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(平20.2.20、裁決事例集No.75 415頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の子会社であるJ社については、請求人に係る租税特別措置法(平成16年法律第14号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第66条の6《内国法人に係る特定外国子会社等の留保金額の益金算入》第1項(以下、この規定による課税の特例を「外国子会社合算税制」という。)に規定する特定外国子会社等に該当し、かつ、J社の営む主たる事業は製造業であるところ、同条第3項第2号に規定する適用除外の要件を満たしていないなどとして、J社の課税対象留保金額に相当する金額を請求人の所得の金額の計算上益金の額に算入するなどの法人税の各更正処分等を行ったのに対し、請求人が、J社は、特定外国子会社等に該当するが、同項に規定する適用除外の各要件をすべて満たしているとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成13年4月1日から平成14年3月31日まで、平成14年4月1日から平成15年3月31日まで及び平成15年4月1日から平成16年3月31日までの各事業年度(以下、順次「平成14年3月期」、「平成15年3月期」及び「平成16年3月期」といい、平成14年3月期及び平成16年3月期を併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、別表1の「確定申告」欄のとおりに記載した青色の確定申告書を、その提出期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの。)までにK税務署長へ提出した。
ロ 次いで、請求人は、平成14年3月期の法人税について、別表1の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を平成15年6月30日に提出した。
ハ その後、K税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成17年7月29日付で、本件各事業年度及び平成15年3月期の法人税について、別表1の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分並びに平成16年3月期の過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分をした。
ニ 請求人は、本件各事業年度の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び平成16年3月期の過少申告加算税の賦課決定処分を不服として、平成17年9月27日に審査請求をした。
ホ そこで、平成17年7月29日付でされた平成16年3月期の法人税の重加算税の賦課決定処分についてもあわせ審理する(以下、あわせ審理後の平成16年3月期の法人税の過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。)。

(3) 関係法令

 関係法令の要旨は、別紙1のとおりである。

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ J社の本店所在地は、J社の2000年(平成12年)4月1日から2001年(平成13年)3月31日まで及び2002年(平成14年)4月1日から2003年(平成15年)3月31日までの各事業年度(以下、順次「J社平成13年3月期」及び「J社平成15年3月期」といい、これらの事業年度を併せて「J社各事業年度」という。)を通じて、L国M区(以下「M区」という。)の○○○○である。
ロ 内国法人である請求人は、J社平成13年3月期及びJ社平成15年3月期の終了の時において、J社の発行済株式の総数の100%を直接に保有していた。
ハ J社は、M区の法人税に関する法令(我が国の法人税法第69条《外国税額の控除》第1項に規定する外国法人税に関する法令をいう。)により、J社各事業年度の所得について我が国の法人税に相当する利得税が課されており、措置法施行令第39条の14《特定外国子会社等の範囲》第2項の規定に従って計算した利得税の額の当該所得の金額に占める割合は、J社各事業年度のいずれについても25%以下であった。
ニ J社各事業年度における課税対象留保金額に相当する金額(円換算後)は、J社平成13年3月期○○○○円及びJ社平成15年3月期○○○○円であった。
ホ J社は、J社各事業年度を通じて、N等の電子部品の受注販売を行っており、その販売先のほとんどは請求人である(以下、J社が販売するN等を「本件N等」という。)。
ヘ J社は、平成6年8月以降、L国P市のR社との間で、次に掲げる合同書、協議書等(以下、これらを併せて「本件合同書等」という。)を取り交わしており、L国P市に所在するL国工場(以下「本件L国工場」という。)においては、本件合同書等に基づき、J社が調達した部品を本件N等に組み立てる作業(以下「本件N等の組立加工」という。)を行っている(以下、本件合同書等に基づくJ社、R社及び本件L国工場の取引の形態を「S取引」という。)。
(イ) 1994年8月1日付合同書
(ロ) 1994年8月2日付協議書
(ハ) 1996年2月1日付補充合同書
(ニ) 1996年4月28日付補充合同書
(ホ) 1998年8月27日付合同書
(ヘ) 1999年6月22日付補充合同書
(ト) 1999年10月27日付補充合同書
(チ) 2000年9月29日付合同書
(リ) 2001年12月5日付補充合同書
(ヌ) 2002年11月11日付協議書
(ル) 2003年(月日不明)付S取引期間継続協議書
 なお、本件合同書等には、要旨別紙2のとおり記載されている。
ト 1994年(平成6年)8月16日付の本件L国工場の営業許可証(更新後のもの)には、要旨以下の記載がある。
(イ) 企業名称はL国工場(本件L国工場)
(ロ) 企業形態は○○
(ハ) 代表者はT
(ニ) 経営形態は電子部品加工
(ホ) 資本金は○○○○円
(ヘ) 有効期限は1994年(平成6年)8月16日から2007年(平成19年)8月9日まで
(ト) 登録機構は○○局
チ J社について、J社各事業年度を通じ、次の事実が認められる。
(イ) 株式若しくは債券の保有、工業所有権等若しくは著作権の提供又は船舶若しくは航空機の貸付けのいずれの事業も行っていなかった。
(ロ) M区にJ社の事業を行うために必要と認められる事務所(以下「M区事務所」という。)及び倉庫(以下「M区倉庫」という。)を有していた。
(ハ) M区事務所には、J社の役員及び従業員を合わせて、平成13年3月31日現在では26名、平成15年3月31日現在では21名が勤務していた。また、J社の株主総会及び取締役会はM区において開催されており、会計帳簿の作成・保管もM区において行われていた。

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2 主張

(1) 請求人

 J社に係る課税対象留保金額に相当する金額を請求人の所得の金額に加算した処分は、次の理由により違法であるから、原処分の全部の取消しを求める。
イ J社は、製造業を主としてM区で行っている。
 J社は、M区でM区事務所及びM区倉庫を賃借し、M区事務所で取締役会を開催し、製造業の管理・支配及び運営を行っており、また、次のとおり、製造業を主としてM区で行っている。
(イ) 製造業を主として行っている場所について
 製造業には、製品の受注活動から始まり、原材料・部品の調達、原材料の加工製造及び組立加工、納品、売上代金の回収に至るまでの一連の業務・行為が含まれるのであるが、その一連の業務・行為のうち、製造業にとって本質的かつ最も重要な行為は、購入した原材料に、最も高い付加価値を与え最も大きな利益を生じさせる行為であり、J社の場合、原材料を本件N等の製造に必要な半製品である個品(エンジニアリングプラスチック等の樹脂原材料を成形して製造した半製品をいう。)及び基板(紙フェノールにICチップ等の電子部品を組み込んで製造した半製品をいい、以下、個品と併せて「個品等」という。)などに加工製造をする行為である。
 J社が製造している製品に関して最も高い付加価値を与え最も大きな利益を生じさせているのは、初心者でも簡単にできる単純な組立加工ではなく、製品を熟知した管理者でなければ行えない製造行為である。すなわち、このような製造行為とは、原材料を半製品である個品に成形することやICチップを基板に組み込むことなどであり、J社がM区で行っている原材料を個品等に加工製造させて半製品として調達することは、単なる生産の準備行為ではなく、むしろ製造の中心的な行為である。そして、J社の製造行為の場所は、下記のとおり、原材料を下請業者又は外注業者(以下「下請業者等」という。)に個品等に加工製造させるための場所、すなわちM区である。
 また、製造行為とは組立加工のみを指すのではない。J社は、製品に係る原価管理、部品や設備の調達、生産計画管理、在庫管理等を行っており、これらの行為も製造業の一連の製造行為のうち重要かつ中心的な行為である。J社は、このような生産管理業務もM区で行っているのであるから、主として製造行為を行っているのはM区である。
(ロ) M区での行為について
 J社は、製造業における一連の業務・行為のうち受注、原材料の仕入れ、個品等の調達及び完成した電子部品の販売に係る業務を主にM区で行い、製造業における組立加工に係る業務を本件L国工場及びM区の外注業者に行わせている。
 J社は、M区において、購入した原材料に付加価値を与え利益を生じさせる業務の大部分、すなわち、原材料を仕入れ、その原材料を個品等に加工製造させるための発注業務、その加工製造に係る成型費又は加工費(以下「成形費等」という。)のコストダウンをさせるという生産管理業務及び本件L国工場で発生する製造費用のコストダウンを図るという生産管理業務を行っていることから、製造業を主としてM区で行っており、製造業としての適用除外要件のすべてを満たすこととなり、外国子会社合算税制の適用除外となる。
 また、J社は、○年間という長期にわたってM区で製造業を行っており、M区で事業を行うことによって、下請業者等と強力なコネクション、高度なコンピュータ保守、工場へ派遣するための能力のある管理者の雇用、国際取引の拠点の一つとして整備されたインフラの使用等の利点を享受してきた。これらの利点を投げ打って簡単に他の国へ移ることはできないことを理解すれば、J社の本店がM区に存在する必然性は明らかである。
(ハ) 付加価値の発生場所等
 本件L国工場で行わせている本件N等の組立加工は単純なものにすぎず、本件L国工場で組立加工させるための個品等をM区で下請業者等に安く加工製造させるという行為がJ社において最も大きな付加価値及び利益を生じさせる製造行為であり、これらの個品等の加工製造のための見積交渉、加工製造指示及び発注業務は、J社がM区で行っている。
 また、下請業者等に加工製造させた個品等は、一旦、M区倉庫に保管され、S取引の原材料として本件L国工場に持ち込まれる。そして、本件L国工場で組立加工された完成品についてもS取引による製品としてM区倉庫に納入され、請求人を経由して得意先に販売されることとなるため、半製品の管理業務及び製品の管理・販売業務もM区で行っており、J社は、M区で主として製造業を行っていることになる。
 さらに、J社が製造する電子部品は、個品等の材料費が売上金額の70%程度を占めており、その材料費のうち下請業者等に原材料を個品等に加工製造させる成形費等の金額は売上金額の20%程度もあり、本件L国工場へ支払う外注加工費が売上金額の7%程度であることからすると、M区での成形費等が本件L国工場の外注加工費よりも多額であり、J社が主としてM区で製造業を行っていることは明らかである。
(ニ) 本件L国工場について
 J社は、L国に土地建物を所有しておらず、所有しているのは可動の生産設備、金型、冶具及び工具(以下「生産設備等」という。)のみである。J社が本件L国工場と委託加工契約を結んでいる理由は唯一、L国での組立加工コストが安いからである。将来、もしもL国での工賃の上昇や保税加工のメリット喪失等によりコストが高くなり、他国において現在の本件L国工場と同程度の作業を安く行える状況になれば、J社はR社との契約を解除し、他国に工場を移すことになる。L国に子会社を設立する場合と比較したS取引のメリットのひとつは撤退が容易なことであり、組立加工はL国でなければ行い得ないとはいえない。これは、半導体製造事業等のいわゆる装置産業において製造設備から高い付加価値が生じているのとは大きく異なる。J社の組立加工を装置産業における組立加工と同一視し、組立加工の工場の所在地のみを製造行為の場所とすることは誤っている。
(ホ) J社の事業について
 J社は、主たる事業である製造業をM区及び本件L国工場で行っているが、製造業を主として行っている場所は本店の所在するM区である。
 原処分庁は、税務調査当時から現在に至るまでS取引の形態のみにこだわり、長期間の税務調査をしたにもかかわらず、J社の事業の実態を把握せず、製造業であれば事業を主として行う場所は工場の所在地であると繰り返すばかりであり、J社が製造業にとっての本質的な行為である加工製造を含む生産管理業務という行為を主として本店所在地であるM区で行っている事実を調査していない。
ロ 租税回避行為を行っていないことについて
(イ) 請求人は、S取引開始後も配当、ロイヤルティ及び三角貿易の形態による利ざや(TAP)の支払によって常にJ社の利益を日本に還流しており、どのような意味においても課税を容易に逃れてなどいない。
 J社にとっては製品コストを低く抑えることが重要であり、そのためにS取引の形態を採用している。J社にとってのS取引は、純粋に事業上のメリットを追求した、極めて合理的な行為であって、日本の租税を回避するために行っているものではない。また、J社の本店をL国本土に置かなければならない事業上の理由は何もない。
(ロ) S取引は、M区の企業が原材料及び生産設備等を提供し、L国本土の企業が工場と工員を提供し、それぞれの役割に応じて製品の製造を事業として行うものであり、J社がL国本土に本店を移転してしまえばM区の企業ではなくなり、R社とS取引を行うことはできなくなるのであるから、そもそもJ社がM区に所在することについて十分な経済的合理性がある。
(ハ) 外国子会社合算税制は、日本の法人税の課税を不当に免れることの防止を目的としており、租税回避とは無関係で経済的合理性のある事業を行っているJ社をその対象とするのは不当である。

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(2) 原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ J社の主たる事業である製造業は、主として本件L国工場で行われている。
 製造業を営む特定外国子会社等が外国子会社合算税制の所在地国基準を満たすかどうかは、製品の組立て・加工といった物を作る行為を行う場所、すなわち工場が所在する場所で判断するのが適当である。
(イ) 一般に、「製造」とは、「品物をつくること」、「原料を加工して製品とすること」(「広辞苑 第五版」岩波書店)又は「物品を作り出すこと」(「法令用語辞典 第七次改訂版」学陽書房)をいい、「製造業」とは、「原材料を加工して新しい品物をつくる生産業」、「品物をつくる営業」(「広辞苑 第五版」岩波書店)をいうとされている。原処分庁も、製造業における製造という行為は、製品の企画・設計、原材料の調達、製品の組立て・加工など、その製品が出来上がるまでに必要な一連の行為を指すと考えており、製造という行為を単に物を作る行為に限定しているわけではない。
(ロ) ところで、外国子会社合算税制における適用除外規定は、「資源の乏しい我が国経済の発展にとって、民間企業の海外における正常な経済活動は正にその原動力をなしており、また、我が国は、先進資本輸出国の一員として今後一層の積極的な海外投資や経済協力を要請される立場にあり、ただ単に軽課税国に所在するという理由だけで正常な事業活動を営むものまでも本税制の対象とするのは適当ではない」という基本的な考え方を背景として設けられたものである。そして、このような基本的な考え方を踏まえ、「その本店所在地国等において資本投下を行い、その地の経済と密接に関連して事業活動を行っている場合には、その地に所在していることに十分な経済的合理性が推認し得るという認識に立つもの」として「所在地国基準」が設けられており、また、この基準は、「その事業にとり本質的な行為が本店所在地国等で行われていれば、そこに存在することの経済的合理性がある」ことを前提としている。
(ハ) 所在地国基準が、本店所在地国等の経済と密接に関連して事業活動を行う点に着目していることは、措置法施行令第39条の17第5項において、所在地国基準が適用される不動産業、物品賃貸業について、次のような判定基準が示されていることからも明らかである。
A 不動産業 主として本店所在地国等にある不動産の売買、賃貸、管理等を行っている場合
B 物品賃貸業 主として本店所在地国等において当該国内での使用に供される物品の貸付けを行っている場合
 すなわち、不動産業であれば、その事業を行うために資本投下した不動産そのものが本店所在地国等にあり、その不動産の売買、貸付け、管理等の行為(不動産業にとっての本質的な行為)がその地で行われている必要があり、また、物品賃貸業であれば、その本店所在地国等において使用に供される物品の貸付け(物品賃貸業にとっての本質的な行為)がその地で行われている必要がある。
 一方、卸売業や銀行業のようにその事業の本来的な性格がインターナショナルで、その取引が必然的に国外に及ぶような業種については、一般的に本店所在地国等の経済との関連性が希薄であり、このような事業を営む特定外国子会社等に対し、経済との関連性を重視した所在地国基準で判断するのは適当でないことから、所在地国基準に代えて非関連者基準が設けられている。
(ニ) このような考え方を製造業について当てはめてみると、製造に必要な一連の行為のうち、組立て・加工といった物を作る行為以外の行為(例えば、原材料の調達・管理、工場への生産指示等の行為)は、その行為の所在地を自由に定めることが可能であるのに対し、組立て・加工といった物を作る行為については、一般に工場や製造設備等が必要であり、一度その地に資本投下を行うとその行為を行う場所を簡単には移動できないと認められることから、その地の経済との密接な関連性の観点から両者を比較した場合、後者の方がその地の経済と密接な関連性を有することは明らかである。
(ホ) したがって、外国子会社合算税制の適用上、製造業を営む特定外国子会社等が所在地国基準を満たすかどうかは、製造という行為のうちその製造にとっての本質的な行為である製品の組立て・加工といった物を作る行為が本店所在地国等で行われているか、換言すれば工場等が本店所在地国等にあるかどうかで判定すべきであり、その製造に必要な一連の行為が複数の国又は地域にまたがって行われている場合には、いずれの国又は地域に工場等が所在するかで判断するのが適当である。
(ヘ) J社は、本件L国工場以外の場所で電子部品の組立て・加工といった物を作る行為を行っているとは認められないことから、J社が営む製造業に係る本質的な行為が主として行われているのは、本件L国工場であると認められる。
(ト) したがって、J社は、その本店所在地であるM区において主として製造業を行っているとは認められず、本件L国工場の所在するL国本土で主として製造業を行っていると認められることから、所在地国基準を満たさず、適用除外とはならない。
ロ 租税回避行為について
(イ) 製造業を営む特定外国子会社等に係るその事業を主として本店所在地国等において行っている場合の基準(所在地国基準)を請求人の主張するような製品に重要な付加価値を与えている場所で判断することとすれば、本制度の趣旨に反するのみならず、その付加価値を与えている場所(本店所在地国等)を軽課税国・地域に置くことにより外国子会社合算税制の適用を容易に免れ得ることとなってしまう。
(ロ) 原処分庁は、J社の本店が所在するM区において、その主たる事業の本質的な行為が行われていないことから、外国子会社合算税制の適用除外に係る所在地国基準を満たさないと判断しているものである。

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3 判断

(1) 本件各更正処分について

 本件においては、外国子会社合算税制の適用除外要件である所在地国基準の適用に関し、J社がその事業を主として本店所在地国等であるM区で行っているかどうかについて争いがあることから、審理したところ、以下のとおりである。
イ 法令解釈
(イ) 外国子会社合算税制の適用除外要件について
A 外国子会社合算税制は、外国子会社を通じて行われる租税回避に対処するため、所得に対して課される税の負担が我が国における税の負担に比して著しく低い国又は地域に所在する外国法人で我が国の法人又は居住者により株式又は出資の保有を通じて支配されているとみなされる特定外国子会社等の留保所得を我が国株主の持分に応じてそれらの者の所得に合算して課税するものである。
 ただし、措置法第66条の6第3項は、外国子会社合算税制の適用除外要件について規定し、特定外国子会社等が、事業基準、実体基準、管理支配基準及び所在地国基準又は非関連者基準のすべてを充足する場合には、外国子会社合算税制を適用しないこととしている。
 この規定は、特定外国子会社等が独立企業としての実体を備え、かつ、その本店所在地国等で事業活動を行うにつき十分な経済的合理性があると認められる場合にまで外国子会社合算税制を適用することは、我が国企業の正常な海外投資活動を阻害する結果を招くことになるので避けるべきであるとの趣旨で設けられたものと解される。
B 適用除外要件の一つである所在地国基準及び非関連者基準は、特定外国子会社等の営む主たる事業に応じてその適用が区分されている。そして、これらの基準は、本店所在地国等で事業活動を行うにつき十分な経済的合理性があると認められる一定の場合を業種に即して具体化したものと解される。
 このうち、所在地国基準は、特定外国子会社等の営む主たる事業が卸売業等の事業以外の事業である場合に適用される基準であり、その事業を主として本店所在地国等において行っていることを適用除外の要件とするものである。すなわち、卸売業等の事業以外の事業、例えば、製造業、小売業、サービス業等については、製造、小売、サービス提供等のその事業にとって本質的な行為の行われる物理的な場所が主としてその本店所在地国等であれば、その地に所在する十分な経済的合理性があるとしたものと解される。したがって、所在地国基準は、本店所在地国等において資本投下を行い、その地の経済と密接に関連して事業活動を行っている場合には、その地に所在していることについて十分な経済的合理性が推認し得るとの認識に基づくものである。
 また、非関連者基準は、特定外国子会社等の営む主たる事業が卸売業等の事業である場合に適用される基準であり、その事業を主として関連者以外の者と行っていることを要件とするものである。これは、卸売業等の事業については、その事業活動が必ずしも本店所在地国等に限定されない国際的なものであるとの観点から、これらの事業を営む特定外国子会社等に対して地場経済との密着性を重視する所在地国基準を適用することには合理性が認められないので、その事業の大宗が関連者以外の者との取引から成っている場合には、本店所在地国等で事業活動を行うにつき十分な経済的合理性があるとしたものと認められる。
(ロ) 事業区分の判定について
A 所在地国基準及び非関連者基準の適用に当たっては、特定外国子会社等の営む主たる事業が卸売業等の事業に該当するかどうか、また、卸売業等の事業に該当しない場合には、措置法施行令第39条の17第5項第1号に掲げる不動産業及び同項第2号に掲げる物品賃貸業に該当するかどうかの判定が必要となるところ、法人税法及び措置法には、これらの事業に係る定義規定はないから、上記の卸売業等の事業、不動産業及び物品賃貸業の意義については、その用語の一般的な意義並びにその用語が使用されている規定の立法趣旨及び目的等を勘案して解釈すべきものと解される。
B そうすると、原材料の加工、組立て等(以下「加工等」という。)を行うなど、販売業務に付随して行う軽度の加工、取付修理の範囲を超えて有体的商品に物理的又は化学的変化を加え、新製品を製造して最終消費者以外の事業者に販売する事業は、卸売業等の事業の一般的な意義に照らせば、卸売業等の事業のいずれにも該当しないものと解される。また、上記事業は、原材料の加工等を行うための工場建物や設備等の購入又は賃借、労働者の雇用、エネルギーや消耗品等の購入などの資本投下が必要であり、その地の経済と密接な関係を有することとなるから、上記(イ)のBの所在地国基準及び非関連者基準の趣旨に照らしても、卸売業等の事業のいずれにも該当しないものと認められる。
C また、原材料を購入して、その加工等を外部に委託し、完成品を引き取って自己の名称で最終消費者以外の事業者に販売する事業においては、当該完成品を販売する者(以下「販売者」という。)が原材料の加工等を行っているのであれば、卸売業等の事業以外の事業に該当するものと解される。そして、特定外国子会社等が営む事業を卸売業等の事業とその他の事業に区分する趣旨は上記(イ)のBのとおりであることからすれば、販売者が加工等の事業を行っているかどうかは、販売者が加工等のための資本投下を行ったかどうか、販売者が加工等を行うことに伴う経済活動を行っているかどうかなどの観点から判定することが相当である。
D 上記Cの場合において、販売者が原材料の加工等を行っているかどうかは、事業がその事業を行う者の計算において行われる経済活動であることからすれば、販売者がその原材料の加工等を専ら自己の計算において行っているかどうかにより判定することが相当であると解される。そして、販売者が自己の計算において原材料の加工等を行っているかどうかは、加工等から生じる損益が販売者に直接帰属しているかどうか、すなわち、加工等に要する費用の減少により生じる利益を販売者が直接享受し、加工等に要する費用の増加、仕損品の発生などにより生じる利益の減少又は損失の発生を販売者が直接負担しているかどうかにより判定することが相当である。
(ハ) 事業を主として行っている場所の判定基準について
A 外国子会社合算税制の適用除外要件における所在地国基準は、上記(イ)のBの基本的な考え方を踏まえ、その本店所在地国等において資本投下を行い、その地の経済と密接に関連して事業活動を行っている場合には、その地に所在していることに十分な経済的合理性が推認し得るという認識に立つものであり、その事業にとり本質的な行為が本店所在地国等で行われていればそこに存在することの経済的合理性があることを前提としているものと解される。
B また、所在地国基準が適用される不動産業及び物品賃貸業については、措置法施行令第39条の17第5項第1号及び第2号において、次のような判定基準が示されている。
(A) 不動産業 主として本店所在地国等にある不動産の売買、賃貸、管理等を行っている場合
(B) 物品賃貸業 主として本店所在地国等において使用に供される物品の貸付けを行っている場合
 すなわち、不動産業であれば、その事業を行うために資本投下した不動産そのものが本店所在地国等にあり、その不動産について売買、貸付け、管理等の行為(不動産業にとっての本質的な行為)を行っている場合、また、物品賃貸業であれば、その事業を行うために資本投下した賃貸物品がその本店所在地国等において使用に供される物品であり、その物品について貸付けの行為(物品賃貸業にとっての本質的な行為)を行っている場合には、所在地国基準を満たすものとされており、このことからすれば、特定外国子会社等が本店所在地国等の経済と密接に関連して事業活動を行う点に着目して所在地国基準が規定されていることは明らかである。
C これを、原材料を購入し、加工等を加えて、新製品を製造し、その製品を最終消費者以外の事業者に販売する事業に当てはめると、新製品の製造及び販売に必要な一連の行為のうち、原材料の加工等の物を作る行為以外の行為(例えば、原材料の調達、工場への生産指示、製品の販売等の行為)は、その行為を行う場所を自由に定めることができるのに対し、原材料の加工等の物を作る行為(以下「製造行為」という。)については、一般に工場や製造設備などの資本投下が必要であり、それによる製造行為はその地の経済と密接に関連したものと認められ、かつ、その製造行為を行う企業がその地に所在することに十分な経済的合理性があると認められる。また、当該事業にとっての本質的な行為は、原材料に加工等を加えて新製品を製造する行為であると認められる。そうすると、当該事業を営む特定外国子会社等が所在地国基準を満たすかどうかは、資本投下を伴い、当該事業にとっての本質的な行為と認められる製造行為が本店所在地国等で行われているかどうかで判定すべきであり、新製品の製造に必要な行為が複数の国又は地域にまたがって行われている場合には、いずれの国又は地域で当該事業にとっての本質的な行為である製造行為が主として行われているかを基準に判断するのが相当である。
D なお、販売者が原材料の加工等を行っていると認められる場合において、例えば、自社で製造する製品の仕様に合わせて製造する部品や半製品の加工製造を外部に委託するなど、当該販売者が原材料の加工等の一部を外部に委託したときは、その委託した加工等から生じる損益が当該販売者に直接帰属しないときであっても、当該委託先が行う原材料の加工等と当該販売者が行う原材料の加工等との双方の工程を経て新製品が完成されること、そして、当該販売者が当該新製品の販売者であることからすれば、当該委託先が行う原材料の加工等は、当該販売者が行う製造行為の一部であると解される。
 おって、販売者が原材料の加工等を行っていない場合には、販売者が行う原材料の加工等の一部を委託したものとはいえないから、販売者が行う製造行為には当たらない。
E 特定外国子会社等が行う製造行為が複数の国又は地域において行われている場合において、それぞれの国又は地域で製造している製品の種類や規格が類似しており、外注もしていないなど、それぞれの国又は地域で行っている製造行為の内容及び形態に差異がないと認められるときは、それぞれの製造行為に係る生産額、製造数量、従事員数、使用固定資産の価額等がそれぞれの製造行為の規模を表す共通の指標となるから、これらの指標を比較することにより製造行為が主として本店所在地国等において行われているかどうかを判定することが合理的であると解される。しかしながら、それぞれの国又は地域において行われている製造行為の内容及び形態に差異がある場合、例えば、ある国では最終製品の部品となる半製品を製造し、他の国では当該半製品を組み立てて最終製品に仕上げているといった場合や、ある国では自社工場で製造しているが、他の国では外注先に委託して製造しているといった場合のように、それぞれの製造行為の内容及び形態に類似性が認められないときは、それぞれの製造行為に係る生産額、製造数量、従事員数、使用固定資産の価額等の指標が直ちにそれぞれの製造行為の規模を表す共通の指標であるとはいえない。そうすると、それぞれの国又は地域において行われている製造行為の内容及び形態に差異がある場合には、上記指標を単純に比較することにより製造行為が主として本店所在地国等において行われているかどうかを判定することに合理性があるとはいえない。
F 上記AからCまでのとおり、所在地国基準は本店所在地国等の経済と密接に関連して事業活動を行うことに着目した基準であり、製造行為については、工場や製造設備の設置、労働者の雇用、エネルギーの購入等の資本投下を通じてその地の経済と密接に関連することになると解される。また、製造行為に伴う資本投下の規模は、当該資本投下に伴って発生する費用の額(減価償却費、外注費、労務費、水道光熱費その他の製造経費等)に反映するものと認められる。そうすると、上記Eのような比較方法によれない場合には、製造行為を行うために要した費用の額を製造行為の規模を測定する指標として使用することに合理性があると認められる。したがって、特定外国子会社等が複数の国又は地域において製造行為を行っており、それぞれの国又は地域における製造行為の内容及び形態に差異がある場合、特定外国子会社等がその製造行為を主として本店所在地国等において行っているかどうかは、原則として本店所在地国等において発生した製造行為に係る費用が当該特定外国子会社等の製造行為に係る費用の総額の過半を占めているかどうかで判定することが相当であると解される。
ロ J社の事業について
 原処分関係資料、請求人提出資料、平成8年12月1日から平成16年11月30日までJ社の生産管理責任者であったUの答述並びに当審判所の調査の結果によれば、J社各事業年度を通じて、次の事実が認められる。
(イ) 本件N等の製造工程について
A J社は、請求人から本件N等の製造を受注すると、M区事務所が、請求人から本件N等の製造のために必要な量産図面を取得し、当該量産図面に基づき、下請業者等に指示して、個品等の加工製造を行う。
 なお、加工製造する個品等の原材料は、J社が指定したものを下請業者等が購入する。
B 本件N等の組立加工に必要な生産設備等は、J社が調達し、J社の所有に属したまま保税扱いで本件L国工場に設置する。
C 個品等の加工製造に必要な金型は、J社が、個品等の加工製造を行う下請業者等に指示して製作させ、それを買い取り、下請業者等に無償貸与する。
D 下請業者等に加工製造させた個品等は、M区倉庫に納入され、J社の品質検査を経て、J社が買い上げる。
E 個品等は、J社の所有に属したまま、保税扱いで本件L国工場へ輸出される。
F 本件L国工場へ輸出された個品等は、本件L国工場が雇用した工員により、J社の生産設備等を使用して、ネジ留め、圧入などの方法により組み立てられ、本件N等となる。
G 本件L国工場において組み立てられた本件N等は、J社の完成品検査を経て、梱包の上、M区に輸入され、M区倉庫へ納入される。
H J社は、本件N等の組立加工の一部をM区所在の下請業者に委託している。この場合、本件N等の組立加工に必要な生産設備等はJ社が調達し、下請業者に無償貸与する。
(ロ) 本件N等の製造に係る生産管理業務について
A J社は、請求人からの本件N等の受注内容に基づき、本件L国工場の生産計画を策定する。
B J社は、上記Aの生産計画に従い、M区に所在する下請業者等に対して個品等の加工製造及び納期を指示し、本件L国工場に対して本件N等の組立加工に必要な組立ラインの確保、工員の配置等を指示する。
C J社は、「○○○○」と題する書類を作成し、本件L国工場の月次生産計画及び実績を管理している。
D J社は、本件合同書等に基づき、自社の従業員約20名を本件L国工場のX職、Y職、部長といった主要なポストに配置し、本件L国工場における本件N等の組立加工業務を管理している。
E 本件L国工場で毎月行われる「運営会議」は、生産実績見込、生産計画、新製品の打合せ、品質報告(クレーム報告等)などの案件が議題となっており、M区からJ社の役員が出席して、同会議全体を総括している。
(ハ) 本件N等の製造費用について
A J社は、M区所在の下請業者等に支払う個品等の調達費用を売上原価の内訳の材料費として計上しているが、当該材料費には、個品等の原材料の代金だけでなく、その原材料を個品等に加工製造する対価である成形費等が含まれている。
B J社は、個品等の加工製造に必要な金型を調達し、自社の固定資産として貸借対照表に計上するとともに、当該金型に係る減価償却費を自社の売上原価として損益計算書に計上している。
C J社は、本件N等の組立加工を行うM区所在の下請業者に対して、本件N等の組立加工の対価を支払い、売上原価の内訳の外注加工費として計上している。
D J社は、本件N等の組立加工に必要な生産設備等を調達し、自社の固定資産として貸借対照表に計上するとともに、当該生産設備等に係る減価償却費及び修繕費を自社の売上原価として損益計算書に計上している。
E 本件L国工場の工員については、本件L国工場が雇用し、かつ、賃金を支払っているが、J社は、本件合同書等に従い、その賃金相当額を負担し、加工費として本件L国工場へ送金している。また、J社は、当該加工費を自社の売上原価の内訳である外注加工費として計上している。
F J社は、本件合同書等の定めにより本件L国工場において発生する本件N等の組立加工費用のすべてを負担することとされており、かつ、上記Eの加工費のみでは本件L国工場において発生する当該費用を賄うことができないことから、上記Eの加工費の送金額では不足する資金をZ銀行の本件L国工場名義の銀行口座に送金している。
G 本件L国工場の賃借料は、J社からR社に直接送金されている。
H J社は、本件L国工場へ送金した上記Eの加工費及び上記Fの資金について、送金時には預け金として計上し、本件L国工場で実際に製造費用として支払った時点で、勘定科目ごとに区分の上、自社の売上原価として計上している。また、期末の本件L国工場名義の銀行預金及び本件L国工場の手持ち現金の残高は、J社の現預金の期末残高として貸借対照表に計上している。
I 本件L国工場の課長補以上の管理職(本件L国工場が雇用している者を含む。)の給与については、J社の損益計算書に、自社の販売費及び一般管理費として計上されている。
(ニ) 本件L国工場での本件N等の組立加工から生じる損益の帰属について
 上記(ハ)のDからHまでのとおり、本件L国工場での本件N等の組立加工のために要した費用はJ社がすべて負担し、J社の売上原価として損益計算書に計上されている。そうすると、J社の行う上記(ロ)の生産管理により本件L国工場において発生する当該費用が節減された場合、本件L国工場の製造原価の節減ではなく、J社の売上原価の節減となるから、J社は、本件L国工場での本件N等の組立加工から生じる利益を直接享受していると認められる。また、本件L国工場での本件N等の組立加工のために要した費用が増加した場合、同様に、J社の売上原価の増加となるから、J社は、本件L国工場での本件N等の組立加工から生じる損失を直接負担していると認められる。これは、本件合同書等において、本件L国工場に係る損益はJ社に帰属するとされていることからも裏付けられる。
(ホ) J社の事業内容について
 上記(イ)から(ニ)までによれば、J社は、専ら自己の計算において、本件L国工場で本件N等の組立加工を行っていたと認められる。そうすると、J社は、J社各事業年度を通じて、M区所在の下請業者等に委託して原材料の調達及び個品等の加工製造を行うとともに、本件L国工場において(一部はM区所在の下請業者に委託して)本件N等の組立加工をして、完成した本件N等を最終消費者以外の事業者に販売する事業(以下「本件事業」という。)を行っていたものと認められる。
ハ J社の主たる事業について
 上記1の(4)のホのとおり、J社はJ社各事業年度を通じて本件事業のみを行っていたと認められるから、J社各事業年度におけるJ社の主たる事業は、本件事業であると認められる。
ニ J社の主たる事業の事業区分について
(イ) 本件事業が卸売業等の事業に該当するかどうかについては上記イの(ロ)により判定すべきところ、銀行業、信託業、証券業、保険業、水運業及び航空運送業の一般的な意義に照らせば、本件事業が措置法第66条の6第3項第1号に規定する銀行業、信託業、証券業、保険業、水運業及び航空運送業のいずれにも該当しないことは明らかである。
(ロ) 本件事業の内容は上記ロの(ホ)のとおりであるところ、上記イの(ロ)のとおり、措置法第66条の6第3項第1号に規定する卸売業とは、有体的商品を仕入れ、物理的又は化学的な変化を加えずに、最終消費者以外の事業者に販売する事業をいうから、本件事業は、同号に規定する卸売業には該当しないと認められる。
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)から、J社各事業年度におけるJ社の主たる事業は、卸売業等の事業以外の事業であったと認められる。
ホ 所在地国基準の適用について
(イ) 上記ニのとおり、J社の主たる事業である本件事業は卸売業等の事業に該当しないから、J社が外国子会社合算税制の適用除外要件を充足しているかどうかの判定に当たっては所在地国基準が適用される。そして、上記ロの(ホ)によれば、本件事業が措置法施行令第39条の17第5項第1号に規定する不動産業及び同項第2号に規定する物品賃貸業のいずれにも該当しないことは明らかであるから、J社が所在地国基準を満たしていたかどうかは、本件事業が主としてJ社の本店所在地国等であるM区で行われていたかどうかによることとなる。
(ロ) 特定外国子会社等の行う事業が主として本店所在地国等において行われていたかどうかは、上記イの(ハ)のA及びBのとおり、その事業における本質的な行為が本店所在地国等において行われていたかどうかによるところ、本件事業が、上記ロの(ホ)のとおり、M区所在の下請業者等に委託して原材料の調達及び個品等の加工製造を行うとともに、本件L国工場において(一部はM区所在の下請業者に委託して)本件N等の組立加工をして、完成した本件N等を最終消費者以外の事業者に販売する事業であることからすると、上記イの(ハ)のCのとおり、本件事業における本質的な行為は、本件N等に係る製造行為であると認められる。
(ハ) 上記ロの(イ)のAのとおり、J社は、個品等の加工製造の全部及び本件N等の組立加工の一部をM区所在の下請業者等に委託しているところ、上記ロの(ホ)のとおり、J社は原材料の加工等を行う販売者であると認められるから、上記イの(ハ)のDのとおり、J社が下請業者等に委託して行う個品等の加工製造及び本件N等の組立加工は、J社が行う製造行為の一部であると認められる。また、個品等の加工製造及び本件N等の組立加工を委託した下請業者等に貸与した金型その他の生産設備等は、J社が調達し、いずれもM区において使用されていること並びに個品等の加工製造に係る成形費等及び外注加工費の支払先はM区所在の下請業者等であることからすると、M区の下請業者等に委託して行った製造行為に関しては、M区において資本投下が行われ、M区の経済と密接な関係が生じているといえるから、J社がM区所在の下請業者等に委託して行った製造行為の場所は、M区であると認められる。
 そうすると、J社は、J社各事業年度を通じて、本件事業における本質的な行為である本件N等に係る製造行為をM区及びM区以外の場所の双方で行っていたと認められる。
ヘ 主として事業を行う場所について
(イ) 上記ホの(ハ)によれば、J社は、本件N等に係る製造行為をM区及びM区以外の場所で行っているところ、それぞれの場所で行っている製造行為の内容及び形態には差異があると認められる。そうすると、J社が本店所在地国等であるM区において本件N等に係る製造行為を主として行っているかどうかは、上記イの(ハ)のFのとおり、M区において発生した本件N等の製造費用の額が本件N等の製造費用の総額の過半を占めているかどうかで判定することが相当である。
(ロ) 本件N等の製造費用の額には、個品等の加工製造に係る成形費等、本件N等の組立加工に係る外注加工費、本件L国工場の工場建物等の賃借料その他の費用及び金型その他の生産設備等の減価償却費の額が含まれる。
 なお、原材料の購入費用は原材料について加工等を行うための費用には該当しないから、個品等の加工製造に係る原材料の購入費用は、上記(イ)の判定を行う場合の本件N等の製造費用の額から除かれる。
(ハ) 請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、J社各事業年度における本件N等の製造費用の額の売上高に対する比率は、それぞれ、別表2及び別表3の「合計」欄のとおりであり、その発生場所ごとの内訳は、別表2及び別表3の「M区」及び「本件L国工場」欄のとおりである。ただし、金型以外の生産設備等に係る減価償却費については、M区所在の下請業者へ貸与したものに係る減価償却費の額が明らかでないことから、当該減価償却費の全額が本件L国工場において発生したものとして計算している。そうすると、J社各事業年度においてM区で発生した本件N等の製造費用の額の本件N等の売上高に対する比率は、J社平成13年3月期では20.7%を超え、J社平成15年3月期では20.8%を超えるものと認められる。また、J社各事業年度において本件L国工場で発生した本件N等の製造費用の額の本件N等の売上高に対する比率は、J社平成13年3月期では14.7%に満たず、J社平成15年3月期では20.3%に満たないものと認められる。
(ニ) 上記(ハ)のとおりであるから、J社各事業年度においてJ社の本店所在地国等であるM区で発生した本件N等の製造費用の額が当該各事業年度の本件N等の製造費用の総額に占める割合は、別表2及び別表3の「構成割合」の「M区」欄のとおり、J社13年3月期では58.5%を超え、J社15年3月期では50.6%を超えると認められる。
(ホ) 上記(ニ)のとおり、J社各事業年度のいずれについても、M区において発生した本件N等の製造費用が当該各事業年度の本件N等の製造費用の総額の過半を占めていたと認められるから、J社は、その事業を主として本店所在地国等であるM区で行っていたと認められる。
ト 適用除外要件該当性について
 上記1の(4)のチによれば、J社は、J社各事業年度について、適用除外要件のうち、事業基準、実体基準及び管理支配基準を充足していたと認められる。また、上記ホのとおり、J社は、J社各事業年度について所在地国基準が適用されるところ、上記ヘのとおり、いずれの事業年度においても所在地国基準を充足していたと認められる。
 したがって、J社は、J社各事業年度について、適用除外要件のすべてを充足していたと認められる。
チ 原処分庁及び請求人の主張について
(イ) 原処分庁は、製造業を営む特定外国子会社等が所在地国基準を満たすかどうかは、製品の組立て・加工といった物を作る行為を行う場所、すなわち工場が所在する場所で判断するのが適当である旨主張する。
 しかしながら、一般的には、工場において主要な製造行為が行われていることから、工場の所在する場所で製造行為を行う場所がどこであるかを判断することに誤りはないが、企業の事業形態は千差万別であるから、個々の特定外国子会社等が所在地国基準を満たしているかどうかは、当該特定外国子会社等の営む事業の内容に応じて、具体的な事実に基づき、個別に判断することが必要である。J社についていえば、上記ホの(ハ)のとおり、M区及びM区以外の場所のいずれにおいても製造行為を行っていたと認められるから、具体的な事実に基づき、M区又はM区以外の場所のいずれにおいて主として製造行為を行っていたのかを判断する必要がある。したがって、J社が所在国基準を満たしていたかどうかを工場の所在する場所だけで判断することは相当でない。
(ロ) また、原処分庁は、本件L国工場以外の場所で本件N等の組立加工、すなわち製造行為を行っているとは認められないから、J社は、その事業を主として本店所在地国等であるM区で行っていない旨主張する。
 しかしながら、上記ホの(ハ)のとおり、J社は、本件L国工場において本件N等の組立加工を行っているだけでなく、M区においてもM区所在の下請業者等に委託して個品等の加工製造を行っていると認められるから、原処分庁の主張は採用できない。
(ハ) 請求人は、J社が行うS取引の形態は経済的合理性のある取引であり租税回避を意図した取引ではないことから、外国子会社合算税制が適用されるべきではない旨主張する。
 しかしながら、租税回避の意図の存在が外国子会社合算税制の課税要件となっていないことは外国子会社合算税制の規定上明らかであり、租税回避の意図がないこと又は経済的合理性のある取引であることをもって外国子会社合算税制の適用が除外される旨の規定もないことから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
リ 本件各更正処分について
(イ) 上記1の(4)のイからハまでによれば、J社は、J社各事業年度について、請求人の特定外国子会社等に該当すると認められる。しかしながら、上記トのとおり、J社はJ社各事業年度について適用除外要件のすべてを充足していたと認められるから、本件各事業年度の所得の金額の計算上、J社に係る課税対象留保金額については外国子会社合算税制の適用対象とならない。
 したがって、本件各更正処分において、本件各事業年度の所得の金額の計算上、原処分庁が、上記1の(4)のニのJ社に係る課税対象留保金額に相当する金額を、それぞれ本件各事業年度の益金の額に算入したことは、いずれも違法である。
(ロ) 上記(イ)のとおり、本件各更正処分のうちJ社に係る課税対象留保金額に相当する金額を請求人の益金の額に算入した部分は取り消されるべきであるから、請求人の平成14年3月期及び平成16年3月期の所得金額は、それぞれ別表4及び別表5の「審判所認定額」の「所得金額」欄のとおりとなる。
 したがって、本件各更正処分は、いずれもその全部を取り消すべきである。

(2) 本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件各更正処分は、いずれも、その全部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分も、その全部を取り消すべきである。

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