(平22.1.7、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、建築材料の販売等を営む同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)が業務及び管理の委託契約した先の関連同族会社の取締役が請求人所有の車両を委託業務の一環として売却し、その売却代金の一部を横領したことによって生じた同人に対する損害賠償請求権の金額は、同請求権がそれぞれ発生した事業年度に係る益金の額に算入され、また、同人の隠ぺい行為は請求人の行為と同視することができるとして、法人税等の更正処分及び重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、上記事業年度においては、通常人を基準として、損害賠償請求権の存在・内容等を把握しえず、権利行使できないといえる客観的状況にあり、請求人による隠ぺい、仮装の事実はないとして、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 平成15年6月1日から平成16年5月31日まで及び平成16年6月1日から平成17年5月31日までの各事業年度(以下、それぞれ「平成16年5月期」などといい、各事業年度を併せて「本件各事業年度」という。)の法人税についての審査請求(平成21年1月16日請求)に至る経緯は、別表1記載のとおりである。
ロ 平成15年9月1日から平成15年11月30日まで及び平成17年3月1日から平成17年5月31日までの各課税期間(以下、それぞれ「平成15年11月課税期間」などといい、各課税期間を併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)についての審査請求(平成21年1月16日請求)に至る経緯は、別表2記載のとおりである。
ハ 別表1記載の各確定申告は、いずれも青色の確定申告書によってなされた。

(3) 関係法令等

 別紙に記載のとおりである。

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(4) 基礎事実

イ 請求人の組織等について
(イ) 請求人は、昭和42年○月○日に、建築材料の販売、生コンクリートの販売等を目的として設立され、平成10年○月○日にXが代表取締役に就任し現在に至っている。
 また、本件各事業年度において、同人の父である亡Y及び同人の妻であるWが取締役となっていた。
(ロ) 請求人は、発行済株式総数が6,000株であり、株式について株式譲渡制限を定めており、本件各事業年度において、Xが1,000株を、亡Yが3,000株を、亡Yの弟が1,100株をそれぞれ所有する同族会社であった。
(ハ) 請求人の従業員は運転手の2名のみであり、D社がバラセメントを購入する際、セメント販売会社の倉庫からセメントを引き取るための運搬業務が主な業務である。
ロ D社の組織等について
(イ) 平成12年6月1日付で請求人とD社との間で締結した事務業務及び管理委託契約書(以下「本件委託契約書」といい、本件委託契約書に係る契約を「本件委託契約」という。)には、要旨次のとおり記載されている。
 第1条 請求人は請求人の業務(帳簿記帳、金銭債権、債務の授受、その他文書の作成届出等)をD社に委託する。
 第2条 D社は毎月20日までに先月の事務業務の概略を請求人に通知しなければならない。
 なお、本件委託契約書には、双方会社の代表取締役としてXの名前が記載されている。
(ロ) D社は、昭和44年○月○日に、生コンクリートの製造販売、建築材料の販売等を目的として設立され、平成10年○月○日にXが代表取締役に就任し現在に至っている。
(ハ) D社は、発行済株式総数が20,000株であり、株式譲渡制限を定めており、各事業年度において、Xが1,600株を、亡Yが7,050株を、請求人が5,300株を、D社の取締役であったEが1,200株をそれぞれ所有する同族会社であった。
(ニ) D社及び請求人に係る経理業務は、D社総務部に所属する総務部長F、G及びHの3人(以下「経理担当者ら」という。)によって行われていた。
ハ Eの地位等について
(イ) Eは、Xの祖母の弟の孫の夫である。
(ロ) Eは、D社において、同社の設立当初から、生コンクリートの試験係員として採用され、その後、生産課長、取締役工場長、常務取締役を経て、平成10年ころから平成20年○月○日退職時までは、取締役運輸部長に就いており、退職後は、嘱託という形で雇用されて現在に至っている。
(ハ) Eは、D社において、昭和49年から平成20年ころまで、生コン製造に伴う認証製品のJISへの適合性判断を業務とする規格委員会及び品質管理委員会の構成員であった。
ニ D社の運輸部長としてのEの業務と本件における不法行為について
(イ) 自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法の関係で、対策地域内では特殊自動車に当たる車両は規制猶予期間である10年を経過すると車検が受けられなくなることから、D社運輸部においては、平成12年ころから当該車両を業者に売却する処理をしており、この車両の売却処理をEが担当していた。
 また、請求人においても同様に売却処理(以下「本件売却処理」という。)を行い、当該業務をD社に委託していたところ、その実務はEが担当していた。
(ロ)  Eは、本件売却処理において、車両の売却に係る売買契約書や領収証を全く作成していなかったところ、本件各事業年度において、別表3記載の番号1及び2の各車両(以下「本件各車両」という。)を、同表「売却代金1」欄の金額で売却し、その売却代金を、各売却先からE自身が管理する同表「売却代金の振込口座」欄の預金口座に振り込ませ、同口座に入金された金額の一部である同表「差額(12)」欄の金額を横領した。
 そして、その残額である同表「振込額2」欄の金額を、他の銀行のATMから売却先の名義を使用して、J信用金庫○○営業部の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)(以下「本件請求人口座」という。)に振り込んだ(以下、これら一連の行為を「本件行為」という。)。
(ハ) 請求人は、本件行為の発覚後、Eから横領された金額をすべて回収した。

(5) 争点

イ 横領時において、本件行為により発生した損害賠償請求権を収益として計上することはできるか否か。
ロ 本件行為を、売上げの一部の隠ぺい行為として、請求人の行為と同視して重加算税を賦課できるか否か。
ハ 本件行為は、通則法第70条第5項に規定する「偽りその他不正の行為」に当たるか否か。

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2 主張

(1) 争点イについて

イ 原処分庁
 原則として発生主義のうちの権利確定主義を採用している法人税にあっては、横領に基づく損害賠償請求権については、横領行為を行った者が役員であるか否かに関係なく、また、横領行為の事実発覚のいかんにかかわらず、客観的に横領に基づく損害賠償請求権が発生した時に、収益として計上すべきものと解されるから、本件行為に係る損害賠償請求権の額も、その発生の都度、本件各事業年度の益金の額に算入すべきこととなる。
ロ 請求人
 不法行為による損害賠償請求権については、例えば、加害者を知ることが困難であるとか、権利内容を把握することが困難なため、直ちには権利行使(権利の実現)を期待することができないような場合があり、かかる場合には、権利(損害賠償請求権)は法的には発生しているといえるが、未だ権利実現の可能性を客観的に認識することができないから、権利実現の可能性を客観的に認識することができるようになった時期の属する事業年度の益金に計上すべきと解するのが相当である。
 ただし、その判断は、通常人を基準にして、権利の存在・内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえる客観的状況にあったかどうかという観点から判断すべきである。
 したがって、本件各事業年度においては、通常人を基準にして、本件行為に係る損害賠償請求権の存在・内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえる客観的状況にあったのであり、権利行使が期待できる客観的状況になった平成20年9月期に、当該損害賠償請求権の金額を益金に計上したことは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合した処理である。

(2) 争点ロについて

イ 原処分庁
 法人税及び消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分は、次のとおり、適法である。
(イ) Eによる本件行為は、通則法第68条第1項に規定する納税等の計算の基礎となる事実である売上げの一部の隠ぺいに当たる。
(ロ) Xは、1車両の管理等についてEに任せきりにし、本件売却処理に当たり適正に監督せず、2Eの選任、監督上の注意義務を尽くさず、3Eと親族関係にあることから、Eによる売上げの一部の隠ぺいは、請求人の行為と同視することができる。
ロ 請求人
 法人税及び消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分は、次のとおり、違法である。
(イ) Eによる本件行為は、横領の発覚を防止するために行ったものであり、Eには法人税の申告に際して過少申告の認識はないのであるから、仮装・隠ぺいはない。
(ロ) 請求人の認識からすれば本件請求人口座への振込額がすべてであると認識しているので、Eによる本件行為は納税等の計算の基礎となる事実である売上げの一部の隠ぺいに当たらない。
(ハ) X自身による横領行為は別として、横領者が業務及び管理委託契約をした関連同族会社の役員であるとか代表者の親族であるとか、代表者の注意義務が尽くされなかったなどの理由で、業務及び管理委託契約にないEによる本件行為を、売上げの一部の隠ぺい行為として、横領された事実を了知していない請求人の行為と同視することはできない。

(3) 争点ハについて

イ 原処分庁
(イ) Eによる本件行為は、通則法第70条に規定する偽りその他不正の行為に当たる。
(ロ) 通則法第70条の制度趣旨にかんがみれば、偽りその他不正の行為を行ったのが納税者であるか否か、あるいは納税者自身において偽りその他不正の行為の認識があるか否かにかかわらず、客観的に偽りその他不正の行為によって税額を免れた事実が存在する場合には、同項の適用があると解される。
ロ 請求人
(イ) 請求人の認識からすれば、本件請求人口座への振込額がすべてと認識しているので、Eによる本件行為は偽りその他不正の行為に当たらない。
(ロ) 業務及び管理委託契約にないEによる本件行為を、偽りその他不正の行為として、横領された事実を了知していない請求人の行為と同視することは違法である。

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3 判断

(1) 争点イ

イ 法令解釈
 法人税法上、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引に係る当該事業年度の収益の額とするものとされ(法人税法第22条第2項)、当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきものとされている(同条第4項)から、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきものと考えられる。
 この権利の確定とは、権利の発生とは同一ではなく、権利発生後一定の事情が加わって権利実現の可能性を客観的に認識することができるようになることを意味するものと解されるところ、横領行為による損害賠償請求権についても、通常の金銭債権と特に異なる取扱いをすべき理由は基本的には存在せず、不法行為による損失の発生と損害賠償請求権の発生、確定はいわば表裏の関係にあり、通常損失が発生した時には、損害賠償請求権も発生確定していると考えるべきであるから、原則として、法律上権利行使が可能となったとき、すなわち、横領という不法行為によって損害賠償請求権が発生し確定した事業年度の収益に計上すべきというべきである。
 ただし、例えば加害者を知ることが困難であるとか、権利内容を把握することが困難なため、直ちには権利の行使を期待することができないような場合には、損害賠償請求権は法的には発生しているものの、未だ権利実現の可能性を客観的に認識することができるとはいえないから、当該事業年度の益金に計上すべきといえない場合もあり得る。そして、この判断は、税負担の公平や法的安定性の観点からして客観的にされるべきものであるから、通常人を基準にして、損害賠償請求権の存在・内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえるような客観的状況にあったかどうかという観点から判断していくべきである。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
(イ) 請求人は上記1(4)ロ(イ)の本件委託契約に基づき、D社にその事務を委託しているところ、D社の経理担当者らは、委託された事務のうちの本件売却処理について、Eから売却先から振込みがある旨の連絡を受けると、その後に、売買契約書、請求書又は領収証などの原始資料に基づかずに、本件請求人口座に振り込まれた金額に基づき振替伝票を起票し会計帳簿等を作成していた。
(ロ) 本件売却処理のほかに、本件請求人口座に振り込まれた金額から直接起票しているような取引はない。
(ハ) Gは、当審判所に対して、要旨、次のとおり回答している。
A 経理担当者らの間で、本件売却処理について、原始資料に基づかずに起票したことについて疑問・注意が提起されたり、話題に上がったことがあった。
B 契約書や領収証などの原始資料がないにもかかわらず、Eや売却先に売却代金の確認を取らずに、本件請求人口座に振り込まれた金額をそのまま基礎として起票したのは、Eが会社設立以来の社員ですべての分野の知識もあり信頼していたからであり、また、車両に関する業務はEが一手に行っており、振込元の名前も売却先の名前となっていたからである。
(ニ) X以外の役員であった取締役の亡Y及びW並びに監査役のKは、本件各事業年度において、請求人の機関として実際の活動をしていなかった。
(ホ) 請求人及びD社が昭和50年○月○日に同じ本店所在地に移転して以降、請求人独自の事務所や店舗は存在しない。
ハ 判断
(イ) まず、上記1(4)ニ(イ)及び(ロ)のとおり、本件売却処理は、請求人の業務用資産である車両を更新する必要があって、請求人の業務として行われたものであり、本件売却処理に係る別表3「売却代金1」欄記載の各金額は、請求人に帰属するものであるから、法人税法第22条第2項に規定する益金の額に当たる。
(ロ) 請求人においては、上記1(4)ニ(ロ)のとおり、本件各事業年度において、Eにより本件売却処理による車両売却代金の一部が横領されており、このことは請求人に対して損失を発生させ、それと同時にEに対する不法行為による損害賠償請求権が発生し、確定したというべきである。
 さらに、請求人においては、上記1(4)ニ(ロ)並びに上記ロ(イ)及び(ロ)のとおり、本件売却処理のほかに原始資料なしに起票するような経理処理は一切行われておらず、上記ロ(ハ)A及びBによれば、経理担当者らの間では同経理処理について疑問・注意が提起され話題にも上がっていたところ、直接、Eや売却の相手方に具体的な売却額を聞き、確認を取れば容易に横領行為が発覚するものであったにもかかわらず、Eが運輸部の責任者であることなどを理由に同人を信頼しきって本来行うべき確認行為を怠っていたと認められることから、通常人を基準として、本件各事業年度において、本件行為による損害賠償請求権の存在・内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえる客観的状況にあったとは認められない。
(ハ) また、上記1(4)ロ(イ)並びに上記ロ(ニ)及び(ホ)のとおり、本件委託契約は、請求人及びD社の代表者を兼ねる立場であるXによって締結された契約であり、本件各事業年度において、請求人の機関として実際に活動しているのはXのみであること、双方の会社が昭和50年○月○日に同じ本店所在地に移転して以降、請求人独自の事務所や店舗はなく、運転手2名以外に従業員はいなかったことから、請求人は、経理業務及び車両の維持・管理業務などを含め運転業務以外の業務はすべて本件委託契約に基づき、D社が行うことで経済活動を行っていたと認められる。
(ニ) 以上の事実によれば、Eの横領に基づく損害賠償請求権は、横領時の各事業年度の益金として、それぞれ確定し、これを本件各事業年度の収益に計上すべきものと認めるが相当である。

(2) 争点ロ

イ 法令解釈
 通則法第68条第1項は、過少申告をした納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときはその納税者に対して重加算税を課することとしている。この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするにつき隠ぺい又は仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 そこで、通則法第68条第1項は、「納税者が・・・隠ぺいし、又は仮装し」と規定し、隠ぺいし、又は仮装する行為(以下「隠ぺい仮装行為」という。)の主体を納税者としているのであって、本来的には、納税者自身による隠ぺい仮装行為の防止を企図したものと解される。しかし、納税者以外のものが隠ぺい仮装行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができるときには、上記のとおりの重加算税制度の趣旨及び目的からすれば、重加算税を賦課することができると解するのが相当である。
 そして、納税者以外の者の行為が納税者の行為と同視できるか否かについては、隠ぺい仮装行為による悪質な納税義務違反を防止するという重加算税制度の趣旨からすれば、納税者についてその防止の可能性があることが前提であるところ、納税者において、第三者の隠ぺい仮装行為を客観的に認識しうる状況にあった場合には、当該第三者の行った隠ぺい仮装行為が納税者本人の行為と同視できるとして、重加算税を賦課することができると解するのが相当である。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
(イ) Eは、本件各事業年度において、D社に係る運輸部の業務である、プラントのメンテナンス修理、得意先のクレーム処理、出荷の調整及び組合との連絡などの安全管理業務、及び、同運輸部の付随業務である、請求人及びD社が所有する車両の維持・管理業務、具体的には、車検及び保険の管理、PM装置の取付け、公害防止機器の期限管理、新車の購入時の見積り並びに本件売却処理などの業務に従事していた。
(ロ) 新しいセメントバルク車の購入については、Eが起案した稟議書に、おおむね、営業部長、取締役工場長及び総務部長が押印し、Xがサインをする形で行われていたが、本件売却処理については、特に書類が作成されることもなく、また、Xは、具体的に車両や処分方法を確認することもなく、Eに口頭で承認する形で行われていた。
(ハ) 本件売却処理に係るL運輸支局に対する登録申請手続ついては、売却に先行して一時抹消登録申請又は抹消登録申請をする形で処理を行っており、同登録に関する委任状にXが実印を押印することはあっても、新旧所有者の実印の押印が要求される譲渡証明書が作成されることはなかった。
ハ 判断
(イ) 上記1(4)ロ(ハ)及びハ(イ)から(ハ)までのとおり、Eは、代表取締役であるXと遠縁に当たり、D社の株主の中においては、Xに準ずる株式数を有し、D社の設立当初から従業員として業務に従事し、一時期は、取締役工場長、社長を補佐してその業務を分掌する常務取締役及び規格委員会・品質管理委員会の構成員をも務めていたこと、また、上記ロ(イ)のとおり、平成10年ころ以降は取締役運輸部長として、新車購入の見積りや本件売却処理などを含め車両に関する業務に従事していたことからすると、D社と密接な関係にあり、業務の運営上、D社において重要な地位・権限を有し、重要な役割を果たしていたものと認められる。
(ロ) また、上記ロ(イ)及び(ロ)のとおり、Eは、Xの口頭による承認に基づいて請求人の業務として本件各車両を売却し、その売却代金が請求人の収益に帰属することを知りながらその一部を横領し、その後、上記(1)ロ(イ)のとおり、経理担当者らが原始資料に基づかずに振込額に基づき起票する処理をしていることを奇貨として、売却先から売却代金の振込みがある旨のみを伝えて売却代金の一部を横領した後の残額を本件請求人口座に振り込むことによって、経理担当者らをして、虚偽の事実の記載された振替伝票を起票させ、請求人に過少申告の結果を生じさせている。このようなEによる本件行為は、請求人の納税等の計算の基礎となる事実である車両売却代金の一部を隠ぺいしたものと認められる。
(ハ) 請求人は、上記(1)ハ(ハ)のとおり、経理業務及び車両の維持・管理業務などを含め運転業務以外の業務はすべて本件委託契約に基づきD社が行うことで経済活動を行っていたと認められるところ、上記ロ(ロ)及び(ハ)のとおり、Xは、本件売却処理について、一時抹消登録申請又は抹消登録申請に関する委任状に実印を押印しているものの、売却される車両の車種や売却額などの内容を把握せずにEに本件売却処理を任せていた。
 また、本件売却処理のほかに原始資料なしに起票するような経理処理は一切行われていない中で、D社の経理担当者らの間で同経理処理について疑問や注意が提起され、話題に上がっていたのであるから、D社の代表取締役であり請求人の代表取締役でもあるXにおいて、直接、Eや売却の相手方に具体的な売却額を聞き、確認を取れば容易に横領行為が発覚するものであり、請求人においてEが隠ぺい仮装行為を行ったことを容易に認識することができ、申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず、かかる横領行為を防止するための措置を講じた事実も認められない。
(ニ) 以上の各事実に照らし合わせると、Eによる隠ぺい行為は、D社の行為と同視できることはもちろん、運転業務以外のすべての業務をD社が行うことで経済活動を行っていた請求人の行為とも同視できるものと認めるのが相当である。

(3) 争点ハ

イ 法令解釈
 通則法第70条の規定の趣旨は、法律関係の早期安定という観点から、本来納付すべき税額の徴収を制限するものであると解されるところ、偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れた国税についての更正まで、同条第1項に規定する期間内に行わしめるものとすることは、実質的な租税負担の公平の観点から相当でないとするものである。
 そこで、通則法第70条第5項は、上記のような国税に係る更正について7年間という長い期間を定めたものと解され、同項による期間の延長は、納税者が本来納付すべきであった正当税額の納付を求めるものであって、納税者に対して特段の負担を新たに発生させるものではない。
 そうすると、特に行為主体が限定されることなく規定されている同項にいう「偽りその他不正の行為」とは、税の賦課徴収を不能又は困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っていることをいい、偽りその他不正の行為を行ったのが納税者であるか否か、あるいは納税者自身において偽りその他不正の行為の認識があるか否かにかかわらず、客観的に偽りその他不正の行為によって税額を免れた事実が存在する場合には、同項の適用があると解される。
ロ 判断
 上記(2)ハのとおり、Eは、D社から与えられた重要な地位・権限を利用して、またD社の管理・監督の不備を奇貨として、経理担当者らをして、虚偽の事実を記載した振替伝票を起票せしめ、請求人は、このような虚偽の事実が記載された会計帳簿等に基づき本件各事業年度の法人税等の申告をしていたのであるから、客観的に偽りその他不正の行為によって税額を免れた事実が存在すると認められる。
 そうすると、本件行為は、通則法第70条第5項の「偽りその他不正の行為」に当たるというべきである。

(4) 原処分について

イ 本件各事業年度の所得の金額及び本件各課税期間の課税標準額を計算すると、いずれも本件各事業年度の法人税の各更正処分及び本件各課税期間の消費税等の各更正処分の金額と同額となるから、法人税及び消費税等の各更正処分はいずれも適法である。
ロ 通則法第68条の規定に基づいてされた本件各事業年度の法人税の重加算税の各賦課決定処分及び本件各課税期間の消費税等の重加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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