(平22.2.19、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、請求人の妻の死亡保険金を一時所得とし、その金額の計算において、収入金額から既払込保険料を控除して確定申告した後、1払込保険料を一括支払するための借入金の利息のほか、2当該利息を支払うためにした当座貸越契約に係る借入金の利息、印紙税の額、保証委託に係る保証料等及び登記費用が所得税法第34条《一時所得》第2項に規定する「その収入を得るために支出した金額」に該当するとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、2の支払利息等の諸費用は「その収入を得るために支出した金額」に該当しないとして、1の支払利息についてのみ認める更正処分をしたことから、請求人が、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成21年5月25日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである(異議決定書謄本が請求人に送達されたのは、平成21年4月24日である。)。
 以下、原処分庁が平成20年11月26日付で行った、別表1記載の所得税の更正処分を「本件更正処分」という。

(3) 関係法令等

イ 所得税法第34条第2項は、一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。
ロ 所得税法施行令第183条《生命保険契約等に基づく年金に係る雑所得の金額の計算上控除する保険料等》第2項第2号は、生命保険契約等に係る保険料又は掛金の総額は、その年分の一時所得の金額の計算上、支出した金額に算入する旨規定している。

(4) 基礎事実

 当事者間に争いのない事実及び証拠によって容易に認められる事実
イ 変額保険契約の成立
 請求人は、D社(以下「本件保険会社」という。)との間で、請求人を被保険者とする一時払変額保険契約及び請求人の妻であるE(以下「妻E」という。)を被保険者とする一時払変額保険契約(以下「本件変額保険契約」といい、本件変額保険契約と請求人を被保険者とする一時払変額保険契約とを併せて「本件各変額保険契約」という。)を、いずれも平成2年にそれぞれ次表のとおり締結した。

被保険者 請求人 妻E
名称 ○○変額保険(終身型) ○○変額保険(終身型)
保険期間 平成2年8月1日から終身 平成2年10月1日から終身
保険料の支払方法 一時払 一時払
保険料 78,695,400円 69,206,200円
死亡保険金 ○○○○円及び変額保険金額の合計額 ○○○○円及び変額保険金額の合計額

ロ 金銭消費貸借契約の成立
(イ) 平成2年8月29日、請求人は、F銀行G支店(以下「本件銀行」という。)との間で158,000,000円の金銭消費貸借契約(以下、この契約を「本件長期総合ローン契約」といい、当該契約に基づく借入金を「本件借入金」という。)を締結した。本件借入金は、本件各変額保険契約の保険料の支払に充てる目的で借り入れられたものであった。
(ロ) 平成2年8月29日、妻E及び請求人の長男H(以下「子H」という。)は、J社(以下「本件保証会社」という。)との間で請求人の本件長期総合ローン契約に基づく債務を主債務とする連帯保証契約を締結した。平成20年12月17日、連帯保証人は子Hのみに変更された。
ハ 当座貸越契約の締結及び根抵当権等の設定
(イ) 平成2年8月29日、請求人は、本件借入金に係る利息の支払のため、本件銀行との間で借入極度額を130,000,000円とする当座貸越契約 (以下、この契約を 「本件当座貸越契約」、当該契約に基づく借入金を「第二借入金」といい、本件当座貸越契約と本件長期総合ローン契約とを併せて「本件各融資契約」という。)を締結した。
(ロ) 平成2年8月29日、請求人、妻E及び子H(以下、同三名を併せて「請求人ら」という。)と、本件各融資契約につき本件銀行に対して保証をした本件保証会社との間で、請求人らが所有するP市所在の土地建物につき、極度額316,800,000円、被担保債権の範囲を保証委託取引及び金銭消費貸借取引、債務者を請求人とする共同根抵当権(以下「本件共同根抵当権」という。)を設定した。
(ハ) 平成10年10月31日、本件保証会社は、本件長期総合ローン契約に係る保証委託契約書、本件当座貸越契約に係る取引約定書に基づき請求人に対し有する一切の債権を担保するため、本件各変額保険契約に基づく死亡保険金、死亡給付金等の一切の債権につき、極度額を316,800,000円とする質権を設定した。
ニ 保険料充当金の支払等(本件借入金の使途等)
(イ) 平成2年9月3日、請求人は、本件借入金を原資として、上記イの表の各保険料(当該各保険料のうち、本件変額保険契約に係る保険料69,206,200円を以下「本件保険料」という。)を一括で支払った。
 なお、請求人は、本件借入金の返済について、本件各変額保険契約期間中は利息のみ支払い、借入金の元本の返済はしていない。
(ロ) 請求人は、本件借入金から、本件各変額保険契約に係る保険料のほかに、次のものを納付又は支払った。
A 本件長期総合ローン契約の締結に当たり作成した「消費者ローン契約書」に係る印紙税100,000円
B 本件保証会社に対する保証委託に係る保証料及び事務手数料の合計額2,161,388円(振込支払に係る手数料618円を含む。)
C 本件共同根抵当権の設定に係る登記費用(登録免許税、印紙税及び司法書士への報酬)1,326,440円
 なお、上記AないしCの各金員を併せて「抵当権設定費用等」という。
ホ 本件借入金の利息等の支払(第二借入金の使途)
(イ) 請求人は、平成2年9月26日から平成3年2月26日までにかけて、本件借入金の利息6,455,884円を本件借入金から支払った。また、平成3年3月26日から平成19年8月27日までにかけて、本件借入金の利息85,737,591円を第二借入金から支払った。なお、本件借入金の利息の合計は、92,193,475円である(6,455,884円+85,737,591円)。
(ロ) 請求人は、平成3年3月5日から平成19年9月5日までにかけて、本件当座貸越契約の利息合計29,534,934円を第二借入金から支払った。
 なお、以下、抵当権設定費用等及び本件当座貸越契約に係る利息を併せて「本件諸費用」という。
ヘ 保険金の支払
(イ) 妻Eは平成19年9月○日に死亡した。
(ロ) 本件保険会社は、同年12月25日、請求人に対し、本件変額保険契約に基づく死亡保険金○○○○円と未払利益配当金等○○○○円の合計金額○○○○円(以下、この支払を「本件保険金等」という。)を支払った。
ト 本件保険会社が発行した「平成19年分生命保険金・共済金受取人別支払調書」によれば、本件保険金等に対応する既払込保険料等は69,249,103円である。

(5) 争点

 本件諸費用が、本件保険金等に係る一時所得の計算において収入を得るために支出した金額に当たるか否か。

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2 主張

原処分庁 請求人
 一時所得の収入を得るために支出した金額とは、その収入を得るために支出した原因の発生に伴い直接要した金額をいい、原因の発生に伴う支出金額はこれに含まれないと解されるところ、本件各変額保険契約及び本件各融資契約は、法律上別個独立した契約であり、本件各融資契約は本件各変額保険契約を勧奨しやすくするための役割を果たしているにすぎず、本件各変額保険契約上欠かせないものとは認められないから、本件諸費用は、所得税法第34条第2項に規定する「その収入を得るために支出した金額」には該当しない。
 したがって、本件保険金等に係る一時所得の金額の計算上、収入を得るために支出した金額は、本件保険金等に対応する既払込保険料の額69,249,103円と、本件借入金に係る利息の額のうち本件保険料に対応する部分の額40,382,026円との合計額109,631,129円と解するべきである。
(1) 本件各変額保険契約は、その支払保険料を本件借入金で支払い、本件借入金の利息を第二借入金で支払い、本件借入金及び第二借入金の元本は本件各変額保険契約による受取保険金で支払うというスキームであり、請求人は、このスキームでなければ契約をしていなかった。
 また、請求人は、第二借入金がなければ本件借入金の利息を支払うことはできず債務不履行となっていたものであるから、第二借入金は、事実上、本件借入金の期限を更新したものである。
 したがって、第二借入金は、本件各変額保険契約と別個独立のものではなく、一体のものとして捉えるべきであり、本件保険金等を得るために必要不可欠な支出である。
(2) 抵当権設定費用等は、本件各融資契約をしなければ本件保険金等を受け取ることができなかったものであるから、本件保険金等を得るために必要不可欠な支出であり、本件変額保険契約を維持するために必要なものである。
(3) 以上から、第二借入金の支払利息及び本件諸費用のうち、本件保険料に対応する部分はいずれも、所得税法第34条第2項に規定する「その収入を得るために支出した金額」に該当する。

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3 判断

(1) 法令解釈

 所得税法第34条第2項が、一時所得の金額の計算における控除の対象を、「その収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)」と規定している趣旨は、一時所得に係る支出には、収入が得られた時はその控除項目としての意味をもつと同時に、一種の消費支出としての側面があることから、一時所得に係る収入、支出については、収入を生じた各行為又は各原因ごとに個別対応的に計算し、その反面、収入を生じない行為又は原因に係る支出は控除項目から除外することにあると解される。
 このような趣旨にかんがみれば、「その収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額」とは、収入を得るために直接支出した金額など収入を生じた各原因ごとに直接支出した金額に限られると解するのが相当である。

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(2) 本件へのあてはめ

イ 本件当座貸越契約に係る利息の支払について
 本件当座貸越契約は、本件長期総合ローン契約とは別個独立の契約であり、本件当座貸越契約に係る利息債務は、本件当座貸越契約を前提として発生する債務であるから、本件当座貸越契約に係る利息の支払は、収入を生じた原因の発生、すなわち、本件変額保険契約の締結とは直接の関連性を有しないというべきである。
 この点、請求人は、本件当座貸越契約は、スキームの一環として締結された契約であり、また、事実上本件借入金の期限を更新したものであるから、本件変額保険契約と一体のものである旨主張する。しかしながら、スキームの一環として本件当座貸越契約を締結したか否かは契約当事者の動機にすぎず、また、請求人は、本件長期総合ローン契約の更改ではなく、同契約とは別個に本件当座貸越契約という法形式を選択したものであるから、本件当座貸越契約を本件変額保険契約と一体のものであると認めることはできない。
 したがって、所得税法第34条第2項の「その収入を得るために支出した金額」に該当しない。
ロ 抵当権設定費用等の支払について
(イ) 抵当権設定費用等のうち、印紙税は本件長期総合ローン契約の締結に当たり作成した契約書に係る費用、事務手数料及び保証料は本件保証会社による保証委託に係る費用、登記費用は本件共同根抵当権設定に係る費用であり、いずれも、本件変額保険契約とは直接の関連性を有する支出とは認められない。
(ロ) また、抵当権設定費用等は、いずれも、本件各融資契約の実行のために支出したものであり、これは、収入を生じない行為又は原因に係る支出であるから、そもそも控除項目に該当しないというべきである。
ハ 以上によれば、本件保険金等に係る一時所得の金額 (所得税法第22条《課税標準》第2項第2号の規定による2分の1に相当する金額(以下同じ。)。)は別表2の2のとおり○○○○円となるところ、これを基に算定した請求人の課税総所得金額は別表3の審判所認定額欄のとおり○○○○円となり、この金額は本件更正処分の金額を上回るから、本件更正処分は適法である。

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(3) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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