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(平6.5.11、裁決事例集No.47 56頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、婦人服縫製業を営む者であるが、昭和61年分、昭和62年分、昭和63年分、平成元年分及び平成2年分(以下5年分を併せて「各年分」という。)の所得税については、それぞれ青色申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載した上、これをいずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。また、平成2年1月1日から平成2年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税については、確定申告書に同表の「確定申告」欄のとおり記載した上、これを法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成4年2月28日付で昭和61年分以後の所得税の青色申告の承認の取消処分をし、各年分の所得税については、同日付で別表1の「原処分」欄記載のとおり更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした。また、本件課税期間の消費税については、同表の「原処分」欄記載のとおり更正処分をした。
 請求人は、上記各処分を不服として、平成4年4月14日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年7月28日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成4年8月24日に審査請求をした。

2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分の手続は次の理由により違法であるから、原処分の全部の取消しを求める。
イ 原処分に係る調査において、原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)が、請求人の了解を得ずに請求人の作業場に入り、また、請求人の制止にもかかわらず寝室に2回にわたり侵入して、請求人の物品を持ち出したことは、所得税法第234条((当該職員の質問検査権))に規定する検査権(以下「当該職員の質問検査権」という。)の範囲を逸脱し、人権を侵害するものである。
ロ 原処分庁は、請求人に対し上記イの違法な行為について、請求人が要望した事実解明の作業努力もせず、ただ事実無根と主張するのみでなんら誠意ある説明を行っていない。

(2) 原処分庁の主張

 原処分に係る調査は、国税通則法及び所得税法の各規定に従って当該職員の質問検査権の範囲を逸脱することなく行われており、原処分の手続に違法はないから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。

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3 判断

(1) 原処分の手続に請求人の主張する違法があったか否かについて争いがあるので、以下審理する。

イ 請求人は、原処分に係る調査において、調査担当職員が請求人の了解を得ずに請求人の作業場に入り、また、請求人の制止にもかかわらず寝室に2回にわたり侵入して、請求人の物品を持ち出したとし、その行為は当該職員の質問検査権の範囲を逸脱し、人権を侵害するものである旨主張する。
 しかし、所得税の調査に当たり、納税者の事業に関する帳簿書類その他の物件をどの程度検査するかは、権限ある税務職員の合理的な裁量にゆだねられていると解されるところ、当審判所の調査によれば、調査担当職員は、所得税の調査に当たり、請求人を説得の上、請求人と一緒に作業場及び請求人が寝室と称する部屋に入り、当該職員の質問検査権に基づき帳簿書類その他の物件の検査を行ったことが認められる。
 これらの調査担当職員の行為は、社会通念上合理的な裁量の範囲を逸脱したものとは認められないから、当該職員の質問検査権の範囲を逸脱したものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 なお、調査担当職員の行為が、人権を侵害するものであるかどうかについての判断は、当審判所の権限外のことであり審理の限りでない。
ロ 請求人は、原処分庁が、調査担当職員の違法な行為について、請求人が要望した事実解明の作業努力もせず、ただ事実無根と主張するのみで請求人に対しなんら誠意ある説明を行っていない旨主張する。
 しかし、上記イのとおり調査担当職員の行為についての請求人の主張には理由がないのであるから、このことは原処分を取り消さなければならない理由に当たるとはいえない。
ハ 以上審理したところによれば、原処分の手続に請求人の主張する違法はないから、請求人の主張には理由がない。

(2) なお、請求人は、当該職員の質問検査権の行使に係る手続について違法である旨を主張するのみで、その余の部分については明確に主張しないが、当審判所が、原処分関係資料に基づき、その余の部分の当否について検討すると次のとおりである。

イ 所得税の青色申告の承認の取消処分
(イ) 所得税法第148条((青色申告者の帳簿書類))の規定によれば、青色申告の承認を受けた者は、帳簿書類の備付け等の義務を負い、これに対し税務署長は必要があると認めるときは、その者に対し、その帳簿書類について必要な指示をすることができるとされている。
 また、所得税法第155条((青色申告書に係る更正))の規定によれば、税務署長は、その者が提出した青色申告書に係る年分の総所得金額等を更正する場合には、原則としてその者の帳簿書類を調査したところに基づいて行うこととされ、かつ、その更正通知書に更正の理由を附記しなければならないこととされている。
 このような手続は、当該職員が、調査の必要により帳簿書類の提示を求めた場合、青色申告者は、これに応じて、その備付け等に係る帳簿書類を提示し、その内容を調査することができる状態におくことによって初めてなし得るものである。
 したがって、当該職員から帳簿書類の提示を求められたにもかかわらず正当な理由なくして提示しない場合には、帳簿書類の備付け等がないものとみるべきであるから、その事実は所得税法第150条((青色申告の承認の取消し))第1項第1号に掲げる青色申告の承認の取消事由に該当すると解するのが相当である。
(ロ) これを本件についてみると、調査担当職員が平成3年1月11日以降、請求人に対し青色申告に係る帳簿書類を提示するよう再三にわたり求めたのに対し、請求人はこれに応じなかったことが認められ、また、その帳簿書類の不提示に係る正当な理由があるとは認められないので、原処分庁が、このことをもって所得税法第150条第1項第1号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当するとして請求人の昭和61年分以後の所得税の青色申告の承認を取り消したことは相当である。
ロ 所得税の更正処分
(イ) 各年分の事業所得の金額
A 原処分庁は、請求人の各年分の事業所得の金額を、請求人の取引先に対する調査事績に基づいて推計の方法により算定しているが、一般に同業者は同程度の収入によって同程度の所得を得るのが通例であるから、収入金額に同業者の平均的な所得率を乗じて各年分の事業所得の金額を算定した原処分庁の推計の方法には合理性があると認められ、請求人にこの推計の方法を適用できないとする特段の事情は認められない。
B そこで、原処分庁が算定した各年分の事業所得の金額を検討したところ、次のとおりである。
(A) 収入金額
 原処分庁は、各年分の収入金額を昭和61年分44,460,872円、昭和62年分54,303,600円、昭和63年分47,771,430円、平成元年分44,496,903円及び平成2年分47,227,494円と算定しているが、当審判所の調査によってもこれを不相当とする理由は認められない。
(B) 同業者の平均的な所得率
 原処分庁が採用した各年分の平均的な所得率(昭和61年分19.32パーセント、昭和62年分17.02パーセント、昭和63年分20.47パーセント、平成元年分20.49パーセント及び平成2年分20.31パーセント)について検討したところ、これらの所得率の算定の基礎とされた同業者は、いずれもP税務署の管轄区域において請求人と業種、業態が類似する同規模程度の事業を営む青色申告者であり、原処分庁は、これら同業者が提出した青色申告決算書に基づいて同業者の平均的な所得率を算定していることが認められ、その同業者の選定には合理性があり、かつ、その所得率の計算にも誤りがないから、当審判所においてもこれを不相当とする理由は認められない。
(C) 事業所得の金額
 前記(A)の収入金額に上記(B)の同業者の平均的な所得率を乗じ、更に当審判所においても相当と認められる事業専従者控除額を控除して各年分の事業所得の金額を算定すると、昭和61年分、昭和62年分、昭和63年分及び平成元年分の事業所得の金額は更正処分の金額と同額となり、平成2年分の事業所得の金額は更正処分の金額を上回る。
(ロ) 平成元年分の譲渡所得の金額
A 所得税法第33条((譲渡所得))第3項の規定によれば、譲渡所得の金額は、譲渡益から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とするとされている。
B これを本件についてみると、原処分庁は譲渡所得の金額を1,296,776円と算定しているが、譲渡所得の特別控除額500,000円を控除していない。
 したがって、原処分庁が算定した譲渡所得の金額から譲渡所得の特別控除額を控除すると、譲渡所得の金額は796,776円となる。
(ハ) 各年分の総所得金額
 前記(イ)及び上記(ロ)により各年分の総所得金額を算定すると、昭和61年分、昭和62年分、昭和63年分及び平成2年分については、いずれも更正処分の金額を下回らないから、更正処分は相当であるが、平成元年分については、更正処分の金額を下回ることから、平成元年分の更正処分はその一部を取り消すべきである。
ハ 所得税に係る重加算税の賦課決定処分
 国税通則法第68条((重加算税))に規定する重加算税の課税要件は、納税者が課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた場合であるところ、本件について当審判所が原処分関係資料を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、原処分に係る調査において、調査担当職員が、収入金額に係る取引先について質問したところ、株式会社A及び有限会社Bの2社(以下「両社」という。)のみであり、他にはない旨申述し、両社のみに係る売上金額等が記載されたノート及びその取引について作成された領収書控、裁断注文書等の書類を提示していること。
(ロ) 原処分に係る調査によれば、請求人には、別表2のとおり両社以外に7社の取引先があること。
 以上の事実からみれば、請求人は、各年分の所得税の申告において、両社以外の取引先に係る収入金額について故意に除外しており、このことは、国税通則法第68条第1項に規定する納税者がその国税の課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときに該当すると認められる。
 したがって、原処分庁が、これに対して重加算税の賦課決定処分をしたことは相当である。
 しかしながら、原処分庁は、重加算税の対象所得金額の計算において、更正前の税額の計算の基礎とされなかったことについて正当な事由があると認められる青色申告の承認の取消しに伴い増加した所得以外の金額の全額について、その対象所得金額としているが、重加算税の対象所得金額は、収入金額を故意に除外していたと認められる7社の収入金額を限度とすべきである。
 そうすると、重加算税の対象となる収入金額は、別表2のとおり昭和61年分5,350,000円、昭和62年分8,070,410円、昭和63年分2,665,530円、平成元年分1,559,800円及び平成2年分4,022,323円であり、この収入金額を限度として重加算税の対象所得金額を算定すると、昭和61年分5,350,000円、昭和62年分6,141,518円、昭和63年分2,665,530円、平成元年分1,559,800円及び平成2年分4,022,323円となり、昭和62年分以外はいずれも原処分庁が算定した重加算税の対象所得金額を下回るので重加算税の額はその一部を取り消すべきである。
ニ 消費税の更正処分
(イ) 課税標準額
 原処分庁は、課税標準額を、平成2年分の事業所得に係る収入金額47,227,494円に103分の100を乗じた金額の千円未満の端数を切り捨てた45,851,000円と算定しているが、当審判所の調査によってもこれを不相当とする理由は認められない。
(ロ) 納付すべき消費税額
 原処分庁は、納付すべき消費税額を145,300円と算定しているが、当審判所の調査によってもこれを不相当とする理由は認められない。
 したがって、課税標準額及び納付すべき消費税額は、いずれも更正処分の金額を上回るから、更正処分は相当である。

(3) その他

 原処分のその余の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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