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(平19.2.13、裁決事例集No.73 464頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、相続税の延納許可を受けていた審査請求人(以下「請求人」という。)に対し、当該延納税額の滞納があり、延納条件どおりの納付が見込めないことを理由に同許可の取消処分をしたのに対し、請求人が、上記滞納は少額であり、弁明の機会も付与されずにされた同処分は違法であるとして、その全部の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人、A、B、C及びDの5名(以下、これら5名を「請求人ら5名」という。)は、Eの共同相続人であり、平成3年4月1日に原処分庁に対し、同人の死亡(平成2年9月○日)により開始した相続に係る相続税の申告書を提出するとともに、その申告に係る税額○○○○円について、請求人ら5名所有の土地及び建物を担保として提供し、相続税の延納許可を申請した。

原処分庁は、これを受けて、請求人ら5名に対し、それぞれ平成4年1月23日付で延納を許可し(以下、請求人に対するものを「本件延納許可」という。本件延納許可の条件は、別表1のとおりである。)、担保として提供された請求人ら5名所有の土地及び建物について、同日に抵当権を設定した。
ハ 原処分庁は、請求人ら5名について、延納許可に係る分納税額が滞納となっており、今後も分納税額の期限内納付が見込めないとして、それぞれ平成16年9月24日付で、同日以降に納期限の到来する分納税額について、延納許可の取消処分(以下、請求人に対するものを「本件延納許可取消処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件延納許可取消処分を不服として平成16年11月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成17年2月3日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、本件延納許可取消処分及び異議決定の双方に不服があるとして平成17年2月28日に審査請求をした。

(3) 関係法令

イ 相続税法(平成15年法律第8号による改正前のもの。以下同じ。)第40条第2項は、税務署長は、延納の許可を受けた者が延納税額(当該税額に係る利子税又は延滞税に相当する額を含む。)の滞納その他延納の条件に違反したときは、その許可を取り消すことができる旨、また、この場合においては、あらかじめその者の弁明を聞かなければならない旨規定している。
ロ 国税通則法(以下「通則法」という。)第12条《書類の送達》第4項は、交付送達は、当該行政機関の職員が、送達すべき場所において、その送達を受けるべき者に書類を交付して行う旨規定し、同条第5項第1号は、送達すべき場所において書類の送達を受けるべき者に出会わない場合、その使用人その他の従業者又は同居の者で書類の受領について相当のわきまえのあるものに書類を交付することにより、同項第2号は、書類の送達を受けるべき者その他同項第1号に規定する者が送達すべき場所にいない場合又はこれらの者が正当な理由がなく書類の受領を拒んだ場合、送達すべき場所に書類を差し置くことにより、同条第4項に規定する交付に代え、交付送達ができる旨規定している。

(4) 争点

争点1 相続税法第40条第2項に規定する延納税額の滞納の事実があるか否か。
争点2 本件における弁明手続は適法にされたか否か。
争点3 原処分庁が行った延納許可の取消しの判断に違法はあるか否か。
争点4 本件延納許可取消処分は信義則違反となるか否か。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙のとおりである。

3 判断

(1) 争点1 相続税法第40条第2項に規定する延納税額の滞納の事実があるか否か。

イ 認定事実
 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)  請求人の代理人であるF税理士は、平成16年2月2日に徴収担当職員と面談の上、別表3の番号2ないし4記載の各土地につき、担保の解除を求めたが、徴収担当職員は、同日時点において、請求人ら5名の延納許可に係る必要担保額が○○○○円であるのに対し、別表3記載の担保の評価額は、平成15年の路線価で評価した○○○○円(番号1ないし5及び7記載の各物件は○○○○円、番号6記載の物件は○○○○円、番号8及び9記載の各物件は○○○○円、番号10及び11記載の各物件は○○○○円の総額○○○○円)であると判断し、担保不足を理由に担保の一部解除は認められず、滞納が解消されなければ延納許可は取り消される旨の説明をした。また、徴収担当職員は、平成16年3月23日に請求人の代理人であるG弁護士及びF税理士と面談し、担保の一部解除及び延納許可の取消しについて同年2月2日の面談の際と同趣旨の説明をした。
(ロ)  請求人は、第13回利子税の額については、分納期限以後、本件延納許可取消処分がされた日までに完納していなかった。
ロ 判断
(イ)  請求人は、第13回利子税の額については、わずかに○○○○円と少額であり、請求人の所得金額と比較しても、相続税法第40条第2項に規定する滞納に該当しない旨主張する。
 しかしながら、相続税法第40条第2項に規定する延納税額の滞納に該当するか否かは、滞納金額の多寡によって左右されるべきものではないと解するのが相当であるから、請求人の上記主張は採用できない。
(ロ)  請求人は、原処分庁に対し、第13回利子税の額について、これに見合う担保不動産の売却を申し出たが、原処分庁がこの申出に応じなかったために滞納となったのであるから、当該滞納について請求人に帰責事由はなく、また、税務署長が複数の不動産を延納許可に係る担保としている場合、当該不動産全体で評価割れしているとの理由だけで、一部の不動産の任意売却さえ認めず、別途の金銭を用立てして納税を求めることには法的根拠がないから、相続税法第40条第2項に規定する滞納には該当しない旨主張する。そして、請求人は、上記主張事実に沿う答述をする。
 しかしながら、延納の許可をする場合には、その延納税額に相当する担保を徴さなければならないところ、この担保は、当該国税が期限までに完納されないときには、担保を換価して優先的にその国税の徴収を図るという債権確保の手段であるから、その国税を徴収できる金銭的価値を有するものでなければならない。
 そして、国税通則法施行令第17条《担保の解除》第1項によれば、担保の解除は、担保の提供されている国税が完納された場合等その担保を引き続いて提供させる必要がないこととなったときに行われるものであるところ、税務署長が納税者から延納税額に相当する以上の評価額の担保を複数徴している場合には、税務署長の裁量において、その超過する評価額に相当する一部の担保を解除することは可能と解されるが、担保の評価額が必要担保額に不足する場合には、担保を解除すべき理由はない。そして、このことは、納税者が担保の解除を求める理由が、当該担保を任意売却して売却代金を国税の納付に充てようとするためであるとしても、何ら異なるところはない。
 これを本件についてみるのに、上記イの(イ)によれば、原処分庁は、平成16年2月2日及び同年3月23日時点における請求人ら5名の延納許可に係る必要担保額が○○○○円である一方、これに対する担保の評価額は○○○○円であり、担保の評価額が必要担保額に不足していると判断したものであるところ、担保の評価額は路線価に基づくものであって相当であり、当審判所の調査によっても、原処分庁の当該判断を不相当とする点は認められない。
 そうすると、原処分庁が請求人の担保不動産の任意売却の申出に応じなかったからといって、何ら違法又は不当ではないから、請求人の上記主張は採用できない。

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(2) 争点2 本件における弁明手続は適法にされたか否か。

イ 認定事実
原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)  原処分庁は、請求人に対し、相続税の第13回分納税額が納付されていないことについて、弁明すべき事情があれば、平成16年6月18日までに書面又は来署の上、説明をするよう求める旨の同月8日付の本件通知書(以下「第1回通知」という。)を配達証明郵便により送付したが、受取人不在による保管期間満了を理由に同月21日H郵便局から返送された。
(ロ)  原処分庁は、第1回通知が返送されたことから、徴収担当職員に命じ、平成16年6月23日に弁明の期限を同月30日と定めた同月23日付の本件通知書(以下「第2回通知」という。)を携えさせ、請求人の自宅に赴かせた。請求人の自宅は、門扉、フェンスで遮られており、徴収担当職員は、呼鈴を鳴らしたが応答はなかった。そこで、徴収担当職員は、門扉横の郵便受けに郵便物が放置されているような状況は見受けられなかったことから、請求人がそこに居住しているものと判断し、第2回通知を上記郵便受けに投函したが、上記期限までに請求人からの連絡等はなかった。
(ハ) そこで、原処分庁は、再度徴収担当職員に命じ、平成16年8月18日に弁明の期限を同月25日と定めた同月18日付の本件通知書(以下「第3回通知」という。)を携えさせ、請求人の自宅に赴かせた。徴収担当職員は、呼鈴を鳴らしたが、応答がなかったことから、第3回通知を門扉横の郵便受けに投函したが、上記期限までに請求人からの連絡等はなかった。
ロ 判断
請求人は、送達すべき場所に継続して居住しており、かつ書類の受領を拒んだ事実はないから、送達の効力が生じておらず、したがって、請求人には、相続税法第40第2項に規定する弁明の機会が付与されていないから、弁明手続は違法である旨主張する。しかしながら、通則法第12条第5項第2号に規定する「書類の送達を受けるべき者その他前号(同項第1号)に規定する者が送達すべき場所にいない場合」とは、単なる不在の場合も含み、「これらの者が正当な理由がなく書類の受領を拒んだ場合」とは、これらの者が送達すべき場所にいて、書類の受領を拒んだ場合が該当するものと解される。
 これを本件についてみるのに、上記イによれば、原処分庁は、請求人に弁明の機会を与えるために平成16年6月8日付で第1回通知を請求人の自宅にあてて送付したが、受取人不在による保管期間満了を理由に返送されたことから、同月23日及び同年8月18日の2度にわたり、請求人の自宅を訪れたものの、いずれも請求人は不在であったのであるから、当該事実は、通則法第12条第5項第2号に規定する書類の送達を受けるべき者等が送達すべき場所にいない場合に該当すると認められる。そうすると、第2回通知及び第3回通知は、適法に差置送達されたものというべきであり、請求人は、これに対していずれも弁明の期限までに弁明をしなかったのであるから、本件における弁明手続は適法にされたというべきである。
 したがって、請求人の上記主張は採用できない。

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(3) 争点3 原処分庁が行った延納許可の取消しの判断に違法はあるか否か。

イ 法令解釈
 相続税法は、相続税の延納制度を設け、相続人が多額の経済的支出を一時に負担することを緩和し、また、相続人が相続税を納付するために不動産等を売り急ぐという不利益を被ることを防止するとともに、仮に滞納があっても、直ちに延納許可を取り消すのではなく、滞納者に弁明を求めることとしている。
 これらによれば、延納許可の取消しに関する判断は、滞納者の滞納に至った理由や今後の納付意思及び支払能力の有無等を総合考慮した税務署長の合理的な裁量にゆだねられているものと解されるから、税務署長の裁量権の行使としての延納許可取消処分は、考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮してされたとか、その判断が合理性をもつ判断として許容される限度を超えたものであるなど、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り、違法となるというべきである。
ロ 判断
これを本件についてみるのに、上記(2)のイの(ロ)及び(ハ)によれば、請求人は、第13回利子税の額を滞納していた上、原処分庁によって2度にわたり、このことについて弁明の機会を与えられたにもかかわらず、いずれも弁明の期限までに弁明を行わなかったものである。そうすると、原処分庁が、請求人に対し、滞納に至った理由や今後の納付意思を確認しようにも、これをすることができなかったといわなければならない。そして、原処分庁は、上記滞納について、弁明をしなかった請求人の支払能力の有無の点について、積極的に調査すべき義務を負うものではないと解される。
 これに対し、請求人は、毎年数千万円ある請求人の所得金額に比較して滞納額が少額であるから、その滞納のみを理由として延納許可を取り消すことは権利の濫用であり、違法である旨主張する。しかしながら、仮に、請求人が主張するように第13回利子税の額○○○○円に比較して余りあるほどの所得を得ていたというのであれば、請求人が、これをその分納期限である平成16年4月1日から本件延納許可取消処分がされた同年9月24日までに納付しなかった合理的な理由は存在しないといわなければならない。また、仮に、滞納に至った何らかの理由があったとしても、請求人は、これを原処分庁に対して明らかにしなかった。
 以上によれば、原処分庁は、その把握し得る事項を考慮の上、本件延納許可取消処分をしたというべきであり、その判断に裁量権の逸脱や濫用は認められないから、請求人の上記主張は採用できない。

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(4) 争点4 本件延納許可取消処分は信義則違反となるか否か。

 請求人は、第13回利子税の額の滞納が、相続税法第40条第2項に規定する滞納に該当する(争点1)としても、当該滞納は少額であり、これを原因として延納許可を取り消すことは、原処分庁と請求人とが協議により分割支払額等を決定し、納付してきたというこれまでの経緯に照らせば、信義誠実の原則に反し違法である旨主張する。
 ところで、租税法規に適合する徴収処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、徴収処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、同法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお国税の徴収を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて同法理の適用の是非を考えるべきものである。そして、特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、のちに同表示に反する徴収処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の同表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて、納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮が不可欠というべきである。
 これを本件についてみると、仮に、第13回利子税の額○○○○円を含め原処分庁と請求人とが協議により分割支払額等を決定し、納付してきたというこれまでの経緯があったとしても、このような経緯により、原処分庁が請求人に対し、黙示的にも第13回利子税の額の滞納を原因として延納許可を取り消さないという見解を表示したことにはならないというべきであり、当審判所の調査によれば、原処分庁は、むしろ、こうした滞納を黙認することなく、請求人に対し、当該利子税の額を納付するようしょうようをしてきたことが認められる。そうすると、このような場合に信義則の法理が適用される余地はない。
 したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(5) 以上のとおり、上記各争点について原処分に違法はない。

 また、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(6) 請求人は、異議決定の取消しを求めているが、通則法第76条《不服申立てができない処分》の規定によれば、異議決定に対する審査請求は認められないから、当該審査請求は不適法である。

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