(平22.6.14、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)並びに所得税について、原処分庁が、1請求人が営む輸出物品販売場に係る譲渡物品のうち一部の譲渡物品は「通常生活の用に供する物品」に当たらず、当該物品の譲渡については消費税を免除できない、2請求人が課税標準額に対する消費税額から控除した課税仕入れに係る消費税額の一部は、課税仕入れの税額の控除に係る「帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当するので、これを控除することはできない、3請求人が提示した帳簿書類は不正確で推計課税の必要性があるなどとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、それらの認定に誤りがあるなどとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 平成17年10月1日から同年12月31日まで、平成18年1月1日から同年3月31日まで、同年4月1日から同年6月30日まで、同年7月1日から同年9月30日まで、同年10月1日から同年12月31日まで、平成19年1月1日から同年3月31日まで、同年4月1日から同年6月30日まで、同年7月1日から同年9月30日まで、同年10月1日から同年12月31日まで、平成20年1月1日から同年3月31日まで及び同年4月1日から同年6月30日までの各課税期間(以下、順次「平成17年12月課税期間」、「平成18年3月課税期間」、「平成18年6月課税期間」、「平成18年9月課税期間」、「平成18年12月課税期間」、「平成19年3月課税期間」、「平成19年6月課税期間」、「平成19年9月課税期間」、「平成19年12月課税期間」、「平成20年3月課税期間」及び「平成20年6月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等について、審査請求(平成21年6月12日請求)に至る経緯及び内容は、別表1−1から別表1−3までのとおりである。
 なお、以下、平成20年12月26日付でされた、本件各課税期間の消費税等の各更正処分(平成17年12月課税期間及び平成18年6月課税期間から平成18年12月課税期間までの各更正処分は平成21年5月14日付でされた異議決定(以下「本件異議決定」という。)により一部が取り消された後のもの)を「本件消費税等各更正処分」、本件各課税期間のうち平成19年9月課税期間及び平成19年12月課税期間を除く各課税期間の消費税等の過少申告加算税の各賦課決定処分(平成18年6月課税期間の賦課決定処分は本件異議決定により一部が取り消された後のもの)を「本件消費税等過少申告加算税各賦課決定処分」、平成19年9月課税期間及び平成19年12月課税期間の消費税等の無申告加算税の各賦課決定処分を「本件消費税等無申告加算税各賦課決定処分」とそれぞれいう。
ロ 平成19年分の所得税について、審査請求(平成21年6月12日請求)に至る経緯及び内容は、別表2のとおりである。
 なお、以下、平成20年12月26日付でされた平成19年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を、それぞれ「本件所得税更正処分」及び「本件所得税賦課決定処分」という。

(3) 関係法令等

イ 消費税法第7条《輸出免税等》第1項第1号は、事業者が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、本邦からの輸出として行われる資産の譲渡(以下「輸出取引」という。)に該当するものについては、消費税を免除する旨(以下、この消費税の免税措置を「輸出免税」という。)、同条第2項は、その課税資産の譲渡等が輸出取引に該当するものであることにつき、財務省令で定めるところにより証明がされたものでない場合には、輸出免税は適用しない旨各規定している。
 そして、消費税法施行規則第5条《輸出取引等の証明》第1項第1号は、消費税法第7条第2項に規定する財務省令で定めるところにより証明がされたものは、輸出取引を行った事業者が、当該輸出取引につき、当該資産の輸出に係る税関長から交付を受ける輸出の許可等があったことを証する書類で、「当該資産を輸出した事業者の氏名又は名称及び住所若しくは居所又は事務所等の所在地」、「当該資産の輸出の年月日」、「当該資産の品名並びに品名ごとの数量及び価額」及び「当該資産の仕向地」が記載されたものを整理し、当該課税資産の譲渡等を行った日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間、これを納税地又はその取引に係る事務所等の所在地に保存することにより証明がされたものとする旨規定している。
ロ 消費税法第8条《輸出物品販売場における輸出物品の譲渡に係る免税》第1項は、輸出物品販売場を経営する事業者が、外国為替及び外国貿易法第6条《定義》第1項第6号に規定する非居住者(以下「非居住者」という。)に対し、政令で定める物品で輸出するため政令で定める方法により購入されるものの譲渡を行った場合には、当該物品の譲渡については、消費税を免除する旨(以下、この消費税の免税措置を「輸出物品販売場免税」という。)、消費税法第8条第2項は、その譲渡をした輸出物品販売場を経営する事業者が、当該物品が非居住者によって同条第1項に規定する方法により購入されたことを証する書類(以下「消費税法第8条第2項書類」という。)を保存しない場合には、輸出物品販売場免税は適用しない旨各規定している。
 そして、消費税法施行令第18条《輸出物品販売場で譲渡する物品の範囲、手続等》第1項は、消費税法第8条第1項に規定する政令で定める物品は、通常生活の用に供する物品とする旨、消費税法施行令第18条第2項第1号は、消費税法第8条第1項に規定する政令で定める方法は、非居住者で輸出物品販売場において物品を購入する者が、その購入の際、その所持する旅券等を当該輸出物品販売場を経営する事業者に提示し、かつ、これに購入の事実を記載した書類(消費税法施行令第18条第6項の委任を受けて、消費税法施行規則第6条《輸出免税物品購入記録票等の様式》に規定する同規則別表第一の「輸出免税物品購入記録票」である。以下「購入記録票」という。)のはり付けを受けるとともに、当該物品をその購入後において輸出するものであることを記載した書類(消費税法施行令第18条第6項の委任を受けて、消費税法施行規則第6条に規定する同規則別表第二の「最終的に輸出となる物品の消費税免税購入についての購入者誓約書」である。以下「購入者誓約書」という。)を当該事業者に提出して、当該物品の引渡しを受ける方法とする旨各規定している。
 なお、購入者誓約書には、購入者が、購入物品を日本から最終的には輸出するものとして購入し、日本で処分しないことを誓約する旨の誓約文に署名するとともに、「販売者氏名」、「上陸地」、「旅券等の種類」、「番号」、「国籍」、「購入年月日」、「上陸年月日」、「在留資格」、「購入者氏名及び生年月日」、「品名」、「数量」、「単価」及び「販売価額」をそれぞれ記載するものとされている。
 さらに、消費税法施行規則第7条《輸出物品販売場における購入者誓約書の保存》は、輸出物品販売場免税の適用を受けようとする輸出物品販売場を経営する事業者は、消費税法施行令第18条第2項各号に規定する購入後において輸出するものであることを記載した消費税法第8条第2項書類(購入者誓約書)を整理し、同法第8条第1項に規定する譲渡を行った日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間、これを納税地又は当該譲渡に係る輸出物品販売場の所在地に保存しなければならない旨規定している。
ハ 消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項は、事業者が、国内において行う課税仕入れについては、課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除(以下、この控除を「仕入税額控除」という。)する旨、同条第7項は、事業者が当該課税期間の仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかったことを当該事業者において証明した場合を除き、保存がない課税仕入れの税額については、仕入税額控除は適用しない旨、同条第8項第1号は、同条第7項に規定する帳簿とは、「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」、「課税仕入れを行つた年月日」、「課税仕入れに係る資産又は役務の内容」及び「課税仕入れに係る支払対価の額」が記載されているもの(以下、同条第8項第1号に規定する記載要件を「仕入税額控除帳簿記載要件」という。)をいう旨、同条第9項第1号は、同条第7項に規定する請求書等とは、「書類の作成者の氏名又は名称」、「課税資産の譲渡等を行つた年月日」、「課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容」、「課税資産の譲渡等の対価の額」及び「書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称」が記載されているもの(以下、同条第9項第1号に規定する記載要件を「仕入税額控除請求書等記載要件」という。)をいう旨各規定している。
 そして、消費税法施行令第50条《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の保存期間等》第1項は、仕入税額控除の適用を受けようとする事業者は、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を整理し、当該帳簿についてはその閉鎖の日の属する課税期間の末日の翌日、当該請求書等についてはその受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間、これを納税地又はその取引に係る事務所等の所在地に保存しなければならない旨規定している。
ニ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定している。
ホ 所得税法第156条《推計による更正又は決定》は、税務署長は、居住者に係る所得税につき更正をする場合には、その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額を推計して、これをすることができる旨規定している。
ヘ 「消費税法等の施行に伴う所得税の取扱いについて」(平成元年3月29日付直所3−8ほかの国税庁長官通達。以下「本件個別通達」という。)の2《税抜経理方式と税込経理方式の選択適用》は、所得税の課税所得金額の計算に当たり、消費税法第2条《定義》第1項に規定する個人事業者が行う取引に係る消費税等の経理処理については、税抜経理方式又は税込経理方式のいずれの方式によることとしても差し支えない旨、本件個別通達の8《消費税等の総収入金額算入の時期》は、所得税の課税所得金額の計算に当たり、税込経理方式を適用している個人事業者が還付を受ける消費税等は、納税申告書に記載された税額については当該納税申告書が提出された日の属する年の事業所得等の金額の計算上、総収入金額に算入し、更正に係る税額については当該更正のあった日の属する年の事業所得等の金額の計算上、総収入金額に算入する旨各定めている。

(4) 基礎事実

イ 請求人の事業等
(イ) 請求人は、本件各課税期間、P市p町○丁目○番○号所在の事業所(以下「本件事業所」という。)において、「R商会」の屋号で、デジタルカメラ、ゲーム機、電気カミソリ等の電化製品の販売並びに食用油、菓子等の食料品及び美容クリーム等の雑貨の販売を営んでいた。
 なお、以下、請求人の本件事業所における上記電化製品の販売を「本件電化製品販売」といい、上記食料品等の販売を「本件食料品等販売」という。
(ロ) 請求人の事業の従事者は、本件各課税期間において、請求人の子Sとその妻Hであった。
ロ 請求人の届出、申告等
(イ) 請求人は、平成12年6月8日、原処分庁に対し、本件事業所について、消費税法第8条第6項に規定する輸出物品販売場の許可の申請を行い、同月30日付で当該申請につき許可を受けた(以下、この許可を受けた本件事業所を「本件輸出物品販売場」という。)。
(ロ) 請求人は、平成13年5月9日、原処分庁に対し、消費税法第19条《課税期間》第1項第3号に規定する届出書を提出し、課税期間を3か月ごとの期間に短縮することを選択した。
(ハ) 請求人は、本件電化製品販売に係る課税資産の譲渡は、輸出物品販売場免税又は輸出免税が適用されるとして、本件食料品等販売に係る課税資産の譲渡に係る対価の額のみを本件各課税期間の消費税の課税標準額として、別表1−1から別表1−3までの「確定申告」欄のとおりそれぞれ確定申告した。
ハ その他
(イ) 請求人は、平成20年4月14日、同月23日及び同年9月1日、原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)において、本件調査の担当者(以下「本件調査担当者」という。)に対し、平成17年1月から平成20年6月までの期間の本件電化製品販売に係る購入者誓約書を提示した。
 なお、以下、上記購入者誓約書のうち本件各課税期間に係る購入者誓約書を「本件購入者誓約書」という。
(ロ) 原処分庁は、本件消費税等各更正処分に当たり、本件購入者誓約書に係る取引のうち、K1、K2、K3、K4、K5、K6、K7、K8、K9、旅券番号が○○○○の者(購入者誓約書の「署名」欄に○○文字と思われる署名が記載されているもの。以下「K10」という。)及び旅券番号が○○○○の者(購入者誓約書の「署名」欄に○○文字と思われる署名が記載されているもの又は複写が薄いため読み取れないもの。以下、「K11」といい、K1、K2、K3、K4、K5、K6、K7、K8、K9、K10及びK11を併せて「K1ら」という。)に対する本件電化製品販売(別表3−1から別表3−51までに掲げるデジタルカメラ及びその付属品(以下「本件デジタルカメラ等」という。)の販売)は、消費税法施行令第18条第1項に規定する通常生活の用に供する物品に当たらないと認定した。
 なお、以下、本件デジタルカメラ等の販売を「本件デジタルカメラ等販売」という。
 また、原処分庁は、本件異議決定に当たり、本件購入者誓約書に係る取引のうち、「署名」欄に○○文字1文字が記載され、「旅券番号」及び「購入者氏名及び生年月日」の各欄に記載のない購入者誓約書に係るデジタルカメラ及びその付属品、デジタルビデオカメラ、電気カミソリ及びゲーム機の販売は、購入者が不明であり、非居住者に係るものであるとは認められないとして、上記取引に係る購入者誓約書は、消費税法第8条第2項書類に当たらないと認定した。
 なお、以下、この販売を「本件書類不備電化製品販売」といい、内訳は別表4のとおりである。
(ハ) 原処分庁は、本件消費税等各更正処分に際し、請求人が提示した帳簿及び請求書等に基づき、別表1−1から別表1−3までの「更正処分等」欄又は「異議決定」欄の「仕入税額控除の額」欄に記載した額を本件各課税期間における仕入税額控除の額と認定した。
(ニ) 原処分庁は、本件食料品等販売に係る事業について、平成17年12月課税期間から平成19年12月課税期間までの各課税期間に係る課税資産の譲渡等の対価の額及び平成19年分の売上金額を、請求人の提示した帳簿書類によらず、本件食料品等販売に係る売上原価の額を基礎として、業種、業態及び事業規模が請求人と類似するとする同業者の売上原価率で除するなどの方法により算定した。
 なお、原処分庁は、平成19年分の事業所得の金額については、本件食料品等販売に係る売上金額を上記のとおり推計の方法により算定したほかは、本件電化製品販売に係る売上金額並びに本件電化製品販売及び本件食料品等販売に係る必要経費は実額により算定した。

(5) 争点

争点1 本件書類不備電化製品販売に係る購入者誓約書は、消費税法第8条第2項書類に当たるか否か。
争点2 本件デジタルカメラ等は、消費税法施行令第18条第1項に規定する通常生活の用に供する物品に当たるか否か。
争点3 本件書類不備電化製品販売に係る物品及び本件デジタルカメラ等(以下「本件各販売物品」という。)の譲渡は、消費税法第7条第2項に規定する財務省令で定めるところにより証明がされたものとして、同条第1項第1号に規定する本邦からの輸出として行われる資産の譲渡に当たるか否か。
争点4 本件消費税等各更正処分は、信義誠実の原則(以下「信義則」という。)に反し違法であるか否か。
争点5 仕入税額控除の額はいくらか。
争点6 推計課税の必要性があるか否か。
争点7 推計課税に合理性があるか否か。
争点8 還付を受ける消費税等は、平成19年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入されるか否か。

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2 主張

(1) 争点1(本件書類不備電化製品販売に係る購入者誓約書は、消費税法第8条第2項書類に当たるか否か。)

原処分庁 請求人
 本件書類不備電化製品販売に係る購入者誓約書は、旅券の番号、購入者の氏名及び生年月日が記載されておらず、当該取引に係る購入者が不明であり、非居住者に係るものであるとは認められないから、消費税法第8条第2項書類に当たらない。  本件書類不備電化製品販売に係る購入者誓約書は、たまたま、旅券の番号、購入者の氏名及び生年月日が記入漏れとなっていたものであるから、消費税法第8条第2項書類に当たる。

(2) 争点2(本件デジタルカメラ等は、消費税法施行令第18条第1項に規定する通常生活の用に供する物品に当たるか否か。)

原処分庁 請求人
 本件デジタルカメラ等は、次のことから、K1らが海外における販売用又は事業用のために購入することが明らかな物品であり、消費税法施行令第18条第1項に規定する通常生活の用に供する物品に当たらない。  本件デジタルカメラ等は、次のことから、消費税法施行令第18条第1項に規定する通常生活の用に供する物品に当たる。
イ 本件デジタルカメラ等販売は、請求人とK1らとの間で反復、継続的に行われていたり、また、その数量は、非居住者が自己の生活の用に供するための物品又は土産物として購入する物品と認められる数量をはるかに超える。 イ 本件デジタルカメラ等は、K1らが土産品として買ったものである。
ロ 本件デジタルカメラ等販売の一部は、販売代金の全部又は一部を受領しないまま当該販売に係る物品を引き渡し、後日、販売代金を回収する、いわゆる掛け売りが行われている。 ロ 親戚や友人が多い購入者によっては多めに購入する場合があり得るし、通常生活の用に供する物品に当たるか否かを判定するに当たり、法令上、個数制限は定められていない。

(3) 争点3(本件各販売物品の譲渡は、消費税法第7条第2項に規定する財務省令で定めるところにより証明がされたものとして、同条第1項第1号に規定する本邦からの輸出として行われる資産の譲渡に当たるか否か。)

原処分庁 請求人
 本件各販売物品の譲渡は、次のことから、消費税法第7条第2項に規定する財務省令で定めるところにより証明がされたものとはいえないから、同条第1項第1号に規定する本邦からの輸出として行われる資産の譲渡に当たらない。  本件各販売物品の譲渡は、次のことから、消費税法第7条第2項に規定する財務省令で定めるところにより証明がされたものといえるから、同条第1項第1号に規定する本邦からの輸出として行われる資産の譲渡に当たる。
イ 請求人が提示した請求人名義の輸出許可通知書等により輸出される輸出物品と本件各販売物品に係る購入者誓約書の商品名、数量及び金額はいずれも一致せず、また、請求人が提示した輸出許可通知書には、L社などの請求人以外の名義の輸出許可通知書があることから、本件各販売物品の譲渡は、消費税法第7条第2項に規定する財務省令で定めるところにより証明がされたものに当たらない。 イ 請求人は、本件購入者誓約書に記載された物品を輸出し、当該物品について税関長から交付を受けた輸出許可通知書及びこれに添付された送り状(以下、この送り状を「インボイス」という。)を保存しているから、当該輸出許可通知書及びインボイスに記載された金額が実際より低くても、また、当該輸出許可通知書及びインボイスに記載された輸出者の名義が請求人と異なっていても、さらに、当該輸出許可通知書及びインボイスに記載された物品に請求人以外の事業者の物品が混入していても、本件各販売物品の譲渡は、消費税法第7条第2項に規定する財務省令で定めるところにより証明がされたものに当たる。
ロ 本件各販売物品の取引に係る請求人の輸出許可通知書の存在は確認できず、本件各販売物品の取引が本邦からの輸出として許可され、輸出されたものであるとは認められないから、本件各販売物品の譲渡は、消費税法第7条第1項第1号に規定する本邦からの輸出に当たらない。 ロ 本件各販売物品は、客から注文を受けた物品を○○港国際ターミナル内の保税倉庫へ運んで引き渡したものであるから、本件各販売物品の譲渡は、消費税法第7条第1項第1号に規定する本邦からの輸出に当たる。

(4) 争点4(本件消費税等各更正処分は、信義則に反し違法であるか否か。)

請求人 原処分庁
 次のことから、本件消費税等各更正処分は、信義則に反し違法である。   次のことから、本件において信義則を適用する余地はなく、本件消費税等各更正処分には信義則に反する違法はない。
イ 請求人は、平成15年ころ、M税務署の職員による消費税等の調査(以下「前回調査」という。)を受け、本件調査と同様に、前回調査の担当者に対し、帳簿、購入者誓約書等の書類を提示したが、前回調査の担当者から、電化製品の販売に係る消費税を免税とした消費税等の確定申告書を提出していることについて、誤りであるという指摘や指導はなく、さらに、輸出物品販売場免税の適用を受けるに当たり、販売の個数、回数、金額の制限はない旨指導を受けた。 イ 前回調査の担当者及びM税務署の職員が、請求人が主張するような内容の指導を行った事実は確認できない。
ロ 請求人は、平成15年ころ、輸出申告手続を行った資産の譲渡は輸出免税により、非居住者が携帯により輸出する物品の譲渡は輸出物品販売場免税により消費税等の確定申告をすることについて、M税務署の職員に相談したところ、同職員から、請求人は輸出物品販売場の許可を受けているから、今までどおり、輸出物品販売場免税を適用して確定申告すればよい旨指導を受けた。 ロ 仮に、上記イの各担当者が請求人に対し何らかの指導を行った事実があったとしても、それは、税務署長その他の責任ある立場にある者の正式の見解の表示とはいえない。
ハ そして、請求人は、請求人が還付を受けるために提出した確定申告書により原処分庁から、消費税等の還付を受け続けてきたのであるから、この事実こそ原処分庁の正式な見解である。  

(5) 争点5(仕入税額控除の額はいくらか。)

原処分庁 請求人
 請求人が提示した課税仕入れ等に係る元帳等の記載のうち、月分又は年分等の合計金額が一括して記載された部分及び個別に記載されていても相手方の記載がない部分などは、仕入税額控除帳簿記載要件を満たしておらず、また、請求人は請求書等を保存していないものがあり、このことは、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を保存しない場合に当たるから、本件各課税期間に係る請求人の仕入税額控除の額は、本件消費税等各更正処分又は本件異議決定において控除した額(別表1−1から別表1−3までの「更正処分等」欄又は「異議決定」欄の「仕入税額控除の額」欄の額)である。  請求人が提示した課税仕入れ等に係る帳簿及び請求書等に多少の不備があるとしても、請求人は、これらを整理し保存しているから、仕入税額控除帳簿記載要件及び仕入税額控除請求書等記載要件を満たしており、本件各課税期間に係る仕入税額控除の額は、本件各課税期間の確定申告において控除した額(別表1−1から別表1−3までの「確定申告」欄の「仕入税額控除の額」欄の額)である。

(6) 争点6(推計課税の必要性があるか否か。)

原処分庁 請求人
 本件食料品等販売に係る売上金額(課税資産の譲渡等の対価の額)については、請求人が本件調査において提示した平成19年分の取引を記載した割引手形記入帳と題する冊子(以下「本件冊子」という。)並びに仕入先ごとに平成17年分及び平成18年分の仕入金額、売上金額等を記載したメモ(以下「本件メモ」という。)に、本件食料品等販売に係るすべての売上金額が記載されているとは認められず、また、請求人からその他に当該販売に係るすべての売上金額を実額で把握できる資料の提示がなく、実額による計算が可能であるとは認められないから、推計課税の必要性がある。   本件食料品等販売に係る売上金額(課税資産の譲渡等の対価の額)については、請求人が本件調査において提示した帳簿等に多少の不備があるとしても、実額による計算が可能であるから、推計課税の必要性はない。

(7) 争点7(推計課税に合理性があるか否か。)

原処分庁 請求人
 原処分庁は、本件食料品等販売に係る事業を1事業ととらえた上、青色申告者(青色申告書の提出の承認を受けた者。以下同じ。)で、本件食料品等販売に係る事業と業種、業態の類似する同規模程度の同業者(以下「類似同業者」という。)をし意なく機械的に選定し、請求人の取引先を調査するなどして確認した本件食料品等販売に係る売上原価の額を、類似同業者の平均売上原価率(売上金額に対する売上原価の割合の平均値をいう。以下同じ。)で除するなどして、本件食料品等販売に係る売上金額(課税資産の譲渡等の対価の額)を算出しており、原処分庁が行った推計課税には合理性がある。   原処分庁は、類似同業者の選定において、請求人が有する特殊事情、すなわち、1本件食料品等販売を専門にしているのではないから、他店との競争に弱いという事情及び2在庫処分との関係で同業者より安く販売しているという事情を考慮しておらず、その結果、原処分庁が採用した類似同業者の売上原価率は、請求人においてはあり得ない低い数値となっている。
 このように、原処分庁が採用した類似同業者は本件食料品等販売に係る事業と類似していないから、原処分庁が行った推計課税には合理性がない。

(8) 争点8(還付を受ける消費税等は、平成19年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入されるか否か。)

原処分庁 請求人
 税込経理方式を適用している個人事業者が還付を受ける消費税等は、消費税等に係る納税申告書が提出された日の属する年の総収入金額に算入することとなる。
 請求人は、税込経理方式を適用しているので、平成19年中に提出した消費税等の確定申告書に係る還付金は同年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入される。 
 原処分庁は、請求人が所得税の収支計算に当たり税込経理方式で行っているとして、請求人が還付を受ける消費税等を雑収入としているが、請求人は、本件購入者誓約書に係る取引については消費税が免除されていることから、もともと仕入れの際に支払った消費税等が還付されることを予定して支払っていたのである。
 還付を受ける消費税等は、いわば立替金というべきものであり、立て替えて支払ったものを戻してもらっただけであるから、事業所得の金額の計算上総収入金額に算入されない。

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3 判断

(1) 争点1(本件書類不備電化製品販売に係る購入者誓約書は、消費税法第8条第2項書類に当たるか否か。)

イ 認定事実
 請求人提出資料によれば、本件書類不備電化製品販売に係る購入者誓約書の各欄の記載状況は、次のとおりである。
(イ) 「販売者氏名」欄には「R商会」と、「上陸地」欄には「N」と、「国籍」欄には「Q国」と、それぞれ記載されている。
(ロ) 「購入年月日」及び「上陸年月日」の各欄には別表4の「年月日」欄の年月日が、「品名」欄には同表の「メーカー名」及び「品名(型番)」の各欄のメーカー名及び品名(型番)が、「数量」、「単価」及び「販売価格」の各欄には同表の「数量」、「単価」及び「金額」の各欄の数量、単価及び金額が、それぞれ記載されている。
(ハ) 「署名」欄には、平成18年3月5日のものには「○」と、同月8日のものには「○」と、同月15日のものには「○」と、同月16日のものには「○」と、同月20日のものには「○」と、同月26日のものには「○」と、同月30日のものには「○」と、それぞれ○○文字1文字が記載されている。
(ニ) 旅券等の「番号」及び「購入者氏名及び生年月日」の各欄には、いずれも何ら記載されていない。
ロ 判断
(イ) 消費税法第8条第2項は、同条第1項に規定する輸出物品販売場免税とされるためには、非居住者に対し政令で定める物品で輸出するため政令で定める方法により購入されるものの譲渡をした輸出物品販売場を経営する事業者が、当該物品が非居住者によって同項に規定する方法により購入されたことを証する書類を保存しない場合には、適用しない旨規定している。
 そして、消費税法施行令第18条第1項は、上記の政令で定める物品は、通常生活の用に供する物品とする旨、同条第2項は、上記の政令で定める方法は、非居住者で輸出物品販売場において物品を購入する者が、その購入の際、その所持する旅券等を輸出物品販売場を経営する事業者に提示し、かつ、これに購入の事実を記載した書類のはり付けを受けるとともに、当該物品をその購入後において輸出するものであることを記載した書類を当該事業者に提出して、当該物品の引渡しを受ける方法とする旨各規定している。
 また、消費税法施行規則第6条は、上記の購入の事実を記載する書類及び購入後において輸出するものであることを記載する書類の様式を、購入記録票及び購入者誓約書のとおりとする旨規定し、具体的には、これらの書類に、「販売者氏名」、「上陸地」、「旅券等の種類」、「番号」、「国籍」、「購入年月日」、「上陸年月日」、「在留資格」、「購入者氏名及び生年月日」、「品名」、「数量」、「単価」及び「販売価額」を記載するものとされており、同規則第7条は、輸出物品販売場免税を受けようとする輸出物品販売場を経営する事業者は、上記各内容が記載された購入者誓約書を整理し、消費税法第8条第1項に規定する譲渡を行った日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間、これを納税地等所定の場所に保存しなければならない旨規定している。
(ロ) これを本件についてみると、上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、本件書類不備電化製品販売に係る購入者誓約書の「販売者氏名」、「上陸地」、「国籍」、「購入年月日」、「上陸年月日」、「品名」、「数量」、「単価」及び「販売価格」の各欄には記載があるものの、上記イの(ハ)のとおり、当該購入者誓約書の「署名」欄はいずれも○○文字1文字のみが記載されていること、上記イの(ニ)のとおり、当該購入者誓約書の旅券等の「番号」及び「購入者氏名及び生年月日」の各欄にはいずれも記載がないことからすれば、当該購入者誓約書を請求人に提出した者が非居住者であるか否かを確認することができない。
 このように、本件書類不備電化製品販売に係る購入者誓約書は、記載された物品が非居住者によって消費税法第8条第1項に規定する方法により購入されたことを証明する書類とはいえないから、請求人がこれを整理して保存していたとしても、消費税法第8条第2項書類に当たらない。
(ハ) これに対し、請求人は、上記2の(1)の「請求人」欄のとおり主張する。
 しかしながら、上記(ロ)のとおり、本件書類不備電化製品販売に係る購入者誓約書は、記載された物品が非居住者によって購入されたことを証明する書類とはいえず、消費税法第8条第2項書類に当たらないことは明らかであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件デジタルカメラ等は、消費税法施行令第18条第1項に規定する通常生活の用に供する物品に当たるか否か。)

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人のK1への販売回数等
 請求人は、本件各課税期間において、K1に対し、別表3−1から別表3−12までのとおりデジタルカメラ等を販売した。
 なお、別表5−1のとおり、その合計販売回数は101回、合計販売台数は6,941台及び合計販売金額は318,736,100円であった。
(ロ) 請求人のK2への販売回数等
 請求人は、本件各課税期間において、K2に対し、別表3−13から別表3−16までのとおりデジタルカメラ等を販売した。
 なお、別表5−2のとおり、その合計販売回数は20回、合計販売台数は1,263台及び合計販売金額は63,108,300円であった。
(ハ) 請求人のK3への販売回数等
 請求人は、本件各課税期間において、K3に対し、別表3−17から別表3−23までのとおりデジタルカメラ等を販売した。
 なお、別表5−3のとおり、その合計販売回数は28回、合計販売台数は2,196台及び合計販売金額は93,873,700円であった。
(ニ) 請求人のK4への販売回数等
 請求人は、本件各課税期間において、K4に対し、別表3−24から別表3−27までのとおりデジタルカメラ等を販売した。
 なお、別表5−4のとおり、その合計販売回数は18回、合計販売台数は888台及び合計販売金額は52,738,220円であった。
(ホ) 請求人のK5への販売回数等
 請求人は、本件各課税期間において、K5に対し、別表3−28から別表3−31までのとおりデジタルカメラ等を販売した。
 なお、別表5−5のとおり、その合計販売回数は8回、合計販売台数は489台及び合計販売金額は22,519,100円であった。
(ヘ) 請求人のK6への販売回数等
 請求人は、本件各課税期間において、K6に対し、別表3−32から別表3−37までのとおりデジタルカメラ等を販売した。
 なお、別表5−6のとおり、その合計販売回数は15回、合計販売台数は866台及び合計販売金額は39,228,700円であった。
(ト) 請求人のK7への販売回数等
 請求人は、本件各課税期間において、K7に対し、別表3−38及び別表3−39のとおりデジタルカメラ等を販売した。
 なお、別表5−7のとおり、その合計販売回数は2回、合計販売台数は138台及び合計販売金額は6,633,900円であった。
(チ) 請求人のK8への販売回数等
 請求人は、本件各課税期間において、K8に対し、別表3−40から別表3−44までのとおりデジタルカメラ等を販売した。
 なお、別表5−8のとおり、その合計販売回数は20回、合計販売台数は1,456台及び合計販売金額は50,870,200円であった。
(リ) 請求人のK9への販売回数等
 請求人は、本件各課税期間において、K9に対し、別表3−45から別表3−48までのとおりデジタルカメラ等を販売した。
 なお、別表5−9のとおり、その合計販売回数は10回、合計販売台数は394台及び合計販売金額は14,587,100円であった。
(ヌ) 請求人のK10への販売回数等
 請求人は、本件各課税期間において、K10に対し、別表3−49のとおりデジタルカメラ等を販売した。
 なお、別表5−10のとおり、その合計販売回数は1回、合計販売台数は77台及び合計販売金額は4,935,500円であった。
(ル) 請求人のK11への販売回数等
 請求人は、本件各課税期間において、K11に対し、別表3−50及び別表3−51のとおりデジタルカメラ等を販売した。
 なお、別表5−11のとおり、その合計販売回数は4回、合計販売台数は143台及び合計販売金額は13,647,100円であった。 
ロ 判断
(イ) 消費税法施行令第18条第1項に規定する通常生活の用に供する物品とは、非居住者が通常の生活において用いようとする物品を指すのであって、非居住者が国外における事業用又は販売用として購入することが明らかな物品は含まれないと解される。
 そして、非居住者が国外における事業用又は販売用として購入することが明らかな物品に当たるか否かは、非居住者の輸出物品販売場における物品の購入について、その購入回数や購入の反復、継続の状況、購入数量や購入金額の多寡及び購入代金の支払方法などを総合勘案して判断するのが相当である。
(ロ) これを本件についてみると、上記イの(ヌ)のとおり、本件各課税期間において、請求人がK10にデジタルカメラ等を販売した回数は1回であるものの、その販売台数は多量で販売金額も多額であること、上記イの(イ)から(リ)まで及び(ル)のとおり、請求人がK1ら(K10を除く。)にデジタルカメラ等を反復、継続して販売し、その販売台数は多量で販売金額も多額であることからすると、K1らが請求人から購入した本件デジタルカメラ等は、K1らが国外における事業用又は販売用として購入することが明らかな物品といえ、消費税法施行令第18条第1項に規定する通常生活の用に供する物品に当たらない。
(ハ) これに対し、請求人は、上記2の(2)の「請求人」欄のとおり主張する。
 しかしながら、通常生活の用に供する物品に当たるか否かの判定に当たり、上記イで認定したK1らの物品の購入状況(多量の物品を反復、継続して購入し、その購入金額も多額である状況)からすれば、K1らが購入した本件デジタルカメラ等は土産品としての域をはるかに超えているものと認められ、上記(ロ)のとおり、K1らが購入した本件デジタルカメラ等は、非居住者が国外における事業用又は販売用として購入することが明らかな物品といえ、通常生活の用に供する物品に当たらないのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(本件各販売物品の譲渡は、消費税法第7条第2項に規定する財務省令で定めるところにより証明がされたものとして、同条第1項第1号に規定する本邦からの輸出として行われる資産の譲渡に当たるか否か。)

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人が提出した書類
 請求人は、当審判所に対し、本件各販売物品の譲渡について輸出免税が適用できることを証明する書類として、次の書類を提出した。
A 平成16年10月から平成20年8月までの期間の輸出に係る輸出許可通知書(輸出物品の品名、品名ごとの数量、価額などが記載されたインボイスが添付されたもの)
 以下、上記輸出許可通知書のうち本件各課税期間に係る輸出許可通知書(175件)を「本件輸出許可通知書」という。
 本件輸出許可通知書の輸出者の名義について、請求人名義の輸出許可通知書(平成17年10月25日から平成18年7月25日までの期間に輸出申告されたもの。以下「本件請求人名義輸出許可通知書」という。)が52件であり、残りの123件の内訳は、L社名義のものが111件、V商会名義のものが6件、U商会名義のものが6件である。
B 平成16年10月から平成20年8月までの期間の輸出に係るパッキングリスト及び船荷証券の写し
C W社からの通関手数料等の請求書
D 平成17年1月から平成20年6月までの期間の本件電化製品販売に係る購入者誓約書
E 「R商会輸出明細」と題するA4横の書類
 請求人が、本件購入者誓約書に記載された物品が本邦からの輸出として譲渡されたことを証明するため、本件購入者誓約書に記載された物品が、本件輸出許可通知書に添付されたインボイス上のどの物品に対応するのかを一覧表にして取りまとめたとする書類であり、その形式は、本件購入者誓約書に基づいて、旅券番号、販売年月日、販売先氏名、商品、品名、輸出台数、単価及び販売額の各欄が設けられ、その横に、本件輸出許可通知書に添付されたインボイスに基づいて、申告年月日、申告番号、輸出者及び荷受人の各欄が設けられている(以下、この書類を「本件請求人検討書類」という。)。
 当審判所が、本件請求人検討書類の上記各欄に記載された1,396件の取引内容を検討したところ、「販売先氏名」欄に記載された姓名と「荷受人」欄に記載された姓名(会社名を含む。)は全件について一致していないこと、1枚の購入者誓約書に記載された物品は同一人に販売されているにもかかわらず、これが複数の荷受人に輸出したとして記載されたものがあること、販売年月日の前に輸出の申告をしたとして記載されたものがあることからすれば、その内容(対応関係)は不自然で、信用できない。
(ロ) 本件電化製品販売に係る帳簿等の状況
A 請求人は、本件調査において、本件調査担当者に対し、平成17年1月から平成20年6月までの期間の本件電化製品販売及び本件食料品等販売に係る売上げ及び仕入れ並びに必要経費等が記載されたルーズリーフの綴り(以下「本件元帳」という。)を提示した。
 当審判所が本件元帳の記載内容を検討したところ、請求人は、本件電化製品販売に係る売上げについて、平成17年1月から同年9月まで、平成18年1月から同年12月まで及び平成19年1月から同年6月までの期間に対応する売上げしか記載していないことが認められるから、本件元帳により、本件各課税期間の本件電化製品販売に係る売上げのすべてを確認することはできない。
B 当審判所が、本件各課税期間に係る電化製品の仕入れ及び売上げについて検討したところ、電化製品の仕入数量と売上数量(購入者誓約書に記載された電化製品の数量)はおおむね一致する。
 そして、Hが、当審判所に対して、「購入者誓約書は、注文を受けた都度必ず作成しています。」と答述していることを併せ考えると、本件購入者誓約書は、本件輸出物品販売場において販売した物品のみならず、本件各課税期間の本件電化製品販売に係るすべての取引について作成されているものと認められる。
(ハ) 本件請求人名義輸出許可通知書の荷受人及び輸出物品の状況
A 当審判所が、本件各販売物品に係る購入者誓約書の「署名」欄に記載された姓名と本件請求人名義輸出許可通知書に荷受人として記載された荷受人名が一致するか否かについて照合したところ、上記購入者誓約書に記載された姓名と一致する荷受人名は存在しない。
B 当審判所が、平成17年10月から平成18年7月までの期間(この期間が本件請求人名義輸出許可通知書に係る輸出申告日に対応する期間となる。)の本件各販売物品に係る購入者誓約書の「品名」、「数量」、「単価」及び「販売価格」の各欄に記載された事項と本件請求人名義輸出許可通知書に添付されたインボイスの上記各欄に対応する箇所に記載された事項が一致するか否かについて照合したところ、上記購入者誓約書の各欄に記載されたすべての事項と一致するインボイス上の取引は存在しない。
ロ 判断
(イ) 消費税法第7条第2項は、同条第1項に規定する輸出免税とされるためには、事業者が国内において行う課税資産の譲渡等が、本邦からの輸出として行われる資産の譲渡に該当することにつき、財務省令で定めるところにより証明されたものでない場合には、適用しない旨規定している。
 そして、この点につき、消費税法施行規則第5条第1項は、財務省令で定めるところにより証明されたものとは、輸出取引を行った事業者が、当該輸出取引につき、当該資産の輸出に係る税関長から交付を受ける輸出の許可若しくは積込みの承認があったことを証する書類又は当該資産の輸出の事実を当該税関長が証明した書類で、「当該資産を輸出した事業者の氏名又は名称及び住所若しくは居所又は事務所等の所在地」、「当該資産の輸出の年月日」、「当該資産の品名並びに品名ごとの数量及び価額」及び「当該資産の仕向地」が記載された書類を整理し、当該課税資産の譲渡等を行った日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間、これを納税地等所定の場所に保存することにより証明がされたものとする旨規定している。
(ロ) これを本件についてみると、次のとおりである。
A 本件輸出許可通知書のうち他人名義の輸出許可通知書
 本件輸出許可通知書のうち他人名義の輸出許可通知書は、請求人の名義で輸出の申告がされたものではないから、当該輸出許可通知書は、税関長が請求人に対して輸出の許可をしたものと認めることはできない。
B 本件請求人名義輸出許可通知書
 上記イの(ロ)のBのとおり、本件購入者誓約書は、本件各課税期間の本件電化製品販売に係るすべての取引について作成されているのであるから、輸出取引に係る電化製品の販売(譲渡)については、本件各販売物品に係る購入者誓約書に記載された電化製品の「品名」、「数量」、「単価」及び「販売価格」と本件請求人名義輸出許可通知書に記載された電化製品の「品名並びに品名ごとの数量及び価額」が一致するはずであるが、上記イの(ハ)のBのとおり、本件各販売物品に係る購入者誓約書の各欄に記載されたすべての事項と一致するインボイス上の取引は存在しないこと、加えて、上記イの(ハ)のAのとおり、本件各販売物品に係る購入者誓約書に記載された姓名と一致する本件請求人名義輸出許可通知書上の荷受人名は存在しないことからすると、本件各販売物品が、本件請求人名義輸出許可通知書のうち、いずれの輸出許可通知書により輸出されたのか、また、だれに対して輸出されたのかを確認することはできないから、本件請求人名義輸出許可通知書により、本件各販売物品が実際に輸出されたものかどうかを明らかにすることはできない。
C 本件輸出許可通知書の証明書類としての該当性
 上記A及びBのとおり、本件輸出許可通知書のうち他人名義の輸出許可通知書は、税関長が請求人に対して輸出の許可をしたものと認められず、また、本件請求人名義輸出許可通知書により、本件各販売物品が実際に輸出されたものかどうかを明らかにすることはできないから、請求人が、本件輸出許可通知書を整理して保存していたとしても、このことをもって、本件各販売物品が輸出されたことの証明がされたということはできない。
D まとめ
 上記Cのとおり、本件輸出許可通知書により輸出取引の証明がされたものといえない以上、本件各販売物品の譲渡は、消費税法第7条第2項に規定する財務省令で定めるところにより証明がされたものとして、同条第1項第1号に規定する本邦からの輸出として行われる資産の譲渡に当たらない。
(ハ) これに対し、請求人は、上記2の(3)の「請求人」欄のとおり主張する。
 しかしながら、上記2の(3)の「請求人」欄のイについては、上記(ロ)のAのとおり、本件輸出許可通知書のうち他人名義の輸出許可通知書は、税関長が請求人に対して輸出の許可をしたものと認めることはできないから、これを保存していたとしても、本件各販売物品が輸出されたことの証明がされたものということはできないし、上記(ロ)のBのとおり、本件請求人名義輸出許可通知書については、本件各販売物品に係る購入者誓約書に記載された物品等のすべての事項と一致するインボイス上の取引は存在せず、本件各販売物品が実際に輸出されたことが明らかになったとはいえないから、これを保存していたとしても、本件各販売物品が輸出されたことの証明がされたものということはできない。
 また、上記2の(3)の「請求人」欄のロについては、本件請求人名義輸出許可書に添付されたインボイスに記載された物品が保税倉庫に運ばれたことはうかがえるが、上述したとおり、本件各販売物品が実際に輸出されたことが明らかになったとはいえない以上、本件各販売物品の譲渡が本邦からの輸出に当たるということはできない。
 以上からすれば、請求人の主張はいずれも理由がない。

(4) 争点4(本件消費税等各更正処分は、信義則に反し違法であるか否か。)

イ 認定事実
 当審判所の調査によれば、前回調査の状況について、次の事実が認められる。
(イ) 原処分庁は、平成15年9月から平成16年5月までの期間、請求人に対し、前回調査を行った。
(ロ) 前回調査の担当者が、請求人が提示した購入者誓約書を検討したところ、数名の者が1回の購入で多量のデジタルカメラ等を購入し、かつ、そのような取引が1か月のうちに反復して行われていたことが判明した。
 このため、前回調査の担当者は、上記購入者誓約書に係る物品の販売は、国外における事業用又は販売用として販売されたものではないか、すなわち、輸出物品販売場免税の適用要件である「通常生活の用に供する物品」の譲渡に当たらないのではないかという疑義を持ち、この点について検討を行った。
ロ 判断
(イ) 租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の適用により、当該課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、信義則の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて信義則の適用の是非を考えるべきものと解される。
 そして、この特別の事情があるかどうかの判断に当たっては、少なくとも、1税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、2納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、3後にその表示に反する課税処分等が行われ、4そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、5納税者が税務官庁のその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠のものと解される。
 また、本来、申告納税制度の下では、税の確定申告は、納税者が自己の判断とその責任において行うものであり、税務相談は、確定申告をする納税者の便宜のため、行政サービスの一環として、納税者において、確定申告する際の参考とするために、税務署職員が、各自の有する知識を前提として、一応の判断を示すにすぎないものといえるから、税務署長等の権限のある者の公式の表明でない限り、申告相談に対する説明(指導)をもって、税務官庁が公的見解を表示したとはいえない。
(ロ) 請求人は、上記2の(4)の「請求人」欄のイのとおり主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、前回調査の担当者は、請求人が提出した購入者誓約書に係る物品の販売について、その販売数量や販売回数に疑義を持ち、輸出物品販売場免税の適用要件である「通常生活の用に供する物品」の譲渡に当たるか否かについて検討を行っていることからすれば、前回調査の担当者が、請求人に対し、輸出物品販売場免税の適用を受けるに当たり、販売の個数、回数、金額の制限はない旨指導するとは到底考えられないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、上記2の(4)の「請求人」欄のロ及びハのとおり主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によっても、平成15年ころ、M税務署の職員が請求人の関与税理士から輸出免税に係る税務相談を受けた事実を確認することはできない。
 また、仮に、M税務署の職員が請求人が主張するような回答を行っていたとしても、それは、同税務署の職員が行政サービスの一環として応じた相談に対して回答したものであり、税務署長等の一定の責任のある立場の者の公式の表明とはいえず、これをもって、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を示したとはいえないし、さらに、請求人が提出した消費税等の確定申告書に基づき、原処分庁が、請求人に対し消費税等の還付をしているとしてもこれをもって請求人の申告内容を認めたものとはいえないから、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を示したともいえない。
 したがって、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ) 以上のとおり、請求人に信義則を適用すべき特別の事情があるとは認められないから、本件消費税等各更正処分に信義則に反する違法はない。

(5) 争点5(仕入税額控除の額はいくらか。)

イ 認定事実 
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、本件調査において、仕入税額控除に関する書類として、次の書類を提示した。
A 本件元帳
 当審判所が本件元帳の記載内容について検討したところ、その一部について、1課税仕入れの相手方の氏名又は名称、課税仕入れを行った年月日及び課税仕入れに係る資産又は役務の内容の記載のないもの、2課税仕入れに係る支払対価の額が仕入先ごとに、1か月、3か月又は1年間の合計金額で記載されたもの、3数社の仕入先をまとめた合計金額で記載されたものもあり、その内訳は、別表6−1から別表6−3までのとおりである。
B 請求書等
 平成17年分、平成18年分及び平成19年分の仕入れ及び経費に係る請求書、納品書及び領収書、平成17年分の仕入れ及び経費に係る納品書のコピー、平成20年1月から同年6月までの期間の仕入れ及び経費に係る請求書、納品書及び領収書(以下、これらの書類を「本件請求書等」という。)である。
(ロ) 原処分庁は、請求人が提示した本件元帳及び本件請求書等を基に、本件各課税期間の課税仕入れに係る消費税額について仕入税額控除が適用できるか否かを検討したところ、本件元帳に記載された取引のうち、別表6−1から別表6−3までに記載した取引の課税仕入れに係る消費税額については、上記各表の「仕入税額控除帳簿記載要件」欄に記載したとおり仕入税額控除の適用要件を満たしていないから、仕入税額控除を適用することはできないと認定した。
 そして、原処分庁は、本件各課税期間において、仕入税額控除帳簿記載要件及び仕入税額控除請求書等記載要件のいずれの要件をも満たしている取引に係る課税仕入れに係る支払対価の額は、別表7−1から別表7−3までの「金額」欄のとおりであると認定して、仕入税額控除の額を算定した。
ロ 判断
(イ) 消費税法第30条第8項が、仕入税額控除帳簿記載要件を規定しているのは、課税庁が、課税仕入れに係る適正かつ正確な消費税額を容易に把握し、真に課税仕入れが存在するかどうかを確認するためであり、税務調査において当該帳簿が利用されることを前提として、当該要件が定められたものと解される。
 また、上記の趣旨に照らせば、帳簿の記載については、取引の態様に応じ、当該記載によって、当該資産又は役務の内容が課税資産の譲渡等に当たるか否か、真に課税資産の譲渡等が行われたか否かの確認ができる程度の具体的な記載であることが必要であると解される。
 したがって、当該帳簿の記載内容が上記の要件を満たしていない場合には、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を保存しない場合に該当し、当該保存がない課税仕入れに係る消費税額について、仕入税額控除は適用できないことになる。
(ロ) これを本件についてみると、上記イの(イ)のAのとおり、別表6−1から別表6−3までの本件元帳における記載内容は、「仕入税額控除帳簿記載要件」欄に記載したとおり、課税仕入れの相手方の氏名又は名称や課税仕入れに係る資産又は役務の内容が記載されていないなど、いずれも真に課税資産の譲渡等が行われたか否かの確認ができる程度の具体的な記載がされていないといわざるを得ず、仕入税額控除帳簿記載要件を満たしていないから、消費税法第30条第7項の帳簿及び請求書等を保存しない場合に該当し、当該保存がない課税仕入れに係る消費税額については仕入税額控除を適用できない。
 また、上記イの(ロ)のとおり、本件元帳に記載されたその他の記載内容について、原処分庁は、別表7−1から別表7−3までの記載内容は、仕入税額控除帳簿記載要件及び仕入税額控除請求書等記載要件を満たしていると認定して、上記各表の「金額」欄に記載した金額を、課税仕入れに係る支払対価の額であると認定しているところ、当審判所の調査によってもその認定は相当であると認められる。
 したがって、本件各課税期間の仕入税額控除の額は、別表7−1から別表7−3までに記載した各課税期間に係る課税仕入れの支払対価の合計額に105分の4を乗じた金額(別表8の「2仕入税額控除の額」欄の金額)となる。
(ハ) これに対し、請求人は、上記2の(5)の「請求人」欄のとおり主張する。
 しかしながら、上記(ロ)のとおり、本件元帳の記載内容のうち、別表6−1から別表6−3までの記載内容は、仕入税額控除帳簿記載要件を満たしておらず、消費税法第30条第7項の帳簿及び請求書等を保存していない場合に当たるから、仕入税額控除は適用されず、また、請求人は帳簿及び請求書等を保存することができなかったことにつきやむを得ない事情が存したことを主張立証せず、当審判所の調査によっても、請求人にそのような事情が存したとは認められないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(6) 争点6(推計課税の必要性があるか否か。)

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、本件調査において、本件食料品等販売に係る事業に関する書類として、次の書類を提示した。
A 本件元帳
 平成17年分は、売上げ及び仕入れに関する記載はなく、平成18年分は、仕入先ごとに日々の売上げ及び仕入れが記載されているが、一部の仕入先については1か月の仕入れの合計金額をまとめて記載されたものがあり、平成19年分は、売上げに関する記載はなく、仕入れについても各仕入先ごとに1年間の仕入れの合計金額のみが記載されている。
B 本件メモ
 本件メモには、本件食料品等販売に係る仕入れ及び売上げについて記載されているところ、1平成17年分は仕入先ごとの1年間の仕入れの合計金額及びその仕入先との取引に係る純利益の金額が記載され、2平成18年分は仕入先ごとの3か月又は1年間の仕入れの合計金額及び売上げの合計金額が記載されており、3平成19年分については提示がない。
C 本件冊子
 本件冊子には、平成19年分の仕入先2社に係る日々の売上金額が記載されているところ、Hが、本件調査担当者に対し、仕入先ごとに集計した仕入れと売上げのメモを残しているが、平成19年分は当該メモがなくなったので本件調査の開始後に仕入先2社のみについて冊子に記載した旨申述していることからすれば、本件冊子は本件調査の開始後に作成されたものと認められる。
(ロ) 原処分庁は、本件食料品等販売に係る平成17年12月課税期間から平成19年12月課税期間までの各課税期間に係る課税資産の譲渡等の対価の額及び平成19年分の売上金額を、請求人が提示した書類では実額による計算ができないとして、別表9、別表10及び別表11のとおり推計の方法により算定した。
 なお、原処分庁は、本件電化製品販売については、本件購入者誓約書で売上げを実額で確認できるとして、消費税等については別表3−1から別表3−51まで及び別表4の「合計」欄の各金額を本件各課税期間ごとに合計した金額(別表12の「金額」欄の金額)を、所得税については購入(販売)年月日が平成19年中となっている本件購入者誓約書の「販売価格」欄の金額を合計した金額(別表13の金額)を、それぞれ本件各課税期間に係る課税資産の譲渡等の対価の額、平成19年分の売上金額として認定した。
ロ 判断
(イ) 所得税法第156条に規定する推計の方法による課税処分が許容されるのは、納税者が収支を明らかにし得る帳簿書類を備え付けていない、資料の提示を拒否するなど税務調査に非協力的である、帳簿書類を備え付けていても記帳が不正確であるなどのため、実額の把握が不可能又は著しく困難であるような場合に限られていると解するのが相当である。
(ロ) これを本件についてみると、上記イの(イ)のAのとおり、本件食料品等販売に係る事業について、本件元帳は、売上げについて記載されていない年分があること、上記イの(イ)のBのとおり、本件メモは、仕入先ごとの売上げについて合計した金額が記載されているが、作成されていない年分があること、上記イの(イ)のCのとおり、本件冊子は、本件調査の開始後に作成されたものであることからすると、請求人が提示した書類は、平成17年分、平成18年分及び平成19年分のすべての売上げが記載されたものではなく、また、記載された年分についてもその原始記録の提示もないことから、記載の内容が正確であるか否かを検証することはできない。
 そうすると、本件食料品等販売に係る売上げの実額の把握が不可能又は著しく困難である場合に当たるといえるから、原処分庁は、請求人の本件食料品等販売に係る平成17年12月課税期間から平成19年12月課税期間までの各課税期間に係る課税資産の譲渡等の対価の額及び平成19年分の売上金額を算定するに際し推計課税の必要性があったものと認められる。
 また、当審判所が、請求人に対し、本件食料品等販売に係る売上げの証拠資料等の提出を求めたところ、請求人がこれを提出しないので、当審判所においても、本件食料品等販売について、平成17年12月課税期間から平成19年12月課税期間までの各課税期間に係る課税資産の譲渡等の対価の額及び平成19年分の売上金額を推計の方法により算定せざるを得ない。
(ハ) これに対し、請求人は、上記2の(6)の「請求人」欄のとおり主張する。
 しかしながら、本件食料品等販売に係る売上げの実額の把握が不可能又は著しく困難である場合に当たることは、上記(ロ)で述べたとおりであり、本件において推計課税の必要性があったことは明らかというべきであるから、請求人の主張には理由がない。

(7) 争点7(推計課税に合理性があるか否か。)

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 原処分庁は、本件食料品等販売に係る事業について、平成17年12月課税期間から平成19年12月課税期間までの各課税期間に係る課税資産の譲渡等の対価の額及び平成19年分の売上金額を次の方法で推計した。
A 原処分庁は、請求人が期首及び期末の商品棚卸高に関する資料を提示しなかったことから、本件食料品等販売に係る期首及び期末の商品棚卸高を同額とみなし、請求人の仕入先又は本件請求書等を調査して確認した平成17年分、平成18年分及び平成19年分の仕入金額(以下「本件各調査仕入金額」という。)を本件食料品等販売に係る売上原価の額とした。
B 原処分庁は、本件食料品等販売に係る事業を1事業ととらえ、M税務署管内で食料品等を販売する青色申告者で、平成17年分、平成18年分及び平成19年分の各年分について、その売上原価の額が本件各調査仕入金額の2分の1以上2倍以内の範囲にあるものを類似同業者として選定し、当該類似同業者の売上原価の額を当該類似同業者の売上金額で除して、これらの類似同業者の売上原価率を算定してこれを平均し、上記各年分の平均売上原価率を算定した。
C 原処分庁は、平成17年12月課税期間から平成19年12月課税期間までの各課税期間に係る消費税等については、別表10のとおり、当該各課税期間の売上原価の額(本件各調査仕入金額のうち当該各課税期間に対応する金額)を、その課税期間が含まれる年分の類似同業者の平均売上原価率で除して、当該各課税期間の売上金額を算定し、この金額にその年分の類似同業者の平均課税売上割合(売上金額に占める課税資産の譲渡等の対価の額の割合の平均値をいう。以下同じ。)を乗じて、当該各課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額を算定した。
 また、原処分庁は、平成19年分の売上金額については、別表11の「3売上金額」欄のとおり、売上原価の額(本件各調査仕入金額のうち平成19年分に対応する金額)を類似同業者の平均売上原価率で除して売上金額を算定した。
(ロ) 類似同業者等
 原処分庁が採用した類似同業者は、M税務署管内で食料品等を販売する青色申告者で、業種、業態が本件食料品等販売に係る事業と類似し、かつ、その年分の売上原価の額が請求人のそれの2分の1以上2倍以内の範囲にあるなど事業規模が類似するという一定の基準によりし意なく合理的に選定されており、また、採用した類似同業者に係る基礎数値及び当該基礎数値に基づく平均売上原価率の計算過程に誤りは認められない。
 そして、平成17年12月課税期間から平成19年12月課税期間までの各課税期間に係る課税資産の譲渡等の対価の額及び平成19年分の売上金額の計算過程についても、当該各課税期間に係る売上原価の額(本件各調査仕入金額のうち当該各課税期間に対応する金額)及びこれらの金額に基づく当該各課税期間における課税資産の譲渡等の対価の額の計算過程(平均課税売上割合の計算過程を含む。)並びに平成19年分の売上金額の計算過程に誤りはない。
ロ 判断
(イ) 原処分庁が採用した推計方法は、請求人の売上原価の額を類似同業者の平均売上原価率で除するなどして本件食料品等販売に係る売上金額及び課税資産の譲渡等の対価の額を算定しているところ、およそ業種、業態に類似性のある同業者にあっては、特段の事情がない限り、同程度の売上原価の額に対し同程度の収入を得ることが通例であり、このことは請求人の営む本件食料品等販売に係る事業にあっても例外ではないから、原処分庁の採用した上記イの(イ)の推計方法には合理性が認められる。
 また、上記イの(ロ)のとおり、原処分庁が採用した類似同業者の基礎数値を基に算定した平均売上原価率の計算過程、本件各調査仕入金額を基に平成17年12月課税期間から平成19年12月課税期間までの各課税期間における課税資産の譲渡等の対価の額の計算過程及び平成19年分の売上金額の計算過程に誤りは認められないから、本件における推計課税には合理性がある。
(ロ) 請求人は、上記2の(7)の「請求人」欄のとおり主張する。
 しかしながら、同業者率により推計する場合においては、類似同業者間に通常存する程度の営業条件の差異は、当該同業者率の中に吸収され捨象されるものというべきであるから、業種、業態の類似性等推計の基礎的要件に欠けるところがない以上、当該同業者率による推計自体を不合理ならしめる程度の特殊事情が存在しない限り、当該同業者率による推計には合理性があるといえる。
 そこで、請求人が主張する特殊事情について検討するに、請求人は、本件食料品等販売に係る事業が他店との競争に弱いこと及びそのことがどのように売上金額に影響するのかを具体的に主張、立証せず、また、在庫処分による低廉販売は類似同業者においても通常行われるものであることを考慮すると、請求人の主張する上記各事情が、類似同業者による推計自体を不合理ならしめる程度の特殊な事情であるとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(8) 争点8(還付を受ける消費税等は、平成19年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入されるか否か。)

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 平成18年分及び平成19年分の本件元帳の記載状況は、次のとおりである。
A 本件元帳には、仮受消費税、仮払消費税及び立替金の勘定科目はなく、また、仮受消費税、仮払消費税及び請求人が消費税等を立て替えたとする記載はない。
B 本件元帳には、請求人が、平成18年12月31日及び平成19年12月31日に振替経理処理を行って一括して税抜経理処理を行った記載は認められない。
(ロ) 請求人は、別表14の「申告年月日」欄に記載した日(いずれも平成19年中)に、同表の「消費税等の還付金の額に相当する税額」欄の金額を還付を受ける消費税等の税額として記載した平成18年12月課税期間から平成19年9月課税期間までの各課税期間に係る消費税等の確定申告書を、原処分庁へ提出した。
ロ 判断
(イ) 所得税の課税所得金額の計算に当たり、個人事業者が行う取引に係る消費税等の経理処理については、消費税等の額と当該消費税等に係る取引の対価の額とを区分して行う経理方式(税抜経理方式)と、両者を区分しないで行う経理方式(税込経理方式)の二つの方法がある。
 そして、税抜経理方式による場合は、取引の際に消費税等を仮受消費税等又は仮払消費税等として経理し、その課税期間の終了の時における仮受消費税等の金額と仮払消費税等の金額との差額と、当該課税期間の納付すべき又は還付されるべき消費税等とに差額が生じた場合、当該差額については、当該課税期間を含む年の事業所得等の金額の計算上、総収入金額又は必要経費に算入することとなり、税込経理方式による場合は、消費税等を含んだ総額を取引の対価として計上した上、還付を受ける消費税等がある場合には総収入金額に算入し、納付すべき消費税等がある場合にはそれを必要経費に算入することとなる。
 本件個別通達は、上記の理を定めたものであり、当審判所においても、同通達の取扱いは相当であると認められる。
(ロ) これを本件についてみると、上記イの(イ)のAのとおり、平成18年分及び平成19年分の本件元帳には、請求人が税抜経理方式による経理処理を行っていた事実は認められず、上記イの(イ)のBのとおり、請求人が期末に一括して税抜経理方式による経理処理をした事実も認められないことからすると、請求人は税込経理方式を適用し、所得税の経理処理において消費税等を含んだ総額を取引の対価として計上していることが認められ、また、上記イの(ロ)のとおり、請求人は、消費税等の確定申告書に還付を受ける消費税等の税額を記載して、平成19年中に原処分庁へ提出していることからすると、請求人が還付を受ける消費税等の税額○○○○円(別表14の「合計」欄の金額)は平成19年において収入すべき金額であり、平成19年分の所得税の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入されることとなる。
(ハ) これに対し請求人は、上記2の(8)の「請求人」欄のとおり主張する。
 しかしながら、上記(ロ)のとおり、請求人は税込経理方式を適用しており、所得税の経理処理において消費税等を含んだ総額を取引の対価として計上していること、請求人の帳簿等には、請求人が支払う消費税額が一時払いのものであるなどとする記載はなく、請求人が消費税等を他者から受け取っていなかったとする記載もないことからすると、請求人が還付を受ける消費税等の税額は平成19年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入されるべきものであり、請求人の主張には理由がない。

(9) 本件消費税等各更正処分

イ 課税標準額
(イ) 本件各販売物品の譲渡は、課税資産の譲渡等に該当するところ、上記(1)のロの(ロ)、上記(2)のロの(ロ)及び上記(3)のロの(ロ)のDの各判断からすると、当該譲渡について輸出免税及び輸出物品販売場免税を適用することはできない。
  そうすると、消費税の課税標準の基礎となる本件各課税期間における本件各販売物品の譲渡等の対価の額は、別表12の「金額」欄の各金額(別表3−1から別表3−51まで及び別表4の「合計」欄の各金額を本件各課税期間ごとに合計した金額)となる。
(ロ) 上記(7)のロの(イ)のとおり、原処分庁が、平成17年12月課税期間から平成19年12月課税期間までの各課税期間について、本件食料品等販売に係る課税資産の譲渡等の対価の額を推計の方法により算定したことには合理性が認められ、また、当審判所の調査によれば、原処分庁は、平成20年3月課税期間及び平成20年6月課税期間の本件食料品等販売に係る課税資産の譲渡等の対価の額を実額で算定しているところ、当審判所においても、その算定方法は相当と認められる。
  そうすると、本件各課税期間の本件食料品等販売に係る課税資産の譲渡等の対価の額は、別表15の「2本件食料品等販売に係るもの」欄の各金額となる。
(ハ) 以上を前提として、本件各課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額を算定すると、別表15の「3合計」欄の各金額となり、当該各金額にそれぞれ105分の100を乗じて算定した各金額(同表の「4課税標準額」欄の各金額)が、本件各課税期間の課税標準額となる。
ロ 仕入税額控除の額
  上記(5)のロの(ロ)のとおり、本件各課税期間の仕入税額控除の額は、別表8の「2仕入税額控除の額」欄の各金額となる。
ハ 消費税及び地方消費税の各税額
  上記イ及びロを前提として、本件各課税期間の消費税及び地方消費税の各税額を算定すると、別表16の「4納付すべき消費税額」及び「5納付すべき地方消費税額」の各欄の金額のとおりとなる。
  そうすると、平成17年12月課税期間、平成18年6月課税期間、平成18年9月課税期間、平成18年12月課税期間、平成20年3月課税期間及び平成20年6月課税期間の消費税及び地方消費税の各税額は、本件消費税等各更正処分のそれらの額と同額となり、平成18年3月課税期間、平成19年3月課税期間、平成19年6月課税期間、平成19年9月課税期間及び平成19年12月課税期間の消費税及び地方消費税の各税額は、本件消費税等各更正処分のそれらの額を上回る(還付金の額に相当する税額は下回る。)から、本件消費税等各更正処分は適法である。

(10) 本件消費税等過少申告加算税各賦課決定処分

 上記(9)のハのとおり、本件消費税等各更正処分は適法であり、また、請求人には、本件消費税等各更正処分(平成19年9月課税期間及び平成19年12月課税期間に係るものを除く。)により納付すべき税額又は還付金の額に相当する税額の計算の基礎となった事実が本件消費税等各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてされた本件消費税等過少申告加算税各賦課決定処分はいずれも適法である。

(11) 本件消費税等無申告加算税各賦課決定処分

 上記(9)のハのとおり、本件消費税等各更正処分は適法であり、また、請求人には、平成19年9月課税期間及び平成19年12月課税期間に係る消費税等の申告につき、期限内申告書が提出されなかったことについて、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の9第1項の規定に基づいてされた本件消費税等無申告加算税各賦課決定処分はいずれも適法である。

(12) 本件所得税更正処分

イ 事業所得の金額
(イ) 総収入金額
  上記(3)のイの(ロ)のBのとおり、本件購入者誓約書は、本件各課税期間の本件電化製品販売に係るすべての取引について作成されているところ、当審判所が本件購入者誓約書を基に平成19年分の本件電化製品販売に係る売上金額を算定すると、別表13のとおり293,114,020円となる。
  また、上記(7)のロの(イ)のとおり、原処分庁が、平成19年分の本件食料品等販売に係る売上金額を推計の方法により算定したことには合理性が認められるところ、当審判所が平成19年分の本件食料品等販売に係る売上金額を算定すると、別表11の「3売上金額」欄のとおり○○○○円となる。
  さらに、上記(8)のロの(ロ)のとおり、請求人が還付を受ける消費税額○○○○円(別表14の「合計」欄の金額)は平成19年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入することになる。
  そうすると、平成19年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額は、別表17のとおり○○○○円(「4合計」欄の金額)となる。
(ロ) 必要経費
  当審判所の調査によれば、平成19年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、売上原価の額319,920,308円及び販売費等の額3,207,608円であると認められるから、これらを合計した金額323,127,916円が必要経費となる。
(ハ) 事業所得の金額
  以上からすれば、総収入金額○○○○円から必要経費323,127,916円を控除して求めた金額○○○○円が、平成19年分の事業所得の金額となる。
ロ 総所得金額
  当審判所の調査によれば、請求人が平成19年中に取得した還付加算金○○○○円は雑所得の総収入金額に該当し、当該金額が雑所得の金額になる(この点については、請求人も争わない。)ところ、上記雑所得の金額○○○○円及び上記イの(ハ)の事業所得の金額○○○○円を合計した金額○○○○円が、平成19年分の総所得金額となる。
ハ 所得控除の金額
  別表2の「更正処分等」欄の「所得控除の合計額」欄のとおり、原処分庁は、所得控除の金額を○○○○円と認定(確定申告額に379,700円を加算)して本件所得税更正処分を行っているところ、当審判所の調査によっても、原処分庁の上記認定は相当と認められる。
ニ 納付すべき税額
  上記イからハまでを前提として、当審判所が、平成19年分の所得税の納付すべき税額を算定すると○○○○円となり、この金額は本件所得税更正処分のそれを上回るから、本件所得税更正処分は適法である。

(13) 本件所得税賦課決定処分

 上記(12)のニのとおり、本件所得税更正処分は適法であり、また、本件所得税更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件所得税更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件所得税賦課決定処分は適法である。

(14) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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