(平成23年3月23日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、納税者F(以下「本件滞納者」という。)から金銭を無償で譲り受けたとして、原処分庁が、請求人に対し、国税徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に基づく第二次納税義務の納付告知処分をしたところ、請求人が、本件滞納者から無償で金銭を譲り受けた事実はないとして、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、本件滞納者が納付すべき別表1記載の滞納国税を徴収するため、請求人に対し、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条の規定に該当するとして、同法第32条《第二次納税義務の通則》第1項の規定に基づき、平成20年11月5日付の納付通知書により、納付すべき金額の限度額を○○○○円とする第二次納税義務の納付告知処分をした。
ロ 請求人は、この処分を不服として、平成20年12月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成21年2月27日付で棄却の異議決定をし、当該異議決定書の謄本は、同月28日に請求人に送達された。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成21年3月31日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 徴収法第39条は、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡(担保の目的でする譲渡を除く。)、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免かれた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他の特殊関係者であるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。

(4) 基礎事実(争いのない事実及び証拠から容易に認定できる事実)

イ 本件滞納者と請求人との関係等
(イ) 本件滞納者は、昭和56年6月5日から平成18年3月31日までの間、G社(以下「本件法人」という。)の代表取締役に就いていた。
(ロ) 請求人は本件滞納者の子であり、平成4年3月から本件法人の従業員となり、また、H社の取締役に就いていた。
(ハ) Jは請求人の配偶者であり、平成18年3月31日に本件法人の代表取締役に就任し、また、H社の取締役に就いていた。
ロ 信託受益権の譲渡
 本件滞納者及び本件法人は、別表2記載の土地及び建物(以下、この土地を「本件土地」、建物を「本件建物」といい、これらを併せて「本件不動産」という。)を別表2の「持分」欄記載の持分で共有し、本件建物を貸家及び貸駐車場として賃貸の用に供していた。
 本件滞納者及び本件法人は、平成17年5月31日に、K銀行との間で、委託者及び受益者をそれぞれ本件滞納者及び本件法人とし、受託者をK銀行として、本件不動産を受益者のために管理、運用及び処分することを内容とする不動産管理処分信託契約を締結するとともに、L社(以下「本件譲受人」という。)との間で、上記不動産管理処分信託契約によって本件滞納者及び本件法人が取得する本件不動産に係る信託受益権を本件譲受人に譲渡する旨の契約を締結した(以下、この契約による本件不動産に係る信託受益権の譲渡を「本件譲渡」という。)。
 なお、本件譲渡により本件滞納者及び本件法人が支払を受ける譲渡代金の総額(以下「本件譲渡代金」という。)は、2,300,000,000円であり、その内訳は、本件土地に係る部分が1,565,000,000円、本件建物に係る部分が700,000,000円、消費税及び地方消費税相当額が35,000,000円である。本件譲渡に係る契約において、本件譲受人は、本件譲渡代金(本件不動産から生じる賃料等の収益や公租公課等の費用を本件不動産に係る信託受益権の移転日をもって区分し、当該移転日の前日までに発生したものを本件滞納者及び本件法人に、当該移転日以後のものを本件譲受人にそれぞれ帰属させることにより精算が必要となる場合には、その精算後の金額)のうち各持分に応じた金額を、M銀行N支店の本件滞納者名義の普通預金口座(口座番号○○○○)及び同支店の本件法人名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件法人口座」という。)にそれぞれ振り込むことになっていた。
ハ 本件譲渡代金の支払
 本件譲受人は、平成17年4月12日に、本件法人に対し、手付金として20,000,000円を支払い、また、本件譲渡代金から、当該手付金、本件不動産に設定されていた根抵当権の被担保債権の弁済に充てられた1,799,977,337円、本件譲受人が本件滞納者及び本件法人から承継する敷金返還債務引継額49,569,200円、並びに、本件滞納者及び本件法人の未払家賃及び管理費8,266,654円を控除し、これに信託受益権の移転日をもって区分して計算した固定資産税等精算金6,009,810円を加算した428,196,619円(以下「本件残余金」という。)を平成17年5月31日に本件法人口座に振り込んだ。
ニ 請求人、本件法人、本件滞納者及びJの各名義預金口座の入出金状況
 平成17年5月27日から同年9月30日までの本件法人口座の入出金状況及び預金残高は、別表3記載のとおりである。そして、別表3記載のとおり、平成17年5月31日から同年9月30日までの間に本件法人口座から合計431,608,559円が出金されており、そのうち、まる1○○○○円がM銀行N支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下、この口座を「請求人口座」といい、この口座に振替入金された金員を「請求人口座振替金」という。)へ、まる2○○○○円が同支店のJ名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「J口座」という。)へ、及び、まる342,000,000円が同支店の本件滞納者名義の2つの普通預金口座(口座番号○○○○及び○○○○。以下、この2つの口座を併せて「本件滞納者口座」という。)へ、それぞれ振替入金された。
ホ 原処分
 原処分庁は、本件滞納者が請求人に請求人口座振替金を無償で譲渡したとして、平成20年11月5日付で原処分を行った。

(5) 争点

 本件滞納者から請求人に対する財産の無償譲渡の存否。

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2 主張

(1) 原処分庁

 本件法人は、本件譲渡代金のうち本件滞納者の持分相当額として1,309,554,398円を同社の仮受金勘定に経理処理していることから、本件譲渡代金のうち本件法人の持分相当額は990,445,602円である。
 本件譲受人は、平成17年5月31日に、本件譲渡代金から手付金並びに本件滞納者及び本件法人が負担すべき各借入金及び諸経費等を控除し、固定資産税等の精算分を加算した本件残余金428,196,619円を本件法人口座に振り込んでおり、本件残余金のうち本件滞納者及び本件法人のそれぞれが受け取るべき金額は、別表4−1の「まる7」欄記載のとおり、本件滞納者が279,543,363円、本件法人が148,653,256円となる。
 本件残余金のうち、本件法人が受け取るべき金額148,653,256円は、本件残余金が入金された平成17年5月31日以降、同社の別表5記載の経費等の支払に充てられており、一方、本件滞納者が受け取るべき金額279,543,363円は、本件滞納者が受領した事実が認められないことから、請求人口座振替金の原資は、本件残余金のうち本件滞納者の持分相当額と認められる。
 請求人口座振替金は、請求人が開設した請求人口座へ振り替えられているから、本件滞納者から請求人の処分権限内へ移ったものと認められ、平成17年6月16日から同年8月29日までの間に、請求人口座からP証券の請求人名義の口座へ合計85,782,328円が振り替えられている。
 請求人は、請求人口座振替金を別表6記載の各経費の支払等に充てた旨主張するが、まる1その中に支払を裏付ける領収証書等の提示がないものがあること、まる2請求人口座振替金を別表6記載の各経費の支払に充てるのであれば、あえて請求人の預金口座を経由させる必要性がないこと、まる3別表6の順号5記載の支払先の実体が確認できず、その支払が真実性に欠けること、まる4請求人口座から請求人口座振替金の一部が証券会社の請求人名義の口座へ振り替えられた事実があること、及び、まる5請求人が提出した証拠書類の中には、本件法人口座から請求人口座へ最初に振替がされた平成17年5月31日よりも前に支払われた領収証書等が混在し、請求人口座振替金を原資として請求人の主張する諸経費の支払に充てられたとする事実が確認できないことから、請求人の主張に疑問を呈さざるを得ず、請求人口座振替金が本件滞納者の経費の支払資金に還流したと認めることはできない。
 そうすると、請求人口座振替金は、本件滞納者に還流した事実が認められない以上、請求人に帰属したものと認められ、また、これについて請求人から本件滞納者に対し対価又は取得費用を支払った事実も認められないから、本件滞納者から請求人へ無償で譲渡されたものというべきである。

(2) 請求人

 原処分庁は、請求人口座振替金について、請求人が本件滞納者から無償で受領したと認定している。しかしながら、本件残余金の全額が一旦本件法人の総勘定元帳の現金勘定に計上され、本件滞納者及び本件法人が支払うべき別表6記載の各経費の支払等に充てられているから、本件滞納者から請求人個人への流失はない。
 請求人口座に請求人口座振替金を入金した理由は、まる1本件法人口座に入金されたままでは、銀行窓口で現金を引き出す際の本人確認等の手続が煩雑であること、まる21日当たりの現金出金に限度額が設定されているところ、限度額を超える現金を出金する必要があったため、複数の口座を使用しなければならず、一時的に個人名義預金口座を利用する必要に迫られたことである。
 なお、仮に、原処分の全部の取消しが認められない場合であっても、領収証書等で経費の支払の事実が確認できる部分については、第二次納税義務の限度額が取り消されるべきである。

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3 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果により認められる事実は、以下のとおりである。
イ 請求人と本件法人及び本件滞納者との関係
 本件法人は、本件不動産の賃貸を始めた平成4年頃まで建築設計を行い、その後、平成10年頃まで特殊建築物の調査及び検査などを行っていたが、それ以降は本件不動産の賃貸のみをその業務としていた。本件法人の代表者であった本件滞納者は、平成10年頃から、本件法人の業務のすべてを請求人に任せ、また、本件譲渡前には、本件滞納者個人の債務の弁済事務も請求人に任せていた。そこで、請求人は、本件譲渡によって本件滞納者及び本件法人の債務を弁済することを計画し、本件滞納者及び本件法人の双方から本件譲渡代金の管理処分を任されていたことから、本件滞納者口座及び本件法人口座の預金通帳、銀行印及びキャッシュカードを管理して、入出金のすべてを行った。
 なお、請求人は、本件滞納者との間に何らの債権債務関係はないとの認識を持っていた。
 本件滞納者は、本件譲渡による債務弁済に当たって、本件譲渡代金に余剰が出た場合には、請求人に使って欲しいとの意思を有し、本件譲渡以降、請求人に対し、本件譲渡代金の余剰を含め何ら金員の交付又は返還を求めていない。
ロ 請求人の経済状況
 本件法人及びH社の総勘定元帳によれば、請求人は、本件法人の従業員として給与を平成16年12月まで月額約○○○○円、平成17年1月から同年3月まで毎月857,781円受け取り、また、H社の役員として報酬を平成17年3月まで毎月85,000円受け取っていた。請求人は、平成17年5月31日から同年8月30日までの期間(以下「本件収支計算期間」という。)の収入として、まる1本件法人を退職したとして退職金を44,276,000円、まる2この退職による○○○○を同年6月7日に○○○○円、同年7月5日及び同年8月2日に各○○○○円、並びに、同月30日に○○○○円、まる3児童手当を同年6月10日に80,000円、並びに、まる4株式売却代金を616,575円の以上合計45,827,800円を受けていた。
 そして、請求人名義の普通預金、当座預金及び証券会社口座の各残高の合計は、本件収支計算期間直前の平成17年5月30日時点で△1,857,409円であり、同期間の末日時点で○○○○円である。また、請求人は、平成17年8月29日及び同月30日に、Q銀行R支店において、合計○○○○円の定期預金を設定した。同定期預金は、平成17年9月29日及び同月30日に解約され、解約出金された金員は、H社に貸し付けられ、H社においては、請求人からの貸付金として経理処理された。
ハ 本件残余金の入金時に精算された金員の内訳
 本件不動産に設定されていた根抵当権の被担保債権の弁済に本件譲渡代金から充てられた金員1,799,977,337円の本件滞納者及び本件法人の各負担額は、本件滞納者が993,894,556円、本件法人が806,082,781円である。また、固定資産税等精算金6,009,810円のうち、本件土地に係る本件滞納者分が1,568,191円、本件法人分が893,648円、本件建物に係る本件滞納者分が1,511,435円、本件法人分が2,036,536円である。
ニ 本件法人口座内金員の移動状況
 本件法人口座の入出金状況は別表3記載のとおりであり、本件法人口座内金員は、請求人口座、J口座及び本件滞納者口座へ振り替えられたほか、現金で出金された。そして、この各口座へ振り替えられた金員は、その後、請求人口座から請求人名義の証券会社口座へ振り替えられたほか、請求人口座、J口座及び本件滞納者口座から百万円単位の現金で出金され、同時期に他の銀行の請求人名義の口座やJ名義の口座へ同程度の金額の現金が入金されている。さらに、請求人名義の証券会社口座から他の銀行の請求人名義の口座へ振替が行われ、他の銀行の請求人名義、J名義、本件法人名義及びH社名義の各預金口座において同額程度の現金の入出金が行われたほか、これらの各口座間で同額程度の振替が行われた。
 請求人は、本件譲渡当時、J口座の預金通帳、銀行印及びキャッシュカードを持ち、すべての入出金を行うなど、J口座を管理支配していた。
 以上の金員の振込み、振替、現金の入出金は、すべて請求人によって行われたものであるが、口座名義人であるJ及び本件滞納者はこれを把握していなかった。
ホ 本件法人及び本件滞納者の収入及び支出
 本件収支計算期間直前の平成17年5月30日時点での本件法人の資産は、現金及び預金が合計277,650円であった。また、本件収支計算期間の本件法人及び本件滞納者の支出状況は別表7記載のとおりであり、収入状況は別表8記載のとおりである。
 なお、別表7記載の内容のうち、仲介手数料、企画料、司法書士報酬、土地家屋調査士報酬及び固定資産税については本件不動産に係る支出であり、保証金返還、S社に対する管理費等未払金の支払及び過入金戻しについては本件建物の賃貸借に係る支出である。また、別表8記載の内容のうち、本件法人口座の本件譲渡前残高、本件残余金及び利息を除いた収入は、すべて本件建物の賃貸借による収入であり、借入れ等によるものはない。そして、別表3記載の弁護士Tからの入金は本件建物の賃貸借によるU社からの収入である。

(2) 判断

イ 本件滞納者の贈与意思
 まず、上記(1)イによれば、本件滞納者は、本件譲渡代金によって自己及び本件法人の債務を弁済し、余剰については請求人に対して贈与する意思を有していたと認めることができる。そして、上記(1)イのとおり、本件滞納者は、本件不動産の賃貸やその売却による債務の弁済といった自己及び本件法人の業務を請求人に委任し、本件譲渡後において、請求人に本件残余金や本件不動産の賃料等の収入(以下、これらを併せて「本件残余金等」という。)について返還を求めず、その返還義務について何ら書面を残すことなく、その処分を請求人にゆだねていたのであるから、かかる事実からすると、本件滞納者は、請求人に対し、本件残余金等のうち、請求人に委任した業務に必要な経費を支払った余剰金を贈与する黙示の意思表示があったものと推認することができる。
 そうすると、本件残余金等のうち本件滞納者が取得すべき金員が本件法人口座に入金されたことにより、同金員が法律上本件法人の財産となり、本件滞納者が本件法人に対して同金員の返還請求権を有する状態になってはいても、上記のとおり本件滞納者が贈与意思をもって本件残余金等の管理処分を請求人にゆだねていたのであるから、請求人によって本件残余金等のうち本件滞納者が取得すべき額の範囲内の金員が本件法人口座から請求人の下に対価なく移転されていれば、形式的には本件法人の財産が移転したかのようにみえるが、第三者によって本件滞納者が受け取るべき本件残余金等も本件法人が受け取るべき分と一括して本件法人口座に振り込まれ、同口座から請求人の下に移転するという一連の事実経過をみると、それは贈与の黙示の意思表示を受けた請求人によってなされた本件滞納者の贈与意思の実現過程の一部分にすぎず、実質的にみて本件滞納者の財産が請求人に対して無償譲渡されたといえる。
 以上からすると、本件法人口座内の本件滞納者が取得すべき金員のうち債務支払に充てられた金員を控除した金員が対価なく請求人に移転したかが問題となり、その判断に当たっては、本件残余金が本件法人口座に入金されたのが平成17年5月31日であり、その後同口座の残高が零円となったのが同年8月26日で、請求人が合計○○○○円の定期預金を設定したのが同月30日であることに照らすと、本件収支計算期間における、本件法人口座の預金のうち本件滞納者が取得すべき額、本件法人口座からの出金状況並びに本件法人及び請求人の収支等諸般の事情を総合考慮すべきであるので、以下、これらの点について検討する。
ロ 本件法人口座の預金のうち本件滞納者が取得すべき金員の額
(イ) 本件残余金のうち、本件滞納者及び本件法人の取得すべき額
A 本件譲渡代金のうち、本件滞納者及び本件法人の受領すべき額
 上記1(4)ロによれば、本件滞納者及び本件法人が本件譲渡代金から受領すべき金額は、本件譲渡代金の本件土地分に対する各持分割合相当額及び本件建物分に対する各持分割合相当額の合計となるから、それぞれ以下のとおりとなる。
(A) 本件滞納者が受領すべき金額

(本件土地分)

1,565,000,000円 × 30,460
47,840
= 996,444,398円(四捨五入)

(本件建物分)

(700,000,000円 + 35,000,000円)× 426
1,000
= 313,110,000円

(計)

996,444,398円 + 313,110,000円 = 1,309,554,398円

(B) 本件法人が受領すべき金額

(本件土地分)

1,565,000,000円 × 17,380
47,840
= 568,555,602円(四捨五入)

(本件建物分)

(700,000,000円 + 35,000,000円)× 574
1,000
= 421,890,000円

(計)

568,555,602円 + 421,890,000円 = 990,445,602円

B 本件譲渡代金からの控除額について本件滞納者及び本件法人の負担額
 上記(1)ハのとおり、本件不動産に設定されていた根抵当権の被担保債権の弁済に充てられた金員のうち、本件滞納者と本件法人の各負担額は、本件滞納者が993,894,556円、本件法人が806,082,781円である。また、上記1(4)ハの敷金返還債務引継額並びに未払家賃及び管理費については、いずれも本件建物の賃貸に関するものであるから、本件建物についての別表2記載の持分割合によって、本件滞納者と本件法人の負担金額を算出することが相当であり、そうすると、敷金返還債務引継額については、本件滞納者が21,116,479円、本件法人が28,452,721円、未払家賃及び管理費については、本件滞納者が3,521,595円、本件法人が4,745,059円となる。そして、固定資産税等精算金については、上記(1)ハのとおりであるから、合計すると本件滞納者が3,079,626円、本件法人が2,930,184円となる。さらに、上記1(4)ハのとおり、手付金については、本件法人が取得したものであるから、本件法人の取得すべき額から全額控除すべきである。
C 以上によれば、別表4−2記載のとおり、本件残余金のうち、本件滞納者が取得すべき額は294,101,394円であり、本件法人が取得すべき額は134,095,225円となる。
(ロ) 本件法人口座に振り込まれた賃料等収入のうち、本件滞納者及び本件法人が取得すべき額
 別表3及び上記(1)ホによれば、本件収支計算期間内に本件法人口座へ入金された本件建物の賃貸借による収入は合計3,362,262円であり、本件建物の賃貸借による収入である以上、本件建物の持分割合に応じて本件滞納者と本件法人に帰属すべきであるから、同収入のうち、本件滞納者が取得すべき額は1,432,323円、本件法人が取得すべき額は1,929,939円となる。なお、本件法人口座の本件譲渡前の残高8,224円及び利息収入189円は、口座名義人である本件法人に帰属すべきものである。
(ハ) 以上によれば、本件収支計算期間において、期首の本件法人口座の預金残高と同期間内に同口座へ入金された額のうち、本件滞納者が取得すべき額は295,533,717円、本件法人が取得すべき額は136,033,577円となる。
ハ 本件法人口座からの金員の出金状況
 別表3によれば、本件収支計算期間末日である平成17年8月30日時点での本件法人口座の預金残高は零円であり、本件収支計算期間内に合計431,567,294円の金員が本件法人口座から出金され、そのうち、J口座及び本件滞納者口座へ合計○○○○円の金員が振り替えられている。上記(1)イ及びニのとおり、請求人はJ口座及び本件滞納者口座の預金通帳、銀行印、キャッシュカード等を管理し、当時、実際に現金の移動も行っているだけでなく、その移動について、Jも本件滞納者も全く把握していないことからすると、これらの各口座内の預金の管理処分権は、請求人にあったというべきである。また、別表3によれば、本件収支計算期間に本件法人口座から請求人口座へも合計○○○○円の金員が振り替えられているが、同口座の名義人である請求人以外の者が同口座内の預金の管理処分権を有することをうかがわせる事実がないことからすれば、同口座内の預金の管理処分権もまた請求人にあったというべきである。
 そうすると、本件収支計算期間に本件法人口座から請求人の管理下へ合計○○○○円の金員が移転したということができる。
ニ 本件収支計算期間内の本件法人及び請求人の収入及び支出の状況
(イ) 本件法人の収入及び支出の状況
 本件収支計算期間内の本件法人の支出が、別表7記載のとおり合計180,837,114円であり、その原資として同期間内の本件滞納者の収入も考えられるが、別表8の「証拠上認められる収入金額」欄記載のとおり本件滞納者及び本件法人の収入が明確に区分されずに管理され、どの収入が本件法人の支出の原資となっているかについて明らかにする証拠がない以上、本件法人の経費の支払は、端的に、まず本件法人の収入及び流動資産を原資として行われたと解するのが合理的であるから、まず本件法人の本件収支計算期間内の収入と本件収支計算期間直前において有していた現金及び預金についてみると、その収入が別表8の「左の収入金額の内訳」欄記載のとおり合計143,897,085円と算定でき、本件収支計算期間直前の平成17年5月30日時点の本件法人の有する現金及び預金の額が上記(1)ホのとおり合計277,650円であって、これらの合計額は144,174,735円と本件法人の上記支出額に36,662,379円満たない。さらに、上記(1)ホのとおり同期間内に本件法人が借入れ等によって資金を調達した事実がないことを併せて考えると、同期間内の本件法人の収入はすべて本件法人の支出に費やされたと認めるのが相当である。
 そうすると、上記イのとおり、本件滞納者が本件譲渡代金を債務弁済に充てた余剰について請求人に贈与する意思を有していることにかんがみても、本件滞納者の取得すべき金員のうち本件法人の支出に費やされた額は、多くとも上記の本件法人の支出の原資として足りない36,662,379円にとどまると解するのが相当である。
(ロ) 請求人の収入及び支出の状況
 上記(1)ロのとおり、本件収支計算期間末日である平成17年8月30日時点で、請求人名義の普通預金、当座預金、定期預金及び証券会社口座の各残高は合計○○○○円であるところ、上記(1)ロによれば、その預金が請求人の貸付金となっていること、上記(1)イのとおり請求人が本件法人及び本件滞納者の財産を管理し、上記(1)ニによれば、請求人が他人名義の口座を管理下に置いている状況にあったことからすると、上記(1)ロの請求人名義の普通預金等については請求人に帰属する財産であると推認することができ、同預金が本件滞納者等の第三者に帰属するなど上記推認を覆すに足りる証拠はない。他方、本件収支計算期間直前の平成17年5月30日時点での同預金の残高が△1,857,409円であるから、請求人は、同期間内に○○○○円の資産を増加させたことになる。この点、上記(1)ロのとおり、証拠上認定できる請求人の本件収支計算期間内の収入が合計45,827,800円であり、請求人が合計○○○○円の定期預金を設定できるだけの資金を借入金等によって調達した事実が認められないことから、少なくともこれと資産増加額との差額である○○○○円は、請求人が本件収支計算期間内に取得したと推認することができる。
ホ 以上によれば、本件法人口座から本件滞納者が取得すべき額が上記ロ(ハ)のとおり295,533,717円であり、そのうち本件法人の支出に充てられた額が上記ニ(イ)のとおり多くとも36,662,379円であるので、本件法人口座から本件滞納者が取得すべき額は258,871,338円残っているといえ、本件法人口座から請求人の管理下へ移動した額が上記ハのとおり○○○○円であることを考えると、請求人が本件収支計算期間内に取得した○○○○円は、上記の本件滞納者が取得すべき額の残存額と請求人の管理下へ移動した額を下回るものであるから、本件法人口座内の本件滞納者が取得すべき金員から請求人の管理下に移転したものというべきである。
ヘ 本件滞納者が取得すべき金員の請求人への移転に関する対価の有無
 以上のとおり、本件法人口座へ入金された本件滞納者が取得すべき金員のうち、少なくとも○○○○円の金員が口座振替等によって請求人の下に移転したといえるところ、上記(1)イのとおり、請求人と本件滞納者との間には何ら債権債務関係はなく、上記イのとおり本件滞納者には請求人に対する贈与意思があるから、本件滞納者が取得すべき金員の請求人への移転は何ら対価関係のないものということができる。
ト 結論
 以上からすると、本件滞納者から請求人に対して○○○○円の財産が無償で譲渡されたものと認められるから、この範囲内である○○○○円を限度として請求人に第二次納税義務を負わせた原処分は適法である。
チ 請求人の主張及び答述について
(イ) 請求人は、別表6記載の各経費を支払ったこと、及び、請求人口座振替金は本件法人の経費等に充てられ請求人個人に流出していない旨主張し、当審判所に対し、本件残余金入金前に支払った本件法人の経費については、本件法人に対する立替金ないし貸付金である旨答述する。
(ロ) まず、本件残余金入金前の法人経費の支払については、かかる答述のとおりであるとすると、請求人への本件残余金の移転が、本件法人から請求人への立替金ないし借入金債務の弁済と考えることができ、無償譲渡に該当しないことから、請求人が本件法人に対して立替金ないし貸金債権を有しているか否かが問題となる。
 この点、当審判所の調査の結果によれば、請求人が支払ったとする本件法人の経費等のうち、平成17年5月30日以前に支払われたと認めることができるものは別表6の「左のうち平成17年5月30日以前に支払ったと認められる金額」欄記載のとおりであり、別表6の順号1、2及び17記載の支払先に対する支払の一部は、請求人口座から振り込んでいることが認められる。ただし、請求人名義の預金口座の取引履歴によれば、請求人口座からの振込みの直前に、ほぼ同額の現金入金や本件法人からの振込入金があることが認められることからすると、請求人口座から振り込んだからといって、それのみをもって本件法人の経費が請求人の原資から支払われたものということはできない。さらに、当審判所の調査の結果によれば、上記の平成17年5月30日以前における本件法人の経費等の支払は、一度に1,000,000円以上の金額を支払うことが複数回あり、特に平成16年8月から同年10月までの3か月間に2,000,000円以上の支払が10回以上行われるなど頻繁に多額の支払をするものであり、上記(1)ロのとおり、平成17年5月以前の請求人の収入源は給与等しかないことからすると、請求人が2,000,000円を超えるような多額の本件法人の経費支払の原資を頻繁に調達することは不可能ということができる。そして、上記(1)イのとおり、請求人は、本件法人の業務全般を担当していたのであるから、その経費支払の詳細を最もよく知る者であり、かつ、請求人の経済状況について最もよく知る者であるが、本件法人の経費の支払について、請求人の原資から支出されたことを示す証拠を提出しない。
 以上からすると、本件譲渡前の本件法人の経費について、請求人の原資で支払われていないと推認することができ、他にこの推認を覆すに足りる客観的な証拠がないから、請求人の答述を考慮しても、請求人が本件法人に対して立替金ないし貸金債権を有していないと解するのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ハ) 次に、本件収支計算期間内の本件法人の経費等の支払については、上記ニ(イ)のとおり本件法人が取得すべき額の全部と本件滞納者が取得すべき額の一部によって賄われたものであり、本件滞納者が取得すべき額の残部が請求人個人名義の預金の原資となったことは上記ホのとおりであるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ニ) そして、平成17年8月31日以降の本件法人の経費支払については、請求人の主張する経費支払が全部で412,342,964円であるのに対し、平成17年5月30日以前の経費支払として認定できるのが別表6記載のとおり109,799,547円、本件収支計算期間内の本件法人分と本件滞納者分の経費支払合計として認定できるのが別表7記載のとおり275,605,450円であるから、請求人の主張する経費支払のうち平成17年8月31日以降分は多くても26,937,967円にとどまる。これに対し、上記ホのとおり、本件収支計算期間内に本件法人口座へ入金された本件滞納者が取得すべき金員295,533,717円のうち、少なくとも請求人の個人的使途に費消されたと認められる金額は○○○○円であるから、その他の本件滞納者が取得すべき金員は○○○○円となる。そして、上記ニ(イ)のとおり、同金員のうち本件収支計算期間内の本件法人の経費支払に充てられたのは36,662,379円であるから、これを控除した残額は○○○○円となる。そうすると、本件法人口座へ入金された本件滞納者が取得すべき金員のうち請求人の個人的使途及び本件収支計算期間内の本件法人の経費支払に費やされていない部分のみで本件収支計算期間以降の本件法人の経費を支払うことができるのであるから、その支出が無償譲渡の成否に影響を与えるものではなく、したがって、その存否について判断するまでもなく、請求人の主張は採用できない。
(ホ) 以上のとおり、請求人の主張はいずれの法人経費の支払についても採用できない。

(3) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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