(令和2年12月17日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、取締役に支給した給与の一部を使用人兼務役員に対する使用人としての職務に対するものとして損金の額に算入したことについて、原処分庁が、当該給与は、使用人兼務役員に対する使用人としての職務に対するものに該当しないことから損金の額に算入されないとして、法人税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

関係法令等は、別紙2のとおりである。なお、別紙2で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
 なお、以下では、請求人の法人税の事業年度及び地方法人税の課税事業年度につき、各個別の終了年月をもって表記する(例えば、平成27年8月1日から平成28年7月31日までの期間は、法人税について「平成28年7月期」といい、地方法人税について「平成28年7月課税事業年度」という。)。また、原処分に係る法人税の各事業年度を併せて「本件各事業年度」といい、原処分に係る地方法人税の各課税事業年度を併せて「本件各課税事業年度」という。

  • イ 請求人及び関係会社の概要
    • (イ) 請求人は、昭和38年8月○日に設立された、水産食料品の製造、加工及び販売等を業とする取締役会設置会社である。
       本件各事業年度における請求人の代表取締役は、E(以下「本件代表者」という。)であり、取締役は、同人のほか、本件代表者の弟であるG(以下「本件専務取締役」という。)、H(以下「本件取締役」という。)及び本件代表者の娘婿であるJ(ただし、同人は平成30年2月1日に就任)であり、監査役は、Kであった。
       請求人は、その発行済株式の全てを本件代表者が保有する法人税法第2条第10号の同族会社である。
    • (ロ) L社は、平成18年9月○日に設立された、請求人製造の水産加工品を一般消費者向けに販売する通信販売業や飲食店等を営む株式会社であり、その発行済株式の全てを請求人が保有する請求人の子会社である。
    • (ハ) M社は、平成11年8月○日に設立された、水産食料品の販売を営む特例有限会社であり、その発行済株式の全てを本件代表者が保有する同族会社である。
    • (ニ) L社及びM社の代表取締役は、いずれも本件代表者であり、請求人は、L社及びM社と共にグループ(以下「本件グループ法人」という。)を形成しており、請求人が本件グループ法人の中心となって事業を運営している。
  • ロ 本件取締役の経歴等
    • (イ) 本件取締役は、昭和59年1月に請求人に正社員(使用人)として入社し、平成3年に製造部の工場長(課長職)に、平成5年に営業部の次長職に、平成9年に営業部の部長職にそれぞれ昇格し、平成16年7月28日に取締役に就任し、平成29年2月1日の人事異動により常務取締役とされた。
    • (ロ) 本件取締役は、本件各事業年度において、L社の取締役でもあった。なお、本件取締役は、M社の取締役には就任していない。
  • ハ 本件取締役に対して支給した給与等
     請求人は、本件各事業年度において、本件取締役に対し、毎月払いの給与(以下「月給」という。)と、年に2回、使用人の賞与支給時期と同時期に賞与を支給しており、その支給額は別表1のとおりである。
     なお、賞与については、請求人は、平成23年7月期から令和元年7月期まで、本件取締役に対し、毎期12月に2,700,000円及び6月に3,100,000円の合計5,800,000円の一定額を支給している(以下、別表1の本件各事業年度に支給された賞与の額のうち、12月に支給の2,700,000円及び6月に支給の3,100,000円を併せて「本件賞与」という。)。
  • ニ 審査請求に至る経緯
    • (イ) 請求人は、本件各事業年度の法人税及び本件各課税事業年度の地方法人税につき、別表2及び別表3の各「確定申告」欄のとおり記載した各確定申告書を、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。
       請求人は、上記申告に際し、本件取締役に支給した別表1の給与等について、本件賞与の額を法人税法第34条第1項及び第6項の使用人兼務役員の使用人職務分と、月給を使用人職務分以外の定期同額給与とし、平成27年6月に支給した賞与のうち10,000,000円を事前確定届出給与として、本件取締役に支給した給与等の全額を損金の額に算入した。
    • (ロ) 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員による税務調査において、上記(イ)の各申告において損金の額に算入していた本件賞与及び本件取締役等の人間ドックの費用につき、いずれも損金の額に算入できない旨の指摘を受け、令和元年6月12日、本件各事業年度の法人税及び本件各課税事業年度の地方法人税につき、上記の人間ドックの費用のみを損金の額に算入せずに、別表2及び別表3の各「修正申告」欄のとおり記載した各修正申告書を提出した。
    • (ハ) 原処分庁は、上記(ロ)の修正申告を受けて、令和元年6月26日付で、別表2の「賦課決定処分」欄のとおり、平成27年7月期の法人税の過少申告加算税の賦課決定処分をするとともに、同日付で、本件賞与について、使用人兼務役員に対する使用人職務分とは認められないため本件各事業年度の所得金額の計算において損金の額に算入できないとして、別表2及び別表3の各「更正処分等」欄のとおり、本件各事業年度の法人税の各更正処分(以下「本件法人税各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件法人税各賦課決定処分」という。)、並びに本件各課税事業年度の地方法人税の各更正処分(以下「本件地方法人税各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件地方法人税各賦課決定処分」といい、これら各処分を併せて「本件各処分」という。)をした。
    • (ニ) 請求人は、本件各処分を不服として、令和元年8月27日に再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、令和元年12月10日付で、いずれも棄却の再調査決定をした。
    • (ホ) 請求人は、再調査決定を経た後の本件各処分(原処分)の全部に不服があるとして、令和元年12月23日に審査請求をした。

2 争点

本件賞与は、法人税法第34条第1項括弧書きに規定する使用人兼務役員に対して支給する使用人職務分に該当するか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
次のとおり、本件取締役は、本件各事業年度の全ての期間において、使用人兼務役員に該当せず、本件賞与は使用人職務分に該当しない。 次のとおり、本件取締役は、本件各事業年度の全ての期間において、使用人兼務役員に該当し、かつ、本件賞与は使用人職務分に該当する。
(1) 使用人兼務役員該当性について (1) 使用人兼務役員該当性について
イ 「常時使用人としての職務に従事」(法人税法第34条第6項)について
 本件取締役は、本件各事業年度の全期間において、取締役会に出席し、請求人の営業部だけでなく、製造部、総務部及び開発室並びにL社及びM社に関する事項の稟議についても承認を行っていた。
 このように、本件取締役の職務は、明らかに通常の使用人としての職務を超えており、本件取締役は、請求人の取締役であるだけではなく、本件グループ法人全体の経営に参画していたと認められ、請求人との間の委任契約に基づいてその職務に従事していたのであるから、使用人としての立場でその職務に従事しているものではないと一般的・類型的に評価し得る。
 そして、その場合は、具体的な職務の内容にかかわらず、使用人兼務役員に含まれないと解されるから、本件取締役は、使用人兼務役員に該当しない。
 なお、本件取締役が請求人の営業業務を継続していたのは、本件グループ法人の営業活動の精通者として本件グループ法人全体の営業活動全般を担当する、いわゆる営業担当取締役として当該業務を行っていたにすぎず、このことをもって、「常時使用人としての職務に従事」していたということはできない。
イ 「常時使用人としての職務に従事」について
 本件取締役は、本件各事業年度の全期間において、請求人の営業部長としての職務を与えられていたのであり、これは、専ら、本件代表者が主導して策定した経営計画のうち営業計画を、自ら担当者として、あるいは管理者として、具体的な業務を遂行するものであり、本件代表者の指揮命令系統に属するものである。
 本件取締役が、営業部以外の稟議書の査閲も行うのは、営業計画の達成責任者として、当該計画に沿った予算執行であるかを査閲する必要があるからであって、本件取締役が請求人の経営に従事する立場にあるからではない。
 また、請求人の株主は本件代表者のみであるから、株主総会及び取締役会の開催は形式的なものであり、請求人の実際の機動的・実質的な意思決定機関は、本件代表者及び本件専務取締役が参加する月例会議であるところ、本件取締役は当該月例会議に参加しておらず、このことからしても、本件取締役は請求人の経営に参画していないといえる。
 したがって、本件取締役は、本件各事業年度の全期間において、「常時使用人としての職務に従事」していたものである。
ロ 「使用人としての職制上の地位」(法人税法第34条第6項)について
 本件取締役は、平成27年4月1日以後は、請求人の組織図上、請求人の「営業部長」職を有しておらず、平成28年11月17日以後は、請求人の「営業部長」職もL社の「営業部長」職も有していない。

ロ 「使用人としての職制上の地位」について
 本件取締役は、請求人の取締役就任以前から有していた請求人の「営業部長」の肩書を、取締役就任後も維持しており、少なくとも常務に就任するまで、「部長」の肩書を有していた。
 なお、平成29年2月1日以後については、組織図上、「部長」の表記はないものの、本件取締役は、本件各事業年度の末日まで継続して、「部長」の職責を引き続き担っていたのであり、本件各事業年度の全期間において、「使用人としての職制上の地位」を有していたものである。
ハ 「常務その他これらに準ずる職制上の地位」(法人税法施行令第71条第1項第2号)について
 「常務」としての職制上の地位を有する役員は使用人兼務役員に該当しないところ、本件取締役は、平成29年2月1日、請求人の常務取締役に就任した。
 なお、仮に請求人が本件取締役の常務取締役就任につき株主総会の決議等を省略していたとしても、請求人は、その唯一の株主である本件代表者からの承認を得て、平成29年2月1日付の人事異動をもって、本件取締役を常務取締役として社内外に了知させており、また、本件取締役が現に従事する職務の内容も、上記イのとおり、業務執行取締役としてのものである。
 そうすると、本件取締役は、平成29年2月1日以後は、いずれにしても、上記「常務」としての職制上の地位を有する役員に該当する。
ハ 「常務その他これらに準ずる職制上の地位」について
 請求人は、本件取締役の常務取締役就任につき、株主総会、取締役会その他の法令又は定款に定める機関による意思決定を行っていないから、本件取締役は、平成29年2月1日以後も、法人税基本通達9−2−4の「定款等の規定又は総会若しくは取締役会の決議等により常務取締役としての職制上の地位が付与された」ものではなく、したがって、「常務その他これらに準ずる職制上の地位」を有する役員には該当しない。
 また、本件取締役は、他の取締役のような本件代表者の親族ではなく、請求人の株主でもない以上、「常務取締役」という肩書が付されていたとしても、重要な意思決定をする立場にはなり得ないことから、実質的にも、職制上の地位を有しない取締役であって、「常務その他これらに準ずる職制上の地位」を有する役員に該当するものではない。
 なお、仮に本件取締役が平成29年2月1日以後は「常務その他これらに準ずる職制上の地位」を有する役員に該当するとしても、上記イ及びロのとおり、同年1月31日までは使用人兼務役員に該当するから、本件賞与のうち同日以前までの期間に対応する部分として支給された金額(法人税基本通達9−2−27参照)については、使用人職務分に該当する。
(2) 本件賞与の使用人職務分該当性について (2) 本件賞与の使用人職務分該当性について
  • イ 上記(1)のとおり、本件取締役が使用人兼務役員に該当しない以上、本件賞与は使用人職務分に該当しない。
  • ロ 請求人は、本件取締役に対しては、平成23年7月期以後、本件賞与も含め、毎年同額の賞与を支給しており、他の使用人とは異なり、給与規程に定められた使用人としての勤務成績の査定を行っていない。
     また、請求人が、本件取締役に対して支給した月給は全て役員に対する定期同額給与に該当するのであるから、請求人は、本件取締役に対して使用人分の月給は支給しておらず、このような月給を支給していない者について勤務成績の査定に基づいて使用人分の賞与を支給することはできない。
     したがって、本件賞与は、使用人分として支給した賞与ではなく、使用人職務分に該当しない。
  請求人が、本件取締役に支給した月給及び本件賞与は、そもそも、その全額が使用人としての職務に対応するものであり、飽くまでも使用人の年棒としての支給額を「月給」と「本件賞与」に分割して支給したにすぎず、したがって、本件賞与は、使用人職務分に該当する。

4 当審判所の判断

(1) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 請求人における使用人の職制上の地位について
     請求人には、本件各事業年度において、代表取締役等の取締役を頂点に、営業部、製造部、総務部及びテナント部門等からなる機構が存在しており、各部においては、管理職として部長及び課長又は専任課長、一般職として係長といった使用人としての職制上の地位が定められていた。なお、上記1の(3)のロの(イ)のとおり、本件取締役は、取締役に就任する前に部長に昇格したが、少なくとも本件各事業年度においては、本件取締役及び本件専務取締役以外に請求人の内部組織において部長の肩書を有している者はいなかった。
  • ロ 取締役に関する請求人の定款の定め
     請求人の定款には、取締役会の決議により、代表取締役1名のほか、必要に応じて専務取締役及び常務取締役各若干名を選定することができ、代表取締役社長は会社の業務を統轄し、専務取締役及び常務取締役は代表取締役社長を補佐し、定められた事務を分掌処理し、日常業務の執行に当たる旨定められている。
  • ハ 本件グループ法人の組織図の作成
     本件グループ法人は、グループ内部の役職の整理を行うため、一定の時期ごとに、本件グループ法人の取締役、各部署の管理職及び一般職の人員を記載した「D社グループ図」と題する組織図(以下「本件組織図」という。)を作成し、役職の変更があった際には随時記載内容を更新して、社内に公表していた。
  • ニ 本件取締役の職務内容及び取締役就任の経緯等
     本件取締役は、昭和59年1月に請求人に入社後、主として営業の業務に従事しており、平成9年に請求人の営業部の部長職に昇格した後も、請求人の主な取引先である百貨店やスーパー等の小売業者等に係る一連の営業活動(企画商品提案、製造部門との原価や納期等の調整、得意先管理、納品立会、債権管理、店舗人員管理、苦情処理、営業予算及び営業計画の起案とその達成状況の監督等)や部下社員の管理等の業務に従事していたところ、平成16年7月28日、請求人の取締役の人数を確保する必要があったことから、取締役に就任することになった。もっとも、本件取締役の取締役就任前後でその職務内容に特に変化はなく、取締役就任後も、本件取締役は、引き続き請求人の営業部の部長職として、本件代表者が承認した営業予算のもと、上記のとおり、部下を管理して売上目標の達成に尽力するとともに、自ら営業活動に従事し、営業部の営業日に沿って、常勤で勤務していた。また、本件取締役は、下記チのとおり、稟議書への決裁も行っていたものの、本件法人グループ全体の決算報告は受けていなかった。
  • ホ 平成27年4月1日の機構改革前後の本件取締役の職務の状況等
     本件取締役は、平成18年9月○日のL社の設立時から、L社の部長職にも就任しており、平成27年3月31日まで、請求人の営業部長職とL社の部長職とを兼任していた。
     そして、本件グループ法人が平成27年4月1日に機構改革(以下「本件機構改革」という。)を行ってグループ内の職務分掌を変更したのに伴い、同日以後は、本件専務取締役が請求人の営業統括を担い、本件取締役はL社の営業統括を担うこととなり、L社の部長職のみを務めることになった。
     なお、本件機構改革までの本件組織図では、本件取締役の氏名が請求人の営業部の「部長(兼任)」として記載されていた。これに対し、本件機構改革がされた平成27年4月1日以後の本件組織図では、請求人の各部の最高責任者の肩書が「部長」から「統括」に変更された上で、本件専務取締役の氏名が請求人の営業部の「統括(兼任)」として記載されており(もっとも、平成29年8月1日以後のものでは、書式が改訂されており、請求人の一部の部においていずれも最高責任者とされていた本件専務取締役の肩書として、「部長」と「統括」のいずれが使われていたかは明確でない。)、また、本件取締役の氏名は、請求人の「部長」としても、請求人の各部所属の担当者としても、記載されていない。
  • ヘ 本件機構改革後の本件取締役の職務内容
     本件取締役は、本件各事業年度において、本件機構改革までの間、上記ニのとおりの営業活動に従事していたところ、本件機構改革後も、請求人の営業部長としての職務の引継ぎに必要であるとして、しばらくの間は、L社の営業活動と並行して、請求人の取引先を担当したり、請求人の営業担当者からの請求人の営業に関する質問に答えたりして、請求人の営業活動への関与を継続していた。
  • ト 本件取締役の常務取締役就任の状況
     本件代表者は、平成29年1月頃、自身の娘婿であるJをL社の営業部長職に登用することとし、それに伴い、本件取締役の請求人への長年の貢献に見合う肩書の付与をすることを考え、本件専務取締役に相談した上で、本件取締役を請求人の常務取締役とすることを決定した。
     請求人は、上記の本件代表者の決定を受け、平成29年2月1日付で、本件取締役について、「新役職(部署)『D常務取締役』、旧役職(部署)『D取締役部長』」との記載がある「人事異動(昇進)」という文書(以下「人事異動通知書」という。)を作成し、本件グループ法人の社内の各部署に掲示して社員に周知したほか、本件組織図の本件取締役の肩書を「取締役」から「常務取締役」に変更した。
     また、請求人は、社外向けに、本件取締役につき、常務取締役の肩書を付した名刺を作成し、使用させた。
  • チ 本件取締役の稟議への関与状況等
     本件グループ法人では、備品等の購入、修繕や保守管理等、求人、従業員の資格試験や研修の受講などの職務上必要な費用の支出等の承認を求める際には、稟議書を作成し、決裁を得ることになっており、稟議書には、基本的に、「社長承認印」欄、「専務承認印」欄、「部長承認印」欄(又は「H部長承認印」欄。平成29年2月頃からは「常務承認印」欄。)及び担当部の課長の承認の欄が設けられていた。本件取締役は、当該稟議書のうち、備品等の購入、修繕や保守管理関係の稟議書には基本的に決裁印を押印していたが、人事関係の稟議書には、少なくとも常務取締役就任前までは、決裁印を押印していないことが多かった。
  • リ 本件取締役やその他の取締役に対する報酬に係る決議及び支給状況等
    • (イ) 株主総会決議
       請求人は、平成25年9月26日、平成26年9月26日及び平成28年9月29日に開催された定時株主総会において、取締役の報酬を改定するとしてその報酬総額を決定し、取締役の報酬総額には使用人兼務役員の使用人分給与は含まないものとする旨、各取締役の具体的な報酬金額は取締役会に一任する旨を決定した。
       なお、平成27年9月28日及び平成29年9月28日に開催された定時株主総会においては、役員報酬は議題に挙げられなかった。
    • (ロ) 上記(イ)の株主総会と同日開催の取締役会決議
       請求人は、平成26年7月期及び本件各事業年度において、株主総会と同日に取締役会を開催しており、いずれの取締役会にも、本件代表者、本件専務取締役及び本件取締役が出席していた。
       請求人は、平成25年9月26日、平成26年9月26日及び平成28年9月29日に開催された取締役会において、請求人の各取締役に対する役員報酬の月額(平成25年10月以後につき、本件代表者に対して2,500,000円、本件専務取締役に対して1,340,000円、本件取締役に対して635,000円、平成26年11月以後につき、本件代表者に対して2,500,000円、本件専務取締役に対して1,400,000円、本件取締役に対して700,000円、平成28年10月以後につき、本件取締役に対して702,700円)及び役員賞与の支給(平成25年12月に本件代表者に対して7,500,000円、平成26年12月に本件専務取締役に対して1,000,000円、平成27年6月に本件専務取締役に対して11,000,000円、平成28年12月及び平成29年6月に本件専務取締役に対して各1,000,000円)を決議した。なお、平成27年9月28日及び平成29年9月28日に開催された取締役会においては、役員報酬は議題に挙げられなかった。
       請求人は、本件取締役に関して、平成26年7月期及び本件各事業年度の取締役会において、役員賞与を支給する旨の決議をせず、また、使用人分としての給与及び賞与を支給する旨の決議もしなかった。
    • (ハ) 報酬の支給状況
       請求人は、本件各事業年度において、本件取締役に対し、上記(ロ)の取締役会の決議等に基づき、別表1の各金額を支払った。なお、請求人は、上記(ロ)の取締役会の決議に基づく支払以外に、賞与として、本件代表者に対し、平成27年12月に10,000,000円、平成29年12月に15,000,000円を、本件専務取締役に対し平成27年12月、平成28年6月、平成29年12月及び平成30年6月に各1,000,000円を、平成30年2月1日に取締役に就任したJに対し、同年6月に1,400,000円を、それぞれ支払った。
  • ヌ 請求人の給与規程の定め等
     請求人は、使用人の給与に関する基準及び手続を給与規程に定めており(給与規程で従業員とあるのは使用人を指す。)、当該給与規程には次の旨の定めがあった。
    • (イ) 使用人の給与とは、賃金・賞与及び退職金をいい、賃金は、基本給及び手当とし、基本給を構成する本給は、経験及び勤務成績に基づいて月額で定める。
    • (ロ) 賞与は、6月及び12月に支給することがあるが、会社業績及び社員の勤務成績によっては支給しない場合がある。賞与支給に当たっての使用人の勤務成績を算定する期間は、6月支給分を11月16日から5月15日までとし、12月支給分を5月16日から11月15日までとする。賞与は、当該賞与算定期間期末現在において勤続12か月以上で支給日現在に在籍する使用人に対し支給する。
  • ル 本件取締役に対する給与の決定方法
     請求人は、上記ヌの給与規程に基づいて使用人に賞与を支給するに当たっては、その勤務成績の査定を行っていたが、本件取締役に対して本件賞与を支給するに当たっては、他の使用人と同様の勤務成績の査定は行っておらず、本件代表者が決定していた。もっとも、本件代表者は、本件取締役に対する給与につき、年額で決めた上で、他の使用人への賃金と賞与の割合を参考に、本件取締役に対する月給の額と賞与の額を割り振って決めていたところ、本件各事業年度においては、本件取締役に対する給与は上限にあると考えており、本件賞与の額(年間5,800,000円)を増減することは考えていなかった。なお、本件取締役に対して平成27年6月に支給された10,000,000円は、L社の5年間の事業計画が達成されたことにより、役員賞与として支給することとされたものであった。

(2) 検討

  • イ 本件取締役の使用人兼務役員該当性
     法人税法第2条第15号は、法人の取締役等を役員と定め、同法第34条第1項は、内国法人がその役員に対して支給する給与(使用人兼務役員に対して支給する使用人職務分を除く。)のうち、一定の要件に該当しないものの額はその内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入しない旨規定している。
     そして、法人税法第34条第6項は、上記の使用人兼務役員の範囲を、社長、理事長その他政令で定めるものを除く役員のうち、「部長、課長その他使用人としての職制上の地位を有し」、かつ、「常時使用人としての職務に従事するもの」と規定しており、法人税法施行令第71条第1項第2号は、上記の使用人兼務役員から除く役員として、「副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員」を掲げているところ、法人の役員が使用人兼務役員に該当するというためには、これらの全ての要件を満たす必要がある。
     そこで、本件各事業年度において、本件取締役が上記の各要件を満たしているかにつき、以下、検討する。
    • (イ) 「使用人としての職制上の地位」について
      • A 上記(1)のイのとおり、請求人では、本件各事業年度において、機構上、使用人としての職制上の地位として「部長」職が明確に定められていたところ、同ホのとおり、本件取締役は、平成27年3月31日までは、請求人の営業部の部長職の地位を有しており、他方、同年4月1日の本件機構改革以後は、請求人の営業部長の役職に就いておらず、請求人の使用人としての他の職制上の地位も有していなかったと認められる。
         そうすると、本件取締役は、本件各事業年度において、平成27年3月31日までの間は、請求人の使用人としての職制上の地位を有していたが、同年4月1日以後は、これを有していなかったものである。
      • B この点に関し、平成27年4月1日以後についても、請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のロのとおり、本件取締役は、請求人の「部長」の肩書を、少なくとも常務取締役に就任するまで有していたと主張する。
         しかしながら、平成27年4月1日以後は、本件取締役は、請求人における営業部長の地位を有しておらず、使用人としての他の職制上の地位も有していなかったことは上記Aのとおりであり、当該認定を左右するに足りる証拠はない(上記(1)のトのとおり、平成29年2月1日付の人事異動通知書には、本件取締役の異動前の肩書として「D取締役部長」の表記がみられるが、本件組織図の記載に照らすと、上記人事異動通知書の記載は上記認定を左右するに足りるものではない。)。また、この点に関し、平成27年4月1日以後も、上記(1)のホ及びへのとおり、本件取締役は、L社の「部長」職の肩書を有しており、また、後任者への職務の引継ぎのために、請求人の営業部での営業活動への関与を継続していたことが認められるが、L社の「部長」職の肩書や請求人の営業活動の継続をもって、請求人において使用人としての職制上の地位があるということはできず、いずれも上記Aの認定・判断に影響はない。
         したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
    • (ロ) 「常時使用人としての職務に従事」について
      • A 上記(1)のニ及びへのとおり、本件取締役は、請求人の他の取締役と異なり、もともと使用人として、請求人の主な取引先に係る一連の営業活動に従事していたものであり、このような職務内容は、取締役就任後も大きく変わることはなく、本件各事業年度においても、少なくとも平成27年3月31日までの間は、同様の職務に従事し、かつ、常勤で勤務していたことが認められる。
         そうすると、本件取締役は、本件各事業年度において、少なくとも上記(イ)の請求人の使用人としての職制上の地位を有していた平成27年3月31日までの間は、常時使用人としての職務に従事していたと認められる。
      • B この点に関し、原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)のイのとおり、本件取締役は、請求人の営業部だけではなく本件グループ法人全体の稟議の承認を行っており、本件グループ法人の経営に参画していたと認められ、使用人としての立場でその職務に従事しているものではないと一般的・類型的に評価され得るのであって、請求人の営業業務を継続していたのもいわゆる営業担当取締役としてこれを行っていたにすぎない旨主張する。
         確かに、上記(1)のチのとおり、本件取締役は、本件各事業年度において、本件グループ法人の稟議の承認の一部に関わっていたと認められるが、当該稟議の内容は、各部署で必要な費用等支出の承認にとどまり、これが請求人を含む本件グループ法人全体の経営に係るものといえるかは疑問であるし、他部署の支出の承認の全てに関わっていたわけでもない。また、上記(1)のホ及びへのとおり、本件取締役は、平成27年3月31日までは請求人の営業部長であったのであり、営業部長という営業部を統括する管理職の立場で他部署の費用の支出にも関与したとしても、使用人としての職務の域を超えるものとまではいえない。他方で、本件取締役は、少なくとも平成27年3月31日までの間は、単なる平取締役であって、社長や理事長等のようにその従事する職務が使用人としての立場で従事するものではないと一般的・類型的に評価され得る地位にあったとはいえず、実際にも、上記(1)のニのとおり、本件法人グループの決算報告も受け得る立場にもなく、さらには、同リの(ロ)及び(ハ)のとおり、本件取締役の報酬月額も年間支給額も本件代表者や本件専務取締役よりも相当少なかったことからすると、上記の稟議書の承認に関与している事実をもって、本件取締役が上記Aの職務を使用人の立場で従事したものではないとはいえず、その他、本件全証拠によっても、上記Aの認定を左右するに足りる事情は認められない。
         したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
    • (ハ) 「常務その他これらに準ずる職制上の地位」について
      • A 請求人は、平成29年2月1日以後も、上記3の「請求人」欄の(1)のハのとおり、本件取締役を常務取締役とする際に法令又は定款に定める機関による意思決定を経ていないから、法人税基本通達9−2−4の要件を満たさないし、また、本件取締役は、本件代表者の親族ではなく、請求人の株式も保有していないことから、請求人の重要な意思決定をする立場にはなり得ず、実質的にも職制上の地位を有しない取締役である旨主張する。
         しかしながら、そもそも、平成27年4月1日以後は、上記(イ)のとおり、本件取締役は請求人の使用人としての職制上の地位を有していないから、これ以後の期間は、その「常務」該当性を検討するまでもなく、請求人の使用人兼務役員に該当しない。
      • B なお、請求人の主張に鑑み、本件取締役の「常務」該当性につき、念のために検討すると、以下のとおりである。
         法人税法施行令第71条第1項第2号が定める「副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員」について、法人税基本通達9−2−4は、定款等の規定又は総会若しくは取締役会の決議等によりその職制上の地位が付与された役員をいう旨定めているところ、当該通達の取扱いは、当該役員を法人の内部で主要な地位にある者のうち比較的固定的に定められている会社の内部組織の職制上の地位を占める者に限るという法人税法施行令第71条第1項第2号の趣旨に沿って、法人の内部組織上明確にその地位が付与されている役員をいうことを明らかにするものとして、当審判所においても相当と認められる。
         そして、確かに、請求人は、上記(1)のロのとおり、定款において、取締役会の決議により常務取締役を選定することができる旨を定めているところ、本件全証拠によっても、平成29年2月1日付の本件取締役の常務取締役就任に関して、取締役会で決議が行われた事実は認められない。
         しかしながら、上記(1)のトのとおり、本件代表者は、平成29年1月頃、当時の取締役3名(本件代表者、本件専務取締役及び本件取締役)の過半数の意思に沿うように、本件専務取締役と相談の上で本件取締役の常務取締役就任を決定していることに加え、上記1の(3)のイの(イ)のとおり、本件代表者が請求人の全ての株式を保有することからすれば、本件代表者及び本件専務取締役による意思決定は、法人税基本通達9−2−4にいう「定款等の規定又は総会若しくは取締役会の決議等」に当たるものといえる。
         そして、上記(1)のトのとおり、請求人は、本件取締役の常務取締役就任について、本件グループ法人の社内で周知したほか、社外に向けても、常務取締役の肩書を付した名刺を本件取締役に使用させたことからすると、請求人の内部組織上、本件取締役には常務取締役としての地位が付与されたものと評価できる。
         そうすると、本件取締役は、平成29年2月1日以後は、法人税法施行令第71条第1項第2号の「常務その他これらに準ずる職制上の地位」を有する役員に該当し、かかる判断は、本件取締役が、本件代表者の親族ではなく、請求人の株式も保有していないことによって、左右されるものではないから、本件取締役は、使用人兼務役員となり得る役員から除外される。
         したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
    • (ニ) 小括
       以上によれば、本件取締役は、本件各事業年度において、請求人の取締役であり、法人税法第2条第15号に規定する役員に該当し、かつ、本件各事業年度のうち平成27年3月31日までの間については、使用人兼務役員に該当するが、同年4月1日以後については、請求人の使用人としての職制上の地位を有さないことから、使用人兼務役員には該当しない。
  • ロ 本件賞与の使用人職務分該当性について
    • (イ) 本件取締役は、上記イのとおり、本件各事業年度のうち平成27年3月31日までの間は、使用人兼務役員に該当するのであって、上記1の(3)のロの(イ)のとおり、昭和59年1月に請求人に雇用された後、平成16年7月28日の取締役就任時を含め、平成27年3月31日までの間に、請求人と本件取締役との間の雇用契約が解消されたことをうかがわせる証拠もない。そして、本件取締役の実際の職務内容及びその従事状況をみても、上記イの(ロ)で検討したところからすると、取締役就任前後でその内容が大きく変わることはなく、本件各事業年度のうち少なくとも同日までの間は、本件取締役は、請求人の使用人としての職務に日常的に従事していたと認められるのであるから、雇用契約に基づきその職務に対する対価を受け得る立場にあったといえ(民法第623条参照)、しかも、その職務のほとんどは、使用人としての職務であったと認められる。
       また、役員報酬の支給について、上記(1)のリの(イ)からすると、請求人では、株主総会において、使用人兼務役員に対して使用人職務分が支給されることが予定されており、同(ロ)のとおり、本件各事業年度に関し、取締役会において、本件取締役以外の取締役に対しては、役員報酬月額の決定のほか、役員賞与を支給する旨の決議を行っているにもかかわらず、本件取締役に対しては、役員報酬月額のみを決定し、役員賞与を支給する旨の決議は行われていないことからすると、請求人としては、本件賞与については、使用人職務分として支払う趣旨であったと考えられる。
       なお、本件賞与の支給時期についてみると、上記(1)のヌの(ロ)の給与規程に定められた使用人に対する賞与の支給時期と同時期であるところ、本件取締役以外の取締役に支給された役員賞与の支給時期も同時期であり、賞与の支給時期だけで使用人職務分として支給されたと判断することはできないものの、少なくとも、使用人職務分としての支払であることと矛盾するものではない。
       そして、本件賞与の支給額の決定方法についてみても、上記(1)のルのとおり、給与規程に基づいた他の使用人と同様の勤務成績の査定はされておらず、その支給額の算出過程は、必ずしも給与規程に沿ったものではないものの、本件代表者が、請求人の部長の肩書を唯一有していた本件取締役の給与として上限額と考える一定額を支給することとしたという本件取締役の地位の特殊性に鑑みると、本件賞与の支給額の決定方法をもって、本件賞与が使用人職務分に該当しないということはできない。
       以上に加え、本件賞与のうち、本件取締役が使用人兼務役員に該当した平成27年3月31日までの間に支給された賞与(平成26年12月支給分)につき、その他、使用人としての職務の対価であったことを否定するに足りる証拠はないから、その全額につき、使用人職務分ではないと認めることはできない。
    • (ロ) この点に関し、原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(2)のとおり、請求人は、本件取締役について給与規程に定められた勤務成績の査定をしておらず、また、本件取締役に対する月給は全て役員に対する定期同額給与に該当するため、本件取締役に対し、査定に基づいて賞与を支給することはできないから、本件賞与は使用人職務分ではない旨主張する。
       しかしながら、本件賞与が必ずしも給与規程に沿うものではなく、また、本件取締役に対する月給が形式的に役員報酬として支払われていたとしても、上記イの(ロ)で論じたような本件取締役の本件機構改革前の職務の実情や上記(1)のルのとおりの本件取締役の給与の額の実際の決定方法に鑑みると、これらのことをもって、使用人職務分該当性を否定するには足りないというべきである。
       したがって、この点に関する原処分庁の主張は採用することができない。
  • ハ まとめ
     以上のとおり、本件取締役は、本件各事業年度において、平成27年3月31日までの間については請求人の使用人兼務役員に該当するが、同年4月1日以後については使用人兼務役員に該当しない。
     そして、本件賞与のうち、請求人が平成26年12月に支給した2,700,000円は、本件取締役が使用人兼務役員に該当する平成27年3月31日までの間に支給されたものであるから、使用人兼務役員に対する使用人職務分として、請求人の所得金額の計算上、損金の額に算入され、他方、同年4月1日以後に支給された額については、使用人兼務役員に対する使用人職務分には該当しないから、損金の額に算入することはできない。
     なお、本件賞与のうち、本件取締役が使用人としての職制上の地位を失って使用人兼務役員に該当しなくなった直後である平成27年6月に支給された3,100,000円については、上記(1)のヌ及びルからすると、本件賞与は、給与規程の賞与に関する定めに基づいて支給されておらず、使用人としての賞与算定期間の勤務に対して支給された賞与ということはできないから、法人税基本通達9−2−27にいう「使用人兼務役員であった期間に係る賞与の額として相当であると認められる部分の金額」を認めることはできず、したがって、上記の3,100,000円は、その一部についても、同通達を適用して、使用人兼務役員に対する使用人職務分として損金の額に算入することはできず、この判断に反する請求人の主張は採用することができない。

(3) 請求人のその他の主張について

その他、請求人は、本件取締役に対する使用人職務分としての賞与は、平成17年7月期から支給していずれも損金の額に算入する処理をしたにもかかわらず、平成21年7月期から平成23年7月期までの各事業年度及び平成24年7月期から平成26年7月期までの各事業年度を対象とした過去2回の税務調査において損金の額にすべきでないとの指摘がなかったことや、原処分庁所属の調査担当職員が平成31年3月5日に本件代表者に対して行った質問調査は、時期的に顧問税理士が立会いできないことを奇貨として原処分庁に一方的に有利な申述を得ることを目的に実施したものと評価せざるを得ない旨を主張する。
 しかしながら、請求人の主張する過去の税務調査の対象となった各事業年度は本件各事業年度とは時期が異なる上、本件機構改革の実施等、前提となる事実関係も大きく異なるものである。また、当審判所は、上記の質問調査とは別に、本件代表者への質問調査を請求人の代理人も立会いの下行った上で、上記(2)のとおり判断したことからしても、請求人の上記の主張はいずれも上記(2)の判断に影響するものではない。

(4) 原処分の適法性について

  • イ 本件法人税各更正処分について
     上記(2)のとおり、本件賞与のうち、平成26年12月に支給された2,700,000円は、請求人の所得金額の計算上、使用人兼務役員に対する使用人職務分として損金の額に算入されるが、その他の支給額については、損金の額に算入することはできない。
     これを前提に、請求人の本件各事業年度の法人税の所得金額及び納付すべき税額を計算すると、別表4の「審判所認定額」欄の各金額のとおりとなり、平成28年7月期から平成30年7月期までの法人税については、いずれも各更正処分の額と同額又はこれを上回る額となる一方、平成27年7月期については、更正処分の金額を下回る。
     そして、本件法人税各更正処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件法人税各更正処分のうち、平成28年7月期から平成30年7月期までの法人税の各更正処分はいずれも適法であるが、平成27年7月期の法人税の更正処分については、その一部を別紙1「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
  • ロ 本件法人税各賦課決定処分について
     上記イのとおり、平成27年7月期の法人税の更正処分はその一部を取り消すべきであるから、これに係る過少申告加算税の賦課決定処分の基礎となる税額は〇〇〇〇円となる。また、本件法人税各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法(以下、後記の改正の前後を通じて「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項第1号(なお、平成29年1月1日より前に法定申告期限が到来する国税については、平成28年法律第15号による改正前の通則法第65条第4項。以下同じ。)に規定する正当な理由があるとは認められない。
     これを前提に、本件各事業年度の法人税に係る各過少申告加算税の額を計算すると、別表4の「審判所認定額」欄の各金額のとおりとなり、平成28年7月期から平成30年7月期までの法人税に係る各過少申告加算税の額については、いずれも各賦課決定処分の額と同額となる一方、平成27年7月期の法人税に係る過少申告加算税の額については、賦課決定処分の額を下回る。
     したがって、本件法人税各賦課決定処分のうち、平成28年7月期から平成30年7月期までの法人税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法であるが、平成27年7月期の法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分については、その一部を別紙1「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
  • ハ 本件地方法人税各更正処分について
     上記イのとおり、平成28年7月期から平成30年7月期までの法人税の各更正処分は適法であるから、これを前提として、請求人の本件各課税事業年度の課税標準法人税額及び納付すべき税額を計算すると、いずれも別表3の「更正処分等」欄の各金額と同額となる。
     また、本件地方法人税各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件地方法人税各更正処分はいずれも適法である。
  • ニ 本件地方法人税各賦課決定処分について
     上記ハのとおり、本件地方法人税各更正処分は適法であり、本件地方法人税各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた本件地方法人税各賦課決定処分はいずれも適法である。

(5) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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