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(平20.5.19、裁決事例集No.75 147頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、建設業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、法人税について生じた欠損金額をその後の事業年度の損金の額に算入して申告していたところ、原処分庁が、当該欠損金額が過大であったとして、当該欠損金額が生じた事業年度の法定申告期限から5年を経過した日後に行った原処分に対し、請求人が、法定申告期限から5年を経過した日以後に更正をすることができるのは、納税者に有利になる場合に限られるから、請求人にとって不利な原処分は、することができないとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人は、平成19年8月8日に、平成13年4月1日から平成14年3月31日まで、平成16年4月1日から平成17年3月31日まで及び平成17年4月1日から平成18年3月31日までの各事業年度(以下、順次「平成14年3月期」、「平成17年3月期」及び「平成18年3月期」という。)の法人税の各処分について審査請求をした。
 この審査請求に至る経緯は、別表記載のとおりである。

(3) 関係法令

 別紙記載のとおりである。

(4) 争点

 法人税の法定申告期限から5年を経過した日以後において、通則法第70条第2項第3号に規定する更正をすることができるのは、納税者に有利になる場合に限られるか否か。

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2 主張

(1) 原処分庁

 請求人は、平成14年3月期の法人税について、欠損金額を○○○○円とする確定申告書を提出したが、この欠損金額の計算には、法人税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。)第36条《過大な役員退職給与の損金不算入》に規定する損金経理がされていない役員退職給与の額○○○○円を損金の額に算入したという誤りがあった。
 そこで、原処分庁は、通則法第70条第2項の規定に従い、平成14年3月期の法定申告期限から7年を経過する日までに、平成14年3月期の欠損金額を○○○○円減少させる更正処分(以下「本件更正処分」という。)をしたところであるが、通則法第70条第2項に規定する期間制限の改正の適用関係については、改正法附則第17条第2項が、平成13年4月1日以後に開始した事業年度において生じた純損失等の金額について適用する旨規定しており、本件更正処分は、これに当たる。
 また、通則法第70条第2項の規定の趣旨は、平成16年の法人税法の改正により、青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越期間が7年に延長されたことに伴い、適正公平な課税を確保するためには、繰越期間内の欠損金額の適否を過去にさかのぼって検証し、誤りがあれば更正できるようにする必要があることから、法人税の純損失等の金額に係る更正の期間制限も7年に延長されたものである。
 したがって、通則法第70条第2項第3号に規定する更正は、納税者の有利不利にかかわらず、することができる。

(2) 請求人

 通則法第70条第1項は、法人税に係る更正について、法定申告期限から5年を経過した日以後においては、することができない旨規定している。
 これは、法定申告期限から5年を経過した事業年度における税法上の過誤処理に起因して、租税債務が増加することはないという保証を納税者に付与するものであり、同条第2項の規定の適用に当たっても、納税者の権益として保護されるべきである。
 そうすると、法人税の法定申告期限から5年を経過した日以後において、同条第2項第3号に規定する更正をすることができるのは、納税者に有利になる場合に限られるところ、本件更正処分は、その後の事業年度の租税債務を増加させる請求人にとって不利な処分であるから、平成14年3月期の法定申告期限から5年を経過した日以後においては、することができない。
 なお、納税者に有利になる場合とは、例えば、棚卸資産の評価損について税法上の過誤があるような場合であり、これを計上した事業年度においては、法人税の所得の金額の計算上損金の額に算入されないとして純損失等の金額が減少したとしても、その後の事業年度において損金の額に算入され、その結果、欠損金の繰越期間が先に延びることとなるような場合である。

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3 判断

(1) 争点について

イ 通則法第70条第1項は、法人税に係る更正は法定申告期限から5年を経過した日以後においては、することができない旨規定しているところ、同条第2項本文は、第1項の規定にかかわらず、同条第2項第2号及び第3号に掲げる更正は、法人税の純損失等の金額に係るものに限り、法定申告期限から7年を経過する日まで、することができる旨規定している。
 したがって、通則法第70条第2項第2号に規定する、純損失等の金額で当該課税期間において生じたものを増加させる更正又はこの金額があるものとする更正も、同項第3号に規定する、純損失等の金額で当該課税期間において生じたものを減少させる更正も、法人税の純損失等の金額に係る更正であれば、いずれも法定申告期限から7年間することができることになる。
 また、法人税に係る更正の期間制限が、通則法第70条第2項に規定する7年とされるか同条第1項に規定する5年とされるかは、その更正が純損失等の金額に係る更正であるか否かによって定まり、例えば、その更正が納税者にとって有利か不利かなど、これ以外の事由が、これらの規定を適用する場合の要件とされていないことは、規定上明らかというべきである。
ロ ところで、法人税の純損失等の金額に係る更正の期間制限は、平成16年の税制改正によって、それまでの5年から7年に延長されたものであり、この改正の適用関係について、改正法附則第17条第2項は、平成13年4月1日以後に開始した事業年度において生じた純損失等の金額について適用する旨規定している。
 これは、平成16年の税制改正により、法人税に係る欠損金の繰越期間が、それまでの5年から7年に延長されたことに伴い、繰越期間内の欠損金額に誤りがあれば更正できるようにするため、法人税の純損失等の金額に係る更正の期間制限についても、法人税に係る欠損金の繰越期間と同様に、7年に延長することとされたものであり、この趣旨からしても、法人税の純損失等の金額に係る更正は、それが納税者にとって有利になるか不利になるかにかかわらず、法定申告期限から7年を経過する日まで、することができると解される。
ハ これを本件についてみると、本件更正処分は、平成13年4月1日を事業年度の開始の日とする平成14年3月期の法人税について、その法定申告期限である平成14年5月31日から7年を経過する日までに、平成14年3月期において生じた欠損金額を減少させる更正処分としてされたものであるから、法人税の純損失等の金額に係る更正の期間制限を定めた通則法第70条第2項の規定、及び、期間制限の改正に係る適用関係を定めた改正法附則第17条第2項の規定のいずれにも違反するところはない。
 また、本件更正処分により、平成14年3月期において生じた法人税の欠損金額が○○○○円減少しており、この減少した部分の金額を以後の事業年度に繰り越して損金の額に算入することはできないことから、平成17年3月期及び平成18年3月期の法人税の各更正処分において、この減少した部分の金額を損金の額に算入しないとしたことにも違法はない。

(2) 結論

 以上のとおり、原処分には、争点について、これを取り消すべき理由はない。
 また、原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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