(令和2年12月15日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、1審査請求人(以下「請求人」という。)及び請求人以外の法人の行った土地等の譲渡等に係る収益は、その全てが請求人に帰属し、平成24年4月1日から平成25年3月31日までの事業年度の収益に計上する、2請求人による土地の開発申請に係る業務の役務提供は完了し、収益は確定している、3請求人が地上権設定契約の締結に伴い収受した金員は、返還されることのない「権利金」であり、収益に当たるなどとして、青色申告の承認の取消処分及び更正処分等を行ったのに対し、請求人が、1土地等の譲渡等に係る収益は、請求人にその全てが帰属するものではなく、また、請求人に帰属する収益も当該事業年度に計上するものではない、2開発申請に係る業務の役務提供は完了しておらず、収益は確定していない、3地上権設定契約の一部は無効なものであって、収受した金員は将来的に返還される「敷金」であるから、収益には当たらないなどとして、これらの処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

関係法令等は、別紙3のとおりである。
 なお、別紙3で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。 

  • イ 請求人の概要
     請求人は、平成19年4月○日に設立された、一般土木建築工事の調査、設計、積算、監理及び施工請負並びに土地の造成及び売買、保有、管理、賃貸借、仲介等を目的とする株式会社であり、代表取締役には、平成24年11月19日からJ1が就任していた。
     請求人は、平成22年3月〇日に本店所在地をd市e町○−○から同市f町○−○に移転し、さらに、平成27年11月〇日に肩書地に移転した。
  • ロ 土地等の取得に関する取引
    • (イ) 土地等の取得に関する取りまとめの依頼
       H2社(J2を代表取締役とする株式会社である。)は、平成23年8月1日、太陽光発電事業を行うための太陽光発電設備の設置に必要な土地等を取得するため、H3社に対し、取得費用230,000,000円を支払うとして、L地方裁判所M支部の担保不動産競売事件の対象物件(以下「本件競売対象物件」という。)の競落及びg市h町○−○ほか〇〇筆の土地等の取得に関する取りまとめを依頼した。
    • (ロ) 不動産等売買契約書
       請求人は、H4社(J1が遅くとも平成10年9月20日から代表取締役に就任していた株式会社である。)及びH5社(平成23年10月○日に設立されたH2社の代表取締役と同人物であるJ2が代表取締役である株式会社である。)との間で、売主を請求人及びH4社、買主をH5社として平成23年11月24日付の「不動産等売買契約書」(以下「本件不動産等売買契約書」という。)を取り交わし、要旨、以下のAからDまでを内容とする契約(以下「本件不動産等売買契約」という。)を締結した。
      • A 売買代金
         〇〇〇〇円
      • B 土地及び地上権の譲渡(第2項)
         請求人は、H5社にg市h町○−○ほか〇〇筆の土地の所有権及び同所○−○ほか〇〇筆の土地の地上権(以下、これらを併せて「本件2項土地等」という。)を譲渡する。
      • C 物件の譲渡(第3項)
         請求人は、H5社に合併処理施設等を譲渡する。
         以下、上記B及び上記の売買を併せて「本件2・3項売買」という。
      • D 第三者所有土地の譲渡(第4項)
         H4社は、g市h町○−○ほか〇〇筆の土地(以下「本件4項土地」という。)を買収し、H5社に、本件不動産等売買契約締結後6か月以内に引き渡す。
         以下、上記の売買を「本件4項売買」という。
    • (ハ) 本件2項土地等に係る登記の状況
      • A 上記(ロ)のBのg市h町○−○ほか〇〇筆の土地は、平成23年12月1日付で同年11月24日売買を原因として、請求人からH5社へ所有権移転登記がされた。
      • B 上記(ロ)のBのg市h町○−○ほか〇〇筆の土地の地上権は、平成23年12月1日付で同年11月24日売買を原因として、請求人からH5社へ地上権移転登記がされた。
    • (ニ) H3社の振込入金等の状況
       H3社は、以下のとおり、本件2・3項売買及び本件4項売買に関して、請求人名義等の預金口座等に合計120,490,000円の振込入金等をした。
      • A H3社は、平成23年9月28日、N信用金庫○○支店の請求人名義の預金口座(口座番号○○○○。以下「本件N信金口座」という。)に10,000,000円の振込入金をした。
      • B H3社は、平成23年11月22日、額面80,000,000円の小切手を振り出し、請求人が、同月25日、N信用金庫○○支店に取立てを依頼し、本件N信金口座に入金をした。
      • C H3社は、平成23年11月25日、本件N信金口座に490,000円の振込入金をした。
      • D H3社は、平成23年12月27日、本件N信金口座に15,000,000円の振込入金をした。
      • E H3社は、平成24年5月15日、本件4項土地の一部を所有していたJ3が名義人のH6農業協同組合(現、H7農業協同組合)○○支所の預金口座(口座番号○○○○)に3,500,000円の振込入金をした。
      • F H3社は、平成24年5月21日、本件4項土地の買収に係る業務に従事していたJ5に対し、8,000,000円の現金を交付した。
      • G H3社は、平成24年8月21日、H8銀行○○支店の請求人名義の預金口座(口座番号○○○○)に3,500,000円の振込入金をした。
  • ハ 太陽光発電設備の設置等に関する取引
    • (イ) 平成26年11月26日付の基本合意書
       請求人は、H9社との間で、平成26年11月26日付の「〇〇〇〇〇〇発電所(〇〇MW)土地開発並びに造成に関する基本合意書」(以下「本件平成26年基本合意書」という。)を取り交わし、要旨、以下の AからDまでを内容とする合意をした。
      • A 概要
        • (A) 設備名称 ○○○○○
        • (B) 設備所在地 g市i町○−○ほか〇〇筆の土地(以下「本件i土地」という。)
        • (C) 設置容量 〇〇メガワット
        • (D) 地代 年最高150,000,000円
        • (E) 敷金 200,000,000円
        • (F) 造成費 1,500,000,000円
        • (G) 事業譲渡金 最高1,000,000,000円
      • B 地上権設定契約
         請求人は、H9社又は同社の指定する者との間で、H9社が上記Aの(A)の設備を設置するために必要な請求人が所有する本件i土地の上に、契約期間を25年以上とする地上権設定契約を締結する。
      • C 売電事業の権利の譲渡
         請求人は、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法に基づいて、1キロワット時当たり36円の売電価格が20年間適用される権利を取得し、上記Bの地上権設定契約の締結と同時に、これをH9社に譲渡する。
      • D 土地の開発申請及び造成工事等
         請求人は、上記Aの(A)の設備を設置するために必要な土地について以下の(A)及び(B)の開発申請及び造成工事等の一切を行うこととし、H9社は、これらにかかる費用として最高1,500,000,000円を請求人に支払う(以下「本件合意」という。)。
        • (A) 開発申請
           開発許可申請及び造成計画(排水計画、調整池、沈砂池、河川の拡張を含む。)の作成(以下、これらを併せて「本件開発申請業務」という。)
        • (B) 造成工事等
           本件開発申請業務に基づいた造成工事(諸官庁との調整並びに近隣住民、水利組合、漁業組合、森林組合、農業委員会、土地改良区等の各種組合等との折衝及び調整を含む。)(以下、本件開発申請業務と併せて「本件業務」という。)
    • (ロ) 平成26年11月26日付の地上権設定予約契約書
       請求人は、H9社との間で、平成26年11月26日付の「地上権設定予約契約書」を取り交わし、本件i土地に太陽光発電事業に係る太陽光発電設備を設置するとともに、その運営を目的とする地上権設定契約の締結を予約する旨の契約を締結した。
       本件i土地は、平成26年12月1日付で同年11月26日設定予約を原因として、H9社の地上権設定請求権仮登記がされた。
    • (ハ) 平成27年1月23日付の地位譲渡契約書
       請求人は、H9社との間で、平成27年1月23日付の「地位譲渡契約書」を取り交わし、太陽光発電に関する地位(上記(イ)のCの売電事業の権利のことをいう。以下同じ。)を有するH10社から当該地位を請求人が取得し、H9社に1,000,000,000円で譲渡する旨の契約を締結した。
    • (ニ) H9社への請求書
       請求人は、平成28年9月5日付及び平成29年6月23日付で、H9社に対し、本件開発申請業務の完了及び上記(ハ)の太陽光発電に関する地位の譲渡の代金として、請求書(合計金額は、400,000,000円(税抜き)である。)をそれぞれ新たに発行し、当該請求金額のうち本件開発申請業務の完了に係る金額は、合計200,000,000円(税抜き)であった。
    • (ホ) 平成28年12月7日付の基本合意書
       請求人は、H11社(J4を代表取締役とする株式会社である。)との間で、平成28年12月7日付の「基本合意書」(以下「本件平成28年基本合意書」という。)を取り交わし、要旨、以下のAからEまでを内容とする合意をした。
      • A 物件
        • (A) 設備名称 ○○○○○○
        • (B) 設備所在地 本件i土地
        • (C) 設備ID ○○○○
        • (D) 発電出力 〇〇メガワット
      • B 目的(第1条)
         請求人は、H11社に対し、請求人が所有する本件i土地を賃貸し、H11社は、太陽光発電事業を行う。
      • C 事業譲渡金等(第2条)
        • (A) 事業譲渡金 1,500,000,000円
        • (B) 土地敷金 〇〇〇〇円
        • (C) 開発許可業務費 200,000,000円
        • (D) 賃料 3,000,000,000円(売電開始から20年間)
      • D 支払期日等(第3条)
         H11社は、請求人に対して上記Cの金員を以下のとおり支払う。
        • (A) 事業譲渡金 H9社が所有する太陽光発電に関する地位を譲り受ける代金として平成29年1月まで
        • (B) 土地敷金 平成29年2月まで
        • (C) 開発許可業務費 平成29年4月まで
        • (D) 賃料 売電開始後、年ごとに150,000,000円又は月ごとに12,500,000円
      • E 土地の返還(第4条)
         H11社は、売電開始から20年間土地を賃借した場合、上記Cの(B)の敷金を放棄する。
    • (ヘ) 林地開発行為の許可
       P県知事は、平成29年3月27日付で、H9社が太陽光発電事業を行うために完全子会社として設立したH12社に対し、太陽光発電設備の設置に必要なg市j町○−○ほか〇〇筆の土地の、森林法第10条の2《開発行為の許可》第2項の規定に基づく太陽光発電施設用地の造成を目的とした林地開発行為を許可した。
    • (ト) H11社の完全子会社の設立
       H13社は、H11社の完全子会社であり、平成29年4月○日、代表取締役をJ4として設立された。
    • (チ) 平成29年7月1日付の地上権設定契約書
       請求人は、H13社との間で、要旨、以下のAからFまでを内容とする平成29年7月1日付の「地上権設定契約書」(以下「本件平成29年地上権設定契約書」という。)を取り交わした。
      • A 地上権の設定(第1条)
         請求人は、請求人が所有するg市k町○−○ほか〇〇筆の土地(本件i土地の一部であり、以下「本件k土地」という。)に、H13社のために地上権を設定する。
      • B 使用目的(第2条)
         H13社は、太陽光発電設備を所有する目的のために本件k土地を使用する。
      • C 存続期間(第3条)
         地上権の存続期間は、契約締結の日から25年間とする。
      • D 地代(第4条)
         地代の総額を3,000,000,000円とし、売電開始から翌年分を1年分として、年150,000,000円を20年間にわたり請求人に支払う。
      • E 権利金(第5条)
         H13社は、請求人に対し、権利金として〇〇〇〇円(以下「本件権利金」という。)を支払うこととし、本件権利金の返還は要しない。
      • F 費用の負担(第6条)
         契約の締結及び地上権設定登記に要する費用は、H13社の負担とする。
    • (リ) 本件k土地に係る登記の状況
      本件k土地は、平成29年7月18日付で同月1日設定(存続期間25年)を原因として、H13社の地上権設定登記がされた。
    • (ヌ) 平成30年9月27日の振込入金
       請求人は、平成30年9月27日、H14社(H11社の代表取締役と同人物であるJ4が代表取締役である株式会社である。)から、〇〇〇〇円の振込入金を受けた。
       以下、平成30年9月27日の振込みによって、請求人が授受した〇〇〇〇円を「本件授受〇〇円」という。
    • (ル) 平成31年3月7日付の解約合意書
       請求人は、H9社との間で、平成31年3月7日付の「解約合意書」を取り交わし、本件平成26年基本合意書に係る合意及び上記(ロ)の地上権設定予約契約書に係る契約を解約する旨の合意をした。
    • (ヲ) 平成31年3月7日付の持分等譲渡契約書
       H9社は、H11社との間で、平成31年3月7日付の「持分等譲渡契約書」を取り交わし、H9社が上記(ハ)の地位譲渡契約に基づいて保有する権利義務及びH12社の持分を、1,170,000,000円で譲渡する旨の契約を締結した。
    • (ワ) 平成31年3月7日付の基本合意書
       請求人は、H11社及びH12社との間で、本件平成28年基本合意書の内容を変更するために平成31年3月7日付の「基本合意書」(以下「本件平成31年基本合意書」という。)を取り交わし、要旨、以下のAからEまでを内容とする合意をした。
      • A 物件
        • (A) 設備名称 ○○○○○○
        • (B) 設備所在地 本件i土地
        • (C) 設備ID ○○○○
        • (D) 発電出力 〇〇メガワット
      • B 目的(第1条)
         請求人は、H11社又はH12社が行う太陽光発電事業のため、本件i土地に当該各社のいずれかに地上権を設定する。
      • C 請求人の義務(第2条)
         請求人は、H9社と取り交わした本件平成26年基本合意書に係る合意及び上記(ロ)の地上権設定予約契約書に係る契約を解約し、H9社の地上権設定請求権仮登記をいつでも抹消できることを表明する。
      • D 地上権設定契約(第4条)
         請求人は、別途締結する地上権設定契約に基づいて、H11社又はH12社が行う太陽光発電事業に供するため、本件i土地に当該各社のいずれかに地上権を設定する。
      • E 地代、存続期間及び敷金(第6条)
        • (A) H11社又はH12社は、請求人に対し、地代として年額150,000,000円を地上権の存続期間の20年間にわたり支払う。
        • (B) H11社は、請求人に対し、上記Dの地上権設定契約に伴う敷金(預け金)として本件授受〇〇円を平成30年9月27日に預託済みである。
        • (C) 請求人は、H11社に対して、H11社又はH12社が太陽光発電事業を終了し、本件i土地に設置した設備一式を撤去するとともに、地上権登記を抹消したと同時に、敷金(預け金)全額を返金する。
    • (カ) 令和元年8月7日付の地上権設定契約書
       請求人は、H11社及びH12社との間で、令和元年8月7日付の「地上権設定契約書」を取り交わし、本件i土地を含むg市i町○−○ほか〇〇筆の土地に、H12社による太陽光発電設備の所有を目的とする地上権を設定する旨の契約を締結した。
    • (ヨ) 令和元年11月8日付の解約合意書
       請求人は、H11社、H12社及びH13社との間で、令和元年11月8日付の「解約合意書」(以下「本件令和元年解約合意書」という。)を取り交わし、要旨、以下のAからCまでを内容とする合意をした。
      • A 本件令和元年解約合意書に係る合意締結の経緯等の確認
         請求人は、H11社及びH12社との間で、本件平成31年基本合意書に係る合意及び上記(カ)の地上権設定契約書に係る契約を締結し、請求人が太陽光発電事業を行うべく開発を進めていたことを確認する。
      • B 合意解約
        • (A) 請求人は、H11社及びH12社との間で、請求人のH11社に対する債権839,200,000円及び債務830,000,000円があることを確認し、本件平成31年基本合意書に係る合意を令和元年11月8日付で全て解約する。
        • (B) 請求人は、H11社及びH12社との間で、上記(カ)の地上権設定契約を令和元年11月8日付で全て解約する。
        • (C) 請求人は、H13社との間で、本件平成29年地上権設定契約書に係る地上権設定契約を解約していることを確認した。
      • C 敷金の返還
         請求人は、本件令和元年解約合意書に係る合意時、平成30年9月27日にH11社から敷金(預け金)として支払のあった本件授受〇〇円を、H11社に返還する。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 確定申告等
    • (イ) 法人税
      • A 平成24年4月1日から平成25年3月31日までの事業年度
         請求人は、平成24年4月1日から平成25年3月31日までの事業年度(以下「平成25年3月期」という。)の法人税の確定申告書を、請求人の納税地を所轄するQ税務署長又はR税務署長へ提出しなかった。
      • B 平成28年4月1日から平成29年3月31日までの事業年度
         請求人は、平成28年4月1日から平成29年3月31日までの事業年度(以下「平成29年3月期」という。)の法人税の青色の確定申告書に別表1の「確定申告(青色申告)」欄のとおりそれぞれ記載して、法定申告期限までにR税務署長へ提出した。
      • C 平成29年4月1日から平成30年3月31日までの事業年度
         請求人は、平成29年4月1日から平成30年3月31日までの事業年度(以下「平成30年3月期」という。)の法人税の青色の確定申告書に別表1の「確定申告(青色申告)」欄のとおりそれぞれ記載して、法定申告期限までにR税務署長へ提出した。
         なお、請求人は、平成30年3月期において、租税特別措置法(平成30年法律第7号による改正前のもの。以下同じ。)第67条の5《中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例》第1項の規定を適用し、少額減価償却資産の取得価額の合計額〇〇〇〇円を損金の額に算入していた。
    • (ロ) 復興特別法人税
       請求人は、平成24年4月1日から平成25年3月31日までの課税事業年度(以下「平成25年3月課税事業年度」という。)の復興特別法人税の確定申告書を、請求人の納税地を所轄するQ税務署長又はR税務署長へ提出しなかった。
    • (ハ) 地方法人税
       請求人は、平成28年4月1日から平成29年3月31日まで及び同年4月1日から平成30年3月31日までの各課税事業年度(以下、順次「平成29年3月課税事業年度」及び「平成30年3月課税事業年度」という。)の地方法人税の青色の確定申告書に別表2の「確定申告(青色申告)」欄のとおりそれぞれ記載して、いずれも法定申告期限までにR税務署長へ提出した。
  • ロ 原処分
    • (イ) 法人税
      • A 平成25年3月期の決定処分等
         原処分庁は、令和元年5月28日付で、本件不動産等売買契約に係る収益の全てが請求人に帰属し、平成25年3月期の益金の額に算入されるなどとして、別表1の「決定・更正処分等」欄の「平成25年3月期」欄のとおり、決定処分(以下「本件平成25年法人税決定処分」という。)をするとともに、重加算税の賦課決定処分(以下「本件平成25年法人税賦課決定処分」という。)をした。
      • B 平成29年3月期以後の青色申告の承認の取消処分
         原処分庁は、令和元年5月28日付で、本件開発申請業務に係る収益を平成29年3月期に計上しなかったことについて、法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する事実があるとして、同承認を取り消す処分(以下「本件青色取消処分」という。)をした。
      • C 平成29年3月期の更正処分等
         原処分庁は、令和元年5月28日付で、本件開発申請業務が平成29年3月期に完了しているので、これに係る収益が平成29年3月期の益金の額に算入されるなどとして、別表1の「決定・更正処分等」欄の「平成29年3月期」欄のとおり、更正処分(以下「本件平成29年法人税更正処分」という。)をするとともに、重加算税の賦課決定処分(以下「本件平成29年法人税賦課決定処分」という。)をした。
      • D 平成30年3月期の更正処分等
         原処分庁は、令和元年5月28日付で、本件権利金に係る収益は平成30年3月期の益金の額に算入され、また、本件青色取消処分に伴い、租税特別措置法第67条の5第1項の規定の適用を受けることができないなどとして、別表1の「決定・更正処分等」欄の「平成30年3月期」欄のとおり、更正処分(以下「本件平成30年法人税更正処分」という。)をするとともに、重加算税の賦課決定処分(以下「本件平成30年法人税賦課決定処分」という。)をした。
    • (ロ) 復興特別法人税
       原処分庁は、令和元年5月28日付で、平成25年3月課税事業年度の復興特別法人税について、別表3の「決定処分等」欄のとおり、決定処分をするとともに、重加算税の賦課決定処分をした。
    • (ハ) 地方法人税
       原処分庁は、令和元年5月28日付で、平成29年3月課税事業年度及び平成30年3月課税事業年度の地方法人税について、別表2の「更正処分等」欄のとおり、各更正処分をするとともに、重加算税の各賦課決定処分をした。
  • ハ 再調査の請求等
     請求人は、令和元年8月27日、原処分を不服として、再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、令和元年11月21日付で、いずれも棄却の再調査決定をした。
  • ニ 審査請求
     請求人は、令和元年12月19日、再調査決定を経た後の原処分に不服があるとして、審査請求をした。

2 争点

(1) 本件不動産等売買契約に係る収益は、全て請求人に帰属し、かつ、平成25年3月期に計上すべきか否か(争点1)。

(2) 請求人は、偽りその他不正の行為により平成25年3月期の法人税の税額を免れたか否か(争点2)。

(3) 平成25年3月期において、請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」た事実があったか否か(争点3)。

(4) 本件開発申請業務に係る収益は、平成29年3月期に計上すべきか否か(争点4)。

(5) 平成29年3月期において、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」た事実があったか否か(争点5)。

(6) 平成29年3月期において、請求人の帳簿書類につき法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する事実があったか否か(争点6)。

(7) 本件権利金に係る収益は、平成30年3月期に計上すべきか否か(争点7)。

(8) 平成30年3月期において、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」た事実があったか否か(争点8)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件不動産等売買契約に係る収益は、全て請求人に帰属し、かつ、平成25年3月期に計上すべきか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 収益の帰属について
 所得の帰属主体については、諸要素を総合的に判断し、実質的に決定すべきである。本件不動産等売買契約は、本件不動産等売買契約書の第2項から第4項までが一体となった一つの契約であることから、請求人又はH4社のいずれか一方に帰属するものと考えられるところ、次の(イ)から(ニ)までのことからすると、本件4項売買に係る収益も、請求人に帰属することから、本件不動産等売買契約に係る収益は全て請求人に帰属する。
  • (イ) H4社の代表取締役でもあるJ1は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)に対し、H4社について、平成20年頃にその所有していた土地を請求人に売却した以降、何もしていない旨申述しており、また、H4社は、平成18年2月1日から平成19年1月31日までの事業年度以降、法人税の確定申告書を提出していないこと。
  • (ロ) H4社は、本件4項売買に係る経費の支払を行っていないこと。
  • (ハ) 本件不動産等売買契約に係る代金120,490,000円が、請求人名義の各預金口座又は請求人が管理していた預金口座に入金されていること。
  • (ニ) 本件不動産等売買契約の一方の当事者であるH5社の代表取締役であるJ2は、H4社が実体のない会社で、本件不動産等売買契約書の各項の相手方は請求人であると考えていた旨申述していること。
イ 収益の帰属について
 本件不動産等売買契約書の第4項には、H4社が各地権者から土地を買収し、H5社に引き渡す旨記載されているから、同項に係る売主は、請求人ではなく、H4社である。
 そして、本件4項売買に係る業務は、H4社の代表取締役であったJ1が行っている。本件調査担当職員に対するH4社が「何もしていない」旨のJ1の申述は、営業活動に関するものであって、本件4項売買に係る業務に関するものではなく、実際、平成24年夏頃までH4社の事務所には事務員が常駐しており、H4社は、取締役であるJ5をして、本件4項売買に係る業務を行っていた。
 したがって、本件2・3項売買に係る収益は請求人に帰属するが、本件4項売買に係る収益は請求人に帰属しない。
ロ 収益の計上時期について
 本件不動産等売買契約の目的はH5社の太陽光発電事業用地の取得であり、特に本件4項土地は太陽光パネル設置予定地であったこと、本件不動産等売買契約書において第2項から第4項までを各項別に引渡しをする旨の記載や各項別の取引金額がいくらであるかの記載がないこと及び契約の一方の当事者であるH5社の代表取締役であるJ2が、本件調査担当職員に対し、各項の履行はまとめて行われる契約であるという認識であった旨申述していることからすれば、第2項から第4項までが一体となった一つの契約であり、第2項から第4項までの全ての履行が完了しなければ、本件不動産等売買契約に係る引渡しが行われたとはいえない。
 本件では、平成24年12月6日までに第2項及び第3項の全部並びに第4項の一部の履行が完了し、同月頃に同項の未履行部分が免除されていることから、同月をもって本件不動産等売買契約に係る引渡しが行われ、その収益が実現したものといえる。
 したがって、本件不動産等売買契約に係る収益は、その全てを平成24年12月の属する事業年度である平成25年3月期に計上すべきである。
ロ 収益の計上時期について
 不動産を譲渡する取引において、引渡しがいつ行われたかということは、契約書の作り方や当事者の認識の如何によって変わるものではなく、取引に関する事実に基づいて判断されるべきであるところ、本件2・3項売買の履行に関して、平成23年11月25日に「代金の相当部分(おおむね50%以上)」の決済がされ、同年12月1日に請求人からH5社へ土地所有権及び地上権の移転登記の申請がされていることからすれば、法人税基本通達2−1−14及び同通達2−1−2に照らし、同年11月25日にはこれらの引渡しが行われたことは明らかである。
 また、H5社の代表取締役であるJ2の認識にかかわらず、本件不動産等売買契約書上、第2項及び第3項には特に期限について記載されていないのに対し、第4項については、「…本契約締結後6か月以内に引き渡す。」との引渡しの期限については異なる定めがされており、全ての土地をまとめて引渡しを行うものではない。
 したがって、本件2・3項売買に係る収益は本件4項売買とは別に、平成23年11月の属する事業年度である同年4月1日から平成24年3月31日までの事業年度(以下「平成24年3月期」という。)に計上すべきである。
ハ まとめ
 上記イ及びロのとおり、本件不動産等売買契約に係る収益は全て請求人に帰属し、かつ、平成25年3月期に計上すべきである。
ハ まとめ
 上記イのとおり、本件4項売買に係る収益は請求人に帰属せず、また、上記ロのとおり、本件2・3項売買に係る収益は、平成24年3月期に計上すべきものであって、平成25年3月期に計上すべきものではない。

(2) 争点2(請求人は、偽りその他不正の行為により平成25年3月期の法人税の税額を免れたか否か。)について

原処分庁 請求人
J1は、本件不動産等売買契約当時も請求人の実質経営者であったところ、J1は、本件不動産等売買契約に係る代金を自由に処分していたことなどから、本件不動産等売買契約に係る利益が生じていたことを十分認識し、当該利益について平成25年3月期の法人税の申告をすべきとの認識がありながら、確定申告書を提出しなかったこと及びJ1が本件調査担当職員に対して信ぴょう性のない申述を行い、調査に非協力的な態度に終始していたことを考慮すれば、請求人は、平成25年3月期における所得を殊更に秘匿して申告しなかったものである。
 このことは、単なる不申告というものではなく、請求人は正当な税額の納付を回避する意図の下に申告しなかったものであり、通則法第70条第4項第1号に規定する偽りその他不正の行為により税額を免れたことに該当する。
上記(1)のとおり、本件2・3項売買に係る収益は請求人の平成24年3月期の収益であり、また、本件4項売買に係る収益はH4社の収益であることから、本件平成25年法人税決定処分は違法であり、取り消されるべきである。
 仮に上記(1)の主張が認められないとしても、J1が請求人の実質的な経営者であるか否かということ及びJ1が本件不動産等売買契約に係る代金を自由に処分していたか否かということは、通則法第70条第4項第1号に規定する更正決定等の処分に該当するか否かの判断とは、何の関係もない。
 また、原処分庁は、請求人が本件不動産等売買契約に係る利益が生じていたことを十分認識し、当該利益について平成25年3月期の法人税の申告を行うべきとの認識がありながら、確定申告書を提出しなかった旨主張するが、請求人が申告を行うべきものであるにもかかわらず行わなかったことを主張したものでしかなく、通則法第70条第4項第1号に規定する偽りその他不正の行為を摘示するものではない。

(3) 争点3(平成25年3月期において、請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」た事実があったか否か。)について

原処分庁 請求人
請求人は、本件不動産等売買契約に係る利益が生じていたことを十分認識し、当該利益について平成25年3月期の法人税の申告を行うべきとの認識がありながら、確定申告書を提出しなかったこと、J1が本件調査担当職員に対して信ぴょう性のない申述を行っていたこと及び調査に非協力的な態度に終始していたことを考慮すれば、請求人は、平成25年3月期における所得を殊更に秘匿して申告しなかったものである。
 このことは、単なる不申告というものではなく、請求人は正当な税額の納付を回避する意図の下に申告しなかったものであり、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する。
上記(1)のとおり、本件2・3項売買に係る収益は請求人の平成24年3月期の収益であり、また、本件4項売買に係る収益はH4社の収益であることから、本件平成25年法人税決定処分は違法であり、取り消されるべきである。
 仮に上記(1)の主張が認められないとしても、J1が本件調査担当職員に対して申述した内容は、全て事実であって、信ぴょう性のない申述などではない。
 原処分庁は、請求人が本件不動産等売買契約に係る利益が生じていたことを十分認識し、当該利益について平成25年3月期の法人税の申告を行うべきとの認識がありながら、確定申告書を提出しなかった旨主張するが、申告をすべきであると認識しながら申告を行わなかっただけでは、「隠蔽」にも「仮装」にも該当しない。

(4) 争点4(本件開発申請業務に係る収益は、平成29年3月期に計上すべきか否か。)について

原処分庁 請求人
本件平成26年基本合意書の本件業務のうち、造成工事等はH9社が行うこととなったことから、請求人がH9社から請け負った本件業務は本件開発申請業務のみとなった。
 そして、本件開発申請業務の範囲は、次のイからハまでのことから、P県知事が平成29年3月27日付で許可した林地開発行為に係る申請業務に限られるため、本件開発申請業務に係る収益は、平成29年3月期に計上すべきである。
  • イ 平成29年3月27日に、P県知事からH9社の完全子会社であり、H9社が太陽光発電事業の事業主体として指定したH12社宛に、林地開発行為の許可がなされていること。
  • ロ 請求人は、上記1の(3)のハの(ニ)のとおり、平成28年9月5日付及び平成29年6月23日付でH9社に対して、本件開発申請業務に係る代金200,000,000円(税抜き)の請求書を発行していること。
  • ハ 請求人は、H9社との間の民事訴訟において、「開発申請業務について既に終了した業務であり、その請負報酬200,000,000円について、H9社は請求人に対して支払義務を負っている」旨主張していること。
本件平成26年基本合意書において、請求人とH9社との間では、本件開発申請業務のみを切り離して取引の対象とするとはされていなかった。
 また、原処分庁は、本件開発申請業務の範囲は林地開発行為に係る申請業務に限られることを前提にしているが、請求人とH9社との間で、そのような合意は成立していない。
 請求人は、平成29年3月27日に、本件i土地の林地部分について、林地開発行為の許可を受けたものの、農地部分については、平成31年1月28日に農地転用許可を受けており、令和元年7月に漁業協同組合及び自治会に対する工事説明会が行われ、同年8月21日に工事着手届が受理されたことからすれば、本件開発申請業務に係る役務提供は、同日に完了した。
 さらに、請求書の発行の事実や、訴訟における主張内容が法人税法上の収益計上時期の判断基準となるものではない。
 したがって、本件開発申請業務に係る収益は、平成29年3月期に計上すべきではない。

(5) 争点5(平成29年3月期において、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」た事実があったか否か。)について

原処分庁 請求人
請求人は、本件開発申請業務に係る収益を平成29年3月期に計上し、申告すべきであるとの認識がありながら、これを確定的に収益に計上しない意図を有し、その意図に基づき、請求人の会計処理の全てを委任しているJ6税理士に対して、平成29年3月期の収入は船舶の賃貸収入だけである旨の報告を行い、当該収益の存在を報告しないことによって、当該収益を隠蔽した。
 このことは、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する。
上記(4)のとおり、本件開発申請業務に係る役務提供は平成29年3月期に完了していないから、本件平成29年法人税更正処分は違法であり、取り消されるべきである。
 仮に上記(4)の主張が認められないとしても、請求人は、本件開発申請業務が完了していなかったことから、J6税理士に本件開発申請業務に係る収益を計上する必要がある旨の話をしなかっただけであって、「確定的」な「意図」をもってそれをJ6税理士に報告しなかったという事実はない。

(6) 争点6(平成29年3月期において、請求人の帳簿書類につき法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する事実があったか否か。)について

原処分庁 請求人
請求人は、本件開発申請業務に係る収益を平成29年3月期に計上し、申告すべきであるとの認識がありながら、これを確定的に収益に計上しない意図を有し、その意図に基づき、本件開発申請業務に係る収益を除外して決算を行った。
 このことは、法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する。
本件開発申請業務に係る役務提供は、平成29年3月期末までに完了していないから、本件開発申請業務は、平成29年3月期の収益に計上すべきものではない。
 そうすると、本件青色取消処分において隠蔽の対象とされた取引が存在していなかったのであるから、本件青色取消処分はその前提を欠いている。

(7) 争点7(本件権利金に係る収益は、平成30年3月期に計上すべきか否か。)について

原処分庁 請求人
本件権利金は、本件k土地の地上権を設定することに対する対価であるところ、本件k土地には、契約の一方の当事者であるH13社を地上権者とする地上権設定登記が平成29年7月1日付でされていることからすると、本件権利金の収益は平成30年3月期に実現しているから、平成30年3月期に計上すべきである。
 なお、請求人は、本件平成29年地上権設定契約書の第2条以下の各条の記載は民法第94条第1項の規定により無効である旨主張するが、当該記載が請求人とH13社との間で意思を通じてされた虚偽の意思表示であるという事実はない。
  • イ 本件授受〇〇円は、本件権利金として受領したのではなく、本件平成28年基本合意書の第2条及び本件平成31年基本合意書の第6条に係る返還を要する敷金として預かったものである。
  • ロ H13社は、同社の親会社であるH11社が競合相手であったH9社との交渉のために設立したいわゆるペーパーカンパニーにすぎず、実際に太陽光発電事業を行うことを予定していた会社ではなく、事業活動を行っていなかった。
     H13社と本件平成29年地上権設定契約書を取り交わして第2順位の地上権設定登記を行ったのは、H9社との交渉が難航することが予想されたことから、本件k土地に保全を掛ける形をとってH9社に対して圧力を掛ける趣旨のものにすぎない。
     請求人は、本件平成29年地上権設定契約書に基づき本件k土地にH13社のための地上権を設定したものの、本件平成29年地上権設定契約書の第2条以下の各条の記載については、当事者間の有効な内心的効果意思を欠くものとして民法第94条第1項の規定により無効であり、本件権利金に係る債権債務が発生していない。
  • ハ 本件平成29年地上権設定契約書の第2条以下の各条の記載は無効であることから、本件授受〇〇円の支払の経理処理について、H11社が「建設仮勘定」を用いており、H13社は経理処理を行っていない。
  • ニ H13社が地上権を設定することができたとしても、太陽光発電事業を行い得ないことから、H13社の地上権の経済的価値は、零円としか評価できない。

(8) 争点8(平成30年3月期において、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」た事実があったか否か。)について

原処分庁 請求人
請求人は、本件権利金を平成30年3月期の収益に計上し、申告すべきであるとの認識がありながら、これを確定的に収益に計上しない意図を有し、その意図に基づき、請求人の会計処理の全てを委任しているJ6税理士に対して平成30年3月期の収入は船舶の賃貸収入だけである旨の報告を行い、本件権利金に係る収益の存在を報告しないことによって、当該収益を隠蔽した。
 このことは、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する。
上記(7)のとおり、本件平成30年法人税更正処分は違法であり、取り消されるべきである。
 仮に上記(7)の主張が認められないとしても、H13社は、従業員もおらず、決算も税務申告もしないような、いわゆるペーパーカンパニーなのであるから、このような会社との取引から確定的に本件権利金の収益が生じることを認識していたなどということがあるはずがない。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件不動産等売買契約に係る収益は、全て請求人に帰属し、かつ、平成25年3月期に計上すべきか否か。)について

  • イ 収益の帰属について
    • (イ) 法令解釈
       法人税法第11条は、別紙3の2の(1)のとおり規定するところ、同条は、法律上の所得の帰属の形式とその実質が異なるときには、実質に従って租税関係が定められるべきであるという租税法上の当然の条理を確認的に定めたものと解される。
       したがって、事業収益の帰属者が誰であるかは、当該事業の遂行に際して行われる法律行為の名義人が誰かというだけでなく、取引に係るその他の諸事情を総合勘案して、当該事業の主体は誰であるかにより判断することとなる。
    • (ロ) 認定事実
       請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
      • A 事業の経緯について
        • (A) 取りまとめの依頼について
           H2社の代表取締役であるJ2は、太陽光発電設備を設置できる広い土地を探しており、平成22年頃、H3社の創業者であるJ7から、g市にリゾート施設の跡地である広い土地があり、当該土地の一部には地上権設定登記がされているなど権利関係が複雑であるが、当該リゾート施設を経営していたH4社の代表取締役であり、J7と面識のあるJ1が当該土地の各地権者とも顔見知りであるから当該各地権者と購入の交渉もできる旨の情報を得た。
           H2社の代表取締役であるJ2は、平成22年の夏頃、太陽光発電設備を設置するために必要な上記の土地を取得しようとしたが、J1と面識がなかったことから、同人と面識のあるJ7に土地等の取得に関する取りまとめの全てを委託することとし、上記1の(3)のロの(イ)のとおり、H2社は、J7が創業者であるH3社に、土地等の取得に関する取りまとめを依頼した。
        • (B) 条件付不動産等売買契約の締結について
           請求人は、H3社との間で、H4社を立会人として平成23年9月15日付の「条件付不動産等売買契約書」を取り交わし、H2社が平成23年9月○日の開札期日において本件競売対象物件の最高価買受申出人に指定されることを条件に、請求人所有の土地の所有権をH2社に移転させる旨の契約を締結した。
        • (C) 本件不動産等売買契約の締結について
           H2社は、平成23年9月○日、本件競売対象物件の買受代金○○○○円で、本件競売対象物件の最高価買受申出人となった。
           このことにより、上記(B)の条件付不動産等売買契約の条件が成就したが、H2社は、g市の土地で太陽光発電事業を運営する目的でH5社を設立したことから、同社が、上記(A)の取りまとめの依頼に係る取得費用230,000,000円から本件競売対象物件の買受代金〇〇〇〇円を差し引いた金額〇〇〇〇円を売買代金とする本件不動産等売買契約を請求人と締結した。
           本件不動産等売買契約書には、本件不動産等売買契約書作成当時の請求人の代表取締役であるJ8及びH4社の代表取締役であるJ1のそれぞれ記名押印があった。
        • (D) 本件4項土地に係る登記の状況について
           本件4項土地には、平成23年11月25日付で、H2社に地上権が移転される以前において、平成5年頃から平成10年頃までの間に設定されたH4社を地上権者とする地上権設定登記が存在していた。
        • (E) 取りまとめの依頼に係る代金の支払について
           上記(A)の取りまとめの依頼に基づき、H2社及びH5社は、H3社に対し、合計230,000,000円を預け、本件競売対象物件の買受及び本件不動産等売買契約の代金決済を依頼し、H3社は、上記1の(3)のロの(ニ)のとおり、請求人名義等の預金口座等に120,490,000円の支払をした。
           なお、上記1の(3)のロの(ニ)のFのJ5に交付された金員は、平成24年5月21日、請求人が管理しているJ5名義のH15銀行○○支店の預金口座(口座番号○○○○)に振り込まれた。
      • B 買収業務の遂行状況について
         J5は、J1の指示の下、本件4項土地に係る各地権者と買収交渉を行っていた。
         J5は、平成22年3月1日から平成24年11月19日までの間は請求人の取締役として、平成18年3月1日から平成28年3月2日までの間はH4社の取締役として、それぞれ登記されていたが、いずれも名義上のものであり、H4社の従業員として、本件4項土地に係る各地権者との買収交渉を行っていた。
      • C 業務に係る費用の支払状況について
        • (A) 経理処理等について
           H4社は、平成18年2月1日から平成19年1月31日までの事業年度以降、法人税の確定申告書を提出しておらず、少なくとも平成23年2月1日から平成24年1月31日までの事業年度以降、帳簿書類も作成していなかった。
           なお、請求人は、平成24年3月期及び平成25年3月期について、それぞれ法人税の確定申告書を提出しておらず、帳簿書類も作成していなかった。
        • (B) 買収代金について
           本件4項土地に係る各地権者への買収代金は、いずれもH3社がH2社及びH5社から受領していた金員を原資として支払がなされていた。
        • (C) 業務従事者の給与について
           上記Bのとおり、本件4項土地の買収に係る業務に従事していたJ5は、平成23年頃及び平成24年頃、H4社から月30万円を支給されていた。
        • (D) その他の諸経費について
           上記(C)以外の、本件4項売買に係る具体的な諸経費の支払状況は不明である。
    • (ハ) 検討
       本件2・3項売買に係る収益が請求人に帰属することについては、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められないから、以下、本件4項売買に係る収益が請求人に帰属するか否かについて検討する。
       本件では、本件不動産等売買契約書上、上記1の(3)のロの(ロ)のBからDまで、及び上記(ロ)のAの(C)のとおり、本件2・3項売買の債務者(売主)として請求人が記載され、また、本件不動産等売買契約書には、その作成当時の請求人の代表取締役であるJ8の記名とその代表取締役印が押印されている。一方、本件4項売買については、債務者(売主)として、H4社が記載され、本件不動産等売買契約書作成当時のH4社の代表取締役であるJ1の記名とその代表取締役印が押印されているなど、請求人及びH4社は、H5社との間で、それぞれその意思に従って、それぞれ別の債務を負う内容の契約を締結したと認められる。
       また、その他の諸事情についてみれば、H4社は、本件不動産等売買契約書作成当時、登記された法人格を有する会社として存在しており、そこで事務員として従事していた旨述べる者もあり、そのうえ、上記(ロ)のAの(D)のとおり、本件4項売買の目的物である本件4項土地には、平成5年頃から平成10年頃までの間にH4社を地上権者とする地上権設定登記がされ、その後平成23年11月頃までの間、地上権設定登記が有効に存在していた。
       そして、上記(ロ)のBのとおり、本件4項土地の買収に係る業務は、J1の指示の下、J5が行っており、同人はH4社の従業員として業務遂行に当たっていたことが認められる。
       そうすると、本件4項売買の事業の主体は、H4社であり、その収益もH4社に帰属すると認められる。
       したがって、本件2・3項売買に係る収益は請求人に帰属するが、本件4項売買に係る収益は、請求人に帰属しない。
  • ロ 収益の計上時期について
     本件4項売買に係る収益が請求人に帰属しないことは、上記イの(ハ)のとおりであることから、以下、本件不動産等売買契約のうち、請求人に帰属する本件2・3項売買に係る収益について、平成25年3月期に計上すべきか否かについて検討する。
    • (イ) 法令解釈
       法人税法上、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引に係る収益の額とするものとされ(法人税法第22条第2項)、当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきものとされている(同条第4項)。したがって、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金の額に算入すべきものと解される。また、法人税基本通達2−1−14及び同通達2−1−2は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従い、固定資産の譲渡による収益の帰属の時期について権利確定主義を採用し、その収益の額をいつ益金の額に算入すべきかを具体的に示したものであって、法人税法第22条第4項の規定の趣旨にも適合するものであるから、当審判所においても相当と認められる。
       そして、不動産の譲渡の取引においては、代金の支払と同時に当該不動産の引渡しや所有権の移転の登記がされることにより取引が一時に完了し、法人税基本通達2−1−14にいう「引渡しがあった日」が客観的に明白な場合がある一方、諸般の事情から各契約当事者の給付等が段階的に複数回に分けてされ、外見上は上記の「引渡しがあった日」や収益が実現したといえる日が必ずしも明らかでない場合も生ずるが、後者のような場合には、取引に関する諸事情を考慮し、当該不動産の現実の支配がいつ移転したかを判断し、その現実の支配が移転した時期をもって当該不動産に係る「引渡しがあった日」であると判断するのが相当である。
    • (ロ) 認定事実
       本件不動産等売買契約書の第3項の合併処理施設等は、H5社にとって太陽光発電設備の設置に必要ではないところ、H5社がS市から当該合併処理施設等の処理を相談されたことから、検討の結果、H5社で当該合併処理施設等を取得することとした。
    • (ハ) 検討
       本件不動産等売買契約書には、上記1の(3)のロの(ロ)のとおり、所有権の移転時期や地上権の移転時期に係る内容の記載はなく、本件不動産等売買契約の内容自体から、本件2項土地等及び本件不動産等売買契約書の第3項の合併処理施設等に係る法人税基本通達2−1−14にいう「引渡しがあった日」が客観的に明白であるとは認められない。
       そこで、取引に関する諸事情をみると、本件2項土地等は、上記1の(3)のロの(ハ)のとおり、それぞれ平成23年12月1日付で、H5社へ移転登記されているのであり、また、上記合併処理施設等は、上記(ロ)のとおり、H5社にとって太陽光発電設備の設置に必要ではなく、当該合併処理施設等のみを取得する理由もないことからすれば、当該合併処理施設等の売買は、本件2項土地等の売買に付随するものである。さらに、代金についてみても、H3社は、上記1の(3)のロの(ニ)のAからDまでのとおり、請求人に対し、平成23年11月24日の契約日前の同年9月28日から契約日後の同年12月27日までの間に合計105,490,000円を支払っており、これに上記移転登記の事実を併せてみれば、当該105,490,000円の支払は、本件2・3項売買の代金の相当部分であったと認められる。
       以上の事実からすると、H5社へ本件2項土地等に係る移転登記がされた平成23年12月1日には、本件2項土地等及び上記合併処理施設等の現実の支配がH5社へ移転したというべきであるから、本件2・3項売買については、同日をもって「引渡しがあった日」であると判断するのが相当である。
       したがって、本件2・3項売買に係る収益については平成24年3月期に計上すべきである。
  • ハ 小括
     上記イの(ハ)及びロの(ハ)のとおり、本件不動産等売買契約のうち本件4項売買に係る収益は、請求人に帰属せず、本件2・3項売買に係る収益については、請求人に帰属するが、平成25年3月期に計上すべきではない。
  • ニ 原処分庁の主張について
    • (イ) 収益の帰属について
       原処分庁は、上記3の(1)の「原処分庁」欄のイの(イ)から(ニ)までのとおり、J1が、H4社について、平成20年頃以降、何もしていない旨申述したこと、H4社は、平成18年2月1日から平成19年1月31日までの事業年度以降、法人税の確定申告書を提出していないこと、H4社は、本件4項売買に係る経費の支払を行っていないこと、本件不動産等売買契約に係る代金が、請求人名義の各預金口座又は請求人が管理していた預金口座に入金されていること及びJ2が、本件不動産等売買契約書の各項の相手方が請求人であると考えていた旨申述したことから、本件4項売買に係る収益が請求人に帰属する旨主張する。
       しかしながら、これらの事実はいずれも本件4項売買の実質的な事業の主体がH4社であったことと必ずしも矛盾するものではなく、これらの事実からだけでは、本件4項売買の事業の主体が、請求人であったと認めることはできない。
       したがって、原処分庁の主張には理由がない。
    • (ロ) 収益の計上時期について
       原処分庁は、上記3の(1)の「原処分庁」欄のロのとおり、本件不動産等売買契約の目的は太陽光発電事業用地の取得であり、特に本件4項土地は太陽光パネル設置予定地であったこと、本件不動産等売買契約書において各項別に引渡しをするという記載や各項の取引金額がいくらであるとの記載はなかったこと及び各項の履行はまとめて行われる契約であったというJ2の認識からすれば、各項の全ての履行が完了しなければ、本件不動産等売買契約に係る引渡しが行われたとはいえず、そうすると、第2項から第4項までが一体となった一つの契約であり、これらが全体として履行完了となった平成25年3月期に、初めて本件不動産等売買契約に係る全ての収益が、請求人に帰属する旨主張する。
       しかしながら、本件不動産等売買契約書上、その条項は、本件2・3項売買と本件4項売買とが、明らかにそれぞれ独立したもので、本件2・3項売買の当事者は請求人及びH5社とされ、本件4項売買の当事者はH4社及びH5社と明確に区別されている。また、各項の内容上、債務の履行に際して、本件4項売買を履行しなければ、本件2・3項売買を履行できないというような特段の事情は認められないし、本件不動産等売買契約の当事者間において、本件不動産等売買契約の履行を一括して行う旨の内容や、それらの履行が全て行われなければ代金の支払を行わない旨の記載もない。
       そうすると、本件不動産等売買契約書の本件2・3項売買及び本件4項売買は、それぞれ別個の契約であるというほかない。
       したがって、原処分庁の主張には理由がない。

(2) 争点2(請求人は、偽りその他不正の行為により平成25年3月期の法人税の税額を免れたか否か。)について

上記(1)のハのとおり、請求人の平成25年3月期の益金の額に算入すべきものはないから、請求人が、偽りその他不正の行為により、平成25年3月期の法人税の税額を免れたとは認められない。

(3) 争点3(平成25年3月期において、請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」た事実があったか否か。)について

上記(1)のハのとおり、請求人の平成25年3月期の益金の額に算入すべきものがないから、請求人が本件不動産等売買契約に係る収益を隠蔽し、又は仮装した事実はない。

(4) 争点4(本件開発申請業務に係る収益は、平成29年3月期に計上すべきか否か。)について

  • イ 法令解釈
     上記(1)のロの(イ)のとおり、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金の額に算入すべきものと解される。請負は、民法第632条の規定によれば、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずるところ、請負代金を支払う時期については、民法第633条及び同法第624条の規定によれば、仕事の目的物の引渡しを要する場合は引渡しと同時に、引渡しを要しない場合は仕事の完了時とされている。
     そうすると、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した仕事の全部を完了した日に請負代金を請求することができ、収入すべき権利が確定したといえるから、請負に係る収益は、原則として、その日の属する事業年度の益金の額に算入すべきものと解するのが相当である。
     そして、法人税基本通達2−1−5は、請負による収益の帰属の時期についての取扱いを定めているところ、これらの取扱いは上記の解釈に沿うものであり、当審判所においても相当と認められる。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 請求人は、平成28年12月28日付で、H9社に対し、本件合意に関し、請求人の造成工事の実施を一方的に阻害した旨、及び本件業務の費用1,500,000,000円のうち200,000,000円を本件開発申請業務の費用とすることで合意し、かつ、本件開発申請業務を完了したのに当該費用を支払わないことは本件合意に反する旨それぞれ記載した「H9社との契約解除について」と題する書面を送付した。
    • (ロ) H9社は、平成29年1月17日付で、上記(イ)の書面に対し、当事者間の協議の上、造成工事についてはH9社が行うことになった旨、及び200,000,000円を本件開発申請業務の費用とする合意が成立したことはない旨それぞれ記載した「通知書」と題する書面を請求人に送付した。
    • (ハ) 請求人は、平成29年2月22日付で、上記(ロ)の書面に対し、その証拠を送付するよう求める旨記載した「ご請求書」と題する書面をH9社に送付した。
    • (ニ) 請求人は、平成29年8月30日付で、H9社を被告とする請負報酬請求訴訟を提起し、当該訴訟において、本件業務に対する最高1,500,000,000円の報酬のうち200,000,000円で本件開発申請業務を行うことをH9社と合意していた旨主張した。
    • (ホ) H9社は、上記(ニ)の主張に対する平成29年10月25日付の答弁書において、合意の事実を否認し、請求棄却を求めた。
    • (ヘ) 本件合意に基づく本件i土地の造成工事等は、平成29年3月31日時点で、完成していなかった。
  • ハ 当てはめ
     本件合意の内容は、本件業務の完成を目的としたものであり、物の引渡しを要する請負契約に当たると認められる。
     そして、本件平成26年基本合意書の記載上、上記1の(3)のハの(イ)のDのとおり、請負人である請求人は、本件業務の「一切を行う」ものとされるとともに、注文主であるH9社は、単に直前の「一切を行う」ものとされる本件業務に「かかる費用」として最高1,500,000,000円を支払うと記載されていることからすれば、本件平成26年基本合意書の記載からみても、それから推認される当事者の意思からみても、請求人は、本件業務を一括して請け負い、その全てが完成して初めてH9社に対して、その報酬の請求をなし得ると解すのが合理的である。
     以上からすれば、本件合意に係る収益は、上記イの法令解釈に照らし、その目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日の属する事業年度の益金の額に算入すべきこととなるが、上記ロの(ヘ)のとおり、平成29年3月期までの間に、上記造成工事等は完成していない。
     したがって、本件開発申請業務に係る収益は、平成29年3月期に計上すべきではない。
  • ニ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、請求人がH9社から請け負った業務は本件開発申請業務のみとなったとして、上記3の(4)の「原処分庁」欄のとおり、上記1の(3)のハの(ヘ)の林地開発行為の許可がされたことをもって本件開発申請業務に係る収益を平成29年3月期に計上すべき旨主張する。
     しかしながら、上記ハのとおり、本件平成26年基本合意書に係る契約は、その記載上も、それから推認される当事者の意思としても、請負人である請求人が本件業務を一括して請け負い、注文主であるH9社がその仕事全体の完成に対して金員を支払うことを内容とするものと認めるのが相当である。
     そして、当審判所の調査の結果によっても、上記ロの(イ)から(ホ)までのとおり、平成29年3月期末までの請求人とH9社との間のやりとりにおいて、請求人とH9社との間で、本件合意の内容を変更して、請求人の請負業務が本件開発申請業務のみとなったという事実は認められないから、本件合意は、上記1の(3)のハの(ル)の解約に至るまで、平成29年3月期においても、存続していたと認められる。
     これらのことからすれば、請求人が、平成29年3月期において、本件開発申請業務のみの完了を理由として報酬を請求することはできないといわざるを得ない。
     したがって、原処分庁の主張には理由がない。

(5) 争点5(平成29年3月期において、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」た事実があったか否か。)について

上記(4)のハのとおり、本件開発申請業務に係る収益は、平成29年3月期に計上すべきものではないから、請求人が本件開発申請業務に係る収益を隠蔽し、又は仮装した事実はない。

(6) 争点6(平成29年3月期において、請求人の帳簿書類につき法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する事実があったか否か。)について

上記(4)のハのとおり、本件開発申請業務に係る収益は、平成29年3月期に計上すべきものではないから、平成29年3月期の帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載又は記録した事実はない。
 したがって、請求人の帳簿書類につき、法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する事実があったとは認められない。

(7) 争点7(本件権利金に係る収益は、平成30年3月期に計上すべきか否か。)について

  • イ 法令解釈
     上記(1)のロの(イ)のとおり、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金の額に算入すべきものと解される。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 本件平成28年基本合意書は、請求人が、H9社との間で本件平成26年基本合意書に係る太陽光発電事業を行うことができなくなった場合に、同様の事業をH11社と行うことを考え、その旨をH11社に打診した結果、取り交わされたものである。
    • (ロ) 上記1の(3)のハの(ト)のとおり、H13社は、平成29年4月○日、H11社の完全子会社として設立された会社であり、本件平成28年基本合意書に係る太陽光発電設備を所有し、将来、太陽光発電事業を行うことが予定されていたことが認められる。そのため、上記1の(3)のハの(チ)及び(リ)のとおり、太陽光発電設備の所有を目的として、本件平成29年地上権設定契約書に基づき、請求人が所有する本件k土地に地上権設定登記がされた。
  • ハ 当てはめ
    • (イ) 本件平成28年基本合意書と本件平成29年地上権設定契約書の関係について
       本件平成28年基本合意書及び本件平成29年地上権設定契約書には、その形式面に特段、不自然なところはなく、H13社は、本件k土地で将来太陽光発電事業を行うことを予定して設立されたH11社の完全子会社であり、また、上記1の(3)のハの(ホ)及び(チ)のとおり、本件平成29年地上権設定契約書の内容は、対象地、設定目的、地代の支払総額等の大枠について本件平成28年基本合意書とおおむね一致していることからすると、本件平成29年地上権設定契約書は、本件平成28年基本合意書に係る合意に基づいて、請求人とH13社との間で、取り交わされたものであると認められる。
       そして、本件平成28年基本合意書においては、対象地の利用権に関し、賃借権の設定及びそれに伴う敷金として〇〇〇〇円の支払と記載されているところ、本件平成29年地上権設定契約書においては、対象地の利用権に関し、地上権の設定及びそれに伴う返還を要しない本件権利金として〇〇〇〇円の支払に記載内容が変更されている。
       このような記載内容の変更からすれば、地上権の設定対象となった本件k土地について、本件平成28年基本合意書作成時点では、H11社の太陽光発電事業のための対象地の利用権としての「賃借権」の設定及び「敷金」として支払うこととされた〇〇〇〇円が、太陽光発電事業を実際に行う(H11社の完全子会社である)H13社のために、本件平成29年地上権設定契約書を取り交わすことにより締結された契約(以下「本件平成29年地上権設定契約」という。)において、対象地の利用権としての「地上権」の設定及びその対価とする「権利金」(返還を要しないもの)に変更されたと認められる。
    • (ロ) 本件権利金に係る収益の収入すべき権利の確定について
       上記(イ)のとおり、本件権利金は地上権を設定することに対する対価であると認められることから、上記1の(3)のハの(リ)のとおり、平成29年7月18日付で、H13社が本件k土地に地上権設定登記をしたことによって、請求人は本件権利金の支払を請求する権利を有することとなったといえ、同日時点において、本件権利金に係る収益の収入すべき権利が確定したということができる。
    • (ハ) 小括
       以上のとおり、地上権の設定対価である本件権利金は、平成29年7月18日付で地上権設定登記がされたことによりその収入すべき権利が確定していることになるから、これに係る収益は同日の属する平成30年3月期に計上すべきである。
  • ニ 請求人の主張について
    • (イ) 本件授受〇〇円が返還を要する敷金であるとの主張について
       請求人は、上記3の(7)の「請求人」欄のイのとおり、本件授受〇〇円は、本件権利金として受領したのではなく、本件平成28年基本合意書の第2条及び本件平成31年基本合意書の第6条に係る返還を要する敷金として預かったものである旨主張する。
       しかしながら、上記ハの(イ)のとおり、本件平成28年基本合意書や本件平成29年地上権設定契約書に記載されている〇〇〇〇円について、本件平成29年地上権設定契約において、本件平成28年基本合意書の第2条の返還を要する「敷金」から、「権利金」として返還を要しないものに変更されたのであるから、本件授受〇〇円は、本件権利金として支払われたものと認められる。
    • (ロ) 本件平成29年地上権設定契約書が民法第94条第1項の規定により無効であるとの主張について
       請求人は、上記3の(7)の「請求人」欄のロのとおり、H13社と本件平成29年地上権設定契約書を取り交わして第2順位の地上権設定登記を行ったのは、H9社との交渉が難航することが予想されたことから、本件k土地に保全を掛ける形をとってH9社に対して圧力を掛ける趣旨のものにすぎないのであり、本件平成29年地上権設定契約書の第2条以下の各条の記載については、当事者間の有効な内心的効果意思を欠くものとして民法第94条第1項の規定により無効であり、本件権利金に係る債権債務が発生することはなかった旨主張し、J1はこれに沿う答述をする。
       しかしながら、本件平成29年地上権設定契約の一方の当事者であるH13社の代表取締役であるJ4は、再調査審理庁所属の担当職員に対する申述及び当審判所に対する答述において、請求人の主張のような通謀の存在を否定しているところ、J4には、この点について殊更虚偽を述べる動機はないから、その申述及び答述は信用でき、結局、本件平成29年地上権設定契約について、当事者間の通謀を認めることはできない。
       また、本件平成29年地上権設定契約後、上記1の(3)のハの(リ)のとおり、本件k土地には、現実にH13社の地上権が設定され、上記1の(3)のハの(ヌ)のとおり、H11社の代表取締役と同人物であるJ4が代表取締役であるH14社から、請求人に本件授受〇〇円の振込みがなされているのであり、このような事実経過からも、本件平成29年地上権設定契約当時、請求人とH13社との間に、本件平成29年地上権設定契約全体はいうまでもなく、その第2条以下の各条の記載について真実そのような合意をする意思がないのに、そのような意思があるもののように仮装することの合意が存在したことをうかがわせるものはない。
       そもそも、請求人の主張するように、本件k土地に形式的にH13社の地上権を設定することによって、既にそれに優先する地上権設定請求権仮登記を有しているH9社にいかなる圧力が掛かり、それがH13社の権利の保全に利するのか判然としない。また、仮に地上権の設定によりH9社に対して何らかの「圧力」が掛かるとしても、それならば地上権についてのみ契約を締結し、それについて登記のみをすれば十分であるところ、本件平成29年地上権設定契約書では、対象地の利用権について、本件平成28年基本合意書における「賃借権」を「地上権」に変更した上で、地上権の設定以外にも詳細な条項が定められているばかりか、特に〇〇〇〇円については、「返還を要する敷金」から「返還を要しない権利金」に変更されているのであり、請求人の主張は不自然である。
       さらに、上記1の(3)のハの(ヨ)のBの(C)のとおり、請求人とH13社は、本件令和元年解約合意書において本件平成29年地上権設定契約を解約していることを確認しており、本件平成29年地上権設定契約の各当事者間で有効なものとして扱っていることからしても、結局、本件平成29年地上権設定契約は、全体として有効に成立していたものと認められる。
       なお、請求人は、本件平成29年地上権設定契約が通謀虚偽表示として無効である理由として、上記1の(3)のハの(ワ)のEの(B)のとおり、本件平成31年基本合意書に「乙は甲に対し、上記第4条(地上権設定契約)に伴う敷金(預け金)として金〇〇円を平成30年9月27日預託済みであることを相互に確認済みである。」との記載(乙はH11社をいい、甲は請求人をいう。)がある旨や平成31年3月19日付のJ4の陳述書(以下「J4陳述書」という。)に「当社が平成30年9月27日に支払った〇〇円はH11社とH1社と締結した地上権設定の設定費用であり、H13社からの権利金支払いはありません。」との記載がある旨主張する。
       しかし、本件平成31年基本合意書及びJ4陳述書は、いずれも原処分に先立つ法人税調査の開始後、本件調査担当職員が、J1に対して、本件平成29年地上権設定契約にある本件権利金について、請求人の平成30年3月期の収益該当性を指摘したのに対し、請求人が本審査請求と同様の主張をして、その収益該当性を否定する状況下において作成されたものであるから、その証明力には限界があるというべきであり(なお、J4が、再調査審理庁及び当審判所への申述及び答述で、本件平成29年地上権設定契約時におけるJ1との通謀を否定しているのは上記のとおりである。また、J4は、J4陳述書についても、当審判所への答述において、J4陳述書はJ1が作成してきたものに署名しただけで、自分の意思で作成したものではない旨述べている。)、本件平成31年基本合意書及びJ4陳述書によっても、本件平成29年地上権設定契約が通謀虚偽表示により無効であったと認めることはできない。
       さらに、請求人は、令和元年11月11日に本件授受〇〇円が請求人からH11社に返還されていたことを主張するも、仮にそのような事実があったとしても、上記と同様に本件権利金の収益該当性が原処分庁から指摘された後に行われたものであるから、当該返還によって、本件平成29年地上権設定契約が無効であったと認めることもできない。
    • (ハ) H13社がペーパーカンパニーであるとの主張について
       請求人は、上記3の(7)の「請求人」欄のロのとおり、H13社について、H11社が競合相手であるH9社との交渉のためのペーパーカンパニーにすぎない旨主張する。
       しかしながら、H13社は、上記ロの(ロ)のとおり、太陽光発電事業を行うことを予定して設立され、請求人との間で、太陽光発電設備の所有を目的とする本件平成29年地上権設定契約を締結し、H13社を地上権者として地上権設定登記をした。さらに、本件権利金は、上記(イ)のとおり、請求人に対し、本件授受〇〇円として支払われたことからすれば、H13社が事業を行っていたものと認められ、ペーパーカンパニーであるとはいえない。
    • (ニ) 本件授受〇〇円の経理処理に関する主張について
       請求人は、上記3の(7)の「請求人」欄のハのとおり、本件平成29年地上権設定契約は無効であることから、本件授受〇〇円の支払の経理処理について、H11社が「建設仮勘定」を用いており、H13社は経理処理を行っていない旨主張する。
       しかしながら、上記1の(3)のハの(ト)のとおり、H13社は、H11社の完全子会社として、本件k土地で太陽光発電事業を行うことを目的として設立された会社であり、両社は密接な関係を有すること(両社の代表取締役はいずれもJ4である。)からすれば、H11社が、本件平成29年地上権設定契約に従って、自己の計算の下、設立間もないH13社のために本件授受〇〇円を出捐した(なお、振込みは、上記1の(3)のハの(ヌ)のとおりJ4を代表取締役とする「H14社」名義で行われている。)としても不合理とはいえないし、また、本件授受〇〇円をH11社の建設仮勘定として経理処理していたとしても、これにより本件平成29年地上権設定契約の一方の当事者であるH13社にとっての本件授受〇〇円の支出の性格が直ちに決まるものではない。
    • (ホ) H13社の地上権の経済的な価値に関する主張について
       請求人は、上記3の(7)の「請求人」欄のニのとおり、H13社が地上権を設定することができたとしても、太陽光発電事業を行い得ないことから、H13社の地上権の経済的価値は、零円としか評価されない旨主張する。
       しかしながら、本件権利金が「返還を要する敷金」から「返還を要しない権利金」に変更されたことに対し、J4から異議が唱えられた形跡はなく、実際に本件権利金が支払われていることからすると、J4は、本件平成29年地上権設定契約当時、H13社の名義で本件k土地において太陽光発電事業を行うことにより、将来的に莫大な利益が上がることを想定し、地上権の設定をしたい旨の強い意思を持っていたと認められるから、H13社にとって、本件k土地に地上権を設定する経済的価値が零円であったとはいえず(現に地上権の設定により土地を利用することが可能となるばかりか、仮に先順位の登記が抹消されれば、第1順位の地上権者として利用できる上、対抗要件ともなる。)、請求人と本件平成29年地上権設定契約を締結することが不自然であったとはいえない。
    • (ヘ) まとめ
       その他の請求人の主張を検討しても、上記ハの(ロ)のとおり、平成30年3月期において、本件権利金の収益が確定していることから、請求人の主張にはいずれも理由がない。

(8) 争点8(平成30年3月期において、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」た事実があったか否か。)について

  • イ 法令解釈
     重加算税の制度は、納税者が過少申告をするにつき隠蔽又は仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
     したがって、重加算税を課すためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠蔽、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠蔽、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。
     しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、上記の重加算税の賦課要件が満たされるものと解すべきである。
     また、税理士を通じて確定申告を行う場合、特定の所得を申告すべきことを熟知しながら、税理士から当該所得の有無について質問を受け、資料の提出を求められたにもかかわらず、確定的な脱税の意思に基づき、当該所得のあることを税理士に対して秘匿し、何らの資料も提供することなく、税理士に過少な申告を記載した確定申告書を作成させてこれを提出した場合には、「過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動」があったといえる。また、税理士に対する所得の秘匿が「過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動」に当たるか否かを判断するに当たっては、税理士による資料を提示すべき旨の指示があったことは必ずしも必須の要件ではなく、特定の所得を申告すべきことを熟知しながら、確定的な脱税の意思に基づき、当該所得のあることを税理士に対して秘匿し、当該所得に係る資料も提供することなく、税理士に過少な申告を記載した確定申告書を作成させてこれを提出したと認められるような場合には、上記の過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動を構成するものと解するのが相当である。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) J1は、上記1の(3)のロの(ロ)のとおり、遅くとも平成10年9月20日から、H4社の代表取締役を務めていた。H4社は、d市を拠点とする不動産業者として、土地建物の売買や仲介、管理等を営んでいた。
    • (ロ) J6税理士は、平成27年3月頃から、平成26年4月1日から平成27年3月31日までの事業年度の決算以降の請求人の税務書類の作成等の税務に関する事務への関与を始めた。
       J6税理士は、請求人の上記事務に関与するようになって以降、請求人の確定申告書を作成するため、2、3か月に1度、J1から請求人の預金通帳の写し、出金の領収書等の資料の提示を受けて、当該資料を基に一から総勘定元帳を記帳し、当該総勘定元帳に基づいて請求人の確定申告を行っていた。
       具体的には、J6税理士は、J1に対し、上記預金通帳の写しを基に入金の内容を確認するとともに、決算の時には、当該入金が収入又は仮受金に該当するのか、このほかに収入がないかを口頭で確認していた。また、J6税理士は、J1に対し、上記資料だけでは請求人の出金の内容が分からない場合に限り、当該出金の説明を求め、請求人の総勘定元帳を記帳していた。
    • (ハ) J1は、J9司法書士に対し、具体的に契約の内容を指示した上で、本件平成29年地上権設定契約書の書式を作成させた。J1は、請求人の代表取締役として、H13社の代表取締役のJ4との間で、上記書式を使用し、本件平成29年地上権設定契約を締結した。
    • (ニ) J6税理士は、上記(ロ)のとおり、請求人の平成26年4月1日から平成27年3月31日までの事業年度から平成30年3月期までの法人税の各確定申告書を作成した。
       J6税理士が請求人の平成30年3月期の法人税の確定申告書を作成した際には、当該総勘定元帳に本件権利金に関係する記載はなく、また、J1も、J6税理士に対し、平成27年3月頃から請求人の平成30年3月期の法人税の確定申告書を提出した平成30年5月31日までの間、請求人の収入が船舶リース収入だけである旨の説明をし、本件権利金の支払を約した本件平成29年地上権設定契約の存在を報告したり、資料として平成29年地上権設定契約書を提出したりすることもなかった。
       そのため、J6税理士は、本件権利金を平成30年3月期の収益として益金の額に算入していない上記の平成30年3月期の確定申告書を作成し、J1が当該確定申告書の内容を確認した後、請求人の納税地を所轄するR税務署長に提出した。
    • (ホ) J1は、本件権利金が振り込まれた後、J6税理士に対し、本件授受〇〇円について、本件権利金ではなく敷金又は保証金が入金されたものである旨の説明をした。
  • ハ 請求人の申述等
     J1は、再調査審理庁の調査時から当審判所の調査及び審理までの各段階において、本件平成29年地上権設定契約書の第2条以下の各条は通謀虚偽表示であり、本件権利金を授受する予定がなかった旨、本件授受〇〇円は本件権利金の支払を受けたものではない旨申述及び答述した。
  • ニ 当てはめ
    • (イ) J1がJ6税理士に必要な報告をしなかったこと及び過少申告事実について
       本件権利金は、上記(7)のハの(ハ)のとおり、請求人の平成30年3月期の収益として益金の額に算入して確定申告されるべきところ、上記ロの(ロ)及び(ニ)のとおり、J1は、請求人の平成30年3月期の法人税の確定申告を行うに際し、請求人の税務書類の作成等の税務に関する事務に関与していたJ6税理士に対し、平成27年3月頃から平成30年5月31日までの間、請求人の収入は船舶リース収入だけである旨の説明をし、本件権利金の支払を約した本件平成29年地上権設定契約の存在を報告したり、資料として本件平成29年地上権設定契約書を提出したりすることもなかった。
       そのため、J6税理士は、本件権利金を収益として益金の額に算入しないまま、所得が過少となった請求人の平成30年3月期の法人税の確定申告書を提出した。
    • (ロ) J1の税務に関する知識について
       請求人は、上記1の(3)のイのとおり、一般土木建築工事の調査、設計、積算、監理及び施工請負並びに土地の造成及び売買、保有、管理、賃貸借、仲介等を目的とする株式会社であり、J1が、請求人の代表取締役として請求人の業務に従事していた。そして、J1は、上記ロの(イ)のとおり、不動産業者であるH4社の代表取締役も務めており、H4社の業務に従事していたことからすれば、同人は、平成10年9月20日から本件平成29年地上権設定契約の締結までの少なくとも20年近く不動産を扱う業務に携わっていた経験と法人の役員としての経歴から、返金を要さない権利金の収益該当性やその計上時期について、十分な知識及び経験があったと認められる。
    • (ハ) J1の本件権利金に係る収益に関する認識について
       上記ロの(ハ)のとおり、本件平成29年地上権設定契約書の各条は、J1がJ9司法書士に依頼し、J1の指示又は意向に沿って作成させたものであるところ、J1は、本件平成28年基本合意書の対象地の利用権としての賃借権の設定に伴う返還を要する敷金とされていた〇〇〇〇円を、本件平成29年地上権設定契約書において、本件権利金すなわち地上権の設定対価として返還を要しない権利金に変更したものであった。
       このように、J1は、もともと返還を要するとされていた〇〇〇〇円について、本件平成29年地上権設定契約書においてあえて返還を要しないものに変更したのであり、このような変更に至る経緯、変更内容及び上記(ロ)からみて、J1は、請求人において、本件k土地にH13社の地上権を設定し、本件権利金を請求する権利が確定した平成30年3月期に収益として計上すべきであることを認識していたものと推認される。
    • (ニ) J1のJ6税理士等に対する本件権利金等に関する事実と異なる故意の説明、申述及び答述について
       J1は、上記ロの(ホ)のとおり、J6税理士に対し、本件授受〇〇円について、敷金又は保証金が入金されたものであると説明をした。
       また、J1は、上記ハのとおり、再調査審理庁の調査時から当審判所の調査及び審理までの各段階において、本件平成29年地上権設定契約書の第2条以下の各条は通謀虚偽表示であり、本件権利金を授受する予定がなかった旨、本件授受〇〇円は本件権利金の支払を受けたものではない旨申述及び答述した。
       しかしながら、本件授受〇〇円が、本件権利金と認められることは上記(7)のニの(イ)のとおりであり、また、本件平成29年地上権設定契約が通謀虚偽表示であるとは認められないことは上記(7)のニの(ロ)のとおりであるから、結局、J1の上記説明、申述及び答述は事実と異なる。そして、上記(ロ)及び(ハ)のとおり、J1の不動産取引の税務処理に係る十分な知識及び経験並びに本件平成29年地上権設定契約の締結に至る経緯からみて、J1のJ6税理士への説明、再調査審理庁所属の担当職員への申述及び当審判所への答述の内容は、単なる考え違いや税務に関する知識不足による思い込みによるものとは考えられず、結局、J1は、あえて事実と異なる説明、申述及び答述をし、平成30年3月期の本件権利金への課税を免れようとしたと推認される。
    • (ホ) 小括
       以上の事実からすれば、請求人の代表取締役であるJ1は、請求人の平成30年3月期の法人税の確定申告に先立ち、本件権利金が平成30年3月期の不動産取引に係る収益として申告すべきものであることを熟知しながら、確定的な脱税の意思に基づき、本件権利金に係る収益のあることを税理士に対して秘匿し、当該収益に係る資料も提供することなく、税理士に過少な申告を記載した確定申告書を作成させてこれを提出したと認められ、これは、単なる申告漏れとはいえず、請求人は過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたものと認められる。
       したがって、平成30年3月期において、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」た事実があったと認められる。
  • ホ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の(8)の「請求人」欄のとおり、H13社が決算も税務申告もしないような、ペーパーカンパニーにすぎず、そのような会社との取引より生じた本件権利金に関し、確定的な収益の認識はなかった旨主張している。
     しかしながら、H13社がペーパーカンパニーではなく、本件平成29年地上権設定契約について、通謀虚偽表示があったとはいえないことは上記(7)のニの(ロ)及び(ハ)のとおりである。
     また、H13社は、上記(7)のロの(ロ)のとおり、H11社の完全子会社として設立された会社であり、H13社の代表取締役は、H11社の代表取締役と同人物であるJ4である。J1は、H11社とH13社との関係、H13社の設立目的、J4の意思等を熟知した上で、本件平成29年地上権設定契約を締結していたと認められる。
     そして、実際に、請求人には、上記1の(3)のハの(ヌ)のとおり、本件平成29年地上権設定契約に従って、平成30年9月27日、H14社から本件授受〇〇円が支払われている上、上記1の(3)のハの(ヨ)のとおり、令和元年11月8日付で、H13社を一方の当事者とした本件令和元年解約合意書を取り交わした後、本件平成29年地上権設定契約を解約している。
     このような本件平成29年地上権設定契約に係る一連の経緯やJ1の認識、行動からみれば、請求人の平成30年3月期の法人税の確定申告に際し、J1に、H13社がペーパーカンパニーであり、本件権利金について支払われることがないとの認識があったとも認められない。
     したがって、請求人の主張には理由がない。

(9) 原処分の適法性について

  • イ 本件青色取消処分の適法性について
     本件青色取消処分については、上記(6)のとおり、請求人の帳簿書類につき法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する事実は認められないから、本件青色取消処分は違法であり、取り消すべきである。
  • ロ 本件平成25年法人税決定処分、本件平成29年法人税更正処分及び本件平成30年法人税更正処分の適法性について
    • (イ) 本件平成25年法人税決定処分について
       上記(1)のハのとおり、本件不動産等売買契約に係る収益の額は、請求人の平成25年3月期の益金の額に算入されないこととなり、これに伴い当該収益の額に対応する原価の額は、請求人の平成25年3月期の損金の額に算入されないこととなるから、本件不動産等売買契約に係る収益の額及びこれに伴う当該収益の額に対応する原価の額が請求人の益金の額及び損金の額に算入されるとしてされた本件平成25年法人税決定処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。
    • (ロ) 本件平成29年法人税更正処分について
       上記(4)のハのとおり、本件開発申請業務に係る収益の額は、平成29年3月期の益金の額に算入されないこととなり、これに伴い当該収益の額に対応する原価の額は、平成29年3月期の損金の額に算入されないこととなる。
       これらと上記イによる本件青色取消処分の取消しを前提に平成29年3月期の法人税の所得金額及び納付すべき税額を計算すると、別表1の「平成29年3月期」の「確定申告(青色申告)」欄と同額になるから、本件平成29年法人税更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。
    • (ハ) 本件平成30年法人税更正処分について
       上記(7)のハの(ハ)のとおり、本件権利金の額は、平成30年3月期の益金の額に算入されることとなる。
       これと上記イによる本件青色取消処分の取消しにより、租税特別措置法第67条の5第1項の規定の適用を受けることができること及び法人税法第57条《青色申告書を提出した事業年度の損金の繰越し》第1項の規定の適用を受けることができることを前提に平成30年3月期の法人税の所得金額及び納付すべき税額を計算すると、別表4の「審判所認定額」欄のとおりとなり、本件平成30年法人税更正処分の額を下回るから、本件平成30年法人税更正処分の一部を別紙1の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
       なお、本件平成30年法人税更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
  • ハ 本件平成25年法人税賦課決定処分、本件平成29年法人税賦課決定処分及び平成30年法人税賦課決定処分の適法性について
    • (イ) 本件平成25年法人税賦課決定処分及び本件平成29年法人税賦課決定処分について
       上記ロの(イ)及び(ロ)のとおり、本件平成25年法人税決定処分及び本件平成29年法人税更正処分はいずれもその全部を取り消すべきであるから、本件平成25年法人税賦課決定処分及び本件平成29年法人税賦課決定処分もいずれもその全部を取り消すべきである。
    • (ロ) 本件平成30年法人税賦課決定処分について
       上記ロの(ハ)のとおり、本件平成30年法人税更正処分はその一部を取り消すべきである。そして、本件権利金に係る収益を平成30年3月期の益金の額に算入しなかったことについては、上記(8)のニの(ホ)のとおり、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」た事実が認められ、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、その他の重加算税の賦課要件にも欠けるところはないものと認められる。
       以上のことを前提に、平成30年3月期の法人税に係る重加算税の額を計算すると、別表4の「審判所認定額」欄のとおりとなり、本件平成30年法人税賦課決定処分の額を下回るから、本件平成30年法人税賦課決定処分の一部を別紙1の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
  • ニ 平成25年3月課税事業年度の復興特別法人税の決定処分の適法性について
     上記ロの(イ)のとおり、本件平成25年法人税決定処分はその全部を取り消すべきであるから、平成25年3月課税事業年度の復興特別法人税の決定処分もその全部を取り消すべきである。
  • ホ 平成25年3月課税事業年度の復興特別法人税の重加算税の賦課決定処分の適法性について
     上記ニのとおり、平成25年3月課税事業年度の復興特別法人税の決定処分はその全部を取り消すべきであるから、平成25年3月課税事業年度の復興特別法人税の重加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。
  • ヘ 平成29年3月課税事業年度及び平成30年3月課税事業年度の地方法人税の各更正処分の適法性について
    • (イ) 平成29年3月課税事業年度の地方法人税の更正処分について
       上記ロの(ロ)のとおり、本件平成29年法人税更正処分はその全部を取り消すべきであるから、平成29年3月課税事業年度の地方法人税の更正処分もその全部を取り消すべきである。
    • (ロ) 平成30年3月課税事業年度の地方法人税の更正処分について
       上記ロの(ハ)のとおり、本件平成30年法人税更正処分はその一部を取り消すべきであり、当審判所が認定した請求人の平成30年3月期の法人税額を基に平成30年3月課税事業年度の地方法人税の額を計算すると、別表5の「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成30年3月課税事業年度の地方法人税の更正処分の額を下回るから、平成30年3月課税事業年度の地方法人税の更正処分の一部を別紙2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
  • ト 平成29年3月課税事業年度及び平成30年3月課税事業年度の地方法人税の重加算税の各賦課決定処分の適法性について
    • (イ) 平成29年3月課税事業年度の地方法人税の重加算税の賦課決定処分について
       上記ヘの(イ)のとおり、平成29年3月課税事業年度の地方法人税の更正処分はその全部を取り消すべきであるから、平成29年3月課税事業年度の地方法人税の重加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。
    • (ロ) 平成30年3月課税事業年度の地方法人税の重加算税の賦課決定処分の適法性について
       上記ヘの(ロ)のとおり、平成30年3月課税事業年度の地方法人税の更正処分はその一部を取り消すべきである。そして、本件権利金に係る収益を平成30年3月期の益金の額に算入しなかったことについては、上記(8)のニの(ホ)のとおり、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」た事実が認められ、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、その他の重加算税の賦課要件にも欠けるところはないものと認められる。
       以上のことを前提に、平成30年3月課税事業年度の地方法人税に係る重加算税の額を計算すると、別表5の「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成30年3月課税事業年度の地方法人税の重加算税の賦課決定処分の額を下回るから、平成30年3月課税事業年度の地方法人税の重加算税の賦課決定処分の一部を別紙2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(10) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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