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(平19.3.29、裁決事例集No.73 495頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の平成16年4月1日から平成17年3月31日までの課税期間(以下「平成17年3月課税期間」という。)に係る基準期間(平成14年9月17日から平成15年3月31日までの課税期間、以下「本件基準期間」という。)における課税売上高は1,000万円以下であるから、平成17年3月課税期間については、請求人は消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項本文の規定の適用がある事業者(以下「免税事業者」という。)に該当し、同法第46条《還付を受けるための申告》第1項等に規定する還付申告はできないなどとして原処分を行ったのに対し、請求人が、本件基準期間における課税売上高は1,000万円を超えているから、平成17年3月課税期間については同法第9条第1項本文の規定の適用がない事業者(以下「課税事業者」という。)に該当するとして、同処分の一部又は全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 平成16年4月1日から平成17年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税に係る更正処分(以下「本件法人税更正処分」という。)に対する審査請求に至るまでの経緯は、別表1−1のとおりである。
ロ 平成15年4月1日から平成16年3月31日までの課税期間(以下「平成16年3月課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件消費税等通知処分」という。)に対する異議申立てに至るまでの経緯は、別表1−2のとおりである。
ハ 平成16年3月課税期間及び平成17年3月課税期間の消費税等に係る各更正処分(以下、それぞれ「平成16年3月課税期間消費税等更正処分」及び「平成17年3月課税期間消費税等更正処分」といい、これらを併せて「本件消費税等各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件消費税等各賦課決定処分」という。)に対する異議申立てに至るまでの経緯は、別表1−3のとおりである。
ニ なお、上記ロ及びハの本件消費税等通知処分並びに本件消費税等各更正処分及び本件消費税等各賦課決定処分に対する異議申立てについては、異議審理庁が、国税通則法(以下「通則法」という。)第89条《合意によるみなす審査請求》第1項の規定により審査請求として取り扱うことが適当であると認め、請求人に同意を求めたところ、請求人が平成18年9月11日に同意したので、同日に審査請求がされたものとみなし、上記イの本件法人税更正処分に対する審査請求と併合審理する。

(3) 関係法令等

 別紙1のとおりである。

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(4) 基礎事実

イ 本件におけるD装置の取引の状況
(イ) 請求人は、E社から平成14年12月19日付で要旨下記AないしCのとおり記載したD装置の見積書の送付を受け、当該見積書に、同日付で下記B及びCを発注する旨を記載して、これをE社に返送した。
A D装置a設備新設工事(○○当たり)一式1,800,000円
B D装置b設備(○○当たり)一式1,533,000円
C D装置c設備(○○当たり)一式2,148,000円
(ロ) 請求人は、F社から、平成15年3月7日付で、請求人が上記(イ)で発注した別表3記載のD装置部品(以下「本件部品」という。)に係るE社に対する権利義務(以下「本件部品権利義務」という。)は、じ後一切F社が引き受ける旨記載した「引き受け書」と題する文書の送付を受けた(以下、当該文書を「本件引受書」という。)。
 なお、F社から請求人にあてた本件引受書には、追ってE社の記名、押印もなされている。
(ハ) 本件部品の納品に係るE社の輸送完了報告(補助票)には、注文先欄は、出荷年月日が平成15年3月中の出荷分までが請求人、同年4月以降の出荷分からはF社と記載されており、送付先欄は、いずれも請求人G工場と記載されている。
(ニ) 本件部品のうち16,284,000円(税抜き)相当分が、平成15年3月31日までに、請求人のG工場へ納入された。
(ホ) 請求人は、平成15年4月24日付で、F社との間において、F社がD装置b設備及びc設備設置工事を、材料(本件部品)費23,316,000円込みの総額128,100,000円(税込み)で請け負い、同工事の実施場所は請求人のG工場とする旨の工事請負契約を締結した。
ロ 本件部品の取引に関する会計帳簿等における記録の状況
(イ) 請求人の会計帳簿等には、本件基準期間以降の各課税期間において、本件部品をE社から仕入れたとする会計上の取引記録(本件部品に係る債務の記録を含む。)がない。
(ロ) E社の平成15年3月31日現在の売掛残明細表には、請求人に対するD装置の売掛金残高が13,902,000円である旨記載されているが、同社の同年4月30日現在の売掛残明細表では、請求人に対するD装置の売掛金残高はなく、F社に対するD装置の売掛金残高が同額である旨記載されている。
(ハ) F社の支払業者台帳(平成15年4月1日から平成16年3月31日までの期間)には、本件部品をE社から24,481,800円(税込み)で仕入れた旨の記載があり、請求人から本件部品(本件部品に係る権利を含む。)の譲渡を受けたとする記載がない。
ハ 本件基準期間の消費税等に関する事項
(イ) 請求人は、平成14年9月○日に資本金の額を○○○○円として設立された法人である。なお、資本金の額は、その後○○○○円に増資されている。
(ロ) 本件基準期間の消費税等に係る確定申告及び修正申告並びに更正処分の状況は別表2のとおりである。
 なお、請求人は、本件基準期間における課税資産の譲渡等の対価の額が1,000万円を超えるとして修正申告をしており、この金額には、上記イの(ニ)の16,284,000円が含まれている。一方、更正処分においては、本件基準期間における課税資産の譲渡等の対価の額は1,000万円以下であるとされ、この金額は○○○○円から上記イの(ニ)の16,284,000円を差し引いた金額である。
ニ 平成16年3月課税期間及び平成17年3月課税期間の消費税等に関する事項並びに本件事業年度の法人税に関する事項
(イ) 請求人は、平成16年3月課税期間においては課税事業者である。
(ロ) 請求人は、消費税課税事業者選択届出書を平成17年3月課税期間の初日の前日である平成16年3月31日までに所轄税務署長に対し提出していない。
(ハ) 請求人は、本件事業年度の所得の金額の計算を、税抜経理方式(消費税等の額と当該消費税等に係る取引の対価の額とを区分して経理する方式)により行っている。
(ニ) 請求人は、平成17年3月課税期間の初日の前日である平成16年3月31日において、同日を含む課税期間である平成16年3月課税期間中に国内において譲り受けた課税仕入れに係る棚卸資産を有しており、当該課税仕入れに係る棚卸資産に係る消費税額は○○○○円である。
(ホ) 請求人は、上記(ニ)の消費税額○○○○円について、消費税の納税義務が免除されることとなった場合の棚卸資産に係る消費税額の調整(消費税法第36条第5項)を行っていない。
ホ 原処分に関する事項
(イ) 原処分庁は、本件基準期間における課税売上高が1,000万円以下であり、かつ、平成17年3月課税期間の初日の前日までに消費税課税事業者選択届出書が提出されていないので、請求人は平成17年3月課税期間においては免税事業者に該当するから、本件事業年度の所得の金額の計算を、税込経理方式(消費税等の額と当該消費税等に係る取引の対価の額とを区分しないで経理する方式)によるべきであるなどとして、本件法人税更正処分をした。
(ロ) 請求人が平成16年3月課税期間の消費税等について更正の請求を行ったところ、原処分庁は、本件基準期間における課税売上高が1,000万円以下であり、かつ、平成17年3月課税期間の初日の前日までに消費税課税事業者選択届出書が提出されていないので、請求人は平成17年3月課税期間において消費税の納税義務を免除されることとなり、上記ニの(ニ)の消費税額○○○○円は、消費税法第36条第5項の規定により、平成16年3月課税期間の課税仕入れ等の税額には含まれないから、平成16年3月課税期間の消費税等の課税標準額等及び還付金の額に相当する税額は別表1−3の「平成16年3月課税期間」の「更正処分等」の欄のとおりであるとして、本件消費税等通知処分並びに平成16年3月課税期間の消費税等に係る更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
(ハ) 請求人が平成17年3月課税期間の消費税等の還付を求める申告をしたところ、原処分庁は、本件基準期間における課税売上高が1,000万円以下であり、かつ、平成17年3月課税期間の初日の前日までに消費税課税事業者選択届出書が提出されていないので、請求人は平成17年3月課税期間においては課税事業者に該当せず、平成17年3月課税期間について消費税法第46条第1項及び地方税法第72条の88《譲渡割の確定申告納付》第2項に規定する消費税等の還付を受けるための申告をすることはできないとして、別表1−3の「平成17年3月課税期間」の「更正処分等」の欄のとおり、平成17年3月課税期間の消費税等に係る更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

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2 争点及び主張

 別紙2のとおりである。

3 判断

(1) 本件基準期間における課税売上高について

 本件では、本件基準期間における課税売上高が1,000万円以下であるか否かについて争いがあり、この点について審理したところ、次のとおりである。
イ 認定事実
 当審判所の調査によれば、平成17年3月24日付で、請求人からH税務署長あてに、平成16年3月26日に郵送した消費税課税事業者選択届出書が不可抗力で未提出となった旨及びこれは消費税法施行令第20条の2第1項に規定する「やむを得ない事情」に該当するので課税事業者の選択を承認してほしい旨を記載した文書が提出されており、当該文書に添付された消費税課税事業者選択届出書の控えには、適用開始課税期間が平成17年3月課税期間、その基準期間が本件基準期間、本件基準期間における総売上高及び課税売上高が、それぞれ1,000万円以下の金額と記載されていることが認められる。
ロ 本件部品権利義務の移転について
 上記1の(4)のイの(イ)及び(ロ)によれば、請求人、F社及びE社の間で本件部品権利義務を一体として請求人からF社に移転する旨の合意があった(以下、当該合意に基づく本件部品権利義務の移転を「本件取引」という。)ものと認められるところ、本件基準期間における課税売上高が1,000万円以下であるか否かについての争いは、帰するところ、本件取引が対価を得て行われる資産の譲渡等に該当するか否かである。
 そして、この点に関し、消費税法では要旨別紙1の1、2及び4のとおり規定されており、また、消費税法基本通達は、別紙1の8及び9のとおり定め、当該通達の取扱いは、消費税法の趣旨に照らして、当審判所においても相当と認められる。
 そこで、本件取引が資産の譲渡等に該当するための要件である対価を得て行われたものか否かについてみると、本件引受書には、本件部品権利義務の移転に係る対価として収受すべき金額の記載がなく、当審判所が本件引受書以外の資料を調査したところによっても、本件取引について、対価を授受する旨の約定があったことを示すものは見当たらない。また、上記1の(4)のロのとおり、本件取引の当事者の会計帳簿等をみても、本件取引に関して請求人とF社との間で対価が授受された旨の記録はない。さらには、上記イによれば、請求人は本件基準期間において本件取引につき対価を授受したとの認識はなかったものと窺える。
 これらの事実からすると、請求人とF社との間の契約により本件取引について対価を授受することとしたとは認めることはできず、したがって、本件取引は、対価を得て行われたものとは認められない。
ハ 請求人の主張について
 請求人は、本件基準期間において、請求人が取得した本件部品引渡請求権を本件引受書により本件部品に係る代金支払債務を引き受けることを見合いにF社が譲り受けたものであり、その譲渡は代金支払債務が消滅するという経済的利益を得ているから対価性がある旨主張する。
 しかしながら、上記ロで述べたとおり請求人、F社及びE社の間で本件部品権利義務を一体として請求人からF社に移転する旨の合意があったものと認めるのが相当であり、そうすると、本件取引は、契約から生じる個々の債権債務のみならず債権債務を発生させた契約についての取消権や解除権も包括的に移転させられる点において、単なる債権譲渡や債務引受とその本質を異にするものである。そして、本件取引に係る対価についても個々の債権債務その他付随的権利関係を一体として評価するのが相当である。これに対し、請求人の主張は、本件取引を個々の債権譲渡と債務引受に分けた上、対価について、本件部品引渡請求権に見合う代金支払債務をあえて対価と捉え、あたかも本件において課税資産の譲渡等の対価があるが如く主張するものであって理由がない。なお、本件取引が対価を得て行われたものとは認められないことは、上記ロで述べたとおりである。
ニ 本件基準期間における課税売上高について
(イ) 上記ロのとおり、本件取引について対価の授受があったとは認められないから、本件基準期間の課税資産の譲渡等の対価の額は、本件基準期間の消費税等の修正申告に係る課税資産の譲渡等の対価の額○○○○円から請求人が本件取引に係る課税資産の譲渡等の対価の額である旨主張する16,284,000円を差し引いた○○○○円であると認められる。
(ロ) 本件基準期間における課税売上高は、本件基準期間が1年に満たないことから、上記(イ)の本件基準期間の課税資産の譲渡等の対価の額に消費税法第9条第2項第2号及び同条第3項の規定を適用して算出すると、1,000万円以下となる。

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(2) 原処分について

イ 本件法人税更正処分
(イ) 「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」(平成元年3月1日直法2−1)の5は、法人税の課税所得金額の計算に当たり、免税事業者については、その行う取引に係る消費税等の処理につき、税込経理方式による旨定めている。免税事業者は、売上げに対して消費税等が課されず、また、仕入れに係る消費税等相当額の控除もできないことからすれば、消費税等の額を取引の対価の額と区分する税抜経理方式は、免税事業者の課税所得金額の計算方法として適切なものとは認められないから、上記通達の取扱いは当審判所においても相当と認められる。
(ロ) 請求人についてみると、上記(1)のニの(ロ)のとおり、本件基準期間における課税売上高は1,000万円以下であり、かつ、上記1の(4)のニの(ロ)のとおり、平成17年3月課税期間の初日の前日までに消費税課税事業者選択届出書を提出していないから、請求人は、平成17年3月課税期間においては免税事業者に該当する。
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)によれば、請求人の本件事業年度の所得の金額の計算に当たっては税込経理方式によることが相当であり、税込経理方式により計算した本件事業年度の所得金額、翌期へ繰り越す欠損金額及び還付金の額に相当する税額は別表1−1の「更正処分」欄の各金額といずれも同額となるから、本件法人税更正処分は適法である。
ロ 本件消費税等通知処分
(イ) 請求人は、上記イの(ロ)のとおり、平成17年3月課税期間において免税事業者に該当するから、消費税法第36条第5項の規定により、上記1の(4)のニの(ニ)の平成16年3月課税期間中に国内において譲り受けた課税仕入れに係る棚卸資産に係る消費税額○○○○円は平成16年3月課税期間の課税仕入れ等の税額に含まれないのであるが、上記1の(4)のニの(ホ)のとおり、当該消費税額が平成16年3月課税期間の申告に係る控除対象仕入税額に含まれている。
(ロ)  原処分関係資料によれば、平成16年3月課税期間の消費税等の更正の請求に係る課税標準額○○○○円は相当であり、控除対象仕入税額○○○○円についても、上記(イ)の消費税額○○○○円を除き、相当と認められる。
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)によれば、平成16年3月課税期間の消費税等の課税標準額等及び還付金の額に相当する税額は別表1−3の「平成16年3月課税期間」の「更正処分等」欄の各金額といずれも同額となり、申告による還付金の額に相当する税額が過少とはなっていないから、本件消費税等通知処分は適法である。
ハ 本件消費税等各更正処分
(イ) 平成16年3月課税期間消費税等更正処分
 上記ロのとおり、平成16年3月課税期間の消費税等の課税標準額等及び還付金の額に相当する税額は別表1−3の「平成16年3月課税期間」の「更正処分等」欄の各金額といずれも同額であるから、平成16年3月課税期間消費税等更正処分は適法である。
(ロ) 平成17年3月課税期間消費税等更正処分
 請求人は、上記イの(ロ)のとおり、平成17年3月課税期間については免税事業者に該当するから、平成17年3月課税期間については消費税法第46条第1項及び地方税法第72条の88第2項に規定する消費税等の還付を受けるための申告をすることができない。
 したがって、平成17年3月課税期間の消費税等の課税標準額等及び還付金の額に相当する税額は別表1−3の「平成17年3月課税期間」の「更正処分等」欄の各金額といずれも同額となるから、平成17年3月課税期間消費税等更正処分は適法である。
ニ 本件消費税等各賦課決定処分
 上記ハのとおり、本件消費税等各更正処分はいずれも適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件消費税等各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてされた本件消費税等各賦課決定処分はいずれも適法である。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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