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(平20.10.22、裁決事例集No.76 542頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、滞納国税のある審査請求人(以下「請求人」という。)の夫から不動産の贈与を受けた請求人に、第二次納税義務の納付告知処分並びに不動産及び債権の各差押処分を行ったことに対し、請求人が、当該各処分は違法であるとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、請求人の夫である納税者Aの別表1記載の滞納国税(以下、「本件滞納国税」といい、本件滞納国税を有するAを「本件滞納者」という。)を徴収するため、請求人に対し、平成19年10月2日付で、第二次納税義務の納付通知書による告知処分(以下「本件納付告知処分」という。)をした。
ロ その後、本件納付告知処分に係る納付の期限までに、本件滞納国税が完納されなかったことから、原処分庁は、請求人に対し、平成19年11月5日付で、納付催告書による督促をした後、同月16日付で、別表2記載の各不動産の各差押処分(以下「本件各不動産差押処分」という。)をし、同月26日付で、別表3記載の各債権(以下「本件各差押債権」という。)の各差押処分(以下「本件各債権差押処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件納付告知処分及び本件各不動産差押処分を不服として平成19年11月26日に、本件各債権差押処分を不服として平成20年1月15日に、それぞれ審査請求をした。
 そこで、当審判所は、国税通則法第104条《併合審理等》第1項の規定により、これらの審査請求を併合して審理する。

(3) 関係法令等

イ 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》は、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免がれた滞納者の親族その他の特殊関係者は、これらの処分により受けた利益の限度において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している(以下、徴収法第39条に規定する滞納者がした第三者に利益を与える処分により滞納者の親族その他特殊関係者の受けた利益を、単に「受けた利益」という。)。
ロ 国税徴収法基本通達(以下「徴収通達」という。)第39条関係の16《特殊関係者の場合の納税義務の範囲》の(1)は、受けた利益の額は、無償譲渡等の処分により、受けた利益が金銭であるときはその額を、金銭以外のものであるときは無償譲渡等の処分がされた時の現況によるそのものの価額を、債務の免除であるときは債務が免除された時の現況によるその債権の価額を、地上権の設定等であるときはその設定等がされた時の現況によるその地上権等の価額から、同通達第39条関係の12《第三者の場合の納税義務の範囲(受けた利益が金銭以外のものである場合)》の(6)のイ及びロに掲げる額、すなわち、その物を譲り受けるために支払った対価の額(無償譲渡等の処分があった時の対価の額)(以下、単に「対価の額」という。)並びにその物の譲受けのために支払った費用及びこれに類するもののうち、その物の譲受けと直接関係のあるものの額(例えば、契約に要した費用、不動産取得税、登録免許税等(これらの租税に係る附帯税を除く。))(以下「譲受けに係る直接費用」という。)を控除した額を算定する旨定めている。
ハ 相続税法第22条《評価の原則》は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による旨規定している。
ニ 財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)1《評価の原則》の(2)は、時価の意義につき、財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(相続、遺贈若しくは贈与により財産を取得した日若しくは相続税法の規定により相続、遺贈若しくは贈与により取得したものとみなされた財産のその取得の日)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による旨定めている。

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(4) 基礎事実

イ 請求人は、本件滞納者の親族である。
ロ 請求人は、平成7年1月10日、本件滞納者から、別表4記載の各不動産(以下、「本件各不動産」といい、本件各不動産のうち土地を「本件土地」、家屋を「本件家屋」という。)の贈与を受けた(以下「本件贈与」という。)。
ハ 請求人が、平成8年3月15日に提出した本件贈与に係る平成7年分贈与税の申告書には、課税される財産の価額の合計額(以下「本件贈与価額」という。)が○○○○円、相続税法第21条の6《贈与税の配偶者控除》の適用により納付すべき税額が零円と記載されている。

2 争点及び主張

(1) 争点

 本件贈与により請求人が受けた利益の額はいくらか。

(2) 主張

 別紙のとおりである。

3 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件各不動産への根抵当権の設定状況
(イ) B銀行及び本件滞納者は、平成3年8月○日、本件各不動産に、B銀行を根抵当権者、本件滞納者を債務者、極度額を○○○○万円、債権の範囲を銀行取引、手形債権及び小切手債権とする根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)を設定した。
(ロ) 本件根抵当権の債務者は、平成8年7月22日、本件滞納者からC社に変更された。
ロ 本件滞納者のB銀行に対する借入金の返済状況等
(イ) B銀行から本件滞納者への平成6年9月ないし平成7年5月の各月末日の貸付残高は、別表5のとおりであり、本件滞納者はB銀行に対する借入金の返済を行っている。
(ロ) B銀行は、平成6年1月から平成7年12月までの間の本件滞納者に対する取引方針として、債権の保全状況に問題はなく、本件滞納者の事業の状況が順調であったことから、現状維持のまま本件滞納者の事業を支援する方向であった。
ハ 本件贈与の対価等
(イ) 本件滞納者は、原処分庁所属の徴収担当職員に対し、本件贈与の際、請求人との間で金銭のやり取りは一切なかった旨申し述べた。
(ロ) 本件各不動産の登録免許税及び不動産取得税の額を証する客観的証拠資料は、D地方法務局E支局及びP県税事務所において所定の保存期間が経過し廃棄済みであり、本件各不動産の譲受けに係る直接費用の額を明らかにすることはできない。
ニ その他
 C社は、本件滞納者の長男であるFを取締役とし、平成7年10月○日に設立された。

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(2) 金銭以外のものの贈与により受けた利益の額の算定方法等

イ 担保権が設定された贈与不動産の価額の算定方法
 贈与不動産に担保権が設定されていたとしても、一般に、担保権が実行されるか否かは不確実であり、また、担保権が実行されたとしても債務者に求償することが可能であるから、受贈者が贈与とともに債務も引き受けた場合や贈与を受けた時に債務者が弁済不能の状態にあるため担保権を実行されることが確実であり、かつ、債務者に求償して弁済を受ける見込みがないという場合を除き、担保権が設定された贈与不動産の価額は、担保権が設定されていないとした場合の当該不動産の時価によるべきである。
ロ 受けた利益の額の算定方法
 徴収通達第39条関係の16の(1)の定めは、前記1の(3)のロのとおりであり、この取扱いは、金銭以外のものの受けた利益の額の合理的な算定方法を定めたものとして、当審判所においても相当と認められるところ、無償譲渡等の処分がされた時の現況による金銭以外のものの価額、すなわち時価の算定方法について、徴収通達は特に定めを置いていない。
 一方、贈与により取得した財産の価額に関する規定として、相続税法第22条の規定があり、同条は、前記1の(3)のハのとおり、贈与により取得した財産の価額はその取得の時における時価による旨規定し、この時価とは、財産取得の時における客観的交換価値をいうものと解される。
 しかしながら、この客観的交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、財産評価の一般的基準が評価通達により定められ、そこに定められた画一的な評価方式によって財産を評価することとされている。このように評価通達の定めによる課税実務上の取扱いは、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であり、この評価通達に定められた評価方式が合理的なものである限り、これを形式的にすべての納税者に適用して財産の評価を行うことは、租税負担の実質的な公平をも実現することができるものと解され、この取扱いは当審判所においても相当と認められる。
 以上によれば、受けた利益の額の算定の基礎となる無償譲渡等の処分すなわち贈与がされた時の現況による金銭以外のものの価額については、評価通達により算定することとなる。
 そうすると、金銭以外のものの贈与により受けた利益の額は、当該評価通達により算定された財産の価額から、対価の額及び譲受けに係る直接費用の額を控除した額となる。

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(3) これを本件についてみると、次のとおりである。

イ 請求人が受けた利益の額
 上記(1)のイのとおり、本件各不動産に本件根抵当権が設定されていたが、上記(1)のロのとおり、本件滞納者は、根抵当権者のB銀行に対する借入金の返済を行っており、B銀行も、本件滞納者の債権の保全状況に問題がなく、取引方針も現状維持と判断していることから、本件贈与の当時、本件根抵当権の債務者である本件滞納者が弁済不能のため本件根抵当権を実行されることが確実であったと認めることはできない。
 したがって、上記(2)のイにより、本件各不動産の価額については、本件根抵当権が設定されていないとした場合の本件各不動産の贈与を受けた時の時価により算定することになり、その時価は、上記(2)のロのとおり、評価通達の定めにより算定することとなるので、これにより本件各不動産の贈与を受けた時の時価を算定すると、請求人が申告した本件贈与価額(前記1の(4)のハ)と同額の○○○○円となる。
 また、請求人の本件贈与に係る納付すべき税額及び本件贈与の対価等については、前記1の(4)のハ及び上記(1)のハのとおりであるので、本件贈与時における本件各不動産から控除すべき対価の額及び譲受けに係る直接費用の額は、いずれも認められない。
 そうすると、本件贈与により請求人が受けた利益の額は、○○○○円となり、請求人は、これを限度として第二次納税義務を負うこととなる。
ロ なお、請求人は、別紙の「請求人」欄のロの(ロ)のとおり、本件滞納者の事業が法人成りした後は、当該法人の債務の保証人になっており、このことは、実質的に債務引受と同視し得る旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のニのとおり、C社が設立されているところ、上記(1)のイの(ロ)のとおり、本件根抵当権の債務者が本件滞納者からC社に変更されただけで、請求人が本件根抵当権に係る債務を引き受けた事実は認められず、また、請求人が同法人の保証人になっていたとしても、当然に当該債務を引き受けたことにはならないので、請求人の上記主張には理由がない。
ハ 本件納付告知処分
 上記イのとおり、請求人は、本件各不動産の本件贈与により受けた利益の額○○○○円を限度として、本件滞納国税に係る第二次納税義務を負うこととなる。
 また、当審判所の調査の結果によれば、本件贈与は本件滞納国税の法定納期限の1年前の日以降になされ、本件滞納国税の徴収不足は本件贈与に基因しており、本件納付告知処分は、徴収法第32条《第二次納税義務の通則》第1項の規定どおり、請求人に対して徴収しようとする金額、納付の期限その他必要な事項を記載した納付通知書により告知されている。
 したがって、本件納付告知処分は適法である。
ニ 本件各不動産差押処分
 上記ハのとおり、本件納付告知処分は適法であり、また、当審判所の調査の結果によれば、前記1の(2)のロのとおり、原処分庁は、徴収法第32条第2項の規定どおり請求人に対して、納付催告書により督促をし、同法第47条《差押の要件》第1項第1号の規定どおり、当該催告書を発した日から起算して10日を経過した後、本件各不動産差押処分を行っている。
 したがって、本件各不動産差押処分は、いずれも適法である。
ホ 本件各債権差押処分
 請求人は、本件各債権差押処分の全部の取消しを求めているところ、行政処分の取消しを求めるには、その取消しを求める処分が現に存在していることが必要である。
 これを本件についてみると、上記ハのとおり、本件納付告知処分は適法であり、請求人は○○○○円を限度として第二次納税義務を負うこととなり、また、当審判所の調査の結果によれば、原処分庁は、本件各差押債権(別表3の「取立債権額」欄記載の額の合計○○○○円)について、同表の「取立完了日」欄記載の各日に、徴収法第67条《差し押えた債権の取立》第1項の規定に基づく取立てを完了していることが認められ、請求人が取消しを求める本件各債権差押処分は、その目的を完了し既に消滅しているので、請求人は、本件各債権差押処分の取消しを求める法律上の利益を有しないといわざるを得ない。
 したがって、本件各債権差押処分の取消しを求める審査請求は、いずれも不適法なものである。

(4) 原処分のその他の部分については、当審判所の調査によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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