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(平21.1.19、裁決事例集No.77 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の平成19年7月から平成19年12月までの期間の給与等の源泉徴収に係る所得税(以下「本件源泉所得税」という。)の延滞税について督促処分(以下「本件督促処分」という。)を行ったのに対し、請求人は、本件源泉所得税は納期限までに納付されており延滞税は発生しないので、原処分に違法又は不当があるとしてその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成20年4月25日付で、本件源泉所得税に係る延滞税○○○○円が未納であるとして、本件督促処分を行った。
ロ 請求人は、平成20年5月20日に本件督促処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成20年8月7日付で棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、平成20年8月15日に異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、審査請求をした。

(3) 関係法令

 別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、所得税法第216条に規定する源泉所得税の納期の特例の承認を受け、措置法第41条の6第1項に規定する届出書を提出しているので、本件源泉所得税の納期限は平成20年1月20日であるが、その日は日曜日であるため、平成20年1月21日となる。
ロ A銀行B支店は、国税の収納を行う日本銀行歳入代理店である。
ハ A銀行B支店の○○事務所(請求人の屋号)代表○○○○(請求人の氏名)名義の普通預金口座(口座番号○○○○)(以下「本件預金口座」という。)の通帳には、年月日「20−1−21」、摘要「税金」、お支払金額「○○○○」と記帳されている。
ニ A銀行B支店からの本件源泉所得税に係る領収済通知書及び領収証書には、平成20年1月22日の領収日付印が押印されている。

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2 主張

(1) 原処分庁

 本件督促処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 原処分庁は、通則法第34条第1項及び日本銀行国庫金取扱規定第35条の4第1項の規定に基づき、日本銀行から収納年月日を「平成20年1月22日」とする領収済通知書の送付を受け、それに基づき本件源泉所得税の納付した日を判断し、本件源泉所得税に係る延滞税につき本件督促処分を行っている。
ロ また、A銀行B支店の業務上の取扱い及び日本銀行代理店による国税の受入の正否に係る主張については、意見できる立場にない。

(2) 請求人

 次の理由により請求人が本件源泉所得税を納付した日は、納期限である平成20年1月21日であるから、本件源泉所得税に係る延滞税は発生せず、本件督促処分は違法又は不当である。
イ 請求人の○○事務所事務員であるCは、平成20年1月21日にA銀行B支店の窓口において本件源泉所得税の納付手続を行い、A銀行B支店は同日付で本件源泉所得税相当額を本件預金口座から税金として振り替え、その結果、同日付で本件源泉所得税相当額について同口座の預金残高が減少している。
 つまり、A銀行B支店は日本銀行歳入代理店であり、その日本銀行歳入代理店が平成20年1月21日の営業時間内に本件源泉所得税を受領したことは明らかであり、領収証書を翌日に交付し、その領収日付が翌日になっていたことをもって翌日に納付したことにはならない。弁済受領すれば、弁済日は翌日ではなく弁済当日となる。
ロ その納付手続の際、Cは、A銀行B支店の窓口において、「領収証書のお渡しは明日以降になります。郵送しましょうか、それとも、明日以降また窓口に取りに来られますか。」と言われ、「すぐ近くだから、明日取りに来ます。」と回答し、「では、これをお持ちください。これと引換えに明日領収証書をお渡しします。」と言われ、何らかの紙片を渡された。しかし、翌22日に当該紙片をA銀行B支店に持参して、当該紙片と引換えに領収証書を受け取っており、当該紙片は手元に残っていないので、当該紙片の正確な記載内容は不明であり記憶にない。
 しかし、仮に何らかの紙片を受け取っていたとしても、それは、請求人による弁済受領権限のあるA銀行B支店に対する弁済が終わった後のことであり、弁済完了後にその弁済が翌日扱いになることなどあり得ない。
ハ また、その納付手続の際、Cは、受領した国税の処理が翌日扱いになる旨の説明を何ら受けていない。仮に、A銀行B支店の窓口でそのような説明を受けていれば、納期限に間に合うよう原処分庁で納付した。
 なお、A銀行B支店の看板には「窓口営業時間平日9:00〜17:00」とだけ表示し、「国税の取扱時間あるいは日本銀行歳入代理店としての営業時間等は異なります」旨の表示はしていない。15時以降の国税の取扱いは、翌日扱いとする旨の規定は、日本銀行と各代理店との申し合わせ事項であり、一般国民には公表されていない。
ニ 少なくとも、請求人が納期限を守って日本銀行歳入代理店へ納税に赴いた上、現に納付を行っているのであるから、A銀行B支店側の都合により翌日扱いになったにすぎない本件において、請求人にペナルティを課すことが不当であって、その面でも本件督促処分は取り消されるべきである。
ホ よって、本件は、領収済通知書及び領収証書の領収日付が誤っているにすぎないのであるから、原処分庁はそれらの書類の事務処理の記録を訂正すべきである。

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3 判断

(1) 法令解釈

 通則法第34条第1項は、国税を納付しようとする者は、税額に相当する金銭に納付書を添えて日本銀行(国税の収納を行う代理店を含む。以下同じ。)等に納付しなければならない旨規定している。そして、国税の納付とは、納税者にとっては納付した金額に相当する国税債務が消滅し、国にとっては領収した金額に相当する国税債権が消滅することであるから、その納付の時期は、当該国税に相当する金銭が国庫の所有に帰属した時である。そうすると、日本銀行で納付する場合の納付の時期は日本銀行において国庫金として収納したときであると解される。

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によると、次の事実が認められる。
イ A銀行では、次のとおりの内部規定(以下「本件内部規定」という。)を定めている。
(イ) 15時から17時までの営業における事務取扱のうち、税公金払込みの受付については制約があるので、税公金の払込みを受付する場合は、当日払込資金(現金、引落済資金等)を受け入れ、国税については、翌平日営業日付取引の依頼として預かり、受取証兼引換証を交付することとしている。
(ロ) 上記(イ)の処理をした場合に交付する受取証兼引換証等について、5枚1組の複写式の冊子となった様式を定めており、当該冊子は、窓口の担当者が記入するものであり、1枚が「受領書(控)」として冊子に残り、1枚が「受取証兼引換証」として納税者に交付され、残り3枚(「預かり物件管理票」、「物件添付票A」及び「物件添付票B」)は、A銀行内部の事務処理に利用され保管されることとなっている。
ロ 平成20年1月21日におけるA銀行B支店の窓口営業時間は、9時から17時までであり、窓口営業時間内の16時30分ころ、CがA銀行B支店の窓口において本件源泉所得税の納付手続を行った。
ハ 上記ロの納付手続について、A銀行B支店の窓口担当者は、本件内部規定にそって、翌日に処理するものとして事務を処理した。
 つまり、同窓口担当者は、Cが作成した払戻請求書に基づき、本件預金口座から本件源泉所得税と同額の○○○○円を引き落とし、翌営業日である平成20年1月22日を手続指定日として本件源泉所得税の納付用現金及び本件源泉所得税に係る納付書1通を預かった。さらに、同窓口担当者は、現金及び納付書の預かりを証する別表のとおりの受取証兼引換証(以下「本件受取証兼引換証」という。)を作成し、Cに対し交付し、本件源泉所得税の領収証書は、翌日に本件受取証兼引換証と引換えに交付する旨を伝えた。また、A銀行は、本件受取証兼引換証に係る複写式の一連の書類を保管している。
ニ A銀行B支店は、平成20年1月21日、同支店のATM出金専用口座に、上記ハで預かった○○○○円を預け入れ、翌営業日である平成20年1月22日付で同支店の税為口座に振り込み入金し、同口座から出金して、本件源泉所得税を収納した。
ホ 源泉所得税の納付書は「領収済通知書」「領収控」「領収証書」の3枚が1組となっており、それぞれに領収日付印が押印されるものであるところ、A銀行B支店は、平成20年1月22日付の領収日付印を押印して領収済通知書、領収控、領収証書を各作成し、領収済通知書をもって本件源泉所得税の納付を原処分庁に通知し、領収証書を請求人に交付した。また、A銀行は、領収証書と引換えに受領した本件受取証兼引換証を保管している。

(3) 本件源泉所得税を納付した日について

 上記(1)のとおり、日本銀行で納付する場合の納付の時期は日本銀行において国庫金として収納したときであり、上記(2)のニ及びホのとおり、領収済通知書及びA銀行B支店の自己名義の各預金勘定等によれば、平成20年1月21日の時点では、A銀行B支店は、一金融機関として翌営業日に納付手続を行う目的で金銭及び納付書等を預かったものであり、同支店は平成20年1月22日に本件源泉所得税を収納したと認められるから、A銀行B支店において国庫金として収納がされたのは平成20年1月22日であると認められる。

(4) 請求人の主張について

イ 請求人は日本銀行歳入代理店であるA銀行B支店が平成20年1月21日の営業時間内に本件源泉所得税を弁済受領しており、弁済者が弁済受領権限のある者に対して既に弁済を完了しているのであるから、弁済日は翌日ではなく弁済当日の平成20年1月21日となる旨主張する。
 しかしながら、上記(3)のとおり、平成20年1月21日の時点では、A銀行B支店は、一金融機関として翌営業日に納付手続を行う目的で金銭及び納付書等を預かったものであり、同支店は平成20年1月22日に本件源泉所得税を国庫金として収納したと認められるから、平成20年1月21日に納付は完了しておらず、平成20年1月21日に納付があったとはいえない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人は、受領した国税の処理が翌日扱いになることがA銀行に表示がなく、その旨の説明もなく、交付された紙片にもその旨記載されていたか疑問であるから、納付の日は手続をした平成20年1月21日であると主張する。また、CはA銀行の説明がなかったため、受領した国税の処理が翌日扱いになっているとの認識はなかった旨の「陳述書」と題する書面を当審判所に提出している。
 しかしながら、上記(2)のイの(イ)のとおり、本件内部規定に事務処理の方法が定められていること、上記(2)のイの(ロ)のとおり、本件受取証兼引換証は、複写式の一連の冊子に基づいて作成されたものであって、実際にA銀行に本件受取証兼引換証と一連となる書類が保管されていることに照らせば、上記(2)のハのとおり、A銀行B支店の窓口担当者が、本件内部規定に基づき本件源泉所得税の収納日が翌日になることを説明した上で本件受取証兼引換証を交付したことが推認できる。そして、平成20年1月21日に本件源泉所得税を納付したのであれば、同日に領収証書が交付されるべきところ、本件においてはこれに代えて本件受取証兼引換証が交付されており、本件受取証兼引換証には、別表のとおり、「預り日」として平成20年1月21日が、「手続ご指定日」として同月22日が別々に記入されていることから、これを受け取ったCにおいても、手続ご指定日が本件源泉所得税の納付手続を行う日を意味することを容易に理解できたと認められ、この点に関するCの「陳述書」は採用できない。
 そうすると、A銀行B支店の窓口担当者は、請求人の使者であるCに対して、本件源泉所得税の収納日が翌日である旨の説明をし、かつ、そのことを明らかにする本件受取証兼引換証を交付して、翌日納付のために現金及び納付書を預かったのであり、その時点では、A銀行は国庫金として収納していないのであるから、納付があったとはいえず、請求人の主張は採用できない。

(5) 本件督促処分について

 以上のとおり、本件源泉所得税を納付した日は平成20年1月22日であると認められるので、措置法第41条の6第2項により、本件源泉所得税の納期限は平成20年1月10日となり、本件源泉所得税の延滞税の割合は、措置法第94条により年4.7%となるので、本件源泉所得税に係る延滞税は、別紙2に記載のとおり○○○○円となり、原処分の延滞税と同額となる。
 よって、本件源泉所得税に係る延滞税について、通則法第37条第1項に基づき行われた本件督促処分は適法である。

(6) 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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