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(平20.8.4、裁決事例集No.76 77頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、非永住者であった審査請求人(以下「請求人」という。)が、非永住者であった期間の国内源泉所得のみを確定申告していたところ、原処分庁が、請求人が非永住者であった期間に受領した国外からの送金については、国外源泉所得で国外の支払に係るものについて送金があったものとみなされるとして、所得税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該送金は、いったん送金された金額をその年中に国外に返金し、翌年再度国外から送金されたものであるから、当該送金された額から国外へ返金していた金額を控除すべきである等と主張して同処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 平成15年分及び平成16年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の所得税について、審査請求に至る経緯は別表1のとおりである(以下、各年分の更正処分を「本件各更正処分」といい、各年分の過少申告加算税の賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」という。)。
ロ 請求人は、平成19年8月31日、異議決定を経た後の原処分の一部に不服があるとして審査請求した。

(3) 関係法令の要旨

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査及び審理の結果容易に認定できる事実である(証拠の付記のない部分は当事者に争いがない。)。
イ 請求人は、P国に国籍を有する者であり、平成11年8月27日、日本に入国した。
ロ 請求人は、平成15年1月1日から同年12月31日までの期間(以下「平成15年非永住者期間」という。)及び平成16年1月1日から同年8月27日までの期間(以下「平成16年非永住者期間」といい、平成15年非永住者期間と併せて「本件非永住者期間」という。)については非永住者であり、平成16年8月28日から同年12月31日までの期間については非永住者以外の居住者である。
ハ 請求人は、次のとおり、Q国所在のF社、G社及び請求人との間で締結された下記の出向契約に基づき、平成13年11月1日からG社で勤務している(「SECONDMENT AGREEMENT」と題する書面。)。
(イ) 出向期間
 平成13年11月1日から平成14年10月31日までの1年間。ただし、1年単位で自動更新できる。
(ロ) 役職
 ヴァイス・プレジデント
(ハ) 勤務条件
 引き続きF社との間の雇用条件を維持する。
(ニ) 給与及び報酬
 請求人のG社に対する労務の対価としての給与及び賞与は、G社の負担により、F社を通じて請求人へ支払われる。
(ホ) 旅費、宿泊費等
 G社に対する業務の遂行に伴って生じた旅費、宿泊費、食事代等は、G社が請求人へ支払う。
ニ 請求人は、日本に永住する意思を有していない(請求人が、各年分において確定申告書に添付した各「居住形態に関する申告書」)。
ホ 請求人は、本件非永住者期間において、それぞれ次のとおりの給料及び賞与の支払を受けた(ただし、F社からの給料及び賞与についての為替レートは、各支給年月日におけるH銀行(現K銀行)のTTB(電信買相場)によっており、また、平成16年非永住者期間におけるG社からの給与については、平成16年の合計金額○○○○円に平成16年非永住者期間(240日)が年間(366日)に占める割合を乗じて計算しているため、請求人が確定申告書に添付した「Japanese Income Tax Computation」において記載した金額と一致していない。)。
(イ) 平成15年非永住者期間
 A G社      ○○○○円(全額国内払)
 B F社(給料)  ○○○○円(全額国外払)
 C F社(賞与)  ○○○○円(全額国外払)
(ロ) 平成16年非永住者期間
 A G社      ○○○○円(全額国内払)
 B F社(給料)  ○○○○円(全額国外払)
 C F社(賞与)  ○○○○円(全額国外払)
ヘ 請求人が、平成14年分ないし平成16年分において確定申告書に添付した「Overseas Travel Worksheet for January through December」と題する書面によれば、請求人の非永住者期間の国外における滞在日数等は、別表2のとおりである。
ト 請求人が、本件非永住者期間に、L銀行に開設した請求人とその妻とのジョイント口座(通帳等番号○○○○。以下「本件ジョイント口座」という。)から、請求人名義で各開設したM銀行(現N銀行)R支店口座番号○○○○の○○預金口座及びK銀行S支店口座番号○○○○の普通預金口座(以下、これら2口座を併せて「本件各国内口座」という。)へ送金した額の明細は、別表3のとおりである。
チ 請求人は、別表3のとおり、平成15年5月6日にN銀行R支店の上記○○預金口座に送金を受けた600,000ドル(以下「本件送金額」という。)を、同年6月3日に利息37.46ドルとともに同支店に開設していた○○預金口座の定期預金へ預け入れ、同年11月26日にその定期預金から本件送金額と同額を出金し、L銀行の本件ジョイント口座へ送金(以下、送金した金額を「平成15年返金額」という。)し、平成16年4月5日、本件ジョイント口座から600,000ドルを出金した(N銀行発行の取引明細写し、本件ジョイント口座のステートメント)。

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2 主張

(1) 原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 所得税法第7条第1項第2号に規定する「国外から送金されたもの」の範囲について
(イ) 所得税法第7条第1項第2号は、別紙の2のとおり、非永住者には、国外源泉所得で国内払のもの又は国外から送金されたものについて所得税を課す旨規定し、当該送金の範囲について委任を受けた所得税法施行令第17条第1号(以下「本件規定」という。)は、別紙の5のとおり、「国外から送金を受領した場合」は、国外で支払われた国外源泉所得について送金があったものとみなす旨規定しているところ、送金された資金の出所及びそれらが消費されるか否かを問わず、単に「国外から送金を受領した場合」は、国外で支払われた国外源泉所得について送金があったものとみなされる。
(ロ) これを本件についてみると、請求人は、本件非永住者期間において、上記1の(4)のトのとおり、本件ジョイント口座から本件各国内口座に送金し受領した事実が認められるから、各年分の非永住者期間において国外から送金されたものの範囲内で各年分の国外源泉所得で国外の支払に係るものについて送金があったものとみなされ、所得税法第7条第1項第2号の規定により、各年分でそれぞれ所得税が課されることになる。
ロ 錯誤に基づく送金であることについて
 請求人は、平成15年5月6日に送金した本件送金額は、錯誤に基づき送金したものである旨主張するが、錯誤とは、表示に現れる意思と表意者の内心の真に意図する意思とが食い違っていることをいうものであるところ、請求人は、不動産の購入資金として必要であるとの意図から本件送金額を送金し、当該不動産の購入という送金目的が果たせなかったので当該資金が不要となったとの意図から本件ジョイント口座に返金したものである。したがって、内心の意思と本件送金額の送金との間に食い違いは存在しないから、請求人のした送金は錯誤に基づくものとは認められない。

(2) 請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部について取消しを求める。
イ 所得税法第7条第1項第2号に規定する「国外から送金されたもの」の範囲について
(イ) 主位的主張
A 所得税法第7条第1項第2号は、別紙の2のとおり、非永住者には、国外源泉所得で国内払のもの又は国外から送金されたものについて所得税を課す旨規定しているところ、同号に規定する「国外から送金されたもの」とは国外払の国外源泉所得に係る所得の送金を意味するものである。そして、国外から送金を受領しても、それを国外に返金し、再度、国外から送金された場合における国外から送金された金額の算定に当たっては、非永住者に対する送金課税が国内にある資産に担税力を求めていること及び国内で消費される金額に課税するという送金課税の立法趣旨からすれば、国外から送金を受領した金額から国外へ返金した金額を控除すべきである。
 また、国外から送金されたものの範囲について委任を受けた本件規定は、別紙の5のとおり規定しているところ、この意味するところは、国外から送金を受領した場合において、その金額の範囲内で国外源泉所得に係る所得で国外において支払われたものについて送金があったものとみなしているのであるから、本件規定における「その金額」とは、「送金の受領」という実質の事実関係に基づいて判断することを意味するのであり、送金されたものを返金した場合は、国外から送金されたものを受領したことにはならない。
B これを本件についてみると、請求人は、本件非永住者期間において、上記1の(4)のトのとおり、本件ジョイント口座から本件国内口座に送金し受領しているところ、上記1の(4)のチのとおり、このうち本件送金額と同額の平成15年返金額を、平成15年11月26日に本件ジョイント口座へ返金している。
 また、平成16年7月20日に送金し受領した16,126,500円は同月22日に本件ジョイント口座へ返金している(以下、返金した金額を「平成16年返金額」といい、平成15年返金額と併せて「本件返金額」という。)。
 そうすると、本件返金額は、それぞれ各年分において国外から送金を受領した金額から控除されるべきである。その結果、本件非永住者期間における国外から送金された金額は下表の3の金額となり、これを所得税法施行令第17条各号の規定に従って計算すると、平成15年分の国外から送金された額は、国外払の国内源泉所得(47,425,622円)を超えないので、国外から送金された金額は、すべて、国外払の国内源泉所得が送金されたとみなされることになるから、国外払の国外源泉所得への課税は行われないこととなる。

  1当初送金額 2本件返金額 3本件返金額控除後の送金額
12
平成15年分 77,084,750円 70,680,000円 6,404,750円
平成16年分 99,020,707円 16,126,500円 82,894,207円

(ロ) 予備的主張
A 上記(イ)の主張が認められない場合、請求人は、平成16年非永住者期間において、上記1の(4)のトのとおり、本件ジョイント口座から本件各国内口座に送金し受領しているが、当該金額には、本件返金額が含まれているところ、平成15年返金額は、既に平成15年分の所得税の課税所得の対象とされており、また、平成16年返金額も平成16年分の所得税の課税所得の対象とされているから、平成16年に送金し受領した金額を国外から送金されたものとして課税所得を計算した場合には、本件返金額に相当する金額が二重に課税所得の対象とされることになり、課税上不合理である。
 また、上記(イ)のAのとおり、「国外から送金されたもの」とは国外払の国外源泉所得に係る所得の送金を意味するところ、本件返金額に相当する金額に達するまでの送金額は、本件返金額を送金したものであって国外源泉所得に係る所得を送金したものとはいえない。
B これを本件についてみると、平成16年分の国外から送金された額は下表の4の金額となり、これを所得税法施行令第17条各号の規定に従って計算すると、国外から送金された額は、国外払の国内源泉所得(40,016,589円)を超えないので、国外から送金された金額は、すべて、国外払の国内源泉所得が送金されたとみなされることになるから、国外払の国外源泉所得への課税は行われないこととなる。

  1当初送金額 2平成15年返金額 3平成16年返金額 4本件返金額控除後の送金額
123
平成16年分 99,020,707円 70,680,000円 16,126,500円 12,214,207円

ロ 錯誤に基づく送金であることについて
 本件送金額は、請求人が自宅を購入するために送金したものであるところ、結果的に購入を予定した不動産が購入できなかった。仮に当該不動産を購入できないことが分かっていたならば、本件送金額を送金しなかったことは明白であるから、そこには不動産を購入するという動機の錯誤がある。したがって、本件送金額は、錯誤に基づき送金したものであるから、本件送金額を国外から送金された金額に含めるのは誤りである。

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3 判断

(1) 所得税法第7条第1項第2号に規定する「国外から送金されたもの」の範囲について

イ 法令解釈
(イ) 原処分庁の調査担当職員が本件ジョイント口座のステートメントを調査した結果によると、本件ジョイント口座には、少なくとも平成14年からF社からの給与が振り込まれ、また、L銀行からの利子が入金されていると認められるから、国外源泉所得に係る所得で国外の支払に係るものと送金の資金源を形成する所得の種類の同一性、発生時期と送金時期の年分の同一性の要否が問題となる。
 所得税法第7条第1項第2号は、別紙の2のとおり、非永住者は国内源泉所得及び国外源泉所得で国内において支払われ、又は国外から送金されたものに対して所得税が課される旨規定しており、ここにいう国外から送金されたものとは、国外源泉所得に係る所得で国外の支払に係るものが送金された場合をいうと解される。
 そして、所得税法第7条第2項の委任を受けて規定された本件規定は、非永住者が国外から送金を受領した場合、当該送金額が国内源泉所得に係る所得で国外の支払に係るものについて送金を受領したのか、国外源泉所得に係る所得で国外の支払に係るものについて送金を受領したのかが明らかでなく、国外源泉所得のうち課税される部分の金額の計算に困難をきたすことがあるので、課税対象となる金額の計算方法を簡便に定めたものである。すなわち、本件規定は、所得税法第7条第1項第2号が課税所得の範囲として規定していないことが明らかな相続や贈与により取得した資金などを原資とする送金を受領した場合に、これを課税所得の範囲とすることを認めた規定とまでは解されないものの、課税所得の範囲の計算を容易にするために、国外からの送金の原資の実態如何にかかわらず、まず国内源泉所得に係る所得について送金があったものとみなし、なお残余があるときに当該残余の金額の範囲内で国外源泉所得に係る所得について送金があったものとみなす旨規定していることからすると、課税所得となる国外源泉所得に係る所得で国外の支払に係るものと送金の資金源を形成する所得の種類の同一性又は課税対象となる国外源泉所得に係る所得で国外の支払に係るものの発生時期と送金時期の年分の同一性は要求されていないと解される。したがって、所得の発生時期や種類は問わず、非永住者の自己の資金に起因するものについて国外から送金を受領した場合には、本件規定が適用されることとなる。
(ロ) 請求人は、所得税法第7条第1項第2号が国外源泉所得のうち「国外から送金されたもの」と規定するのは、国内で消費される金額に担税力があり、これに課税する趣旨のものであるから、国外へ返金した金額は送金額から控除すべきであり、また、本件規定の「国外から送金を受領した場合」は、実質的に判断すべきであるから、送金したものを返金した金額はこれに該当しない旨の主位的主張をしている。
 しかしながら、所得税法第7条第1項第2号において、非永住者の課税所得の範囲が限定されているのは、非永住者も居住者であるから全世界所得に課税する旨の規定を設けることも可能であるが、我が国とのつながりが希薄と考えられる一定の者については課税権の行使に一定の限定をする趣旨によるものであり、同号が、国外源泉所得のうち国内で支払われ、又は国外から送金されたものを課税所得の範囲に含めているのは、我が国に送金等がされたことにより国外源泉所得に我が国との関連が生じ、課税権の行使を限定する必要がなくなるからであると解される。
 そうすると、所得税法第7条第1項第2号が、国内で支払われ、又は国外から送金されたことを、非永住者の国外源泉所得を課税所得とするための要件としているのは、送金を課税権を行使する契機としたものというべきであり、さらに、所得税法第7条第1項第2号及び本件規定が「送金」の内容に特段の限定を付していないことにも照らせば、いったん国外払の所得が国外から国内に送金される事実がありさえすれば、特段の限定なく所得税法第7条第1項第2号に規定する送金があったということができるというべきである。
 したがって、非永住者であっても、国外源泉所得自体を課税所得とする点では、非永住者以外の居住者と変わりはないのであって、請求人が主張するように、国内で消費される金額のみを担税力のある所得とみて、同一年中に送金額を返金した場合は、これを送金額から控除できると解すべき理由はないし、送金の事実を実質的に解釈し、国外からの送金が国内で費消されずに、そのまま国外に返金した場合には送金に該当しないと解すべき理由もない。
 以上によれば、請求人の主位的主張は採用できない。
ロ これを本件についてみると次のとおりである。
(イ) 平成15年分について
 請求人は、上記1の(4)のト及び別表3のとおり、平成15年非永住者期間に国外の本件ジョイント口座から合計77,084,750円を送金し、これを受領した。また、前記イの(イ)のとおり、原処分庁の調査担当職員が本件ジョイント口座のステートメントを調査した結果によると、本件ジョイント口座には、少なくとも14年からF社からの給与が振り込まれ、また、L銀行からの利子が入金されていると認められ、上記送金額は、請求人の資金を送金したものと推認される。
 そうすると、上記送金額は、本件規定により、まず、平成15年分の国内源泉所得に係る所得で国外の支払に係るものが送金されたことになり、残余の金額について、当該残余の金額の範囲内で国外源泉所得に係る所得で国外の支払に係るものが送金されたことになる。したがって、上記残余の金額が所得税法第7条第1項第2号に規定する「国外から送金されたもの」として平成15年分の所得税の課税所得の対象となる。
(ロ) 平成16年分について
A 請求人は、上記1の(4)のト及び別表3のとおり、平成16年非永住者期間に、本件国内各口座に合計99,020,707円を送金しこれを受領しているが、このうち平成16年6月30日に送金したものを除き、本件ジョイント口座から送金されているものである。また、そのうち平成16年6月30日の送金は、送金人名及び受取人名をいずれも請求人として送金したものであることが認められる。そうすると、平成16年非永住者期間に送金したものは、いずれも請求人が自己の資金を送金したものであると推認される。
 したがって、当該各送金額は、本件規定により、まず、平成16年分の国内源泉所得に係る所得で国外の支払に係るものが送金されたことになり、なお、残余があるときには、当該残余の金額の範囲内で国外源泉所得に係る所得で国外の支払に係るものが送金されたことになる。したがって、上記残余の金額が所得税法第7条第1項第2号に規定する「国外から送金されたもの」として平成16年分の所得税の課税所得の対象となる。
B この点、請求人は、本件返金額に相当する金額を国外から送金されたものとして課税所得を計算した場合には、本件返金額に相当する金額が二重に課税所得の対象とされるから課税上不合理である旨主張する。
 しかし、本件ジョイント口座における給与の振込状況及び別表3の平成16年の各送金額を照合検討したところ、平成16年の送金額は、平成16年6月30日分を除き、主に平成16年の本件ジョイント口座へ振り込まれた給料の一部が国内へ送金されたものであると認められるから、この送金のうち本件返金額に相当する部分はなく、請求人の主張は前提を欠いている。
 また、上記1の(4)のチのとおり、請求人は本件送金額をN銀行R支店の預金口座へ入金後、利息とともに定期預金へ預け入れ、定期預金口座から国外の本件ジョイント口座へ当初送金額と同額を返金し、その後、同額を本件ジョイント口座から引き出していると認められることから、平成15年返金額は、国外払の所得が送金されたものが他の金員と渾然となったものの、同額が返金されたものであるといえる。そして、平成16年6月30日に送金された金額には本件ジョイント口座から引き出した平成15年返金額相当分が含まれていた可能性がないとはいえない。
 しかし、たとえそうであったとしても、上記(1)のイのとおり、送金されたものを受領すれば非永住者の課税所得とみなされるのは、当該送金額を限度として、非永住者以外の居住者と変わりなくその年分の国外源泉所得が課税所得とされるからであるから、平成15年非永住者期間と平成16年非永住者期間の国外源泉所得の課税は、各年分の国外源泉所得に課税したものであって、同一の所得に二重に課税したものとはいえない。
 したがって、請求人の予備的主張も採用できない。

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(2) 民法第95条に規定する「錯誤」について

イ 民法第95条は、意思表示は法律行為の要素に錯誤があったときには無効となる旨規定しており、意思表示をなすに当たり動機に錯誤があっても、法律行為は原則として無効とはならないと解されるが、その動機が相手方に明示的又は黙示的に表示されて法律行為の内容となり、もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合には、法律行為の要素の錯誤としてその無効をきたすものと解される。したがって、動機の錯誤があった場合に同条により無効となるのは、その動機が相手方に明示的又は黙示的に表示されて法律行為の内容となった場合である。
 ところで、送金(振込み)の法的性格は、委任契約であり、依頼人が仕向銀行に振込依頼書等に必要事項を記入して振込契約の申込み(意思表示)をし、これを仕向銀行が承諾することにより、両者間に振込事務の処理を内容とする委任契約が成立するものであるから、送金の目的は、飽くまで依頼人の内心の意思、すなわち、動機にすぎず、これが明示的又は黙示的に表示されていない限り法律行為の要素を構成しないと解される。
ロ これを本件についてみると、不動産の購入という送金の目的は、請求人も自認するとおり、単なる動機にすぎないところ、これを明示的又は黙示的に表示した証拠は存しない。したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 本件各更正処分について

 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、所得税法施行令第17条各号の規定に従い、本件非永住者期間における請求人の送金課税の対象となる課税所得は、別表4及び別表5のとおり、国内源泉所得及び国外源泉所得の全額について課税されることとなる。
 よって、各年分の総所得金額は別表6のとおりとなるところ、平成15年分については更正処分の額を上回り、また、平成16年分については異議決定後の更正処分の額と同額となることから、本件各更正処分はいずれも適法である。

(4) 本件各賦課決定処分について

 本件各更正処分は、上記(3)のとおりいずれも適法であり、また、請求人の場合、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定によりされた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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