(平成23年6月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人C(以下「請求人C」という。)及び同F(以下「請求人F」といい、この両名を併せて「請求人ら」という。)が、相続によって取得した登記簿上の地目が公衆用道路である土地の価額について、不動産鑑定士による鑑定評価額を基礎とすべきであるとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該鑑定評価額は当該土地の客観的交換価値を示していないとして更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたのに対し、請求人らが、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 平成21年4月○日に死亡したG(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、請求人らの審査請求(平成22年8月3日請求)に至る経緯は、別表1記載のとおりである。なお、以下、平成22年5月6日付でされた更正をすべき理由がない旨の各通知処分を「本件各通知処分」という。
 また、請求人らは、請求人Cを総代として選任し、平成22年8月3日にその旨届け出た。

(3) 関係法令等

 別紙4のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人Cは、本件被相続人の子で本件相続における唯一の法定相続人であり、請求人Fは、請求人Cの子で本件相続における受遺者である。
ロ 請求人Cは、本件相続により別表2の順号まる1まる2及びまる3記載の各土地(以下、これらの土地を併せて「本件土地」という。)に係る各10分の8の共有持分(以下、本件土地の10分の8の共有持分を「本件持分」という。)を取得した。また、請求人Cは、併せて、本件土地に隣接する土地等を本件相続により取得した。
ハ 本件土地は、評価通達14−2《地区》に定める路線価地域の普通住宅地区に所在している。また、本件土地は、その北西側においてf市道H号線(以下「本件公道」という。)に面しており、本件土地が面する部分における本件公道の平成21年分の路線価(以下「正面路線価」という。)は、115,000円である。
ニ 本件土地は、昭和43年8月に建築基準法第42条《道路の定義》第1項第5号に規定する道路(以下「位置指定道路」という。)として位置の指定を受けている。
ホ 請求人らは、本件相続に係る相続税について、本件持分の価額を別表4の「本件申告額」欄の「相続税評価額」欄記載のとおり、5,223,316円であるとして申告した(以下、当該価額を「本件申告額」という。)が、その後、本件土地の価額は、J社の不動産鑑定士K(以下「K鑑定士」という。)及び同L(以下、K鑑定士と併せて「K鑑定士等」という。)が作成した平成21年11月30日付の不動産鑑定評価書(以下「本件鑑定書」という。)に基づく鑑定評価額零円(以下「本件鑑定評価額」という。)であるとして更正の請求をした。なお、本件鑑定書の要旨は、別紙5のとおりである。

(5) 争点

イ 本件持分の評価に当たり、評価通達の定めにより難い特別な事情があるか否か。
ロ 評価通達の定めに基づいて算定される本件持分の評価額はいくらか。

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2 主張

(1) 争点イについて

イ 請求人ら
(イ) 本件土地は、本件土地の沿接地の関係者及び不特定多数の者の通行の用に供されており、不動産鑑定評価上、その価額が零円となるので、評価通達の定めにより難い特別な事情があることとなるから、本件持分の価額は本件鑑定評価額を基礎とすべきである。
(ロ) 本件鑑定評価額が客観的交換価値を示していることは、次のことからも明らかである。
A 本件土地は位置指定道路であり、本件土地の沿接地の関係者及び不特定多数の者によって、現に無償で通行の用に供されているから、今さら通行権を確保するために、本件土地が購入されることは非現実的である。
B また、h県の過去3年間の取引事例数万件を調べても、地方公共団体や不動産開発業者が道路開設のために宅地を買い取って公衆用道路とした事例が数件あった以外には、本件土地のように公衆用道路として登記された土地が単独かつ有償で取引された事例はない。宅地と併せて私道が取引された事例はあるが、私道部分は無償で取引されており、現に平成17年9月に本件土地の持分10分の1が無償で譲渡されている。
ロ 原処分庁
 本件土地の私道としての価値率を零とする内容の本件鑑定書は、次のとおり合理性を欠くものであり、その結果算定された本件鑑定評価額は、本件相続開始時における本件土地の客観的交換価値を示しているとは認められないから、評価通達の定めにより難い特別な事情は認められず、本件鑑定評価額を基礎として本件持分の価額を評価することはできない。
(イ) 本件土地は、特定の者の通行の用に供されている私道であり、地価公示における地価調査に用いられる土地価格比準表上の共用私道と認められるところ、土地価格比準表では、共用私道の価額を零円とすることは予定されていない。
(ロ) 本件土地は、私人の所有物である以上、私有物としての処分可能性がないとはいえず、また、本件土地の登記簿上の地目が「公衆用道路」であることをもって、その処分が妨げられるものではないので、これをもって本件土地の価額を零円とすべき根拠には当たらない。
 そして、特定の者の通行の用に供される土地については、一般的に相応の財産的価値を持つものとして取引されることが多い。

(2) 争点ロについて

イ 請求人ら
(イ) 仮に、評価通達の定めにより難い特別な事情はないとしても、本件土地の地目は不動産登記事務取扱手続準則第68条に定める「公衆用道路」であるから、本件土地を評価通達の定めに基づいて評価する場合は「雑種地」として、評価通達82の定めに基づき、本件土地と状況が類似する付近の土地について評価通達の定めるところにより評価した価額を基とし、当該類似する付近の土地と本件土地との位置、形状等の条件の差を考慮して評定した価額によって評価すべきである。
(ロ) 本件土地のうち、本件公道と交わる間口から奥行き50センチメートルの部分は、本件公道の一部として利用されているので評価額は零円となり、さらに、当該公道の一部として利用されている部分を除いた地積は、調査したところ103.76平方メートルであるから、本件持分を宅地として評価すると、2,324,805円となる。
(ハ) そして、本件土地を売買する場合には、本件土地の地目を公衆用道路から宅地へ変更するための登記費用及び位置指定道路を廃止するための諸費用1,100,980円並びに本件土地の隣接地の所有者から位置指定道路の廃止について同意を得るための損失補償費用17,684,000円(以下、これらの費用を併せて「本件廃止費用等」という。)が発生する。
(ニ) したがって、本件持分を宅地として評価した額2,324,805円から本件廃止費用等を控除すると、その価額がマイナスになることから、本件持分の評価額は、零円となる。
ロ 原処分庁
(イ) 本件土地の地目が公衆用道路であること及び本件土地が位置指定道路であり、その変更、廃止に一定の制限が加えられているということ等は、評価通達24に定める計算方法において考慮されているのであって、評価通達において、請求人らが主張する本件廃止費用等を個別に控除すべき旨の定めはない。
(ロ) 本件土地の実際の地積と登記簿上の地積とが異なる場合には、実際の地積により評価すべきであるが、請求人らが提出した測量図によれば、境界確定がされているか否かも判然とせず、その正確性も定かでないことから、請求人らが主張する地積等を本件相続開始時における本件土地の実際の地積等として採用することはできない。
(ハ) したがって、正面路線価115,000円を基に、評価通達24の定めにより、請求人らが主張する公道の一部として利用されている部分を除いて評価すると、本件持分の評価額は、5,457,738円となり、本件申告額を上回っている。

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3 判断

(1) 認定事実

 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
イ K鑑定士等は、本件鑑定書において、別紙5のとおり、標準的な画地の更地価格に、本件土地の個別性評点であるまる1税務上の観点、まる2経済上の観点、まる3建築上の観点、まる4登記簿上の観点及びまる5利用上の観点から零として算定した価値率(以下「本件価値率」という。)及び地積を乗じる方法によって、本件土地の鑑定評価額を零円と算定しているが、本件鑑定書には価値率の算定に当たって本件土地についての各観点全部の判断結果が記載されていないため、当審判所において、K鑑定士に本件土地について各観点の要素を個別にどのように判断し、本件価値率を零として算定したのかについて質問調査を行ったところ、K鑑定士は、当審判所に対し、本件鑑定書には上記のとおり記載されているが、本件土地がまる1税務上の観点については固定資産税が零円であること、まる2経済上の観点については容積率算定の基礎にすることができないこと、まる4登記簿上の観点については公衆用道路となっていること及びまる5利用上の観点については不特定多数の者が利用していることの各事実を総合的に判断し、本件価値率を零として算定した旨補足する答述をした。
ロ 本件土地は、別紙6のとおり、その北西側で本件公道とほぼ垂直に丁字路型に交わる行き止まりの土地(以下、本件公道と交わる部分を「本件甲土地部分」といい、その他の部分を「本件乙土地部分」という。)であり、本件乙土地部分に隣接する土地には居宅及びアパートが存在する。
ハ 本件被相続人は、平成10年9月6日に本件土地を相続により取得し、その後、平成14年12月9日及び平成17年9月13日に本件土地の持分10分の1をそれぞれ譲渡した。
ニ 当審判所が、請求人らの代理人Dの立会いの下、本件土地に係る境界標等を基準に実測し、また、本件土地等の地積測量図及び境界査定図を調査して算定したところによれば、本件土地の各辺の長さ等は、別紙6のとおりであり、その地積は、別表3記載のとおりである。

(2) 法令解釈等

イ 相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているところ、この場合の時価とは、当該財産を取得した時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、当該財産の客観的交換価値をいうものと解される。
ロ しかしながら、相続税の課税の対象となる財産は多種多様であることから、国税庁長官は、課税の公平、公正の観点から、財産評価の一般的基準である各種財産の時価の評価に関する原則及びその具体的評価方法等を評価通達に定め、その取扱いを統一するとともに、これを公開し、納税者の申告、納税の便に供している。このような画一的な評価方法が採られているのは、各種財産の客観的交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではなく、的確に把握することが容易ではないため、これを個別に評価する方法を採ると、その評価方法や基礎資料の選択の仕方等により評価額に格差が生じることを避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどから、あらかじめ定められた評価方法により画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由によるものと解される。
ハ 上記ロのとおり、評価通達の定めによる評価方法は、一般的に合理性を有するものと解されるところ、評価通達の定めを適用して評価することが著しく不適当と認められる特別な事情が存する場合、すなわち、評価通達の定めにより算定される評価額(以下「相続税評価額」という。)が客観的交換価値を上回る場合には、他の合理的な評価方法により時価を求めるべきものと解される。この場合の土地の相続税評価額が客観的交換価値を上回っているというためには、相続税評価額を下回る鑑定評価額が存在し、その鑑定評価が一応公正妥当な鑑定理論に従っているのみでは足りず、同一の土地について他の鑑定評価があれば、それとの比較において、また、周辺における公示価格や都道府県地価調査による基準地の標準価格の状況、近隣における取引事例等の諸事情に照らして、相続税評価額が客観的交換価値を上回ることが明らかであると認められることを要するものと解される。
ニ 評価通達24は、私道の用に供されている宅地の価額について、同通達11から 21−2までの定めにより計算した価額の100分の30に相当する価額によって評価し、その私道が不特定多数の者の通行の用に供されているときは評価しない旨定めている。この通達が、私道の利用状況により評価方法を分けているのは、専ら特定の者の通行の用に供されている私道は、その使用収益にある程度の制約があるものの、私有物として所有者の意思に基づく処分可能性が残されているのに対し、不特定多数の者の通行の用に供されている私道は、公共性が高く、もはや私有物として勝手な処分ができるものではないから、その価額を評価しないこととしているものであり、その評価方法は、当審判所においても相当と認められる。
 そして、その価額を評価しない不特定多数の者の通行の用に供されている私道としては、まる1公道に接続し、不特定多数の者の通行の用に供されているいわゆる通り抜け私道、まる2行き止まりの私道ではあるが、その私道を通行して不特定多数の者が、地域等の集会所、公園などの公共施設や商店街等に出入りしている場合の私道、まる3私道の一部に公共バスの転回場や停留所が設けられており、不特定多数の者が利用している場合などの私道が、これに当たると解される。

(3) 争点イについて

イ 請求人らは、本件鑑定評価額が本件土地の客観的交換価値を示していることを前提として、評価通達の定めにより難い特別な事情があるから、本件持分の価額は本件鑑定評価額を基礎とすべきである旨主張する。
 しかしながら、本件鑑定評価額は、上記(1)イのとおり、本件鑑定書において、税務上、経済上、登記簿上及び利用上等の観点から総合的に判断し、本件価値率を零として算定されているところ、利用上の観点については、本件土地が不特定多数の者の通行の用に供されている道路であることを前提に鑑定評価が行われていると認められるが、上記(1)ロのとおり、本件土地のうち、本件甲土地部分は、本件公道と一体となっているから、不特定多数の者の通行の用に供されていると認められるものの、本件乙土地部分は、行き止まりのいわゆる袋小路であるから、本件相続開始時において専ら本件土地に隣接する土地上の居宅及びアパートの居住者という特定の者の通行の用に供されていると認められる。
 したがって、本件鑑定書は、本件土地を評価する上で前提となる事実の評価を誤ったものであり、その内容に合理性があるとは認められないから、これを信用することはできず、本件鑑定評価額は、本件土地の客観的交換価値を示しているということはできない。
ロ この点に関し、請求人らは、本件土地が位置指定道路であり、既に本件土地の沿接地の関係者及び不特定多数の者により無償で通行の用に供されているから、今さら通行権を確保するために本件土地が購入されることは非現実的である旨主張する。
 しかしながら、位置指定道路は、道路交通法第2条《定義》第1項第1号に規定する一般交通の用に供するその他の場所に該当し、道路として同法の適用を受け、道路法第4条《私権の制限》の規定に準じて、一般の交通を阻害するような方法では私権を行使することができなくなるものの、所有権の移転、抵当権の設定若しくは移転を妨げないと解されており、また、私道であることから、建築基準法第45条《私道の変更又は廃止の制限》の規定上、位置指定道路の変更又は廃止の可能性が認められていないわけではない。そうすると、本件土地は位置指定道路であるが、飽くまで私人の所有に属するものとして、その維持管理は位置指定道路の目的に反しない限り所有者に任され、処分権が所有者に属し、抵当権の設定等も可能であること、及び、上記(1)ハによれば、本件土地が位置指定道路に指定された後、実際に譲渡されていることからすれば、本件土地の処分可能性が現実的でないとはいえず、この点に関する請求人らの主張は採用できない。
ハ また、請求人らは、本件土地のように公衆用道路として登記された土地が単独かつ有償で取引された事例はない旨主張する。
 しかしながら、請求人らも認めるとおり、私道と隣接した宅地を併せて取引した事例は存在しているところ、仮に、当該私道が無償で取引されていたとしても、少なくとも当該私道の存在がその隣接する土地に利便性等を付与し、その隣接地の財産的価値を増加又は維持するという点で、当該私道は財産的価値を有していると認めるのが相当であり、請求人Cは、上記1(4)ロのとおり、本件相続により隣接した土地とともに本件持分を取得していること、及び、当審判所の調査の結果によれば、登記簿上の地目が公衆用道路である私道が、平成19年にf市内で単独かつ有償で取引された事例が認められることからすれば、本件土地に財産的価値がないとはいえず、この点に関する請求人らの主張は採用できない。
ニ 以上のとおり、本件鑑定評価額は、本件土地の客観的交換価値を示しているということはできず、また、当審判所の調査の結果によっても、ほかに本件土地の価額を評価するに当たって評価通達の定めによることが著しく不適当と認められる特別な事情があるとは認められないから、本件持分の価額は相続税評価額をもって時価とすることが相当である。

(4) 争点ロについて

イ 上記(3)ニのとおり、本件持分の価額は相続税評価額をもって時価とすることが相当であるところ、上記(3)イによれば、本件土地のうち、本件甲土地部分は、不特定多数の者の通行の用に供されていることから、評価通達24の定めに基づき、価額は評価せず、また、本件乙土地部分は、不特定多数の者の通行の用に供されていないことから、同通達24の定めに基づき、同通達11から21−2までの定めにより計算した価額の100分の30に相当する価額によって評価するのが相当である。
 そうすると、正面路線価は、上記1(4)ハによれば、115,000円であり、本件乙土地部分の奥行距離及び間口距離等並びにその地積は、上記(1)ニによれば、別紙6及び別表3記載のとおりであるから、これらを基に本件持分の相続税評価額を算定すると、別表4の「審判所認定額」欄の「相続税評価額」欄記載のとおり、本件甲土地部分は、零円となり、本件乙土地部分は、2,409,271円となる。
ロ この点に関し、請求人らは、評価通達82の定めに基づき、本件持分を宅地として評価した額から本件土地を売買する際に発生する本件廃止費用等を控除して評価すべきである旨主張する。
 しかしながら、評価通達82によっても、本件乙土地部分のような専ら特定の者の通行の用に供されている私道の評価について、請求人らが主張するような売買を前提とした場合に負担が見込まれる本件廃止費用等を評価額から個別に減額することは定められていないから、この点に関する請求人らの主張は採用できない。

(5) 本件各通知処分について

 請求人らは、本件相続に係る相続税の申告において、本件持分の相続税評価額を本件申告額のとおり算定しているところ、本件申告額は、当審判所において算定した本件持分の相続税評価額2,409,271円を上回ることから、本件各通知処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。

(6) 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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