本件新調査担当職員が当該資料を検討し、請求人に対しても、担当者の変更を伝え、資料の提示を求めるなどしたことが認められる。また、請求人が納税地を異動した後にされた本件更正請求は、本件所得税等各修正申告書の内容の一部を是正するための請求としてされたものであるから、本件旧所轄庁による調査内容にも関わるものであると認められるところ、本件新調査担当職員は、本件更正請求に対しても、本件旧所轄庁から引き継いだ資料を検討した上、上記ロの(ヌ)のとおり、請求人に対して資料の提示を求めたものと認められる。
       以上の事実によれば、平成29年10月5日に開始され、原処分に至るまでの請求人に係る調査は、本件各年分の所得税等及び本件課税期間の消費税等のための証拠資料の収集、証拠資料の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を含む税務調査全般であるといえ、令和元年7月5日付でされた別紙1の原処分に至る一連の判断過程であると解される。そうすると、原処分庁は、当該判断過程を経て原処分をしている以上、その調査に欠けるところはないから、原処分に係る調査手続において、調査を欠く違法は認められない。
       そうすると、原処分が調査を欠く処分であるとする請求人の主張には理由がない。
    • (ロ) また、以下のとおり、事前通知及び調査結果の内容の説明の手続に関しても原処分を取り消すべき違法は認められない。
      • A 事前通知について
         事前通知は、調査手続の透明性、納税者の予見可能性を高めるために、実地の調査に先立ち、課税庁が原則として行うものであるところ、上記イの(ハ)のとおり、事前通知は、税目と課税期間によって特定される納税義務に係る調査を一の調査として、その単位ごとに行われるものと解するのが相当である。
         これを本件についてみると、本件旧所轄庁は、請求人に対する本件各年分の所得税等及び本件課税期間の消費税等に関する実地の調査を行うに当たって、事前通知を適法に行ったことが認められる。
         そして、法令上、納税者が納税地を異動したことにより、実施されていた調査が終了する旨の規定はなく、また、当該異動があった場合に、改めて異動後の所轄庁による事前通知を義務付ける規定もないことに加えて、上記(イ)のとおり、事前通知を経て平成29年10月5日に開始された請求人に係る一連の調査は、本件各年分の所得税等及び本件課税期間の消費税等に関する原処分に至る一連の判断過程と評価できることからすれば、同日に開始された請求人に係る一連の調査は一の調査といえる。そうすると、本件旧所轄庁により適法に事前通知がなされている以上、本件旧所轄庁が開始した請求人に対する調査について、原処分庁が改めて事前通知を行わなかったことについて、原処分を取り消すべき違法があるとは認められない。
         したがって、原処分庁が事前通知を行っていないことにつき、原処分を取り消すべき違法があるとする請求人の主張には理由がない。
      • B 調査結果の内容の説明について
         上記ロの(リ)ないし(ヲ)のとおり、本件新調査担当職員は、再三にわたり関与税理士に連絡するなどして、請求人に対する調査結果の内容の説明のための日程調整を依頼したものの、請求人及び関与税理士は、調査が不十分であるなどと主張してこれに応じなかったことから、上記ロの(ワ)のとおり、調査結果の内容の説明はされなかったことが認められる。
         もっとも、上記イの(イ)のとおり、課税処分に関する証拠収集手続に重大な違法があり、調査を全く欠くに等しいとの評価を受ける場合は、課税処分の取消事由となると解されるところ、調査結果の内容の説明は、調査終了の際の手続であって、証拠収集手続自体に影響を及ぼすものではないことからすれば、請求人に対する調査結果の内容の説明がなかったことをもって、原処分を取り消すべき違法があるとは認められない。
         この点、請求人は、前記3の(1)の「請求人」欄のロの(ロ)のとおり、本件新調査担当職員は質問検査権を行使しておらず、このような状況において原処分庁が調査結果の内容の説明を行っていないことは、原処分を取り消すべき違法がある旨主張する。
         しかしながら、原処分庁が原処分を行うに当たり必要な調査を行っていることは、上記(イ)のとおりであり、また、調査結果の内容の説明がなかったことが原処分の取消事由とはならないことは上記のとおりであるから、請求人の主張には理由がない。
  • ニ 小括
     以上によれば、原処分に係る調査手続において、調査を欠く違法はなく、また、事前通知及び調査結果の説明に係る手続についても原処分の取消事由となるべき違法はない。また、当審判所の調査及び審理の結果によっても、原処分に係るその他の調査手続に原処分の取消事由となるべき違法は認められない。
     したがって、原処分に係る調査手続に原処分の取消事由となるべき違法はない。

(2) 争点2(本件差置送達に係る手続に原処分の取消事由となるべき違法があるか否か。)について

  • イ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件職員は、令和元年7月5日金曜日、本件歯科医院の診療時間中である午後2時50分頃、本件現住所地に所在する請求人の自宅を訪問し、呼び鈴を押すも応答がなかったことから、自宅の玄関脇にある郵便受けに本件各通知書を投かんして差し置こうとしたところ、当該郵便受けの表面にステンレス製プレートがビス留めされていたため、投かんすることができなかった。
    • (ロ) そのため、本件職員は、請求人の自宅に隣接する本件歯科医院から現れた本件送達対応従業員に対して、請求人に渡したい書類がある旨を伝えた上で取次ぎを依頼したところ、本件送達対応従業員は、請求人は診療中であるので、請求人に確認する旨述べて、本件歯科医院へ戻って行った。
    • (ハ) 本件職員は、5分程度待機するも本件送達対応従業員から連絡がないため、本件歯科医院の裏手に赴いて従業員出入口の呼び鈴を押したところ、本件送達対応従業員が応答し、請求人はやはり診療中であるため対応できない旨述べた。
    • (ニ) 本件職員は、本件送達対応従業員に対して、確実に請求人に書類が渡る方法を尋ねたところ、本件送達対応従業員は、本件郵便箱が本件歯科医院と請求人個人の兼用の郵便受けになっているとして、「そちら(本件郵便箱)に入れておいてください。」と述べた。
    • (ホ) 本件職員は、上記(ニ)の本件送達対応従業員の回答を受けて、本件郵便箱に本件各通知書を差し置くことにより、本件差置送達を行った。
  • ロ 検討及び請求人の主張について
     書類の送逹については、別紙2の2に掲げたとおり、通則法第12条第1項において、郵便若しくは信書便による送達又は交付送達により、その送達を受けるべき者の住所又は居所(事務所及び事業所を含む。)に送達する旨を、同条第4項において、交付送達は、当該行政機関の職員がその送達を受けるべき者に書類を交付して行う旨を、また、同条第5項第2号は、交付送達の場合において書類の送達を受けるべき者等が送達すべき場所にいない場合又はこれらの者が正当な理由がなく書類の受領を拒んだ場合には、差置送達により行うことができる旨を規定している。
     そして、差置送達は、大量かつ反復して行われる租税の賦課・徴収に関する処分に関する書類を簡易迅速に送達し処分の効力を生じさせる必要があることや、送達を受けるべき者等が不在又は正当な理由がなく書類の受領を拒んだ場合に送達できないとしてしまうと不当に納税義務を免れさせる結果を招来するおそれがあることから、これを防止して賦課・徴収の公平を図り、かつ租税収入を確保するのに合理的な送達方法であることから認められた制度であると解される。
     これを本件についてみると、上記イの(イ)ないし(ハ)のとおり、本件職員が本件各通知書を持参したのは本件歯科医院における診療時間中であり、請求人は本件歯科医院にいたことが認められるため、書類の送達を受けるべき者である請求人が、通則法第12条第5項第2号前段の「送達すべき場所にいない場合」には該当しない。
     もっとも、上記イの(ハ)のとおり、請求人は、本件職員に対し、本件送達対応従業員を介して、本件歯科医院において診療中であり書類の受領に係る対応をすることができない旨を伝えていることからすれば、請求人は、本件職員の来訪を認識しつつも診療中であることを理由に、本件各通知書の受領を拒んだものといえる。
     そして、大量かつ反復して行われる租税の賦課・徴収に関する処分に関する書類を簡易迅速に送達するという、差置送達の制度が認められた趣旨に照らして検討すると、請求人がこのような対応をした場合において、送達を実施するために本件職員が診療中の患者の診療が終了するまで待機することや、後日出直して交付送達を試みることまでを求めていると解することは困難であり、本件は差置送達を行うことができると解するのが相当である。
     そうすると、請求人の診療中であるという事情は、通則法第12条第5項第2号後段の「正当な理由」には該当しないと解すべきである。
     以上によれば、このような状況においてなされた本件差置送達は法令上の要件を満たしたものであるといえ、また、上記イの(ニ)及び(ホ)のとおり、本件職員は、本件送達対応従業員に対して、確実に請求人に書類が渡る方法を尋ねた上で、本件送達対応従業員の回答のとおり、本件各通知書を本件郵便箱に投かんする方法で差し置いており、その他、当審判所の調査及び審理の結果によっても、本件差置送達が違法であることをうかがわせる事情は認められない。
     したがって、原処分庁が本件差置送達を行ったことにつき、原処分を取り消すべき違法があるとする請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(本件修正申告は、通則法第65条第5項及び通則法旧第65条第5項に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない」場合に該当するか否か。)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 過少申告加算税の制度は、過少申告により納税義務に違反した者に加算税を課することによって、当初から適正に申告した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
    • (ロ) 一方、通則法旧第65条第5項は、過少申告がされた場合であっても、その後修正申告書の提出があり、その提出が「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない」ときは、過少申告加算税を賦課しない旨規定しているところ、これは、課税庁において課税標準を調査する等の事務負担等を軽減することができることも勘案して、自発的に修正申告を決意し修正申告書を提出した者に対しては例外的に加算税を賦課しないこととし、もって納税者の自発的な修正申告を奨励することを目的とするものと解される。
       そして、通則法第65条第5項に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない」ときもその目的は同様と解される。
    • (ハ) 上記(イ)及び(ロ)の通則法の各規定の文言及び趣旨からすると、修正申告書の提出が、「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない」ときに該当するか否かの判断に当たっては、調査の内容及び進捗状況、それに関する納税者の認識、修正申告に至る経緯、修正申告と調査の内容との関連性等の事情を総合考慮して判断するのが相当である。
  • ロ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
     請求人は、本件旧調査担当職員から、給与賃金に疑義があることや必要経費に家事関連費が多分に計上されているという指摘を受けて、当該指摘に応答するため、要旨以下の内容が記載された「説明書」と題する書面(以下「本件説明書」という。)を作成し、平成30年3月1日、本件旧所轄庁に提出した。
     なお、本件説明書には、必要経費を見直した上で是正を予定している事項について、修正金額の一覧表が添付されていた。
    • (イ) 本件給与相当額は、本件架空従業員らに支給したようにして全額を請求人が受け取っていた。給与賃金として計上した本件給与相当額については、速やかに修正申告書を提出する予定である。
    • (ロ) 請求人の父母及び子らに対する給与賃金等については、適正な金額であると考えている。
    • (ハ) 接待交際費に購入代金を計上した時計や商品券は、患者紹介の謝礼として紹介者に贈答したものであり、一部については、当該贈答の事実を証明することはできないものの、いずれについても請求人が事業を行うに当たって必要なものと考えている。
    • (ニ) 消耗品等については、一部減価償却資産として資産計上すべきものがあったため、是正すべき金額については修正申告にて是正したい。
  • ハ 当てはめ
     前記1の(3)のニ及び上記(1)のロの(イ)ないし(ハ)のとおり、本件旧調査担当職員は、平成29年10月5日から請求人に対する調査を開始し、請求人の申告内容に関して質問検査を実施し、その際には、給与賃金に疑義があることや、必要経費に家事関連費が多分に計上されている旨指摘していることが認められる。そして、請求人は、上記ロのとおり、本件旧調査担当職員からの指摘に応答するために作成した本件説明書において、本件架空従業員らに対する給与賃金の帰属が請求人にあることや、必要経費についての自身の見解を述べ、是正を予定している事項については具体的に金額を明示した上で、修正申告を行う予定である旨の回答をしていることが認められる。
     その後、請求人は、前記1の(3)のホないしトのとおり、納税地を原処分庁が所轄する住所地へ異動した上、本件修正申告を行ったことが認められる。
     そうすると、請求人は、本件旧所轄庁による調査の一環としてされた本件旧調査担当職員の指摘を契機として、請求人の所得税等及び消費税等の申告内容につき不適正な部分があることを把握し、本件修正申告の必要性を認識したことは明らかであるから、その後にされた本件修正申告は、原処分庁による更正があるべきことを予知してされたものと認められる。
     したがって、本件修正申告は、通則法第65条第5項及び通則法旧第65条第5項に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない」場合には該当しない。
  • ニ 請求人の主張について
     請求人は、前記3の(3)の「請求人」欄のとおり、本件修正申告は、原処分庁による事前通知及び調査が行われていない段階で自主的に行ったものであり、通則法第65条第5項及び通則法旧第65条第5項に規定する「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない」場合に該当する旨主張する。
     しかしながら、請求人が、本件旧所轄庁により実施された調査を契機に「当該国税について更正があるべきことを予知」したと認められることは上記ハのとおりであるから、請求人の主張は採用できない。

(4) 争点4(本件重加算税各賦課決定処分は、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否か。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第68条第1項における「事実を隠蔽し」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実等について、これを隠蔽し又は故意に脱漏することをいい、また、「事実を仮装し」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲したことをいうものと解すべきである。
  • ロ 当てはめ
     前記1の(3)のロのとおり、請求人は、本件歯科医院での勤務実態がない本件架空従業員らについて、勤務実態があるかのようにタイムカードを作成し、かつ、本件架空従業員らに給与を支払った旨記載した本件源泉徴収簿を作成の上、本件給与相当額を必要経費の額に含めて本件当初申告を行っていたことが認められる。そうすると、請求人の、勤務実態がない本件架空従業員らについてタイムカードを作成し、給与を支払ったかのように本件源泉徴収簿を作成した行為は、国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を仮装したものといえ、請求人は、その仮装したところに基づき納税申告書を提出したものといえるのであるから、本件重加算税各賦課決定処分は、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たした処分であるといえる。
  • ハ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、前記3の(4)の「請求人」欄のイのとおり、本件給与相当額を従業員である請求人の父母に対して支払っていたことから、必要経費が発生したことに変わりはなく、本件給与相当額の支払について仮装した事実はない旨主張する。
       しかしながら、勤務実態がない架空従業員らのタイムカードを作成し、架空従業員らへの給与を支払った旨の本件源泉徴収簿を作成した行為は真実と異なるものであって、当該行為自体、事実のわい曲であり、仮装であることは上記ロのとおりである。
    • (ロ) また、本件給与相当額について、請求人が、請求人の父母に支払ったことを裏付ける客観的な証拠は認められない上、請求人の父は、本件旧調査担当職員に対し、自身の毎月の給与以外の給与は一切支給されていないことを述べている。加えて、請求人自身も、本件説明書では本件給与相当額を自ら受領していた旨述べていたにもかかわらず、本件給与相当額を請求人の父母に支払っていた旨主張しているところ、本件給与相当額の帰属先についての内容が変遷したことについて合理的な理由は認められない。これらの事情からすると、請求人が本件給与相当額を請求人の父母に支払った事実を認めることはできない。
       なお、請求人は、上記主張に加えて、当審判所に対し、本件給与相当額につき、源泉徴収に係る所得税等を追加納付した旨述べるものの、当該事実は、請求人の父母に対して本件給与相当額を支払っていた事実の裏付けとはなり得ない。
       したがって、請求人の主張には理由がない。
    • (ハ) 請求人は、前記3の(4)の「請求人」欄のロのとおり、本件給与相当額は本件所得税等各修正申告において修正していたとして、本件重加算税各賦課決定処分は違法である旨主張し、当該修正については、本件給与相当額を請求人の父母に対する給与として源泉徴収に係る所得税等を追加納付した上、請求人の父母に対する給与は必要経費にならないものと判断して修正したのであり、その旨を本件新調査担当職員に対して説明した旨主張する。
       しかしながら、前記1の(3)のヘのとおり、請求人は、本件所得税等各修正申告書の提出の際、青色申告添付書類を添付しておらず、かつ、本件所得税等各修正申告書の「修正申告によって異動した事項」の各欄は空欄であったことに加え、上記(1)のロの(チ)のとおり、本件新調査担当職員が、請求人に対し、本件修正申告の内容の説明等を求めたにもかかわらず、請求人が本件修正申告の内容を明らかにした事実は認められないのであるから、本件給与相当額を本件所得税等各修正申告において修正していたという請求人の主張は採用することができない。

(5) 争点5(請求人には、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第70条第4項第1号は、「偽りその他不正の行為」によって国税の税額の全部又は一部を免れた納税者がある場合、これに対して適正な課税を行うことができるよう、それ以外の場合よりも長期の除斥期間を定めたものであるから、ここにいう「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行うことをいうものと解すべきである。
  • ロ 当てはめ及び請求人の主張について
     前記1の(3)のロのとおり、請求人は、勤務実態がない本件架空従業員らについてタイムカードを作成した上、給与を支払ったかのように本件源泉徴収簿に記載し、それに基づき納税申告書を提出していることが認められる。これらの事実からすれば、請求人は、本件各年分の所得税等の各確定申告について、本件架空従業員らに本件給与相当額を支払ったように仮装することによる過少申告の意図を有していたといわざるを得ない。
     そうすると、請求人は、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような工作を伴う不正な行為をすることによって、納付すべき税額を過少にし、本来納付すべき税額との差額を免れようとするような態様の過少申告行為を行っていたといえる。
     したがって、請求人には、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」があると認められる。
     この点、請求人は、前記3の(5)の「請求人」欄のとおり、本件給与相当額を請求人の父母に対する給与として支払っていたのであるから、仮装の事実はなく、偽りその他不正の行為は認められない旨主張するが、本件給与相当額を請求人の父母に対して支払っている事実が認められないことは上記(4)のハの(ロ)のとおりであり、請求人の主張には理由がない。

(6) 本件通知処分の適法性について

上記(1)及び(2)のとおり、本件通知処分に係る調査手続及び本件差置送達に係る手続に本件通知処分の取消事由となるべき違法はなく、また、本件通知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件通知処分は適法である。

(7) 本件所得税等各更正処分の適法性について

上記(1)及び(2)のとおり、本件所得税等各更正処分に係る調査手続及び本件差置送達に係る手続に本件所得税等各更正処分の取消事由となるべき違法はなく、また、平成24年分の所得税等については、上記(5)のとおり、請求人は通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」により税額の一部を免れていたと認められる。
 そして、当審判所において、本件各年分の所得税等の納付すべき税額を計算すると、本件所得税等各更正処分の納付すべき税額といずれも同額となる。
 また、本件所得税等各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件所得税等各更正処分は、いずれも適法である。

(8) 本件所得税等各賦課決定処分1の適法性について

上記(1)及び(2)のとおり、本件所得税等各賦課決定処分1に係る調査手続及び本件差置送達に係る手続に本件所得税等各賦課決定処分1の取消事由となるべき違法はなく、また、上記(3)のとおり、本件修正申告は「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものではない」場合には該当しない。
 なお、本件所得税等各賦課決定処分1のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 また、本件所得税等各修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件所得税等各修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条(平成29年1月1日より前に法定申告期限が到来する国税については通則法旧第65条。以下同じ。)第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた本件所得税等各賦課決定処分1はいずれも適法である。

(9) 本件所得税等各賦課決定処分2の適法性について

上記(7)のとおり、本件所得税等各更正処分はいずれも適法であり、本件所得税等各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件所得税等各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そして、上記(1)及び(2)のとおり、本件所得税等各賦課決定処分2に係る調査手続及び本件差置送達に係る手続に本件所得税等各賦課決定処分2の取消事由となるべき違法はなく、また、上記(4)のとおり、請求人には通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たす行為が認められ、平成24年分の所得税等については、上記(5)のとおり、請求人は通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」により税額の一部を免れていたと認められる。
 なお、本件所得税等各賦課決定処分2のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、通則法第65条第1項及び第2項並びに通則法第68条第1項の規定に基づいてされた本件所得税等各賦課決定処分2は、いずれも適法である。

(10) 本件消費税等更正処分の適法性について

上記(1)及び(2)のとおり、本件消費税等更正処分に係る調査手続及び本件差置送達に係る手続に本件消費税等更正処分の取消事由となるべき違法はなく、当審判所において、本件課税期間の消費税等の納付すべき税額を計算すると、本件消費税等更正処分の納付すべき税額と同額となる。
 また、本件消費税等更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件消費税等更正処分は適法である。

(11) 本件消費税等賦課決定処分1の適法性について

上記(1)及び(2)のとおり、本件消費税等賦課決定処分1に係る調査手続及び本件差置送達に係る手続に本件消費税等賦課決定処分1の取消事由となるべき違法はなく、また、上記(3)のとおり、本件修正申告は「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものではない」場合には該当しない。
 なお、本件消費税等賦課決定処分1のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 また、本件消費税等修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件消費税等修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてされた本件消費税等賦課決定処分1は適法である。

(12) 本件消費税等賦課決定処分2の適法性について

上記(10)のとおり、本件消費税等更正処分は適法であり、本件消費税等更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件消費税等更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そして、上記(1)及び(2)のとおり、本件消費税等賦課決定処分2に係る調査手続及び本件差置送達に係る手続に本件消費税等賦課決定処分2の取消事由となるべき違法はなく、また、本件消費税等賦課決定処分2のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、通則法第65条第1項並びに地方税法附則第9条の4及び第9条の9第1項の規定に基づいてされた本件消費税等賦課決定処分2は適法である。

(13) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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