ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.74 >> (平19.10.24、裁決事例集No.74 274頁)

(平19.10.24、裁決事例集No.74 274頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、未分割財産がある場合における各共同相続人の相続税の課税価格の計算に当たっては、分割済財産を特別受益と同じように考慮に入れ、いわゆる穴埋方式により計算すべきであることなどを理由に更正処分等を行ったのに対し、審査請求人(以下「請求人」という。)が、1未分割財産については、分割済財産を一切考慮することなく、共同相続人それぞれに法定相続分の割合で単純に配分する方法(積上方式)により計算すべきであること、2関係法人に対する貸付金債権の評価額は零円であること及び3P市所在の土地は、広大地であることなどを考慮せずに過大評価していることなどを理由として、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成14年12月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したH(以下「被相続人」といい、この相続を「本件相続」という。)の相続人であり、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、別表1の「申告」欄のとおり記載した相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに原処分庁へ提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成18年6月27日付で別表1の「更正等」欄のとおりの更正処分(以下「第一次更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「第一次賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、第一次更正処分を不服として、平成18年7月13日及び同年8月14日にそれぞれ異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これらの異議申立てを併合審理し、同年10月10日付で、いずれも棄却の異議決定をした。
ニ その後、原処分庁は、平成18年10月17日付で別表1の「再更正等」欄のとおりの更正処分(以下「第二次更正処分」といい、第一次更正処分と併せて「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「第二次賦課決定処分」という。)をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の第一次更正処分に不服があるとして、平成18年10月31日、審査請求をした。
 また、請求人は、第二次更正処分及び第二次賦課決定処分を不服として、平成18年12月15日に異議申立てをしたところ、当該異議申立てについては、国税通則法(以下「通則法」という。)第90条《他の審査請求に伴うみなす審査請求》第1項の規定により同月26日に異議申立書が当審判所に送付されたので、同日、同条第3項の規定により、審査請求がされたものとみなされた。
 そこで、これらの審査請求を併合審理する。

(3) 関係法令等

 関係法令等の要旨は、別紙のとおりである。

トップに戻る

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 本件相続の相続人は、被相続人の妻J、長女K、次女L、三女M、子(非嫡出子)N、養子請求人、養子U、養子V及び養子Wの9名(以下、これら9名を併せて「相続人ら」という。)である。
ロ 被相続人の署名押印があり、かつ、署名された筆跡と同一の筆跡により作成されている平成14年11月12日付遺言書(以下「本件遺言書」という。)には、要旨次のとおり記載されている(本件遺言書によりN以外の共同相続人が取得したこれらの相続財産を、以下「本件分割済財産」という。)。
(イ) Q市q1町○○番所在の土地建物(自宅)は、Jに相続させる。
(ロ) Q市q2町○○番の土地のうち、Kが居住する部分約50坪は同人に、Mが居住する部分約5坪は同人に相続させる。
(ハ) 次の不動産及び動産は、Jに2分の1、K及びMに各28分の4、Lに28分の2、請求人、U、V及びWに各28分の1を相続させる。
A 上記(イ)を除くQ市q1町所在土地建物全部
B Q市q2町v番の土地(駐車場)
C Q市q3町○○番所在土地建物全部
D R市r町○○番所在の借地権及びその地上建物
E P市p1町所在の土地建物
F 有価証券、預貯金及び現金全部
G 絵、書等及び陶器類
(ニ) Nについては、本遺言をもって相続人を廃除する。
ハ 本件遺言書については、民法第1004条《遺言書の検認》第1項の規定に基づき、平成15年2月4日、検認申立人L並びに立会人J(代理人弁護士○○○○)、同U、同K、同M及び同NがX家庭裁判所に出頭の上、同裁判所において平成○年(家)第○号遺言書検認申立事件として検認され、家事審判官○○○○の検認期日調書が作成されており、その後、本件遺言書の無効事由は見当たらず、撤回等がなされた事実又は本件遺言書以外に新たな遺言書が存在した事実も見当たらない。
 また、本件遺言書に記載されていない相続財産(以下「本件未分割財産」という。)については、本審査請求時において、相続人らの間で遺産分割協議が成立していない。
ニ 他の共同相続人からNについての相続人廃除の申立てはされておらず、同人は、法定相続人としての地位に基づき、他の各共同相続人に対し、平成15年5月26日付で遺留分減殺請求通知書を送付している。
ホ 本件申告書には、要旨次の記載がある。
(イ) 請求人の取得財産の価額等は、次表のとおりである。

  各人の合計 請求人
1本件分割済財産
○○○○

○○○○
2本件未分割財産 ○○○○ ○○○○
3取得財産の価額(12 ○○○○ ○○○○
4債務及び葬式費用の金額 ○○○○ ○○○○

(ロ) 別表2記載の各土地(以下、これらを併せて「本件土地」という。)の評価額は247,459,914円である。
 なお、本件土地は、一画地の土地として別表3のとおり評価されている。
(ハ) 次に掲げる土地について、措置法第69条の4第1項の規定による特例(以下「本件特例」という。)を適用する。
A Q市q3町○○番に所在するYに賃貸している建物の敷地部分46.9平方メートル(以下「q3宅地」という。)。なお、q3宅地は、Jが23.45平方メートル、K及びMが各6.70平方メートル、Lが3.35平方メートル、請求人、U、V及びWが各1.6750平方メートルを取得した。
B Q市q1町○○番○及び同番○の被相続人の自宅敷地のうち、Jが取得した183.72平方メートルの部分(以下、この部分を「q1宅地」という。)
(ニ) A株式会社(以下「本件A会社」という。)の株式及びB有限会社(以下「本件B会社」という。)への出資金の評価額は、いずれも零円である。
 また、被相続人の本件A会社に対する貸付金債権12,052,251円(以下「本件A貸付金」という。)及び本件B会社に対する貸付金債権16,017,453円(以下「本件B貸付金」といい、本件A貸付金と併せて、以下「本件貸付金債権」という。)が、上記(イ)の表の「2本件未分割財産」に含まれている。
(ホ) 被相続人が本件A会社に対して負っている未払金債務11,813,077円(以下「本件未払金」という。)は、本件相続における債務として上記(イ)の表の「4債務及び葬式費用の金額」に含まれている。
(ヘ) 上記(ハ)のq3宅地及びq1宅地について本件特例の適用を受けることに同意する旨証する書類(本件申告書第11表の付表1。以下「本件同意書類」という。)には、Nを除く相続人らの記名がある。
ヘ 請求人、L、U、V及びW(以下「請求人ほか4名」という。)は、平成18年○月○日付で、Z家庭裁判所に対し、本件未分割財産のうち、S市s町○○番の宅地、P市p2町○○番の山林及び本件貸付金債権について、J、K、M及びNを相手方とする遺産分割の申立て(平成○年(家○)第○○号)をしている。
ト 第二次更正処分における請求人の取得財産の価額等は、次表のとおりであり、同表の「2本件未分割財産」欄の内訳は別表4のとおりである。

  各人の合計 請求人
1本件分割済財産
○○○○

○○○○
2本件未分割財産 217,063,997 41,443,120
3取得財産の価額(12 ○○○○ ○○○○
4債務及び葬式費用の金額 ○○○○ ○○○○

トップに戻る

2 主張及び判断

(1) 争点は次の5点である。

争点1 未分割財産がある場合の相続税の課税価格の計算方法
争点2 本件貸付金債権の評価額
争点3 本件土地の評価額
争点4 本件特例の適用の可否
争点5 第二次賦課決定処分の適否

(2) 争点1(未分割財産がある場合の相続税の課税価格の計算方法)について

イ 主張

請求人 原処分庁
(イ) 相続税法第55条は、法定申告期限内に相続人間で遺産が分割されていない場合、その未分割の遺産については、各共同相続人が民法の規定による相続分の割合に従って、当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算することとしており、この「相続分の割合」とは、東京高等裁判所平成5年12月22日判決(平成5年(ネ)第452号)及び東京地方裁判所平成9年10月23日判決(平成8年(行ウ)第262号)(以下、これらの判決を「本件東京高裁等判決」という。)でも示されているとおり、法定相続分を指すものと解すべきである。
 したがって、本件では、未分割財産を法定相続分によって共同相続人に配分し、その各人ごとの価額と、各人が遺言書により取得した財産の和を各人の取得財産の価額として相続税の課税価格を計算すべきである。
(イ) 民法上、共同相続人は、他の共同相続人に対し、遺産全体に対する自己の相続分に応じた価格相当分から、既に分割を受けた遺産の価格を控除した価格相当分について、その権利を主張することができるものと解される。
 相続税法第55条は、上記のような実体上の権利関係に従って計算が行われるように規定されたものと解されることから、同条にいう「相続分の割合」とは、「共同相続人が他の共同相続人に対してその権利を主張することができる持分的な権利の割合」をいうと解される。
 また、上記解釈を基礎として、財産の一部が未分割である場合において相続税の課税価格を計算する場合には、帰属の定まった財産を特別受益と同じように考慮に入れて、民法の規定による相続分に見合うように分割財産と残余財産の未分割財産を合計し、これを相続人間に配分した上で相続税の課税価格を計算する方法(穴埋方式)によると解される。
 本件各更正処分における本件未分割財産の配分は上記穴埋方式によって計算している。
(ロ) 仮に、穴埋方式により計算することが正しいとしても、原処分庁の計算には、次の誤りがある。
 原処分庁は、本件貸付金債権を未分割財産と認定しているが、貸付金債権は可分債権であり、相続開始によって共同相続人に法定相続分の割合に応じて帰属するものであるから、本件貸付金債権は分割済財産である。現に、請求人は、そのことを理由として、裁判所から本件貸付金債権の部分について遺産分割の申し立てを取り下げるように説明を受けている。
 この点、原処分庁は、可分債権であっても相続人全員が合意をした場合は遺産分割の対象に含める取扱いが定着している旨主張するが、本件貸付金債権について、相続人らの間で遺産分割の対象とする旨の合意をした事実はなく、また、請求人ほか4名には本件貸付金債権を遺産分割の対象とする意思はないことから、原処分庁の主張はその前提条件を欠いている。
(ロ) 本件貸付金債権については、次のとおり、未分割財産として課税価格の計算をするのが相当である。
 相続人が数人ある場合において、相続財産中に可分債権があるときは、その債権は法律上当然に分割され、各共同相続人がその相続分に応じて権利を取得できることは最高裁判所昭和29年4月8日第一小法廷判決(民集8巻4号819頁)において判示されている。
 しかしながら、他方で、家庭裁判所における遺産分割審判においては、上記最高裁判決を前提としながらも、可分債権も相続財産であり相続人等当事者の認識として遺産分割の対象になると考えていることが多いこと及び可分債権を遺産分割の対象とすることによって分割が容易になる事例が存在すること等の事情から、可分債権についても遺産分割の対象になり得るとの見解に立ち、相続人全員が合意した場合は、遺産分割の対象に含める取扱いが定着しているものと認められる。

ロ 判断
(イ) 相続税法第55条の規定について
A 相続税法第55条は、別紙の8のとおり、未分割遺産については、「相続分の割合」に従って遺産を取得したものとして課税価格を計算するものと規定しているところ、この「相続分の割合」とは、共同相続人が他の共同相続人に対して、その権利を主張することができる持分的な権利の割合をいうものと解される。遺産の一部が分割され、残余が未分割である場合においては、遺産の一部の分割によって、遺産全体に対する各共同相続人の相続分の割合が変更されたものと解すべき理由はないから、各共同相続人は、未分割遺産の分割に際しては、他の相続人に対し、遺産全体に対する自己の相続分に応じた価格相当分から既に分割を受けた遺産の価格を控除した価格相当分について、その権利を主張することができるものと解される。そして、相続税法第55条は、遺産の一部の分割がされ、残余が未分割である場合の課税価格の計算が、上記のような実体上の権利関係に従って行われるように規定されたものと解されるから、原処分庁の主張するいわゆる「穴埋方式」による解釈は相当である。
B これに関して、請求人は、本件東京高裁等判決を引用し、「相続分の割合」とは法定相続分を指すものと解すべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人の引用部分は、同判決の理由の中で述べられている相続税法第55条の規定の趣旨であって、未分割遺産がある場合の「相続分の割合」について具体的に判示したものではないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ) 本件貸付金債権について
A 請求人は、本件貸付金債権は可分債権であるから、分割済財産である旨主張する。
 確かに、相続人が数人ある場合において、相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは、その債権は法律上当然に分割され、各相続人がその相続分に応じて権利を取得するものと解される(最高裁判所第1小法廷昭和29年4月8日判決(昭和27年(オ)第1119号)及び最高裁判所第3小法廷昭和30年5月31日判決(昭和28年(オ)第163号)(以下、これらの判決を「本件各最高裁判決」という。)参照。)。
 しかしながら、遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする(民法第906条《遺産の分割の基準》)とされるところ、金銭等の可分債権については、その他の財産の分配における過不足を調整させる意味合いから、一般的には、これらを一体的に捕らえた遺産分割が行われているところである。また、家庭裁判所の実務においても、本件各最高裁判決を前提としながらも、遺産を総合的に分割するためには、預金等を含めた方が合理的であり、その実際的必要性が高いため、預金等の可分債権を遺産分割の対象にしている例が多いと認められる。
 すると、このような実態を相続税賦課の観点からみるときは、本件各最高裁判決を前提として相続財産が可分債権であることを考慮に入れてもなお、当該財産をもって分割の対象とはならない財産とみることは相当ではない。したがって、当該可分債権について、1共同相続人によって実際に分割が行われた場合、2実際に分割が行われないまでも、相続分に応じて取得する旨の共同相続人全員の合意がされた場合及び3一部の相続人が当該可分債権に対する自己の相続分相当の権利を行使した場合など、明らかにその全部又は一部の帰属が確定している場合を除き、相続開始と同時に分割が確定しているものとみることは相当ではなく、他の未分割財産と一体として扱うのが相当である。
B 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(A) Nが、原処分庁に対し、平成15年10月○日に提出した本件相続税の申告書及び同年10月○日に提出した本件相続税の修正申告書には、本件相続に係る遺産のすべてが未分割である旨の記載がある。
(B) 本件A会社が所轄のf税務署長に提出した本件相続開始日の属する同社の事業年度(平成14年4月1日から平成15年3月31日の事業年度をいい、以下「平成15年3月期」という。)及びその翌期(平成15年4月1日から平成16年3月31日)の事業年度の法人税の確定申告書には、被相続人からの借入金として本件A貸付金と同額の記載がある。
(C) 本件B会社が所轄のf税務署長に提出した本件相続開始日の属する事業年度(平成14年6月1日から平成15年5月31日の事業年度をいい、以下「平成15年5月期」という。)の法人税の確定申告書には、被相続人からの借入金として本件B貸付金と同額の記載がある。
C 本件貸付金債権について、上記Aに照らしてみると、1上記1の(4)のホの(ニ)のとおり、N以外の相続人らが提出した本件申告書においては未分割財産である旨記載されていること、2Nは、上記Bの(A)のとおり、本件相続税の申告において、本件相続に係る遺産はすべて未分割であるとしていること、3裁判所から本件貸付金債権の部分について遺産分割の申立てを取り下げるように説明を受けている旨の請求人の主張はあるものの、上記1の(4)のヘのとおり、請求人から本件貸付金債権に係る遺産分割の申立てがZ家庭裁判所にされていること、4上記Bの(B)及び(C)のとおり、本件貸付金債権に係る債務者の法人税の申告書には、本件貸付金債権の承継者も記載されておらず、その具体的帰属者が確定しているとは認められないことから、本件相続税の課税価格の計算においては、未分割財産として取り扱うのが相当である。

トップに戻る

(3) 争点2(本件貸付金債権の評価額)について

イ 主張

請求人 原処分庁
(イ) 本件A貸付金
 本件A会社は、商法の規定により平成8年6月○日に解散した旨の登記がされ、清算中の会社であるから、その貸付金を返済する原資となる資産を持たない、返済資力のない会社である。
 また、本件A会社の株式の評価は零円であり、本件A貸付金は、その回収が見込めないことが明らかであるから、その評価は零円とすべきである。
 原処分庁は、本件A貸付金と本件未払金の相殺が可能な範囲については、回収が不可能であるとは認められない旨主張しているが、本件A会社が相殺に反対する可能性もあり、また、請求人ほか4名は当該相殺に反対であるから、民法第505条第2項の「相殺の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には適用しない」との規定により、相殺適状にあるとはいえない。
(イ) 本件A貸付金
 本件A貸付金12,052,251円と、本件未払金11,813,077円とは相殺適状にあることから、当該相殺の可能な範囲(11,813,077円)については、回収が不可能であるとは認められない。
 また、本件A会社は、商法の規定により平成8年に解散をしたものとみなされており、また、同日以降現在に至るまで事業を休止していることからすると、今後、事業を再開する蓋然性は極めて低いものと認められる。
 したがって、次の算式により算出した177,544円については、評価基本通達205に掲げる「業績不振のため、その事業を廃止し又は6か月以上休業しているとき」に準じ、その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるものに該当すると認められるから、本件A貸付金の相続税評価額は、11,874,707円(12,052,251円−177,544円)となる。
(算式)a×b/c=61,630円
     a−61,630円=177,544円
a 本件A貸付金のうち、相殺不能額239,174円(12,052,251円−11,813,077円)
b 本件相続開始日における本件A会社の純資産額2,135,233円
c 本件相続開始日における本件A会社の純負債額8,286,405円
(ロ) 本件B貸付金
 本件B会社は、被相続人の所有不動産の管理を行っていた法人であるが、相続開始後、当該不動産の管理は本件B会社を通じて行われてはいない。また、本件B会社の従業員は、被相続人の配偶者(J)のみであるところ、同人は高齢であり、会社運営のための知識及び体力はなく、事実上本件B会社は運営されていない。
 すなわち、本件B会社は、事実上事業閉鎖状態にあり、貸付金を返済する原資となる資産も持たないことから、返済資力のない会社である。
 現に、本件B会社の出資金の評価は零円であり、本件B貸付金はその回収が見込めないことが明らかであるから、その評価は零円とすべきである。
(ロ) 本件B貸付金
 本件B会社は、本件相続開始日において事業を継続していること及び評価基本通達205に掲げる事由のいずれも生じていないこと並びに本件相続開始日前3期の決算期において損失を計上しているものの、経営改善が望めない状態にはないと認められることを併せ考えれば、本件相続開始日において、本件B貸付金の全部又は一部の回収が不可能又は著しく困難であるとは認められない。

ロ 判断
(イ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 本件A会社の商業登記簿には、平成8年6月○日付で「平成8年6月○日平成2年法律第64号附則第6条第1項の規定により解散」の登記がなされている。
 また、本件B会社の商業登記簿に係る履歴事項全部証明書によれば、同社の成立は、本件A会社のみなし解散後である平成8年7月○日である。
B 本件A会社が所轄のf税務署長に提出している法人税の確定申告書によれば、同社は、被相続人及びMがその発行済株式の80%を保有している法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族法人(以下「同族法人」という。)であり、本件相続開始日の属する同社の事業年度の決算期である平成15年3月期、その前期及び前々期である平成14年3月期(平成13年4月1日から平成14年3月31日の事業年度)及び平成13年3月期(平成12年4月1日から平成13年3月31日の事業年度)の法人税の課税所得金額は、いずれも零円である。
 また、上記各期末における同社の資産及び負債の金額は、毎期同額であり、別表5のとおりである。
C 本件B会社が所轄のf税務署長に提出している法人税の確定申告書によれば、同社は、被相続人が100%出資して設立された同族法人であり、被相続人が所有する賃貸用不動産の管理料及び転貸料を収入源としている。
 また、本件相続開始日の属する同社の事業年度の決算期である平成15年5月期の売上高は○○○○円、所得金額は○○○○円の欠損であるところ、代表取締役の被相続人及び取締役のJの2名に対する役員報酬として合計4,900千円、その他の給与賃金として合計2,380千円の計上がある。
D 本件B会社の平成15年5月期の総勘定元帳によれば、同社の経理方法は、要旨次のとおりである。
(A) 平成14年6月から同年12月までの各月の25日、被相続人に対する地代家賃、Jに対する役員報酬並びにK及びMに対する給与手当がそれぞれ未払金に計上されている。
 また、平成14年6月から同年11月までの各月の25日及び本件相続開始日、被相続人に対する役員報酬が未払金に計上されている。
(B) 決算期末(平成15年5月31日)において、上記(A)の未払金のうち、Jに対する役員報酬は、同人からの短期借入金に振り替えられ、K及びMに対する給与手当は、摘要欄に「被相続人より借入支払」と記載されて未払金の残高から減額される一方、被相続人からの短期借入金に同額が計上されている。
 また、上記(A)の未払金のうち、被相続人に対する地代家賃及び役員報酬は、同人からの短期借入金に振り替えられている。
(C) 被相続人より平成14年6月から同年12月までの間に受け取るべき管理収入として算出された額7,140,921円から、同期間に本件B会社の預金口座に入金された被相続人からの管理収入の額4,618,826円を差し引いた額2,522,095円が、決算期末にいったん未収金に計上された後、被相続人からの短期借入金と相殺処理されている。
E K、M並びに本件A会社及び本件B会社の関与税理士であるg(以下「g税理士」という。)の3名は、原処分庁所属の調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
(A) 本件A会社が行っていた事業は、被相続人の所有する賃貸用不動産の管理で、被相続人から賃貸収入の20%を管理料として受け取ることとしていた。
 本件B会社は、本件A会社と同様に、被相続人所有の賃貸用不動産の管理を行い管理料収入を得るほかに、当該賃貸用不動産の一部を被相続人から賃借し、これ転貸することによる賃料収入を得ていた。
(B) 本件A会社は、平成8年の商法改正に伴い、資本金の増額をしないまま、みなし解散となっており、事業活動は同年以降行っていない。
 また、本件B会社は、本件A会社の代わりに設立したもので、本件相続開始日後はJが代表者となり、平成18年9月現在、事業を続けている。
(C) 本件A会社の平成8年決算期以降の法人税の確定申告書に添付している貸借対照表は、平成8年決算時のものをそのまま転記して申告しているもので、基となった帳簿等は現存しておらず、各勘定科目の資産(未収入金)及び負債(短期借入金、未払金、未払費用及び預り金)の具体的な発生時期等は現時点では不明である。
(D) 本件A会社の被相続人からの借入金(本件A貸付金)は、被相続人や従業員に対する給与賃金の未払分を決算時に被相続人からの借入金として処理していたものであり、また、本件A会社の被相続人に対する未収金(本件未払金)は、上記(A)の管理収入の一部が入金されていなかったものである。これら本件A貸付金及び本件未払金については、各決算期末において、いずれも弁済期が到来しているものである。
(E) 本件A会社の貸借対照表に記載されている固定資産は、いずれも本件B会社が引き続き使用している。
F g税理士は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(A) 本件A会社及び本件B会社では、被相続人及びJに対する役員報酬、K及びMに対する給与手当などを各月に未払金として計上し、決算期末にそれらの総額を被相続人からの借入金により支払い、同人からの短期借入金に計上するとともに、被相続人から受け取るべき管理料収入のうち、期中に入金されなかった額を未収入金として計上し、これらの未収入金及び短期借入金を期末に相殺処理するという経理方法を採っていた。
(B) 本件A会社の事業を本件B会社に移行した平成8年時の本件A会社の決算期末において、通常どおりの決算処理が行われていれば、それ以降の決算には未収入金と短期借入金が相殺された後の短期借入金の残高のみが貸借対照表に計上されているはずであったが、被相続人の「本件A会社の事業を本件B会社に移したことで、今後、本件A会社は株式会社としての活動はしないのだから、決算だけのために税理士報酬は払いたくない」という理由で、平成8年期の決算を依頼されなかったため、相殺処理はしていない。
(C) 相殺処理しなかった点については、私も、本件A会社が赤字であり、資本金の関係で解散となったことでもあり、今後株式会社で事業を再開する見込みは全くないことから決算を行わなくても支障はないと考え、被相続人の希望をそのまま受け入れたが、清算が終了していないため、申告は必要である旨説明し、申告書だけは提出していた。
(D) 被相続人が亡くなる少し前に、同人から、本件A会社の整理をしたいということを聞いていたが、実行に移す前に亡くなってしまった。
G 評価基本通達161に基づきh国税局長が定めた平成14年分の電話加入権の価額は13,000円である。
(ロ) 本件A貸付金及び本件未払金について
 本件A会社及び本件B会社は、被相続人の所有する賃貸用不動産を管理する目的で設立され、その収入は被相続人の不動産の管理料又は転貸料である一方、その支出には、上記(イ)のC及びDのとおり、被相続人及びその親族に対する役員報酬及び給与手当が認められる。
 また、上記(イ)のE及びFのg税理士の申述及び答述は、上記(イ)のA及びDの本件B会社の設立、同社の経理処理など他の事情と矛盾がなく信用できるものであるところ、当該申述及び答述によれば、管理料等の収入と役員報酬等の支出は、その期中における未収入及び未払の部分について、決算期末に被相続人との貸借勘定(未収入金及び短期借入金)にまとめられた上で相殺により清算されることが常となっており、本件未払金及び本件A貸付金についても本来であれば同様に処理され、相殺後の本件A貸付金の残額のみが貸借対照表に記載されるべきところ、本件A会社がみなし解散となった平成8年当時に被相続人がg税理士に決算処理を依頼しなかったことから、相殺前の両勘定の残額が貸借対照表上に残り、そのまま放置されて現在に至っているという事実が推認される。
 そうすると、本件A会社において、平成8年時に限って相殺処理が行われなかったのは、決算費用(税理士報酬)の節約のみを目的とするものであったという上記(イ)のFの(B)のg税理士の答述と併せ考えれば、実際には期末において未払金勘定及び短期借入金勘定の相殺は行われているにもかかわらず、法人がみなし解散となったために当該事実を記帳することなく放置してきたにすぎず、当事者間(本件A会社と被相続人)においては、債権債務として本件未払金と本件A貸付金が相殺された後の本件A貸付金の残額239,174円のみが存在すると認識されていたと認めるのが相当である。
 したがって、本件相続税における課税価格の計算においては、被相続人と本件A会社との間における債権債務のうち、本件未払金及び本件A貸付金のうち本件未払金の額は、それぞれについて存在しないものとして計算するのが相当である。
(ハ) 関係法令等の解釈
A 相続税法第22条に規定する時価と評価基本通達の関係
 財産の価額について、相続税法第22条は、別紙の7のとおり規定しているところ、ここでいう「時価」とは、その財産の取得の日において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち客観的な交換価値をいうものと解されている。
 しかしながら、各種の相続財産の客観的な交換価値を的確に把握することは必ずしも容易なことではなく、これを個別に評価する方法を採ると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により評価額に格差が生じることを避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどから、課税庁において評価基本通達を定め、当該通達によりあらかじめ定められた評価方式により、財産の評価を画一的に行うとともに、これを公開し、納税者の申告及び納税の利便に供している。
 そして、評価基本通達は、法形式上は国税庁内部における行政規則(行政命令)にとどまるものの、租税公平主義との関係でいえば、納税者に対して申告内容を確定する指針を与えるとともに、課税庁における課税事務を統一するという積極的な意義を有することは否定し難いから、上記の観点からみて「時価」の評価として合理的な内容のものである限り、評価基本通達に基づき評価した結果を「時価」と判断して差し支えないと解すべきであり、その限りで国民に対し事実上の法規範として機能する場合もあると解されている。
 したがって、このような評価基本通達の趣旨に照らすと、評価基本通達に定められた評価方式が合理的なものである限り、これをすべての納税者に適用することが、租税負担の実質的な公平の実現に適するところでもあり、特定の納税者あるいは特定の相続財産についてのみ評価基本通達に定める評価方法以外の方法によってその評価を行うことは、納税者間の実質的な負担の公平を欠くことになり、ひいては、相続税法第22条の解釈適用上要請される評価の客観性を損なうおそれがあるものとなるから、評価基本通達に定められた評価方法を画一的あるいは形式的に適用することによって、実質的な租税負担の公平を著しく害し、相続税法あるいは評価基本通達自体の趣旨に反するような結果を招くというような特別な事情が認められない限り、評価基本通達に定められた評価方法によって画一的に評価することが相当であるというべきである。
B 評価基本通達に定める貸付金債権等の評価
 評価基本通達204は、貸付金債権等の価額は、貸付金債権等の元本の価額と課税時期現在の既経過利息との合計額により評価する旨定め、貸付金債権等の元本の価額は、その返済されるべき金額である旨定めている。
 また、同通達205は、貸付金債権等の価額の評価を行う場合において、債権金額の全部又は一部が、課税時期において「次に掲げる金額に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」においては、それらの金額を元本の価額に算入しない旨定めている。
 この場合の「次に掲げる金額」としては、別紙の19の(1)ないし(3)のとおり、債務者について手形交換所の取引停止処分等に該当する事実があったときの貸付金債権等の金額並びに再生計画認可の決定、整理計画の決定及び更生計画の決定等により切り捨てられる債権の金額等が掲げられている。そうすると、「次に掲げる金額に該当するとき」とは、いずれも、債務者の資産状況及び営業状況等からみて事業経営が破たんしていることが客観的に明白であって、債権の回収の見込みのないことが客観的に確実であるといい得るときであると解される。
 また、「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」とは、上記の「次に掲げる金額に該当するとき」に準じる状況をいい、これと同視できる程度に債務者の資産状況及び営業状況等からみて事業経営が破たんしていることが客観的に明白であって、債権の回収の見込みのないことが客観的に確実であるといい得るときであると解するのが相当である。
 このような評価基本通達204及び205に定める評価方法は、上記Aの相続税法第22条に定める「時価」の解釈に沿ったものであり、当審判所においても相当であると認められる。
(ニ) 本件A貸付金について
A 請求人の主張
 請求人は、本件A会社の株式の評価額が零円であるということを理由に本件A貸付金の評価額も零円である旨主張する。
 しかしながら、本件A会社の株式の評価額が仮に零円であったとしても、それは本件相続税の財産評価において本件A会社の株価が算出されないことにすぎず、本件A貸付金が回収不能等によって無価値であるということを直接示すものではない。
 また、請求人は、本件A会社が清算中の会社であり、その貸付金を返済する原資となる資産を持たない返済資力のない会社であるから、本件A貸付金は回収が不可能であり、零円と評価すべきである旨主張する。
 確かに、本件A会社は、上記(イ)のA、B及びEのとおり、平成8年6月○日にみなし解散となった後、事実上事業を休止しており、また、本件A会社の代わりに設立された本件B会社が事業を継続していると認められることからすれば、本件A会社については、事業が再開される見込みのないまま現在に至っているものとみることができる。
 しかしながら、上記(イ)のBのとおり、本件A会社は、みなし解散となった後も継続して法人税の申告書を提出し、その資産及び負債の存在を明らかにしているのであるから、清算が結了するまでは、当該申告書に記載された資産及び負債については、そのすべてが存在しないものであるとはいえない。
 そうすると、被相続人をはじめとする同社の債権者は、少なくともその存する資産の額を限度として自己の債権に対する弁済を受けることができるというべきであるから、本件A会社が、本件A貸付金を返済する原資となる資産を持たない返済資力のない会社であるということはできない。
 以上のとおり、請求人のいずれの主張も、評価基本通達に定められた評価方法を画一的あるいは形式的に適用することによって、実質的な租税負担の公平を著しく害し、相続税法あるいは評価基本通達自体の趣旨に反するような結果を招くというような特別な事情とは認められない。したがって、本件A貸付金の評価は、上記(ハ)のBに述べた解釈に照らして判断するのが相当である。
B 本件A貸付金の評価額
(A) 本件相続税の課税価格の計算における本件A貸付金は、上記(ロ)のとおり、本件未払金と本件A貸付金が相殺された後の本件A貸付金の残額239,174円を基に評価すべきものと認められる。
 ところで、本件A会社は、上記Aのとおり、みなし解散となった後、事実上事業を休止しており、事業が再開される見込みが少ないことからすると、本件A貸付金については、評価基本通達205に定める「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」に該当するものとして、その回収可能額を算定することとなる。
 そして、本件A貸付金については、上記Aのとおり、本件A会社の保有する資産の額を限度として債権の弁済を受けられるというべきであるから、その評価においては、本件A会社が被相続人及びその他債権者に負っている債務の合計額のうち、本件相続開始日において現存する同社の資産の総額を超える部分の額についてはその回収が見込めないものとし、本件相続開始日における同社の資産の総額に、本件A貸付金が同社の負債の総額に占める割合を乗じて算出した金額を相殺後の本件A貸付金に係る価額(本件A会社からの弁済可能額)とするのが相当である。
 また、その際、本件A会社が有する別表5の資産のうち、構築物、車両運搬具及び工具器具備品(以下「本件構築物等」という。)については、取得価額若しくは残存価額自体も高額なものではないことに加え、平成8年6月○日のみなし解散以降、少なくとも本件相続開始日までの間には既に約6年半が経過しているものであることを考慮すれば、本件相続開始日においては、会計帳簿上の備忘価額程度の残高はあったであろうことは想定できても、債務弁済の引き当てとなるべき市場性のある資産価値があったとは到底認めることができないから、本件構築物等の額は、本件A貸付金の評価を行う際の弁済可能額の計算の基礎となる資産の総額から除くのが相当である。
 さらに、評価基本通達161に基づく平成14年分の電話加入権の価額は13,000円であることから、本件A会社の保有する電話加入権の資産価値は13,000円とするのが相当と認められるから、簿価のうちこれを超える部分の金額55,527円(68,527円−13,000円)についても、同様に、本件A貸付金の評価を行う際の弁済可能額の計算の基礎となる資産の総額から除くのが相当である。
 すると、本件相続開始日現在における本件A会社の資産の額は、1,683,914円(貸借対照表の資産の部合計額13,948,310円から本件未払金の額11,813,077円、本件構築物等の額395,792円及び電話加入権の簿価のうち相続税評価額を超える額55,527円を控除した額)、同負債の額は8,286,405円(貸借対照表に記載された負債の総額20,099,482円から、本件A貸付金のうちその存在が認められない額11,813,077円を控除した額)であり、負債の額のうち、被相続人に対する債務(本件A貸付金のうちその存在が認められる部分)の額は239,174円であるから、そのうち、本件相続開始日においてその回収が可能と見込まれる額は、48,603円(239,174円×1,683,914円/8,286,405円)となる。
(B) また、別紙の18のとおり、同通達204においては、貸付金債権等の評価について、貸付金債権等の元本の価額(その返済されるべき金額)と既経過利息の価額との合計額によって評価する旨定めているところ、本件A貸付金には利息に関する約定も認められないことからすれば、上記(A)の48,603円が本件A貸付金の評価額と認められる。
(ホ) 本件B貸付金について
A 請求人の主張
 請求人は、本件B会社について、本件相続の開始後から事実上閉鎖状態にあり、返済資力を持たない会社であること、そして、その出資金の評価額が零円であることから、本件B貸付金については、その回収が不可能である旨主張する。
 しかしながら、本件B会社は、上記(イ)のCのとおり、本件相続開始日の属する平成15年5月期の法人税の確定申告書を所轄のf税務署長に提出しており、平成18年9月現在においても同社は事業を続けている旨の上記(イ)のEの(B)のg税理士の申述を併せ考慮すれば、同社が本件相続開始日の直後から事実上閉鎖状態にあったとは認め難い。
 また、貸付金債権等の回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときというのは、単に債務者の資産状況が債務超過で、営業状況が赤字であるという事情のみでなく、その事業経営が客観的に破たんしていることが明白であって、債権の回収の見込みのないことが客観的に確実であるといい得るときであると解されるところ、1資産状況が債務超過で、営業状況が赤字であっても、直ちに事業経営が破たんするわけではなく、このような状況でも事業を継続している企業は存すること、2上記(イ)のCのとおり、本件B会社は、被相続人所有の賃貸用不動産の管理料及び転貸料を収入源とする会社であって、当該賃貸用不動産の存する限りは事業の継続が見込まれること、3同じく上記(イ)のCのとおり、本件相続開始日の属する同社の事業年度の決算期である平成15年3月期にはその欠損金額を上回る役員報酬を計上していることなどを総合勘案すれば、本件相続開始日において、同社の事業経営が客観的に破たんしていることが明白で、本件B貸付金の回収の見込みのないことが客観的に確実であるといい得る状況にあったとは認められない。
 以上のとおり、請求人の主張する事情は、評価基本通達に定められた評価方法を画一的あるいは形式的に適用することによって、実質的な租税負担の公平を著しく害し、相続税法あるいは評価基本通達自体の趣旨に反するような結果を招くというような特別な事情とは認められない。したがって、本件B貸付金の評価は、上記(ハ)のBに述べた解釈に照らして判断するのが相当である。
B 本件B貸付金の評価額
 本件B貸付金については、上記Aのとおり、本件相続開始日において、評価基本通達205が別紙の19の(1)ないし(3)のとおり定める金額に該当するもの及び同通達に定める「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれる」事実はないことから、その評価上、同通達205の適用はない。
 また、別紙の18のとおり、同通達204においては、貸付金債権等の評価について、貸付金債権等の元本の価額(その返済されるべき金額)と既経過利息の価額との合計額によって評価する旨定めているところ、本件B貸付金には利息に関する約定も認められないことからすれば、その元本額である16,017,453円が本件B貸付金の評価額と認められる。

トップに戻る

(4) 争点3(本件土地の評価額)について

イ 主張

請求人 原処分庁
 本件土地は、現況が宅地であるとして評価されているところ、実際には、登記地目が山林である部分についてはP市の都市公園(j公園)区域に指定されているため、容易に移転、除去が可能な建築物しか建てられず、また、建物を建てるにしても公園側に建築用重機を入れることができないために、非常な困難を伴うものである。
 仮に本件土地の開発が可能であるとしても、本件土地の周辺地域の一般的な住宅の敷地面積は200平方メートルであることから、本件土地は広大地に該当する。
 したがって、本件土地については、評価基本通達24−4の適用及び同通達27−5の準用をし、別表6及びその付表のとおり、147,038,387円と評価すべきである。
 本件申告書には、別表3のとおり、本件土地の価額は247,459,914円である旨記載されており、本件各更正処分においては、当該金額を基礎として同土地の価額を算出したものである。

ロ 判断
(イ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 本件土地の状況等は、次のとおりであり、その位置関係等は別表7のとおりである。
(A) 本件土地は、P市内のほぼ中央部にあるj公園の西側高台に位置し、本件土地のうち、別表2の順号5の土地(以下「p2土地」という。)は、都市公園(j公園)の区域に指定されている。
(B) 本件土地のうち、別表2の順号2の土地(以下「本件A土地」という。)は、同土地が接する南側道路(幅員4.2メートル)面から約50センチメートル高く、本件相続開始日現在においては、使用されていない木造2階建家屋(家屋番号○○−○○。以下「本件登記済家屋」という。)の敷地の用に供されていた土地である。
 また、本件土地のうち、別表2の順号13及び4の土地(これらの土地を併せて、以下「p1土地」という。)並びにp2土地(以下、p1土地と併せて「本件B土地」という。)は、同土地が接する西側道路(幅員4.2メートル)面から約2メートル高い。p2土地は、登記上の地目は山林であるが、その大部分については、p1土地と同じ高さにまで土盛りがされ、築山、藤棚及び石灯籠などが配置されてp1土地と一体利用されており、本件B土地は、その全体が、本件相続開始日現在において、被相続人の居宅(別宅)として使用されていた未登記の木造2階建家屋(以下「本件未登記家屋」という。)の敷地の用に供されていた土地である。
(C) 本件A土地及び本件B土地は、隣接した土地ではあるが段差があって、本件A土地の方が約1.5メートル低くなっている。
 そして、両土地の境界線上には、上記段差の高さに垂直に設置された土止めのためのコンクリートの擁壁がある。
(D) p2土地とj公園との境界部分の状況は次のとおりである。
a p2土地の東側は、j公園に向かって、平均斜度約30度及び高低差約40メートルの急な下り斜面になっていて、その境界線(全長33.03メートル)で、j公園と約3メートルの高低差があり、境界線に沿って高さ2メートルほどの金網フェンスが設置されている(擁壁は設置されていない)。
b p2土地の南側は、境界の全長20.71メートルのうち18.16メートル部分には高さ2メートルほどの擁壁が設置され、擁壁が設置されていない2.55メートル部分は、別表7「崩落箇所」のとおり、約10平方メートルが崩落している。
c p2土地の北側は、j公園に向かって、東側と同程度の下り斜面によってj公園に接しており、当該下り斜面の途中にある境界線上(全長24.54メートル)には高さ2メートルほどの金網フェンスが設置されている。境界線の位置から平均6メートルほど敷地内に向かって後退した位置(別表7の「土盛未施工箇所」の点線部分)にp1土地の高さまでの擁壁が設置され、その擁壁に沿ってp1土地の高さまで土盛りされているが、当該擁壁と境界線上の金網フェンスで囲まれた部分約150平方メートル(別表7の「土盛未施工箇所」)については土盛りがされておらず、p1土地の高さとは平均4メートルほどの高低差がある。
B 本件A土地が南側で接する道路及び本件B土地が西側で接する道路に付された平成14年分の路線価(評価基本通達14《路線価》に定める路線価をいう。以下同じ。)は、それぞれ165,000円であり、その所在する地区(同通達14−2《地区》に定める地区をいう。)は、普通住宅地区である。
C h国税局長が評価基本通達に基づき定めた平成14年分財産評価基準書は、平坦地の宅地造成費について、以下のとおり定めている。
(A) 整地費 1平方メートル当たり 500円
(B) 土盛費 1平方メートル当たり  2,700円
(C) 土止費 1平方メートル当たり 36,000円
D 本件土地及びその周辺一帯は、P市都市計画において第一種低層住居専用地域に指定されており、その建ぺい率は40%及び容積率は80%であることから、本件土地が位置するj公園の西側地域一帯は、その大半が戸建住宅の敷地として利用されており、各敷地の面積は240平方メートル前後である。
E P市役所都市計画部都市計画課ほかの各担当職員は、当審判所の調査に対して要旨次のとおり答述した。
(A) j公園は、都市計画事業の認可に基づき、P市が順次用地を買収して整備を進め、ほぼ自然のまま保存した形での公園として市民に利用されているものである。p2土地は、遅くとも昭和50年代から同公園に供する区域の土地として指定されていたが、所有者であった被相続人がこれに反対して買収に応じなかったことから、都市公園として供用開始されることなく、現在に至るまで個人所有のままになっている。
(B) p2土地は、上記(A)の事情により、都市計画上は「都市公園区域内にあるが都市公園として供用開始されていない土地」であることから、都市公園法及びP市都市公園条例による規制(別紙の4及び5)の対象外であり、その利用に当たっては都市計画法に基づく制限(別紙の6)のみを受ける土地である。
 したがって、公園区域内にあることを理由に開発行為等を不許可にすることはできず、建物建築のために開発及び建築についての許可申請があった場合は、都市公園区域の指定の有無に関係なく適用される法令(都市計画法、宅地造成等規制法、建築基準法等)の基準に適合していれば、当該開発及び建築については許可されることになる。
 ただし、都市計画法に基づく利用制限の対象にはなるため、その建築物が都市計画法第54条の規制の範囲内のものであることは必要である。
(C) P市としては、将来にわたって、計画変更によりp2土地を都市公園区域から除外することは考えていない。
F 本件相続開始日当時、P市内の土地について開発行為を行う場合においては、P市開発事業指導要綱(以下「開発要綱」という。)に基づく指導がなされており、本件土地について開発行為を行う場合に、当該開発要綱及び開発事業指導要綱施行基準(以下「施行基準」といい、開発要綱と併せて「開発要綱等」という。)に基づき受ける制限は次のとおりである。
(A) 1区画当たりの敷地面積は、180平方メートルとしなければならない。〔開発要綱第○条〕
(B) 設置する道路の幅員は、6メートル以上とし、小区間で通行上支障がないと市長が認めた場合は、4メートル以上とすることができる。やむを得ず袋路状道路を設置する場合、その延長は原則として35メートル以内とする。
 延長が35メートルを超える袋路状道路を設置するときは、終端及び適当な区間ごとに自動車の転回広場を設けなければならず、その形状は別表8の図によることとする。
 また、道路の平面交差角は、原則として直角とし、交差点には街角剪除(長さ3メートル以上)を設けること。〔開発要綱第○条及び施行基準第○〕
(ロ) 相続により取得した財産の評価について、評価基本通達を適用して評価することには合理性があると認められることは上記(3)のロの(ハ)のAで述べたとおりであり、本件土地について評価基本通達を適用して評価することに、請求人と原処分庁の間に争いはない。
 そこで、上記(イ)の各事実を別紙の12ないし16の各評価基本通達に当てはめて審理したところ、次のとおりである。

A 評価単位について
(A) 請求人は、本件登記済家屋の敷地として利用されている本件A土地と、本件未登記家屋の敷地として一体利用されている一団の土地である本件B土地について、両土地を1画地として別表6のとおり評価して本件土地の価格を算定しているところ、上記(イ)のAの(C)のとおり、本件A土地と本件B土地には約1.5メートルの段差があり擁壁も施されていることからすると、その効用からしても、物理的にこれらの土地全体が一団の画地を形成しているとは認め難い。
 加えて、本件土地が位置する地域は、第一種低層住居専用地域に指定され、その建ぺい率は40%及び容積率は80%であることから、本件A土地及び本件B土地を一体利用することで土地の利用可能面積は増加するとしても中高層住宅の建築は不可能であり、また、本件A土地及び本件B土地を一体的に利用しようとすれば、上記1.5メートルの段差を解消するために相当の費用を要すものと認められることから、経済的な面からみても両土地をあえて一体として利用する必然性及び合理性は認められない。

(B) したがって、本件土地については、高さによって物理的に分断されている本件A土地と本件B土地とをそれぞれ別個に1画地として評価するのが相当である。
B 本件A土地の相続税評価額について
 本件A土地の正面路線価は165,000円であり、適用される奥行価格補正率は1.00であることから、その相続税評価額は、41,054,277円(165,000円×1.00×248.8138平方メートル)となる。
C 本件B土地の相続税評価額について
(A) 広大地補正率
a 本件B土地の面積は、別表2からすると1,573.6523平方メートルであるところ、上記(イ)のDないしFのとおり、本件土地が位置するj公園の西側地域一帯は、その大半が戸建住宅の敷地であり、その標準的な敷地面積は240平方メートル程度と認められ、また、本件B土地を標準的な敷地面積の戸建住宅とする場合には都市計画法に規定する道路の負担が必要であると認められることから、本件B土地は広大地に該当するものと認められる。
 また、請求人は、本件土地の評価を、k社作成の敷地実測図(別表2注書)に基づき行っているところ、これは当審判所においても相当と認めるところであるから、以下、当該敷地実測図に基づき評価する。
b ところで、請求人が本件土地の評価額算定の基礎としている開発想定図(別表6付表)によれば、道路等の公共公益的施設用地の面積は413.70平方メートルと算定し、これに基づき広大地補正率を0.77としている。
 しかしながら、請求人の開発想定図は、上記(イ)のFのとおり、開発要綱等により、設置する道路の幅員は原則6メートル以上とされているにもかかわらず、これを5メートルとし、開発要綱等に定める施設(自動車の転回広場及び街角剪除)を設けず、既存道路に接している本件A土地(当該開発予想図の「区画5」部分)を開発区域に含め、その北側にも更に新たな道路の設置を想定しているなど、開発要綱等に適合していない部分や合理的とは認められない道路の設置部分のあることが認められるから、現実的ではなく、本件B土地の評価に当たり、これを採用することはできない。
c そこで、本件B土地の開発について、当審判所が開発要綱等に基づき検討したところ、別表9付表の開発想定図のとおりとするのが相当と認められる。
 そして、同付表で示しているとおり、この場合の公共公益的施設用地の地積は276.80535平方メートルとなり、これを基に算出される広大地補正率は0.82((1,573.6523平方メートル−276.80535平方メートル)/1,573.6523平方メートル。小数点以下2位未満を四捨五入)となる。
(B) 不整形地補正率
 請求人は、本件土地の想定整形地の設定に当たって、別表6付表のとおり、間口距離を55.71メートル及び奥行距離を56.15メートルと算出し、その面積を3,128.1165平方メートルとしているが、請求人は本件土地の全体を1画地としてその想定整形地を設定していることから、これを本件B土地の不整形地補正率の計算上採用することはできない。
 そこで、当審判所において本件B土地の想定整形地を設定したところ、別表9付表の本件B土地を囲む点線で示したとおりとなり、間口距離(35.64メートル)及び奥行距離(56.45メートル)を基に算出される本件B土地の想定整形地の地積は2,011.878平方メートル(35.64メートル×56.45メートル)、また、かげ地割合は約21%((2,011.878平方メートル−1,573.6523平方メートル)/2,011.878平方メートル×100)となり、不整形地補正率は0.98となる。
(C) 宅地造成費
a 上記(イ)のAの(B)のとおり、p2土地については、登記上の地目は山林であるが、その大部分に土盛り等がされ、p1土地と一体として本件未登記家屋の敷地の一部(庭)として利用されていたものと認められる。
 しかしながら、p2土地の一部については、上記(イ)のAの(D)のとおり、擁壁が設置されていない箇所や崩落箇所などがあり、これを建物の敷地として供するためには擁壁等の造成工事の必要が認められるから、評価基本通達49に基づき、その評価において宅地造成費相当額を控除すべきこととなる。
 そこで、p2土地に係る宅地造成費相当額の算定に当たっては、その現況を重視して、h国税局長が定める宅地造成費のうち、上記(イ)のCの「平担地の宅地造成費」の単価をそれぞれの状況に応じて適用するのが最も合理的と考えられる。
b この点、請求人は、p2土地の宅地造成費について、別表6のとおりその総額を4,974,750円と算定しているが、当審判所の調査の結果によれば、同土地の宅地造成費の総額は、次のとおり9,320,456円とするのが相当である。
(a) p2土地に対する造成工事については、1p1土地に接する西側及び擁壁設置済みである南側の一部を除く3面に係る土止工事、2土盛りを了していない北側及びj公園に向かって崩落している東南側部分の土盛工事及び3整地が必要であると認められる。
(b) p2土地の擁壁の設置状況は、上記(イ)のAの(D)のとおりであるから、当該土地について土止のための擁壁を必要とする部分の面積は、北側98.16平方メートル(長さ24.54メートル×高さ4メートル)、東側99.09平方メートル(長さ33.03メートル×高さ3メートル)及び南側5.1平方メートル(長さ2.55メートル×高さ2メートル)となり、合計202.35平方メートルとなる。
(c) p2土地のうち、土盛りを了していない部分及びj公園に向かって崩落している部分については、上記(イ)のAの(D)のとおりであるから、その土盛量は北側600立法メートル(150平方メートル×4メートル)及び東南側20立法メートル(10平方メートル×2メートル)の合計620立法メートルとなる。
(d) すると、p2土地の宅地造成費は、上記(a)ないし(c)を踏まえ、それぞれの状況に応じて、上記(イ)のCのh国税局長が定めた平坦地の宅地造成費の単価を適用し、次表のとおりとなる。

区分 1平方メートル立法メートル)当たりの金額 面積等 審判所認定額
整地費 500円 723.7130平方メートル 361,856円
土盛費 2,700円 620.00立法メートル 1,674,000円
土止費 36,000円 202.35平方メートル 7,284,600円
宅地造成費の総額   9,320,456円

(D) 上記(A)ないし(C)に基づき評価したところ、本件B土地の評価額は、別表9のとおり199,337,684円となる。
D その他
 請求人は、p2土地が都市公園区域内にあって都市計画法による建築制限があるため、その利用に制限を受けるとして評価基本通達27−5を準用し、本件土地に利用制限がないものとして評価した価額の70%に相当する価額で評価すべきである旨主張する。
 しかしながら、評価基本通達27−5の定めは、宅地に対して地役権が設定されたことにより利用制限が生じる場合において、当該利用制限によって当該土地の価額が周辺の利用制限のない宅地の価額に比して低下すると考えられることから、当該利用制限の態様に応じてしんしゃくすることとしているものであり、これを本件についてみると、p1土地は都市計画法による建築制限を受けない土地である。
 また、p2土地は、都市公園(j公園)の区域に指定されており、同土地内において建築物の建築をする場合の当該建築物は、主要構造部が、木造、鉄骨造、コンクリートブロック造その他これらに類する構造であり、階数が2以下で地階を有しないもので、容易に移転し、又は除却することができるものでなければならないという都市計画法第54条に基づく利用制限を受けるものではある。しかしながら、本件土地を含む周辺一帯は、P市都市計画において第一種低層住居専用地域に指定され、その建ぺい率及び容積率がそれぞれ40%及び80%と定められており、もとより本件土地を含む周辺一帯の用途は2階建程度の住宅用地に限定されるのであるから、上記都市計画法に基づきp2土地に許可される建築物の構造(木造、鉄骨造、コンクリートブロック造その他これらに類する構造)は、通常の2階建程度の建築物の構造と比較して格別の差が生じるものとは認められない。
 そうすると、宅地として通常の用途に供することが可能であるp2土地について、評価基本通達27−5を準用する旨の請求人の主張には理由がない。
(ハ) 以上のとおりであり、本件土地の評価額は240,391,961円(41,054,277円+199,337,684円)となる。

トップに戻る

(5) 争点4(本件特例の適用の可否)について

イ 主張

請求人 原処分庁
 措置法第69条の4第4項には、「第1項の規定は分割されていない特例対象宅地等には適用しない」旨規定されているところ、Nの課税価格を構成する財産は本件未分割財産のみであり、特例の適用対象となる特例対象宅地等を取得していない。
 すると、Nは、本件特例の選択について協議する場に参加する資格がないから、その選択においてNの同意は必要ではない。
 したがって、q3宅地及びq1宅地について本件特例の適用は認められるべきである。
 本件未分割財産に該当する別表4に記載のQ市q2町v番の貸宅地(m及びnへの賃貸部分をいい、以下「q2宅地」という。)についても、措置法第69条の4第1項に規定する特例対象宅地等に該当すると認められる。
 そうすると、q3宅地及びq1宅地について本件特例の適用を受けるためには、その同意を相続人ら全員から得る必要があるにもかかわらず、Nが同意をしたという事実は認められない。
 したがって、q3宅地及びq1宅地について本件特例の適用は認められない。

ロ 判断
(イ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 原処分庁に提出された被相続人の平成14年分の所得税の青色申告書に添付の青色申告決算書(不動産所得者用)には、q2宅地はm及びn(いずれも苗字のみで名前の記載はない。)を賃借人とする貸宅地である旨、また、地代収入はそれぞれ年額191,004円及び162,000円である旨記載されている。
B 本件申告書に添付されたq2宅地に係る土地及び土地の上に存する権利の評価明細書(以下「土地評価明細書」という。)には、当該宅地の使用者はそれぞれm及びnであり、貸宅地である旨記載がある。
C q2宅地は、それぞれ「m」及び「n」の表札がある2棟の住宅用建物の敷地の用に供されている。
(ロ) 法令解釈
 本件特例については、別紙の9及び10のとおり、これを適用するには、特例対象宅地等のうち本件特例の適用を受けるものの選択について、当該特例対象宅地等を取得したすべての個人からの当該選択に対する同意を証する書類の提出が必要とされている。
 また、措置法第69条の4第4項においては、相続税の申告書の提出期限までに分割されなかった特例対象宅地等には原則として本件特例の適用がない旨規定しているところ、その後一定の条件の下で当該特例対象宅地等が分割された場合についてはこの限りでないとしてその適用を認める旨例外的に規定している。
 そうすると、相続税の申告書の提出期限までに分割されなかった特例対象宅地等についても、分割が確定することにより本件特例の適用が可能となるのであるから、当該同意を得る必要のある特例対象宅地等を取得したすべての個人には、相続税の申告書の提出期限までに分割された特例対象宅地等を取得した者のみならず、未分割である特例対象宅地等を取得する可能性のある者も含まれるものと解される。
(ハ) これを本件についてみると、本件申告書において本件特例の適用対象として記載されたq3宅地及びq1宅地のほか、q2宅地についても、上記(イ)のとおり、被相続人の事業の用(貸付用)に供されていた宅地と認められる。
 また、q2宅地が、本件相続税の申告書の提出期限において分割されていない宅地であったことについては請求人と原処分庁の間に争いのないところ、未分割財産についても本件特例の適用対象となり得るのは上記(ロ)のとおりであり、未分割であるq2宅地については相続人ら全員が相続分を有することから、本件特例の適用を受けるに当たっては、Nも含め相続人ら全員の同意を証する書類の提出が必要であったと認められる。
 しかしながら、請求人の提出した本件同意書類には、上記1の(4)のホの(ヘ)のとおり、相続人らのうちNの同意がないのであるから、本件相続税の課税価格の算定に当たり、本件特例の適用を認めることはできない。

トップに戻る

(6) 請求人に係る相続税の課税価格の計算について

 請求人に係る相続税の課税価格の計算は、上記(2)のロの(イ)のとおり、穴埋方式によるのが相当と解されるところ、上記(3)及び(4)のとおり、原処分庁の算定した本件A貸付金及び本件土地の価額は過大であることが認められる。
 そこで、当審判所が算定した本件土地の評価額240,391,961円を基に、請求人の本件分割済財産の取得額を改めて算定すると、別表10の4欄のとおり○○○○円となる。
 また、当審判所が算定した本件A貸付金の評価額48,603円及び本件土地の評価額240,391,961円を基に、穴埋方式によって請求人に配分される本件未分割財産の割合を計算したところ、別表10のとおり454,706,642分の86,875,866となり、また、当該割合を各未分割財産にそれぞれ乗じて算出したものを合計して請求人に配分される本件未分割財産の額を算定すると、別表11のとおり37,952,783円となる。
 さらに、本件未払金については、上記(3)のロの(ロ)で述べたとおり、本件A貸付金と相殺されて事実上存在しなかったものとするのが相当であるから、当該金額(11,813,077円)は、本件相続税の課税価格の計算上債務控除の対象から除外する。
すると、請求人の本件相続税に係る課税価格は○○○○円、納付すべき税額は○○○○円となる。
 上記の金額は、第一次更正処分の額を上回るものの、第二次更正処分の額を下回るから、第二次更正処分は、その一部を取り消すべきである。

(7) 争点5(第二次賦課決定処分の適否)について

イ 主張

請求人 原処分庁
 本件各更正処分は違法であり、その全部が取り消されるべきであるから、これに伴う第二次賦課決定処分も違法である。
 また、本件各更正処分に違法がなかったとしても、次のとおり、第一次更正処分において申告漏れとなった相続財産は、他の相続人が隠ぺいしたものであるから、請求人が当該財産を当初申告において税額の計算の基礎としていなかったことについては正当な理由がある。
 第二次更正処分は適法であるから、それに伴う第二次賦課決定処分も適法である。
 なお、請求人の正当な理由がある旨の主張は、第一次賦課決定処分に係るものであり、第二次賦課決定処分を取り消す理由とはなり得ない。
 (イ) 申告漏れとなったt証券の株式5,000株は、相続開始直後に他の共同相続人に無断でJによって同人名義に変更され、また、遺言執行者から交付された財産目録に記載がなかったものであるから、請求人はその把握が不可能であった。  
 (ロ) 上記株式以外の申告漏れ財産についても、遺言執行者から交付された財産目録に記載がなかったものであるから、請求人はその把握が不可能であった。  

ロ 判断
(イ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所が調査した結果によれば、次の事実が認められる。
A 第一次更正処分において相続税の課税価格の計算上加算された申告漏れ財産(以下「本件申告漏れ財産」という。)は、被相続人名義の上場株式(6銘柄)、被相続人名義の普通預金1口及び定期預金1口である。
 上記申告漏れの上場株式については、いずれも本件申告書に同じ銘柄の上場株式が申告されており、また、上記申告漏れの預金については、同一の預け先の金融機関に係る他の預金又は借入金が、本件申告書の課税財産又は債務として記載されている。
B 第二次更正処分では、申告漏れ財産があったことによる総遺産価額の増加はない。
(ロ) 法令解釈等
 通則法第65条《過少申告加算税》第1項に規定する過少申告加算税は、過少申告となったことについて同条第4項に規定する「正当な理由があると認められる場合」を除き、単に過少申告であるという客観的事実のみによって課される性質のものであり、当該「正当な理由があると認められる場合」とは、当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり、こうした納税申告に過少申告加算税を課すことが不当又は酷になる場合を意味するものであって、納税者の主観的な事情に基づくような場合までを含むものではないと解されている。
(ハ) 請求人の主張
 請求人は、遺言執行者から交付された財産目録に本件申告漏れ財産の記載がなかったことなどから、申告漏れとなったことに正当な理由がある旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、当該理由は、第一次更正処分における過少申告に係るものであり、第二次更正処分に係る賦課決定処分である第二次賦課決定処分についての理由に該当するものとは認められず、また、第二次賦課決定処分について、ほかに「正当な理由があると認められる場合」に該当する事実も認められない。
 なお、本件申告漏れ財産は、上記(イ)のAの事実からすれば、請求人において、いずれもその存在を確認することが困難な財産であったとも認められないから、請求人が本件申告漏れ財産を把握できなかったのは、請求人自身が相続財産を把握するための努力を積極的に行わなかったか、行っているとしてもそれが不十分であったことによるものであると認められる。
 すると、請求人の主張する理由からは、第一次賦課決定処分についても、請求人に対して過少申告加算税を課すことが不当又は酷になる場合に該当するとは認められない。
(ニ) 以上のとおり、第二次賦課決定処分については、上記(6)のとおり、第二次更正処分の一部が取り消されることに伴い減額される部分以外の税額の計算の基礎となった事実について、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認めらない。
 そこで、当審判所において、請求人の過少申告加算税の額を計算すると、その金額は○○○○円となり、この金額は、第二次賦課決定処分の額を下回るから、当該賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。

トップに戻る

3 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る