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(平20.5.13、裁決事例集No.75 680頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、鍼灸師である審査請求人(以下「請求人」という。)が、消費税及び地方消費税について、A市が施術料の一部を負担している施術は消費税法上の非課税となる資産の譲渡等に該当し、基準期間における課税売上高は1,000万円以下になるから、課税期間の納税義務は免除されるとして、その課税期間について更正の請求をしたところ、原処分庁が更正の請求をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、請求人がその取消しを求めた事案である。 

(2) 審査請求に至る経緯等

イ 請求人は、平成17年12月26日に、平成17年1月1日から平成17年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の基準期間(平成15年1月1日から平成15年12月31日までの課税期間をいい、以下「本件基準期間」という。)における課税売上高を○○○○円として消費税課税事業者届出書を提出した。
ロ 請求人は、本件課税期間の消費税及び地方消費税の確定申告書に課税標準額を○○○○円、納付すべき税額を○○○○円及び納付すべき譲渡割額を○○○○円と記載して法定申告期限までに申告した。ハ 請求人は、本件基準期間の課税売上高には、A市が施術料の一部を負担する施術(以下「本件施術」という。)に係る収入が含まれており、当該収入は消費税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)第6条《非課税》に規定する別表第1第6号ト及び消費税法施行令(平成18年政令第10号による改正前のもの。以下同じ。)第14条《療養、医療等の範囲》第19号(本件基準期間の平成15年においては第18号。以下同じ。)に規定する医療に該当し非課税となり、本件基準期間の課税売上高から当該収入金額○○○○円を除くと、本件課税期間は消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項本文の規定の適用がある事業者(以下「免税事業者」という。)に該当するとして、平成18年9月22日に本件課税期間の消費税及び地方消費税について課税標準額、納付すべき税額及び納付すべき譲渡割額を零円とする更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)を行った。ニ 原処分庁は、本件更正の請求に対して平成18年12月26日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分を行った。
ホ 請求人は、原処分を不服として、平成19年1月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年4月23日付で棄却の異議決定をしたので、同年5月17日に審査請求をした。 

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(3) 関係法令

 関係法令の要旨は、別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 A市国民健康保険施設利用規則(平成○年規則第○号による改正前のものをいい、以下「本件施設利用規則」という。)には、要旨次の記載がある。
第○条 A市は、A市国民健康保険の被保険者のため、保健事業としてあんま、はり及びきゅうの施術を行うこととし、本件施設利用規則は、その目的として当該施術に関する必要事項を定める。
第○条
第1項 あんま、はり及びきゅうの施術は、末梢神経疾患又は運動器疾患により国民健康保険法の療養の給付及び老人保健法の医療の給付を受けたことがある者若しくは医師の診断により当該疾患であったことが明らかな者に対して行うこととし、当該疾患により現に国民健康保険法の療養費の支給及び老人保健法の医療費の支給を受けている者に対しては行わない。
第2項 前項の規定にかかわらず、緊急その他やむを得ない理由により、療養の給付、医療の給付及び医師の診断を受けることが困難な者につき、市長が必要と認めた場合は、施術を受けることができるが、別に定めるあんま師、はり師又はきゅう師の施術に関する意見書の提出を要する。
 また、本件施設利用規則は、平成○年規則第○号により第○条及び第○条が次のとおり改正されている。
第○条 本件施設利用規則は、A市国民健康保険条例第○条に定める保健事業として、A市国民健康保険の被保険者のために実施するあんま、はり及びきゅうの施設の利用に関する必要事項を定める。
第○条 あんま、はり又はきゅうの施術のうち、本件施設利用規則第○条に定める市負担金の対象となるのは、末梢神経疾患又は運動器疾患に係るものとし、当該疾患により現に国民健康保険法の療養費の支給及び老人保健法の医療費の支給を受けているものは対象とならない。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

3 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 厚生省(現在の厚生労働省をいい、以下同じ。)保険局長から都道府県知事あての、昭和42年9月18日付保発32号「はり・きゅう及びマッサージの施術に係る療養費の取扱いについて」によれば、要旨次の記載がある。
 はり、きゅう及びマッサージの施術に係る療養費の支給にあっては、もとより保険者がその必要ありと認めたときに限り支給されるところ、その具体的取扱いは昭和42年10月1日から次のとおりとしたので、貴管下各保険者を指導するとともに関係方面に、この旨の周知を図られたい。
(イ) 施術同意書について
 療養費支給申請書に添付するはり、きゅう及びマッサージの施術に係る医師の同意書については、病名、症状(主訴を含む。)及び発病年月日の明記された診断書であって療養費払の施術の対象の適否の判断が出来るものに限り、これを当該同意書に代えて差し支えないものとすること。
(ロ) 類症疾患について
 はり、きゅうに係る施術の療養費の支給対象となる疾病は、慢性病であって、医師による適当な治療手段のないものとされており、主として神経痛・リウマチなどであって類症疾患については、これら疾病と同一範ちゅうと認められる疾病(頚腕症候群・五十肩・腰痛症及び頚椎捻挫後遺症等の慢性的な疼痛を主症とする疾患)に限り支給の対象とすること。
ロ A市の国民健康保険事業の概要をまとめた「平成19年度(平成18年度実績)A市の国保」によれば、保健事業について、A市では、被保険者の健康の保持・増進を図るための諸施策を実施し、昭和○年から、はり・きゅう施術費の助成、さらに昭和○年からあんま施術費の助成を行うとともに、疾病予防対策として平成○年から人間ドック費用の一部助成を行っている旨の記載がある。 
ハ 本件施設利用規則についての施設利用の改正概要(平成○年○月)によれば、「その他」の項目に「条文の文言の整備など」として、本件施設利用規則第○条を目的規定から趣旨規定とし、保健事業であることを明確化する旨の記載がある。
ニ A市国民健康保険課の担当職員は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ) A市国民健康保険条例(平成○年条例第○号による改正前のものをいい、以下「本件条例」という。)第○条は、国民健康保険法第82条が基礎となる。
(ロ) 本件条例第○条で現在行われている事業は、あんま、はり、きゅうの施術費の助成事業、国保ヘルスアップ事業及び人間ドック助成事業である。
(ハ) 本件施設利用規則は、昭和○年に国民健康保険法に規定する保健事業としてA市が創設したものであり、その創設趣旨は、A市国民健康保険の被保険者の健康の保持増進のために必要な事業として本件施設利用規則第○条《目的》に規定している。
(ニ) 鍼灸師に対する国民健康保険法第54条の規定に基づく療養費の支給は、医師の同意書又は診断書の提出を受けた場合に行われる施術が対象となり、同意書等のない施術については、療養費の支給が行われる施術の内容と同じであったとしても療養費の支給は行われない。
 また、本件施術は、国民健康保険法に規定する療養の給付又は療養費の支給に係る療養には該当しない。
 さらに、本件施術に係る負担金について、療養費を支給するというA市の条例等その他の法令はない。 

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(2) 法令解釈

 消費税法第6条第1項は、同法別表第1に掲げるものには消費税を課さない旨規定し、これを受けて同法別表第1第6号イないしヘにおいて、健康保険法等の規定に基づく「療養の給付に係る療養」又は「療養費等の支給に係る療養」、老人保健法の規定に基づく「医療」又は「医療費等の支給に係る療養」などを掲げ、個別の法律の規定に基づく「『療養又は医療の給付』に係る療養又は医療」及び「『療養費又は医療費等の支給』に係る療養又は医療」について、非課税となる資産の譲渡等である旨規定している。
 さらに、消費税法別表第1第6号トにおいて「イからヘまでに掲げる療養又は医療に類するものとして政令で定めるもの」と規定し、これを受けて、消費税法施行令第14条第1号ないし第18号においては、個別の法律の規定に基づく「『療養又は医療の給付』に係る療養又は医療」及び「『療養費又は医療費等の支給』に係る療養又は医療」が、そして、同条第19号においては、国又は地方公共団体の施策に基づきその要する費用の全部又は一部が国又は地方公共団体により負担される「医療及び療養」が、非課税となる資産の譲渡等である旨規定している。
 そうすると、同条第1号ないし第19号に係るものについても、消費税法別表第1第6号イないしヘに掲げる療養又は医療に類するものであるから、消費税法施行令第14条第19号に規定する「医療及び療養」とは、国又は地方公共団体の施策に基づく「『療養又は医療の給付 』に係る療養又は医療」及び「『療養費又は医療費等の支給 』に係る療養又は医療」であると解するのが相当である。

(3) これを本件についてみると、請求人は、A市の本件施設利用規則の定めに基づく負担金はいわゆる「公費負担」に該当し、また、鍼灸師が行う施術は医療であり、本件施術は消費税法施行令第14条第19号に規定する医療及び療養に該当し本件課税期間は免税事業者に該当するから、本件更正の請求は認められるべきである旨主張するので、判断する。

 前記1の(4)及び上記(1)のイによれば、1本件施術に係る費用の負担は、その要する費用の一部をA市が負担しているものであるが、国民健康保険法の規定に基づく「療養費の支給」に当たらず、また、上記(1)のロ及びハによれば、2あんま、はり、きゅうの施術費を助成するA市の施策は、被保険者の健康の保持増進を図るためのものであり、本件条例第○条に規定する保健事業として実施されていると認められる。さらに、上記(1)のニのA市国民健康保険課の担当職員の答述によれば、3本件条例第○条の事業は国民健康保険法第82条の規定に基づく保健事業であり、本件施術は同法に規定する「療養の給付又は療養費の支給に係る療養」に該当しないと認められる、加えて4保険者であるA市が、本件条例及び本件施設利用規則に基づき「療養費の支給」をしている事実は認められない。
 以上のことから、本件施術は、国又は地方公共団体の施策に基づく「『療養又は医療の給付』に係る療養又は医療」及び「『療養費又は医療費等の支給』に係る療養又は医療」とは認められず、消費税法施行令第14条第19号に規定する「医療及び療養」には該当しないこととなる。
 そうすると、本件施術に係る収入金額○○○○円は、請求人の本件基準期間における課税売上高に該当することから、本件課税期間において請求人は免税事業者には該当しないため、本件更正の請求に対し、更正すべき理由がないとした原処分は適法である。
 したがって、請求人の主張は採用できない。

(4) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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