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(平20.10.27、裁決事例集No.76 270頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、山林素地の譲渡に係る譲渡所得について、1当該山林素地の一部は実質的に物納したものであるから、租税特別措置法(平成19年法律第6号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第40条の3《物納による譲渡所得等の非課税》の規定(以下「物納による非課税特例」という。)を適用でき、2当該山林素地は請求人が営んでいた山林業の事業用資産であるから、措置法第37条《特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例》の規定(以下「特定事業用資産の買換え特例」という。)を適用できるとして、各特例を適用して所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が、上記1については、請求人が当該山林素地を物納した事実はないから物納による非課税特例は適用できず、かつ、上記2については、請求人は、当該山林素地を事業の用に供していたとはいえず、特定事業用資産の買換え特例は適用できないとする更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人の審査請求(平成19年11月30日)に至る経緯等は、別表1のとおりである。
 なお、以下、平成19年6月29日付でされた平成18年分の所得税の更正処分を「本件更正処分」という。

(3) 関係法令

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、所有していたP市p1町X1番の山林素地1,563平方メートル(以下「本件山林素地」という。)を、平成18年11月30日にF社に代金○○○○円で譲渡した(以下、この譲渡を「本件譲渡」という。)。
ロ 請求人は、別表2の「確定申告」欄のとおり、本件譲渡の価額○○○○円のうち、同表項番2の本件借地権買取関連支出額について、物納による非課税特例が適用できるとして、これを譲渡価額に算入せず、さらに、本件山林素地は、自己の事業の用に供しており、平成19年4月20日に貸付用建物を買い換えて取得する予定であるから特定事業用資産の買換え特例が適用できるとして、当該特例を適用して譲渡所得の金額を計算し、平成18年分の所得税の確定申告をした。

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2 争点1(物納による非課税特例の適用)について

(1) 主張

請求人 原処分庁
 請求人が物納による非課税特例を適用した本件借地権買取関連支出額とは、請求人が物納申請中であったP市p2町○丁目○番の宅地(以下「本件物納地」という。)上に存した建物及び借地権を借地権者から買い取り、建物を取り壊すためにした支出であり、その内訳は、別表2の(注)の1のとおりである。 本件物納地について物納の許可を受けるためには、借地権を買い取る必要があり、その資金を捻出するために本件山林素地を譲渡したのだから、本件譲渡のうち、本件借地権買取関連支出額に達するまでの部分は、上記借地権と実質的に同一であると解釈するべきである。
 そうすると、請求人は上記借地権だった部分を含む本件物納地を物納したのだから、本件譲渡のうち本件借地権買取関連支出額に相当する部分は、物納されたことになり、物納による非課税特例が適用され、譲渡がなかったものとみなすこととなる。
 請求人が、本件借地権買取関連支出額に本件山林素地の譲渡代金の一部を充当しているとしても、本件山林素地を物納した事実はないから、本件譲渡の所得について、物納による非課税特例を適用することはできない。
 なお、本件借地権買取関連支出額は、本件山林素地の取得費及び本件山林素地の譲渡に要した費用のいずれにも該当しないから、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、収入金額から控除することもできない。

(2) 判断

イ 物納による非課税特例は、個人がその所有する財産を物納した場合における山林所得及び譲渡所得に係る非課税の特例であり、措置法第40条の3は、相続税法第42条第2項(同法45条第2項において準用する場合を含む。)又は第48条の2第3項の規定による許可を受けて物納した場合の山林所得又は譲渡所得について、非課税とする旨定めている。
ロ 本件譲渡は、上記1の(4)のイのとおり、請求人とF社との間の売買契約によるものであり、相続税法第42条第2項(同法45条第2項において準用する場合を含む。)又は第48条の2第3項の規定による許可を受けて物納した場合には当たらない。したがって、本件譲渡に係る譲渡所得に物納による非課税特例を適用することはできない。
 なお、請求人は、本件譲渡の代金の一部で本件物納地上の借地権を買い取ったから、これに支出した部分は、本件物納地に設定されていた借地権と実質的に同一であり、その部分は結果として物納された旨の主張をする。しかし、本件山林素地は本件物納土地とは全く異なる資産であり、本件山林素地が物納されたものでないことは明らかであるから、請求人の主張には理由がない。

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3 争点2(特定事業用資産の買換え特例の適用)について

(1) 主張

請求人 原処分庁
 請求人は、P市、Q市、R市及びS市に山林を保有しており、これらは、山林業を行うに足りる十分な規模を有していると認識している。過去の裁決例によれば、「山林業と称するに足る事業」「山林業を営んでいた」ことについて計数的基準は示されていないから、保有する山林の規模は山林業を営んでいないとする根拠足りえない。
 そして、本件山林素地については、代々植林を行い下草の手入れ及び間伐を行ってきており、伐採出荷できる山林も存在していたのであるから、山林業の用に供していた土地に当たる。
 また、請求人は、平成6年から、P市により山林業者として、特別土地保有税について非課税の扱いを受けていることからも、請求人が山林業を営んでいる者ということができる。
 譲渡した山林素地が特定事業用資産の買換え特例の対象となる「事業の用に供していた資産」といい得るためには、山林所得者が山林の伐採又は譲渡を営利を目的として反復継続的に行い社会通念上山林業と称するに足りるものの用に供している山林素地であって、植林や造林等の経営管理が継続的になされていることが必要であるところ、本件山林素地は、次の事実から、これに該当しない。
(イ) P市内にある山林については、その樹種や本数を管理した明細や台帳といった正式な管理記録がない。
(ロ) その他の山林に関する書面にも、輪伐の際に重要な要因となる本数や伐採期等の記録がない。
(ハ) 請求人は、間伐を行ったことはあるが、輪伐を行ったことはない。
(ニ) 過去に請求人が山林所得の申告をしたのは、平成15年、17年及び18年分の所得税の申告においてのみである。

(2) 判断

イ 法令解釈
 措置法第37条第1項は、特定事業用資産の買換え特例の適用対象となる譲渡資産を「事業の用に供している」ものに限定しているところ、ここにいう事業とは、所得税法第27条《事業所得》、同法51条《資産損失の必要経費算入》に規定する事業と同様に、個人が、自己の計算と危険において独立して営み、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務をいうと解するのが相当である。
 山林業についていえば、営利を目的とする有償での山林の伐採又は譲渡の反復継続性及びその金額、山林業の基盤となる山林の規模、植栽等を自己の計算と危険によって計画的に企画遂行しているか否かがその主要な判断要素となる。そして、この他に、山林業に費やした労務の程度、社会的地位、生活状況などの諸般の事情をも総合考慮して、社会通念に従って事業といえるか否かを判断するのが相当である。
ロ 認定事実
(イ) 請求人は、本件譲渡の時において、下記AからEまでのとおり、P市、Q市、R市、S市及びT市に、合計約○○ヘクタール(1ヘクタールは10,000平方メートル)の山林素地を所有していた(土地家屋名寄帳、平成19年11月2日付のQ森林組合作成の山林の計表、U森林組合(R市)作成の山林の計表及び平成19年10月19日付のS市の森林組合作成の「森林の現況」と題する書面)。
A P市p1町X2番ほか6筆   合計約○○ヘクタール
B Q市q町○丁目○番ほか10筆  合計約○○ヘクタール
C R市r町○丁目○番ほか11筆  合計約○○ヘクタール
D S市s町○丁目○番ほか1筆   合計約○○ヘクタール
E T市t町○丁目○番ほか5筆   合計約○○ヘクタール
(ロ) 請求人は、上記(イ)のAからEまでの山林素地を、売買、父G(平成2年8月○日死亡)からの生前贈与及び父Gから相続した母H(平成3年1月○日死亡)からの相続により、遅くとも平成3年1月○日までに取得していた(以上につき、請求人の異議調査担当職員に対する申述等)。
(ハ) Q市、R市及びS市の各山林素地上の立木の林齢(樹木の年齢のことをいい、暦年で数える。)、林齢ごとの山林素地の面積は、別表3のとおりである。この林齢の認定根拠となった資料は、平成19年11月2日付のQ森林組合作成の山林の計表、U森林組合作成の山林の計表及び平成19年10月19日付のS市の森林組合作成の「森林の現況」と題する書面であり、これらの資料が作成ないし提出された平成19年から起算すると、Q市においては昭和50年ころから、R市においては昭和49年ころから、S市においては昭和56年ころから、植林はされていなかったと認められる。
(ニ) P市の山林素地に関しては、父G作成の昭和44年度から昭和50年度の各補助金交付申請書によると、各年において、植林、伐採等をしたことによる補助金の交付申請をしたことが認められる。しかし、それ以後に植林をした記録はなく、請求人も、P市内の山林素地について植栽した樹種や本数を管理した明細、台帳などの管理記録を作成していない(請求人の当審判所に対する答述)。したがって、請求人がP市内の山林素地を取得してから植林をしたことはなかったと認められる。
(ホ) T市の山林素地に関しては、請求人から樹種や本数等の明細を記録したものの提出はなく、請求人が植林したことはなかったと認められる。
(ヘ) 原処分庁に保存のある請求人の平成12年分から平成18年分の所得税の確定申告書において、山林所得の申告があるのは、平成15年分、17年分及び18年分の所得税のみであり、山林所得の内容は次表のとおりである。

(単位:円)
年分 譲渡価額(収入金額) 山林所得の金額 買主
15 ○○○○ △○○○○ U森林組合
17 ○○○○ △○○○○ U森林組合
18 ○○○○ △○○○○ J社

(ト) 平成15年分の山林所得は、U森林組合が、請求人に対し、道路造成工事をするために必要があると依頼し、これに応じて、山林を伐採したことによる所得である。
 平成17年分の山林所得は、U森林組合が、請求人に対し、池の拡張工事をするために必要があると依頼し、これに応じて、山林を伐採したことによる所得である。
 平成18年分の山林所得は、本件山林素地の下草の伐採を依頼したJ社からの申出に応じて、伐採した立木を代金○○○○円で売却したことによる所得である(以上につき、請求人の当審判所に対する答述、領収書)。
ハ 本件へのあてはめ
 上記ロの(イ)、(ヘ)、(ト)のとおり、請求人は約○○ヘクタールの山林素地を所有していたが、過去7年間において、請求人に山林の伐採又は譲渡による所得があったのは、平成15年分、平成17年分及び平成18年分の3年分であり、いずれも森林組合又は下草刈りを行う業者からの依頼に応じて山林を伐採したことによる所得である。そして、山林所得がある各年分で、いずれも山林所得の金額の計算上、損失が生じており、収入金額を見ても、平成15年分は約○○○○円あるものの、平成17年分は約○○○○円、平成18年分は○○○○円と僅少であるから、請求人が、営利を目的として反復継続して、山林の伐採又は譲渡を行っていたとはいえない。
 さらに、請求人は、上記ロの(ロ)のとおり、山林素地を遅くとも平成3年1月17日までには取得しており、その所有期間は長期間に及んでいたにもかかわらず、その間、上記ロの(ハ)から(ホ)までのとおり、新たな植林をしていないと認められる。したがって、請求人が植林を計画的に企画遂行していたともいえない。
 以上のとおり、請求人は、営利を目的とした山林の伐採又は譲渡を反復継続して行っておらず、長期間にわたって植林をしていないから、請求人が下草刈りなどの山林の管理を行っていたとしても、これに費やす労務もまた僅少であったと認められる。加えて、別表1のとおり、請求人には、平成18年分の所得税の確定申告において、事業所得(農業)、不動産賃貸による不動産所得、給与所得を申告したことに照らすと、山林所得の基因となる業務は従たる経済活動であったとみるべきである。
 そうすると、山林の伐採又は譲渡の反復継続性及びその金額、植林の計画的な企画遂行、さらに、これらに費やす労務の程度、社会的地位などのいずれの観点から見ても、請求人が、本件譲渡の当時において、自己の計算と危険において独立して、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる山林業を営んでいたとはいえないというべきである。
 したがって、請求人が事業として山林業を営んでいたとは認められないから、本件山林素地は、事業の用に供する資産とはいえず、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、特定事業用資産の買換え特例を適用することはできない。
ニ 請求人の主張について
 請求人は、平成6年度にP市p3町○丁目○番に所在する山林素地1,057平方メートルについて、山林業を営んでいることを理由に特別土地保有税を非課税とされたことから、請求人が山林業を営んでいると認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、措置法第37条第1項が規定する事業と、特別土地保有税を定める地方税法第586条《特別土地保有税の非課税》第2項第6号が規定する林業は、それぞれの法の趣旨に従って解釈されるべき別個の規定であり、それぞれの課税庁がその処分の当時に存在する客観的事情に基づき認定判断すべきものである。したがって、P市長が、平成6年度に特別土地保有税について請求人が山林業を営んでいると認定判断し、非課税とする処分をしたことは、原処分庁が、平成18年分の所得税について、請求人が措置法第37条第1項に規定する事業を営んでいないと認定判断することを妨げるものではないから、請求人の主張には理由がない。

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(3) 本件譲渡に係る譲渡所得の金額について

 以上によれば、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、物納による非課税特例及び特定事業用資産の買換え特例は、いずれも適用できないから、これを基に譲渡所得の金額を計算すると○○○○円となり、この金額は、本件更正処分の額における譲渡所得の金額と同額となる。これを基に、平成18年分の所得税の計算をすると、納付すべき金額は、別表1の更正処分等の欄記載の額と同額となる。
 したがって、本件更正処分は適法である。

(4) 過少申告加算税の賦課決定処分について

 本件更正処分は上記(3)のとおり適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定により過少申告加算税の賦課決定をした原処分は適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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