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(平20.3.28、裁決事例集No.75 508頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、相続により取得したとする土地を市へ売却したことに伴う譲渡所得の金額の計算上、いわゆる収用交換等の場合の5,000万円の特別控除の特例を適用して所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該土地は請求人が他の共同相続人から当該売却前に贈与により取得したものであるとして、贈与税の決定処分等を行うとともに、当該特例については、最初に買取り等の申出を受けた時の土地の所有者は他の共同相続人であって請求人ではないからその適用はないとして、所得税の更正処分等を行ったことから、請求人がこれらの処分等の全部の取消しを求めた事案であり、争点は、次の3点である。

 争点1  請求人は、P市p町Q1番所在の田648平方メートル(以下「本件土地」という。)を贈与により取得したものであるか否か。
 争点2  請求人が贈与により取得したものとした場合における本件土地の価額は、市による買収予定価額によることが相当であるか否か。
 争点3  請求人の譲渡所得の計算に当たって、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第33条の4《収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除》第1項の規定による特例(以下「本件特例」という。)の適用があるか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 平成17年分の贈与税に係る決定処分(以下「本件贈与税決定処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件贈与税賦課決定処分」という。)に対する審査請求(平成19年4月19日)に至るまでの経緯は、別表1-1のとおりである。
ロ 平成17年分の所得税に係る更正処分(以下「本件所得税更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件所得税賦課決定処分」という。)に対する審査請求(平成19年4月19日)に至るまでの経緯は、別表1-2のとおりである。
ハ 上記イの審査請求は、上記ロの審査請求と併合審理する。

(3) 関係法令等

 関係法令等は、別紙1のとおりである。

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(4) 基礎事実

イ 被相続人及び共同相続人
(イ) 昭和38年9月○日に死亡した被相続人F(以下「本件被相続人」といい、これにより開始した相続を「本件相続」という。)の共同相続人は、妻G、長男H(以下「兄H」という。)、長女J(以下「姉J」という。)、二女請求人及び三女K(以下「妹K」という。)の5名であった。
(ロ) 妻Gは、昭和46年に死亡し、以後本件相続に係る共同相続人は、兄H、姉J、請求人及び妹K(以下、これら4名を「兄Hら4名」という。)となった。
ロ 本件相続の対象となる不動産の登記の状況
 本件相続の対象となる不動産(以下「本件相続不動産」という。)のうち、本件土地を含む別表2記載の土地については、同表の付番1の土地は昭和41年10月○日に、同表の付番2の本件土地から付番7までの各土地は昭和44年10月○日に本件相続を原因として本件被相続人から兄Hへ所有権移転登記がなされていた(以下、これらの所有権移転登記を「本件旧相続登記」という。)。
ハ 本件相続不動産に該当する別件土地の登記の状況
 本件相続不動産に該当するP市p町Q2番所在の土地546.87平方メートル(以下「別件土地」という。)は、昭和44年7月○日に、本件相続を原因として本件被相続人から兄H及び妹Kへ各持分2分の1の共有とする所有権移転登記がされていた土地であるが、平成17年3月○日に、平成6年4月○日の時効取得を原因として、兄H及び妹Kから所有者を姉Jの夫とする所有権移転登記がなされた。
ニ 本件土地の所有権移転に係る調停の経緯等
(イ) 請求人及び妹Kは連名で、兄H及び姉Jを相手方として、平成17年○月○日付で、L家庭裁判所に、本件相続に係る遺産分割の調停を求める旨の申立てをした(L家庭裁判所平成17年(○)第○○号。以下、この調停の申立てを「本件申立て」という。)。
 本件申立てに係る「遺産分割調停申立書」と題する書面(以下「本件申立書」という。)には、要旨概ね次のとおりの記載がなされている。
A 本件被相続人は昭和38年9月○日に死亡したが、今日に至るまで、被相続人の遺産分割について相続人間で協議をしたことはなく、少なくとも請求人は遺産分割協議書に捺印した事実はない。
B相手方兄Hは、請求人及び妹Kに対し、次の点を明らかにすべきである。
(A) 遺言の有無
(B) 別表2記載の不動産について、兄H名義で登記された経緯
(C) 別表2記載の不動産のほかに相続を原因として取得した財産があるかどうか、ある場合はその財産の明細
(D) 相続により取得した不動産等の財産で、既に売却・買収等により換金したものがある場合は、その財産の明細と売却金額
C請求人及び妹Kとしては、上記Bの点が明らかにされた上で、被相続人の遺産分割をやり直す必要があると考える。具体的には、請求人及び妹Kは、相手方兄Hに対して、いくらかの代償金の支払を求める。
D なお、別件土地は、昭和44年7月○日に兄Hと妹Kの共有名義で登記されていたものであるところ、姉Jの夫が別件土地につき平成17年3月○日に時効取得を原因とする登記をしたこととの関係で、妹Kと姉Jの夫とが、形式的にではあれ対立当事者となったため、本件申立てにおいても、請求人及び妹Kは、形式上、姉Jを相手方としたが、姉Jとの間で実質的な争いがあるわけではない。
(ロ) 上記(イ)の本件申立てに係る事件については、兄Hは、平成17年5月○日の第○回期日において、1本件土地を請求人、妹K及び姉Jに取得させることにより解決したい、2この土地もP市の買収にかかっており、今年中には換価できるはずであり、売却金額は6,000万円程度になると聞いている、3請求人、妹K及び姉Jに金銭を支払う方法により解決することは考えていない旨主張しているのみであったところ、同年8月○日に、L家庭裁判所において調停が成立した(以下、この成立した調停を「本件調停」という。)。
 本件調停に係る調書(以下「本件調停調書」という。)には、要旨次のとおりの記載がある。
A 本件土地及びP市p町Q3番地所在の家屋(居宅119.00平方メートル及び物置33.05平方メートル)が本件被相続人の遺産である。
B 本件土地に係る本件旧相続登記の原因たる遺産分割協議は無効である。
C 相手方兄Hは、上記Aの家屋を単独取得する。
D 相手方兄Hは、本件土地につき、本件旧相続登記の抹消登記手続をする。
E 請求人及び妹Kは、本件土地を各2分の1の割合で本件相続を原因として共有取得する。
(ハ) 本件調停を受けて、本件土地の登記については、平成17年8月○日、本件旧相続登記が錯誤を原因として抹消登記されるとともに、同日、本件相続を原因として本件被相続人から請求人及び妹Kへ各持分2分の1の共有とする所有権移転登記がなされた(以下、これらの抹消登記及び所有権移転登記を「本件新相続登記」という。)。
ホ 本件相続は、農業を営む本件被相続人が昭和38年9月に死亡し開始したものであるところ、上記ニの(ハ)の本件新相続登記までの間の経過年数は、41年11か月である。
へ P市による本件土地の買取りの経緯
(イ) P市は、平成15年9月3日、兄Hに対して、本件土地を都市計画街路事業・M路線(以下「M路線」という。)の道路用地(残地部分を含む。以下同じ。)として買収予定価額66,679,200円(以下「本件買収予定価額」という。)で買い取りたい旨の申出を行った。
(ロ) 上記(イ)の申出を経て、P市は、平成15年12月5日、兄Hに対して、本件土地について具体的な売買交渉を行ったが売買契約には至らなかったため、兄H及びP市は、本件土地をM路線の事業用地として使用することとして、貸付人を兄H、借受人をP市、借受期間を平成15年12月8日から平成17年3月31日までの間とする土地使用貸借契約を平成15年12月8日に締結し、さらには、借受期間を平成17年4月1日から平成18年3月31日までの間とする土地使用貸借契約を平成17年3月24日に締結した。
(ハ) P市は、その後平成17年7月5日、兄Hに対する本件土地についての売買交渉の中で、兄Hが妹に本件土地を分配するつもりであることを知ったため、上記ニの(ハ)の本件新相続登記後である同年8月19日に、請求人及び妹Kに対し、本件土地の各共有持分2分の1についてM路線の道路用地として買い取りたい旨の申出を行うとともに、それぞれの買取り価額として33,339,600円の提示を行った。
(ニ) 請求人及び妹Kは、平成17年9月2日付で本件土地の各共有持分2分の1をM路線の道路用地としてP市へそれぞれ33,339,600円で売り渡す旨の土地売買契約(以下「本件売買契約」という。)を連名で締結した。
ト 本件土地の譲渡に係る所得税の確定申告の状況
 請求人が原処分庁に提出した平成17年分の所得税の確定申告書には、P市が発行した公共事業用資産の買取り等の申出証明書(以下「本件申出証明書」という。)、公共事業用資産の買取り等の証明書及び収用証明書が添付されている。
 本件申出証明書には、資産の所有者が請求人、買取り等の申出年月日が平成17年8月23日である旨の記載がある。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

3 判断

(1) 本件贈与税決定処分について

イ 争点1(請求人は、本件土地を贈与により取得したものであるか否か。)
(イ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 請求人の答述及び申述によれば、請求人は、本件申立て前において、1昭和38年9月○日に本件相続が開始し、同日における本件被相続人の遺産として本件相続不動産の存在を了知していたこと、2本件相続の開始当時には、被相続人が農業を営んでいた場合には、長男である相続人が農地等を含めた遺産のすべてを引き継ぐのが通常であったことから、本件相続不動産のすべてが兄H名義となっていると考えており、本件申立て前にその事実を確認していたこと、3兄Hは、本件申立て前において、請求人に対し、農地の分与はもちろん、本件被相続人の遺産であった農地が収用等で買収されても現金の分与を行ったことがなく、請求人は、そのことに不満を持っていたこと、4姉Jが兄Hに対して別件土地の所有権移転を請求した際に、姉Jから請求人も一緒に兄Hに対して請求しないかと持ちかけられたものの、別件土地に関しては、兄Hと姉Jとの間の問題であり、請求人としては別件土地のことでもめたくないとして、その申出を断っていたことが認められる。
B姉Jの答述によれば、別件土地は、昭和47年頃、同人らの自宅敷地として使用するため兄Hから無償で借り受けるとともに、同土地の固定資産税を負担することとしていたものであり、平成16年10月頃になって、別件土地を姉J名義に変更することを求めた結果、姉Jの夫が時効取得したものであること、また、登記原因を時効取得とした理由は、別件土地の所有権移転要求について兄H及び妹Kが同意したため、姉Jに名義変更しようとしたものの、当該所有権移転要求に係る姉Jの代理人弁護士から、姉Jに対する贈与になると説明され、税負担の少なくなる時効取得を原因として姉Jの夫名義に変更することとなったものであることが認められる。
C請求人の答述及び申述によれば、請求人が本件申立てを行ったのは、別件土地が姉Jのものとなったこと(ただし、所有権移転登記は姉Jの夫に対してなされている。)を知った請求人が、兄Hからは別件土地の所有権移転後に100万円を交付されたのみで、他に何らの給付もなかったことから、姉Jのみが兄Hから土地を取得したことに納得できず、その結果、同人も兄Hに対して財産分けの要求をしたくなったからであることが認められる。
D本件申立書に添付された物件目録及び本件申立てに係る事件の第1回期日の調停事件経過表の遺産目録には、別表2記載の土地及びP市p町Q3番地所在の家屋が記載されているものの、本件調停調書においては、上記1の(4)のニの(ロ)のAのとおり、本件土地及び上記家屋のみが遺産である旨記載されているほか、本件相続不動産に該当する別件土地及び別表3記載の土地(兄Hが本件相続開始時から本件申立てまでの間にP市に譲渡したと認められるもの)の記載はないことが認められる。
E兄Hの答述及び申述によれば、本件相続開始当時、本件相続に係る共同相続人のうち、姉Jは既に婚姻していたものの、他の共同相続人に加えて祖母も同居しており、生活を維持する必要があったことに加え、本件相続開始当時は、農業を引き継ぐ長男が農地を含めた遺産を単独で相続するのが通例であり、本件相続不動産のほとんどが農地であったために、農業を引き継ぐ同人がすべての農地を含めて遺産を相続するものと認識し、本件旧相続登記をしたものであること、また、請求人、姉J及び妹Kの答述及び申述によれば、いずれもが、本件相続不動産のほとんどが農地であったと認識していたこと及び本件相続開始当時は、農業を引き継ぐ長男が遺産を単独で相続するのが当たり前であり、ほとんどが農地である本件相続不動産を兄Hが単独で相続登記したものと思っていたことが認められる。
(ロ) 本件調停に基づく遺産分割の成否について
 請求人は、本件調停前に本件被相続人の遺産について分割協議がなされた事実はなく、本件旧相続登記の手続は兄Hが独断で行ったものであって、登記原因となる遺産分割の事実がないとして、本件土地は、本件調停により遺産分割され、本件被相続人から請求人が相続によって取得したものである旨主張する。そして、兄Hら4名は、いずれも共同相続人間で本件相続に係る遺産分割に関しての話合いは行われなかった旨これに添う答述をするところである。
 しかしながら、民法第907条第1項は、共同相続人は民法第908条の規定によって被相続人が遺言で禁じた場合を除くほか、何時でも、その協議で、遺産の分割をすることができる旨規定しているところ、仮に、本件申立て前までに兄Hら4名の共同相続人間で本件相続に係る遺産分割が成立していないとすれば、請求人は、上記(イ)のAのとおり、本件相続の開始、本件相続不動産の存在を了知しており、かつ、兄Hが本件被相続人の遺産のすべてを事実上取得していることにつき不満を持っていたのであるから、例えば、姉Jが兄Hに対し別件土地の所有権移転を要求した時などに兄Hら4名の間で協議による分割請求を行うのが合理的な行動であると考えられるのにもかかわらず、請求人は、上記(イ)のAのとおり、姉Jから一緒に兄Hに対し財産分けの要求をしないかと相談されたもののこれを断ったほか、上記(イ)のCのとおり、別件土地の所有権移転がなされた事実を確認した後、兄Hら4名の間で何らの協議もしないまま、上記1の(4)のニのとおりの本件申立てを行うなどの行動をとっていることが認められる。
 これに加えて、1兄Hら4名の認識が上記(イ)のEのとおりであり、これは、被相続人の死亡の際には、生前に分与された残りの財産をすべて跡取りが相続するのが建前であったとされる本件相続開始当時における農家相続の実態調査等の結果にも合致するものであると認められること、2別表3記載のとおり、本件相続不動産の一部が兄Hにより売却され、請求人は、上記(イ)のAのとおり、現金の分与がないことに不満を持っていたにもかかわらず、その売却代金の帰属につき何らの異議も申し立てていないこと、3上記(イ)のBのとおり、別件土地の所有権移転原因が時効取得となったのは、姉J名義へ所有権移転登記をした場合に姉Jに対する贈与となるとの弁護士の指導によるものであること、4上記1の(4)のニのとおり、本件申立てにおいては、別件土地が除外されていることから本件相続不動産のすべてを前提として遺産分割の協議を求めたものとは認められず、また、上記(イ)のDのとおり、本件調停調書においても本件土地及びP市p町Q3番地所在の家屋のみが遺産である旨記載されているにすぎないこと、5上記1の(4)のニの(イ)の本件申立書によれば、申立ての相手方として姉Jが記載されているものの、実質的には請求人及び妹Kと兄Hとの間の財産帰属に関する争いであって、相続人の一人を除外した遺産分割が無効となるために形式的に姉Jを相手方に加えたものと認められること、6上記1の(4)のホのとおり、本件相続開始後本件新相続登記までの経過年数が41年11か月であるところ、その間に一度も遺産の分割請求がなされないことは極めて不自然であると考えられることなどに照らせば、本件調停によって本件相続に係る遺産分割が成立したものとは認められず、かえって、遅くとも別件土地についての所有権移転の要求が姉Jから兄Hに対してなされた時までには、兄Hら4名の共同相続人間において、本件相続不動産のすべてを兄Hが単独で相続することにつき黙示の合意があったと推認することができるというべきである。
 そして、上記1の(4)のハのとおり、別件土地には本件相続を原因として妹Kの持分を2分の1とする所有権移転登記がされているものの、妹Kが「昭和44年頃、兄Hから別件土地を相場で譲ると言われ、買入れを断念した」旨の答述をし、また、姉Jが上記(イ)のBのとおり「別件土地は、昭和47年頃、同人らの自宅敷地として使用するため兄Hから無償で借り受けた」旨の答述をしていることに照らせば、兄Hは、その登記名義にかかわらず別件土地につき自己所有であることを前提とした行動をとっていたと認められるから、妹K名義の登記の存在は、上記判断に影響を及ぼさないというべきである。
 以上によれば、遅くとも別件土地についての所有権移転の要求が姉Jから兄Hに対してなされた時までには、本件相続不動産のすべては、共同相続人全員の黙示の合意の下で、兄Hが単独で相続したものと認めるのが相当であるから、本件土地は、本件新相続登記がなされているものの、請求人が兄Hから贈与により取得したものと認めるのが相当である。
ロ 争点2(請求人が贈与により取得したものとした場合における本件土地の価額は、市による買収予定価額によることが相当であるか否か。)
 上記イのとおり、請求人は、本件土地を兄Hから贈与によって取得したものと認めるのが相当であるところ、本件土地の価額について、原処分庁は本件買収予定価額によるべきである旨主張するのに対し、請求人は評価基本通達に定められた評価方式で算定した評価額によるべきである旨主張するので、この点について審理した結果、次のとおりである。
(イ) 時価の意義と評価方法
 相続税法第22条は、別紙1の3のとおり、贈与により取得した財産の価額は特別に定める場合を除き当該財産の取得の時における時価による旨規定しており、この場合の時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値をいうものと解される。
 しかしながら、財産の客観的な交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではなく、これを個別に評価すれば、評価方法等により異なる評価額が生じ、また、納税者及び課税庁の事務負担が重くなることから、課税実務上は、財産評価の一般的基準が評価基本通達により定められ、特別な事情がない場合には、同通達に定められた評価方法によって画一的に財産の評価が行われているところである。
 このように、評価基本通達によりあらかじめ定められた評価方法によって、画一的な評価を行う課税実務上の取扱いは、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であり、特別な事情がない場合には、これを形式的にすべての納税者に適用して財産の評価を行うことは、租税負担の実質的公平をも実現することができ、租税平等主義にかなうものである。
 そして、財産評価の一般的基準として画一的な評価方法を定める評価基本通達については、当審判所においても相当と認められる。
(ロ) 本件土地の評価方法
A原処分庁は、次の(A)及び(B)の理由から、本件土地の価額は本件買収予定価額とするのが相当である旨主張する。
(A) 1贈与時点において道路用地になることが明らかで、2P市は平成17年7月5日の売買交渉において、兄Hに対し本件買収予定価額と同額を示しており、その価額が維持される状況にあり、3請求人は、本件土地が買収されることを兄Hから聞いている旨申述していることから、本件土地の取得の時における時価として客観的交換価値を示す価額が現に存在していたと認められる。
(B) 本件土地について評価基本通達により定められた評価方式で評価した場合の価額は、本件買収予定価額を時価とした場合に比べ著しく低額となり、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害すると認められるから、本件土地の評価は、評価基本通達6に定める特別の事情がある場合に当たる。
Bしかしながら、上記(イ)のとおり、相続税法第22条には、贈与により取得した財産の価額はその取得の時における時価による旨規定されており、贈与税の課税実務上、特別な事情がない場合には、評価基本通達により定められた評価方法によって画一的に財産の評価を行うのが相当であるところ、原処分庁が主張する上記Aの(A)の点については、1請求人が、あらかじめ本件土地につき本件買収予定価額で買い取られる予定であることを知り得たとしても、本件買収予定価額は、あくまでも売買契約前の時点における予定価額であって、その後の交渉や事情の変化により変動する可能性がある価額にすぎないこと、2本件土地については、P市が道路用地として買収する予定であったとはいえ、本件新相続登記がなされる以前に売買契約は締結されておらず、請求人が取得した財産を売買代金請求権と認めることはできないことからすれば、本件買収予定価額は、贈与税の課税時期における時価としての客観的な交換価値が顕在化したものとまでは認め難い。
 また、原処分庁は、上記Aの(B)のとおり、評価基本通達により定められた評価方式で評価した場合の価額が本件買収予定価額に比べ著しく低額となるために評価基本通達6に定める特別の事情がある場合に当たる旨も主張するが、仮に本件買収予定価額が時価を表しているものとするならば、評価しようとするその土地の地価公示価格レベル水準の価格の80%相当額となるように、評価基本通達に基づき各国税局長が定めた財産評価基準書(以下「財産評価基準書」という。)に路線価や倍率が定められていることが周知の事実であることに照らせば、その定められた路線価や倍率の合理性が問われることはあっても、評価基本通達により定められた評価方式で評価した場合の価額が本件買収予定価額に比べ著しく低額となることのみをもって評価基本通達6に定める特別な事情がある場合に該当するとはいえないというべきである。
 そうすると、本件買収予定価額は、贈与税の課税時期における時価としての客観的な交換価値が顕在化したものとまでは認め難いこと、また、評価基本通達により定められた評価方式で評価した場合の価額が本件買収予定価額に比べ著しく低額となることをもって特別の事情が存するとはいえないことに加え、当審判所の調査によっても、本件土地の評価に当たり、評価基本通達に定める評価方法を適用することが著しく不合理であるとする特別な事情があるとは認められないことからすれば、原処分庁の主張には理由がない。
 したがって、本件土地の価額は、評価基本通達に定める方式で評価するのが相当である。
C 贈与により取得した本件土地の価額
(A) 認定事実
 当審判所が本件土地について調査したところ、次の事実が認められる。
a 本件土地は、平成17年分の財産評価基準書によれば、評価基本通達に定める路線価方式により評価する地域に所在し、その所在する地域は、普通住宅地区内である。
b 本件土地は、路線価○○○○円の道路にのみ面した間口34.63メートル、奥行18.93メートルの長方形の土地である。
(B) 本件土地の価額
 上記Bのとおり、本件土地の価額については、評価基本通達の定めに従って評価するのが相当であり、上記(A)のa及びbのとおり、本件土地の地区区分は普通住宅地区内であり、路線価○○○○円の道路にのみ面した間口34.63メートル、奥行18.93メートルの長方形の土地であることが認められるから、それらに基づいて、路線価方式により本件土地の価額を算定すると、別表4のとおり本件土地の価額は○○○○円となる。
 そうすると、請求人が上記イの(ロ)のとおり贈与により取得した本件土地の持分に相当する価額は、本件土地の価額○○○○円に持分2分の1を乗じて算定した○○○○円となる。
ハ 本件贈与税決定処分の適法性
 上記ロの(ロ)のCの(B)のとおり、請求人の贈与税の課税価格は○○○○円であり、これに基づき計算される納付すべき税額は○○○○円となるところ、この額は本件贈与税決定処分の額を下回るから、本件贈与税決定処分は、その一部を取り消すべきである。

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(2) 本件贈与税賦課決定処分について

 上記(1)のハのとおり、本件贈与税決定処分は、その一部を取り消すべきであるから、無申告加算税の賦課決定処分の基礎となる税額は、○○○○円となり、また、この税額の計算の基礎となった事実については、国税通則法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められない。
 したがって、平成17年分の贈与税に係る無申告加算税の額は、○○○○円となり、本件贈与税賦課決定処分の金額に満たないから、本件贈与税賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。

(3) 本件所得税更正処分について

イ 争点3(請求人の譲渡所得の計算に当たって、本件特例の適用があるか否か。)
(イ) 請求人は、本件土地を相続により取得したものであり、本件申出証明書には最初に買取り等の申出を受けた者は請求人である旨記載され、請求人が本件土地について最初に買取り等の申出を受けた時の所有者であるから、本件特例の適用がある旨主張する。
(ロ) しかしながら、措置法第33条の4第3項第3号は、別紙1の9のとおり、資産の収用交換等による譲渡が公共事業施行者から当該資産につき最初に買取り等の申出を受けた者以外の者からされた場合には、当該資産については、本件特例を適用しない旨規定しており、ここにいう公共事業施行者からの「買取り等の申出」とは、公共事業施行者が、資産の所有者に対し、買取り等の資産を特定し、対価を明示してその買取り等の意思表示をすることをいうものと解される。
 そこで本件についてみると、上記1の(4)のへの(イ)によれば、P市が本件土地につき対価を明示して買取りの申出を最初にしたのは平成15年9月3日であるところ、その時点における本件土地の所有者は、上記(1)のイの(ロ)のとおり、本件土地を相続により取得していた兄Hであることが認められるから、P市から本件土地につき最初に買取りの申出を受けた者は兄Hであり、請求人はそれ以外の者ということになる。
 なお、本件申出証明書には、上記1の(4)のトのとおり、本件土地に係る買取り等の申出年月日及び所有者について、それぞれ平成17年8月23日及び請求人と記載されているが、当該記載内容は、上記判断に影響を及ぼすものではない。
 そうすると、請求人は、本件土地の譲渡につき、本件特例の適用要件を満たしておらず、本件特例の適用がない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 本件所得税更正処分の適法性
 上記イのとおり、請求人は、本件土地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、本件特例を適用することはできず、これにより計算した平成17年分の分離長期譲渡所得の金額及び納付すべき税額は、いずれも本件所得税更正処分の額と同額となるから、本件所得税更正処分は適法である。

(4) 本件所得税賦課決定処分について

 本件所得税更正処分は上記(3)のとおり適法であり、また、本件所得税更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件所得税更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件所得税賦課決定処分は適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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