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(平20.12.15、裁決事例集No.76 475頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、○○○養殖業を営んでいた審査請求人(以下「請求人」という。)が、個人事業を法人組織とするに当たり、金銭の出資により法人を設立した後、個人事業に係る資産及び資産と同額の負債を当該法人に引き継いだこと(以下「本件法人成り」という。)について、原処分庁が、当該資産の引継ぎは金銭以外の資産の出資には該当せず、当該法人が譲り受けた負債を反対給付とする「対価を得て行われる課税資産の譲渡」であるとして消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の更正処分等をしたのに対し、請求人は、本件法人成りの実態は現物出資と同様であるから金銭以外の資産の出資に該当するところ、当該出資により譲渡等の対価となるべき取得する株式がないため、対価の額は零円であり、したがって、消費税は発生しないことから、原処分は違法であるとしてその全部の取消しを求めた事案であり、争点は、次のとおりである。

争点 本件法人成りにおける負債の引受額は、消費税法上の資産の譲渡等の対価の額となるか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成16年1月1日から平成16年12月31日までの課税期間(以下「平成16年課税期間」という。)の消費税等の確定申告書を別表1の「確定申告」欄のとおり記載し、法定申告期限までに提出した。
ロ 原処分庁は、平成16年課税期間について、平成20年2月22日付で別表1の「更正処分等」欄のとおり、消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、本件更正処分等を不服として、平成20年4月11日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月27日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、原処分に不服があるとして、平成20年6月23日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 本件に関する消費税法及び消費税法施行令(以下「施行令」という。)の各規定の要旨は、別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、平成16年5月12日に、個人で営んでいた○○○養殖事業(以下「本件個人事業」という。)を廃業した。
ロ A社は、請求人が営んでいた本件個人事業の承継を目的として、請求人が1,000,000円、Bが500,000円、Cが1,000,000円、Dが500,000円を出資して資本金3,000,000円をもって平成16年5月○日に設立され、請求人が代表取締役に就任した。

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2 主張

請求人 原処分庁
 原処分は、次の理由により違法であるからその全部の取消しを求める。
(1) 金銭以外の資産の譲渡には、商法に規定する「営業の譲渡」と、単なる「営業の用に供していた財産の譲渡」がある。
 商法上の「営業の譲渡」とは、一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産を一個の契約によって移転するものであり、資産という積極財産の他、営業上の秘けつや得意先など財産的価値を有する事実関係、更には負債という消極財産が一体となったところの組織的営業用財産の一括譲渡であり、本件法人成りにおける資産等の譲渡は、まさにこのような商法上の「営業の譲渡」と認識すべきものである。
(2) 消費税法は資産の譲渡を課税対象としているが、独自の資産概念は規定しておらず、商法に規定する「営業の譲渡」の制度を否定する別段の定めも設けていない。
 本件のような「営業」という組織的有機的一体物の譲渡は、消費税法においても商法の規定にのっとり、「営業」それ自体を一個の資産ととらえて課税すべきであるから、原処分庁が、「営業」を資産と負債に分離した上で「個人事業に係る負債の引受けは個人事業用資産の譲渡の反対給付であり、本件資産等の譲渡において金銭の授受が行われなかったのは対価と負債が相殺されたものである。」と結論付け、資産を棚卸資産や固定資産等に分解し個別の取引対象物ととらえて消費税を課税したのは法的根拠を持たない違法な処分であるといわざるを得ない。
(3) 消費税法においても、いわゆる現物出資の対価の額は、当該出資により取得する株式の時価と規定し、出資される資産及び負債を総体的に把握評価して取り扱っている。
 本件「営業の譲渡」は、現物出資には該当しないものの、経済取引の実態は現物出資と同様であるから、消費税法の適用においても現物出資に準じて取り扱うべきである。
(4) すなわち、本件「営業の譲渡」は施行令第2条第1項第2号の「金銭以外の資産の出資」に該当するものと解すべきで、そうすると課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準の額は施行令第45条第2項第3号により本件「営業の譲渡」によって個人が取得する株式の取得の時における価額に相当する金額となるが、結果として取得する株式が無いから対価の額も零円となり、消費税の課税額は生じない。
 原処分は、次のとおり適法に行われており、請求人の主張には理由がない。
(1) 請求人は、A社を金銭出資により設立し、その後に本件個人事業に係る一切の資産及び負債(以下「本件資産等」という。)を本件個人事業の帳簿価額でA社に譲渡していることから、本件資産等のうち、飼料及び稚魚の棚卸商品、建物、機械装置、車両運搬具、船舶並びに養殖設備の譲渡は、施行令第2条第1項第2号に規定される「金銭以外の資産の出資」には該当せず、これらの資産の譲渡に係る対価の額は、当該譲渡について現実に対価として収受し、又は収受すべき金額となり、これには権利その他経済的な利益の額も含まれると解されている。
(2) 消費税法第2条第1項第8号に規定する「資産」とは、取引の対象となる一切の資産をいうから、棚卸資産又は固定資産のような有形資産のほか、権利その他の無形資産が含まれる。
 一方、消費税法第6条第1項は、「国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第1に掲げるものには、消費税を課さない。」旨を規定し、施行令第9条第1項第4号には、同法別表第1第2号に規定する有価証券に類するものとして「貸付金、預金、売掛金その他の金銭債権」を掲げている。
 このため、原処分は、請求人がA社に譲渡した資産のうち、飼料及び稚魚の棚卸商品、建物、機械装置、車両運搬具、船舶並びに養殖設備を課税資産としたものである。
(3) A社による本件個人事業に係る負債の引受けは、請求人がA社に本件個人事業に係る資産を譲渡したことに対する「反対給付」に該当することから、請求人の本件個人事業に係る資産の譲渡は、「対価を得て行われる譲渡」として、消費税法上の「資産の譲渡等」に該当することとなる。
(4) したがって、請求人が本件資産等の譲渡により実際に収受した金銭の額は零円であっても、請求人は、本件個人事業に係る資産を本件個人事業に係る負債の引受金額○○○○円でA社に譲渡したものと認められ、さらに、この資産の譲渡等のうち、飼料及び稚魚の棚卸商品、建物、機械装置、車両運搬具、船舶並びに養殖設備の譲渡は、消費税法第4条の規定により課税資産の譲渡等に該当することから、その課税資産の譲渡等の対価の額は、○○○○円となる。

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3 判断

(1) 認定事実

 当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
 A社は、請求人との間において、本件法人成りに係る営業譲渡契約書は締結していないが、平成16年6月1日に臨時社員総会を開催し、本件資産等を、請求人から別表2のとおり引き継ぐことを総会に出席した全員が承認して、臨時社員総会議事録を作成した。
 なお、A社は、平成16年6月30日付で、別表2の内訳欄の資産について借方勘定とし、負債を貸方勘定とした仕訳処理を行い、本件資産等を受け入ている。

(2) 争点(本件法人成りにおける負債の引受額は、消費税法上の資産の譲渡等の対価の額となるか否か)について

イ 消費税の課税対象は、別紙のイ及びロのとおり、「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び資産の貸付け並びに役務の提供」のうち国内において事業者が行った資産の譲渡等であり、別紙のハに規定する消費税を課さないこととされる資産の譲渡等(以下「非課税取引」という。)以外のものである。
 このことから、消費税の課税対象は、「国内において事業者が事業として対価を得て行われる資産の譲渡等」であると解することができる。
 これを本件についてみると、請求人がA社に譲渡した別表2の内訳欄の資産のうち、9ないし13については、非課税取引となる資産に該当し、これらを除く1ないし7の資産の譲渡が「国内において事業者が事業として行う資産の譲渡等」に該当することとなる。
 また、上記(1)のとおり、A社が本件個人事業に係る別表2の内訳欄の資産を引き受けるに当たり、資産の相手勘定を負債とする仕訳処理を行っていることは、本件法人成りにおける負債の引受けが、本件個人事業に係る資産の引受けの反対給付であることの証であるといえる。
 すなわち、請求人は、本件法人成りにおいて、本件個人事業に係る資産をA社に譲渡したことに対する反対給付として、A社から金銭を収受する代わりに請求人の個人事業に係る負債をA社に引き受けさせ、債務の支払義務の消滅という実質的に金銭を収受したのと同様の経済的利益を得たものであることから、当該資産の譲渡は対価を得て行われたこととなり、当該負債の引受額が消費税法における資産の譲渡の対価の額に相当することとなる。
 ところで、請求人は、上記2の(1)及び(2)において、本件法人成りにおける資産等の譲渡は、「営業」という組織的有機的一体物の譲渡であり、「営業」それ自体を一個の資産ととらえて課税すべきであるから、「営業」を資産と負債に分離し、さらに、分離した資産を棚卸資産や固定資産等に分解した上で個別の事業用資産の譲渡とし、負債の引受額をこれに対する反対給付と認定して消費税を課税したのは違法である旨主張する。
 しかしながら、消費税の課税対象は、「国内において事業者が事業として対価を得て行われる資産の譲渡等」であり、消費税法において、資産(非課税取引を含む。)及び負債が一体となった「営業」それ自体を一つの課税客体ととらえて課税対象とする旨を定めた規定は存在しない。
 したがって原処分庁が、本件法人成りにおいて譲渡された資産等のうち、非課税取引を除く資産の譲渡を課税対象としたのは、まさに消費税法の規定するところであり、これを違法とはいえず、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ さらに、請求人は、上記2の(3)及び(4)において、本件法人成りにおける営業の譲渡は、現物出資には該当しないものの、経済取引の実態は現物出資と同様であるから、消費税法の適用においても施行令第2条第1項第2号の「金銭以外の資産の出資」に該当するものと解すべきあり、そうすると、本件法人成りによって請求人が取得した当該出資の対価となるべき株式は無いから対価の額も零円となり、消費税の課税額は生じない旨主張する。
 ところで、通常、個人事業者がその企業を法人に組織替えする場合(以下「法人成り」という。)に事業用資産等を法人に引き継ぐ形態としては、事業用資産等の現物を出資に充てる現物出資、また、事業用資産等の譲渡及び賃貸借等による権利の設定又は移転が考えられる。
 消費税法は、このうち現物出資については、別紙のヘのとおり、資産の譲渡等に該当するとして課税し、この場合の課税標準は、別紙のチのとおり、「取得する株式の取得の時における価額に相当する金額」とする旨規定している。
 これを本件についてみると、法人成りにおいて、消費税法が課税標準を「取得する株式の取得の時における価額に相当する金額」と規定するのは現物出資の場合であるところ、本件法人成りは請求人も自認するとおり現物出資ではなく、また、消費税法には、営業の譲渡を現物出資とみなして消費税法を適用する旨を定めた規定は存在しないことから、この点に関しても請求人の主張には理由がない。
ハ 以上のとおり、本件法人成りにおける負債の引受額は、消費税法第28条第1項に規定する課税資産の譲渡等の対価となる。
 したがって、原処分庁が、本件法人成りに伴う資産の引継ぎは、対価を得て行われる課税資産の譲渡であるとして行った本件更正処分は適法である。

(3) その他

 過少申告加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所の調査の結果によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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