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(平4.12.22、裁決事例集No.44 348頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、不動産業を営む非同族会社であるが、昭和61年8月1日から昭和62年7月31日までの事業年度、昭和62年8月1日から昭和63年7月31日までの事業年度及び昭和63年8月1日から平成元年7月31日までの事業年度(以下これらの事業年度をそれぞれ「昭和62年7月期」、「昭和63年7月期」及び「平成元年7月期」といい、これらを併せて「各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載した上、それぞれ法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 次いで、請求人は、平成元年10月2日に昭和62年7月期及び昭和63年7月期の法人税について別表1の「第1次修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を原処分庁に提出し、更に、平成2年6月6日に各事業年度の法人税について同表の「第2次修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成2年6月30日付で別表1の「原処分」欄記載のとおり法人税の更正並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定をした。
 請求人は、上記各処分を不服として平成2年8月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成2年11月30日に別表1の「異議決定」欄記載のとおり、更正及び過少申告加算税の賦課決定の一部並びに重加算税の賦課決定の全部を取り消す異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分になお不服があるとして、平成2年12月31日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、いずれもその全部の取消を求める。
イ 更正について
(イ) 本件各仲介手数料の額
 請求人は、各事業年度において株式会社A(以下「A社」という。)から別表2の「1」欄掲記の各土地(以下「本件各土地」という。)の売買に関与して同表の「4」欄掲記の仲介手数料(以下「本件各仲介手数料」という。)を受領した。
 原処分庁は、本件各仲介手数料の額が租税特別措置法関係通達(平成3年課法2ー4による改正前のものをいい、以下「措置法通達」という。)63(1)ー14《山林原野の仲介行為》で規定するところの宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)第46条《報酬》第1項に規定する報酬の上限の額(以下「宅建業法の報酬の上限の額」という。)を超えているので、請求人が本件各仲介手数料を受領した行為は、別表2の(注)3記載の租税特別措置法(以下「措置法」という。)第63条《土地の譲渡等がある場合の特別税率》第1項又は同法第63条の2《超短期所有土地等に係る土地の譲渡等がある場合の特別税率》第1項(以下これらの規定を併せて「土地譲渡益重課税」という。)に規定する行為に該当するとし、本件各仲介手数料について土地の譲渡等に係る譲渡利益金額(以下「課税土地譲渡利益金額」という。)に対する税額を加算する更正を行った。
 しかしながら、本件各仲介手数料については、本件各土地の現況が山林であり取引価額が低いため宅建業法の報酬の上限の額が極めて少額となるのに引き替え、A社の取引相手方が遠隔地に所在することから宣伝、案内、説明など通常の宅地の取引より多額の費用を要するため宅建業法の報酬の上限の額では採算がとれないという特殊な状況にあるので、土地譲渡益重課税の対象とすべきでない。
 仮に、本件各仲介手数料が土地譲渡益重課税の対象となるとしても、上記で述べた特殊な状況を勘案し、宅建業法の報酬の上限の2倍の金額である別表2の「6」欄掲記の金額を超えたものだけを土地譲渡益重課税の対象とすべきである。
(ロ) 土地の譲渡等による収益の額
 各事業年度の土地の譲渡等による収益の額の算定においては、請求人が支払った別表3掲記の造成工事費及び支払手数料の金額を控除すべきであり、この方法によれば、別表2の「9」欄掲記のとおり、昭和62年7月期380,300円、昭和63年7月期509,840円、平成元年7月期3,441,320円となる。
(ハ) 課税土地譲渡利益金額
 各事業年度の課税土地譲渡利益金額の算定においては、請求人は本件各土地の仲介に関して昭和62年7月期2,005,480円、昭和63年7月期1,460,530円、平成元年7月期865,400円の旅費を負担しているので、これを控除すべきである。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 上記イのとおり更正はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い、過少申告加算税の賦課決定もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分庁は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 更正について
(イ) 本件各仲介手数料の額
 租税特別措置法施行令(平成3年政令第88号による改正前のものをいい、以下「措置法施行令」という。)第38条の4《土地の譲渡等がある場合の特別税率》第2項の規定によれば、売買の代理又は媒介に関して宅建業法の報酬の上限の額を超えた報酬を受領する行為は土地譲渡益重課税の対象となる土地等の譲渡に準ずる行為とされており、請求人がA社から本件各仲介手数料の額を受領した行為はこれに該当し、本件各仲介手数料の額は土地譲渡益重課税の対象となる。
 なお、山林原野等宅地以外の土地等の売買についても、宅建業法の報酬の上限の額を超えた報酬を受領した場合には、土地譲渡益重課税の対象となると解されている。
(ロ) 土地の譲渡等による収益の額
 請求人は、本件各土地に係る造成工事費及び支払い手数料の金額を本件各仲介手数料の額から控除して土地の譲渡等による収益の額を算定すべき旨主張するが、それらの支払事実を証する資料を原処分調査及び異議審理調査の際に原処分庁に提示しないので、その主張を採用しなかったものである。
 そこで、土地の譲渡等による収益の額は、措置法施行令第38条の4第4項及び同条第5項の規定に基づき、別表4の「1」欄掲記のとおり算定した。
(ハ) 課税土地譲渡利益金額
 請求人は、本件各仲介手数料に係る課税土地譲渡利益金額の算定において請求人が負担した旅費を控除すべきである旨主張するが、その支払事実を証する資料を原処分調査及び異議審理調査の際に原処分庁に提示しないので、その主張を採用しなかったものである。
 そこで、課税土地譲渡利益金額は、措置法施行令第38条の4第6項の規定に基づき、別表4の「8」欄掲記のとおり算定した。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 上記イのとおり更正は適法であり、かつ、確定申告額が過少であったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があったとは認められないことから、過少申告加算税を賦課決定したものである。

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3 判断

(1) 更正について

イ 本件各仲介手数料の額
 本件各仲介手数料の額が土地譲渡益重課税の対象に該当するか否かに争いがあるので、以下審理する。
(イ) 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
A A社は、各事業年度において、別表2の「1」欄掲記の本件各土地を同表の「2」ないし「3」欄掲記のとおり売買したこと。
B 請求人は、上記Aの売買取引にA社の代理業者または媒介業者として関与し、同社から別表2の「4」欄掲記の本件各仲介手数料を受領したこと。
(ロ) 当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人の代表取締役B男(以下「B男」という。)は、当審判所に対し、請求人とA社の関係について次のとおり答述していること。
(A) 本件各土地の売買は、本来は不動産業を営んでいる請求人が行う予定でいたところ、請求人の資金繰りの事情でA社が行った。
(B) 本件各土地の代理仲介に関する報酬料金等について、請求人とA社との間に、契約書等を取り交わしたことはない。
(C) 本件各土地の造成に関し、請求人とA社との間に、契約書等を取り交わしたことはない。
B 本件各土地は、それぞれ登記簿上の地目を原野とする別荘用地として分譲された土地であること。
C 請求人は、各事業年度の法人税の申告(修正申告を含む。)に際し、法人税申告書の別表三(二)「短期所有土地等の譲渡等に係る譲渡利益金額に係る税額の計算に関する明細書」(以下「別表三(二)の明細書」という。)に、本件各仲介手数料に係る一切の記述をしていないこと。
(ハ) ところで、土地譲渡益重課税制度は、土地又は土地の上に存する権利(以下「土地等」という。)の譲渡等により短期間に得た利益に対して重ねて課税をすることによって土地等の価額の高騰を抑制するために設けられた制度であって、措置法施行令第38条の4第2項は、土地等の売買又は交換に係る仲介手数料を受ける行為についても、その額が宅建業法の報酬の上限の額を超えた場合には措置法第63条第1項第1号に規定する土地等の譲渡に準ずるものとして土地譲渡益重課税制度の適用がある旨規定しているところ、措置法上これに対する例外規定が存在しないことに加え、宅建業法第46第1項が「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買、交換又は賃貸の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額は、建設大臣の定めるところによる。」と定めるとともに同条第2項が「宅地建物取引業者は、前項の額を超えて報酬を受けてはならない。」と厳格に定められていることをも併せ考えれば、宅建業法の報酬の上限の額を超える報酬の額を受ける行為については、一律に土地譲渡益重課税の対象となると解するのが相当である。
 また、土地譲渡益重課税制度においては、宅建業法第46条第1項に規定する報酬の上限の額を基準とするのみであって、同法がもっぱら対象とする宅地及び建物に係る仲介行為のみを対象とするものではなく、山林原野等宅地以外の土地等の仲介も含まれるものと解される。
 これを本件について見ると、本件各土地の取引が特殊な状況にあるとしても、請求人が受領した本件各仲介手数料の額は宅建業法の報酬の上限の額を超えており、土地譲渡益重課税制度の適用を免れるべき理由はないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
 なお、請求人は、本件各土地の取引が特殊な状況にあることから土地譲渡益重課税制度の対象とするのは宅建業法の報酬の上限の2倍を超える額の報酬を受けたものに限るとすべきである旨主張するが、これは法律に定めのない独自の見解であり、失当である。
ロ 土地の譲渡等による収益の額
 土地の譲渡等による収益の額の算定において請求人が支払ったとする造成工事費及び支払手数料の金額を差し引くべきか否かについて、以下審理する。
(イ) 措置法施行令第38条の4第4項は、土地の譲渡等による収益の額とは、仲介行為をした場合には、当該行為に係る土地等の売買の代金の額又は交換の時の価額に当該行為により受けた報酬の額を加算した金額とする旨規定している。
(ロ) これを本件についてみると、請求人が本件各土地の譲渡に関して仲介行為を行ったこと及び前記イの(イ)のBのとおり別表2の「4」欄掲記の本件各仲介手数料を受領していることについては請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められるところ、これら本件各仲介手数料はいずれも請求人が同欄掲記の受領日に本件各土地の譲渡に対応して個別に受領したものであるから、まさに請求人が本件各土地の譲渡に関する仲介行為により受けた報酬そのものということができる。
 これに対し請求人は、仲介行為により受けた報酬の額は、本件各仲介手数料から請求人が支払った造成工事費及び支払手数料を控除した別表2の「8」欄掲記の実質的な仲介手数料の額である旨主張するが、当審判所の調査及びB男の当審判所に対する答述によれば、造成工事費については、請求人とA社との間で本件各土地の造成について契約書を取り交わした事実はなく、本件各土地が造成された事実も認められず、支払手数料についても領収証等その支払を認めるに足る証拠はないから、本件各仲介手数料の中に造成工事費及び支払手数料の金額が含まれていると認めることはできない。
 したがって、原処分庁が別表2の「3」欄掲記の譲渡価額に同表「4」欄掲記の本件各仲介手数料の額を加えて土地の譲渡等による収益の額を別表4の「1」欄掲記のとおり算定したことは相当であるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ハ 課税土地譲渡利益金額
 課税土地譲渡利益金額の算定において本件各仲介手数料に係る支払旅費の金額を差し引くべきか否かについて、以下審理する。
(イ) 原処分庁は、原処分において本件各仲介手数料に係る直接又は間接に要した経費の額を原処分庁の主張のイの(ハ)のとおり措置法施行令第38条の4第6項の規定(以下「概算法」という。)を適用し課税土地譲渡利益金額を算定してるいことが認められる。
 これに対し、請求人は、昭和62年7月期及び昭和63年7月期の法人税申告書の別表三(二)の明細書において、本件各土地以外の土地の譲渡の課税土地譲渡利益金額の算定に当たり、土地の譲渡に係る直接又は間接に要した経費の額を一部の土地については概算法を適用して計算するとともに、一部の土地については実績により計算し、平成元年7月期の法人税申告書では土地譲渡益重課税の申告をしていないことが認められる。
(ロ) ところで、この措置法施行令第38条の4第6項の規定は、課税土地譲渡利益金額の算定に当たり事業活動全体の中から個々の取引物件に直接要した費用を算定することは複雑困難であることから、原則として、負債の利子の額並びに販売費及び一般管理費の額について、一定の算出方法(概算)によって算定した額を直接又は間接に要した経費の額とするというものである。
 そして、措置法施行令第38条の4第8項が、課税土地譲渡利益金額の算定に当たり、同施行令第38条の4第6項に掲げる金額に係る経費の額につき、それぞれ当該事業年度においてした土地の譲渡等のすべてについて支出するこれらの経費の額のうち、当該土地の譲渡等に係る部分の金額を合理的に配賦計算し、法人税申告書に記載した場合に限り、この実額配賦による算定方法(以下「実額配賦法」という。)を認める旨規定していることに照らせば、同施行令第38条の4第8項の要件を満たさない場合には、原則的な計算方法である概算法により算定すべきこととなる。
(ハ) これを本件についてみると、請求人は、前記(イ)のとおり、昭和62年7月期及び昭和63年7月期の法人税申告書の別表三(二)の明細書において、土地の譲渡に係る直接又は間接に要した経費の額を一部の土地については概算法を適用して計算するとともに、一部の土地については実績により計算し、また、平成元年7月期の法人税申告書では土地譲渡益重課税の申告をしておらず、各事業年度において措置法施行令第38条の4第8項が定める要件に従って実額配賦法によることを法人税申告書に記載したものとはいえないから、本件において課税土地譲渡利益金額の算定に当たり直接又は間接に要した経費の額を実額配賦法により計算することはできない。したがって、その後の更正においても原則どおり概算法を適用してこれらの金額を計算すべきであり、原処分庁が課税土地譲渡利益金額を概算法により別表4の「8」欄掲記のとおり算定したことは相当であるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ニ 以上審理したところによれば、原処分庁が本件各仲介手数料を土地譲渡益重課税の対象としたことは相当であり、また、その課税土地譲渡利益金額の算定方法にも誤りが認められないから、請求人の主張には理由がない。

(2) 過少申告加算税の賦課決定について

 上記(1)のとおり更正は相当であり、かつ、更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があったとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてなされた過少申告加算税の賦課決定は相当である。

(3) 原処分のその余の部分について

 原処分のその余の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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