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(平21.12.15、裁決事例集No.78 432頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人Aほか4名(以下「請求人ら」という。)が、請求人らの一人が相続により取得した土地の評価に当たり、財産評価基本通達(平成18年5月18日課評2−7による改正前のものをいい、以下「評価通達」という。)24−4《広大地の評価》(以下「本件通達」という。)を適用して計算した相続税評価額を課税価格に含めて相続税の申告をしたところ、原処分庁が、本件通達の適用はないとして、相続税の更正処分等を行ったのに対し、請求人らが、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

イ 請求人らは、平成17年4月○日に死亡したB(以下「被相続人」という。)の共同相続人であり、この相続(以下「本件相続」という。)の開始に係る相続税の申告書に、別表1の「当初申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに共同で申告した。
ロ 次いで、請求人らは、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、請求人らのうち、A及びCは、本件相続に係る相続税について、別表1の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を平成20年5月28日に共同で提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成20年6月6日付で、別表1の「賦課決定」欄のとおりとする過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ニ 原処分庁は、平成20年6月27日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりとする各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
ホ 請求人らは、本件各更正処分等を不服として、平成20年8月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月19日付で棄却の異議決定をした。
ヘ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成20年12月19日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Aを総代として選任し、同日にその旨を当審判所に届け出た。

(3) 関係法令等

 関係法令等の要旨は、別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人らの一人であるDは、本件相続により、P市p町1丁目○○番の土地1,075平方メートル(以下「本件土地」という。)を取得した。
 なお、本件土地は、本件相続の開始日(平成17年4月○日)において、月極駐車場として貸し付けられており、現在に至っている。
ロ 請求人らは、本件土地は本件通達に定める広大地に該当するとして評価し、上記(2)のイのとおり申告した。
ハ 本件土地は、評価通達11《評価の方式》に定める路線価方式により評価する地域に所在しており、本件土地に面する路線に付された平成17年分の路線価(評価通達14《路線価》に定める路線価をいう。以下同じ。)は、88,000円であった。
ニ 都市計画法第8条《地域地区》第1項第1号には都市計画における用途地域(以下「用途地域」という。)を規定しているところ、本件土地が属する用途地域は近隣商業地域であり、建ぺい率(建築基準法第53条《建ぺい率》に規定する建築物の建築面積の敷地面積に対する割合をいう。以下同じ。)は80%、容積率(建築基準法第52条《容積率》に規定する建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合をいう。以下同じ。)は300%である。
ホ 本件土地は、P市の市街化区域内にある。
ヘ P市の市街化区域内の土地について、都市計画法第29条《開発行為の許可》第1項に規定する開発許可を受けなければならない開発行為の面積(以下「開発許可面積」という。)は1,000平方メートル以上である。

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2 争点

 本件土地は、本件通達の適用のない「中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの」(以下「マンション適地等」という。)に該当するか否か。

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3 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

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4 判断

(1) 法令等の解釈

イ 相続税法第22条は、相続財産の価額は、同法に特別の定めのある場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨規定しているが、ここでいう時価とは、相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。
 もっとも、客観的な交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないから、課税実務上は、相続財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、そこに定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされている。
 これは、相続財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法を採ると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることが避け難く、また、回帰的かつ大量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあること等から、あらかじめ定められた評価方式によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものと解される。
 そうすると、相続財産の評価は、評価通達に定められた評価方式によらないことが正当として是認されるような特別な事情がある場合を除き、課税の公平の観点から、原則として、評価通達の評価方式に基づいて行うことが相当と解される。
ロ 本件通達について
(イ) 本件通達を定めた趣旨は、まる1評価の対象となる宅地の地積が、当該宅地の価額の形成に関して直接影響を与えるような特性を持つ当該宅地の属する地域の標準的な宅地の地積に比して著しく広大で、まる2評価時点において、当該宅地を当該地域において経済的に最も合理的な特定の用途に供するために、公共公益的施設用地の負担が必要な都市計画法に規定する開発行為を行わなければならない場合にあっては、当該開発行為により土地の区画形質の変更をした際に道路、公園等の公共公益的施設用地としてかなりの潰れ地が生じ、評価通達15から評価通達20−5までによる減額の補正では十分とはいえない場合があることから、このような土地の評価に当たっては、潰れ地が生じることを当該宅地の価額に影響を及ぼすべき客観的な個別事情として、価値が減少していると認められる範囲で減額の補正を行うこととしたものである。
(ロ) このような本件通達を定めた趣旨にかんがみれば、本件通達でいう評価対象地の属する「その地域」とは、まる1河川や山などの自然的状況、まる2行政区域、まる3都市計画法による土地利用の規制などの公法上の規制等、まる4道路、まる5鉄道及び公園など、土地の使用状況の連続性及び地域の一体性を分断する場合がある客観的な状況を総合勘案し、利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域を指すものと解するのが相当である。
(ハ) また、本件通達では、マンション適地等に該当するものは広大地から除く旨定めている。
 これは、戸建住宅分譲用地として開発した場合に、道路等の潰れ地が生じる土地に広大地の評価の適用があることを前提としているものの、マンション等の敷地のように細分化せずに一体として有効利用できる場合には、地積過大による減価の補正を行う必要がないことから、その宅地を中高層の集合住宅等の敷地として使用するのが最有効使用と認められる場合には、当該宅地は広大地には該当しない旨を明らかにしたものと解される。

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件土地は、H鉄道「J駅」の南東約○○キロメートルに位置する間口35.5メートル、奥行34メートルのほぼく形の土地であり、北側市道(幅員6.02メートル)に約21メートル接している。
 なお、当該北側市道は、本件土地から西に約50メートルで幅員9メートルの県道S2号線につながっている。
ロ 本件土地の東側には、幹線道路である国道S1号線が走り、本件土地からの距離は約330メートル(道路距離)である。
ハ 本件土地は、P市のK土地区画整理事業地内に所在しており、当該区画整理事業地内には、p町1丁目(以下「p町1丁目地区」という。)及びp町2丁目が含まれ、その間を南北に国道S1号線が走っている。
 国道S1号線の西側に位置するp町1丁目地区は、用途地域が近隣商業地域で容積率が300%である。また、その東側に位置するp町2丁目は、国道S1号線沿いから約10メートルないし約90メートル以内の地域については、用途地域が近隣商業地域で容積率が300%、それ以外の地域については、第1種中高層住居専用地域で容積率は150%、第2種中高層住居専用地域で容積率は200%又は第1種住居専用地域で容積率は200%である。
ニ 本件土地が所在するp町1丁目地区は、北側及び西側を県道S2号線、東側を国道S1号線、南側を市道S3号線に囲まれた地域であり、本件地域と同一の地域である。
ホ 本件地域には、戸建住宅、駐車場、低層の建物及び中高層の建物が混在するところ、本件相続の開始日以前10年間において、戸建住宅については4件(平成9年に2件、平成10年に1件及び平成14年に1件)、低層の建物についてはコンビニエンスストアが1件(平成7年)、及び中高層の建物については8件(平成9年に2件、平成10年に3件、平成12年に1件、平成15年に1件及び平成16年に1件)の建築事例がある。
 なお、中高層の建物については、集合住宅、店舗兼集合住宅及び事務所兼集合住宅等が建築されている。
ヘ 本件地域の一部の用途地域が近隣商業地域(建ぺい率80%、容積率300%)とされたのは、平成X年○月○日(Q県告示第○○号)からであり、それ以前は住居地域(建ぺい率60%、容積率200%)であった。また、用途地域の変更理由は、隣接する幹線道路と大規模業務施設地区に対応し、商業・業務機能を強化し、周辺地域の発展の一翼を担うためであった。
 なお、本件地域においては、平成X年以降、開発許可申請はされていない。
ト 本件土地から1キロメートル程度の周辺には、公共施設、銀行及びスーパーがある。

(3) そこで、上記(2)の認定事実を上記(1)に照らして判断すると次のとおりである。

イ 本件通達にいう「その地域」に関し、本件土地の属する「その地域」とは、上記(2)のハ及び同ニのとおり、指定された用途地域、道路等の状況を勘案すれば、本件地域であると認められる。
ロ 本件地域は、上記(2)のハ及び同ヘのとおり、平成X年に、本件地域の一部が隣接する幹線道路と大規模業務施設地区に対応し、商業・業務機能を強化し、周辺地域の発展の一翼を担うためとの理由から、その用途地域が住居地域から近隣商業地域に変更され、建ぺい率は80%、容積率は300%と中高層の集合住宅等を建築することが可能な地域である。
 また、上記(2)のヘによれば、平成X年以降、本件地域ではP市に対して開発許可申請がなされていないことから、本件地域においては、1,000平方メートル以上の土地について開発行為をした場合に公共公益的施設の負担が必要な開発、すなわち道路や公園等の公共公益的施設の必要な戸建住宅等の開発は行われていない。
 さらに、上記(2)のホのとおり、本件地域は、本件相続の開始日以前10年間において、戸建住宅よりむしろ中高層の集合住宅及び中高層の店舗・事務所兼集合住宅等が多く建築されている地域である。
ハ 次に、本件土地についてみると、上記(2)のイ及び同ロの本件土地の形状、接面道路の幅員、本件土地と接面道路との接する距離及び接面道路と県道・国道との距離に加えて、同ハのとおり、容積率が300%と定められていることからしても、本件土地に中高層の建物を建築することについて特段の支障を来たす状況は見受けられない。
 なお、平成10年8月には、本件地域内の約830平方メートルの土地に、11階建の事務所ビルが建築されており、本件土地と同規模の土地が細分化されることなく一体として利用されている。
 また、本件土地は、上記(2)のトのとおり、公共施設や商業施設に近接している。
ニ 上記ロ及びハを勘案すると、本件土地の最有効使用は、戸建住宅の敷地の用に供することではなく、中高層の集合住宅及び中高層の店舗・事務所兼集合住宅等の敷地の用に供することであると認めるのが相当である。
 したがって、本件土地はマンション適地等に該当するので、本件通達に定める広大地に該当するとして評価することはできない。

(4) 請求人らの主張について

イ 請求人らは、本件土地の最有効使用を判断するに当たっては、容積率等の行政的要因よりも、「最も採算に合う開発行為」であるか否かという基準を優先するべきであり、中高層建物あるいは戸建住宅のいずれの収益が高いかについて確証に足る数値はないが、課税時期には、対象地周辺に分譲・賃貸のいずれにせよ、中高層建物の需要があったとは思われないし、多額の借金をして本件土地に中高層の集合住宅等を建てるより、建築資金が小額でリスクの小さい戸建住宅を選択する方が妥当であるから、本件土地は、マンション適地等には当たらない旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のホのとおり、本件相続の開始日以前10年間において、本件地域には戸建住宅や低層建物よりは中高層建物が多く建築されていることからすれば、本件地域において中高層建物の需要がなかったとはいえず、また、本件土地がマンション適地等に該当するか否かについては、上記(3)のロ及び同ハを勘案して判断したところ、同ニのとおりであり、さらに、請求人らの主張を裏付けるに足りるまでの具体的な事実は認められないことから、この点に関する請求人らの主張は採用できない。
ロ 請求人らは、本件意見書のとおり、本件土地は、その立地条件から、防災上集合住宅を建てることは極めて危険な場所であり、かつ、コスト・採算など、経済的にも中高層集合住宅を建てるには不適切である旨主張する。
 しかしながら、防災上集合住宅を建てることは極めて危険な場所であるということに関して、本件意見書には、本件土地の固有の事情として、マンション建設工事中には一時的とはいえ車両の交通量が頻繁で交通渋滞を招き、また、災害その他緊急時の避難には困難を来たす旨記載されているが、本件土地に接面する道路の幅員は6メートル以上であること等からすると、本件意見書に記載された事項は、本件土地を中高層の集合住宅等の用地に供するに当たり、特段の支障を来たす事情とは認められない。
 また、コスト・採算の点に関して、本件意見書には、近年本件土地の周辺地域はマンション建設の乱立傾向にあり、供給過剰が考えられ、多額の資金を投入しても採算が採り得ない可能性も憂慮される旨記載されているが、本件意見書に記載の事実を裏付けるに足りるまでの具体的な事実は認められない。
 したがって、本件意見書の意見は直ちには採用できず、この点に関する請求人らの主張も採用できない。
ハ 請求人らは、本件土地に接する市道は私道的意味合いが強く、人通りも少ないことから、本件土地は商業施設の用地には適さない旨主張するが、上記(3)のニのとおり、本件土地は、商業施設以外の中高層の集合住宅ないし事務所兼集合住宅等の敷地の用に供することができるのであるから、請求人らの主張には理由がない。
ニ 請求人らは、本件土地に接する市道を挟んで正面に位置する土地(地積386.56平方メートル)には、中高層の集合住宅等ではなく、2階建のアパートが平成18年に建築されており、このように本件土地と立地条件を同じくする土地の利用状況が最も参考になる旨主張する。
 しかしながら、当該アパートの建築については、地域的に住宅賃借の需要があることを前提に、当該土地を利用するに当たり、個別事情をも勘案して建築されたものと推認されるが、本件土地がマンション適地等に該当することについては、上記(3)のニの判断のとおりであるから、請求人の主張は採用できない。

(5) 以上によれば、本件土地は広大地に該当せず、その評価に当たって減額の補正をすることはできず、評価通達の定めに従って本件土地の評価額を算出すると、その評価額は、別表2の「原処分庁主張額」欄の相続税評価額と同額となることから、本件各更正処分は適法である。

(6) 過少申告加算税の各賦課決定処分を含む原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等及び当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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