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(平6.12.21、裁決事例集No.48 305頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、設備工事業を営む同族会社であるが、昭和63年7月1日から平成元年6月30日まで、平成元年7月1日から平成2年6月30日まで及び平成2年7月1日から平成3年6月30日までの各事業年度(以下、それぞれ「平成元年6月期」、「平成2年6月期」及び「平成3年6月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の青色の法人税の確定申告書に、別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、それぞれ法定申告期限までに申告した。
 また、請求人は、平成2年7月1日から平成3年6月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税の確定申告書に、別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成4年4月14日付で、本件各事業年度の法人税について、別表1の「更正等」欄のとおり、更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分をするとともに、本件課税期間の消費税について、別表2の「更正」欄のとおり更正処分をし、また、同日付で、別表3の「納税告知等」欄のとおり、源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分のうち、平成元年6月期の法人税の更正処分及び平成3年6月期の法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分を除く処分を不服として、平成4年6月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月4日付で、1平成2年6月期の法人税の更正処分、2平成3年6月期の法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分、3平成2年1月から6月まで及び同年7月から12月までの各期間分の源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分について、別表1及び別表3の「異議決定」欄のとおり、いずれもその一部を取り消す異議決定をし、本件課税期間の消費税の更正処分及び平成3年1月から6月までの期間分の源泉所得税の納税告知処分については棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の1平成2年6月期の法人税の更正処分、2平成3年6月期の法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分、3本件課税期間の消費税の更正処分、4平成2年1月から6月まで及び同年7月から12月までの各期間分の源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分並びに平成3年1月から6月までの期間分の源泉所得税の納税告知処分に不服があるとして、平成4年10月1日に審査請求をした。
 その後、請求人は、平成5年6月17日付で、平成2年6月期の法人税の更正処分に対する審査請求を取り下げた。
 なお、請求人は、平成5年9月25日に商号を株式会社Aから株式会社Bに変更した。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法であるから、法人税の更正処分についてはその一部の取消しを、また、重加算税の賦課決定処分、消費税の更正処分並びに源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分についてはその全部の取消しを求める。
イ 法人税の更正処分について
 原処分庁は、別表4のC株式会社(以下「C社」という。)との取引(以下「本件C社との取引」という。)及びD株式会社(以下「D社」といい、C社と併せて以下「本件取引先」という。)との取引(以下「本件D社との取引」といい、本件C社との取引と併せて以下「本件取引」という。)は請求人に帰属するものであるとして、本件取引の金額1,230,100円を、平成3年6月期の益金の額に算入する更正処分をした。
 しかしながら、本件取引は、次の理由により、請求人の前代表取締役E(以下「E」という。)が個人で取引をしたものであり、請求人に帰属するものではないから、法人税の更正処分のうち、本件取引に係る部分は取り消すべきである。
(イ) 本件取引は、Eが自己の技術を労して行ったものであり、同人が自己名義の領収書を発行して本件取引の金額を受け取っている。
(ロ) Eは、平成4年3月16日に、本件取引の金額のうち1,127,100円を雑所得の収入金額として、平成3年分の所得税の確定申告をしている。
(ハ) 請求人は、Eが本件取引について報告をしなかったため、本件取引を知らなかったが、原処分庁の請求人に対する調査(以下「本件調査」という。)によって本件取引を知り、本件取引の材料費198,018円(以下「本件材料費」という。)を、Eに請求している。
(ニ) Eは、登記簿上は請求人の取締役であるが、実際は使用人の立場にあるから、代表取締役の承認もなく本件取引を請求人の行為としてすることはできない。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 次の理由により、重加算税の賦課決定処分はその全部を取り消すべきである。
(イ) 本件取引
 前記イのとおり、本件取引は請求人に帰属するものではなく、法人税の更正処分のうち、本件取引に係る部分は違法であるから、これに伴う重加算税の賦課決定処分も取り消すべきである。
 また、仮に、本件取引が請求人に帰属するとしても、請求人は本件取引を知らずに法人税の確定申告書を提出したもので、隠ぺい、仮装の事実は存在しないから、やはり重加算税の賦課決定処分は取り消すべきである。
(ロ) 繰越欠損金
A 原処分庁は、請求人が平成3年6月期の損金の額に算入した繰越欠損金(法人税法第57条((青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し))第1項の規定により損金の額に算入する欠損金額をいう。以下同じ。)4,236,931円と、原処分庁が平成2年6月期の法人税の更正処分に伴い平成3年6月期の法人税の更正処分で損金の額に算入した繰越欠損金1,244,486円との差額2,992,445円のうち2,355,730円については隠ぺい、仮装の事実があるとして、当該金額に係る税額を計算の基礎として重加算税の賦課決定処分をした。
 しかしながら、次のとおり、請求人には隠ぺい、仮装の事実は存在しないから、重加算税の賦課決定処分は取り消すべきである。
(A) 平成2年6月期の外注費
 平成2年2月10日付のC社に対する外注費2,631,650円(以下「本件外注費」という。)については、Eが、外注の事実がないにもかかわらず、勝手に計上したものであり、請求人が本件外注費を仮装して計上したものではない。
 なお、Eは、このうち315,920円を請求人の簿外交際費として費消している。
(B) 平成2年6月期の売上
 平成2年6月12日付のF株式会社に対する売上20,000円及びG株式会社に対する売上20,000円の合計40,000円(以下「本件売上」という。)が計上もれとなったのは、単なる経理のミスによるものであり、請求人が本件売上を隠ぺいして除外したものではない。
B 仮に、隠ぺい、仮装の事実が存在するとしても、法人税は事業年度ごとの期間計算を原則とし、当該事業年度の法人税及びこれに伴う重加算税は、当該事業年度において算定、精算されるもので、これを本件についてみれば、重加算税の賦課決定処分の原因となった本件外注費及び本件売上は平成2年6月期に係るものであり、これらを理由として、平成3年6月期の法人税に係る重加算税の賦課決定処分をすることはできないから、当該重加算税の賦課決定処分は取り消すべきである。
ハ 消費税の更正処分について
 原処分庁は、本件取引の金額を、本件課税期間の消費税の課税標準額の算定の基礎に含め、消費税の更正処分をした。
 しかしながら、本件取引は前記イのとおり、請求人に帰属するものではないから、消費税の更正処分はその全部を取り消すべきである。
ニ 納税告知について
(イ) 本件外注費
 原処分庁は、本件外注費のうち、Eが自己のために取得し、費消した2,310,427円を同人に対する賞与と認定し、当該賞与に係る源泉所得税の納税告知処分をした。
 しかしながら、請求人は、前記ロの(ロ)のAの(A)のとおり、Eが本件外注費を計上し、そのうち2,310,427円を同人が取得した事実は認めるが、これを同人に賞与として支給したものではなく、当該金額は同人に対する貸付金と認定されるべきものであるから、納税告知処分は取り消すべきである。
(ロ) 本件取引
 原処分庁は、本件取引の金額のうち、Eが自己のために取得し、費消した1,022,100円を同人に対する賞与と認定し、当該賞与に係る源泉所得税の納税告知処分をした。
 しかしながら、本件取引は、前記イのとおり、請求人に帰属するものではないから、納税告知処分は取り消すべきである。
 また、仮に、本件取引が請求人に帰属するとしても、請求人は上記の1,022,100円をEに賞与として支給したものではなく、当該金額は同人に対する貸付金と認定されるべきものであるから、納税告知処分は取り消すべきである。
ホ 不納付加算税の賦課決定処分について
 上記ニのとおり、納税告知処分は違法であるから、不納付加算税の賦課決定処分も違法であり、その全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 次の理由により、原処分はいずれも適法である。
イ 法人税の更正処分について
 次の理由により、本件取引は請求人に帰属するものと認められる。
(イ) 本件取引先の各代表者は、本件取引の取引相手は請求人であると認識している旨を記載した文書を原処分庁に提出しており、本件取引は、本件取引先が請求人に発注したものと認められること。
(ロ) 請求人は、以前よりD社と継続して取引をしているところ、本件D社との取引前の取引については請求人の取引としながら、本件D社との取引についてはEに帰属する取引であると主張し、また、本件C社との取引金額は、請求人がC社から受注したH中学校暖房改修工事(以下「H中学校工事」という。)の追加工事分の代金であるところ、当該工事の本体工事代金は請求人の取引金額として請求人の売上金額に計上しながら、追加工事の代金のみをEに帰属する取引金額であると主張する合理的理由がないこと。
(ハ) Eは、本件取引について、平成3年分の所得税の確定申告書を平成4年3月16日に提出しているが、これは、本件調査において「本件取引は請求人に帰属すると認められる。」との指摘があった後になされたものであること。
(ニ) 請求人は、本件材料費を平成3年6月期の損金の額に算入し、その後、上記(ハ)の指摘があった後に、当該材料費をEに請求していること。
(ホ) 本件取引に従事したEは、請求人の設立時から平成2年2月24日までは代表取締役であり、また、同日以降も取締役の地位にあって、ただ一人の常勤役員として日常の業務をゆだねられていることから、請求人の実質的な代表者とみられ、同人が行った本件取引は請求人の行為とみるべきであること。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 請求人は、次のとおり、法人税の課税標準又は税額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法人税の確定申告書を提出しており、このことは、国税通則法第68条((重加算税))第1項の規定に該当するので、同項の規定に基づく重加算税の賦課決定処分は適法である。
(イ) 本件取引
 前記イのとおり、本件取引は請求人に帰属するものであるにもかかわらず、請求人は、これをE個人の取引であるかのごとく仮装し、本件取引に係る収入を、平成3年6月期の益金の額に算入しなかったものと認められる。
(ロ) 繰越欠損金
A 平成3年6月期の損金の額に算入すべき繰越欠損金は1,244,486円であるにもかかわらず、請求人は4,236,931円を損金の額に算入しており、その差額2,992,445円のうち2,355,730円は、次の隠ぺい、仮装行為に基づく架空外注費及び売上除外の事実に起因するものであると認められる。
(A) 本件外注費
 Eは、請求人の代表取締役の地位にあった平成2年2月10日に、C社に架空の請求書及び領収書の発行を依頼し、外注の事実がないにもかかわらず、外注の事実があったかのごとく仮装して本件外注費を計上したこと。
 なお、このうち315,920円は請求人の簿外交際費として支出されていること。
(B) 本件売上
 請求人は、本件売上を売上帳に記載せずに除外し、平成2年6月期の益金の額に算入しなかったこと。
B なお、請求人は、仮に隠ぺい、仮装の事実が存在するとしても、本件外注費及び本件売上は平成2年6月期に係るものであるから、平成3年6月期の法人税に係る重加算税の賦課決定処分をすることはできないと主張する。
 しかし、請求人は、平成2年6月期の所得金額を不正計算により過少に算定しているところ、同期においては繰越欠損金の損金算入により課税所得金額が発生しないことから、重加算税は賦課されないこととなり、一方、平成3年6月期においては、当該不正計算により、欠損金が過大に繰り越され、損金の額に算入されていることから、当該過大繰越欠損金の損金算入額に対して重加算税が賦課されることとなる。
 よって、請求人の主張には理由がない。
ハ 消費税の更正処分について
 前記イのとおり、本件取引は請求人に帰属するものであるから、これを請求人の課税標準額の算定の基礎に含めた消費税の更正処分は適法である。
ニ 納税告知処分について
 納税告知処分は次のとおり適法である。
(イ) 本件外注費
 当時、請求人の代表取締役であったEは、前記ロの(ロ)のAの(A)のとおり、本件外注費を計上し、当該外注費の額から請求人の簿外交際費として支出した額315,920円及びその他の支出額5,303円の合計額321,223円を除く2,310,427円(以下「本件外注費の取得額」という。)を、I信用金庫J支店の自己名義の預金口座(以下「本件預金口座」という。)に入金する方法で取得し、自己のために費消している。
 したがって、本件外注費の取得額は、Eへの臨時的な給与すなわち賞与として支給されたものと認められる。
 なお、請求人とEとの間には、金銭消費貸借契約等を行った事実は認められないから、請求人がこれをEに貸し付けたものと認定することはできない。
(ロ) 本件取引
 前記イのとおり、本件取引は請求人に帰属するものであるところ、Eは、本件取引の金額のうち1,022,100円(以下「本件取引の取得額」といい、本件外注費の取得額と併せて以下「本件Eの取得額」という。)を本件預金口座並びにK信用金庫L支店及びM信用金庫N支店の自己名義の各預金口座(これらの預金口座と本件預金口座とを併せて以下「本件Eの預金口座」という。)に入金する方法で取得し、自己のために費消している。
 また、Eは、前記イの(ホ)のとおり、当時、請求人のただ一人の常勤取締役として、日常の業務をゆだねられ、請求人の実質的な代表取締役として、その業務を行っていたと認められる。
 したがって、本件取引の取得額は、請求人が隠れた利益処分としてEに対し賞与を支給したものと経済的実質において変わりがなく、当該取得額は、請求人からEに賞与として支給されたものと認められる。
 なお、請求人とEとの間には、金銭消費貸借契約等を行った事実は認められないから、請求人がこれをEに貸し付けたものと認定することはできない。
ホ 不納付加算税の賦課決定処分について
 上記ニのとおり、納税告知処分は適法であり、また、請求人には当該納税告知に係る源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条((不納付加算税))第1項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項の規定に基づく不納付加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1) 法人税の更正処分について

 本件取引が、請求人に帰属するか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
(イ) 昭和61年7月1日に請求人が設立され、Eが代表取締役に就任したこと。
(ロ) Sを代表取締役とするT株式会社(以下「T社」という。)は、請求人の設立当時からの株主であること。
(ハ) 請求人は、平成2年7月に、C社からH中学校工事を受注しており、当該工事代金3,811,000円を益金の額に算入していること。
(ニ) Eは、平成3年分の所得税の確定申告書及び修正申告書を、それぞれ、平成4年3月16日及び同年5月12日に提出しており、当該確定申告書には、給与所得の金額が3,428,200円、雑所得の金額が929,082円(収入金額1,127,100円、必要経費198,018円)と記載され、また、修正申告書では、雑所得の金額が1,032,082円(収入金額1,230,100円、必要経費198,018円)に増額されていること。
ロ 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ) 平成2年2月20日に、請求人の約束手形が不渡りとなったこと。
(ロ) Eが、平成2年2月24日付で、請求人に代表取締役辞任届を提出したこと。
(ハ) 平成2年3月10日に開催された請求人の取締役会において、次の事項が決議されたこと。
A Eの後任として、Sを請求人の代表取締役に選任する。
B 不渡手形発生後の請求人の経営を続行するため、各債権者に買掛金の半額免除を要請する。
(ニ) 平成2年4月3日付の請求人の再建計画書には、次の事項を条件に、債権者9社に対する買掛金合計19,951,322円の半額を切り捨ててもらう旨が記載されていること。
A Eが代表取締役を退任し、Sが就任する。
B Eの妻であるU(以下「U」という。)が監査役を退任し、債権者9社のうちの1社であるO株式会社の代表取締役であり、請求人の設立当時からの取締役でもあるWが就任する。
 なお、請求人は、平成2年6月期において、7,406,300円の債務免除益を計上していること。
(ホ) C社の代表取締役であるX(以下「X」という。)は、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
A C社は、Eの個人営業時及び請求人の設立後も継続して取引をしている。
B 本件C社との取引は、H中学校工事の追加工業に係るものであり、本件工事と同様に請求人に発注したものであるが、当該追加工事については、Eより、同人個人との取引としてほしい旨の申し出があった。
(ヘ) D社の専務取締役であるYは、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
A 本件D社との取引に係る請求書及び領収書の発行者はEとなっているが、D社としては、Eの個人営業時及び請求人の設立後も継続して取引をしている経緯から、請求人とEは同一と考えているので、本件D社との取引についても、請求人との他の取引と同様に、請求人に発注したものと認識している。
B 本件D社との取引に係る工事の施工責任者は、Eであった。
(ト) D社の設備課長であるZは、当審判所に対し、本件D社との取引については、Eより、通常の請求人との取引とは区別して、E個人の名前で請求するので工事代金を本件預金口座に入金するように依頼を受け、そのとおりにした旨を答述していること。
(チ) 請求人の代表取締役であるS(以下「S」という。)は、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
A Eとは、同人が個人営業時から同業者としての知り合いであり、同人からの依頼もあって、請求人の設立時にT社が請求人の株主となった。
B Eは、請求人の設立以来、代表取締役として経営に従事してきたが、平成2年2月初旬に至り、請求人の資金繰りが悪化し、その後同月20日に不渡り事故が発生した。
C 不渡手形発生後、T社の取引先でもある大口債権者のR株式会社より、請求人の再建に協力するよう要請があったこと、T社が請求人の株主であったこと、同業者としての道義的責任などから、自分が中心となって、請求人の各債権者との折衝を進め、平成2年4月3日付の請求人の再建計画書に記載のとおり、Eが不渡手形発生の責任を取って代表取締役を退任し、後任に自分が代表取締役に就任すること、Uも監査役を退任し、後任に債権者のWが就任して、会社の再建に向けて努力することを条件に、債務の免除についての合意を得ることができた。
D 代表取締役退任後のEには、100万円以下の工事の受注及び施工を任せたが、100万円を超える大口工事の受注については、代表取締役の承認を要することとするなど、業務の範囲を限定した。
 なお、代表取締役退任後も、Eに取締役の地位を維持させたのは、P県知事からの建設業許可を得るために、常勤役員としての同人の存在が必要であったこと及び同人が営業に従事するに当たっての対外的な影響を考慮したことによるものである。
(リ) Eは、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
A 請求人の設立以来、代表取締役として経営に従事してきたが、平成2年2月24日に代表取締役を退任し、その後は取締役として、工事の受注、施工、集金業務等に従事している。
B 本件取引先は、請求人の設立以前の、自分の個人営業時からの取引先である。
C 本件取引は、人目につく○○市内の仕事を避け、△△町、××町の工事を、アルバイトのつもりで、請求人の工事の合間に行ったものである。
 なお、本件C社との取引は、H中学校工事の追加工事に係るものであるが、通常の工事には追加工事が発生することが多く、その追加工事を個人の収入としたものである。
D 本件取引に係る請求書及び領収書は、自分の個人名義で発行した。
E 本件取引に係る材料は、請求人のものを使用したので、請求人から平成4年3月21日に、当該材料費の請求を受けた。
ハ 以上を踏まえて、本件取引についてみれば次のとおりである。
(イ) 前記イの(イ)及びロの各事実並びに各答述によれば、Eは、請求人の設立以来、代表取締役として経営に従事してきたが、請求人の手形が不渡りとなったことの責任を取って、平成2年2月24日に代表取締役を退任したこと、また、代表取締役を退任した後も請求人の取締役として、100万円以下の工事の受注、施工等を任されていたところ、本件取引については、長年の取引相手である本件取引先に、E個人との取引とするように依頼の上、自己名義の請求書及び領収書を発行して、同人個人の取引とし、請求人には報告しなかったことが認められる。
(ロ) 前記イの(ハ)の事実及び前記ロの(リ)のCの答述によれば、本件取引は、Eが人目を避けながら、請求人の工事の合間に行ったものであり、また、同人は、H中学校工事を請求人の取引と認識しているにもかかわらず、その追加工事である本件C社との取引を個人の収入としたものであることが認められる。
(ハ) 前記ロの(ホ)ないし(ト)の各答述によれば、本件取引は、本件取引先が請求人に発注したものであることが認められる。
(ニ) 上記(イ)、(ロ)及び(ハ)の各認定事実を併せみれば、本件取引は、請求人の取締役であるEが、その業務として行ったものであり、請求人に帰属するものと認めるのが相当である。
(ホ) なお、請求人の主張する、1本件取引はEが自己の技術をもって行ったものであり、同人が自己名義の領収書を発行していること、2Eが平成3年分の所得税の確定申告をしていること、3請求人が本件材料費をEに請求していることについては、前記イの(ニ)の事実並びに前記ロの(ヘ)、(ト)及び(リ)の各答述によってその事実が認められるところであるが、上記(ニ)で認定したことからすれば、これらの事実によって本件取引がE個人に帰属するものということはできず、また、請求人は、Eが実際は使用人の立場にあるから代表取締役の承認もなく本件取引を請求人の行為として行うことはできない旨を主張するが、上記(イ)で認定したとおり、Eは、代表取締役を退任した後も請求人の取締役として100万円以下の工事の受注、施工等を任されており、また、上記(ロ)及び(ニ)で認定したとおり、たとえ本件取引の行為者がEであっても、本件取引は請求人に帰属するものと認められることからすれば、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(ヘ) よって、本件取引の金額を平成3年6月期の益金に算入した、法人税の更正処分は適法である。

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(2)重加算税の賦課決定処分について

 重加算税の賦課決定処分の可否について争いがあるので、以下審理する。
イ 本件取引
(イ) 請求人は、本件取引は請求人に帰属するものではなく、法人税の更正処分のうち、本件取引に係る部分は違法であるから、重加算税の賦課決定処分も取り消すべきである旨を主張するが、前記(1)のハで認定したとおり、本件取引は請求人に帰属すると認められるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ) また、請求人は、仮に本件取引が請求人に帰属するとしても、請求人は本件取引を知らずに、法人税の確定申告書を提出したものであるから、隠ペい、仮装の事実は存在しない旨を主張するので、前記(1)のハで認定したとおり、Eが、請求人に帰属すると認められる本件取引を同人の個人取引としたことにより、本件取引に係る収入が請求人の売上に計上されなかったことが、国税通則法第68条第1項に規定する重加算税の課税要件に該当するか否かについて、以下審理する。
A 請求人の提出資料及び当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
(A) 請求人の事務所はT社の社屋の2階の一室であったことから、Sは、請求人の不渡手形発生後、それまで勤務していたE以外の従業員を退社させ、請求人の経理事務等をT社の社員に担当させてSがこれを管理するなど、T社の経営に従事するかたわら、請求人の代表取締役として、会社再建に努めたこと。
(B) Eは、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
a 代表取締役退任後は、小切手、手形等の請求人の経理及び資金管理等には関与せず、後任のSが管理することとなった。
b また、工事に関する見積書、請求書を作成し、これをSに渡して発行してもらうなど、請求人の売上も、Sが管理することとなった。
(C) Sは、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
a 代表取締役退任後のEには、請求人の経理及び資金管理等に関与させていない。
b 領収書も、小口の集金や手形決済等の際に、Eに持たせる程度で、通常時は自分が管理していた。
c また、100万円以下の工事についての受注及び施工はEに任せていたが、それらに関する経理や集金後の資金管理まで任せていたものではない。
B ところで、国税通則法第68条第1項に規定する隠ぺい、仮装の行為者については、納税義務者たる法人の代表者に限定されるものではなく、その役員又は家族等で経営に参画し、法人の申告行為に相当の権限を有していると認められる者の行為は、法人の代表者がそれを知らなかった場合であっても、当該法人の行為と同視されるべきものと解されている。
C これを本件取引についてみれば、次のとおりである。
(A) 前記(1)のハの(イ)の認定事実及び前記Aの各事実によれば、本件取引の時点において、Eは請求人の手形が不渡りとなったことの責任を取って代表取締役を退任しており、工事の受注及び施工には従事していたものの、経理及び資金の管理等には従事していないことから、同人は請求人の経理に関する権限を有さず、会社の運営は、Sが行っていたことが認められる。
(B) また、前記(1)のハの(イ)及び(ニ)の各認定事実からすれば、Eは、Sに隠れて本件取引をE個人の取引としていたものと認められる。
(C) そうすると、前記Bのとおり、国税通則法第68条第1項に規定する隠ぺい、仮装の行為者は法人の代表者に限定されず、その役員等で経営に参画し、法人の申告行為に相当の権限を有していると認められる者の行為も当該法人の行為と同視されるべきものと解されるとしても、本件にあっては、前記(A)で認定したとおり、Eは請求人の手形が不渡りとなったことの責任を取って代表取締役を退任しており、請求人の経理に関する権限を有していないことからすれば、上記(B)で認定したとおり、EがSに隠れて本件取引をE個人の取引としていたことをもって、原処分庁が主張するように、請求人が本件取引をE個人の取引であるかのごとく仮装していたものと断定することはできない。
D したがって、本件取引によって増加した所得に相当する部分については、重加算税の課税要件を満たさないこととなり、他方、国税通則法第65条((過少申告加算税))第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、本件取引に係る部分の税額を計算の基礎としてなされた重加算税の賦課決定処分は、過少申告加算税相当額を超える部分の金額につき取り消すのが相当である。
ロ 繰越欠損金
(イ) 本件外注費
A 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
(A) Eが、平成2年2月10日に、本件外注費を計上したこと。
(B) 請求人は、本件外注費を平成2年6月期の損金の額に算入していること。
(C) 本件外注費に係る外注の事実はないこと。
(D) 本件外注費のうち、315,920円が請求人の簿外交際費として支出されていること。
(E) 請求人は、欠損事業年度である平成2年6月期において、本件外注費の額から上記(D)の簿外交際費の額を控除した2,315,730円と、本件売上の金額40,000円との合計額2,355,730円の繰越欠損金を過大に翌期以降に繰り越す法人税の確定申告書を提出したこと。
(F) 請求人は、平成3年6月期において、法人税法第57条の規定により、上記(E)の過大繰越欠損金を損金の額に算入する法人税の確定申告書を提出したこと。
B 当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
(A) Eは、当審判所に対し、本件外注費は、同人がC社に架空の請求書及び領収書の発行を依頼して計上したものである旨を答述していること。
(B) Xは、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
a 本件外注費は、請求人から実際に発注されたものではなく、Eからの依頼により、請求書及び領収書を作成したもので、架空の取引である。
b したがって、当該請求書及び領収書も架空のもので、代金はまったく受け取っていない。
(C) Sは、当審判所に対し、本件外注費に使用されたC社の請求書及び領収書が架空のものであることを認める旨を答述していること。
C 以上を踏まえて、本件外注費についてみれば、次のとおりである。
(A) 前記(1)のイの(イ)並びにロの(ロ)、(ハ)のA、(チ)のB及び(リ)のAの各事実及び各答述によれば、本件外注費が計上された平成2年2月10日においては、Eは、代表取締役として請求人の経営に従事していたことが認められる。
(B) 前記Aの(A)及び(C)の各事実、前記Bの各答述並びに上記(A)の認定事実によれば、本件外注費は架空のものであり、当時代表取締役として請求人の経営に従事していたEが、C社に依頼して虚偽の請求書及び領収書を作成させていたことが認められる。
(C) そうすると、請求人は、Eが本件外注費を勝手に計上したもので、請求人が仮装して計上したものではない旨を主張するが、上記(A)で認定したとおりEは代表取締役として請求人の経営に従事していたものであり、上記(B)で認定した同人の仮装行為は、請求人の行為であると認めるのが相当であるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(D) なお、請求人は、仮に、隠ぺい、仮装の事実が存在するとしても、本件外注費は平成2年6月期に計上されたものであるから、これを理由として、平成3年6月期の法人税に係る重加算税の賦課決定処分をすることはできない旨主張するが、本件外注費についてみると、請求人は、1上記(A)ないし(C)で認定したとおり、平成2年6月期において、C社に虚偽の請求書及び領収書を作成させて架空の本体外注費を計上し、2これに基づき、前記Aの(E)のとおり翌期以降に繰越欠損金を過大に繰り越す法人税の確定申告書を提出し、3また、上記1及び2の行為に基づき、前記Aの(F)のとおり、平成3年6月期について、平成2年6月期から繰り越された架空の繰越欠損金を損金の額に算入して算出した所得金額を記載した法人税の確定申告書を提出したものである。
 ところで、国税通則法第68条第1項は、「その国税の課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは」重加算税を課すると規定しているが、請求人は、上記1及び2のとおり課税標準等の計算の基礎となるべき事実を仮装しており、また、上記3のとおり平成3年6月期につき納税申告書を提出していたのであるから、同期における仮装行為の有無にかかわらず、同期について仮装したところに基づき納税申告書を提出していたものと認められるから、同項の規定に基づき、本件外注費の額から前記Aの(D)の簿外交際費の額を控除した額に係る繰越欠損金の損金算入額の部分の税額を計算の基礎としてなされた重加算税の賦課決定処分は適法であり、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(ロ) 本件売上
A 本件売上が、平成2年6月期の益金の額に算入されていないことについては、請求人と原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査したところによっても、その事実が認められる。
B ところで、上記Aのとおり請求人が本件売上を益金の額に算入しなかったことについては、全資料を総合しても、原処分庁が主張するように売上を除外したものとは認められず、他に請求人が隠ぺい又は仮装したと認めるに足る証拠もない。
C したがって、請求人の行為は、国税通則法第68条第1項に規定する「課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するとはいえない。
D そうすると、本件売上を益金の額に算入しなかったことによる繰越欠損金が平成3年6月期に繰り越されたことに伴う、同事業年度の損金算入額に相当する部分については、重加算税の課税要件を満たさないこととなり、他方、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、当該損金算入額に係る部分の税額を計算の基礎としてなされた重加算税の賦課決定処分は、過少申告加算税相当額を越える部分の金額につき取り消すのが相当である。

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(3)消費税の更正処分について

 本件取引の金額が、本件課税期間の消費税の課税標準に含まれるか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 請求人が、消費税法第57条((小規模事業者の納税義務の免除が適用されなくなった場合等の届出))第1号に該当するとして同条に規定する届出書を原処分庁に提出していることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
ロ 前記(1)のハで認定したとおり、本件取引は請求人に帰属すると認められること及び当審判所の調査したところによれば、本件取引は、消費税法第2条((定義))第1項第9号に規定する課税資産の譲渡等に該当すると認められる。
ハ 上記イ及びロの各認定事実によれば、本件取引の金額は、本件課税期間の消費税の課税標準に含まれるものと認めるのが相当であり、したがって、本件取引の金額を含めて請求人の本件課税期間の消費税の課税標準額を算定した消費税の更正処分は適法である。

(4) 納税告知処分について

 本件Eの取得額が、Eに対する賞与であるか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 本件外注費の取得額
(イ) 本件外注費の取得額をEが取得し、費消したことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(ロ) 原処分関係資料及び当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 本件外注費の取得額が、本件預金口座に入金されていること。
B 平成2年6月期の取締役の報酬に関し、請求人の株主総会の決議は行われていないこと。
C 請求人は、平成2年6月期において、Eに対し、役員報酬として各月400,000円の合計4,800,000円の給与(以下「本件役員報酬」という。)を支給し、また、そのほか、平成元年7月27日及び同年12月21日に各400,000円の賞与(以下「本件賞与」という。)を支給していること。
D Eは、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
(A) 代表取締役を退任するまでは、請求人の全責任者であり、請求人の給与の支給に関する権限も有していた。
(B) 本件外注費の取得額は、本件預金口座に入金して個人的に費消したものであり、また、当該取得額について、請求人と金銭消費貸借契約を締結しておらず、請求人に返済するかどうかの結論は出ていないが、返済することになったとしても、今の経済状態では一度に返済できないので、請求人と相談しなければならないと考えている。
E Sは、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
(A) Eは、代表取締役を退任するまでは、請求人の経営者として、給与、賞与等の支給に関する権限も有していた。
(B) 本件外注費の取得額については、Eに対する貸付金としての経理処理はしていないが、本件審査請求の裁決を待って、Eと話し合い、最終的な結論を出すこととしている。
(ハ) 以上を踏まえて、本件外注費の取得額についてみれば、次のとおりである。
A 前記(ロ)のDの(A)及びEの(A)の各答述によれば、Eは、代表取締役を退任するまでは、請求人の給与の支給に関する権限を有していたことが認められる。
B そうすると、前記(2)のロの(イ)のCの各認定事実、前記(イ)及び(ロ)のAの各事実、前記(ロ)のDの(B)の答述並びに上記Aの認定事実によれば、本件外注費の取得額については、請求人の代表取締役であり、請求人の給与の支給に関する権限を有していたEが、その立場を利用して、架空の本件外注費を計上し、そのうちの当該取得額を本件預金口座に入金する方法により取得したものと認められる。
C したがって、上記Bで認定したとおり、請求人の給与の支給に関する権限を有するEが、その地位を利用して取得した本件外注費の取得額は、同人に対する給与と認めるのが相当である。
D ところで、法人税法第35条((役員賞与等の損金不算入))第4項には、「賞与とは、役員又は使用人に対する臨時的な給与のうち、他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいう」と規定されており、これを本件外注費の取得額についてみれば、前記(ロ)のB及びCのとおり、平成2年6月期の取締役の報酬に関する請求人の株主総会の決議は行われておらず、また、請求人は、同事業年度において、Eに対し、本件役員報酬のほか、臨時的な給与として本件賞与を支給しているところ、本件外注費の取得額は、本件役員報酬のように各月定額の給与ではないことからすれば、本件賞与と同様、Eに対する臨時的な給与と認めるのが相当である。
E また、前記(ロ)のCの事実からすれば、Eが取得した本件外注費の取得額は、上記Dの「他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与」に該当しないことは明らかである。
F よって、本件外注費の取得額は、Eに対する賞与と認められるから、原処分庁が当該取得額をEに対する賞与と認定したことは相当であり、当該取得額をEに賞与として支給したものではない旨の請求人の主張は採用することができない。
G なお、請求人は、本件外注費の取得額はEに対する貸付金と認定されるべきである旨を主張するが、上記Fで認定したとおり、当該取得額はEに対する賞与と認められ、また、前記(ロ)のDの(B)及びEの(B)の各答述によれば、請求人とEとの間には、当該費消額についての金銭消費貸借契約が締結されていないことが認められるから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ロ 本件取引の取得額
(イ) 請求人は、本件取引が請求人に帰属するものではないから、納税告知処分は取り消すべきである旨を主張するが、前記(1)のハで認定したとおり、本件取引は請求人に帰属すると認められるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ) また、請求人は、仮に本件取引が請求人に帰属するとしても、請求人は本件取引の取得額をEに賞与として支給したものではないから、納税告知処分は取り消すべきである旨を主張するので、当該取得額がEに対する賞与に該当するか否かについて、以下審理する。
A 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
(A) 本件取引の取得額が、本件Eの預金口座に入金されていること。
(B) 本件取引の取得額に関し、請求人とEの間で金銭消費貸借契約が締結されている事実は認められないこと。
(C) Eは、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
a 代表取締役退任後は、請求人の給与の支給には関与せず、Sが、請求人の給与の支給に関する権限を有していた。
b 代表取締役退任後の報酬については、Sと相談の結果、退任前と同額が支給されることとなったが、賞与については、退任後は支給されないこととなった。
c 上記bのとおり、代表取締役退任後は賞与が不支給となって、給与が減額されたことから、本件取引の取得額を取得し、個人的な費用に費消した。
(D) Sは、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
a 代表取締役退任後のEには、請求人の給与の支給に関与させておらず、請求人の給与の支給に関する権限は、自分が有していた。
b 代表取締役退任後のEの報酬については、同人の家庭事情や生活上の経費などを考慮し、退任前と同額を支給することとしたが、賞与は支給しないこととした。
c 本件取引の取得額については、Eに対する貸付金としての経理処理はしていない。
B 以上を踏まえて、本件取引の取得額についてみれば、次のとおりである。
(A) 前記Aの(C)のa及びb並びに(D)のaの各答述によれば、代表取締役退任後のEは、請求人の給与の支給に関する権限を有していないことが認められる。
(B) また、前記Aの(A)の事実及び(C)のcの答述によれば、Eは本件取引の取得額を本件Eの預金口座に入金する方法により取得し、これを個人的に費消していたものと認められる。
(C) そうすると、本件取引はEの代表取締役退任後のものであるところ、原処分庁は、同人が代表取締役退任後も、請求人のただ一人の常勤取締役として請求人の日常業務をゆだねられ、請求人の実質的な代表取締役としての業務を行っていたことを理由に、本件取引の取得額は、請求人が隠れた利益処分としてEに対し賞与を支給したものと経済的実質において変わりがなく、当該取得額は請求人から同人に賞与として支給されたものと認められる旨を主張するが、前記(2)のイの(ロ)のCの(A)で認定したとおり、本件取引の時点においてEは請求人の経理及び資金管理には関与せず、会社の運営はSが行っていたことからすれば、同人が代表取締役退任後も請求人の実質的な代表取締役としての業務を行っていたとは認められないから、この点に関する原処分庁の主張は採用することができない。
(D) また、前記(2)のイの(ロ)のCの(B)及び(C)で認定したとおり、請求人の経理に関する権限を有しないEは、Sに隠れて本件取引をE個人の取引としたものであること並びに前記(A)及び(B)の各認定事実からすれば、Eは、やはりSに隠れて本件取引の取得額を取得したものと認められるから、請求人の給与の支給に関する権限を持たないEのそのような行為をもって、請求人が当該取得額を同人に賞与として支給したものと認めることはできない。
(ハ) なお、請求人は、本件取引の取得額はEに対する貸付金と認定されるべきである旨を主張するが、前記(ロ)のAの(B)の事実及び(D)のcの答述によれば、請求人とEの間には、当該取得額についての金銭消費貸借契約が締結されているとは認められないから、当該取得額がEに対する貸付金であると認定することはできない。
 しかし、前記(1)のハで認定したとおり、本件取引は請求人に帰属すると認められること及び前記(ロ)のBの(D)で認定したとおり、EがSに隠れて本件取引の取得額を取得していることからすれば、請求人は、Eに対し、当該取得額相当分の債権を有しているというべきである。
ハ ところで、請求人が所得税法第216条((源泉徴収に係る所得税の納期の特例))の承認を受けていることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがないところ、前記イ及びロで認定したところに基づき、源泉所得税の額を算定すると次表のとおりとなる。

(単位:円)
所得の種類 期間 源泉所得税の額
給与 平成2年1月から6月まで 246,000
給与 平成2年7月から12月まで 0
給与 平成3年1月から6月まで 0

 そうすると、平成2年1月から6月までの期間分の源泉所得税の額は納税告知処分の額を下回ることとなり、同期間分の源泉所得税の納税告知処分は、その一部を取り消すべきである。
 また、平成2年7月から12月まで及び平成3年1月から6月までの各期間分の源泉所得税の額は零円となり、当該各期間分の源泉所得税の納税告知処分は、その全部を取り消すべきである。

(5) 不納付加算税の賦課決定処分について

イ 平成2年1月から6月までの期間分の不納付加算税の賦課決定処分については、納税告知処分の一部が取り消されることに伴い、その基礎となる税額は、前記(4)のハの表のとおり246,000円となり、また、この税額を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、平成2年1月から6月までの期間分の不納付加算税の額は、24,000円となり、賦課決定処分の額を下回るから、当該期間分の不納付加算税の賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。
ロ 平成2年7月から12月まで及び平成3年1月から6月までの各期間分の不納付加算税の賦課決定処分については、納税告知処分の全部の取消しに伴い、その全部を取り消すべきである。

(6) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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