(平22.1.5、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が納付すべき相続税について、原処分庁が、遺産分割調停の成立により税額が増加したとして更正処分を行ったのに対し、請求人が、同処分に先立ってされた他の共同相続人の更正の請求に係る減額更正処分及び還付手続は、請求人の同意を得ずに行われた違法なものであるから、請求人に対する更正処分も違法であるなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成13年12月○日に死亡したA(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人の一人であり、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、別表の「申告」欄のとおり記載した相続税の申告書を、法定申告期限までに原処分庁へ提出した(以下、この申告を「本件申告」という。)。
ロ 原処分庁は、平成20年11月26日付で、相続税法(平成15年法律第8号による改正前のもの。以下同じ。)第35条《更正及び決定の特則》第3項第1号の規定に基づき、別表の「更正処分」欄のとおりとする更正処分をした。
ハ 請求人は、平成21年1月9日、上記ロの更正処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年3月10日付で別表の「異議決定」欄のとおり、更正処分の一部を取り消す異議決定をし(以下、異議決定によりその一部が取り消された後の更正処分を「本件更正処分」という。)、同月26日、異議決定書謄本を請求人に送達した。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成21年4月22日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の二男である請求人、長男であるB(以下「相続人B」という。)及び長女であるC(以下「相続人C」という。)の3名である(以下、この3名を併せて「本件相続人ら」という。)。
ロ 本件相続人らは、本件被相続人の遺産が未分割であったことから、相続税法第55条の規定に基づき、法定相続分の割合に従って遺産を取得したものとして課税価格を計算し、共同して本件相続税の申告書を提出した。
ハ 本件相続人らは、○○家庭裁判所で、本件相続に係る遺産分割等の調停(以下「本件調停」という。)を行い、平成19年○月○日、調停が成立した(以下、成立した調停条項を「本件調停条項」という。)。
 なお、本件調停条項第4項において、「当事者全員は、以上をもって被相続人の遺産に関する紛争を一切解決したものとし、本調停条項に定める以外に何らの債権債務のないことを相互に確認する。」旨の合意がされた。
ニ 相続人Cは、本件調停の結果、相続税額が減少するとして、相続税法第32条の規定に基づき、原処分庁に対し更正の請求をし、原処分庁は、平成20年2月28日付で、同人に対し減額の更正処分を行った。
 また、原処分庁は、相続人Bの相続税額も減少するとして、同日付で、同人に対し、相続税法第35条第3項第1号の規定に基づき、減額の更正処分を行った。
ホ 請求人の相続税額は、本件調停の結果、増加することとなったが、請求人は相続税法第31条第1項の規定による修正申告書を提出しなかった。

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2 争点

 本件の争点は、原処分庁が、請求人の同意を得ずに、他の相続人からの更正の請求に対して減額更正処分及び相続税の還付手続を行った後、請求人に対して本件更正処分を行ったことが違法か否かである。

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3 主張

(1) 請求人

イ 本件相続人らが共同で提出した本件相続税の申告を修正等する場合には、本件相続人らの間で協議の上、共同で修正申告又は更正の請求をすることが社会通念に合致するもので、請求人の同意がないままに先行してなされた相続人B及び相続人Cに対する本件相続税の還付手続は誤りであり、請求人に対する本件更正処分も誤りである。
ロ 原処分庁は、本件調停に基づいて本件更正処分をしているが、本件調停条項には、第4項の定めがあるから、原処分庁が、相続人B及び相続人Cに対して行った本件相続税の還付手続並びに請求人に対して行った本件更正処分は誤りである。

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(2) 原処分庁

イ 相続税法には、同一の被相続人から相続により財産を取得した者全員で修正申告又は更正の請求をしなければならないとする規定は存しないし、相続税の課税価格及び相続税額を是正するための更正処分は、当初申告が相続税法第27条第4項の規定に基づき、相続により財産を取得した者全員で共同して行われていたとしても、全員に対し同時に行わなければならないとする規定も存しない。
ロ 本件更正処分は、相続人Cの更正の請求の理由の事実を基礎として、相続税法第35条第3項の規定に基づき行っているから、本件調停条項の第4項の定めがあることを理由に本件更正処分が誤りであるとする請求人の主張には理由がない。

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4 判断

(1) 相続税法は、遺産総額に係る相続税の総額を計算し、相続又は遺贈により実際に取得した財産の価額の割合に応じてこれをあん分して各人の相続税額を算出することとしているところ、遺産が未分割のまま申告がなされることもあるため、後日、遺産が分割されたことにより、各人の相続税額が増減する場合がある。
 そこで、相続税法は、このような場合に、相続税額が増加する者には、別紙の2のとおり修正申告をすることを、相続税額が減少する者には、同3のとおり更正の請求をすることを、それぞれ認めている。
 また、相続税法は、別紙の4のとおり、税務署長が、更正の請求に基づき減額更正をした場合に、当該請求をした者以外の者に係る相続税額が増加又は減少するときは、相続税額を更正をすることを認めている。

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(2) 本件では、上記1の(4)のロないしニのとおり、遺産が未分割のまま本件申告が行われた後、本件調停の成立により本件相続人らの相続税額に増減が生じたため、相続人Cが更正の請求をし、原処分庁は、同人に対する減額更正処分をした後に、相続人Bに対する減額更正処分をし、請求人に対する本件更正処分をしたのであり、その過程に何ら違法な点は見当たらない。

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(3) 請求人の主張について

イ 請求人は、共同で相続税の申告をした場合には、修正申告又は更正の請求も共同ですることが社会通念に合致する旨主張するが、相続税法は、別紙の1のとおり、共同で申告することができる旨を定めているに止まり、共同で修正申告又は更正の請求をしなければならない旨の規定はない。
 そして、相続税法第35条第3項第1号は、別紙の4のとおり、「更正の請求に基づき更正をした場合において」と規定し、減額更正処分が先行することを予定しているから、本件更正処分に先立ち、請求人の同意を得ずに更正の請求及び減額更正処分がなされたとしても何ら違法ではなく、請求人の主張には理由がない(なお、本件相続税の還付手続の適否は、本件更正処分の適否に何ら影響しない。)。
ロ また、請求人は、本件調停条項には第4項の定めがあるから、原処分庁が相続人B及び相続人Cに対して本件相続税の減額更正処分及び還付手続をしたこと並びに本件更正処分をしたことは誤りである旨主張する。
 しかし、本件調停条項第4項は、本件相続人らの間に、本件調停条項に定める以外の債権債務が存しないことを相互に確認したものにすぎず、本件相続税に係る更正処分等の適否に影響するものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張にも理由がない。

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(4) 以上により、請求人の本件相続税の課税価格及び納付すべき税額を算出すると、本件更正処分に係る課税価格及び納付すべき税額と同額であり、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められないから、本件更正処分は適法である。

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