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(平20.5.13、裁決事例集No.75 229頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、勤務先以外の株式会社から付与ないし割当てされた新株予約権の行使に係る経済的利益(以下「本件権利行使益」という。)について、1平成16年分の本件権利行使益を雑所得として申告した後、新株予約権を付与ないし割り当てた株式会社と請求人との間には何の関係もなかったから、本件権利行使益は一時所得に該当するとして更正の請求を行い、また、同様の理由から、2平成17年分の本件権利行使益を一時所得として申告したところ、原処分庁が、本件権利行使益は、請求人の社外協力者の地位に関連する成功報酬としての性格を有する役務の対価であることから、雑所得に該当するとして、1について、更正をすべき理由がない旨の通知処分及び2について、更正処分等をそれぞれ行ったことに対し、請求人が、上記各処分のうち本件権利行使益を雑所得とする部分の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成19年8月23日)に至る経緯は、別表1のとおりである(なお、以下、平成16年分及び平成17年分を「本件各年分」と、別表1の「更正の請求」欄の更正の請求を「本件更正の請求」と、別表1の「修正申告等」欄の修正申告を「本件修正申告」と、別表1の「通知処分」欄の更正をすべき理由がない旨の通知処分を「本件通知処分」と、別表1の「更正処分等」欄の更正処分を「本件更正処分」、過少申告加算税の賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。)。

(3) 関係法令等

 別紙1のとおり。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ A社は、平成15年2月○日に取締役会を、同月○日に臨時株主総会をそれぞれ開催し、従業員、顧問、取締役及びその他の者に対して、新株予約権を付与する旨決議した。
ロ 上記イの取締役会及び臨時株主総会の決議事項に基づき、A社は、請求人との間で、平成15年2月25日付で、要旨別紙2の内容で、同社が請求人に対して同社の新株予約権10個(以下「本件1新株予約権」という。)を付与する旨の新株予約権付与契約を締結し、同日付で請求人に対して本件1新株予約権を付与した。
ハ A社は、平成15年7月○日に臨時株主総会を、同年8月○日に取締役会をそれぞれ開催し、同社及び同社子会社(以下、併せて「A社グループ」という。)の取締役、監査役、従業員及び社外協力者に対して、新株予約権を割り当てる旨決議した。
ニ 上記ハの臨時株主総会及び取締役会の決議事項に基づき、A社は、請求人との間で、平成15年8月26日付で、要旨別紙2の内容で、同社が請求人に対して、同社の新株予約権4個(以下「本件2新株予約権」といい、本件1新株予約権と本件2新株予約権を併せて「本件各新株予約権」という。)を割り当てる旨の新株予約権割当契約を締結し、同日付で請求人に対して本件2新株予約権を割り当てた。
ホ A社は、1株を3株とする株式分割を、平成15年11月○日及び平成16年7月○日にそれぞれ行ったため、本件1新株予約権については、その個数が10個から90個に、その行使に際して払い込むべき価額が1株当たり○○○○円から○○○○円になり、また、本件2新株予約権については、その個数が4個から36個に、その行使に際して払い込むべき価額が1株当たり○○○○円から○○○○円になった。
ヘ A社は、平成16年○月○日に、○○証券取引所へ株式公開した。
ト 請求人は、別表2-1及び2-2のとおり、A社に対して、1平成16年中に本件2新株予約権のうちの3個(上記ホの株式分割により、行使請求株式数は27株)並びに2平成17年中に、本件2新株予約権のうちの1個(上記ホの株式分割により、行使請求株式数は9株)及び本件1新株予約権のうちの5個(上記ホの株式分割により、行使請求株式数は45株)について、権利行使の請求を行い、同社の株式計81株を取得した。
チ 本件各年分の本件権利行使益は、別表2-1及び2-2のとおりである。

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2 主張

 本件権利行使益は、一時所得、雑所得のいずれに該当するか。

原処分庁 請求人
 本件権利行使益は、以下のとおり、役務の対価としての性格を有すること等から、雑所得に該当する。  本件権利行使益は、以下のとおり、労務その他の役務の対価としての性質を有するものではなく、臨時的、偶発的な所得であるから、一時所得に該当する。
(1) 本件各新株予約権は、A社グループの社外協力者等に付与ないし割当てされており、請求人は、正にA社グループの社外協力者としての地位に関連して付与ないし割当てされたのである。
 そして、本件各新株予約権は、A社グループの業績向上及び社会的信頼性の向上を目的として付与ないし割当てされたものであり、付与ないし割当てされた者が、企業の業績向上のために努力することにより株価が上昇すれば、本件各新株予約権を行使して利益を享受できるから、本件各新株予約権の制度は、社外協力者等の業績向上へのインセンティブ(誘因)として機能することを期待されている。
 以上のとおり、本件各新株予約権の行使に係る利益は、役員、使用人及び社外協力者の地位及び職務等に関連する一種の成功報酬としての性格を有するものであり、労務その他の役務の対価としての性格を有するものと解される。
 したがって、本件権利行使益は、役務の対価としての性格を有するものと解され、一時所得には該当せず、また、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得のいずれにも該当しないから、雑所得に該当する。
(1) 本件権利行使益については、本件各新株予約権の行使時にその額を算出するが、その所得区分については、当該行使時における請求人の地位や職務によって判断すべきでなく、本件各新株予約権の付与ないし割当て時のそれによって判断すべきである。
 したがって、本件各新株予約権の付与ないし割当て時、請求人が、B社に勤務していたことからすれば、本件各新株予約権は、労務の対価として付与ないし割当てされたものとはいえない。
 また、請求人はA社株式の上場時にはB社の社員であり、上場に貢献するなどの関与をしていないことから、本件権利行使益は労務その他の役務の対価であるとはいえない。
 請求人は、本件各新株予約権の付与ないし割当て時から半年以上経過後に、A社に入社したが、本件各新株予約権の付与ないし割当てを理由に入社したものではない。
(2) A社の株価の値上がりが臨時的又は偶発的なものであったとしても、本件権利行使益は、同社が付与ないし割当契約において権利行使時点における株価と権利行使価格との差額相当の経済的利益を請求人に移転する旨を合意した結果であり、本件権利行使益は、上記(1)のとおり、請求人の社外協力者としての地位を離れてはあり得えない役務の対価としての性格を有するから、一時所得に該当しない。 (2) 本件各新株予約権の対象となったA社の株価は、上場により値上がりし、本件権利行使益も、当該上場により生じたものであるから、臨時的、偶発的なものである。

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3 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ A社の事業内容は、主にソフト開発、ハードウェア開発及びコンサルティングである。
ロ 本件各新株予約権は、いずれも商法(会社法施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第64条《商法の一部改正》の規定による改正前のもの)第280条の20及び同法第280条の21の規定に基づき付与ないし割当てされた(本件1新株予約権に関する付与契約書、上記1の(4)のハの本件2新株予約権に関する取締役会議事録)。
ハ 本件2新株予約権割当ての目的は、社外協力者のA社グループに対する参加意識を高めることにより、同グループの健全な経営と社会的信頼性の向上を図ることであった(上記1の(4)のハの本件2新株予約権に関する臨時株主総会議事録)。
 また、A社取締役のCは、異議調査の調査担当職員に対し、本件各新株予約権の付与ないし割当ての目的は、本件各新株予約権が、社外協力者である請求人に対してインセンティブとして機能することであった旨申述している。
ニ 本件各新株予約権は、別紙2の「譲渡禁止特約」欄のとおり、第三者への譲渡、質入れその他処分等が禁止され、また、本件1新株予約権は、期間に応じて行使可能な新株予約権の個数が増加していくこととされ、本件2新株予約権は、A社と競業関係にある会社(A社グループ会社を除く。)の役員、従業員又はコンサルタント等に就いた場合、その他A社に対する背信行為があったと同社が認めた場合には、新株予約権の全部が同社に返還されたものとみなすとされていた。
ホ 請求人は、本件各新株予約権の付与ないし割当て時、B社に技術職として勤務していた。なお、本件各新株予約権の付与ないし割当て時に、B社とA社との間に資本関係はなかった。
ヘ A社の代表取締役のD社長は、かつてB社に営業職として勤務しており、同社の技術職であった請求人とは旧知の間柄であった。
ト 請求人は、当審判所に対し、本件各新株予約権は、請求人がD社長の知人であるという理由で付与ないし割当てされた旨答述している。ただし、請求人は、異議調査の調査担当職員に対し、D社長との間で、本件各新株予約権の付与ないし割当ての前に、A社に入社するとの具体的な話はしていなかったが、将来は一緒に仕事をするかもしれないという話をしていた旨申述し、当審判所に対して、本件各新株予約権の付与ないし割当てに当たって、D社長から、今後いろいろとお願いすることがあるかもしれないといった趣旨の話があった旨答述している。
チ 本件各新株予約権の付与ないし割当てから請求人がA社に入社するまでの間、請求人が同社に対して、具体的な役務を提供したとは認められない。
リ 請求人は、平成16年3月31日にB社を早期退社し、同年4月1日にA社に入社し、現在同社のハードウェア部門で製品の開発に携わっている。

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(2) 法令解釈

 一時所得については、別紙1の1のとおり「利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」と規定されており、また、雑所得については、別紙1の2のとおり「利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得」と規定されているから、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得のいずれにも該当しない経済的利益が、労務その他の役務の対価としての性質を有する場合は、雑所得に該当することになる。
 ところで、一時所得は、一時的、偶発的な所得であり、類型的に担税力が低いと考えられることから、一時所得の金額の計算に当たっては、一時所得の特別控除額が控除され(所得税法第34条第2項)、総所得金額の計算に当たっては、所得金額の2分の1に相当する金額のみが総所得金額に算入される(所得税法第22条第2項第2号)という担税力に見合った特別な取扱いがされている。一時所得から労務その他の役務の対価としての性質を有する所得が除かれたのは、自らの意思に基づき労務その他の役務を提供したことにより、その見返りとして供与される経済的利益は、偶発的に生じるものではなく、類型的に担税力が低いとはいえないから、このような特別な取扱いをする必要がないためである。そして、このような法の趣旨に加えて、所得税法第34条第1項が一時所得から除外される所得を、労務の対価に限定せずに、その他の役務の対価と規定していることからすると、労務その他の役務の対価としての性質を有する所得を、具体的な労務の提供の見返りとして生じた所得に限定する必要はなく、一般的な職務又は作為、不作為を問わず何らかの義務を伴う地位に就いていることの見返りとして生じた場合もこれに含まれると解するのが相当である。

(3) 本件へのあてはめ

 上記(1)のハのとおり、A社が、本件各新株予約権を請求人に付与ないし割り当てた目的は、社外協力者としてA社グループに対する参加意識を高めることにより、A社グループの健全な経営と社会的信頼性の向上を図るという社外協力者の協力を奨励する動機付けを企図したものといえる。
 そして、上記(1)のヘのとおり、D社長は、請求人と旧知の間柄であったことから、請求人の技術者としての能力等を承知していたと推認されるところ、上記(1)のトの申述及び答述によると、少なくとも、本件各新株予約権の付与ないし割当てに当たって、D社長から請求人に対し、A社からの依頼に応じて助言その他の協力をすること、仮に、将来請求人がB社を退社するようなことがあれば、A社に入社して同社に協力すること等の依頼があったものと推認される。そうすると、請求人は、このような協力をすることを社外協力者として期待されていることを知って、本件各新株予約権の付与ないし割当契約を締結したことにより、A社からの依頼に応じて助言その他の協力をすることや、仮に将来請求人がB社を退社するようなことがあれば、A社に入社して同社に協力するといった作為義務又はA社と競業関係にある会社への就職その他A社に対する背信行為をしないという不作為の義務を負ったものということができる。このような社外からの協力義務を奨励、継続する趣旨で、上記(1)のニのとおり、本件1新株予約権は、別紙2の「権利行使の条件」欄のとおり、権利行使を段階的に行うことができるようにされ、本件2新株予約権は、別紙2の「返還合意等」欄のとおり、請求人がA社と競合関係にある会社の役員、従業員又はコンサルタント等に就いた場合その他同社に対する背信行為があった場合には、直ちに同社に返還されたものとみなす旨規定されたと解することができる。
 そうすると、本件各新株予約権の付与ないし割当てに当たって、具体的な役務の提供が明示的に合意されていたとはいえないとしても、請求人は、A社に対する社外協力者として同社の必要に応じて協力し、仮に、将来転職する場合には同社への入社を優先するなどの作為義務又はA社と競業関係にある会社への就職その他A社に対する背信行為をしないという不作為の義務を負う社外協力者としての地位にあり、同社は、このような義務を伴う地位に就いていることを継続することの見返りとして本件各新株予約権を付与ないし割り当てたものということができる。
 そして、本件各新株予約権については、その権利を譲渡し又は処分等することはできないものとされており、請求人は、これを行使することによって、初めて経済的利益を受けることができるものとされているのであるから、A社は、請求人に対し、上記1の(4)のロの新株予約権付与契約及び上記1の(4)のニの新株予約権割当契約により本件各新株予約権を付与し、その約定に従って所定の権利行使価格で株式を取得させたことによって、本件権利行使益を得させたものということができるから、本件権利行使益は、A社から請求人に与えられた給付に当たるものというべきである。
 したがって、本件各新株予約権を行使して得た本件権利行使益は、労務その他の役務の対価としての性質を有するというべきである。
 以上によると、本件権利行使益は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得のいずれにも該当せず、また、労務その他の役務の対価として供与されたものであるから、一時所得には該当せず、雑所得に該当する。

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(4) 請求人の主張について

イ 請求人は、本件権利行使益の所得区分は、本件各新株予約権の付与ないし割当て時の地位や職務によって判断すべきであり、本件各新株予約権の付与ないし割当てを理由に同社に入社したものではないから、本件権利行使益は労務その他役務の対価であるとは認められない旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のとおり、ある所得が具体的な労務の提供の見返りとして生じただけでなく、その所得が当該人が一般的な職務又は何らかの義務を伴う地位に就いていることに対応して生じた場合も、役務提供の対価ということができると解するのが相当であるところ、請求人は、上記(3)のとおり、本件各新株予約権の付与ないし割当て時に、請求人がA社の社外協力者として義務を負う地位にあったのであり、これによれば、本件権利行使益は、役務の対価としての性質を有するものと認められる。
 そうすると、請求人は本件各新株予約権の付与ないし割当て後に同社に入社して就労しているが、これを考慮することなく、本件各新株予約権の付与ないし割当て時の地位に基づいて判断すれば、本件権利行使益が一時所得に該当することはないというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には、理由がない。
ロ また、請求人は本件権利行使益が発生したのは、A社の株式が上場により値上がりしたことにより生じた臨時的、偶発的なものであるから、一時所得に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件権利行使益は、上記(3)のとおり、請求人がA社との契約に基づき付与ないし割当てされた譲渡制限付の本件各新株予約権を、契約の約定に従い行使したことにより生じたものであるから、同社があらかじめ定めた権利行使価格で株式を請求人に取得させたことにより生じた経済的利益ということができる。
 したがって、本件権利行使益は、A社の株価の値上がりのみを理由として生じた臨時的、偶発的な利益ではないから、一時所得には当たらず、この点に関する請求人の主張にも理由がない。

(5) 本件通知処分及び本件更正処分の適法性について

イ 本件通知処分について
 上記(3)のとおり、本件権利行使益は雑所得に該当するから、請求人の主張に理由はなく、本件更正の請求に対し、更正をすべき理由がないとした本件通知処分は適法である。
ロ 本件更正処分について
 上記(3)のとおり、本件権利行使益は雑所得に該当するところ、請求人の平成17年分の本件権利行使益の額については、別表2-2のとおり、○○○○円と認められる。
 そうすると、上記の雑所得の金額は、本件更正処分に係る雑所得の金額と同額となるので、本件更正処分は適法である。

(6) 本件賦課決定処分について

 本件更正処分は、上記(5)のロのとおり適法であり、また、本件権利行使益のうち○○○○円を一時所得として申告したことによって増加した納付すべき税額を除いた部分については、国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないから、同条第1項の規定に基づきされた本件賦課決定処分は、適法である。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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