(平22.2.15、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の相続税について、原処分庁が、相続により取得した土地の価額はその自用地として評価した価額(以下、自用地として評価した価額を単に「自用地としての価額」という。)の100分の80に相当する金額であるとして、更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該土地はその自用地としての価額から借地権の価額を控除した後の金額によるべきであり、原処分庁の認定には誤りがあるとして、当該処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 申告
 請求人は、平成18年5月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したD(以下「本件被相続人」という。)の子たる相続人であり、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、別表1の「申告」欄のとおり、法定申告期限までに申告した。
 なお、当該申告において、請求人は、本件被相続人の妻が本件相続により取得したP市p町○番○の土地2,985平方メートル(以下「本件土地」という。)の価額を、財産評価基本通達(昭和39年4月25日直資56、直審(資)17、国税庁長官通達。ただし、平成18年10月27日課評2−27、課資2−8及び課審6−10による改正前のものをいい、以下「評価基本通達」という。)に基づき、本件土地の自用地としての価額から、その価額の借地権(建物の所有を目的とする土地の賃借権をいう。以下同じ。)の価額の割合(以下「借地権割合」という。)である100分の50に相当する金額を控除して55,837,783円とした。
ロ 修正申告等
 請求人は、本件相続に係る相続税について、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、本件土地の価額の評価方法以外の調査結果については争いがないとして、平成20年7月29日に、別表1の「修正申告」欄のとおり、修正申告したところ、原処分庁は、当該修正申告により納付すべきこととなる税額に基づき、同年9月30日付で別表1の「賦課決定処分1」欄のとおり過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ 更正処分等
 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、本件土地は、相当の地代を収受している貸宅地であるから、「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和60年6月5日直資2−58、直評9、国税庁長官通達。以下「相当地代通達」という。)6《相当の地代を収受している場合の貸宅地の評価》の定めにより評価すると、本件土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額とすることが相当であり、その価額は89,340,452円であるとして、平成20年9月30日付で、別表1の「更正処分及び賦課決定処分2」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 不服申立て
 請求人は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、平成20年11月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が平成21年1月26日付で棄却する旨の異議決定をしたので、同年2月26日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 本件土地に係る賃貸借契約
 本件被相続人とE社は、F社を立会人として、平成元年12月30日付で、要旨次のとおり、本件土地に関し、本件被相続人を賃貸人、E社を賃借人とする土地賃貸借契約を締結した(以下、この契約を「本件契約」といい、本件契約に係る契約書を「本件契約書」という。)。
 なお、本件契約書には、権利金その他の一時金(以下「権利金」という。)の授受に関する記載はない。
(イ) 賃貸借の目的
 賃貸人は、駐車場及びその他堅固なる建物所有の目的をもって使用収益せしめるため、本件土地を賃借人に賃貸する。なお、賃借人は、賃貸借期間中任意に建物等の新築改築等を行うことができる(第1条)。
(ロ) 地代の額及びその改訂
 本件土地の地代は、月額1,255,170円とし、賃貸借開始日から満3年経過ごとに、地代の増減につき賃貸人と賃借人との間で協議の上改訂することができる(第3条、第4条)。
(ハ) 契約終了時の明渡し
 賃借人は、本件土地の賃貸借契約が終了した場合には、遅滞なく本件土地の上の建物及びその附属物を賃借人の責任と負担により収去し、本件土地を賃貸人に明け渡すとともに、立退料、移転料及び権利金その他名目のいかんにかかわらず一切の金員を賃貸人に請求しない(第11条、第12条)。
ロ 本件土地に係る賃貸借変更契約
 本件被相続人とE社は、本件契約の内容を変更し、F社を立会人として、平成12年10月1日付で、要旨次のとおり、本件被相続人を賃貸人、E社を賃借人、G銀行を受託者(以下「本件受託者」という。)とする土地賃貸借変更契約を締結した(以下、この契約を「本件変更契約」といい、本件変更契約に係る契約書を「本件変更契約書」という。)。
なお、本件変更契約書には、権利金の授受に関する記載はない。
(イ) 賃貸借の目的
 賃貸人は、堅固なる建物所有及び工作物設置の目的をもって使用収益せしめるため、本件土地を賃借人に賃貸する。なお、賃借人は、建物の増築・改築ないし新築をするときは、その旨事前に賃貸人に通知する(第1条)。
(ロ) 地代の額及びその改訂
 本件土地の地代は、月額1,529,682円とし、賃貸借開始日から満3年経過ごとに、将来に向かって地代の増減につき賃貸人と賃借人との間で協議して改訂することができる(第3条、第4条)。
(ハ) 賃借権の信託
 賃借人が賃借権を本件受託者に信託することが確定したときには、本件変更契約により賃借人が有する一切の権利義務を本件受託者が承継する(第13条)。
ハ 本件相続開始日における本件土地の地代
 本件相続開始日における本件土地の地代は、月額1,529,682円であった。
ニ 本件土地の面する路線の平成18年分の路線価等
 本件土地の面する路線の平成18年分の路線価(評価基本通達14《路線価》に定める路線価をいう。以下同じ。)は83,000円、その所在する地区区分(評価基本通達14−2《地区》に定める地区をいう。以下同じ。)は普通商業・併用住宅地区、評価基本通達27に基づきH国税局長が定めた本件土地における借地権割合は50パーセントであった。

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2 争点

 借地権が設定された本件土地の価額は、どのように評価すべきか。

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3 主張

原処分庁 請求人
 本件土地については、その賃貸借に係る権利金の収受はなく、また、本件相続開始日において相当の地代を収受していることから、本件土地の自用地としての価額からその借地権の価額を控除する評価基本通達25の(1)の定めによることはできず、相当地代通達6の定めにより、本件土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額により評価すべきである。  本件土地は、次の理由から評価基本通達25の(1)の定めにより、本件土地の自用地としての価額からその借地権の価額を控除した後の金額により評価すべきである。
(1) 本件被相続人は、本件契約及び本件変更契約の際、本件土地を相当の地代で賃貸した認識はない。
(2) 上記(1)の各契約の締結に伴い「土地の無償返還に関する届出書」及び「相当の地代の改定方法に関する届出書」のいずれも原処分庁に提出していないので、相当地代通達を適用すべきではない。
(3) 路線価が下がるが地代は変わらない状況において、路線価が下がり地代の路線価に対する割合が上がることによって相当地代通達が適用されるのは不合理である。

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4 判断

(1) 法令解釈等

イ 財産の価額と財産評価に関する各通達の意義
  相続税法第22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額について、当該財産の取得の時における時価によると規定しており、ここにいう時価とは、当該取得の時における財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的交換価値をいうものと解されている。
 しかしながら、課税対象となる財産は多種多様であり、その評価に際して課税実務上は、1時価を適正に把握することは必ずしも容易でないこと、2納税者間で評価が区々になることは、課税の公平の観点からすると好ましくないことから、財産評価に関する各通達によって相続税及び贈与税に係る財産評価の一般的な基準を定め、部内の担当職員に示達するとともに、納税者の申告、納税の利便に供するため、これを公開している。
 このように相続税及び贈与税に係る財産評価に関する各通達は、画一的かつ具体的に評価方法を定めて、課税の適正・公平を期し、統一的な行政の資となっていると考えられる。
ロ 貸し付けられた土地の借地権部分に相当する経済的価値の地主から借地人への移転の有無
 貸し付けられた土地の評価において、評価基本通達25の(1)のように借地権の価額を控除するのは、借地権の設定により、当該土地の自用地としての価額のうち借地権部分に相当する経済的価値の地主から借地人への移転があり、借地人が経済的に相当の価値を有する借地権を取得したとみるべき経済的実態が存在するからである。
 借地権を設定する場合には、かかる経済的実態を反映して、借地権部分に相当する経済的価値の移転の対価というべき権利金を授受することが広く行われているところ、借地人に移転する経済的価値と対価というべき権利金の間の関係は、かかる慣行が存在する地域において権利金の授受なしに借地権を取得した場合に、借地権を取得したのが法人であるなら、法人税法第22条第2項の規定に基づき、その権利金に相当する額が受贈益として益金の額に算入され、法人税が課される(以下、この課税を「権利金相当額の認定課税」という。)こととなるというように、課税関係に反映される。
 しかしながら、法人税法施行令第137条の規定によれば、借地人への上記のような経済的価値の移転がない場合、すなわち、資産計上すべき借地権の取得がない場合には、権利金相当額の認定課税は行われない。
 このように取り扱われるのは、経済的な観点から権利金の授受に代えて権利金の授受を伴う場合の地代よりも高額な地代、すなわち、その土地の自用地(更地)としての経済的価値との比較において法人税法施行令第137条に規定する相当の地代を支払うことにより、当該地代の資本還元額がその土地の自用地(更地)としての価額と同等となるからである。この場合には、貸し付けられた土地であっても、収益力において自用地と異なることがない土地となる。
 こうした経済的実態に合わせ、法人税法施行令第137条は、借地権の設定に当たり権利金を授受する取引上の慣行があるにもかかわらず権利金を授受しなかった場合であっても、その土地の使用の対価として、同条に規定する相当の地代を授受するときは、その取引は正常な取引であるとみて、借地人への経済的価値の移転がないものとして権利金相当額の認定課税をしないように規定している。
 このように、貸し付けられた土地の自用地としての価額のうち借地権部分に相当する経済的価値の地主から借地人への移転については、経済的実態に即した取扱いをすることとされている。
 また、個人が借地権を取得した場合の取扱いである相当地代通達1の定めも同様の考えに立ち、借地権の設定に際して、その設定の対価として通常権利金を授受する取引上の慣行のある地域において、通常収受される権利金に代えて相当な地代が収受される場合、借地人には借地権の設定による利益はないものとして取り扱われ、この取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
ハ 相当の地代の具体的な判定基準の相当性
 土地の使用の対価として支払われる地代が相当の地代であるかどうかの判定に用いられる法人税基本通達13−1−2及び「法人税の借地権課税における相当の地代の取扱いについて」並びに相当地代通達1の(注)の1は、具体的な判定基準として、当審判所においても相当と認められる。
ニ 相当の地代を収受している場合の貸宅地の評価
 上記ロのとおり、借地人が個人の場合には、相当地代通達1の定めにより、借地権を有する者には借地権の設定による利益はないものとして取り扱われているところ、相当地代通達3は、借地権が設定されている土地について、権利金を支払うことなく相当の地代を支払っている場合の当該土地に係る借地権の価額は、零として評価する旨定めている。
 そうすると、借地権が設定されている土地について、権利金を収受することなく相当の地代を収受している場合の貸宅地の評価は、その土地の自用地としての価額となるから、控除すべき借地権の価額はないこととなる。
 しかしながら、このような場合においても、相当地代通達6は、その土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額により評価する旨定めている。
 これは、控除すべき借地権の価額がない土地といえども、借地借家法による制約を受けること、また、現在借地権の設定に伴う権利金の授受の取引慣行のない地域についても、その土地の自用地としての価額からその価額の100分の20の借地権相当額を控除して評価が行われていることとの権衡上、当該貸宅地の評価についても100分の20を控除することが適当であるとの考えによるものと認められ、この考えに基づく評価方法は、当審判所においても相当と認められる。

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(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件土地を含む一団の土地及びその上に存する建物等
(イ) 本件契約時における本件土地を含む一団の土地の利用状況
 本件土地は別表2−1及び2−2に掲げる各土地からなる三方の路線に囲まれた一団の土地(以下「本件一団の土地」という。)のうちに存し、本件一団の土地の上には、○○と称するショッピングセンター(以下「本件ショッピングセンター」という。)の建物(店舗)及び買物客用のアスファルト敷駐車場が存在しており、本件一団の土地が一体として利用されていた。
(ロ) E社が賃借していた土地(別表2−2に掲げる各土地)
 E社は、別表2−2に掲げる各土地について、「契約日」欄に掲げた日に、それぞれの地主と建物及び工作物等の所有を目的とした賃貸借契約を締結した。
(ハ) 本件ショッピングセンターの建物等の全部事項証明書
 本件一団の土地の上に存する家屋番号○番の建物に係る不動産登記の全部事項証明書によれば、当該建物は、主たる建物として昭和52年6月9日新築後、平成4年6月3日及び平成12年6月12日の2回の増築を経た鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付4階建店舗(延べ床面積40,225.99平方メートル)並びに附属建物として平成3年10月30日新築の鉄骨造陸屋根3階建駐車場(延べ床面積18,915.97平方メートル、以下「本件立体駐車場」という。)、店舗8戸及びエレベーター室1戸から構成されていた。
(ニ) 本件契約時における本件一団の土地が所在した地域
 本件一団の土地は、国道○号線に接し、都市計画法上の近隣商業地域内で容積率200パーセントの地区に位置していた。
ロ 本件土地
(イ) 権利金の授受及び権利金相当額の認定課税
 E社からの当審判所に対する書面による回答によれば、本件土地の賃貸借契約に伴う、権利金の授受及び権利金相当額の認定課税は行われていないと認められる。
(ロ) 本件相続開始日における利用状況
 本件相続開始日において、本件土地は本件立体駐車場及びその進入路の敷地の用に供されていた。
ハ E社の元従業員であったJの答述
 E社の元従業員で、昭和49年2月から平成6年2月までの間、○○地区における店舗の開発を手掛け本件契約の締結交渉を直接担当したJが、当審判所に対して行った答述によれば、次の事実が認められる。
 E社から依頼を受け、E社と地主の土地賃貸借契約を取りまとめる立場にあったF社は、E社が権利金として一時金を支払うよりも毎月の地代を増額して支払った方が地主のためになるとの考え方に基づき、E社に毎月の地代を通常よりも高く支払うよう提案した。そして、権利金を支払うとなると資金繰りが問題となるから、地代を増額した方が有利と考えたE社は、その提案を受け入れ、権利金を支払わなかった。

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(3) 法令等の適用

 前記1の(4)及び上記(2)の各事実を上記(1)の法令解釈等に照らして本件土地の価額の評価方法を判断すると、次のとおりである。
イ 本件土地の借地権部分に相当する経済的価値の本件被相続人からE社への移転の有無
(イ) 本件土地における借地権設定の根拠
 上記(2)のロの(ロ)のとおり、本件相続開始日において本件土地は本件立体駐車場及びその進入路の敷地の用に供されていたが、前記1の(4)のイの(イ)のとおり、本件土地は建物の所有を目的として賃貸され、賃借人は賃貸借期間中任意に建物の新築改築を行うことができるとされていることから、本件契約に基づき本件土地に借地権が設定されたものと認められる。
 なお、本件変更契約は、前記1の(4)のロのとおり、本件契約に信託に係る条項を追加したものとみるのが相当であるから、本件契約の変更と認めるべきであり、本件変更契約に基づき借地権が新たに設定されたとは認められない。
(ロ) 本件土地の存する地域における権利金の授受の慣行の有無
 本件一団の土地は、上記(2)のイの(ニ)のとおり、国道○号線に接し、都市計画法上の近隣商業地域内で容積率200パーセントの地区に位置しており、一般的には、借地権自体が経済的価値を有し、その設定において権利金の授受が行われる地域であると推認され、また、上記(2)のハのとおり、権利金として一時金を支払うのではなく、通常より高額な地代を毎月支払ったらどうかとのF社の提案を受け入れたE社は、その提案のとおり地代の額を取り決めたと認められることから、本件一団の土地のうちに存する本件土地は、借地権の設定に際し、その対価として通常権利金を支払う取引上の慣行のある地域内に存すると認められる。
(ハ) 本件被相続人の権利金の収受の有無
 前記1の(4)のイ及びロのとおり、本件契約書及び本件変更契約書には、権利金の授受に関する記載はなく、上記(2)のロの(イ)及びハのとおり、E社は、本件被相続人に対して本件土地の賃貸借契約に伴う権利金を支払っていない。
 したがって、本件被相続人は、本件土地の借地権の設定に際し、E社から権利金を収受していないと認められる。
(ニ) 本件契約時における地代の状況
A 本件契約の当事者間における通常より高額な地代とする取決めの有無
 上記(2)のハのとおり、F社から、権利金として一時金を支払うのではなく、通常より高額な地代を毎月支払ったらどうかとの提案があり、E社はその提案を受け入れたことから、本件契約の当事者間において、権利金の授受を伴う場合の地代よりも高額な地代とする取決めが行われたと認められる。
B 本件契約時における地代が相当の地代に当たるかどうかの検証
 当審判所において、本件契約時における地代が相当の地代に当たるかどうかについて、上記(1)のハの相当の地代の具体的な判定基準を用いて検証すると、次のとおりである。
(A) 相当の地代に当たるかどうかの判定の基となる本件土地の自用地としての価額の評価方法
 別紙の2の(1)のとおり、評価基本通達7は、一体として利用されている一団の土地が2以上の地目からなる場合には、そのうちの主たる地目からなるものとして、その一団の土地ごとに評価する旨を定めており、また、土地の所有者が隣接する土地を借りてその土地を専属的に使用できる場合において、これを自己の所有する土地と一体として利用するときは、当該賃借地についても、自己の所有する土地と併せて1画地の土地を構成するものとして評価することが相当であると解されるところ、別表2−1に掲げるE社が所有していた各土地と別表2−2に掲げるE社が建物及び工作物等の所有を目的として賃借していた本件土地を含む各土地を併せた本件一団の土地は、上記(2)のイの(イ)ないし(ハ)のとおり、本件ショッピングセンターの建物(店舗)及び買物客用のアスファルト敷駐車場の敷地として一体として利用されていたと認められるので、本件一団の土地を、主たる地目からなる1画地の土地を構成するものとして評価することが相当である。また、買物客用のアスファルト敷駐車場は本件ショッピングセンターに来店する買物客が利用するものであることからすれば、本件ショッピングセンターの建物(店舗)の敷地としての利用が本件一団の土地の主たる利用の目的であると認められるので、本件一団の土地の主たる地目は宅地としてみるのが相当である。
 したがって、本件契約時における本件土地の自用地としての価額は、本件一団の土地を1画地の宅地として評価した上で、算定するのが相当である。
(B) 本件土地の地代の割合
 上記(A)から、本件一団の土地を1画地の宅地として評価し、本件契約があった年以前3年間における本件土地の1平方メートル当たりの自用地としての価額の平均額を算定すると、別表3の1のとおりとなり、本件契約があった年の1平方メートル当たり73,954円を上回ることはなく、また、前記1の(4)のイの(ロ)の月額1,255,170円、年額にして15,062,040円の地代の本件契約があった年以前3年間における本件土地の自用地としての価額の平均額に対する割合を算定すると、同表3の2のとおりとなり、本件契約があった年の6.8パーセントを下回ることはない。
C 相当の地代の該当性
 上記Aのとおり、権利金の授受を伴う場合の地代よりも高額な地代とする取決めが行われたこと、上記Bの(B)のとおり、地代の割合が、法人税法施行令第137条に規定する相当の地代の具体的な判定基準である法人税基本通達13−1−2及び「法人税の借地権課税における相当の地代の取扱いについて」に定めるおおむね年6パーセント程度を超えることを併せ判断すると、本件契約時における地代は、同条に規定する相当の地代に該当する。
(ホ) 権利金相当額の認定課税の有無
 権利金の授受なしに、地代の額を権利金の授受を伴う場合の地代相当額と取り決め、借地権を設定した場合には、借地権を取得したのが法人であるなら、法人税法第22条第2項の規定に基づき権利金相当額の認定課税が行われるところ、上記(ロ)ないし(ニ)の事実からすれば、権利金相当額の認定課税が行われる適状になかったと推認され、さらに、上記(2)のロの(イ)のとおり、本件契約及び本件変更契約の締結に際し、権利金相当額の認定課税は行われていなかった。
(ヘ) 借地権部分に相当する経済的価値の本件被相続人からE社への移転の有無
 上記(イ)ないし(ホ)によれば、本件契約は、借地権の設定に際し、通常権利金を支払う取引上の慣行のある地域において、権利金の授受に代えて相当の地代を授受する内容であったと認められ、本件土地の借地権部分に相当する経済的価値の本件被相続人からE社への移転があったとは認められない。
 このことは、前記1の(4)のイの(ハ)の条項によって、本件契約が終了した場合には、賃借人は、賃貸人に本件土地を明け渡すとともに、一切の金員を請求しないと約定されていることからも肯定することができる。
ロ 本件相続開始日における本件土地の価額の評価方法
(イ) 地代の割合
 相当地代通達1の(注)の1の定めに従い、本件相続があった年以前3年間における本件土地の自用地としての価額の平均額を算定すると、別表4の1のとおり112,572,558円となる。また、本件土地の地代は、前記1の(4)のハのとおり、月額1,529,682円(年額にして18,356,184円)であった。
 したがって、地代の割合は、別表4の2のとおり16.3パーセントとなる。
(ロ) 相当の地代の該当性
 本件土地の地代の割合は、上記(イ)のとおり、相当地代通達1に定めるおおむね年6パーセント程度を超えるから、本件相続開始日における本件土地の地代は、同通達1に定める相当の地代に該当する。
(ハ) まとめ
 借地権が設定されている本件土地については、上記イの(ヘ)のとおり、本件土地の借地権部分に相当する経済的価値が本件被相続人からE社への移転があったとは認められず、また、上記(ロ)のとおり、本件相続開始日において相当地代通達1に定める相当の地代を収受していたことから、本件土地の評価に当たっては、評価基本通達25の(1)の評価方法によることはできない。
 したがって、本件相続開始日における本件土地の価額は、本件土地の自用地としての価額からその価額の借地権割合である100分の50に相当する金額を控除して評価すべきであるとする請求人の主張は採用することができず、上記(1)のニで述べたとおり、相当地代通達6の定めにより本件土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額により評価することとなる。
ハ 請求人の主張の当否
(イ) 前記3の「請求人」欄の(1)の主張
 請求人は、前記3の「請求人」欄の(1)のとおり主張するが、上記イの(ロ)のとおり、本件土地は、通常権利金を支払う取引上の慣行のある地域のうちに存していると認められるが、上記イの(ニ)及び(ホ)並びに同ロの(ハ)によれば、本件被相続人は、借地権の設定に伴う権利金の収受に代えて、相当の地代を収受していると認められるから、請求人の主張には理由がない。
(ロ) 前記3の「請求人」欄の(2)の主張
 請求人は、前記3の「請求人」欄の(2)のとおり主張するが、相当の地代を収受することとした場合に土地の無償返還に関する届出書及び相当の地代の改定方法に関する届出書を提出しなければならないとする法令上の規定等はなく、また、この点に関する請求人の主張は、上記イの(ヘ)の判断を左右するものではない。
(ハ) 前記3の「請求人」欄の(3)の主張
 請求人は、前記3の「請求人」欄の(3)のとおり主張するが、前記1の(4)のイの(ロ)及びロの(ロ)のとおり、本件契約書及び本件変更契約書には、それぞれ賃貸借開始日から満3年経過ごとに、地代の増減につき賃貸人と賃借人との間で協議して改訂することができる旨の条項があり、本件における地代の額は地価の変動に応じて見直すことが予定されているのであるから、地価が下がる、すなわち、路線価が下がるが地代は変わらない状況を前提とする請求人の主張には理由がない。

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(4) 本件更正処分の適法性

 上記(3)のロの(ハ)のとおり、相続税の課税価格に算入すべき本件土地の価額は、本件土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額で評価することとなり、これに基づき算定すると、別表4の3のとおり、89,340,452円である。また、本件土地以外の相続税の課税価格に算入すべき財産の価額○○○○円(純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産価額○○○○円を含む。)及び債務控除額○○○○円については、当審判所においても相当と認められる。以上に基づき、請求人の本件相続に係る相続税の納付すべき税額を改めて算定すると○○○○円となり、本件更正処分の納付すべき税額と同額である。 
 したがって、本件更正処分は適法である。

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(5) その他

 本件賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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