(平成23年11月17日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、請求人の父の相続により取得した土地は当該相続の開始時において図書館及び駐車場の敷地として地方公共団体に賃貸されていたことから、自用地としての価額から借地権の価額を控除した金額で相続税の申告をしたところ、原処分庁が、当該地方公共団体は借地権者としての経済的利益を享受しておらず、また、相続により所有権が移転する場合には当該地方公共団体に当該土地を譲渡する旨の特約が交わされていたことにより当該土地の価額が何ら減損することがなく、請求人には自用地と同額の価額が保証されていることから、当該相続の時点において借地権の価額を控除することは認められないとして、相続税の更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分庁の事実認定には誤りがあるとして、それらの全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 申告
 平成20年2月○日に相続が開始した請求人の父であるF(以下「本件被相続人」といい、本件被相続人の相続を「本件相続」という。)の共同相続人は2名であり(以下、併せて「共同相続人ら」という。)、請求人はその1人であるが、本件相続に係る相続税について、共同相続人らは、請求人が全ての遺産を相続したとして、別表1の「申告」欄のとおり、法定申告期限までに共同して申告した。
 なお、請求人は、上記の申告において、土地区画整理法第98条《仮換地の指定》第1項の規定に基づき仮換地として指定を受け、その効力が平成15年12月○日に発生したa市d土地区画整理事業施行地区(以下「本件区画整理地区」という。)内の○街区○画地の1,635.16平方メートルの土地(以下「本件土地」という。)を評価するに当たり財産評価基本通達(昭和39年4月25日直資56、直審(資)17国税庁長官通達。以下「評価基本通達」という。)25《貸宅地の評価》の定めに従い、自用地としての価額から借地権の価額を控除して本件土地の評価額を算定した。
ロ 相続税の調査及び修正申告等
 原処分庁所属の調査担当職員は、本件相続に係る相続税の調査を実施し、本件土地について借地権が過大に減額されているほか、事業用財産並びに現金及び預貯金の申告漏れがあるなどとして、共同相続人らに対し、相続税の修正申告をしょうようしたところ、共同相続人らは、本件土地について借地権が過大に減額されているとする点を除き、別表1の「修正申告」欄のとおり、平成22年6月23日に相続税の修正申告をしたので、原処分庁は、請求人に対し、当該修正申告による納付すべき税額に基づき、別表1の「賦課決定処分1」欄のとおり、平成22年6月30日付で相続税に係る過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分をした。
ハ 更正処分等
 原処分庁は、請求人に対し、本件土地について借地権が過大に減額されていることからその評価額が過少となっていたとして、別表1の「更正処分及び賦課決定処分2」欄のとおり、平成22年8月18日付で相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした(以下、当該更正処分を「本件更正処分」という。)。
ニ 不服申立て
 請求人は、本件更正処分及び上記ハの賦課決定処分を不服として、平成22年9月7日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年11月4日付で棄却する旨の異議決定をしたので、同月29日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 関係法令等の要旨は、別紙1のとおりである。
 なお、別紙1を含め、以下、借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額に対する借地権の売買実例価額、精通者意見価格、地代の額等を基として評定した借地権の価額の割合を「借地権割合」といい、「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和60年6月5日直資2−58(例規)、直評9国税庁長官通達)を「相当地代通達」という。

(4) 基礎事実

イ a市に対する本件土地の貸付け
 本件被相続人とa市は、本件土地に関し、本件被相続人を賃貸人、a市を賃借人として、平成18年4月1日付で、要旨次のとおりの土地賃貸借契約を締結した(以下、この賃貸借契約を「本件賃貸借契約」といい、本件賃貸借契約に係る契約書を「本件賃貸借契約書」という。)。
 なお、本件賃貸借契約書には、権利金その他の一時金(以下「権利金等」という。)の授受に関する記載はない。
(イ) 本件被相続人は、本件土地を図書館施設としてa市に賃貸し、a市はこれを借り受ける。(第1条)
(ロ) 本件土地の賃借料は年額3,928,905円(1平方メートル当たり2,403円)とする。(第3条)
(ハ) 本件賃貸借契約の存続期間中に、本件土地に関し相続等により所有権を移転する事由が発生した場合、又は本件被相続人が本件土地の譲渡を希望する場合は、a市に譲渡するものとし、a市は本件被相続人と協議のうえ適正価格により買い取る。(第5条)
(ニ) a市は、本件土地を上記(イ)に定める目的以外に使用する場合、又は本件土地に建物等の構築物の建築、及び現存する施設(水路等)の形状を変更する場合は事前に本件被相続人に協議するものとする。(第8条)
(ホ) a市は本件被相続人の承諾をなくして借地権の一部又は全部を第三者に譲渡し又は転貸してはならない。(第9条)
ロ 本件土地のa市への譲渡
 請求人は、上記イの(ハ)の定めに基づき、a市との間で、本件土地を155,325,000円で売り渡す旨の土地売買契約を平成20年12月22日付で締結した。
ハ 平成20年分の本件土地に係る路線価等
 平成20年分の財産評価基準書によれば、本件区画整理地区は「個別評価」と表示されていることから、請求人は、原処分庁に対し、平成20年9月1日付で平成20年分個別評価申出書により照会したところ、同月3日付で平成20年分個別評価回答書により回答を得た。
 なお、上記回答書には、幅員12メートルの道路と幅員10メートルの道路が交差する角地である旨記載されており、幅員12メートルの道路の路線価は54,000円、幅員10メートルの道路の路線価は48,000円、その所在する地区区分は普通商業・併用住宅地区、借地権割合は50パーセントである。

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2 争点

 本件土地には借地権が設定されていたか否か。また、本件土地に借地権が設定されていた場合、本件土地の評価に当たり、控除する借地権の価額はいくらか。

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3 主張

 当事者双方の主張は、別紙2のとおりである。
 なお、以下、固定資産税と都市計画税を併せて「固定資産税等」という。

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4 判断

(1) 法令解釈等

イ 財産の価額と評価基本通達の意義等
 相続税法第22条は、同法第3章で特別の定めのあるものを除くほか、相続により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定するところ、上記の「時価」とは、相続開始時における当該財産の客観的交換価値をいい、客観的交換価値とは、当該財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間において自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解される。
 もっとも、課税実務上、相続財産の評価は、原則として、評価基本通達によって定められた相続財産の統一的な評価方法によることとされている。この点については、仮に相続財産の客観的交換価値を個別に評価することとすると、その評価方式、選択された基礎資料等により異なった評価額になることを避けられない上、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどに照らして、あらかじめ定められた評価方法によって画一的に相続財産を評価することは、当該評価方法の内容が時価の認識方法としてそれ自体一応合理的なものである限りにおいて、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という観点から合理的であるということができ、相続税法第22条は、このような課税実務をも許容する趣旨のものと解されることから、当審判所としても、評価基本通達に定められた画一的な評価方法によって相続又は遺贈により取得した財産の評価を行うことは相当であると認められる。
 他方、このような評価基本通達の趣旨からすると、評価基本通達に定められた評価方式を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという相続税の目的に反し、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかである等の特別の事情がある場合には、例外的に相続税法第22条の時価を算定する他の合理的な方式によることが許されるものと解すべきである。
ロ 借地権が設定されている宅地の評価
(イ) 借地権の意義
 借地借家法第2条第1号に規定する「建物の所有を目的とする」とは、借地人の借地使用の主たる目的がその地上に建物を建築し、これを所有することにある場合を指し、借地人がその土地上に建物を建築し、所有しようとする場合であっても、それが借地使用の主たる目的ではなく、その従たる目的にすぎないときは、これに該当しないと解される。
(ロ) 評価基本通達25の(1)の定めの趣旨
 別紙1の6の評価基本通達25の(1)の定めによれば、借地権が設定されている宅地の評価について、当該宅地の自用地としての価額から設定されている借地権の価額を控除した金額によって評価することとしているところ、このように取り扱う趣旨は、借地権は借地借家法により強い保護を受けており、当該宅地の所有者は、自用地に比し相当の制約を受けていることから、借地権の価額に相当する価額の減額が生じているものとして評価することとしたものであると解される。
(ハ) 相当地代通達の趣旨等
 相当地代通達は、借地権の設定に際しその設定の対価として通常権利金を支払う取引上の慣行のある地域において、借地権の設定された土地について権利金の支払に代えて相当の地代を支払うなどの特殊な場合の相続税及び贈与税の取扱いを定めるものである。また、相当地代通達7は、別紙1の8の(4)のとおり、借地権の設定されている土地について、一定の範囲の地代を収受している場合のその土地の貸宅地としての評価方法を定めるものであり、その評価方法は、土地の自用地としての価額から一定の計算式に準じて計算した借地権の価額を控除するというものであることからすると、借地権の価額を控除するという点においては、上記(ロ)の評価基本通達25の(1)の定めと同様に、借地権の価額に相当する価額の減額が生じているものとして評価することとしたものであると解される。
ハ 一体として利用されている一団の土地のうちに2以上の地目がある場合の当該土地の評価
 別紙1の3の評価基本通達7のただし書は、一体として利用されている一団の土地が2以上の地目からなる場合には、その一団の土地はそのうちの主たる地目からなるものとして評価する旨を定めているが、当該定めは、工場用地やゴルフ練習場用地のように一体として利用されている一団の土地のうちに2以上の地目がある場合、その一団の土地をそれぞれの地目ごとに区分して評価した場合、一体として利用されていることによる効用が評価額に反映されないことから、実態に即して評価すべきことを明らかにしたものであると解され、また、主たる地目は、課税時期の現況によって判定されるものであり、具体的には、その一団の土地全体の利用目的等を勘案して判定するものと解される。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件区画整理地区の状況
 本件相続の開始時において、本件区画整理地区は、都市計画法第8条《地域地区》第1項に規定する第二種住居地域で、建築基準法第53条《建ぺい率》第1項に規定する建ぺい率は60パーセントであった。また、本件区画整理地区内には、ホームセンター、ブックセンター、大型飲食店あるいは紳士服や家電製品や医薬品の量販店等の大規模店舗が多く建ち並んでいた。
ロ 本件土地の状況
 本件相続の開始時において、本件土地は、幅員12メートル及び10メートルの道路が交差する角地であり、当該道路に接面し、ホームセンター、ブックセンターあるいは大型飲食店等が存在していた。
ハ 借地権割合の評定
 借地権割合の評定に当たっては、評価基本通達27の定めによれば、売買実例価額、精通者意見価格、地代の額等を基として評定するところ、本件土地が所在する地域の借地権割合は、土地評価精通者である不動産鑑定士3名の意見を勘案して50パーセントと評定された。
 なお、上記不動産鑑定士3名は、当審判所に対し、本件土地が存在する地域は、借地権の取引慣行がある地域であるが、その設定の対価として権利金等の授受がない地域である旨答述しているところ、この答述については、上記のとおり、これらの不動産鑑定士3名の意見を勘案して、本件土地が所在する地域の借地権割合が評定されていることからすれば、信頼性の高いものといえる。
ニ 本件相続の開始時における本件土地の利用状況等
(イ) 図書館施設の寄附の状況及び一団の土地の利用状況
A 図書館施設及び図書の寄附を表明した財団法人G(以下「本件財団法人」という。)は、図書館を建築するに当たり、a市に対し、平成18年6月2日付の「(仮称)a市○○図書館建設用地の使用について」と題する書面を提出し、本件区画整理地区内の○街区○画地ないし○画地の全部及び○画地の一部の各土地(以下、当該各土地を併せて「本件一団の土地」といい、本件一団の土地の明細及び状況は、別表2−1及び同2−2のとおりである。)を使用する旨の承諾を求めた上で、本件一団の土地の上に図書館施設を建設した。そして、a市は、平成19年7月1日に、本件財団法人から図書館施設及び図書を寄附する旨の申込みを受け採納した。
 a市が採納した図書館施設には、図書館として建築された建物のほか、当該図書館の来館者のための駐車場に敷設された構築物としてのアスファルト舗装等が含まれている(以下、当該建物を「本件図書館」といい、当該駐車場に敷設された構築物としてのアスファルト舗装等を「本件駐車場施設」という。)。
B 別表2−1のとおり本件一団の土地4,732.09平方メートルのうち、同2−2の○街区○画地の全部とこれに隣接した同○画地(本件土地)、同○画地及び同○画地の一部の2,138.13平方メートルは本件図書館の敷地であり、その他の部分が本件駐車場施設の敷地となっており、当該図書館施設の採納時及び本件相続の開始時のいずれにおいても、本件一団の土地は、本件図書館及び本件駐車場施設の各敷地の用に供されていた。
 なお、本件図書館は、鉄筋コンクリート造2階建で、平成19年5月10日に竣工し、同年7月7日に供用されたが、未登記である。
(ロ) 本件土地の利用状況
 本件相続の開始時において、本件土地1,635.16平方メートルのうち、279.52平方メートル(本件土地の面積に占める割合は、17.09パーセントである。)については、本件図書館の敷地の一部として、また、その他の部分1,355.64平方メートル(本件土地の面積に占める割合は、82.91パーセントである。)については、本件駐車場施設の敷地として、それぞれ使用されていた。
ホ 本件賃貸借契約の締結に至る経緯等
 本件賃貸借契約の締結に至るまでの交渉を担当したa市役所○○部○○課長の職にあったH(現、a市役所○○部○○課長)の当審判所に対する答述によれば、以下の事実が認められる。
(イ) 図書館施設用地の確保の必要性
 a市は、平成18年2月頃、本件財団法人から図書館施設を寄附されることとなり、寄附の条件とされた敷地となる土地を確保する必要があったが、同市が確保できる見込みの土地だけでは、図書館の来館者用の駐車場スペースが不足すると見込まれた。
(ロ) 本件土地の買取りの申込み等
 a市は、本件被相続人に対し、駐車場として使用するために本件土地の買取りを申し込んだが断られたので、やむを得ず賃借することとなり、本件賃貸借契約を締結した。
 なお、Hは、本件被相続人に対し、本件賃貸借契約の締結時において、図書館施設の配置はまだ決まっていなかったが、a市の考えは、南向きに本件図書館の玄関を設置し、その前に駐車場を建設する予定であると説明したが、本件被相続人からは異議を唱える話はなかった。
(ハ) 権利金等の授受の有無
 本件被相続人とa市の間で、本件賃貸借契約に伴う権利金等の授受はない。
(ニ) 本件賃貸借契約書の第1条に「図書館施設」と記載した理由
 a市は、本件土地を図書館の来館者用の駐車場として使用する予定であったが、本件賃貸借契約の締結時に本件一団の土地の上において図書館として建築される建物の配置を決定していなかったことから、本件土地の一部が当該建物の敷地の一部となる可能性を考慮し、当該駐車場及び当該建物のいずれもが図書館施設に該当するので、本件賃貸借契約書第1条に「図書館施設」と記載した。
(ホ) 本件賃貸借契約書の第5条に定める「適正価格」の意義
 a市の取扱い上、「適正価格」とは、公共用地の取得に伴う損失補償基準に従い、更地として鑑定評価した金額をいうものである。また、「協議のうえ適正価格により買い取る」としたことについて、上記の「適正価格」とは、あくまでa市の取扱い上のことであり、本件土地の所有者の評価とすり合わせる必要があるため「協議のうえ」とした。
 なお、a市は、本件被相続人に対して、将来本件土地をどのような条件で買い取るかといった具体的な話は何もしなかった。
(ヘ) 本件賃貸借契約書の第8条に定める協議の有無
 前記1の(4)のイの(ニ)のとおり、本件賃貸借契約書第8条には、同(イ)に定める目的以外に使用する場合、又は本件土地に建物等の構築物の建築等をする場合は事前に本件被相続人に協議する旨定められているが、a市としてはあくまで買取りを前提とする賃貸借であるから、本件被相続人との間で、本件土地を賃借期間中どのように使用するかについて具体的な話は何もしなかった。また、本件図書館の建築工事中や竣工時において、本件被相続人から本件土地の一部が本件図書館の敷地となっていることについて、異議を唱える話はなかった。
ヘ 本件土地に係る年間賃借料の算定根拠等
(イ) a市は、本件被相続人に対し、本件土地の賃借料について、本件区画整理地区内で賃貸借された事例のうち、駐車場の用地として最も賃借料が安い事例であった○街区○画地における1平方メートル当たりの年間賃借料2,287円と同額の賃借料を提示した。しかしながら、本件土地に係る固定資産税等について、課税地目が平成17年度までの雑種地から、平成18年度から宅地に変更され、固定資産税等が増加することから、当該提示額に固定資産税等の増加税額相当額として1平方メートル当たり116円を上乗せした1平方メートル当たり2,403円、総額3,928,905円を本件土地の年間賃借料とし、その金額は、本件賃貸借契約の締結後から本件相続の開始時までの間、変更されなかった。
(ロ) 当審判所の調査の結果によれば、a市が本件賃貸借契約を締結するに当たり収集した本件区画整理地区内における駐車場の用地としての賃貸借の事例は7事例あり、それらの1平方メートル当たりの年間賃借料は2,287円から3,557円であるから、本件区画整理地区内の○街区○画地における1平方メートル当たりの年間賃借料が最も安いことが認められる。
ト a市の依頼により本件土地の不動産鑑定をしたJ社が平成20年9月12日にa市長に対し報告した不動産鑑定評価書(以下「本件鑑定評価書」という。)の内容
本件鑑定評価書には、要旨次のとおり記載されている。
(イ) 鑑定評価の依頼目的 a市が施行する事業地買収の参考とするため。
(ロ) 評価の条件 評価依頼地に所有権以外の権利又は建物その他の物件が存するときは、当該権利又は建物その他の物件が存しないものとしての評価であること。
(ハ) 鑑定評価額 155,340,000円(1平方メートル当たり95,000円)
(ニ) 価格の種類 正常価格
(ホ) 対象不動産の類型 更地
(ヘ) 鑑定評価の対象となった権利 土地の所有権
(ト) 鑑定評価額の価格時点 平成20年9月1日
チ 本件鑑定評価書に係る上記トの(ロ)の評価の条件を付した事実の有無
 Hは、当審判所に対し、上記トの(ロ)のとおり、a市は、本件土地に係る鑑定評価を依頼した際に、本件土地に所有権以外の権利又は建物その他の物件が存するときは、当該権利又は建物その他の物件が存しないものとしての評価であることの条件を付した旨答述する一方で、本件鑑定評価書を作成した不動産鑑定士は、当審判所に対し、本件土地について、a市から借地権の設定についての説明はなかったこと及び現況をみれば権利関係があるということは分かったが、a市から評価の条件がなかったため更地価格で評価した旨答述し、両者の答述は整合しないところ、a市は、上記トの(ロ)の評価の条件が付された本件鑑定評価書に近似する売買価額で、前記1の(4)のロのとおり、本件土地を買い受けており、当該評価の条件をそのまま受け容れていることからすれば、Hの上記答述は信用することができ、これに反する当該不動産鑑定士の上記答述は信用できない。
 したがって、本件鑑定評価書に係る上記トの(ロ)の評価の条件は、Hの上記答述どおり、a市側から付したものであったと認められる。
リ 本件土地の従前地の利用状況等
 本件被相続人は、本件土地の従前地であるa市b町○−○及び○−○の土地を平成元年4月1日から平成15年8月31日までa市に○○広場の公園用地として賃貸していたが、当該賃貸に係る土地賃貸借契約書の第5条には、この契約の存続期間中に本件被相続人がこれらの土地の譲渡を希望する場合は、本件被相続人とa市が協議の上、a市は適正価格により買い取る旨定められている。
 なお、本件土地の従前地の年間賃貸料の金額は、公園用地として賃貸が解除された時において、1平方メートル当たり約2,201円であった。

(3) 本件への当てはめ

イ 本件土地に対する借地権設定の有無
 借地権とは、別紙1の1及び上記(1)のロの(イ)のとおり、建物の所有を主たる目的とする地上権又は賃借権をいうところ、本件賃貸借契約により、本件土地上に借地権が設定されたか否かを検討すると、次のとおりである。
(イ) 本件賃貸借契約書第1条の解釈
 前記1の(4)のイの(イ)のとおり、本件賃貸借契約書第1条は、本件被相続人は本件土地を図書館施設として賃貸する旨定めているところ、「図書館施設」が何を指すのかについて本件賃貸借契約書上明らかにされていないものの、Hは、まる1上記(2)のホの(ニ)のとおり、本件賃貸借契約の締結時に本件一団の土地の上において図書館として建築される建物の配置が決定していなかったことから、本件土地の一部が当該建物の敷地の一部となる可能性を考慮し、当該駐車場及び当該建物のいずれもが図書館施設に該当するので、本件賃貸借契約書第1条に「図書館施設」と記載したこと、まる2同(ロ)のとおり、本件被相続人に対し、本件賃貸借契約の締結時において、図書館施設の配置はまだ決まっていなかったが、a市の考えは、南向きに本件図書館の玄関を設置し、その前に駐車場を建設する予定であると説明したことに加え、まる3同(ロ)及び(ヘ)のとおり、本件賃貸借契約の締結時及び本件図書館の建築工事中や竣工時において、本件土地上に本件図書館及び本件駐車場施設が建設されることや本件土地の一部が本件図書館の敷地となっていることについて、本件被相続人から異議を唱える話はなかったことからすると、賃借人であるa市及び賃貸人である本件被相続人の両当事者間においては、「図書館施設」とは、本件図書館及び本件駐車場施設のいずれをも意味するものと理解していたものと解するのが相当である。
(ロ) 本件賃貸借契約書第8条及び同第9条の解釈
 前記1の(4)のイの(ニ)のとおり、本件賃貸借契約書第8条には、本件土地を図書館施設以外の目的に使用する場合、又は本件土地に建物等の構築物の建築、及び施設(水路等)の形状を変更する場合は事前に本件被相続人に協議する旨記載されているところ、「図書館施設」の解釈の如何によっては、本件被相続人は、本件賃貸借契約の締結をもってしても、本件図書館の建築及び本件駐車場施設の設置を含む建物や構築物の設置を許諾していないとも解されるところである。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、本件賃貸借契約書第1条にいう「図書館施設」については、契約当事者間で、本件図書館及び本件駐車場施設のいずれをも意味するものと理解していたものと解するのが相当であることからすれば、本件賃貸借契約書第8条については、本件図書館及び本件駐車場施設以外の建物や構築物の建築や設置をする場合の定めであると解するのが相当である(なお、上記(2)のホの(ヘ)によれば、同条の定めについて、a市と本件被相続人との間で、本件土地を賃借期間中どのように使用するかについて具体的な話は何もしなかったと認められるが、この同条の解釈を前提にすれば、その具体的な話とは、本件図書館や本件駐車場施設以外の建物や構築物の建築や設置する場合の話であると理解できる。)。
 また、前記1の(4)のイの(ホ)のとおり、本件賃貸借契約書第9条には、a市は本件被相続人の承諾をなくして借地権の一部又は全部を第三者に譲渡し又は転貸してはならない旨定められ、同条によれば本件賃貸借契約により何らかの借地権が設定されたことを前提としているものと解されるところ、上記(イ)の本件賃貸借契約書第1条にいう「図書館施設」の意義及び上記の本件賃貸借契約書第8条の解釈を踏まえれば、本件賃貸借契約書第9条にいう借地権は、本件図書館の所有を目的とする借地権であると解するのが相当である。
(ハ) 本件土地使用の主目的
 上記(2)のニ並びにホの(イ)及び同(ロ)のとおり、まる1a市は、本件財団法人から図書館施設を寄附されることとなり、寄附の条件とされた敷地となる土地を確保する必要があったこと、まる2同市が確保できる見込みの土地だけでは、図書館の来館者用の駐車場スペースが不足すると見込まれたことから、a市は、本件被相続人から本件土地を賃借することとなったこと、まる3本件財団法人は、本件図書館を建設するに当たり、本件一団の土地を使用する旨の承諾を求めた上で、同土地上に本件図書館を建設するとともに本件駐車場施設を設置したこと、まる4上記まる3の後、本件財団法人は、a市に対して本件図書館及び本件駐車場施設の寄附を申し込み、同市はこれらを採納したこと、まる5当該採納時及び本件相続の開始時のいずれの時においても、本件土地を含む本件一団の土地は、本件図書館及び本件駐車場施設の各敷地の用に供されていたこと、まる6本件土地の面積のうち、17.09パーセントに当たる部分は、本件図書館の敷地の一部として使用され、それ以外の82.91パーセントの部分が本件駐車場施設の敷地として使用されていたものの、本件駐車場施設は本件図書館の来館者用の駐車場スペースとして利用されるものであるから、本件土地は一体として本件図書館の利用のための用に供されていたと認めるのが相当であること、まる7本件土地を除くと来館者用の駐車場スペースが不足するだけでなく、建ぺい率の観点からも本件図書館と同規模の建物の建築が困難となることを総合すると、本件土地の使用の主目的は、本件図書館の所有を目的とするものであったと認められる。
(ニ) 小括
 上記(イ)及び(ロ)の本件賃貸借契約書の解釈、上記(ハ)の本件土地使用の主目的並びに前記1の(4)のイの(ロ)の本件賃貸借契約書第3条の定めによれば、本件賃貸借契約により本件土地上に本件図書館の所有を主目的とする賃借権の設定がされた、つまり、借地借家法第2条第1号で規定する借地権の設定がされたものと認められる。
 なお、前記1の(4)のイのとおり、本件賃貸借契約書には、権利金等の授受に関する約定はなく、また、Hの上記(2)のホの(ハ)の答述によれば、実際に権利金等の授受はなかったと認められるところ、同ハのなお書のとおり、評価基本通達27の定めに従い、本件土地が所在する地域の借地権割合についての精通者意見を述べた不動産鑑定士3名は、当審判所に対し、本件土地が所在する地域は借地権の設定の対価として権利金等の授受がない地域である旨答述しており、この答述は信頼性の高いものといえ、他にこれを覆すに足る証拠はないので、本件賃貸借契約書に権利金等の授受に関する約定がなくても不自然ではないから、このことをもって、本件賃貸借契約により借地権が設定されなかったとはいえない。
ロ 本件土地に存した借地権の価額の有無
(イ) 本件賃貸借契約書第5条には、本件被相続人が本件土地の譲渡を希望するなどの場合には、a市は本件被相続人と協議のうえ「適正価格」により買取る旨定められているところ、上記(2)のホの(ホ)によれば、本件賃貸借契約に際し、a市が本件被相続人に対して、将来における本件土地の買取りの条件を具体的には話していなかったものと認められるものの、同リのとおり、本件被相続人が本件土地の従前地を、公園用地として賃貸借していた当時の土地賃貸借契約書にも、本件被相続人が当該土地の買取りを希望する場合には、a市が適正価格により買い取る旨の記載があり、同ホの(ホ)のとおり、a市が取扱い上「適正価格」を更地として鑑定評価した金額をいうものとしていることからすれば、本件被相続人は、本件土地の従前地を公園用地として賃貸借していた当時から、a市との土地の賃貸借において定める適正価格が更地価格であると認識していたと認めるのが相当であるから、本件賃貸借契約書第5条にいう「適正価格」についても、同様に、更地価格であると認識していたものと認められる。
(ロ) また、上記(2)のヘのとおり、Hが、駐車場用地として賃貸借された土地である本件区画整理地区内の○街区○画地の事例を本件土地に係る年間賃借料の算定根拠にしたのは、単に、収集した事例のうち、当該事例が最も賃借料が安かったからにすぎず、本件土地に係る賃借料は、本件土地の従前地を公園用地としてa市が賃借していた際の地代に近似していることからすれば、a市の提示額に固定資産税等の増加税額相当額を上乗せしたのは、本件土地の従前地を公園用地として賃貸借していた当時よりも利益率が悪くなるのを防ぐためのものと認められ、本件被相続人は、積極的に本件図書館の敷地部分の借地権相当額を上乗せして収益を上げるつもりまではなかったと認めるのが相当であり、同ヘの(イ)のとおり、本件賃貸借契約の締結後、本件土地の一部に本件図書館が建築されて以降も本件土地の年間賃貸料が変更されていないことからすれば、本件被相続人及びa市は、本件土地上の借地権の価額については、何ら考慮していなかったと認めるのが相当である。
(ハ) さらに、上記(2)のチのとおり、a市は、本件土地に係る鑑定評価を依頼した際に、本件土地に所有権以外の権利又は建物その他の物件が存するときは、当該権利又は建物その他の物件が存しないものとしての評価であることの条件を付したことからすれば、a市が本件土地を買い取るに当たって考慮すべき借地権は存在していなかったと認識していたものと認められ、また、前記1の(4)のロのとおり、本件土地は鑑定評価額155,340,000円に近似した155,325,000円で請求人からa市へ譲渡されており、借地権の存在を考慮した価額で譲渡されたものではないことは明らかである。
(ニ) 以上によれば、本件被相続人とa市との間においては、本件土地をa市が買い取る場合には、当初から借地権の存在を考慮しない更地価格での買取りを予定していたと認めるのが相当であるから、本件相続の開始時において、本件土地に存した借地権については、その価額を認識する必要はなかったと認められる。
ハ 本件土地の評価に当たり控除する借地権の価額について
 上記(1)のロの(ロ)のとおり、評価基本通達25の(1)の定めは、借地権が設定されている土地について、当該借地権の価額に相当する価額の減額が生じているものとして評価することとしたものであると解されるところ、上記ロの(ニ)のとおり、価額を認識する必要のない借地権が存する本件土地については、借地権の価額に相当する価額の減額が生じていないといえるから、同定めによる評価方式(本件の場合には、本件土地の自用地としての価額から借地権の価額を控除する評価方式)を画一的に適用するという形式的な平等を貫くと、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかである等の特別の事情がある場合に該当すると認められる。したがって、本件土地の評価に当たっては、評価基本通達25の(1)の定めを適用しない、つまり、本件土地の自用地としての価額から借地権の価額を控除しないこととするのが相当である。
ニ 請求人の主張の採否
(イ) 別紙2の「請求人」欄の1
 請求人は、本件賃貸借契約が本件賃貸借契約書第1条のとおり、借地権の設定契約であること、本件被相続人が本件土地を更地価格で譲渡する等の土地の評価に影響を及ぼす特段の条項を交わしたり口頭で約束した事実はなく、a市から何の説明も受けていないこと、固定資産税等を上乗せしたとしても通常支払われる地代を得ているにすぎないこと、本件相続の開始時において本件土地は利用阻害の状況にあり本件被相続人は所有権の一部を制限されていることを理由として、本件土地の価額は、評価基本通達25の(1)の定めに従い、自用地としての価額から借地権の価額を控除した金額で評価すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件土地の評価に当たっては、評価基本通達25の(1)の定めを適用せずに、本件土地の自用地としての価額をもって評価額とするのが相当であることは、上記ハのとおりであるから、これらに反する請求人の主張はいずれも採用できない。
(ロ) 別紙2の「請求人」欄の2
 請求人は、本件土地の価額は、評価基本通達25の(1)の定めに従い、自用地としての価額から借地権の価額を控除した金額で評価すべきであるとの主張が認められないとしても、本件土地に係る実際の地代が相当の地代と通常の地代の間にあることから、相当地代通達7の定めにより評価すべきである旨主張する。
 しかしながら、相当地代通達は、上記(1)のロの(ハ)のとおり、借地権の設定に際しその設定の対価として通常権利金を支払う取引上の慣行のある地域において借地権の設定された土地についての定めであるところ、上記(2)のハのなお書のとおり、本件土地が所在する地域が借地権設定の対価として通常権利金の授受がない地域である旨の信頼性の高い答述からすれば、そもそも本件土地が所在する地域は、相当地代通達の適用対象外となる地域である。また、相当地代通達7の定めは、上記(1)のロの(ハ)のとおり、借地権の価額に相当する価額の減額が生じているものとして評価することとしたものであると解されるところ、上記ロの(ニ)のとおり、本件土地に存した借地権については、その価額を認識する必要はなかったと認められるから、本件土地について同定めを適用するのは相当でない。したがって、請求人の主張は採用できない。
ホ 本件土地の評価額について
(イ) 本件土地の主たる地目の種類
 上記(1)のハのとおり、一体として利用されている一団の土地の主たる地目は、その一団の土地全体の利用目的等を勘案して判定するものと解されるところ、上記(2)のニの(イ)のとおり、本件一団の土地は、本件相続の開始時において、本件図書館及び本件駐車場施設の各敷地の用に供されており、本件駐車場施設は、本件図書館の来館者用の駐車場スペースとして利用されるものであるから、本件一団の土地全体の利用目的は、本件図書館の利用にあるといえる。
 したがって、本件一団の土地の主たる地目は宅地であると認められるから、本件土地の主たる地目も宅地である。
(ロ) 本件土地の価額
 上記ハのとおり、本件相続の開始時において、借地権が存した本件土地の自用地の価額から控除すべき借地権の価額はないとするのが相当であるから、本件土地の価額は、評価基本通達の定める評価方法に従って自用地としての価額により評価すべきであり、別表3のとおり、84,702,923円となる。

(4) 本件更正処分の適法性

 上記(3)のホの(ロ)のとおり、本件土地の評価額は84,702,923円となるところ、これに基づき納付すべき税額を改めて算定すると、別表4の「請求人」欄の「納付すべき税額」欄のとおり、○○○○円となり、本件更正処分の税額と同額である。
 したがって、本件更正処分は適法である。

(5) その他

 過少申告加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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