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(平20.3.24、裁決事例集No.75 342頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が飲食店の経営及び食品製造等を営む請求人に対して行った法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分について、請求人がこれらの処分の違法等を理由としてその全部の取消しを求めた事案で、争点は次の4点である。

 争点1  調査手続等が違法又は不当か否か。
 争点2  請求人が取得した土地及び当該土地の上に存する複数の建物等のうち、取り壊した建物等の取壊費用等及び当該取り壊した建物等の取得価額は、土地の取得価額に算入すべきか否か。
 争点3  請求人が取得した補償金は租税特別措置法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第65条の2《収用換地等の場合の所得の特別控除》第1項の規定による特例(以下「本件特例」という。)の対象となる補償金に該当するか否か。
 争点4  請求人が土地の取得の際に支払った固定資産税に相当する金額は土地の取得価額に算入すべきか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

 平成16年4月1日から平成17年3月31日までの事業年度及び平成17年4月1日から平成18年3月31日までの事業年度(以下、順次「平成17年3月期」及び「平成18年3月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税についての審査請求(平成19年7月31日)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。

(3) 関係法令等

 関係法令等の要旨は、別紙1のとおりである。

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(4) 基礎事実

イ 争点2関係
(イ) 請求人は、平成16年7月○日に別表2に記載した土地(以下「本件土地」という。)及び本件土地の上に存する建物(以下、「本件建物」といい、本件建物のうち、同表の番号9から14までの建物を「本件建屋」、番号15の建物を「本件社屋」という。)を競売(以下「本件競売」という。)により103,168,058円で取得した。
(ロ) 請求人は、平成16年9月○日に請求人の本店を本件社屋の所在地に移転し、同年10月○日にその旨の登記を経由した。
(ハ) 請求人は、本件土地及び本件建物の取得価額について、本件競売による落札価額103,168,058円を別表2の本件土地の固定資産税評価額の合計額126,617,179円と本件建物の固定資産税評価額の合計額402,228,582円を基にあん分して計算し、本件土地の取得価額を24,700,677円、本件建物の取得価額を74,730,840円、本件建物に係る仮払消費税等の額を3,736,541円とした。
(ニ) 請求人の資産台帳には、本件建物について、資産名は新社屋建物、取得年月日及び供用年月日は平成16年8月25日、取得価額は74,730,840円と記載され、また、本件社屋を事業の用に供するために行った改装工事に要した費用について、資産名は新社屋工事代金、取得年月日及び供用年月日は同年9月1日、取得価額を1,870,920円と記載されている。
(ホ) 請求人は、平成16年10月から平成17年8月にかけて、本件建屋及び本件建屋に附属する排水施設タンク(以下「本件排水施設」という。)を事業の用に供することなく取り壊し、その後、その跡地を利用して平成18年1月に本件社屋を増築するとともに、同年2月に別棟を新築取得した。
 なお、本件建屋の閉鎖事項証明書によれば、本件建屋の登記簿は、平成17年8月○日取毀を原因として同月○日付で閉鎖されている。
(ヘ) 請求人は、平成17年3月期において、1本件排水施設を解体するために要した費用の額2,640,000円(以下「本件排水施設解体費」という。)、2本件排水施設を解体する際に行った洗浄及び廃水処理に要した費用の額650,000円(以下、本件排水施設解体費と併せて「本件排水施設解体費等」という。)、3本件建屋内の残置薬品廃棄処理に要した費用の額2,476,000円及び4廃プラ、木屑、段ボール廃棄処理工事等に要した費用の額1,185,000円の合計額6,951,000円を平成17年2月28日に固定資産除却損として損金の額に算入した。
(ト) 請求人は、平成17年3月期において、本件建物の取得価額74,730,840円を基礎として、減価償却資産の耐用年数等に関する省令第3条《中古資産の耐用年数等》第1項第2号ロの規定により算出した耐用年数45年を用い、定額法により計算した減価償却費の額1,031,285円を損金の額に算入し、また、前記(ニ)に記載した新社屋工事代金についても耐用年数45年を用い、定額法により計算した減価償却費の額22,591円を損金の額に算入した。
(チ) 請求人は、平成18年3月期において、本件建物の取得価額74,730,840円を基礎として、耐用年数45年を用い、定額法により計算した減価償却費の額1,546,928円を損金の額に算入し、また、前記(ニ)に記載した新社屋工事代金についても耐用年数45年を用い、定額法により計算した減価償却費の額38,728円を損金の額に算入した。
(リ) 請求人は、平成18年3月期において、平成17年6月27日に、本件社屋横に設置されていたタンク並びに本件社屋壁面に取り付けられていた配管及びラック類(以下「本件タンク設備等」という。)の解体撤去工事に要した費用の額4,750,000円(以下「本件タンク設備等撤去工事費」という。)を、また、同年8月31日に本件建屋の解体工事に要した費用の額6,000,000円(以下、「本件建屋解体費」といい、本件排水施設解体費等、本件タンク設備等撤去工事費と併せて「本件解体工事費等」という。)を、それぞれ固定資産除却損として損金の額に算入した。
ロ 争点3関係
(イ) 請求人は、請求人の代表取締役であるAが所有するQ市○-○の土地の上に存する建物(以下「本件Q市本店建物」という。)を賃借し、本件Q市本店建物に付随する工作物等の資産を所有して飲食店の営業を行っていた。
(ロ) 請求人は、本件Q市本店建物の敷地がP県の施行する一般国道○号道路改良事業により買い取られることに伴い、平成17年12月26日付で、P県土木事務所長との間において物件移転補償契約書(以下「本件補償契約書」という。)を取り交わした。
(ハ) 本件補償契約書及びP県土木事務所長が発行した収用証明書によると、補償金の総額は42,865,000円(以下「本件補償金」という。)であり、その内訳は建物等移転費用補償の補償金額が25,620,500円(以下「本件建物等移転費用補償金」という。)、動産移転費用補償の補償金額が327,500円(以下「本件動産移転費用補償金」という。)及び営業休止の補償金額が16,917,000円(以下「本件営業休止補償金」という。)である。
(ニ) 請求人は、平成18年3月期の法人税の所得の金額の計算において、本件補償金を店舗不動産収用益として益金の額に算入し、また、本件補償金の全額が本件特例の対象となる収用等による譲渡の目的となった資産の収用等の対価たる金額(以下「対価補償金」という。)に該当し、本件特例の適用があるとして、確定申告書別表十(五)「収用換地等の場合の所得の特別控除に関する明細書」において算出した特別控除額42,865,000円を当期利益の額から減算して確定申告書を提出した。
ハ 争点4関係
(イ) 請求人は、平成18年2月27日にD社との間で、R市に所在する別表3の土地(以下「R市土地」という。)を60,000,000円で購入する旨の不動産売買契約書(以下「本件契約書」という。)を取り交わした。
(ロ) 本件契約書の第9条《公租公課の分担等》は、R市土地に賦課される公租公課、賦課金、負担金等について、起算日を1月1日として本件契約書第5条《所有権の移転および引渡し》の引渡日の前日までの分を売主の負担、引渡日以降の分を買主の負担とし引渡日において買主から売主に支払うことにより精算する旨定めている。
(ハ) 請求人は、R市土地の引渡日である平成18年2月27日に、D社に対し、R市土地に係る平成18年度の固定資産税の額1,091,391円のうち同年2月27日から同年12月31日までの期間に対応する金額920,954円(以下「本件固定資産税相当額」という。)を支払い、租税公課として平成18年3月期の損金の額に算入した。

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2 主張

 各争点に係る当事者の主張は、別紙2のとおりである。

3 判断

(1) 争点1(調査手続等が違法又は不当か否か。)について

 税務調査における質問検査権の行使の時期、範囲、程度、場所など実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な判断にゆだねられていると解されている。
 請求人は、調査担当職員が、本件調査において既に請求人の担当者から説明を受けた事項について、Aに苦痛を与えると分かっていながら、再度Aに質問したことは違法又は不当である旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によれば、本件調査において調査担当職員が、Aに対し社会通念上相当な限度を超えた質問調査をしたとは認められず、また、質問検査権の行使の過程に合理的な判断の範囲を逸脱するような違法又は不当な点は認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件解体工事費等及び取り壊した本件建屋の取得価額は、本件土地の取得価額に算入すべきか否か。)について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件競売に係る平成13年2月○日P地方裁判所受付の評価書(平成○年(○)第○号、評価人E)には、本件建屋が従前○○関連工場として使用されていたこと及び本件建屋内には○○関連の機械器具が設置されたままになっている旨記載されている。
(ロ) 本件競売に係る平成16年3月○日P地方裁判所受付の評価書(再)(平成○年(○)第○号、平成16年○月○日現地調査、平成16年○月○日評価、評価人E。以下、上記(イ)の評価書と併せて「本件評価書」という。)の本件土地の概況及び利用状況等の特記事項には、現地調査及び当事者等からの聴取等によると、当工場ではシアン化合物を使用しており、工場が稼動中は屋外排水施設で適切に処理していたとのことであるが、本件評価書における調査の範囲内では、本件土地の土壌汚染の存否及びその程度の判定が困難である旨記載されている。
(ハ) 平成16年5月24日付の請求人の取締役会議事録には、議長(A)から本件土地及び本件建物についての競売の入札に参加したい旨の提案がなされ、出席役員全員異議なく承認可決した旨記載されている。
(ニ) 請求人の監査役であるFは、平成16年7月6日、P県保健福祉環境事務所に赴き、土壌汚染防止法に基づく汚染調査の方法、土壌汚染があった場合の処理に対する補助金の有無及び指定調査機関について相談している。
(ホ) 請求人が当審判所に提出した平成19年11月19日付の回答書には、請求人は、本件建屋を食品の製造工場として利用する計画があったことの証拠として、本件記事並びに前記1の(4)のイの(ハ)及び(ニ)の経理処理(以下「本件経理処理」という。)を行ったことを挙げているが、それ以外、具体的な利用計画があったことの証拠となる資料等はない旨記載されている。
 なお、本件記事には、本社屋1階と隣接する建屋に製造設備を導入する旨記載されている。
(ヘ) 本件稟議書には、本件建屋内に残置されている薬品類等の廃棄処理及び本件排水施設の解体撤去工事を実施する理由として、「新工場」建設に際して本件建屋を解体する前段階として実施するものであり、全ての廃棄処理及び解体撤去が終了して初めて「新工場」の建設ができる旨記載されている。
ロ 法令解釈等
(イ) 法人税法施行令第54条《減価償却資産の取得価額》第1項第1号は、減価償却資産の取得価額は、当該資産の購入の代価及び当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の合計額とする旨規定しているところ、同項は固定資産のうちの減価償却資産の取得価額の範囲についての規定であるが、これは企業会計原則第3の5《資産の貸借対照表価額》を具体化したものと解されるから、土地等の非減価償却資産についても類推適用されるべきものである。
(ロ) そして、土地とともに建物を取得した場合に、当初からその敷地を利用する目的で建物を事業の用に供することなく取り壊したのであれば、当該建物を取り壊した時の帳簿価額等(建物の取壊費用を含む。)は損金の額に算入できず、土地の取得価額に算入すべきである。法人税基本通達7-3-6が、その取得後おおむね1年以内に当該建物等の取壊しに着手する等、当初からその建物等を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるときには、(上記の帳簿価額等は)当該土地の取得価額に算入する旨定めているのも同旨の取扱いであり、この取扱いは、当審判所においても相当であると認められる。
 さらに、「当初からその建物等を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるとき」といえるかどうかについては、当該建物を取得するに至る経緯、取得時の当該建物の客観的状態(建物の建築年数・現況・老朽度や利用価値)、土地の更地としての相場価格、取得後の調査や改装等の状況、建物の取壊時期や取壊目的等の資料等の客観的な諸事実を総合勘案して判断すべきと解される。
(ハ) なお、「当初からその建物等を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるとき」といえるかどうかについての判断の基準時は、建物等とともに土地を取得したときであり、競売による取得の場合には、競売時となると解される。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ) 請求人は、前記イの(ヘ)のとおり、本件稟議書が作成された平成16年12月13日の時点では本件建屋を解体して、新工場を建設することを決めていたものと認められ、前記1の(4)のイの(ホ)のとおり、平成16年10月から平成17年8月にかけて、本件排水施設及び本件建屋を順次取り壊し、その後、その跡地を利用して平成18年1月に本件社屋を増築するとともに、同年2月に別棟を新築取得しており、取得後1年以内に本件建屋の取壊しに着手していることが認められる。
(ロ) また、前記イの(イ)及び(ロ)の本件評価書によれば、本件建屋は従前○○工場としてシアン化合物が使用され、本件評価書における調査の範囲では本件土地の土壌汚染の存否及びその程度の判断が困難である旨記載されており、そして、前記イの(ニ)のとおり、請求人の監査役であるFが本件土地及び本件建物を取得する直前に土壌汚染の調査方法等についてP県保健福祉環境事務所に相談していることからすれば、請求人は、競売に参加する時点において、本件建屋が従前○○工場であり有害物質であるシアン化合物が使用されていたことを承知しており、本件建屋が食品物の製造に適さない可能性があることを想定した上で、本件土地及び本件建物を取得したと認められる。
(ハ) 請求人は、本件建屋について、当初の計画では、本件建屋を改装して食品の製造工場として利用する目的で取得したものである旨主張し、これを証する資料として本件記事を提出している。
 しかしながら、請求人が本件建屋の利用計画があったとする本件記事は、平成17年○月○日付であり、その○か月前に作成されている平成16年12月13日付の本件稟議書には、前記イの(ヘ)のとおり、本件建屋を解体して新工場を建設する旨の記載があり、実際に解体準備を進めていることからすると、本件記事に記載されている「製造設備を導入する本社屋1階と隣接する建屋」は、本件稟議書に記載されている「本件建屋を解体した後に建設される新工場」のことで、本件建屋とは異なるものと推認され、このことからすると本件記事の内容から本件建屋の利用計画があったとは認められない。
 また、本件経理処理についても、本件建屋の帳簿価額相当額は本件社屋の帳簿価額に含めて計上されているだけであって、前記1の(4)のイの(ホ)で述べるように、本件建屋は事業の用に供することなく取り壊されたことからすると、その経理処理のみをもって、本件建屋の利用計画があったとは認められない。
 さらに、前記イの(ホ)のとおり、請求人は、当審判所に対し、本件記事及び本件経理処理以外には、具体的な利用計画があったことの証拠となる資料はない旨回答しており、また、原処分関係資料及び当審判所の調査においても、その利用計画を示す具体的資料はないことから、競売時に本件建屋を利用する計画があったとは到底認められない。
(ニ) 前記(イ)から(ハ)を総合すれば、請求人は、当初から本件建屋を利用する計画はなく、それを取り壊して、その跡地を利用する目的であったと認められ、前記ロの(ロ)の法人税基本通達7-3-6の「その取得後おおむね1年以内に当該建物等の取壊しに着手する等、当初からその建物等を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるとき」に該当する。
 そうすると、本件建屋の取得価額は、本件建屋解体費及び本件排水施設解体費等とともに本件土地の取得価額に算入するのが相当である。
 また、本件では、請求人は、本件建屋の取得価額を本件社屋の取得価額に含めて減価償却を行っているが、本件建屋の取得価額は、上記のとおり、本件土地の取得価額に算入すべきであることから、本件建屋の取得価額に係る減価償却費を損金の額に算入することは相当ではない。
(ホ) また、前記1の(4)のイの(リ)から、本件タンク設備等についても、食品製造工場として利用できるものではなく、平成17年6月27日までに取り壊されており、本件タンク設備等撤去工事費は、本件タンク設備等を取り壊して、本件土地を利用するために要した費用であると認められることから、本件土地の取得価額に算入するのが相当である。
(ヘ) 以上のことから、本件解体工事費等は、本件各事業年度の損金の額に算入することはできず、本件建屋の帳簿価額及び本件解体工事費等は本件土地の取得価額に算入すべきである。

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(3) 争点3(請求人が取得した本件補償金は本件特例の対象となる補償金に該当するか否か。)について

イ 認定事実
 P県土木事務所長が作成した収用証明書及びその算定資料によれば、本件建物等移転費用補償金、本件動産移転費用補償金及び本件営業休止補償金は、公共用地の取得に伴う損失補償基準(以下「補償基準」という。)に従い算出されたもので、その内容は次のとおりである。
(イ) 本件建物等移転費用補償金は、本件Q市本店建物に付随する工作物の取壊し又は除去に対して支払われたものである。
(ロ) 本件動産移転費用補償金は、本件Q市本店建物の屋内にある請求人所有の什器備品等の動産の移転費用の補てんに充てるためのものである。
(ハ) 本件営業休止補償金は、請求人の休業期間中の収益の減少及び損失額等を補償するものである。
ロ 法令解釈等
(イ) 措置法第65条の2第1項は、法人が収用等により取得した同法第64条《収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例》第1項に規定する補償金等の額が、譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額と譲渡経費の額との合計額を超え、かつ、当該法人が当該事業年度のうち同一の年に属する期間中に収用等により譲渡した資産のいずれについても同法第64条から同法65条までの規定の適用を受けないときは、その超える部分の金額と5,OOO万円とのいずれか低い金額を当該譲渡の日を含む事業年度の損金の額に算入する旨規定している。
(ロ) そして、租税特別措置法関係通達64(2)-1《対価補償金とその他の補償金との区分》は、措置法第64条第1項に規定する補償金とは、名義のいかんを問わず、対価補償金をいうのであるから、1事業について減少することとなる収益又は生ずることとなる損失の補てんに充てるものとして交付を受ける収益補償金、2休廃業等により生ずる事業上の費用の補てん又は収用等による譲渡の目的となった資産以外の資産(棚卸資産を除く。)について実現した損失の補てんに充てるものとして交付を受ける経費補償金、3資産(棚卸資産を含む。)の移転に要する費用の補てんに充てるものとして交付を受ける移転補償金及び4その他対価補償金たる実質を有しない補償金は、別に定める場合を除き、対価補償金に該当しない旨定めているところ、この取扱いは、本件特例の立法趣旨を踏まえ、公共事業施行者がその公共事業に必要な資産として買収をしたものの対価とは性格を異にしている補償金については、原則として、特別な措置を講ずる必要のないことを明らかにしたものであり、当審判所においても相当と認められる。
ハ 本件補償金のうち、本件建物等移転費用補償金が、本件特例の対象となる対価補償金に該当することについては、請求人と原処分庁との間に争いがないので、当審判所において、それ以外の補償金について検討したところ、次のとおりである。
(イ) 本件動産移転費用補償金は、前記イの(ロ)のとおり、本件Q市本店建物の屋内にある請求人所有の什器備品等の動産の移転費用の補てんに充てるためのものであり、前記ロの(ロ)の租税特別措置法関係通達64(2)-1に定める、資産(棚卸資産を含む。)の移転に要する費用の補てんに充てるものとして交付を受ける移転補償金に該当する。
(ロ) 本件営業休止補償金は、前記イの(ハ)のとおり、休業期間中の収益の減少及び損失額等を補償するものであり、前記ロの(ロ)の租税特別措置法関係通達64(2)-1に定める、事業について減少することとなる収益又は生ずることとなる損失の補てんに充てるものとして交付を受ける収益補償金に該当する。
(ハ) 以上のとおり、本件動産移転費用補償金は移転補償金に、また、本件営業休止補償金は収益補償金に該当し、いずれも本件特例の対象となる対価補償金に該当しないとするのが相当である。

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(4) 争点4(本件固定資産税相当額は、土地の取得価額に算入すべきか否か。)について

イ 法令解釈等
(イ) 法人税法施行令第54条第1項第1号は、減価償却資産の取得価額は当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他当該資産の購入のために要した費用の額がある場合には、その費用の額を加算した金額)及び当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額とする旨規定している。
 また、減価償却資産以外の固定資産の取得価額については、法人税基本通達7-3-16の2において、別に定めるもののほか、法人税法施行令第54条及び第55条《資本的支出があった場合の減価償却資産の取得価額の特例》の規定並びにこれらに関する取扱いの例による旨定めているところ、この取扱いは、減価償却資産以外の固定資産の取得価額に関しても減価償却資産に関する同施行令の規定及びこれらに関する取扱いが準用されてしかるべきであることを留意的に定めたものであると解され、当審判所においても相当と認められる。
(ロ) 地方税法第341条《固定資産税に関する用語の意義》第9号、第10号及び第12号、同法第343条《固定資産税の納税義務者等》第1項及び第2項、同法第359条《固定資産税の賦課期日》、同法第702条《都市計画税の課税客体等》並びに同法第702条の6《都市計画税の賦課期日》の規定によれば、固定資産税等は、その賦課期日である毎年1月1日現在において、固定資産課税台帳に所有者として登録されている者に対して課されるものであり、賦課期日後に所有者に異動が生じたからといって、課税関係に変動が生じるものではなく、賦課期日後に資産の所有者となった者が当該年度の固定資産税等の納税義務を負うことはない。
 したがって、当該資産の売買当事者間において、固定資産税等を納めた売主が買主に対し、売買後の期間に対応する未経過分の固定資産税等(以下「未経過分固定資産税等」という。)の求償権を取得することはない。
 そうすると、売買当事者間において未経過分固定資産税等に相当する金額(以下「未経過分固定資産税等相当額」という。)が授受されたとしても、地方税法上、固定資産税等の納税義務に伴う負担とみることはできない。
ロ これを本件についてみると、前記1の(4)のハの(ロ)のとおり、本件契約書において、R市土地の代価のほか、その引渡日以降の固定資産税等についても買主である請求人が負担する旨定められているが、本件固定資産税相当額は、本件契約書第9条の定めにより生じる債権債務関係に基づいて売買当事者間で授受されるものであり、本件固定資産税相当額の授受は売買の条件の一つであると認められる。
 すなわち、本件固定資産税相当額は、R市土地の売買に基因し、それと因果関係のある給付であると認められることから、買主である請求人にとっては、契約に基づき売主であるD社に支払う購入の代価の一部であると認めるのが相当である。
 したがって、本件固定資産税相当額は、R市土地の取得価額に算入すべきものと認められる。
ハ 請求人は、本件固定資産税相当額は、本件契約書に租税公課の分担等と明記しており、本件固定資産税相当額を土地の取得価額に算入することは土地の価額を膨らますことになるから、土地の取得価額に含めるべきではなく、損金の額に算入すべきである旨主張する。
 しかしながら、売買当事者が、これを固定資産税等の所有期間に対応した経費分担と認識しているとしても、地方税法上、固定資産税等は毎年1月1日を賦課期日としてその年の4月1日から始まる年度分の税として課税されるものであって、所有期間に対応して課税することにはなっておらず、また、不動産売買取引においても未経過分固定資産税等相当額の算定は、会計年度を基準にするものもあれば、暦年を基準とするものもあり、その算定方法の決定等はその金員の授受を行うか否かを含め売買当事者の意思にゆだねられているのであるから、未経過分固定資産税等相当額は、売買条件の一つとして買主が売主に給付する金員にほかならず、買主にとって購入資産の代価の一部として支払うものと認めるのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(5) 以上のとおり、争点1から争点4について、原処分は適法である。

 また、過少申告加算税の各賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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