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(平18.7.12、裁決事例集No.72−633頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、納税者株式会社○○(以下「滞納法人」という。)から審査請求人(以下「請求人」という。)に対して支払われた役員報酬(認定賞与)○○○○円は、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に規定する第三者に利益を与える処分(以下「無償譲渡等」という。)に該当するものであり、滞納法人の別表1の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められるのは無償譲渡等に基因するものであるとして、請求人に対し、本件滞納国税を徴収するため、上記金額を限度とする第二次納税義務の納付通知書による告知処分を行ったのに対し、請求人が、その手続等の違法性及び同条の適用要件を欠く違法性を主張して原処分の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成16年12月21日、本件滞納国税について、国税通則法(以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、G税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ロ 原処分庁は、本件滞納国税を徴収するため、請求人に対し、平成17年2月4日付で徴収法第39条の規定に基づいて○○○○円を限度とする第二次納税義務の納付通知書による告知処分(以下「第一次告知処分」という。)をした。
ハ 請求人は、第一次告知処分を不服として、平成17年3月16日に異議申立てをした。
ニ 原処分庁は、別表1の順号2の滞納国税(以下「本件源泉等滞納国税」という。)に係る法定納期限(平成14年7月10日)の1年前の日(平成13年7月10日)より以前の平成13年5月○日に滞納法人から請求人に対して無償譲渡等があったとする○○○○円については、請求人に徴収法第39条の規定による第二次納税義務を課すことができないとして、平成17年4月27日付で第一次告知処分のうちの本件源泉等滞納国税に係る部分を取り消すとともに、同日付で改めて請求人に対し、平成14年1月○日に滞納法人から請求人に対して無償譲渡等があったとする○○○○円について、本件源泉等滞納国税に係る第二次納税義務の納付通知書による告知処分(以下「第二次告知処分」といい、平成17年4月27日付で取り消された後の第一次告知処分と併せて「本件告知処分」という。)をした。
なお、請求人が本件告知処分によって納付すべき第二次納税義務に係る納付限度額は、第一次告知処分による限度額と同額の○○○○円である。
ホ 請求人は、第二次告知処分を不服として、平成17年6月15日に異議申立てをした。
ヘ 異議審理庁は、第一次告知処分に対する異議申立てについては平成17年6月15日付で、また、第二次告知処分に対する異議申立てについては同年7月1日付でそれぞれ棄却の異議決定をした。
 なお、平成17年6月15日付の異議決定書は、同月19日に請求人に送達された。
ト 請求人は、異議決定を経た後の本件告知処分に不服があるとして、平成17年7月19日に審査請求をした。

(3) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 滞納法人は、平成2年○月○日、「株式会社○○○」として設立され、平成8年○月○日に商号を「株式会社○○○○」に変更し、さらに、平成14年○月○日、「株式会社○○」に変更し、現在に至っているが、平成13年○月○日以降、事業活動を休止している。
ロ 請求人は、滞納法人の設立時から現在に至るまで、代表取締役の職に就いている。
ハ 本件滞納国税は、G税務署長が、滞納法人に対する企業買収(以下「本件企業買収」という。)はH株式会社(以下「H社」という。)が滞納法人の営業資産を譲り受ける方法で行われたものであるから、その譲渡代金394,402,385円(以下「本件譲渡代金」という。)は滞納法人に帰属するものであるとして、平成16年9月28日付で行った法人税の更正処分等(以下「本件更正処分等」という。)により納付することとなった法人税等である。
ニ 滞納法人は、本件更正処分等について、本件企業買収は株式譲渡の方法により行われたものであるから、本件譲渡代金も各株主に帰属するものであるとして、平成16年11月24日、異議申立てを、また、平成17年3月16日、審査請求を行ったところ、同申立等は同年2月21日付の異議決定及び平成18年3月14日付の裁決においていずれも棄却された。
ホ 請求人のJ銀行○○支店の個人預金口座には、本件譲渡代金のうち、次のとおり合計○○○○円(以下「本件金員」という。)が振り込まれている。

 平成13年5月○日○○○○円
 平成14年1月○日○○○○円

 なお、本件譲渡代金のうち未払いとなっている98,600,596円(以下「滞納法人の未収債権」という。)を除いた金額は、請求人ほか4名(以下、これら5名を併せて「請求人ら」という。)の各個人預金口座に振り込まれている。
ヘ 滞納法人は、株式会社L(以下「L社」という。)及び株式会社M(以下「M社」という。)との間で概要別表2のとおりの金銭消費貸借契約(以下、滞納法人とL社との間の契約2件を併せて「本件A原契約」、滞納法人とM社との間の契約を「本件B原契約」といい、これらを併せて「本件原契約」という。また、本件A原契約に基づく貸付金合計額292,494,980円を「本件A貸付金」、本件B原契約に基づく貸付金94,070,490円を「本件B貸付金」といい、これらを併せて「本件貸付金」という。)を締結するとともに、その後、本件原契約の弁済期等を変更する旨約した概要別表3の覚書(以下「本件覚書」という。)を作成した。
ト 請求人は、請求人の住所地を所轄するN税務署長に対し、本件金員は滞納法人の株式を譲渡したことによる収入であるとして、平成13年分及び同14年分の所得税の確定申告書に別表4の「確定申告」欄のとおり記載してそれぞれ法定申告期限内に提出していたところ、同税務署長は、本件金員は株式の譲渡代金ではなく滞納法人からの役員報酬(認定賞与)であるとして、請求人に対し、平成17年3月28日付で別表4の「更正処分」欄のとおり更正処分を行っている。

(4) 関係法令

 徴収法第39条は、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に滞納者がその財産につき行った政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡(担保の目的でする譲渡を除く。)、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免れた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他の特殊関係者であるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨、また、国税徴収法施行令第14条《無償又は著しい低額の譲渡の範囲》は、徴収法第39条に規定する政令で定める処分は、国及び法人税法第2条第5項(公共法人の定義)に規定する法人以外の者に対する処分で無償又は著しく低い額の対価によるものとする旨規定している。

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2 主張

 請求人及び原処分庁の主張は、別紙のとおりである。

3 判断

(1) 本件告知処分に係る手続等の違法性の存否について

イ 不服申立中に行われた本件告知処分の瑕疵
 本件滞納国税は、上記1の(3)のハのとおり、平成16年9月28日付で行われた本件更正処分等により納付することとなった法人税等であることが認められるところ、滞納法人は、上記1の(3)のニのとおり、本件更正処分等を不服として、平成16年11月24日に異議申立てを行い(平成17年2月21日付の異議決定で棄却)、更に平成17年3月16日に審査請求を行っている(平成18年3月14日付の裁決で棄却)ことが認められるから、本件告知処分は、請求人が主張するように、これらの不服申立中に行われたものであることが認められる。
 しかしながら、「国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立ては、その目的となった処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。」とする通則法第105条第1項の規定に照らせば、たとえ本件告知処分が、その基礎となっている本件更正処分等に対する不服申立中に行われたものであっても、そのことをもって本件告知処分が違法となるものでないことは法令上明らかである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 第二次納税義務者が有する催告の抗弁権及び検索の抗弁権の侵害
(イ) 第二次納税義務制度の趣旨は、形式的には第三者に財産が帰属しているが、実質的には納税者にその財産が帰属していると認めても公平を失しないような場合に、その形式的な財産帰属を否認して、私法秩序を乱すことを避けつつ、その形式的に財産が帰属している者に対し補充的に納税義務を負担させることにより、租税徴収の確保ないしその手続の合理化を図るというところにある。そして、特にその一態様としての徴収法第39条に規定する第二次納税義務は、納税者が無償譲渡等をなし、そのため租税の徴収ができなくなった場合、通常、その無償譲渡等を詐害行為として取り消し、財産を納税者に復帰させた上で滞納処分を執行できるのであるが、そのためには訴訟手続を経ることを要するところ、租税に対する詐害行為のすべてについて訴訟を待って処理すべきものとすれば、租税の簡易迅速な徴収確保を期し得ないことから、詐害行為の典型的な場合として、無償譲渡等の受益者に対し端的に一定限度で納税義務を負担させることとし、もって、実質的には詐害行為の取消しをしたと同様の効果を得ることを骨子とするものであり、その納税義務を負わせることができる場合とは、同条に定められているとおり、次の要件をすべて満たす場合である。
A 滞納者が、無償譲渡等をしたこと。
B その無償譲渡等が、国税の法定納期限の1年前の日以後にされたものであること。
C 滞納者の財産につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められること。
D その国税に不足すると認められることが、その無償譲渡等に基因すると認められること。
(ロ) そして、徴収法第39条に規定する無償譲渡等により第二次納税義務を負わせることの適否を判断するに当たっては、この制度の趣旨に照らし、法令上定められた上記(イ)の要件をすべて満たしているか否かという法適合性の観点から判断されるべきであり、第二次納税義務を負わされた者がこれを不服とする場合には、当該要件の欠如又は不備を指摘して争うべきである。
また、請求人が主張するような民法上の保証債務に適用される催告の抗弁権及び検索の抗弁権は、法令上第二次納税義務の場合に認められていない。

したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 財産調査及び滞納処分のけ怠に伴う第二次納税義務の免責
(イ) 第二次納税義務は、主たる納税義務が申告又は更正等により具体的に確定したことを前提として、その確定した税額につき本来の納税義務者の財産に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に、租税徴収の確保を図るため、本来の納税義務者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような特別の関係にある第三者に対して補充的に課される義務であって、その納付告知は、形式的には独立の課税処分ではあるけれども、実質的には、当該第三者を本来の納税義務者に準ずるものとみてこれに主たる納税義務についての履行責任を負わせるものにほかならない。この意味において、第二次納税義務の納付告知は、主たる課税処分等により確定した主たる納税義務の徴収手続上の一処分としての性格を有し、当該納付告知を受けた第二次納税義務者は、あたかも主たる納税義務について滞納処分を受けた本来の納税義務者と同様の立場に立つものと解される(最高裁昭和50年8月27日第二小法廷判決参照)。
 したがって、納付告知によって具体的に確定した第二次納税義務者の第二次納税義務は、納付告知後に主たる納税者の財産に変動があったとしても、いったんなされた第二次納税義務の告知処分の効力には何ら影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。
(ロ) また、主たる納税者の納税義務と第二次納税義務者の納税義務とは別個独立のものであるから、第二次納税義務の成立に関し、滞納者の国税につきあらかじめ滞納処分を執行することは必要でない(最高裁昭和47年5月25日第一小法廷判決及びその第一審である昭和43年2月29日長崎地裁判決参照)。
(ハ) そうすると、本件告知処分は、請求人に対し、滞納法人から無償譲渡等により利益を受けたとする○○○○円を限度額として納税義務を負わせているものであり、その効力については、本件告知処分後の滞納法人の財産の変動や滞納法人に対する滞納処分の有無によって何ら影響されるものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 課税権の濫用
 第二次納税義務の納付告知は、上記ハの(イ)で述べたとおり、主たる課税処分等により確定した主たる納税義務の徴収手続上の一処分としての性格を有し、当該納付告知を受けた第二次納税義務者は、あたかも主たる納税義務について徴収処分を受けた本来の納税義務者と同様の立場に立つとされており、また、第二次納税義務者は、主たる課税処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消しによってこれを回復すべき法律上の利益を有するとされていることから(最高裁平成18年1月19日第一小法廷判決参照)、第二次納税義務者である請求人が、主たる課税処分、すなわち滞納法人に対する本件更正処分等について不服を申し立てることは可能であるとしても、本件更正処分等とは全く別個の処分である請求人らに対する所得税の更正処分について、それが不統一であること及び課税権の濫用があるといったことを理由に本件告知処分を争うことはできないというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 納付期限前の督促
 請求人が主張する納付期限前の督促とは、納税者サービスの一環として税務署長等が一般に行っている期限内納付のための注意喚起又は指導であって、納期限を徒過した場合の納税者に対する通則法第37条《督促》に規定する督促ではない。
 そして、期限内納付の注意喚起又は指導それ自体には、国にとっては滞納の未然防止、また、納税者にとっては無用の延滞税の納付を避けることができることなど合理性があり、それ自体が直ちに違法な行為になると認めることはできない。
 また、当審判所が調査した結果によっても、請求人が主張するような恫喝行為とされる事実があったと認めることもできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(2) 徴収法第39条の適用要件の具備について

イ 徴収不足か否かの財産調査
(イ) 徴収法第39条の適用要件とされている「徴収すべき額に不足する。」か否かの判断は、滞納者のすべての財産を完全に把握した上で行われることが望ましいことは勿論であるが、滞納者のすべての財産を完全に把握するということは事実上困難な場合が多いことに加え、そもそも滞納者のすべての財産を完全に把握した上でなければ第二次納税義務を負わせられないというのでは、上記(1)のロで述べたような租税の簡易迅速な徴収確保を目的とする同条の第二次納税義務制度の実効性が没却されて国税債権の徴収が危うくなると考えられること、さらには、上記(1)のハの(ロ)で述べたとおり、第二次納税義務の成立に関し、滞納者の国税につきあらかじめ滞納処分を執行することは必要でないとされていることから、徴収不足か否かを判断するための財産調査は、権限ある徴収担当職員の合理的な裁量の範囲内で行えば足りると解するのが相当である。
 そして、「徴収すべき額に不足する。」か否かは、ひとえに財産調査によって判明する事項ではあるが、これが不十分であるために「徴収すべき額に不足する。」として第二次納税義務を負わされた者は、同要件の欠缺を理由にこれを争えば足りるのであるから、財産調査そのものに重大かつ明白な瑕疵があれば格別、法令上財産調査そのものが第二次納税義務の手続要件とはされていない以上、財産調査そのものの不備を理由に本件告知処分の違法性を主張することはできないと解される。
(ロ) そこで、当審判所が原処分関係資料を調査した結果によれば、原処分庁所属の徴収担当職員は、徴収法第39条の要件とされている「徴収すべき額に不足する。」か否かという点について、滞納法人の平成15年12月末の決算書及び取引銀行の預金調査等を行い、同法人が所有する財産状況を把握した上で徴収不足と判断していることが認められる。
 そうすると、原処分庁の調査には一応の合理性が認められるものであり、かつ、本件告知処分そのものが無効となるような重大かつ明白な瑕疵があると認めることもできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 徴収不足の判定の時期
 徴収法第39条は、滞納者の国税について滞納処分を執行してもなお徴収できない場合において、滞納者から財産の無償譲渡等を受けた者に対し第二次納税義務を負わせ、もって国税債権の簡易迅速な確保を図ることを目的とするものであるから、請求人が主張するように、無償譲渡等があったとする平成14年12月期末の状況から判断すると、本件のように、本件更正処分等により滞納法人の国税が具体的に確定する前に財産の無償譲渡等があったような場合には、徴収不足の判定自体が不能になり、同条はその目的を達し得なくなる。
 したがって、徴収不足の判定は、第二次納税義務の告知処分を行う時点の近接時で行われるべきであり、それはとりもなおさず告知処分時において判定すべきことにほかならないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 徴収不足の判定
(イ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 本件A貸付金は、平成15年12月期において滞納法人がL社に有していた債権約185百万円(売掛金約135百万円、未収金約70万円及び立替金約49百万円)の振替と、滞納法人の現金・預金約107百万円が原資とされているものであり、また、本件B貸付金は、滞納法人の預金が原資とされているものである。
 そして、滞納法人のL社に対する売掛金約135百万円は、平成14年12月期、平成15年12月期とも変動がなく、本件A貸付金との振替により平成16年12月期において零円になっている。
B 本件原契約及び本件覚書には、債務不履行に関する約定及び担保の提供についての約定は一切なく、また、債務者について連帯保証もされていない。
C 本件覚書の本文には、本件原契約の第3条(弁済期)、すなわち別表2の年返済額を別表3の年返済額のように変更することに合意した旨の記載があり、また、同書の末尾には、変更後の最終回の年返済額について、「なお最終弁済額の弁済方法については、期限到来時別途協議する。」旨記載されている。
D 滞納法人、M社及びL社の3社は、別表5の株主構成のとおり、いずれも関連法人であり、かつ、M社及びL社はP市p町○丁目○の同所に本店所在地を有し営業を行っており、滞納法人も営業を休止するまでは同所で営業を行っていた。
E L社及びM社の平成15年12月期ないし平成17年12月期における各期の営業収益等及び資産負債勘定の状況は、別表6及び別表7のとおりである。
(ロ) 滞納法人の代表取締役U(以下「滞納法人のU社長」という。)は、当審判所に対し、本件原契約及び本件覚書について、要旨次のとおり答述している。
A 本件原契約を締結したのは、滞納法人は休業中であり、資金を寝かせておくよりも貸し付けて利子を得た方が得策だと考えてのことであり、借主側にとっては運転資金である。
B 本件原契約での返済期間31年は、滞納法人をもう一度復活させることは考えていなかったし、場合によっては清算することも考えていたので、長い方がいいだろうということで決めたものである。また、融資利率1%は、銀行の貸出利率が3%未満であったのでそのように決めたが、特別の理由があってのものではない。貸付先がグループ法人であるから低い方がいいだろうということであったと思う。
C 本件貸付金について、担保や保証人を付けるということはグループ法人間ではそのようなことは行われていないのが通常であり、債務不履行があった場合どうするかというようなことも念頭にはなかった。しかし、Sグループ全体では、返済可能な状況である。
D まだ一度も返済を受けていない時期に、本件原契約の内容を本件覚書で変更したのは、私も歳で10年経つと○歳になるので、トラブルがあったら困るし、私が返済期間を10年くらいにした方がいいと思ったからであり、関与税理士のアドバイスもあってのものである。
E 本件覚書の最終弁済額は、L社もM社もその資力からみて支払えると判断していたので、一括弁済を前提にして決めたものであり、本件覚書に記載されている「最終弁済額の返済方法については、期限到来時別途協議する。」との文言は、万一のことを考えて入れたものである。
 当事者同士では、最終弁済額は一括弁済である旨の口頭契約はあるが、それを示す証書はない。
(ハ) 本件貸付金の評価
A 差押財産の公売の際における貸付金等の債権の評価については、本件評価通達第7章「5.債権」に「貸付金等の債権の評価は、一定利率の下で複利計算して一定期間後に一定額を受け取るために現在要する額を算出する方法(K=(1+i)-n、K=試算価格、i=還元率、n=履行期限)により行うものとする。なお、債権の評価に当たっては、その債権に担保が付されていることの有無及び第三債務者の資力状況によって、その価値に差異があることに留意する。」旨定められているところ、請求人はこれを争わず、当審判所もこの評価方法には合理性があり相当と認めるものである。
 したがって、貸付債権を評価するに当たっては、上記算式によって得られた結果のみに捕らわれることなく、国税債権の徴収確保という観点から、差し押さえた財産が公売によって国税債権額に見合う額で確実に回収できるものか否かという観点からも検討されてしかるべきであり、そのためには、貸付条件の内容等をも考慮に入れ、特定の者の主観的価値や愛着的価値によることなく、客観的な交換価値、すなわち市場性をもった交換価値であるか否かという総合的な見地から行うのが相当である。
B そこで、上記(イ)の事実から、本件A貸付金の貸付先であるL社についてみると、次のことが認められる。
(A) 平成15年12月期ないし平成17年12月期の営業収益は、3年平均で約7,400万円弱、同営業利益は、年平均約860万円の赤字となっているところ、本件A貸付金の一部は、当該年平均営業収益の約2.5倍もの約185百万円が債務勘定から振り替えられていること。
(B) 滞納法人が本件A貸付金に振り替えた売掛金約135百万円については、L社が少なくとも2年間未払いであったものであること。
(C) 経常利益は、平成15年12月期は約100万円の赤字、平成16年12月期は約60万円の黒字、平成17年12月期は営業外収益として有価証券売却益が約47百万円計上された結果約18百万円の黒字となっていること。
 さらに、本件B貸付金の貸付先であるM社についてみると、次のことが認められる。
(D) 平成15年12月期ないし平成17年12月期の営業収益は、3年平均で約4,300万円、同営業利益は、年平均約1,650万円の赤字となっていること。
(E) 経常利益は、平成17年12月期において営業外収益として有価証券売却益が約1,300万円計上された結果約1,200万円の黒字となっているものの、年平均で約1,500万円の赤字となっていること。
(F) 財務状態は、各期とも1億円を超す債務超過状態にあること。
C 本件原契約は、本件覚書でその返済期間の短縮が行われているが、上記Bのとおり、L社及びM社の営業収益等及び財務状態からみれば、弁済期間の大幅な短縮は両社にとっては極めて不利な契約内容の変更であり、また、本件原契約締結時からわずか1年又は数か月の間に一度の返済も行われないままそのような契約内容の変更が可能となる特段の経営状態の変化があったとも認められないから、本件覚書に記載のある「最終弁済額の弁済方法については、期限到来時に別途協議する。」という条項は、請求人が主張し、また、滞納法人のU社長も答述しているように、必ず最終一括弁済が行われるということが前提ではなく、むしろ、当該条項の文理解釈どおり不確定要素を含んだ返済期限に変更したものと認めるのが相当であり、これを覆す明確な証拠も存しないというべきである。
 したがって、本件原契約は、1貸付金額が多額であるにもかかわらず無担保で連帯保証人もいないこと、また、2無担保であるにもかかわらず返済期間が長期で、かつ、低利であること、3返済期限が不確定要素を含み、かつ、債務不履行に関する約定がないことから、一般的な金銭消費貸借契約とは異なり、Sグループ内においてのみ通用する契約ということができる。
D また、請求人は、Sグループ全体では弁済に危険はない旨主張し、この点について、滞納法人のU社長も、当審判所に対し、請求人の主張と同趣旨の答述を行っているが、契約社会にあっては、保証人でもないグループ他社が、連帯してL社及びM社の債務を負担する義務は法的に全くなく、必ずそのように実行されるという保証もないのであるから、上記主張及び答述は、人格の異なる法人を同一視しているものであり、本件貸付金の評価に当たって採用できるものではない。
E そうすると、請求人が、本件評価通達の計算式に従い、本件貸付金を同人が採用した複利現価率2%によって算定した本件原契約に係る別添1の評価額328,891,820円に一応の合理性が認められたとしても、同通達にも定められているように、「債権の評価に当たっては、その債権に担保が付されていることの有無及び第三債務者の資力状況によって、その価値に差異があることに留意する。」こと、すなわち、上記Cのとおり、本件原契約は、無担保で連帯保証人もなく、長期かつ低利で、返済期限が不確定要素を含んでいることに加え、債務不履行に関する約定もない契約であるから、この点を一切加味しないで算定されている上記評価額をもって徴収法第39条の「徴収すべき額に不足」しないと主張する根拠としているのは相当でないというべきである。
 また、原処分庁の算定している別添2の評価額77,544,310円についても、請求人が主張するように、年賦により年々逓減していく貸付金残額を無視した計算となっていることからこれを根拠とするのも相当でない。
F そこで、本件貸付金については、公売を前提とした客観的な交換価値、すなわち市場性をもった交換価値か否かという総合的な見地からみるのが相当というべきところ、上記Bで述べたL社及びM社の営業収益等及び財務状態並びに上記Cで述べた本件原契約の内容をもってすれば、社会通念上、本件貸付金は、Sグループ内でのみ通用するものであり、しかもその回収には相当のリスクを伴うものであることが十分予測されることから、その市場性は限られたものとなり、公売を前提とした客観的な交換価値としての評価は極めて低い額になるものと思料される。
 さらに、本件貸付金については、返済期限が不確定要素を含んでいること及び債務不履行に関する約定がないことを併せ考慮すれば、むしろ上記(ハ)のAの市場性をもった交換価値を認めることはできず、公売財産として不適当なものというべきであるから、徴収不足の判定から除外するのが相当である。
(ニ) 滞納法人の未収債権
A 当審判所が、原処分関係資料等を調査した結果によれば、T社と滞納法人との間のロイヤリティーの支払を巡る訴訟とも絡んで、滞納法人の未収債権98,600,596円は、その存在を巡って滞納法人(又は株主)とH社(又はその親会社であるT社)との間で争いがあるところ、本件資産購入契約書に基づいて滞納法人の営業資産を譲り受けたH社は、滞納法人に対し、平成17年3月17日付の相殺通知書により、滞納法人の未収債権(すなわちH社にとっての債務)98,600,596円はT社から譲り受けた債権(T社が滞納法人に対して有する債権)100,659,376円とで相殺した旨通知しており、一方、この通知を受けた滞納法人は、H社に対し、平成17年4月1日付の通知書により、T社に対する債務100,659,376円は一切存在しないので、相殺通知も効力が生じない旨通知していることが認められる。
B そうすると、滞納法人のH社に対する未収債権98,600,596円は、その存在自体に争いがある債権というべきであり、上記(ハ)のAの市場性をもった交換価値という点に照らせば、争いのある債権に市場性をもった交換価値を認めることはできず、徴収不足の判定に当たっては、除外するのが相当である。
(ホ) 本件還付金
 本件還付金は、第二次納税義務者である請求人に帰属するものであるから、徴収法第39条に規定する「徴収すべき額に不足する。」か否かの判定に当たっては、本件滞納国税から本件還付金を差し引いた後の金額とすべきである旨の請求人の主張は失当である。
(ヘ) 徴収不足か否かの判定
 徴収不足の判定は、その告知処分時をもって行うべきであることは、上記ロで述べたとおりであり、本件告知処分時の滞納法人の主な資産として、本件貸付金及び滞納法人の未収債権以外に、売掛金19,900,322円、未収入金2,353,956円及び仮払金20,475,100円の合計額42,729,378円があることが認められる。
 そうすると、上記資産の合計額42,729,378円をもって本件滞納国税の額に満たないことは明白というべきである。
 したがって、本件告知処分時において、滞納法人の財産は、「徴収すべき額に不足する。」状態であったとみるのが相当である。
ニ 無償譲渡等か否か
 徴収法第39条に規定する無償譲渡等とは、必ずしも贈与、売買、債務の免除等特定の行為類型に属している必要はなく、広く第三者に利益を与えることとなるものをいい、課税において役員報酬(認定賞与)とされたものであっても、役務の対価となっていない部分がある場合には、その部分について無償譲渡等に当たると解するのが相当である。
 これを本件についてみると、上記1の(3)のハ及びニのとおり、本件更正処分等が取り消されていない以上、本件譲渡代金が株式譲渡代金ではなく営業資産の譲渡代金として滞納法人に帰属すること、また、請求人の預金口座に振り込まれた本件金員も同法人から請求人に対する役員報酬(認定賞与)として課税されていることを前提に判断する必要があるところ、請求人は、上記1の(3)のトのとおり、同人の預金口座に振り込まれた本件金員について、株式譲渡収入として所得税の確定申告を行っていることからも明らかなとおり、役務の対価として享受したものでもないことを自認しているというべきであるから、原処分庁が、役員報酬(認定賞与)とされた本件金員の全額が役務の対価ではなく、滞納法人から無償譲渡等を受けたものであるとしたのは相当というべきである。
 したがって、請求人のこの点に関する主張には理由がない。
ホ 徴収不足が無償譲渡等に基因するか否か
 徴収不足が無償譲渡等に基因するか否かについては、広く、その無償譲渡等がなかったならば徴収不足が生じなかった場合をいうものと解されるところ、滞納法人は、上記1の(3)のイのとおり平成13年○月○日以降事業活動を休止しており、本件金員の振込み後から本件告知処分の時までに本件滞納国税を徴収することができる他の財産を取得した事実は認められないことから、徴収不足は、本件金員の振込みの時から継続しており、本件金員の振込みに基因していると認めるのが相当である。

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(3) 結論

 以上のとおり、徴収法第39条に規定する第二次納税義務の要件は、上記(1)のロの(イ)のとおりであり、本件においては、1上記(2)のニのとおり、本件金員の振込みが無償譲渡等に当たること、2上記1の(3)のホのとおり、本件金員の振込みが、別表1の法定納期限の1年前の日以後にされていること、3上記(2)のハの(ヘ)のとおり、徴収すべき額に不足すると認められること、4上記(2)のホのとおり、徴収不足が本件金員の振込みに基因していることから、その要件を満たしており、また、請求人が主張するような違法な点は認められず、本件告知処分は適法である。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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